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アナニアシヴィリの「ジゼル」      (2002.11.04)

今やニーナ・アナニアシヴィリは、バレエ・ファンのアイドル的存在。彼女の踊りは、ドン・キホーテのキトリに代表される、明るくスケールの大きな華やかなものです。
その彼女が演じた珍しい??「ジゼル」が、CS放送のクラシカ・ジャパンで放送されました。
 
私は、ジゼルを上手に踊る人には、感性豊かな日本のダンサーに多いと思います。私が最も好きなジゼルは、20年以上も前に見た小林紀子さん、そして彼女の教え子でもある下村由理恵さんです。お二人とも素朴で純情な村娘の可愛らしさ、そして精霊の軽やかさを同時に表現できる希有なダンサーだと思います。外国人では、カルラ・フラッチや、最近では、ロシア人の若いルンキナが、このような踊りをしていたように思います。
アナニアシヴィリのジゼルは、ドラマティック、そして華麗です。私のような、下村さんの清純な胸にしみいるようで涙さえ誘うジゼルに見慣れた観客には、はつらつとした彼女の踊りには好みが分かれるところだと思います。
それはそれとして、この番組のジゼルでは、彼女の明るく、伸び伸びとした踊りを、大いに楽しめました。涙が出るというわけにはいきませんでしたが、シヴィリは、スケールは大きいけれども、とても可愛らしくて、こんなジゼルも面白いと思いました。
 
でも、やはり私は、アナニアシヴィリのジゼルはチョットなと感じないわけではありません。彼女は、ジゼルの様な妖精ものより、オーロラ姫のような明るいお姫様やキトリのような村娘の方がよく似合うように思います。スペインの太陽に光を一身に浴びたような明るさ、可愛らしさとコケティッシュな雰囲気を持った表情、グラン・パ・ド・ドゥでの圧倒的な迫力、このあたりが彼女の持ち味を最高に発揮できるところと思います。
 
昨年彼女が来日したとき、バレエコンサートで、「白鳥の湖」から黒鳥オディル、「眠り・・」のオーロラ姫、それにアンコールでドンキホーテのキトリを踊りました。この選曲、必然的に彼女の得意とするものになったのでしょう。ローズ・アダージョとドンキのパドドゥでは、驚くほど長いアチチュードのバランスを披露、観客席からどよめきと拍手を誘いました。バレエ・ダンサーには、女優のような演技力で観客の感動を誘うタイプと、目の覚めるようなテクニックで観客に驚きを与えるタイプがあると思いますが、小林さんや下村さんを前者とするなら、シヴィリは、間違いなく後者でしょう。その意味では、ジゼルよりもドン・キホーテのような作品で、華麗なテクニックを披露してこそ、彼女の本来の力が発揮できるのだと思います。
 
それはともかく、このバレエ「ジゼル」は楽しめました。 先日、小林紀子バレシアターのデレク・ディーン版ジゼルを見ましたが、主役の下村由理恵さんは入魂の名演だったのですが、 ジゼルの狂乱の場で雷鳴がなったり、第二幕があまりに怪奇ムードで、好きにはなれませんでした。それに比べて、このジゼルは オーソドックスです。ストーリーの流れがとてもスムーズで好感を持ちました。やはり、あまり凝らずに、自然に踊り手の魅力を導き出すような演出の方が良いように思います。 

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