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くるみ割り人形〜「金平糖のパ・ド・ドゥ」:藤井直子・森田健太郎  (2005.1.1)

この映像は、1994年頃に「バレエ誕生」(TV東京)という番組で放送されたものです。 まだあどけなさが残る藤井直子と若々しい森田健太朗の金平糖のパ・ド・ドゥです。 痩せぎすのバレリーナが多い中、ぽっちゃりとした丸い顔とピンクのチュチュから覗くふっくらとした太もも・・・が初々しい藤井直子は本当に可愛らしい。 井上バレエ団の創始者・井上博文が「美人でしょ。容姿端麗でしょ。それに何より私のタイプ。」と言う言葉を記者に残して逝ってしまった(音楽の友社・バレエの本1998)というのも頷ける。 アダージョの出だしはかなり緊張していて、時として「失敗したらどうしよう!!」と不安に満ちた表情でしたが、 パートナーの森田健太朗の好リードに支えられて次第に調子を上げ、甘く愛らしい金平糖の精を踊りこなしました。 当時まだ20代の藤井直子は井神さゆりに続く井上バレエ団の若手のホープ、 現在牧阿佐美バレエ団の森田健太朗は当時立脇バレエ研究所に所属でした。
 
このパドドゥでは、特に森田健太朗のリードのうまさが光ります。 バランスでは力強く藤井直子の腕を握り、ピルエットではウェストに優しく手を添えて、藤井直子をサポートしていました。 藤井直子も森田健太朗を信頼しきって、ほんとうに踊りやすそう。ジャンプなど自分の踊りは素晴らしいのに、 女性のサポートは今一つという男性も見られる中で、森田健太朗の踊りは、ほんとうにパートナーへの気配りと暖かさを感じました。 森田健太朗が青山バレエフェスティバルで、エスメラルダのパ・ド・ドゥを踊っていたのを見たことがあります。 この時も、パートナーの平山優子をとても優しくリードし、平山優子も安心しきって、驚異的に長くバランスを維持し、観客の大きな拍手を誘いました。 ある雑誌のインタビューで森田健太郎は「女性が不安定になったとき、僕がさっと出て助けてあげたい」と言っていましたが、 パートナーの女性に、安心して、自分の力を最大限に出させたい気持ちの表れなのでしょう。 パ・ド・ドゥのアダージョは女性が主役、男性は支え役です。 鋭いポアントの先だけで立って、今にも倒れそうなアラベスクやアチチュードなどのきわどいポーズは、男性の支えがなければ女性は何もできません。 女性を力強く支え、もし女性がバランスを崩してもすぐ助けてあげ、女性に最高の美しさを発揮させる男性が良いパートナーなのだと思います。 森田健太郎の踊りを見ていると、この女性への「思いやり」を強く感じます。 パ・ド・ドゥのアダージョで、女性をしっかり支え、女性に不安を与えず、女性を思い通りに躍らせる森田健太郎のような男性、これこそ本当のダンスール・ノーブルなのでしょう。

藤井直子は、今では島田衣子と並んで、井上バレエ団のトップスター。 小柄でリリックで、可愛らしいバレリーナで、私が大好きな一人です。 1965年生まれということですから、現在では40才を過ぎているのに、この愛くるしさと初々しさは奇跡です。 「くるみ・・」にせよ、「シンデレラ」にせよ、ステージに彼女が現れると、いつも客席から「まあ、何て可愛い!!」というどよめきが聞こえます。 彼女ほど、「可愛らしいお姫様」を感じるバレリーナはいないでしょう。 今や井上バレエ団のプリマとして押しも押されぬ存在ですが、藤井直子のステージは、甘く、美しく、本当にお人形さんのようで、いつも新鮮な魅力に溢れています。 彼女は、どんな役にも懸命に取り組んで、いつも誠実な踊りを見せてくれます。 可愛らしい女性が、客席に笑顔を見せる余裕がないほどに歯を食いしばって、額や胸元に汗を浮かべて懸命に踊る姿は、 実にさわやかで、感動に溢れています。 どことなく、頼りなくはかなげなところが、かえって、観る者に「そっと支えてあげたい」「無事に踊り終えて欲しい」と思わせ、これも藤井直子の魅力だと思います。
 
藤井直子の踊りは、アダージョでもソロでも、とても丁寧で、指の先まで神経が行き届いています。動きも演技も派手さはありませんが、 要点を押さえて無駄がなく、特に腕の使い方のたおやかさは、うっとりさせられるほどきれい。 可憐な容姿が本当にお菓子の精のようで、甘さと気品があります。 この映像はスタジオ録画でアップも多く、ダンサーの表情がよくわかりますが、ヴァリエーションが終わった時、 アップになった藤井直子の胸には汗が光っていました。並々ならぬ体力と神経を使っていたのがわかります。 ジーンと胸が熱くなる瞬間です。最後のコーダでは、ピルエットの回転もさほど早くはないのですが、正確で、とてもなめらかでした。軽くステップを踏み出して、巧みな足の動きを見せます。フィニッシュでは、藤井直子、「さあ来い!!」と身構える森田健太郎めがけて、フィッシュダイブ。 二人の呼吸がぴったりで、寸分の狂いもなくピタッと美しく決めました。藤井直子、首筋や胸からは一層の汗が吹き出しキラキラと輝き、額にも汗がにじみ、大きく息を弾ませての熱演、感動です。 踊り終わって肩を寄せ合う二人。このパ・ド・ドゥの映像を見終わったとき、いつも「素敵だよ、お疲れ様!!」と、二人に労をねぎらってあげい気持ちになります。
 
若く初々しいコンビの素敵な踊りを納めたこのビデオは、私の大切な宝物の一つです。
 
1994年
金平糖の精:藤井直子
王子:森田健太朗
TV録画(TV東京)

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