循環型社会形成システム研究室 研究内容

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マテリアルフローに基づく循環の指標の開発

 物質循環を促進するにあたっては、まず、その実態を把握することが不可欠です。その際に問題となるのは、物質循環にどのような形態があり、それぞれの形態における物質循環の量をどのようにとらえるか、ということです。現状では、把握対象となる物質循環に一貫した定義がなく、異なる形態の物質循環が区別されていないことから、形態と量のとらえ方の関係を整理する必要があるでしょう。また、これまでに行われた実態把握の多くは、廃棄物の発生を出発点としたものですが、物質循環の目的の一つが天然資源の消費抑制であるならば、人間社会への資源の投入を出発点とした資源フロー全体の中で、物質循環がとらえられるべきです。一方、物質循環を促進するためには、その目安となる指標を設定し、施策の効果を客観的に把握できるようにする必要があります。現存する様々なリサイクル率もそうした指標のひとつですが、対象とする物質循環の形態、断面の違いによって、その計算根拠は実に様々です。したがって、前述した物質循環の量の把握と合わせて、適切な指標を検討する必要があります。このようなことから、当研究室ではマテリアルフローの把握を基にしながら、物質循環の状態を表す指標の開発を行っています。

 例えば、資源の上流から下流への流れ(マテリアルフロー)をもれなくとらえることを意識しながら、とらえるべき物質循環の形態を分類した上で、それぞれの形態の特徴を検討し、それをもとに物質循環の指標について提案を行いました。この結果は、循環型社会形成推進基本計画の策定の検討に用いられました。

 

●物質循環の形態

 物質循環の形態は、物質循環の対象となる物質の種類(「同工程副産物」「他工程副産物」「使用済み製品」の3種類)とその利用方法(「再使用」「物質再生利用」「熱再生利用」の3種類)から、図1の組み合わせが考えられます。副産物それ自身で製品としての利用価値をもつものは副産物ではない(製品である)ため、副産物の再使用に相当する物質循環はありません。また、熱再生利用できる副産物は熱利用の工程からは発生しないため、同工程副産物の熱再生利用に相当する物質循環も考えられません。したがって、全部で6つ(a?f)の物質循環の形態があると言えます。資源の上流から下流への流れ(マテリアルフロー)をもれなくとらえることを意識すると、通常、廃棄物の観点からはとらえられない黒液の燃料としての利用(dに相当)なども、物質循環のひとつとしてとらえることができます。

●物質循環の形態ごとの特徴

 次に、a〜fのそれぞれの物質循環の形態について、対象となる物質循環の量がどのように計測されるのか、どのようにして天然資源の消費を抑制し、環境への負荷を低減するのか、という2つの視点(物質循環の量の計測方法の視点、物質循環の意味の視点)から、その特徴を検討しました。その詳細はここでは省略しますが、物質循環の量を計測するという視点からも、天然資源の消費抑制と環境負荷の低減にどのように貢献するのかという視点からも、6つの物質循環の形態は3つに集約されます。それらは、使用済み製品の再使用、副産物の再生利用、使用済み製品の再生利用です。この3つの物質循環の形態は、それぞれに意味が異なることから、物質循環の量を把握するにおいても、物質循環の指標を設定するにおいても別々に取り扱うのが適切であると考えられます。

物質循環の形態の分類

物質循環の形態と分類

●物質循環の6つの指標

 前述した物質循環の3つの形態ごとに、その量を計測する上での特徴を踏まえた指標について検討し、これに物質循環の目的に関する指標を加えて物質循環の6つの指標を提案しています。1)使用済み製品の再使用に関する指標:「物質利用時間」、2)副産物の再生利用に関する指標:「物質利用効率」、3)使用済み製品の再生利用に関する指標:「使用済み製品再資源化率」および「使用済み製品再生利用率」、4)物質循環の目的に関する指標:「直接物質投入量」および「国内排出物量」。以上の6つの指標をまとめたものが図2です。図2からも分かるように、本研究が提案する6つの指標は物質のライフサイクルの要所要所をとらえたものとなっています。

●循環型社会形成推進基本計画の数値目標との関係

 循環型社会形成推進基本計画の策定にあたっては、これらの指標を含めて数値目標設定の検討が行われました。社会における物質循環の実態は、これらの指標を用いて表現することが適切であるものの、統計情報の有無、分かりやすさ、他の法規との関係等から、最終的には、入口、循環、出口の3つの断面において、次の指標を採用することとなりました。それらは、GDP/直接物質投入量、再使用・再生利用量/(直接物質投入量+再使用・再生利用量)、最終処分量です。今後、本研究で提案したような指標を算出できる情報を研究レベルで蓄積し、統計情報として整備していくことが求められます。さらに、これらの指標は、国レベルでのマテリアルフローを対象とした指標となっていますが、地域レベルや産業レベルでの物質循環を計測できるような指標の開発も進めています。

物質循環の6つの指標

物質循環の6つの指標


主要関連成果

・ Seiji Hashimoto and Yuichi Moriguchi: Proposal of six indicators of material cycles for describing society’s metabolism: from the viewpoint of material flow analysis, Resources, Conservation and Recycling, 40(3), 185-200, 2004

・ Seiji Hashimoto, Yuichi Moriguchi, Akira Saito, and Takafumi Ono: Six indicators of material cycles for describing society’s metabolism: application to wood resources in Japan, Resources, Conservation and Recycling, 40(3), 201-223, 2004

・ 橋本征二、森口祐一:物質フローから見た循環型社会、化学工学、67(5)、256-258、2003

・ 森口祐一:循環型社会形成のための物質フロー指標と数値目標、廃棄物学会誌、14(5)、242-251、2003

・ 森口祐一:3R推進の指標開発?物質フロー分析の国際共同研究の経験?、季刊環境研究、136、19-26、2005

・ 田崎智宏、橋本征二、森口祐一:循環型社会基本計画における指標群と循環指標の枠組み、日本計画行政学会第26回全国大会研究報告要旨集、243-246、2003

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