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テレビ番組「輝く女・吉田都」に思う       (2005.6.12)

NHK・BSハイビジョンの「輝く女・吉田都」は、とても興味深い番組でした。「オンディーヌ」のリハーサル風景を中心に、彼女のロンドンでの日常を追ったものです。
吉田都さんは、英国ロイヤルバレエ・プリンシパル。世界の頂点に立つバレリーナです。都さんは、必ずしも、バレリーナとしては恵まれた体格ではありません。背は高くないし、頭が大きいし、手足も長くないし、・・・・・・。でも、彼女はカッコ良い。堂々とした身のこなしや安定した高度な技術、美しいライン・・・、テクニックは完璧ですし端正な奥ゆかしい正確さでは右に出る人はいません。若くて体格に恵まれ、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの上野水香さんでさえ、この奥ゆかしさや正確さにはかないません。都さんは今年40歳。すでに踊ることを諦めた演目が二つあるそうです。二年前に「眠れる森の美女」を、そして今年は「白鳥の湖」を。背中への負担が大きいからとか。「若さの芸術」と言われるバレエ、少しでも長く踊り続けるために、その潔さ。こんな彼女、だからカッコ良いのです。
 
オンディーヌ」は、1958年に、ロイヤルバレエの振付師、フレデリック・アシュトンが、マーゴ・フォンティーンの為に振り付けたバレエです。作曲はヘンツェ。オンディーヌは神秘の森で他の水の精と戯れています。パレモンはオンディーヌを一目で好きになります。パレモンの館、地上の死も恐れず、オンディーヌとパレモンは永遠の愛を誓います。という、たわいないストーリーですが、フォンティーンは水の精そのもので、その妙技はポール・ツィンナーが、映画「ロイヤルバレエ」として残してくれました。
純クラシックとは一味違うヘンツェの音楽によるこの「オンディーヌ」は、とても難しい踊りと言われています。パートナーは、都さん自らが選んだという、若いエドワード。なかなかうまくいかないようです。都さんを意識しすぎてか、つい力が入ってしまう。それにしても、都さんは、さすがです。若い彼に一つ一つアドバイスをして、じっくりと二人の踊りを作り上げていくのです。そして、本番。観客の大きな拍手。公演後、エドワードはプリンシパルに昇格しました。
番組には、都さんがトゥシューズを選ぶ興味深いシーンがありました。ずらっと並んだ真新しいシューズの中から、都さんが選んだのはわずか数足。これというシューズが見つからないまま本番を迎えてしまうとそれがかなりの精神的ストレスになってしまうのだそうです。逆に、ピッタリのシューズがあると、それだけで安心して舞台に立てるのだとか。
 
以前吉田都さんは、彼女が出演したテレビ番組で「バレエは戦い」と言ったのを聞いたことがあります。プリンシパルという地位、これを目指して他のダンサーが虎視眈々と狙っている。うかうかしていると蹴落とされてしまう。このためには、毎日毎日、厳しい訓練を続けるしかない・・・・・だから、戦いなのでしょう。今回の「輝く女・吉田都」でも、たった一人で闘っている彼女を、たくましく感じました。

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