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瀕死の白鳥:山本りか     (2012.09.18)
とても興味深い「瀕死の白鳥」のバレエを見ました。YouTubeに載っていた山本りかという若いダンサーの踊りです。 この「瀕死の白鳥」は、2011年12月、シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテルで行われた 「Hearts & Mindsバレエコンクール」で踊られたもののようです。 「瀕死の白鳥」は、コンクールの演目としては敬遠されがちです。 派手で見栄えのするパが少ない上に、ゆっくりとした振りの連続で失敗するとごまかしがききにくいからです。 それなのに、あえて「瀕死の白鳥」を選んだ山本りかの勇気には拍手を送りたいと思います。
 
最初バレリーナは、下手から観客に背を向けて登場します。観客の容赦ない鋭い視線を背中に受け、最も恐怖を感じる一瞬と言われています。 この場面、山本りかは、パ・ド・ブーレの歩幅がやや大きく、緊張の為か、ちょっとバタバタしていた感じなのが気になりました。 波打つ両腕も、動作がぎこちなく、元気すぎて死にそうもない感じに見えてしまった。 舞台の中央まで進み観客の方を向いた時の表情も硬かった。でも、これからが山本りかの偉いところ。 しだいに緊張がほぐれたのか、歩幅は狭まり美しいブーレを刻み、両腕もホネがないように柔らかくなり、表情も柔和になってきました。 ただ最後の部分はもう一工夫必要な気がしました。白鳥が唐突に死んでしまう感じでした。死に向かう経過がまだダンサーの中でよく消化されていない気がしました。 この場面、白鳥は悲しげな表現をしながら踊り続け、力が徐々に抜けて倒れていく踊りが理想的に思います。

「瀕死の白鳥」は、若さの芸術と言われるクラシックバレエの中で、年齢を重ねて踊り込むほど味が出てくると言う異色の作品ですが、 ゆっくりとしたテンポのなので、ごまかしがきかず、ベテランダンサーでも出を待つ時は脚がすくむほど緊張すると言われます。 まして若い山本りかにとって、プレッシャーは相当なものだったでしょう。 さらに、通常の「瀕死の白鳥」の舞台は薄暗いのですが、これは審査員がズラリと並んだコンクールなのでとても明るく、ミスがすぐ分かってしまいます。 踊るほうからすると、さぞやりにくいかったことでしょう。

こんな中で、プレッシャーをはねぬけて見事に踊りぬいた山本りかは立派にだと思います。 とりわけ、見せ場のアラベスクとアチチュードのバランスが見事。通常のバレリーナは数回が限度なのに、山本りかは、6回も美しく決めたのは偉い。 特に3回目のアラベスクは圧巻。 支えの右足のまろやかな甲、後方に高く上がった左脚、からだ全体が芸術的なラインを作り、グッと堪えてバランスのポーズが美しかった。 以前、このバランスを10回も続けた、大塚礼子の踊りを見たことがありますが、10回も成功させた技術は凄いですが、 わざとらしくて品が無い気がしました。 山本りかの6回位が妥当でしょう。

踊り終わった山本りか、背中も額も汗びっしょりで、大きく息をはずませていました。 自らの力を出し切って、「瀕死の白鳥」を立派に踊りぬいた山本りかの健気な姿に感動しました。お疲れさま!!。 それにしても、こんなに印象に残った「瀕死の白鳥」を見たのは、久しぶりです。



なお、「瀕死の白鳥」の練習中の映像も、You Tubeに載っていました。真剣な表情で懸命に稽古に励む山本りかの美しい姿に胸を打たれます。  こちら

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