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素顔のアナニアシヴィリ   (2003.4.17改)

数年前、ニーナ・アナニアシヴィリの来日にあやかって、CSシアターテレビジョンでは彼女の特別番組を放送してくれました。 バレエ・ガラ〜パ・ド・カトル、オペラ・バレエ「ムラーダ」、そして、ドキュメンタリー「素顔のアナニア・シヴィリ」といったところです。
この中で、「素顔のアナニアシヴィリ」が、なかなか面白いと思いました。
 
これは、1997年制作のアナニアシヴィリの素顔を綴ったドキュメンタリーです。なお、これは以前ビデオでも市販されていました。
幼い頃のフィギュア・スケートを練習する映像、バレエのレッスン風景、そして最後に「眠りの森の美女」出演まじかのバックステージの様子と続きます。
シヴィリの踊りは、溌剌としていて、いかにもボリショイ、という感じで、上品が売り物の、キーロフ劇場のダンサーとは正反対。
この辺が好みの分かれるところでしょう。私は、どちらかというと、キーロフやロイヤルのエレガント路線が好きなのですが、アナニアシヴィリについて言えば、「眠り・・・」のような長編ものより、むしろ、バレエ・コンサートの小品の方が、華やかな彼女の魅力が発揮できるように思いました。
子供の頃、彼女がフィギュア・スケートをやっていたのには、なるほどと思いました。
彼女のスピード感溢れる踊りは、このフィギュア・スケートの経験が大きく影響しているものと思います。そういえば、下村由理恵さんも、フィギュアをやっていたそうです。彼女の抜群のリズム感とバランスは、このフィギュアによるところが大きいのではないでしょうか。やはり子供の頃に体で覚えた技術は大きいように思います。
シヴィリが、サンサーンスの「瀕死の白鳥」をフィギュアで踊るために、クラシック・バレエを習い始めたと、ニーナ自身が語っていますが、それが今日の世界的バレリーナのきっかけとは、なかなか微笑ましいものがありますね。
手前味噌ですが、私も若い頃はフィギュア・スケートをやっていました。今はやめていますが姿勢のよさと、この歳でも人並み以上の敏捷性は、フィギュアのおかげと思っています。
 
これに続く、汗びっしょりになりながら、気に入らないところを何度も何度も繰り返す、「眠りの森の美女」のパ・ド・ドゥのレッスン風景も、大変興味深いのですが、何と言っても終盤の「眠りの森の美女」の舞台裏。次第に高まっていく彼女の緊張感が、画面からひしひしと感じられるのです。
「眠りの森の美女」の本番、楽屋でメークをしている頃から、カメラはシヴィリを追い始めます。ティアラを着け、オーロラ姫の衣装を身につける彼女に笑顔はありません。
「眠り・・・」第一幕、「花のワルツ」が終わる頃から、ニーナの緊張はピークに達します。
舞台には、求婚の4人の王子が並び、観客は、オーロラの登場を今か今かと待っています。舞台裏のシヴィリは、足踏みをして、トゥ・シューズの具合を確かめたり、チュチュの裾をひっぱたり、手をこすり合わせたり、とても落ち着かない様子。頂点に達した彼女の緊張と不安が伝わってきます。それも無理からぬこと、この場面オーロラの出に始まり、クラシック・バレエで最も難しいとされるアチチュード・バランスを含む「ローズアダージョ」が控えているのですから。
いよいよオーロラの出の音楽が始まりました。彼女は、神に祈り、十字を切って、大きく息を吸って、ステージへ飛び出して行きました。
舞台は無事成功、ニーナにいつもの笑顔が戻ってきました。
 
シヴィリのようなスーパースターでも、こんなに緊張するオーロラの出〜ローズアダージョ。一流のバレリーナ達の言葉からこのシーンに挑む彼女たちの心境を推し量ることが出来ます。
緊張を通り越して、恐怖感をも感じさせるバレリーナ達の言葉。本当に大変で難しい踊りなんですね。バレリーナにとって緊張の連続であり、観客にとっては息を呑むところです。 でも踊り終えて汗びっしょりのアナニアシヴィルの表情は、晴れ晴れとして、至難な踊りをやり遂げた満足感と無事やり遂げた安堵感に満ち溢れてました。

「お客様の拍手を感じ、ブラボーという声を聞く。そのほんの短い瞬間のために、長い練習を積み重ねる。 それが、私たちバレリーナの生き方なのです。」とニーナ・アナニアシビリは締めくくりました。 この映像から、プリマバレリーナとしての厳しさをかいま見ることが出来ました。「2度と同じ物は踊れない」と彼女が言うように、バレエは「一瞬の芸術」だからこそ美しいのです。


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