『ぶたぶた』☆☆☆1/2 矢崎存美(廣済堂出版、98.9月刊)

 『ぶたぶた』シリーズ(?)第1作(『刑事ぶたぶた』は2作目)。こちらは連作短篇集になっており、ぶたぶたがさまざまな職業に就いている。ある時はベビーシッター、ある時はタクシー運転手、またある時はレストランの腕利きシェフ、しかしてその実体は!?いえ、キューティーハニーじゃありません(笑)、なんとぶたのぬいぐるみなんです!

 登場人物たちは、ぶたぶたに一様にびっくりし(そりゃそうだ)、自分の目や頭を疑うのだが、やがて気がつくと彼のペースに巻き込まれ、傷つき疲れていた心が、いつのまにか癒されているのに気づくのだ。両親が離婚したために父親がいない女の子、毎日残業続きでろくに家族と話もしてないサラリーマン、家出してきた小学生、失踪した兄を探している家族…。そんな、今の世の中にちょっと疲れてしまっている人々。彼らの前に、ぶたぶたはある日突然現れる。

 コミカルな中にも、どこか哀愁漂う切ない話が多い。でも大丈夫。ぶたぶたが、皆をほんわかと幸せな気持ちにしてくれるから。

 『刑事ぶたぶた』同様、とても素敵な現代のファンタジー。もうすぐ(4月21日)徳間デュアル文庫になるそうなので、発売されたらぜひお手に取ってみて欲しい。実にキュートで心あたたまる物語。

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『刑事ぶたぶた』☆☆☆☆ 矢崎存美(廣済堂出版、00.2月刊)

 kashibaさん他、既読の方絶賛の1冊。いやあ、むちゃくちゃカワイイオカシイ!本を読みながら声をあげて笑った回数としては、おそらく史上最高だったと思います。ホントにタイトルどおり、ぶたのぬいぐるみが刑事なんですよ!?このぶっとびな設定を考えた著者に、心から賞賛の拍手を送りたい。や、やられたねこりゃ!太田忠司氏の帯の言葉が、この物語の全てを一言で言い表しているので引用します。「これは、世界で一番すてきな警察署の物語」。

 初めて刑事となった立川が訪れた、所轄の春日署。そこで紹介された上司が、なななんと、ぬいぐるみのぶただったのだ!いやマジで。「山崎ぶたぶた」という名刺まで持ってる、本物の刑事。山崎ぶたぶたは、そのぬいぐるみであるという特性を活かし(笑)、立川とコンビを組んで、さまざまな事件を解決してゆく。「なにそれ!?」というツッコミはなしだ。これは現代における、とびきり素敵なファンタジーなのだから。

 そのぶたぶたの一挙一動がとにかくおかしい!いやでも想像してしまうのだ、いくら丼を食べるぶたぶた、ティッシュで鼻をぎゅっとかむぶたぶた、黄色いリュックをしょってよちよち歩くぶたぶた、つぶされてシャッターの隙間にぎゅっと突っ込まれるぶたぶた、洗濯機で脱水されて「きゃー……!」とかすかな悲鳴をあげるぶたぶた(笑)。も、もう腹がよじれる!

 しかし、このぶたぶたというキャラの奇天烈さだけでこの話はもってるわけではないのだ。ちゃんとミステリ的にもしっかりと骨が通っているし(解決法はかなり爆笑だが)、彼以外の登場人物たちも思いやりにあふれていて、なんとも全編にあったかさが満ちているのだ。

 ゼッタイにありえないこと、だからこそ素敵なお話。なんとも稀有で幸福なミステリ、いやファンタジーだ。傑作!

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『MAZE』☆☆1/2 恩田陸(双葉社、01年2月刊)

 うううん、今まで読んだ恩田陸作品の中では最も不満足な出来。謎が謎を呼ぶ、という中盤までは非常に面白く、ドキドキハラハラの展開だったのだが、ラストの着地点が不満。書き方もあまりに曖昧すぎな気が。これだけでは読者はちょっと納得できないと思うのだが。

 ジャンルでいうならミステリ、でいいのだろうか。アジアの西の果て、なにもない荒野の丘にぽつんとそびえ立っている白くて四角い建造物。ここに迷い込んだ多くの人間が、そのまま消えてしまっているという。これを調査すべく、4人の男性が降り立った…。

 ひょっとしてホラー?と思わせるほど、わっと驚く恐怖な展開があったり、雰囲気の盛り上げ方はいつもながら実に長けていて、果してその先は?とページを繰る手が止まらない。

 キャラの立て方も相変わらずうまい。これがのちのち思わぬ効果を生んでるところなどは、さすがである。でも女言葉の恵弥というキャラはやはり違和感が残る。彼が女言葉をしゃべる理屈は理解できる。そのポリシーを書きたくて登場させたのかもしれないが、やっぱり普通のキャラでよかったんではないか、とちらりと思わないでもない。彼の存在があまりに目立つので、物語の焦点はこっちなのか?と気を取られるほど。でも実際の焦点は、もちろん建造物の謎の方である。

 で、その謎のオチがあまりにあまりで残念。もうちょっとうまく掘り下げて書けば、すっごいSFになったのかもしれないのに。恩田陸の「曖昧さ」という短所がモロに出てしまった作品かもしれない。

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『鱗姫』☆☆☆☆ 嶽本野ばら(小学館、01年4月刊)

 『ミシン』(小学館)に続く、小説第2作目。前作よりさらにパワーアップした「野ばらちゃんワールド」が堪能できる。仮に「森奈津子」というジャンルがあるとするなら(笑)、これは「嶽本野ばら」というジャンル、といっても過言ではなかろう。それほど他に類を見ない、ぶっ飛んだ小説である。彼の趣味を全部、白雪姫の魔女のぐつぐつ煮えたぎる鍋にぶちこみ、できあがった物語、といった趣。どろどろです(笑)。でもこれがツボ、な人には非常に楽しめる話なんだなこれが!

 主人公の女子高生は、校則に反してるとさんざん怒られながらも、お肌のためにと日傘をさして通学するという、中原淳一ばりの時代錯誤な美意識を持った娘。ある日、彼女は、しばらく前から中年男のストーカーにつけ狙われていることを兄に告げる。が、彼女はもう一つ、誰にも言えない重大な秘密を抱えていたのだった…。

 著者の徹底したレトロな美意識、耽美趣味、エログロ、少女特有の残酷さ、倒錯趣味などなどがてんこ盛り。が、それが実に上手く「小説」という形に仕立て上げられている。いやいや、なかなかのストーリーテラーだよ、野ばらちゃんは。少女期におけるあらゆる趣味と妄想に走りまくった小説。ユーモアの隠し味も絶妙。

 主人公の性格形成に大きな影響を与えた叔母を筆頭に、この物語の登場人物たちは皆、現代とはズレた美意識を持っている。それはもう、読んでいて思わずぷっと吹き出してしまうほどの滑稽さだ。でも、ふと思うのだ。今の世の中にはびこる美意識って、そんなに正しいものだろうか?ガングロ化粧や海外ブランドあさり、肌を露出しすぎのスタイルなどなど。それらにきっぱりと背を向け、周囲からどう思われようと自分の美意識を貫く彼らは、ある意味非常に勇気ある、まっとうな考え方の持ち主ではないだろうか?

 などと思ってしまうこと自体、私も少々彼に毒されているのかもしれない(笑)。

 の乙女心が理解できる方には堪能できる話です。どっぷりひたれます。そうでない方は少々びっくりなさるかもしれませんが(笑)、それなりに楽しめると思います。

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『遠い約束』☆☆☆☆ 光原百合(創元推理文庫、01年3月刊)

 光原百合、待望の新刊!最初見たときは、野間美由紀のマンガ表紙にちょっと違和感を感じたが、読み始めて納得。まさにこの表紙っぽい、コミカルで軽〜いタッチのミステリなのだ。内容は、ひとことで言うなら「ミステリファンが書いた、ミステリファンのためのミステリ」といったところだろうか。このミステリをこよなく愛する主人公は、ずばり著者自身の投影であり、同時に読者自身である。ミステリ大好き人間なら誰でも、「うんうん、この気持ちわかるよ!」とうなずいてくれるのではなかろうか。

 「大学に入学したらミステリ研入部!」そんな夢を抱いて無事浪速大学に入学した主人公、吉野桜子。まんまと入部したミステリ研は3人の先輩(皆非常に個性的な男性)のみの弱小クラブだったが、とにもかくにも彼女のキャンパスライフがスタートした。

 桜子の大叔父の遺言の謎を解く、表題の「遠い約束」3部作と、その合間に起きるミステリ研での小さな騒動をはさんで、大学生活の季節は流れていく。…ううむ、正直言って、めっちゃうらやましい!(笑)いいなあ、楽しそうだなあ、ミス研!合宿で密室騒動が起きたり、延々とミステリ談義したり、大学合同のコンベンションがあったり、さらには遺言解読。魅力的な先輩に囲まれて、おいしいぞお、桜子ちゃん。くそお、私も大学時代に入ればよかったなあ、ミス研。や、もちろん現実はこんなにおいしくないだろうけどさ(笑)。

 ポップで軽いノリの中にも、ほろりとさせられたり、ほんわかとあったかな気持ちにさせられるところが心ニクイ。ほのかな恋がからんでたりするあたりも微笑ましく、このあたりの味付けは実にいいカンジ。ミステリを介した、年の離れた友情とも呼べる大叔父とのエピソードなど、ぐっと胸がつまる。彼女の描く人間の機微は、どれも悪意がなく、温かで心地よい。嫌な人間さえすっぽりと大きなまなざしで包み込んでしまうのだから。著者の「ミステリを書くこと」や、「謎」に対する志もほの見え、その姿勢はまことにもって清々しく気持ちがいい。

 全てのミステリ読みに楽しんでもらえること請け合いの一冊。ラストの一行がじんと心に染みる。

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『それいぬ』☆☆☆☆ 嶽本野ばら(文春文庫プラス、01年3月刊)

 退廃的な少女趣味どっぷりの小説『ミシン』(小学館)の著者のエッセイ。が!読み始めて愕然。こ、この方、オトコの方だったんですか〜〜〜〜!!大人になってもピュアな乙女心を失わない、稀有な女性だと思っていたのに〜!

 ものすごく、ものすごく読者を限定する本。正直言って、万人にはオススメしません(笑)。とりあえず、冒頭の「お友達なんていらないっ」だけ試しに読んでみてください。これが「乙女」を選別するリトマス紙でございます。「げげげっ」とあわてて本を閉じてしまった方、残念でした。これ以上読み進む必要はございません。そして「こ、これは私のための本かもしれないっ!」と思った方、あなたは合格です。これは私とあなたのための本です。美しく、気高く、根性ワルな乙女の世界へようこそ!(独断と偏見ですが、大島弓子と長野まゆみがお好きな方もオッケーだと思います)

 「正しい乙女になるために」という副題そのまま、ナルシス度200%の、彼の「乙女哲学」がとうとうと述べられている。いやいや、まったく恐れ入る。男性なのに、生半可な女性よりずっと少女の気持ちをよくわかっていらっしゃるのだ(というより、この方、中身は女性よね)。思い込みで築き上げた美と夢の世界にどっぷり浸り、正しいのは空想の世界で歪んでいるのは現実の周囲のほう、と強引に決めつける。リボンとフリル満載のお洋服をこよなく愛し、ミッフィーを愛し、江戸川乱歩や大島弓子に耽溺する。ロマンティックで上品で、クラシカルで我侭勝手、ああ、これこそ「乙女」なり!

 彼は少女特有の心の歪みを「それでこそ乙女、そのまま突き進みなさい」と絶賛、後押ししてくれるのだ。私がかつて感じていて、同時に後ろめたく思っていたこと全てを。もしこれを10代の頃に読んでいたら、間違いなくハマりまくり、開き直り、心のバイブルとして肌身離さず持ち歩き、人生を誤っていたことであろう(笑)。あぶないところでした。

 とにもかくにも、私は野ばらちゃん信者であることをここに告白しよう。同志求む!

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『ぶらんこ乗り』☆☆☆1/2 いしいしんじ(理論社、00年12月刊)

 本の雑誌2001年3月号の「新刊めったくたガイド」で、吉田伸子さんに絶賛されていた一冊。その熱さに惹かれて読んでみた。うむ、これ、まこりんさんは言うまでもなく、ヒラノマドカさんあたりがツボなのでは。私の第一の感想は、「この作家の小説をもっと読んでみたい」である。とりあえず、要チェックの作家のひとりにランクイン。

 なんとも不思議な物語だ。最初から最後まで、淡い夢のよう。そして、全編を通して、底辺に透明な悲しみが流れている。地下水のように静かに。

 物語には、ストーリーによって読者をひっぱるものと、『ノスタルギガンテス』のように、ストーリーはあってなきがごとしだが、それ以外の「何か」が書かれてるものの2種類があると思う。そしてこの本は間違いなく後者である。

 4歳の頃から物語を書くことができた天才少年と、その3歳上の姉。今は高校生になった姉が、弟の書いた昔のノートを読みつつ彼を回想する。ぶらんこに魅せられ、その事故でひどい声になってしまったため、一切しゃべるのをやめ、庭のぶらんこの木の上で暮らすようになった弟。周りの同年齢の子供から明らかに浮いている彼の、繊細な心から生まれる物語の数々。それは彼の心象風景をそのまま描いていて、ユーモラスだがどこかさみしい。なんだか胸がつんとする。そんな弟を優しく包み込むように見守る姉。

  この本に書かれている「何か」というのは、「水彩画のように、輪郭のぼやけた悲しみ」だと思う。くっきりと強烈な線でひとの胸を激しく打ち、涙をぼろぼろ流させる、という物語とは一味違う。ただただ、読み進むうち、胸の奥がしんと静かになり、悲しみがひたひたと打ち寄せ、いつか満ち潮になっている、そんな感じ。

 心が透明な水色に染まったような感触。なんとも切ない余韻を残す一冊。

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『そして粛清の扉を』☆☆☆☆ 黒武洋(新潮社、01年1月刊)

 第1回ホラーサスペンス大賞受賞作。設定を読んだ限りでは『バトル・ロワイアル』のパクリかと思っていたが(確かに著者もこの話を書くにあたり、ある程度意識してはいるだろうが)目指す方向が全く違っていた。180度違うといっても過言ではないだろう。結論からいってしまうと、たいそう面白く読めた。小さな不満はいくつかあれ、これだけ書けていればじゅうぶん及第点であろう。

 ひとことで言ってしまうと、娘を暴走族に殺された女教師のリベンジもの。荒廃しきった自分のクラスの高校生たちを人質にとり、彼らの隠された恐るべき罪をあばきつつ、どんどん処刑してゆく話。生徒達がガンガン殺されていくのだが、『バトル・ロワイアル』と全く違うのは、この話が「殺す側」から書かれていることだ(『バトル・ロワイアル』は、なんの罪もない子供達が単に大人のゲームのコマとして殺されていく。その子供達側、「殺される側」から書かれた物語だった)。

 著者はあえて子供達を徹底した「悪」としてのみ描いている。女教師が次々とその「悪」を裁いていく姿は、不快でも恐怖でもなく、むしろ爽快。彼女は愉快犯ではなく、全てを承知していて、彼女なりの「社会への復讐」という理屈があってやっていることだから。そしてこの殺人をして読者に「爽快」と思わせてしまうところが、この本が問題点と呼ばれる所以である。つまり、「正義ゆえの殺人は許されるのか?」という点である。このテーマは宮部みゆきの『クロスファイア』に近い。

 そして著者は、弦間がつぶやくセリフによって読者に大きな問題を投げかける。

「…間違っていたのは誰だ?……社会か?……法律か?……加害者か?……遺族か?……一番間違っているのは誰だ?……」

 甘ったれて自分の快楽しか考えず、他人の痛みならず命までも踏みつけて平気で生きている子供達。彼らへの怒りはいったいどこにぶつければいいのか?著者は、決してこの女教師の行為が正しいとは書いていない。その答えは、上記の独白によって、読者にゆだねているのだ。

 なるほど、「人間がいちばん怖い」(by宮部みゆき)ということか。これがホラーサスペンス大賞を受賞するというのは、なんとも空恐ろしい世の中である。非常にブラックなエンターテイメント。

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 『夜聖の少年』☆☆☆1/2 浅暮三文(徳間デュアル文庫、00年12月刊)

 なんだなんだ、実はグレさんてSFのひとだったんですね!これがあの『ダブ(エ)ストン街道』『カニスの血を嗣ぐ』と同じ作家の作品とはとても思えない(笑)。この方、ひょっとして恩田陸ばりにたくさんの引き出しを持った作家かもしれないぞ。これで、このひとにしか書けない「何か」さえ明瞭に出てれば文句ナシ(今のところ、私には彼の「何か」は発見できてない)。とにかく、少年の成長冒険小説として、非常に楽しめる一冊。わかりやすく、よい出来のエンターテイメントだと思う。

 おとなになる直前に、戦いの本能を抑制する遺伝子を強制的に移植される世界。それを拒んだ少年少女たちは、「土竜」と呼ばれ、地下で飢えと死の恐怖におびえて隠れ暮らしていた。彼らは社会の秩序を乱した者として、炎人から発見され次第殺されるという過酷な運命にあったのだ。

 これは、その「土竜」であるひとりの少年、カオルの物語である。他の粗野な少年たちとは一風変わっていた彼の出生に秘められた過去とは…?

 どことなく、「銀河鉄道999」を彷彿とさせる話、といったら突飛すぎるだろうか。なんてことないひとりの少年が、とある冒険にまきこまれ、それを経て成長し、やがて大人の作った管理社会に疑問を持ち、立ち上がる。そして、こういうストーリーはやっぱり読んでて「面白い」のだ。読後感も爽快そのもの。

 現在少年(少女)の方も、かつてそうだった方も、一緒になって楽しめる本(たとえば目黒さんなんかが読んでも全然オッケーでしょう)。読者層を問わず、広くオススメできる一冊。

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