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感動新た、名画「赤い靴」 (2002.4.1)
バレエ映画「赤い靴」が、先頃、NHK BSUで放送されました。「赤い靴」は、バレリーナと新進作曲家のロマンスとサクセス・ストーリーを母体にして、死ぬまで踊ることを止められない「赤い靴」の童話をからめて、芸術か愛かの板挟みに悩むヒロインの悲劇を描いています。
1948年に製作され、モイラ・シァラー、レオニード・マシーン、ロバート・ヘルプマンなど世界的ダンサーとサドラーズ・ウェルズ・バレエ(現在のロイヤル・バレエ)が出演しています。
私は、この映画のレーザーディスクを持っていますが、今回、NHK BSUで放送された映像は、レーザーディスクより遙かに美しいのです。映像は、オリジナルのフィルム自体を修復しているようで、レーザーディスクに見られた細かな傷や色むらなどもかなり取り払われているようです。
この映画の最大の見どころは、劇中で上演される約15分の
新作バレエ「赤い靴」の場面です。音楽はブライアン・イースデールという英国の作曲家のもの。オーケストラに電子音楽が加わり、とても迫力があります。美しいバレエシーンは、今観てもまったく色あせておらず、とても素晴らしいものです。各種の編集技術や特撮技術を使って、映画ならではのステージ表現を試みています。幾つかのイメージの合成を使った幻想的なシーンは、バレエというよりミュージカル映画に近い感じがします。これが50年前に作られたのですから驚きです。
この映画のヒロイン、モイラ・シァラーは、当時サドラーズ・ウェルズ・バレエの新進バレリーナ。この映画で一躍世界の人気者になったのですが、その後、バレリーナとしては、パッとしなかったようです。同じバレエ団の
マーゴ・フォンティーンの存在が、あまりにも大きかったからに違い有りません。
物語は、ヴィッキー(モイラ・シァラー)という少女が、バレエ・リュッスのディアギレフを思わせる団長に認められ、新作「赤い靴」を踊り大成功を収めます。しかし、バレエ団の団長は、ヴィッキーと作曲家ジュリアンとの恋に嫉妬し、二人に対してひどい仕打ちをします。
作曲家は、芸術家として成功しますが、バレエ団の団長が、彼に行ったひどい仕打ちを、いつまでも恨みに思っているのか、彼はヒロインにバレエの舞台を捨てさせようとします。でも、彼女は、バレリーナとして踊りたいという野心から、舞台に立とうと決心します。
そしてクライマックス。バレエの公演の日、ヒロインは、バレエへの情熱と恋人への愛に苦悩し、芸術家の目の前で、ステージに飛び込む代わりに、走ってきた列車に飛び込み、はかない生涯を終えてしまうのです。
50年前の映画ですから、男女の関係は今よりずっと保守的なようで、今観るとナンセンスに感じてしまう部分もあります。ヒロインのバレリーナは作曲家である恋人を支えて、家庭の中に埋没して行くことを望まれているように思えます。彼女は「家庭に入って夫につくす妻としての幸福」を選ぶか、「すべてを捨てて芸術家として生きるか」の選択に悩み苦しみ、不幸にも死を選んでしまうのです。
現代でしたら、むしろ、作曲家である恋人が芸術家として成功したのですから、彼女が好きなバレエの世界に戻っても構わないと思うのが、普通の考えでしょうが、この映画では、彼女が恋人に黙ってバレエ団に復帰しようとしたことが責められているようなところがあります。この点が、チョッと不自然にも感じられて、現代の若い世代には、こんなヒロインの苦悩を、理解できないかもしれません。
ともあれ、50年前に、こんな素敵なバレエ映画が作られたのには、驚きです。
1948年 アメリカ映画(128分)
(スタッフ)
製作・脚本・監督−−マイケル・パウエル /エメリック・プレスバーガー
台詞−−−−−−−キース・ウィンター
音楽−−−−−−−ブライアン・イースディール
撮影−−−−−−−ジャック・カーディフ
編集−−−−−−−レジナルド・ミルス
美術−−−−−−−アーサー・ロースン
衣装−−−−−−−ドロシー・エドワーズ
振付−−−−−−−ロバート・ヘルプマン/レオニード・マシーン
(キャスト)
モイラ・シアラー(ヴィクトリア・ペイジ)
アントン・ウォルブルック(ボリス・レルモントフ)
マリウス・ゴーリング( ジュリアン・クラスター)
他に、
リュドミナ・チェリーナ(ボロンスカヤ役)、
ロバート・ヘルプマン(ボレスラフスキー役)、
レオニード・マシーン(リュボフ役)
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