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白鳥の湖:イヴリン・ハート、ロンドン・フェスティバル・バレエ (2005.7.22改)

カナダのロイヤルウィニペグバレエのプリマ、イブリン・ハートが、オデットとオディールを踊った「白鳥の湖」のビデオがあります。1988年のロンドン・フェスティバル・バレエ(現イングリッシュ・ナショナル・バレエ)による、ナタリア・マカロワ版です。キーロフ・バレエから米国に亡命した名バレリーナ、マカロワによるドラマティックな演出で、彼女は、1幕の前と2幕の前に、自らストーリーの解説をしています。この作品は、舞台収録ではなく、スタジオ撮影なので、アップも多くダンサーの表情がよくわかりますが、曲の切れ目のダンサーのレヴェランス(おじぎ)も、観客の拍手もなく、レーザー光線を使ったりして、通常の劇場のライブとはやや違和感があります。 でも、おどぎ話の魔法の世界が鮮やかに蘇り、舞台ではなく映像としてみれば、こんな作りも良いのではと納得がいきます。 通常の1幕と2幕、3幕と4幕は連続していて、全体で2幕構成です。ですから、オデットは1幕後半から、オディールは2幕前半に登場します。
クラシック・チュチュで踊るイブリン・ハートを見るのは初めて。彼女のプロポーションの良さ、特に足のラインの美しさが良くわかりました。 オデットの並外れた叙情的な踊りは、これぞ理想的なオデットという感じを受けます。 見ているだけで美しく、ため息まじりにうっとりさせるようなクラシックバレエの醍醐味は、こんなところにあると思います。 それと相反するオディールの強さと柔軟性は驚異的です。黒鳥のアダージョでは、今回振付を担当しているマカロワは、かってアシュトン/ヌレエフに指導された自分の踊りの再現を意図したのか、ハートにアチチュードのバランスをぎりぎりまで長〜く保つことを要求、ハートもこれに応え、ふらつきを堪えながらも必死に頑張りました。コーダではダブルやトリプルはないものの軸足の寸分の乱れもない軽快なフェッテ・アントゥールナン。それに、ポアントの先から緩やかなカーブを描く脚の甲、見ている間、思わず「綺麗・‥」と呟いてしまう美しさでした。
ジークフリートは、デンマーク出身のペーター・シャウフス。ダイナミックさはないのですが、サポートがとてもうまいと思います。パートナーを実に良く見ています。オディールのアダージョでは、先の通りハートが完全にバランスを確保したのを見届けてサポートの指を緩め、王子の手を離してアラベスクのポーズをとったハートに、彼女ができるぎりぎりまで耐えてバランスを保たさせ、ふらつきが大きくなり、もはやこれ以上はダメ、堪えきれないと、彼女が危うく倒れかけてサポートを求めたところで、さっとウェストを支えるタイミングが絶妙です。 かって、森田健太郎さんが、「女性が危うくなったとき、僕が即座に手をさしのべて助けてあげたい」というようなことを言っていたことがありましたが、シャウフスのサポートも、まさに、そんな感じです。女性ダンサーに「いつでも支えてあげるから大丈夫」と安心感を与え、ぎりぎりまで頑張らせ、女性の最高の美しさを引き出す・・・ダンスールノーブルとは、こういう人を言うのでしょう。
このように内容は素晴らしいのですが、画質はよくありません。1988年の録画ということで、そんなに古いものではなくマスターテープは悪くないと思うので、ディジタル・リマスタリングで蘇ることを期待します。ともあれ、繊細さ、そしてはかなさと、哀しい運命を受け入れる愛の強さと・・・・、それを引き立てる見事なサポートのペーター・シャウフス。この二人の演技だけでも見る価値がある映像だと思います。

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