『チキタ☆GUGU』1、2巻(TONO、朝日ソノラマ)
このコミックを、いったいどう説明したらいいのだろう。シュールでブラックで、ややグロテスク。なのに、ユーモラスでキュートで切なくて、ファンタジックでほろりとさせられて。ふざけているようで実は奥に深い命の真理を秘めている、そんな実に不思議な味わいのコミックなのだ。キュートとグロがごく自然に同居してるところにまず驚き。絵はグロくないですので、ご安心を(笑)。
「まずい人間は百年飼育すると美味になる!?」(1巻の帯より)赤ん坊の頃、自分を除く家族全員を人喰い妖怪ラーに食われたチキタ・グーグー。大きくなった彼が自分の家に戻ると、そこにはラーがいた。グーグーは死ぬほどまずい人間なのだが、ラーは彼を百年育てて食う、という。奇妙な共同生活が始まった…。
なんていうかな、こう甘ったれたところがないんだな。死、というものを扱うにあたって、作者の手つきは非常にクール。ソフトに情緒的に扱うことなく、ぽん、と突き放している。「人はいつか必ず死ぬんだよ」という、考えてみれば実に当たり前の諦観が、この物語の底流にある。
そしてそのはかない生のなかで、何を大事にして生きるか。グーグーの周囲の人間や妖怪たちが悲喜こもごもの物語を繰り広げるなかで、グーグーは少しずつ、自分の大切なものに気づいていく…。くっと胸がつまる。
きっちりと完成されてない、荒削りな感じもなかなか。続刊が楽しみである。
『しあわせインベーダー』(こがわみさき、エニックス)
か、かわいいっ…!もう、言葉にできないくらいのかわいさ。
4つの中篇が収められている。そのうち3つは、高校生の恋を描いたもの。もうひとつはファンタジー。前者の「ふたりなみだ」にはハート直撃。男の子たち、女の子たちの、ほんわりとした恋の始まりのときめきや切なさや戸惑いや、そんな瞬間の言葉にならない空気みたいなものがここには描かれている。
ファンタジーの「るいるい」もすごくいい。ニッポンでなんばんめかに高い山の樹海のなかでひっそりとくらす「めだたないひとたち」の物語。ひとりひとり別々の不思議な力を持つこびとたちの、これまたかわいいお話。
『ぶたぶた』(安武わたる・原作/矢崎存美 宙出版)
ふふふ。そうです、あの傑作現代ファンタジー、『ぶたぶた』(矢崎存美、徳間デュアル文庫)がコミック化したのです!いやあ、これがなかなかよくできてる。ほとんど原作に忠実に描かれており、よくぞここまであのイメージを壊さずに描けたなあ、と感心してしまうほど。作者のぶたぶたさんに寄せるあったかい気持ちがじわじわ伝わってくる。あとがきを読むと、作者のたっての希望で漫画化されたらしい。
人間キャラの絵がちょっと好みが分かれるところかもしれないが、ぶたぶたさんの絵はまさにそのもの!目が点なだけなのに、微妙な表情が出てるところもうまい。ああ、ぜひこの作者の『刑事ぶたぶた』が読みたいぞお!洗濯機でぐるぐるのシーンを(笑)。続きも出るようなので、今後に期待。
『MOONLIGHT MILE』1・2巻〜 (太田垣康男、小学館ビッグコミックス)
『プラネテス』1,2巻(幸村誠、講談社モーニングコミックス)を取り上げるなら、こちらも紹介しなくては片手落ちである。というくらい好対照の、近未来宇宙開発物コミック。ただし、両作品のテイストは全く違う。
『プラネテス』が青年の宇宙に対するピュアでまっすぐな憧れを描いた作品だとすれば、こちらはもっとずっと大人の作品である。汗臭く、泥臭く、男臭く、おやじ臭い(笑)。主人公は、猿渡という名前がぴったりの、なんとも原始的なおっさんだ。なのに、その骨太の魅力にいつのまにか惹かれている自分に気づく。そう、「こち亀」の両さんタイプなのだ、彼は。飾らず気張らず、図太くしたたかで超人的に強靭で、自分を突き動かす本能だけで生きている。その彼の、宇宙への思いは実に単純明快。いわく、「地べたに飽きた」。「宇宙に行くんだ!」という燃えるような闘志、というよりは、「まあヒマだし、宇宙でも行ってみっか」みたいな、肩の力の抜け方がいい感じ。
宇宙開発における、さまざまな人間達のドラマ、という点では『プラネテス』と同じだが、こちらはそのドラマも汚職や女性関係と、人間臭さが渦巻いている。ある意味、こちらのほうがより現実的かもしれない。そして、人類は少しずつだが、着実に宇宙への歩みを進めてゆく。
不良中年宇宙飛行士、猿渡悟郎。やってくれるぜ。カッコいいぞおっさん!
『二階堂黎人が選ぶ!手塚治虫SF傑作集 異星人(ベム)篇』(手塚治虫、ちくま文庫)
よく、手塚治虫の漫画は愛と夢と希望に満ち溢れていて、素晴らしいという評を聞く。が、反論を覚悟のうえで思い切って白状するが、実は私は一度たりともそう思ったことはない。というか、皆様本当にそう思ってらっしゃる?とむしろ聞き返したいくらいだ。だって、手塚治虫の漫画ってなんともいえず「こわい」じゃん!!『火の鳥』しかり、『三つ目がとおる』しかり、『ブラック・ジャック』しかり。確かにストーリーは申し分なく面白く、ぐいぐい読者を引き込む圧倒的な強さを持っている。が、読後感はやたら重くないか?私が暗い作品ばかりセレクトしていたのか?いや、そんなことはないはずだ。まあ『リボンの騎士』は読んだことないが。
そんな、私にとってはどこか「こわい」手塚漫画の中から、ミステリ作家の二階堂黎人が、異星人(ベム)の出てくる短篇ばかりをセレクトしたアンソロジーが本書である。ベムとは「人間ではない化け物じみた宇宙生物全般を指す」そうだ。1963年の「SFマガジン」4月号に掲載された作品なども収録されている。
で、感想。…やっぱりこわいよ(笑)。人間の心の奥にある、異物への根源的な恐怖や不安といったものを、手塚氏はその鮮やかで自由な表現力で描き見せてくれる。これこそが、君たち私たちの偽らざる本音だろう?と。彼は子供だましのいいかげんな幸福を一切描かない。どこまでも冷静に人間を見つめ、その心の闇にひそむ暗い感情を掘り起こす。そして、その暗闇に小さくチカリとまたたく、希望という光も。
彼はさまざまな異星人とのコンタクトストーリーを描きながら(そのあふれるイメージは素晴らしいの一語に尽きる。実にバラエティ豊かな宇宙人たちの姿、特質!)、その実どの話も「人間とはなんなのか」という永遠の命題を描いているのだ。読み応えのある1冊。