【トップページへ戻る】

ダーシー・バッセルの素顔           (2002.10.06)

BSUで放送された「ダーシバッセルの素顔」はとても充実した番組でした。現在、英国で最も人気のあるバレリーナであるダーシー・バッセル。「白鳥の湖」、「眠れる森の美女」、・・・・など、古典作品の主役の評価が高いですが、現代作品にも意欲的に取り組んでいます。
私も、パコダの王子、三人姉妹などのビデオで、彼女の踊りを見たことがありますが、この番組は、題名の通り、彼女の素顔を見ることができました。
それに、元ロイヤルのバレエ教師だったドナルド・マクレアリーやダンサーだったアンソニーダウエルの説明がとても分かり易くて、とても興味深い一時間でした。
 
踊られた作品も、「白鳥の湖」、「パコダの王子」、「誕生日の贈り物」、「カルメン」、「マノン」・・・・と盛りだくさんで、これも、とても楽しめました。「パコダの王子」は、過去に録画され市販されているビデオ映像にですが、フレデリック・アシュトン振り付けの「誕生日の贈り物」は、ほとんど上演されることがない、とても珍しいものです。かって、マーゴ・フォンティーンとルドルフ・ヌレエフがアシュトンより振り付けを受けている映像を見たことがあります。
イーゴリ・ゼレンスキーと組んで踊る、「マノン」は見応えがあります。ゲストであるゼレンスキーを労るように踊るバッセルの踊りがとても美しい。

バレエの映像も興味あるものですが、それ以上に、この番組では、華やかな舞台の裏に隠れたバレリーナの苦悩の様子などが、いろいろな人の言葉によって紹介されていて、とても興味深いものでした。
いくつか、印象に残った言葉を以下に書いておきます。
 
まず、ダーシーバッセル。「舞台が終わってゆっくりしている時つくづく思う。バレリーナとは、もっとも変わった職業に違いない。レッスンに体をいじめ抜く毎日、どうしてこんなことを続けているのだろうと自分でも不思議に思う。」
 
また、辛い思いをしながらなぜ踊り続けるのか、なぜ踊り続けるのかの問いに、マーゴ・フォンティーンは、「どんどん上達しているときは良いけれど、一度成功して世界中から喝采を浴びるようになったらもう手遅れ。そうなったら踊り続けるしかない。まさに『赤い靴症候群』です。」と答えたそうです。プロとしてのバレリーナという仕事、一見華やかなステージの裏には、人一倍の努力があるに違い有りません。
 
また、アンソニー・ダウエルは、「キャリヤを積んで油が乗り出すと、若いバレリーナより自分の方が鍛え上げられた見事な体の様に思えるでしょう。でも現実は逆です。まだまだ踊れると思っていても、体がついて行かなくなってしまう。全く痛ましい限りです。」と。
 
また、ドナルド・マクレアリーは、「もう一度人生をやり直せるなら、バレエダンサーではなく、役者を選ぶでしょう。それなら今でも続けていられるから。体に衰えが来ても踊り続ける人は、踊りたいという禁断症状を我慢できないからです。」と言っていました。
 
「ダーシーバッセルの素顔」を観て、改めて、「プロのダンサーという職業の厳しさ」を知らされた思いです。
バレエは、「若さの芸術」と言われます。でも、50歳を過ぎても、精神力で踊り続けている人がいます。日本の森下洋子さんです。以前の様に風のような軽快なステップやスピード感溢れるフェッテは観られなくなったものの、アダージョの決めの美しさなど、とても50歳を超えているとは思えない踊りです。彼女は楽屋に携帯用のベットを持ち込んで、出番のないとき休息しているとのこと。これまでして、ハードな「50周年記念公演」を続けておられたのは驚きを通り越して感服します。
そしてもう一人、森下さんと同様に、人並みならぬ精神力の強さを感じるダンサーがいます。下村由理恵さんです。批評家のうらわまことさんが、下村由理恵さんが舞踊批評家協会賞受賞された時、次のように言っておられました。
「人間だれにでも調子の波やスランプはある。スポーツではそれははっきりしている。芸術家も人間である以上調子の波はある。とくにもっともスポーツに近い要素を持つ舞踊、そのなかでもクラシック・バレエではそれが大きく反映される。芸術家としてのレベルが高くなればなるほど、観客は完全を要求するし、何よりも本人がそれを意識する。これは単なる技術だけでなく演技を含めてであることはいうまでもない。それだけ芸術、とくにバレエではコンディションの維持が厳しく求められる。下村由理恵はまさにこのような厳しい世界でどの舞台でも高いレベルを安定的に維持している。それには厳しい自己規制、不断の努力が必要であり、彼女はそれを実現している数少ない芸術家の一人なのである。」 (株式会社ビデオのHPより)
 
バッセル、森下洋子さん、下村由理恵さん・・・・・現代のバレエ界を担う世界のバレリーナ。彼女たちが、怪我のようなアクシデントに見舞われず、いつまでも私たちに夢を与えてくれる素敵なバレエのプリンセスであられることを願ってやみません。


【トップページへ戻る】