『虹の天象儀』☆☆☆1/2 瀬名秀明(祥伝社文庫、01.10月刊)

 冒頭、いきなりツボ。こ、これは!今年の3月12日ついに閉館した、あの渋谷の五島プラネタリウムではないか!(涙)まさに五島プラネタリウムへのオマージュ。と同時に、タイムトラベルSFでもあり、著者の星空への思い、プラネタリウムへの愛が語られるという、私の大好きなものを全部並べて差し出されたような話である。

 物語は、閉館当日の五島プラネタリウムの場面から始まる。主人公は、プラネタリウムの解説者である(ちなみにこれ、私の憧れの職業でありました。小6の卒業文集の「将来なりたいもの」の寄せ書きにこう書いた記憶があります)。閉館の翌日、片づけをしていた彼のもとに、謎の少年が現われる。少年にプラネタリウムの機械を説明するうちに…。

 枚数が少なかったせいもあると思うが、ちょっとこの中盤の展開に、やや難があるかも。もう少し読者がするりと納得するように書けば、絶品の大傑作になったと思う。ネタは本当に素晴らしいのだから。未来のプラネタリウムがタイムマシンとは、なんとロマンティックな!

 ラストの纏め方は綺麗。ああ、私の一番見たい夜空も、まさに今のこの空ですよ、瀬名さん。

 この小説の残す余韻や味わいは、本当にいい。心の中に、満天の星が広がるような、そんな美しさがある。タイムトラベルSF特有の切なさや愛しさも申し分ない。素敵な物語。

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『CANDY』☆☆☆1/2 鯨統一郎(祥伝社文庫、01.10月刊)

 わははは。やってくれるなあ、鯨さん!いやもうサイコーのお馬鹿SFですよ!!>もちろんホメ言葉

 「目覚めたとき、元の世界にいるとは限らない。」「あなた」は、記憶を失い、どうやら元の世界とは違う世界に迷い込んでしまったようだ。しかも、今までと似てるようで似ても似つかない、ヘンテコリンな世界に!さらには、追われる身であるらしい…。

 もう、ここからはノンストップハチャメチャアドベンチャー。そこここに駄洒落がしかけてあり、それがおかしいのなんの。そこらじゅうに、ギャグの地雷が!ああ、また踏んだ!

 駄洒落SF作家といえばまず田中啓文が浮かんでしまう私だが、あの彼にまさるとも劣らないすごさ。ただ、鯨氏はこう、ちょっと懐かしネタっぽい、一部のわかる人間には大ウケ、みたいな急所を突いてくるんだよなあ(彼は本当に私より年下なのか?)。そ、それを出しますか!というネタを(笑)。

 でも、確かにこういう夢って見るよね。いや、ここまでハチャメチャじゃないけどさ。ねえ、あなたが昨夜みた夢、あれは本当に夢だったのかな?それとも、実は違う世界に行ってたんじゃない…?(笑)ほら、こんなふうに、さ。

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『アイ・アム』☆☆☆☆ 菅浩江 (祥伝社文庫、01.10月刊)

 うまい。菅浩江って、やっぱりうまい。や、もちろん「何をいまさら」と失笑を買うのは承知のうえだ。が、長篇なら長篇を、中篇なら中篇をきっちり書ける作家というのは、実は案外少ないのではないかと私はひそかに思っている。そして、菅浩江はまぎれもなくその少ない作家のひとりだと思うのだ。

 ホスピス病院で目覚めた「私」は、自分がロボットの体をしていることに気づく。「ミキ」と名づけれらた彼女は、介護ロボット。しかも、ドラム缶に人間の頭と腕と車がついてるという、かなり奇異な姿のロボットだ。ロボットゆえの患者との確執、悩み、そして何より「私は本当にロボットなの?それとも?」という悩み…。

 彼女の複雑に揺れ動く心が繊細に書かれており、読者の胸に切ない痛みと激しい共感を呼ぶ。彼女は、まさに生と死に毎日正面から向かい合い、そのはざまのきわどい瞬間に立ち会っているのだ。私たちが日常、なんとはなしに隠蔽している、だが逃れようのない「死」に、彼女はいつも立ち向かい、その都度患者に答えを出してあげなければいけないのだ。その苦しみ、つらさは、いかほどであろう。しかも自分はロボットなんだか人間なんだかわからない、中途半端な存在であるということが、さらにその苦しみを込み入ったものにしてしまう。患者たちの気持ち、介護する人々の気持ちもわかるだけに、読者はなおさら痛い。

 このロボットのこと、痴呆老人などのことも含め、本書のテーマは、実は「人間とは何か」という非常に重い問いかけだ。そして、著者の出した答えは、やはり菅浩江ならではの胸にしみるような答えだった。涙の着地。温かな感動の1冊。

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『七回死んだ男』☆☆☆☆ 西澤保彦 (講談社文庫、98.10月刊)

 注:ネタバレのため、一部文字色を変えてあります。ドラッグしてお読みください。

 西澤保彦の代表作として、誉れ高い作品。を今ごろ読んでいる(恥)。あまりに有名なので、話の筋もだいたい知っていた。が、それでもやっぱり驚いてしまった。いやあ、そうくるとは!

 「反復落とし穴」という、自分ひとりだけ同じ日を9回も繰り返してしまう、実にユニークな体質を持つ高校生、キュータロー(久太郎)が主人公。当然、この設定はSFである。その設定をお約束として、このミステリは幕を開ける。遺産がらみの複雑な事情を持つ親戚どうしが集まり、元旦に恒例の宴会を祖父宅で催した翌日の1月2日。目覚めたキュータローは、その日が「反復落とし穴」の2周目だということに気づく。が、その2周目で、なんと祖父が死んでしまうのだ。1周目では死ななかったのに。なぜ?殺したのは誰?

 キュータローは、なんとかして祖父の死を阻止しようと、あの手この手を試す。猶予はあと7日。が、なぜかいつも失敗し、祖父は死んでしまう。その艱難辛苦の過程が繰り広げられるわけだが、これがめっぽう面白い。主人公の考えに考えた策略ぶり、なのにそれが必ず裏目にでるおかしさ。ユーモアたっぷりの書きっぷりがまた笑える。しょっぱなから「トレーナーにちゃんちゃんこ」だしねえ(笑)。

 で、私はキュータローが最後には無事祖父の死を防ぎ、めでたしめでたしで終わりになるんだと思っていたのだ。が!まだ先があったのだ!!このラストの仕掛けには呆然。まさに天地がひっくり返るような驚き。ここで、いきなり驚愕のミステリに変貌するのだ。すごい、すごい。こうくるとは思わなかった!

 確かに普通のミステリとちょっと異なり、この物語の謎を解くことは、著者にしかできないかもしれない。でも、このトリックを考え出したというだけで、この作品は実に稀有でユニークなミステリの傑作といえるであろう。設定も無理なくスムーズに理解でき、読者に違和感を抱かせないところも見事。世評通りの快作であった。

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『マイナス・ゼロ』☆☆☆☆1/2 広瀬正 (集英社文庫、82.2月刊)

 おお、日本にもこういうSF作家がいたのか!まさに和製ジャック・フィニィ。ノスタルジックで、しみじみとあったかで、かつ飄々としたユーモアがあり、何より先が気になって気になってぐいぐい読んでしまう、タイムトラベルSF。広瀬正はそんな素敵な物語を残してくれた作家だったのだ。

 あとがきに昭和45年とあるから、かなり昔の本である。が、これが今読むとほどよく寝かされた洋酒のような、絶妙の味わいをかもし出している。こう、文章全体のテンポがゆったりのんびりとしているのだ。その時代のテンポ。それでいて古めかしさではなく、むしろたまらない懐かしさを覚えてしまうのはなぜだろう?しかも、自分で経験したわけでもない、もっと昔の戦前の銀座が描かれているのに、だ。

 物語は、第2次世界大戦の真っ只中、昭和20年の5月26日に始まる。中学2年の俊夫は、その晩の空襲で亡くなった隣家の先生から、とある遺言を頼まれる。それは、18年後に自分の研究室に必ず来てくれという不思議なものだった…。 

 そこから彼の奇想天外な大冒険が始まる。次から次へと読者の予想を裏切る、驚きの連続。まさに時空を駆ける人生。しかも、その物語の組み立て方が実に素晴らしい。うーん、まいった、とうなるほどの見事な出来。日本SFの、タイムトラベル小説の最高峰というのもうなずける。ここがこうだからこうなって、という時間のパズル組みを、広瀬正氏はすごく楽しんで作ったんだろうな、というのが想像できる。その楽しさが、読んでいるこちらにも伝わってくる。最後のピースがはまった時の感動!

 そして、彼の描く人間たちの温かさ。古きよき時代の人々と主人公の、人情味あふれる交流が実にいい。著者の、人間を見つめるまなざしはとても優しく、品がいい。現代の私たちがなくしかけてるものが、ここにはある。

 あったかな読後感の、とても不思議でハッピーなタイムトラベルSF。噂に違わぬ大傑作。この本がまだちゃんと現役で、書店で買えるということに心から感謝。

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『かりそめエマノン』☆☆☆1/2 梶尾真治 (徳間デュアル文庫、01.10月刊)

 地球に生命が誕生して以来の全ての記憶を持ち、旅を続ける少女、エマノン。待望のエマノンシリーズ、書き下ろし中篇作品。番外編といってもいいかもしれない。

 何億世代も生まれ継ぎながら、一世代一人ずつの存在だったのに、なんと今回の生に限って、あのエマノンに小さい頃に生き別れた双子の兄がいたという。というだけで、おそらく彼も並みの人間とは違うであろうということは、想像に難くない。果してそのとおり、彼も生まれながらに、想像を絶する過酷な運命を背負ってしまったのだった。これは、その兄、拓麻の物語である。

 自分の出生に疑問を抱きつづけるゆえに、自分の異常な記憶力や能力をもてあますゆえに、地に足を着けて生きられない拓麻の苦しみが痛い。そして、ある日ついにエマノンに再会するが、彼の人生の軌道はますます狂っていく…。

 やがて、彼は自分の生の本当の意味に気づく。そう、彼の人生は結局「かりそめ」だったのかもしれない。だが、それでもそこには大いなる存在理由があったのだ。地球を救うほどの大きな意味が。それに気づいたとき、やっと彼の足は地に着くことができたのだ。

 とてもつらい話だが、だからこそのラストが染みわたる。

 (蛇足だが、この文庫の冒頭4ページの鶴田謙二のマンガは素晴らしい!ぜひ続きを、コミック版エマノンを書いて下さい、鶴田さん!)

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 おまけ:『おもいでエマノン』(徳間デュアル文庫)のラストについている、「あしびきデイドリーム」も今更ながら読了。これは2001年の星雲賞日本短篇部門を受賞した作品。時空を越えた切なくピュアな愛、幸福な結末。まさにカジシンならではの珠玉の作品。傑作。

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『ささら さや』☆☆☆☆1/2 加納朋子 (幻冬舎、01.10月刊)

 正直に申し上げよう。本書に☆4つ半をつけるのは、ほとんどえこひいきに近いかもしれない。とにかく、加納朋子版「ゴースト」という、この設定はもろにツボ。もう、思いっきり心のアキレス腱直撃。泣けて泣けて…。いや、著者は決してウエットに書いてるわけじゃなく、むしろあまり重たくならないよう、軽めにジョークを交えつつ書いている。でも、でも私はこのテの話にはめっぽう弱いのだ。

 妻と生まれたばかりの赤ちゃんを残して、夫が突然の事故で亡くなる。でも彼は妻のサヤがあまりに心配で、サヤに何かトラブルがあった時に、彼女の周りの人間に憑依して姿を現す。彼のつらさ、悔しさはいかほどか。サヤの悲しさ、寂しさ、心細さはいかほどか。それを思うだけでもう…。そしてまた、この著者のみずみずしく柔らかな文章がとてもいい。

 ミステリとしても、やっぱり日常の謎路線。何も入ってない宅配便の意味は?とか、隣宅のいつもぼうっと玄関の外を見ているおばあさんはいったい?といった謎。そして、赤ちゃんにしのびよる影…。

 何よりサヤの無垢な優しさと、だんだんと仲良くなっていく彼女の周囲の人々の、ぶっきらぼうな温かさが心にしみる。彼らに支えられて、徐々に強くなっていくサヤ。そして夫との永遠の別れ。心あたたまる、でもとてもとても切なく愛しい物語。

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『赤ちゃんをさがせ』☆☆☆1/2 青井夏海 (東京創元社、01.10月刊)

 『スタジアム 虹の事件簿』(創元推理文庫)の著者、第2作目。今回は、助産婦さんが安楽椅子探偵役という、またまたユニークな異色ミステリ。いやあ、ミステリ作家も手を変え品を変え、あれこれ趣向を凝らすのに大変だが、まさか助産婦さんとは。そしてやっぱり、赤ちゃんや妊婦さんが絡むだけあって、どことなくほんわかした、いい感じのミステリに仕上がっているのだ。

 3つの連作中篇が収められている。「お母さんをさがせ」、「お父さんをさがせ」、「赤ちゃんをさがせ」。なんていうと、母親失踪とか父親失踪みたいに思われるだろうが、著者は予想を裏切り、ひとひねりした展開を見せる。詳しくは書かないが、要するに人間という、一筋縄でいかない、やっかいな感情を持った生き物たちのちょっとしたトラブルといおうか。それを解決するために明るく元気な助産婦見習の女の子である主人公が奔走し、最後には水戸黄門のごとく、助産婦の大先輩が鮮やかにさらりと謎を解く、といった寸法である。

 人生の達人にかかれば、どんな謎もお見通し。それはごく普通の人間の気持ちの裏返しだから。愚かでお間抜けで、ずるくてみっともなくて照れ屋で考えなしで、でもなんだか憎めなくて、温かくて。そんな愛すべき人間の気持ちが謎にうまく反映しているミステリ。キャラの造形も、好感が持てる。読後感があったか&爽やか。

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『クラゲの海に浮かぶ舟』☆☆☆☆☆ 北野勇作 (徳間デュアル文庫、01.9月刊)

 皆に絶賛される『かめくん』を読み、『昔、火星のあった場所』を読んでも、どうもイマイチぴんと来なかった北野勇作。『火星〜』などは、あまりの難解さに、乱読さえ書けずにさじを投げる始末。が、本書によって、彼に対する私の見解は見事にくつがえった。そうか、そういうことだったのね、やっとわかったよ!これは、まれにみる、いや、おそらく彼だけにしか書けない、ものすごい傑作だ。この言い方に多少の語弊はあろうが、思い切って言い切ってしまおう。彼は「天才」だ。

 本書の小説技法、世界構築方法とは何か。なんだかわけわからん小説では断じてない。実は、まさに小説そのものが「ジグゾーパズル」なのだ。読者はう〜むと頭を抱えつつ悩みつつ、そのばらばらなピースをひとつひとつ、くっつけていく。すると最後に、あっと驚く異世界地図が完成するという仕組みなのだ。この知的興奮ときたら!全編「?」だらけなのだが、まず謎があって、それを解いていく、というミステリなんかとはまた全然違う。バラバラなものを組み立てて、ひとつの異世界地図を作り上げていくわけだ、読者自身が。しかも、その中に美しさと悲しさと、そして何よりもどこかノスタルジックな切なさがある。

 とにかくこんな小説を読んだのは生まれて初めて。全くオリジナルな小説の形。確かに、世界中のひとから認められる作品ではないかもしれない。正直言って、小説としてわかりにくいのは否めない。一度読んだだけではわからないし。でも、これを読んでいて「はっ!もしや…!!」と、そのパズル完成間近に浮かび上がってくる、異世界地図が見えてきたときの震えがくるような感動!この難解さだからこそ、の感動なのだ。著者は全て計算しつくした、確信犯なのだ。

 ごく一部の人しか理解できない小説かもしれないが、それでも世界中で私だけは、彼をすごいと思う。いや、もちろん、そう思うのは決して私だけではないはずだ。

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『ゲッベルスの贈り物』☆☆☆1/2 藤岡真 (創元推理文庫、01.8月刊)

 突然だが、よく「ルパン3世」なんかに出てくる、一見なんの仕掛けもなさそうな部屋だが、赤外線スコープをかけるとびっしりと隙間もないほど赤外線センサーが張りめぐらしてある、といった状況をご想像いただきたい。本書はまさにこの部屋みたいなものである。とにかく見えない罠だらけ(笑)。

 巧妙に伏線を張りめぐらし、隙あらば読者を引っ掛けようとする、この徹底した著者の策謀にはただただ敬服である。著者はおそらく読者側の、ミステリに“してやられた!”という悔しさと同時に沸き起こるなんとも言えぬ爽快感をよくご存知で、もうただひたすらにそれだけのために、こういう話を書いたのではなかろうか。徹底したサービス精神。それが、あますところなく全編に行き渡っている。しかも、これだけの罠を張りながらも、破綻することなく、実にうまく話が組み立てられ、ひとつにまとめられている。

 そらもう、私なんて引っかかりまくりですがな(笑)。「あ、ここトラップだな。ふん、見えてるもんね〜」とよけつつ、そこに気を取られてしっかり他の罠に引っかかってるという(笑)。いやはや、実に楽しくだまされました。仰天&爆笑。まさに怪作。

 (蛇足だが、これを読んで連想したマンガは「スケバン刑事」(笑)。信楽老!)←ネタバレのため、文字色を変えてあります

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『泣く大人』☆☆☆☆ 江國香織(世界文化社、01.7月刊)

 以前出したエッセイは『泣かない子供』だった。そして、今回のタイトルは『泣く大人』。彼女は、「泣く大人」になったと自ら語っている。泣くことができる大人になれてうれしい、とも。そう、たぶん彼女は泣きたいときも笑いたいときも、いつでも自分の気持ちに正直に生きているんだと思う。そんな彼女の日々の生活や、ちょっと昔の留学時代の話、男友達について、読書ノートなどがつづられている。

 どこを切っても、すべて江國さんらしいエッセイだ。彼女は、小説とエッセイとのギャップがあまりない作家だと思う。彼女は、自分にとって何が幸福で何がそうでないかをよく把握している。というか、その選別に対して実に真摯だ。そして、好きなものにはとことん愛を語ってくれる。レーズンバターでも、ハンカチでも、男性でも、本でも。彼女の、好きなものについて語っている文章がとても好きだ。こちらにまで幸せな気持ちが伝染するから。しかも、そこここに彼女らしいセンスのよさが光る。なんとも心地よいエッセイ。

 そして、その幸福な文章の奥底にある、かすかな切なさが、何より私を江國香織から惹きつけて離さないのである。

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