☆『霧のむこうのふしぎな町』 柏葉幸子/講談社青い鳥文庫

 ニムさんの日記に触発されて読んだもの。これ、なんと映画「千と千尋の神隠し」とよく似てる、というか元ネタだっていうじゃありませんか!読んで納得。うん、確かに状況設定とか似てる。女の子がひとりで異世界に迷い込む話。とくにこの魔法使いのおばあさんが、油婆婆にイメージが重なる。主人公も小6だから、12歳くらいと千尋に近いし。

 そこここにキラリと光るエピソードはあるものの、何かイマイチ深みに欠ける気がしないでもない。あと一歩踏み込めば、もっとすごい傑作になっていたのでは。このままでも、軽くさらっと読めて、じゅうぶん楽しいけど。どっぷりハマれるとまではいかないけど、好感の持てる和製ファンタジー。

☆『島、登場。つれづれノート10』 銀色夏生/角川文庫

 つれづれノートもついに10冊目。彼女の日常は相変わらずといったところだが、今回は大きな転機が訪れているようだ。なんと、島に住むことにしたらしい。とても彼女らしい選択だと思う。

 日々、なんてことない毎日を過ごしながら、彼女はいつも絶えず考えている。自分がどうしたいのか、どうしたら自分が幸福でいられるのか。日常の記述の端々に、そういった彼女の人生哲学(というとおおげさだが)が挿入されていて、ときどき読んでいてはっとする。でも、これってとても大事なことだと思う。自分を幸福な状態にもっていくこと。それは自分にしかできないし、それを見つけるのも自分にしかできないのだから。(この本を買ってみたい方へ)

『ジェニーの肖像』 ロバート・ネイサン/ハヤカワ文庫NV

 あの恩田陸の傑作『ライオンハート』の元ネタ。『スノーグース』を読んだときも思ったが、昔の作品は文章が本当に美しくて品がある。ちょっとした情景の描写なのに、溜め息が漏れるほど美しいのだ。もうそんな文章を読んでいるだけで幸福になってしまう。

 もちろん話も美しい。名作と誉れ高いのにも納得。若い貧乏画家が出会った少女。時を越えた愛が、実にロマンティックに描かれている。時間SFというよりは、ファンタジーの傑作。美しい、愛の物語。(この本を買ってみたい方へ

☆『スノーグース』 ポール・ギャリコ/新潮文庫

 ポール・ギャリコは私のお気に入り作家の一人である。といっても全作品を読破しているわけではないのだが。ファンタジーや児童文学系の作家。『ジェニィ』、『雪のひとひら』などの名作で知られるが、私が最も好きなのは『トンデモネズミ大活躍』(岩波書店)である。この『スノーグース』もやっぱり童話もしくはファンタジーといった話。3篇の中篇が収められている。 

 言葉の美しさ、情景の美しさ、そして何より登場人物たちの心の美しさに、心が洗われるようだった。傷ついた鳥を介して出会った孤独なふたりの、ほのかな心の交流とその行方。哀切漂う抑えた文章の行間に、登場人物たちの秘めた思いがにじみ出ていて、なんともいえず切ない。ここにあるのは、愛や誠意などの清らかな心ばかり。美しいものは、時代を超え、国境を越えて、人の心を暖める。(この本を買ってみたい方へ

『puzzle』 恩田陸/祥伝社文庫

 これも400円文庫。「無人島」テーマ競作のうちの一作だったのね。まず目をひくのはこの表紙のかっちょよさ。横写真で、モノクロの廃虚の団地が写っている。恩田さんは、この写真のインスピレーションからこの話を書いたんじゃないかと思えるほど、迫力ある写真である。話は、孤島で見つかった3つの死体の謎。これは事故か殺人か?非常に少ない手がかり(パズルのピース)から、主人公はその謎を解いてゆく。非常に読み応えある、本格ミステリ。毎度ながら、恩田陸の器用さには舌を巻く。『象と耳鳴り』のときにも驚嘆したが、彼女はまぎれもなく、実に希有な本格ミステリ作家のひとりだと思う。さくさく読めるけど、ずしんと重みがある、読みでのある一冊だった。こういうの、また書いてね、恩田さん。

『クール・キャンデー』 若竹七海/祥伝社文庫

 例の400円文庫の一冊。軽くてそこそこ面白いミステリを読みたい方には最適。ただあまりに軽くて、たくさん本を読みなれてる方には短編一本くらいにしか感じられないかも。一応、中編ですが。中学生の元気な女の子が主人公の、ひと夏の事件。古本屋でバイト、というのがうらやましい(笑)。ポップな語り口だが、ブラックでシニカルなオチがいい。甘くないのよ。あくまで苦い、ブラックコーヒー。みすこんの時、若竹七海は後味が悪い、と評されていた気がするが、私はそういう気は不思議としない。なぜだろう。あまりにあっさり書いてるからかなあ。むしろこの毒を小気味良いとさえ思う。

『花迷宮』 日文文庫

 女性ミステリ作家10人のアンソロジー。いやあ、大物ぞろいなだけあって、どれも読み応えあり。ワタクシ的には、若竹七海「タッチアウト」がダントツよかったです。ラストの部分、「えっ?」と何度も読み返してしまいました。これって、つまりそういうことと解釈していいのかなあ?私は彼女の、この突き放したようなクールさがとても好き。このアンソロジー、女性らしいどろどろな話(三角関係とか)が割と多くていささか辟易したところもあるのだが、彼女のは一番シャープでカッコよかった。あとは、恩田陸の「曜変天目の夜」、今邑彩の「あの子はだあれ」あたりが好み。後者は、ファンタジーっぽいお話。この世界の隣に、もうひとつのパラレルワールドがいくつも存在する。私もよく考えます、こういうこと。

『占い師はお昼寝中』 倉知淳/創元推理文庫

 超オススメ!笑えるほのぼのミステリ。倉知さんの温かみのあるユーモアセンスが私は大好きだ。この一見とぼけているが、実は鋭い観察眼を持っている叔父様、サイコーである。猫丸先輩のなれの果て?(笑)

『ALONE TOGETHER』 本多孝好/双葉社

 なんともいえない不思議な感触。ジャンルはどこになるんだ?ミステリといえるか微妙なところ。人間の心の深淵に迫る一冊。こっち路線に行ったのか、本多さん。このまま行くと村上春樹になりそう。ただ、春樹と決定的に違うところがある。春樹は人間は徹底的に孤独な生きものだとして救いのないまま話を終えるが、彼は人間に対してほのかな希望を持っていることだ。ラストはすごくよかった。彼は人間不信かと思えるほど人間というものに対して辛辣なことを書いてるけど、それでも人間のそういう孤独や暗い面を分かっていて、あえてひとりじゃなくてふたりでやっていきたい、という締めくくりには感動。そう、彼は単にミステリを書きたいんではなく、人間の心の奥の奥、心の細かなひだを追求して書いていきたいんだな、きっと。オススメです。

『ミシン』 嶽本野ばら/小学館

 ううん、何かを思い出させるような、全く新しいようなフシギな味わいの本。異様にお洋服ブランド信仰なところが今っぽい。なのに、どっか基本的なところがノスタルジックで純文学的。バリバリ少女趣味。耽美的で、やや退廃的。少女漫画に近いのかな。傑作!読んで!っていう本というよりは、「新製品のお菓子だからちょっと食べてみてよこれ!どう思う?」とみなに聞いて回りたいような一冊。住宅街にぽつんと建ってるケーキ通には知られたお店の、小さくて綺麗な極上のプチフールみたい。うっとりする甘さ。でも隠し味のお酒がきいてる。好き嫌いはあると思うけど、私はけっこうツボ。中原淳一、と聞いてピンと来る方は必読。

『ピポ王子』 ピエール・グリパリ/ハヤカワ文庫

 1980年初版なので、もう絶版の本。子どもの頃に読んだ童話みたいな一冊。昔々のおとぎ話。実にいいねえ!こういうのが私の原点なのだよ。王さまに王子に魔法に魔女に小人、というお決まりの人物や、同じセンテンスのくどいほどの繰り返しなどの語り口や、話がすとんと落ちるところに落ちて幕引きとか、もう実に懐かしい味。子供の頃食べたお菓子みたい。同じ著者の『木曜日はあそびの日』も読みたいな。もう絶版だろうなあ。

『泣かない子供』 江國香織/角川文庫

 彼女の小説も好きだが、エッセイもまた非常に好き。8年ほどのあいだにつれづれに書いた、恋愛のこと、家族のこと、読書日記などが収められている。彼女の細やかで温かな心がよくわかるエッセイである。なんというか、実に心地よい本なのだ。

 おそらく、私は彼女とは全く性格が違うと思う。なのに、なぜだか彼女の言うことには、いちいちとても共感を覚える。読みながら、激しくうなずいたりしてしまうところが幾つもあるのだ。家族への愛憎、本への思い、何気ない日常の心象風景。それは、彼女が人生の真実を書いているからだろうか。誰でもが、こういう気持ちを感じているということなんだろうか。

 あとがきで俵万智も書いているが、「ラルフへ」というエッセイは、切なく胸を打つ傑作。これを読むだけでも、この本を買う価値があるといっても過言ではない。今まで読んだ恋愛エッセイの中でもベスト5に入るであろう。

☆『バリ&モルジブ旅行記』 銀色夏生/角川文庫

 彼女の日記エッセイ「つれづれノート」の番外編とでもいった本。ダンナと赤ちゃんと3人で旅行した記録。彼女自身の撮った写真満載で、これを見ているだけでも気持ちがいい。特に斬新なことが書いてあるわけでもなく、彼女の目から見たままの、本当になんてことない旅行記である。が、だからこそ、肩肘張らないゆったりした気分がそのまま伝わってきて、のんびりとしたリゾート気分にひたれる。バリ島行きたいな〜。

『プレゼント』 若竹七海/中公文庫

 「MYSCON」で紹介されて、「読もう!」と思ってた一冊。なんとなく表紙の雰囲気から、もっと柔らかい感じの話かと想像してたのだが、意外にハードボイルドタッチのミステリ。葉村晶というフリーターの女性と、ちょっと間抜けな感じの小林警部補のふたりが、交互に探偵役をつとめるという短編集。晶がクールで辛辣で、なかなかカッコいい。見た目が、というのではなく、生き方や考え方がどこか冷めててカッコいいのだ。ワタクシ、好みのタイプだわ。
 主人公に限らず、非常に人間がよく描けてるミステリだと思う。犯人の感情、動機がすんなり納得できる。ひっかかりを感じない。ごくごく普通の人々の心に棲む暗い殺意を、乾いたタッチでさらっと書いている。新本格にありがちな変に凝った書き方でなく、正面からスタンダードに書いてる感触に好感が持てる。読みやすく、質の良い正統派ミステリ。オススメ。

『SFバカ本 彗星パニック』 岬兄悟・大原まり子編/廣済堂文庫

 まさしくタイトルのごとく、おバカなSFが満載のショートショート集。あとがきにある「シュールでサイケでアバンギャルドでやけっぱちな小説」という言葉がぴったり。なんといいますか、ヘナヘナと膝の力が抜けるような話ばかり。好みはひとそれぞれだと思いますが、ワタクシ的には「電撃海女ゴーゴー作戦」牧野修が一番インパクトがありました。すっごいですよ。脳みそシェイクされる感じでした。これを読むだけでも、この本を買う価値あり。あとは「月下の決闘」梶尾真治(おバカ〜。文句なく笑える!)、「つるかめ算の逆襲」東野司(これもオカシイ!)あたりがワタクシ的ツボ。

『嘘をもうひとつだけ』 東野圭吾/講談社

 5つの話が入った短編集。事件が起こった、さて犯人は誰だ?という普通のミステリとはちょっと異なった趣。なぜなら、犯人は最初から読者に提示されているのだ。彼らは、加賀刑事の調べをなんとかくぐりぬけようとするが、じわりじわりと嘘のベールは剥されてゆく…。この犯人の心の葛藤が、このミステリの読みどころ。人間の心の暗さを描く、なんとも苦い味のミステリである。

『封印再度』 森博嗣/講談社文庫

 犀川・萌絵コンビシリーズ第5弾。今さら私が乱読を書くまでもない有名作品なので、ホントに私の感想だけ書きます。いやー、もう、正直言って、密室殺人なんてどうでもいいっす!(爆)もうね、主人公2人がどうなるか!これが最大のミステリですよ、このシリーズにおいては!また読者に気を持たせる書き方をするんだよねー、森さんたら!!ああもうニクイなあ!そう、このシリーズはもしかすると、密室殺人というミステリと、このカップルの行方というふたつのミステリの二重奏なのではないでしょうか?え?今ごろ気がついたのかって?

 「壷の中の鍵が取れない」というこのトリックは、ゼッタイ「そりゃないよ〜!」的なものかと思ったが、案外素直に納得できるもので驚き。またしても騙されましたわ、私。

『仮面物語』 山尾悠子/徳間書店 

 感触としては、「ゲド戦記」っぽい、かな。深い霧に沈んだ妖しげな街での出来事。ストーリーを楽しむというよりは,現実を忘れてこの世界にどっぷり浸るというやり方がこの本の読み方かもしれない。想像力だけで全く違う異世界を作り上げてしまう「人間」という存在と、この「本」という果てしない魔力を秘めた存在に、改めて驚愕せずにはいられない。ひとたびこの本の扉を開けば、あなたはもうこの本の世界の住人である。

『いさましいちびのトースター火星へ行く』トーマス・M・ディッシュ/ハヤカワ文庫SF

 前作『いさましいちびのトースター』は、まさにほのぼの童話だったのだが、こちらはほのぼのSFである!断言!だってね、電気器具たちが火星に行っちゃうんだよ!ってそれじゃ題名そのまんまだあ!(笑)でもホントに、前作に比べてこちらは立派にSFしてます。けっこうスケールのでかい話です。トースターの家のラジオが、火星からの不思議なアナウンスを受信する。その「人間にかわって電気器具が地球を支配してやる!」という不穏なメッセージに仰天したトースターたちは、火星に向かって飛び立つのだが…という冒険ストーリー。でもやっぱりラストはハッピーエンドで、ほのぼのと心暖まる話でした。これを読むと、家にある電気器具がちょっぴりかわいく見えるかも?


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