SFセミナー2001(本会編)

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 2001年5月3日(木)、全電通労働会館ホールにて、SFセミナーの本会が開催されました。天気悪し。めっちゃ寒いし(これで5月か!冬みたいだよ!)、雨もぱらぱら。

 またしてもださこんな人たちと11時に駅で待ち合わせ。あれよあれよという間にすごい大人数になる(笑)。みんなでお昼を食べてから、12時すぎに会場到着。受付後、ブースにて『占星師アフサンの遠見鏡』(ソウヤー、ハヤカワ文庫SF)サイン本ゲット〜!


企画1「レキオス、翔ぶ 池上永一インタビュー」
企画2「アンソロジーの新世紀」
企画4「『SF』とのファースト・コンタクト 瀬名秀明、SFに対するアンビバレントな思いを語る」


 13:00スタート。オープニングは冬樹蛉さんの超かっこいいナレーションから始まる(笑)。司会は去年と同じく、尾山則子さんと風野満美さん。

 13:10〜14:15、「レキオス、翔ぶ 池上永一インタビュー」。聞き手は鈴木力さん。池上さんは、とてもお若い印象を受けました。70年生まれだそう。

鈴木「SFファンから高い評価を得ている『レキオス』ですが、あれは他の作品『バガージマヌパナス』や『風車祭』などと比べて異色かな、という印象を受けるのですが、どこから着想を得たのですか?」

池上「いつも何も考えてないんですけどー、うん、今でもよくわからない(笑)!ま、ここはSFセミナーだから、でっちあげて、(シリアスな顔で)「SFの香りがした」(爆)。えっとね、天久から始まったんですよ、あそこなにもなかったしね。最初はね、これはミステリかも、「このミス」ランクイン1位かも!!とか思ってたんですけど、書いてるうちに、これダメかも、と思って(笑)。失敗するかも、だってオレミリタリーのこと知らんもん。ただねえ、指だけが「おいっちに、おいっちに」ってカンジで書いてるの。僕はなにも考えてないから(笑)。だんだんサスペンス風になってきて、なんかドキドキしてきちゃって、「オレ、いけてるかも!」とか思ってたんだけど、サマンサが出てきて全てをあきらめざるを得なかった(笑)。とほほー、自分にガックリ、って」

鈴木「頭から書き始めたんですか?」

池上「そう、途中から「押せ押せイケイケ、やったるでー!」みたいになっちゃって、「直木賞さようなら」と思った(笑)」

鈴木「執筆には何ヶ月くらいかかったんですか?」

池上「4月半ばから書き始めて、お盆くらいに終った。もう疲れてて、リンパ腺はれちゃってさあ、もうアンパンマンみたいなのよ。でも、原稿上がったってお祝いだって、今しかできないからってホテルオータニでシャンパン飲んだんだけど、これがもっと顔が腫れちゃって!(笑)」

鈴木「執筆にムリしたんですか?」

池上「ムリしましたよ〜!!書いては吐き、書いては吐き、もうね、あの風呂場にいるマーライオンのようにぴゅーって吐いちゃうんですよ!とにかく話の収集をつけないと、ってストレスでね。でも自分では解決できないから、「ミギー、オネガイね!」って(笑)。もうストレスで、ぺたんこになりそうだった。終ったときは、「あー眠れるなー」って。あれね、500枚削ってんの。2段組になりそうになっちゃってね、でもビジュアル的にやだったの、ほら、見てもらえばわかるけど、オレ、ビジュアルにこだわってるから(マジな顔)。河村隆一みたいでしょ?(笑)でね、500枚削ったとき、たくさんの人とお別れしたの。ろみひーがあれでも普通になった。始め、空飛んでたもん、ろみひー(笑)。ドラえもんみたいに頭にアンテナついててね、それがぐるぐるまわって空飛んで、口で「バラバラバラバラ」っていってんのよ、でそれやめるとひゅーっって落っこちちゃうの。で、落ちてバラバラになったろみひーをサマンサが復旧するという(笑)。あと、ガンタンク(これ、正しくはゲッター3だそうです>鈴木力さん、ありがとう)みたいに足にキャタピラついてたり。でも、編集者が「これはヘン!いいかげんにしてくれ〜」って泣くからやめたの」

鈴木「そりゃそうですよね」(場内爆笑)

池上「女子高生がロボトミーになるだけでもインパクトあるのに、ついていけないって言われて。で、「驚いた?驚いた?」って聞いたら「死ぬほど」って言われて、よしっ!と。(会場に向かって)読みたい人!!(会場、いっせいに手があがる)ネットに流します(会場笑)」

鈴木「ろみひーだけで500枚削ったんですか?」

池上「いや、まゆみとかも削ったよ。サマンサのとこで、ロボットに変わっちゃうの。でもバカでしょ、より悲惨になっちゃって。容量、2MBしかないのよ(笑)。ここも編集に「削りなさい!」って言われた。サマンサはもっと飛ばしてた!もうついていけないくらいに。例えば、コニーvsサマンサで対決亀甲縛りのシーンがあるでしょ。あそこで負けた方が○○の儀式をやるの。それを克明に描写してあったのね。でもあちこちから「やめてー」って言われて、亀甲縛りにしたの。このシーンはキツかったなー。(会場に向かって)読みたい人!!(会場、パラパラと手があがる)ネットに流します」

鈴木「デニスの話とかが出てこないですね」

池上「僕ね、脇役に目移りしちゃうんですよ。やっぱ、サマンサのインパクトの前にはねー」

鈴木「完全に主役を食っちゃってますよね」

池上「まともなのはデニスだけ(笑)。彼女だけが正気の座標軸にいるのね」

鈴木「たいてい、脇役が主役を食っちゃう役ですよね」

池上「そう、『風車祭』でもそう。主役はね、作者と一緒に歩んでるからマジメなの!脇役はさ、めちゃくちゃやったっていいじゃん!脇役がはじけてても、主人公で抑えてるってカンジで」

鈴木「そういうカンジはしないですけど。かえって暴走してる(笑)」

池上「脇役って書いててうれしいの。出てくると拍手しちゃう!サマンサがコスプレ始めた時はどうしようかと思ったね。こういう趣味が自分にあると思われたらって」

鈴木「確か40種くらい?」

池上「そう、スチュワーデスとか看護婦とかやってたら、だんだん選択肢がなくなっていってね。そこで本屋に行って、『世界の衣装をたずねて』っていう本を買ってきたら、途中から突然バリエーションが豊富になった(笑)。なんかミョーに衣装がゴージャスになってきちゃって(笑)」

鈴木「読んでてわかったりして。あ、ここで新しい資料買ったなー、って(笑)」

池上「オレね、プロット作るってのができなくて。アメリカでね、プロットノートってのが売ってたの。もうドラえもんの道具を手に入れたような気持ちでね。よし!これがあればオレも!と思ったんだけど、書いてるうちに「あれ?全然わかんない?」って(笑)。もう最後の方ね、連句になってんの。五七五(笑)。やっぱ、プロット難しいなー、オレにはムリだなー」

鈴木「いきあたりばったりで書いてるんですか?」

池上「そう、オレ、手のほうが早いの。もう、はあはあしてんの(笑)。で、カラダ動かしてリズム取りながら書いてるから、もうスティービーワンダーみたいにこーんな左右に揺れて書いてんの(ここで実演、会場爆笑)」

鈴木「『レキオス』執筆中、あるCDを聞きながら書いてたそうで」

池上「そう、テーマソング。今からかけますので聞いてください、「アンドロメダの異星人」というタイトルです。(ここでむちゃくちゃヘンテコな曲が会場に流れる、会場大爆笑)(聞きながら)「アタックbP」の影響受けてるでしょ。これね、先月から毎日有線にリクエストかけてるんだけど、全然ダメなの!!(会場爆笑)カラオケにもこの曲なかったですねえ。これをね、20回続けて聞くと思考が麻痺してくんの。その状態で書くわけ。1行先がわかるようなら、『レキオス』は書けないのね」

鈴木「トランス状態というか」

池上「そう!」

鈴木「これ書くとき、取材も色々したそうで」

池上「そう、これが語るも涙!「ラ・ペルラ」ってイタリアの下着ブランドがベルビー赤坂にあるんだけど、ここに正式に「取材です」って申し込んでいったのね、なのにさあー、店員がこうよ!(下から上までなめまわすように、うさんくさそうに鈴木氏を見る)「来るなヘンタイ!」ってカンジでさー。で、こういうのってやっぱ手に取らないとわかんないじゃん?だからショーケースから出して見せて、っていったら「何に使うんですか?」だと!試着したろかと思ったね。でもやっぱこの下着、高いだけあっていいのよ。ちょっと女性の気持ちがわかったね。オレもあれ以来手離せません(笑)。「ロッキードマーチン」も取材にいったんだけど、ここはアメリカだなーと思ったね。広報が企業の顔である、ってことをちゃんとわかっててね、最初に「簡単な英語でお願いします」って言っておくと、案内のお姉さんがちゃーんと簡単な英語で返してくれるの。わかんない言葉があると、辞書ひいて、簡単な言葉になるまで調べてくれたり。お世辞だとは思うけど、最後に「翻訳されたら読みたいわ」なんて言ってくれたりね!もう「ラ・ペルラ」あげようと思ったもん(笑)」

池上「あとろみひーの性能について取材しようと思って、○○局(すいませんうろ覚え)に調べにいったらここが冷たくて!ヨタ以上の単位について調べたかったんだけど、ここにはなくて。「じゃ、パリのメートル法学会に電話するから番号教えて、って言ったら、なんかこう「バカを輸出してはいけない!」ってカンジでせき止められちゃって。あったまきてさー、闘争心が別の方向向いちゃって。やっぱ官庁はバリアきついわ。最後に捨て台詞でさ、「キミはろみひーの性能を知らない」って言ってやったの。泡食ってました(笑)」

鈴木「アメリカ軍にも取材にいったそうで」

池上「それが、サミット前で、エアフォース1が降りてくるとかで、警戒が厳重で。ベースっていつもはわりとフレンドリーなのね。で、ここのお姉ちゃんが背が高くてカッコいいの!でもライフルをこう(空でなく、自分に向けて)構えてんの!!(笑)気分はホールドアップよ。で、「F15見たいな」「ダメ」「格納庫見たいな」「ダメ」って。仕方ないからベースのボーリング場でボーリングしてきた(笑)」

鈴木「コスプレも取材に行ったとか」

池上「行きましたよ、コスプレパブ!文春のおじさん連れて!おじさんにコスプレさせて!あ、でもサマンサの気持ちちょっとわかった。姫川亜弓が、あ、『ガラスの仮面』のね、紅天女の役やってて「(シリアスな表情で)つかんだ、この感覚」っていうシーンがあって、あんなカンジ(笑)」

鈴木「それでよけい暴走したと」

池上「そう、でももうあんなの書かないと思うけどね」

鈴木「キャラダインは、セヂと西洋魔術的世界をうまくミックスしてますよね」

池上「あー、あれは思いついた順にしか書いてないから。セヂを書こうと思って、「おもろさうし」とかいろいろ調べたんだけど、有効な論文がひとつもなくて。でもあのヘンタイロシアンルーレット対決があったでしょ、で、コニーが看板に向けてバーン!って撃つシーンがあって、あっこれ!って思ったのね。「つかんだ、セヂの感覚」って」

鈴木「書きながらどんどん話ができていくわけですか?」

池上「そう、もう自分の理解の範疇超えてるもん(笑)。書いてて、「へーへー、オレの右手って頭いいなー」って。セヂの情報はあるけど、こう肉体使ってセヂを現したかったのね。そこでバーン!があって、「これこれ!」って思ったわけ。西洋魔術はね、んー、国書刊行会とか調べてみるかと思って、で、わかったんだけど、魔術って言葉なんだ!って。気持ちがあって、言葉があって、それがぴたっと重なったときに何かが起こる。んー、わかんないね、次に何が書かれるのか(笑)」

鈴木「男性はわりとぶんぶん振り回されるキャラってことが多いですけど、キャラダインはわりと周囲を振り回すほうのキャラですね」

池上「彼はカッコよく書こう、というカンジだったのね。でもキャラダインが出てきて、直木賞あきらめた(笑)」

鈴木「あきらめてる段階が、読んでてわかります(笑)。あと、池上さんの小説には、年齢層が若いのかずっと年上か、しか出てこないことが多いですね」

池上「世代をどうこうしようってのはあまりないね。たまたま。『レキオス』は、野球のボールでいえば、時速165キロでバックネットに突き刺さる!みたいにしたかったの。ストライクは大幅に外れてるんだけどね(笑)。ストライクゾーンがたまたま狭いだけ、と(笑)」

鈴木「『風車祭』が芥川賞候補になって、ものが書きやすくなったとかいうことは?」

池上「もともと、およびでない作家だから。関係ないんじゃないですか。(会場に向けて)依頼に来てね(笑)」

鈴木「これから直木賞、なんてことは」

池上「ないっしょ!!とりあえず、編集が驚くようなのを書こうと。これも文春に週一回とかプリントアウトにいくわけよ、でも編集者が読みたそうに覗いてても、「まだだめ!」って見せないの(笑)。確信犯。とにかくこいつが驚いてくれれば満足!ろみひーが火吹いてたし(笑)。サマンサにおしおきされたら、口からボーッ!って。ほら、かわいいけどバカじゃない?(前の原稿では)彼女が犬になったりしたのよ。もう自分でバカウケ!笑いすぎてお腹痛くなっちゃって。ワープロ見るとろみひーが犬になってるでしょ。もうおっかしくってさ!!」

鈴木「小説家にとっても自分を発見する、みたいなことありますか?」

池上「あるよ!もちろんだよ!何書いてるかわかんないんだもん!!子育てみたいね。資料でエサあげて、毎日育てて。最後は寂しいから、お別れの時間をとるの」

鈴木「娘を嫁に出すような気持ち?」

池上「そう!「元気で皆にまわされておいで〜!」って!(笑)。ジャンルを意識して書いてはいなかったのね。自分ではファンタジーの一種だと思ってた。でも出してみたら、皆に「SF」と言われて、ちょっと安心したかな。何を書こうと思って書くわけじゃないのね、そこまで頭よくないからね。小説書くときって、こうパッとした日なのよ、日頃ごろごろしてて、それが「ああ、こういうところに住みたい」ってのに入っていくのね。小説書いてるときって、自分がこうカメラ抱えて物語の中に入ってるようなカンジなのね、で、隣でデニスが呼吸してるのがわかる、そんなカンジ。こないだ、天久に行ってきたの。小説の中で、ペンタグラムが書いてあったとこ。でもそこにはペンタグラムとか書いてないわけ。なんかこう、オレの書いた天久のほうがよっぽどホンモノっぽいよ」

鈴木「沖縄が小説の舞台になってますが、あれは自分の内面が反映してるんですか?」

池上「オレ住んでるのは八重山なのね。でも沖縄本島のお祭りにも参加するよ。本島には親戚がいっぱい住んでて、そっちに先祖のルーツがあるって意識はありますね。でも生活慣習は八重山なの。で、ルーツは沖縄。東京にいると、近代的な思考をするから、沖縄のものの考え方ってナンセンスに思えるのね。でも、沖縄にいると、東京の考え方ってなんかすごくバカらしい。それが中でぶつかり合ってるのが自分なのね。人間個人としては、オレはうまくいってないと思う。でも、小説家としては、面白いものが書けると思ってる。だから、よかった!(笑)」

鈴木「次回作はどんなものを?」

池上「『レキオス』みたいなのはもう書かない。押せ押せはつらかったし。あれ以上のスピードはもう書けない。オレは沖縄にいるからああいうのがかけるって思われがちだけど、東京にもどこかにファンタジーの入り口はあると思うのね。今、その入り口を見つけかねてる状態。沖縄って風土にはファンタジーがあるって思われてるけど、実際には現実しかないんだよね」

鈴木「1作書き終わると虚脱状態に?」

池上「もう何もしたくないね!!もう人間のクズ状態(笑)。オレね、原稿抱えてお散歩するよ、デニスが出るシーンだけとか、こう原稿持ってお散歩!犬といっしょよ。街中をね、話し掛けたりしながらいっしょに歩くのよ、楽しいよー。そんなにヘンなことじゃないよ」

鈴木「……まあ、特に迷惑かけてるわけじゃないし」(場内爆笑)

池上「取材したいところはちょくちょく探してて。パッとした気分になりたいかな、血中やる気モードふつふつと!ってカンジに」

鈴木「どういうところに取材に?」

池上「東京の下水道とか、暗渠になってる川。水道局にね、水道局の人と一緒に潜ったの。すごいよ〜!!段差あるし、臭いし、でもすごく面白い。何かに使いたいね」

鈴木「白いワニとかいました?(笑)」

池上「ワニはいないけどね、規則性があるのを発見したから。パターンがあるのよ。複雑だけど、すっごく複雑だけど、メチャクチャではないの」

鈴木「次の作品の頭に使うとか?」

池上「うーん、物語とうまく調和してれば使うけど、浮いちゃうときは使わない。物語といい密度の時は使えるけどね」

 ここで会場からの質疑応答。

質問者「セヂは、「スター・ウォーズ」のフォースと置き換えるとわかりやすいと思ったんですけど、映画の影響を受けたりはしてますか?」

池上「うーん、もっと漠としてて、たぶん生命力みたいな概念として捉えてるのね。それが物質から物質へ転移するの。フォースは個人のものじゃなかったですかね?あれは物質にも転移しました?万物にも?たとえばオレが今この机の上のエビアンからセヂをもらうとかね。セヂは人間と物質の間のグレイゾーンにあって、出たり入ったりしてるもの。難しいんですよ!」

(質問がとぎれたので)鈴木「そういえば、朝日新聞に載って反響のあったエッセイがありましたね」

池上「ざっと説明すると、近所のおばあちゃんのひとりが痴呆症でね、うろうろしてるの。で、こう片足抱えて座ってて、ずっと公園の木の下にいるのね。それを近所の主婦が「ブキミだから子供を遊ばせられない」っていって、オレとケンカになったのね。オレは、バアさんは汚いから公園に来るな、って意見にはすごく頭きたのよ。そしたら、抗議山ほど!(笑)大体フェミニズム系の人ね。主婦をバカにするな、ってのが多かったね。「子供はシンナーなんか吸いません」って、子供はシンナー吸うよ!!(会場爆笑)オレ、こいつらタダでおかないと思って、抗議した人全員にはがき書いてやったよ。ま、ケンカの相手を選べ、ってことだよね(笑)。意外だったのは、女の人からの支持も多かったこと。「バカな主婦をやっつけてくれ」って。でもほら、僕って穏健派だから(会場、笑)。朝日の人は、反響来て喜んでたよ。普通、反響なんてゼロなんだって。でもあんまり特定の著者を出しすぎるのはよくないとかで」

鈴木「そういえば文春の連載の延長が決まったそうで」

池上「うん、これの反響の手紙もいろいろだよね、即刻やめろってのもあるし(笑)」

鈴木「小説の反響は?」

池上「サマンサ向けのファンレターが多い!サマンサに人生相談を申し込むのが多いね(笑)。オレが代わりに返事書いたり。女の子のファンもけっこういるみたい」

鈴木「池上さんはやっぱりサマンサみたいな奔放な生き方に憧れてます?」

池上「うん、好き。サマンサに踏まれてみたい!(笑)」

鈴木「…マゾなんですか(会場、爆笑)」

池上「…かもしんないね。オレ、プライドの高い奴隷だから」

鈴木「ろみひーにもファンレターきました?」

池上「こなくてー。なんか、ぽうぽう売りの屋台ってどこですか?とか。そんなのねーよ!(笑)あの姉妹のファンの方もけっこういて。いると楽しいじゃない?あ、ぽうぽうってうまいっすよマジで!ドラ焼きの中が味噌になってるってカンジ。こういうふうにいろんなキャラクターが生まれてくるってのは、僕にとってよかったな。ホントはもっとストーリーテリングしていくことって、うまく書きたい。けど思うようにならないから、修行します!頑張ります!」

質問者「デニスはセヂを集められますよね?セヂを人に与えることってできますよね?」

池上「できます!人に分け与える、おすそわけみたいなことは、沖縄のおばあちゃんやってたね」

質問者「じゃあ、どうしてデニスはお父さんを助けられなかったんでしょう?」

池上「さあ、どうしてでしょうねえ?セヂってその人によって違うから。壺に、こうぺんぺん入れてコレクションしてたりとかね。何がその人の特性になるかはわかんないの。頭がよくなる人もいるし、武力になる人もいる。それ出てみないとわからない」

質問者(ヒラノさん)「『バガージマヌパナス』がコミックになりましたが、あれを見て私は「まんまやんけ!」と思ったんですが、作者の目から見てどう思いましたか?あれは「こう書いてくれ」みたいに池上さんが入れ知恵したのですか?」

池上「ズバリ、綾乃を書いてくれたと思っています。ただ、マンガではできないお約束みたいなことがやっぱりあって、回想シーンは1回だけって決まってるのね。あとは栗原さんが好きにやって、って言ったの。神罰だってわかればいいから、って」

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 …ああ、こんなレポで、会場を圧倒した彼のパワフルさを表現できてるでしょうか?この文章の10倍くらい、実物のしゃべりはインパクトがあって、とにかくものすごかったんですよ!!パワー炸裂!!写真を撮ろうとカメラを向けるとピースしてくれるし(笑)。聞き手もたじたじ(笑)。鈴木力さん、お疲れさまでした。非常に面白いインタビューでした。池上永一がこんな方だったとは…知りませんでしたよ!この方からあの『レキオス』が生まれた、というのは非常に納得できました。


14:25、「アンソロジーの新世紀」。パネリストは左から山岸真さん、中村融さん、河出書房新社の伊藤靖さん、東京創元社の小浜徹也さん(司会兼)。

小浜「まずは、僕以外の3人で昨年、bk1の大森望コラムですでに話をしているので、そちらとダブるところがあるかもしれませんが、ご容赦願います。2000年に、久しぶりに日本オリジナル編集の海外SFアンソロジーが立て続けに刊行されました。その裏話を少し伺おうと思います」

「まずは河出文庫の《20世紀SF》ですが、日本人が編んだ翻訳SFアンソロジーが立て続けに6冊も出るというのは、実に75年から77年に講談社文庫で出た福島正実編の《海外SF傑作選》全9冊(最後の1巻のみ伊藤典夫編)以来なんですね。単発でも、『影が行く』の前は96年の『この不思議な地球で』(巽孝之編、紀伊国屋書店)ですし、この河出SFの刊行はまさに注目に値するんです。ここ数年、扶桑社の文庫から『魔法の猫』とか、ハヤカワ文庫SFの『遥かなる地平』や文庫FTの『伝説は永遠に』(これは企画意図の非常にはっきりした、人気シリーズの番外篇を集めたという、シルヴァーバーグの面目躍如たるアンソロジーなんですが)なども出てますが、これはあくまで海外で編まれたアンソロジーをそのまま訳しただけでして。やはり日本人が編んだほうが、日本人のテイストにあったものが作られるのではないかと思うんですね」

「今は、70年代80年代から比べると、アンソロジーの作り手がひと世代もふた世代も若返った感じで、なんでも知ってる人が新たに出てきたという、といっても10年も前からいる人なんですけど(笑)」

「まずは読者としてアンソロジーに接していたときの話を順に伺おうと思います」

山岸「中学の時にSFを読み始めて、高校の頃から海外SFを読み始めました。その同じ年、1978年に「スター・ウォーズ」が日本公開されて、SFが出版ブームになります。おかげで海外SFの長篇は、当時絶版だったものも待ってると文庫本になる可能性はありましたが、昔のSFマガジンに載った短篇はいつ本になるかわからない。そういう短篇を名作だといろんな本とかに書いてあるので、すごく飢餓感がつのりましたね」

小浜「当時でもやっぱり探さないと読めなかったと?」

山岸「でも、うちの田舎にはいい古本屋がなかった。さっき話に出た講談社文庫の福島アンソロジーが、これは田舎の新刊本屋にも並んでて(ここでカバーを9冊全部くっつけたものをびろびろ〜と伸ばして会場に示す)、僕にとっては短篇の教科書でした。あと、さっきの話では抜けてたけど、日本人の編んだ翻訳SFアンソロジーが連続して出たものでは、80年代初期のコバルトの風見潤・安田均編のものとか、85年から87年にかけて新潮文庫で出た伊藤典夫・浅倉久志編の『スペースマン』、『スターシップ』、『タイムトラベラー』の3部作も重要ですね」

小浜「新潮文庫のは、学生の頃手伝ってるんだって?」

山岸「いや、宇宙SFの最近の未訳短篇にはこういうのがありますよって、出版社の担当編集だった大森さんにいっただけ」

小浜「自分で初めて編んだのは?」

山岸「SFマガジンに原稿書きはじめてしばらくして、特集組んでみないかといわれて。87年に。サイバーパンクが流行ってたので、それ以外をやろうと、現代ファンタジー特集と銘打って、当時未訳の3人を紹介した」

小浜「SFマガジンで特集組むのと、アンソロジーの作品選ぶのって違う?」

山岸「雑誌は未訳のものじゃないとだから、いつもえらい苦労する(笑)」

小浜「中村さんは?」

中村「一番最初に読んだのはSFアンソロジーで、『世界SF名作集』毎日新聞社。これは子供向けの抄訳で、どんな長篇SFでも全部5ページでまとめてある(笑)。で、27篇載ってるというものでした。自分で買ったのは、ハヤカワの銀背で『ニュー・ワールズ傑作選』。次が『怪奇と幻想』、いまも創元推理文庫で出ている『怪奇小説傑作集2』、『現代アメリカ幻想小説』、最後のはトマス・ピンチョンが入ってたから。高1のときです。あとは『ク・リトル・リトル神話集』とか、『世界SF全集』33巻とか」

小浜「最初からそんな濃いの読んでたんですか(笑)」

中村「いわゆるSF入門みたいなのって、何も読んでないんですよ。アンソロジーは、オイシイのだけつまみ食いできるから好きだった。で、何読んだかわからなくなるのがいやだったんで、いちいち読んだものをノートにメモして書くようになった。25年間、今でもやってます。これです(会場にそのノートを見せてくれる)」

小浜「長篇はさ、本の形になってるからさ、探せば「ああこれ」って思うけど、短篇ってパッと言えて内容覚えてるって、そうそうないよね。どうやって短篇博士になりましたか?って聞こうと思ってたの。まあこれは後で」

伊藤「河出書房新社は、特にジャンル担当ってないんですよ。企画を出して通れば、どんなジャンルでも割とやらせてもらえる。手塚治虫の絵コンテが見つかって、これを本にしたいって企画出したら通ったり、とか。僕はマンガから入ったクチで、中学から高校で活字SFに入った。とりとめなく好きな中にSFが下地としてあって、阿刀田高編の白水社の《日本幻想小説傑作集》や、筒井康隆の《日本SFベスト集成》なんか好きで読みました。アンソロジーってのは幕の内弁当、みたいな意識がありました」

小浜「特に出版社の方では、SFアンソロジーの企画に抵抗はなかった?」

伊藤「そうですね、前にご当地ミステリという、鎌倉ミステリーツアーみたいなの出したら売れたんですね。これが10冊以上出た。なので、アンソロジーといって難色示されたことはないです」

小浜「アンソロジーは売れない、という風潮がありますけどね」

伊藤「会社のカラーですかね」

山岸「廣済堂の《異形コレクション》が成功したのって、企画通すのに影響しました?」

伊藤「上の人たちを騙すのには役立ちました(笑)」

小浜「うちは騙せないな(笑)。そういえば、『ハリポタ』が成功してるからってんで、これから翻訳ファンタジーの出版がどんどん増えますからね!」

伊藤「河出からも出ますよ(笑)」

小浜「一度大きく当たった本があると、その周囲の本が出やすくなるってのはありますよね。「ハリポタより売れたんですけど」っていう海外エージェントからの紹介本がばんばん来る(笑)」

小浜「では次は僕の体験を。僕は『宇宙のエロス』とか芳賀書店版のアンソロジー(福島正実編、72年から73年刊で全10冊。講談社文庫版は基本的にこれを再編集したもの)を図書館で読んでて、ハヤカワの銀背はもう本屋になかったのね。古い短篇は、やっぱり福島さんのアンソロジーで読んだ。あと、その頃何が好きだったんだろうって、自分のファンジンとかひっくり返したら、『SFカーニバル』とか大好きだったみたい」

「昔はさ、SFの短篇読もうと思ったら、まずSFマガジンのバックナンバー集めたんだよね。ただこの10年くらい、アンソロジーがほとんど出なかった。まずいなあ、とは思いながら、でも出しても売れないよなあ、と思ってた。会社入ってからは長篇の仕事ばかりだったし。時々短篇集もあったけど。ところで、さきほどの短篇博士のことを聞きたいんだけど(笑)」

中村「このノートに、(短篇の)タイトル、原題、著者名、推定枚数(400字原稿用紙で何枚分)、面白かったかの点数をずっとつけてたの」

山岸「ねえ、最初からそういうデータを取らないと、って思ったの?(笑)」

中村「うん、そう。高1からつけてた。評価の点数だけでよかったの、内容は覚えてるから。(各種データを書くのは)そういうもんだと思ってた、最初から。長さわからないと気持ち悪くて。で、枚数もつけた。今では大体読むと枚数がパッとわかる!」

小浜「『あの作品は90枚だから』なんてつけて、将来どうしようと思ったの!?(笑)」

中村「わかんなくなるのがイヤだったの。だから、本買ってすぐメモつける。で、読み終わったら、点数をつける」

小浜「それって世界を征服したいという願望?(笑)SFのひとって、やっぱ根本に世界征服願望があるよね?」

中村「そうかな?試験が近くなると、現実逃避行動に出るのね。で、アンソロジーを考えるの(笑)」

小浜「この人ね、今でも原稿に詰まると電話かけてきてね、「こんなアンソロジー考えたんだけど」って(笑)」

中村「自分ひとりでテーマとかの縛りを決めてね。一人遊び」

山岸「それは好き勝手に作品を並べるんじゃなくて、1冊の本にできる枚数分を集めるのね?」

中村「そうそう、カバー以外は全て頭の中でできてるの」

小浜「でもそれは自分の趣味じゃないんでしょ?読者のことを考えてるんでしょ?」

中村「頭の中で考えてるのは趣味です。ちゃんと本にするときは読者のこと考えます(笑)」

小浜「どうですか、山岸さん?」

山岸「世界征服、ってのはよくわかる!(笑)大学にはいって〈ローカス〉というアメリカのSF情報誌をとりはじめたら、そこにローカス賞発表とかいって、各部門何十もの作品がずらずら並んでるのを見て、そこでまた、この短篇読みたい!って飢餓感がつのった。それで原文で読むようになったら、田舎にいたときは「東京には洋書屋があるから、賞の候補を片っぱしから読んでるSFファンなんてたくさんいるだろう」と思ってたんだけど、意外とそうでもないらしくて(笑)、「お前紹介書け」みたいなことになって。紹介もアンソロジー編むのも、自分の好きなものを人に押しつけられる、って快感がありますね(笑)」

小浜「でもさ、枚数とか内容とかって覚えてる?」

山岸「枚数は覚えてない(笑)。90年代SF傑作選は編みたいと思って、この10年間はリストをつけましたけど」

小浜「bk1の大森コラムで出てたけど、この河出アンソロジーは「水鏡子が怒るようなアンソロジーを作りたい」という趣旨だったのね(笑)。えと、知らない方のために説明しますと、水鏡子というのは偏屈というか、博覧強記の評論家でして(笑)。大変なマニアで、僕らの師匠的存在なのね。で、アンソロジーのことについては非常にウルサイ(笑)。やれ順番が悪いだの、なんでこれを選ぶんだ、だの」

山岸「SFマガジンとか丹念に読んできた人には、このアンソロジーの1巻2巻は2度買いになっちゃうのね。初訳作品がひとつも入ってないから。水鏡子さんは、昔はそういう本に怒ってたとあるところで書いていて――で、水鏡子を怒らせるというのをそういう意味にとった人もいるんですが、おれがいいたかったのはそうじゃなくて。新潮文庫の『スターシップ』の解説で水鏡子さんがこう書いてるんですが、ちょっと読みますね。「質のいい作品を無作為に集めていけば、そこにおのずとひとつの答え(カラー)が生まれてくるというのもまた、ひとつの事実かもしれないが、そこに、さかしらに編者の意思を刻み込んでいくというのがある意味でアンソロジストの無上の喜びであり」ここまでは当然のことで。その次がこう。「また、通読していくなかで編者の個性、アンソロジーの個性を読みとるところにアンソロジーを読むひそやかな楽しみがある(中略)アンソロジーの目次というのが、ただそれだけでひとつの評論たりうる(以下略)」おれも水鏡子さんは心の師のひとりだから、おれの中にもこう思う面はある。でもさ、いちいちアンソロジストの個性を読みとるなんて、めんどくさいじゃん?(笑)徳用袋でいいじゃん!と思って作ることにしたの。まずね、「SFって面白い!」って思える話を選ぼうと思ったの。目次が評論になんかなってなくてもいいから、ひとつひとつ、どれを読んでも面白いと思えるものを、まず選ぼうと」

伊藤「僕も徳用袋ってのは非常に大事な要素と思ってて、読者としてはそこをメインに考えてましたね」

小浜「ところでテーマ別でアンソロジー編むのと、違いはありました?」

中村「あります。《20世紀SF》は、まず各巻にいれる作家を決めた」

小浜「10年ごとに区切ったっていう発想は、最初に出たの?」

中村「そうです」

小浜「では具体的な編集手順とかの話を……」

山岸「先に作業が進んでた『影が行く』の話からしてもらったほうが」

小浜「オレが『影が行く』を作ったときに思ったのは、ひとつは短篇が読めなくなってて。アンソロジーを出すのはどうかなと思ったんだけど、ノルマ的ハードルを越えられる売上であればいいと。あのね、よく東京創元社は復刊フェアってのをやるんだけど、ここでアンソロジーを復刊すると、パッと売れるのよ。宮部みゆきさんがずっといい、いいと言ってた『マッド・サイエンティスト』なんか、復刊してもどうかなーなんて思ってたけど、出したら飛ぶように売れた。ある程度、固定層の需要はあるんだよね」

「それに年齢的なものもあって、あーもーやっちゃおう!と(笑)。やれる人がいるときにやんなきゃ!って。人材がいたからね、中村さんが。で、ホラーが一番やりやすいと思った。うちは上の人を騙しようがなくて、皆で相談するんだけど、復刊フェアの売れ行きの感じではいけるんじゃないか、と。僕は子供の頃、SFの短篇集って怖いものだって印象があって。底知れぬ恐怖、みたいなのが。ウソなんですけど(笑)、でもそういうのあると思ってた」

中村「「父さんもどき」とかを怖いって小浜さんが言ってて、じゃあそういうのを、と思った」

小浜「SFだからって、時間や宇宙というのだけじゃないなと思ってたのね。テーマ的なものでアプローチするってのは、いいんじゃないかと。ガジェットでいくより、漠然としたもののほうがいいと思ったの」

小浜「『影が行く』を本のタイトルにするってのは、僕が言ったんだっけ?(笑)」

中村「僕の中では、実は仮想読者は自分の父親なの。70歳なんだけど、けっこう読書家で、山本周五郎や藤沢周平なんかが好きなのね。子供の頃、僕が本読んでると、ほら、子供が何読んでるかって気になるじゃない、で、僕が読んでる『ホビットの冒険』や小松左京なんかを読んで、「面白いねー」って言ってたの。で、父が面白がって読んでくれるようなものを作ろうと思ったのね」

小浜「そう、皆さん、SFの読者増やそうと思ったからって、もともと小説読まない人にSF渡してもダメですよ!!(笑)」

中村「日常的なものとか、《20世紀SF》3巻目のクラークとか、面白いって言うんですよ、うちの父。適度に一般的、適度にマニアックなものを目ざして作った」

小浜「しかし、(《20世紀SF》は)なんでこんな大げさなものになったんですか?あー、タイトルが、じゃなくて企画が大げさってことね」

山岸「伊藤さんから、まず手紙もらったんですよ。ちょっと読みますと、えー、久しぶりにSFをと思い、イーガンの『宇宙消失』を読んだところ、非常に面白く、次に『順列都市』を読んで大変興奮して、この手紙を書いています、と(笑)。で、何か(SF本を)作りたいので相談に乗ってください、とまあこんな感じで、じゃあ、と河出まで会いにいった。でも、イーガンを出したい、とか言われたら困るかも、なんて思ってたら、どういうキッカケかは忘れたけど、ちょうど世紀末で、アメリカとかで20世紀を振り返るアンソロジーがどかどか出てる、と。それがこーんな分厚いんですよ(と原書のカバーの背を見せる)。こちらの『エンディミオンの覚醒』の原書のカバー(とまた見せる)が、すっぽりおさまって(と実演する)こんなに余る厚さ(笑)。訳すとこの原書1冊が《20世紀SF》7、8冊分!! こんなのどうでしょうね、でも中にはつまんないのもはいってるけどといったら、じゃあどうせなら日本で編みませんか、ってことになって」

伊藤「僕から話を振った覚えはないんですけど」

小浜「じゃあどこからそんな話が!?(笑)」

伊藤「僕はイーガンを出すつもりで山岸さんを呼んだのではなくて(笑)。今、SFを出してる出版社ってすごく限られてますよね。じゃあ河出で出したら、SFがもっと広がるんじゃないかと。それに仕事しながら読んだことのないSFが読めるし(笑)」

小浜「で、年代順でやろう、と」

山岸「いつもは河出文庫を買ってるけどSFファンじゃない、という人も買うんじゃないかと思って。で、筑摩で出てた『おかしい話』とかのシリーズみたいなかたちもちょっと考えた」

小浜「そうか、喜怒哀楽でSFアンソロジーやると面白いかも!ってSFで怒ってどうする(笑)」

山岸「いまは福島アンソロジー風の分類(宇宙SFとか破滅SFとか)より、年代別のほうがSFファンじゃない人にも最近のSF読者にも、結局わかりやすいかなと。で、僕ひとりだととくに40年代50年代の作品選択が不安だとかいろいろあって、中村さんにいっしょにやってもらおう、と。まず中村さんが40年代から70年代について、作家を各20人、全部で200篇くらいのリストを送ってくれたので、それに自分でいいと思う作品も加えて再読して。その後いろいろやって、最終的に双方の目次案を作家とタイトルと枚数のリストにして(笑)、去年の3月28日に、中村さんが昼間は花粉症でつらいというので、朝7時に高田馬場で会って、喫茶店で3時間話して収録作品を決めた」

小浜「今回、スタンダードな作品の新訳が多いのが特徴だと思うんだけど、これは中村さんが発案したそうで」

中村「僕が強硬に主張したの。僕は、原文を持ってるのからしか、選ばなかったのね。原文を読んで、それから訳されてるのを読むと、どうもよくない。例えば、「万華鏡」の従来の翻訳の中で秋錦って言葉があるんだけど、これ、今パッと言われて意味わかる方います?原文にはシルバーフィッシュって書いてあるのよ。シルバーフィッシュと秋錦は違いすぎるでしょ。とにかく僕がダメだと思ったのは全部新訳にした。やっぱ30〜40年前の言葉ってのは、基本的に合わないね」

小浜「やっぱり文体ってのは変わってますね。中にはいまでも古びてない人もいますけど、それはそれですごいですね。『影が行く』は中村さんの単独訳で全部新訳したんですけど、SFやミステリは他のものと比べて息長く売れるんですよ。長篇はリニューアルするのって大変なんだけど、その点、短篇はわりとやりやすい」

小浜「ところで、今回の反響はいかがでしたか?」

伊藤「出版社の年末パーティーとかに出たとき、普通自分の出した本を他社の方が知ってるなんてのは珍しいんですが、今回は「あー、あの文庫読んだよ」と言われたりしました。いい反響でしたよ」

小浜「それは翻訳系の出版社?」

伊藤「そうですね。あと、昔SF読んでた人が久しぶりに読んだ、という30代くらいの方が多かったです。あと、カバーに驚いたという方とか(場内爆笑)。カバーの作り方ってのは2種類あって、ある程度イメージを固めるためにデザイナーのかたと編集で相談して、というのと、お任せします、というのとあるんです。今回は、京極夏彦の『どすこい』なんかをデザインした祖父江さんという方にお任せしたんですが、『星ねずみ』の表紙絵のMAYA MAXXさんの場合は、表題作はこんな内容ですよとまず祖父江さんがMAYA MAXXさんに電話で話したら、こちらから資料を送る前に絵が上がっちゃって(笑)。この絵でいいのか?とちょっと悩みましたけど(笑)。あと、書店でカバーが全部違うから探しにくいという声がありました」

小浜「今後もSFをやってみようかなと思うだけの売れ行きはある、と」

伊藤「はい。あと、野田昌宏さんの『図説ロボット』なんかの売れ行きもとてもよかったし。SFは売れないって言われるけど、決してそんなことないな、と」

小浜「アンソロジーは、決してオイシイ商売でもないですけどね(笑)。好きな人がこつこつやって、初めてできるというものですね」

山岸「最後に宣伝ですが、《20世紀SF》の5巻目は7月上旬に出る予定です。あと、ハヤカワ文庫SFで『90年代SF傑作選』が、これは山岸単独編で、遅くても年内にはお目にかけることができるかと思います(拍手)。収録作品は河出の6巻とはダブってませんので」

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 SFアンソロジーを作ってる方々の裏話を聞く、という、なかなか貴重な体験ができました。影でいろいろとご苦労があるということがよくわかりました。しかし何と言っても圧巻なのは、中村さんのすごさでしょう。こういう方がいたから、あれだけのアンソロジーを出すことができたのですね。質疑応答の時間はなくなってしまい、これは合宿企画に持ち越されました。


 16:00より、「SFにおけるトランスジェンダー(性別越境)」。出演は三橋順子さん、聞き手は柏崎玲央奈さん。さすがに2つのパネルを集中して聞いてたので疲れ、この回はパス。すみません。聴講してたu-kiさんやπRさんによると、なかなか面白かったそうです。


 17:25、「『SF』とのファースト・コンタクト 瀬名秀明、SFに対するアンビバレントな思いを語る」出演は瀬名秀明氏のみ。膨大な資料と40枚ものスライドという裏付けによって、彼の熱い思いが語られました。

 (:このレポは、ワタクシ、安田ママ的解釈のメモをもとに書かれていますので、実際の瀬名さんの発言の意図とは若干違う点があると思います。正確なものは、瀬名さんご自身が講演の資料を希望者に配布してくださるそうですので、そちらをお読みくださいませ。瀬名さん、勝手なレポを書いて申し訳ありません)

 実は何年も前から、SFセミナーへのお誘いはあったんですが、ずっと断っておりました。というのは、『パラサイト・イヴ』を出版したときに、SF界から猛烈に叩かれまして(笑)、SFセミナーなんて処にいったらぶちのめされるんじゃないかという恐怖心がありまして(笑)。今回、初めてこうして参加したんですが、雰囲気がよくて、安心しました。

 実は私は海外SFをあまり読んでおりませんで、セミナーにいらっしゃる観客の方のほうがよっぽどSFを知ってるんでは、と思ってまして。SF冬の時代とか、昔、本の雑誌が発端になって、「SFクズ論争」などがありましたが、このときに読まなきゃいけないSFのリストがあって、それを全部読もうと頑張ったんですが、結局2,3割しか読めませんでした。

 とにかくSFファンと話したことがないんですね。で、外にいる人間がこんなことを考えているよ、というのをお話しようかと思いまして。私もSFは読んでいるんですが、どうもSFファンとコミュニケーションがうまく取れない気がするんですね。

 今回、スライドを40枚ほど用意してきましたので、これを見ながらお話しようかと思います。資料も用意してきましたので、希望者には後ほど配布いたします。

 まず、今回のパネルのタイトルに「アンビバレント」と書いてありますが、これは辞書をひきますと、「心が不安定」「愛憎あいなかばする」または「両性愛の人」などという意味があります。

 「瀬名秀明とは何者か」私は1968年に静岡に生まれました。私の本名は鈴木なんですが、ちょうどこの頃、鈴木光司というベストセラー作家がおりまして、彼と同じペンネームではちょっと。で、そういうときは住んでる土地から名前をとるとかで、この瀬名というペンネームは静岡の町の名前です。よく講演に行ったりもするんですが、私の本を読んでる人は200人中たいてい1人か2人なんですね。

 小学校の頃はマンガや「宇宙戦艦ヤマト」「マジンガーZ」などのアニメ、ホームズ、乱歩などにハマっておりました。藤子不二夫さんが大好きで、彼のアシスタントになるのが夢でした。漫画家になりたいわけではなく、藤子さんのアシスタントになりたかったんです。

 小学校から中学に上がる頃は、家の事情でフィラデルフィアに1年ほど住んでいました。この頃は「ヒッチコックと3人の探偵団」などの英語の本を読んでいました。あとは日本の本屋が、なぜか「コロコロコミック」と「漫画少年」を毎月送ってくれていて、月遅れのこれを読んでいました。

 中学の頃は角川文庫がブームで、『ねらわれた学園』などを読みました。私は眉村卓が大好きで、彼の著作は9割5分は読んでいます。うっかりすると彼と文体が似てしまうので、意識してクーンツを入れたりしています。エラリィ・クイーン、ヴァン・ダインなども読んでいました。

 高校の頃はアニメに興味がなくなり、SFも読まなくなり、早川のモダンホラーセレクションなどを読んでいました。書評を読むのが大好きで、SFマガジンや、ミステリマガジンの書評を、書店でつぶさに読んだりしていました。

 大学に入ると、サークルで小説を書き始めました。幻想文学っぽいものを書いたりしていました。友人が「読め」といってSFを貸してくれたりしましたが、どうもピンときませんでした。『たったひとつの冴えたやりかた』とか。

 (ここでミトコンドリアのスライド)これは高校の教科書をコピーしたものです。ここでは5行くらいしか書かれてないんですが、大学院に入って、ミトコンドリアの酵素の研究をすることになりました。で、ミトコンドリアに興味がわいて、ホラー大賞に応募してみたんです。1回目は第4次選考で落ちましたが、2回目で大賞を取らせていただきました。

 (ここで『パラサイト・イヴ』のポスターのスライド)『パラサイト・イヴ』は売れたんですが、絶賛と同時に反発も多くいただきまして。今でも大学生にミトコンドリアの色を聞くと、「緑」と答えるんですね。それはこのポスターの影響ではないかと(笑)。ミトコンドリアの本当の姿は(ここでスライド)この核のまわりの赤いボツボツがそうなんです。

(SPA!95年11月号の書評のスライド、手書きの妙なメモ)書評でもいろいろと叩かれまして。でも、ミトコンドリアから命令を受けてこんな文章を書いた、というちょっと神がかった読者なんかもいたようです(会場爆笑)。

 こういったさまざまな批判から、SFとのコミュニケーションが始まりました。正直、これらの批判には悩みました。「これはSFではない」とか、「誤った科学を広めて、金儲けをしている」など。なんとかコミュニケーションをとろうと、BRAIN VALLEY掲示板を97〜98年頃に作ったんですが、これがSF論争に発展してしまって。でもこれで日本SF大賞を取ったので、これはSFとして認めてもらえたようです。このときの受賞の言葉で、「昔はSFが好きだったんだけど、どうしてこうなったのか?」みたいなことが書いてあります。

 (1995年11月の広告批評の書評のスライド)養老孟司さんにも批判されました。で、防衛手段として、作家側が出来ることは何か、と考えたわけです。まず1、フィクションとノンフィクションを明確に分ける。研究者に怒られないようにする。2、ノンフィクションへの読者の移行をプロデュースする。で、副読本や、『BRAIN VALLEY』の解説本などを書きました。するとなぜか、科学モノの仕事ばかりが来るようになりまして(笑)。あとは公務員しながら作家をやるとはナニゴトか、みたいな批判も受けましたので、これは分けましたが負担が非常に大きくなりまして。で、今は非常勤講師となり、少し余裕が出てきました。

 SFの内外はもとより、ひょっとしたらSF内部でもコミュニケーションは取れてないのでは?と思ったんです。(ここでファースト・コンタクト・ジャパンの写真のスライド、会場爆笑)ここにソウヤー氏が写ってますが、これはファースト・コンタクトの予行演習みたいなものなんですね。しかし異星人との前に、SFファンと私がコンタクトすることが重要なのでは?と思ったんです(会場爆笑)。私はこの写真を見て、非常に違和感がある。私のSFに対する違和感は、この写真を見たときの違和感に近いのでは?と思ったんです。

 コンタクトへの準備としまして、私はネットにあるSF系日記更新時刻というものを使い(会場爆笑)、ここの主だったところを1年分全部読みました(会場、大きな拍手!)。それと、SF以外の分野からの意見を聞きました。また、SFセミナーサイトからアンケートを募りました。これは講演後は希望者と版元に配布して、波及効果を期待したいと思います。

 また、筑波大で「どれだけSFを読んでいるか?」というアンケートをとりました。これは星野力という教授が「科学技術とSF」という講義を1998〜2000年の3回やってまして、この学生達にアンケートをお願いしたんです。

 (ここで詳しいアンケート結果グラフのスライド)「今までに読んだSFの数は?」は、50冊以下、というのがほとんどですね。「以下のSFを読んだことがありますか?」という質問には、海外SFがあまり読まれていない、という結果が出ました。「以下のビデオや映画を観たことがありますか?」では、「パラサイト・イヴ」もけっこう観てる方が多かったですね。「以下の作家を読み(見)ましたか?」という質問ですが、この「ちらっと見た」というのが謎なんですが(会場爆笑)、1位星新一(これは教科書に載ったりしてるせいですかね)、2位筒井康隆という結果。古典と現代作家が2極分化しているのがわかります。小松左京って誰?という声も聞かれましたね。私自身も、小松左京にはハードルが高かったです。今の作家も、拡散傾向にあるようです。

 (ネットアンケート結果のスライド)こちらは72名の方が答えてくださいました。そのうち20〜30代が86%を占めています。まず「SFセミナーをご存知ですか?」という質問では、ほとんどの方が知ってました。「ひと月に本を何冊読みますか?」「そのうちSFはどのくらいですか?」にはなかなか面白い結果が出ました。1ヶ月に5冊も読めば立派なSFファンだと思うのですが、その方でも「自分はSFファンじゃない」と答えてらっしゃるんですね(会場爆笑)。これは何かポリシーとして「自分はSFファンじゃない!」みたいなものがあるようですね。「そのうち科学ノンフィクションはどのくらい?」という質問には、月1,2冊という方が多かったです。しかし、ハードSFを読む方などは、どんどん新しい科学知識を入れなくても大丈夫なんでしょうか?と、ちょっと疑問に思いました。読み込んでいる量が圧倒的に少ない。「SFを今までどのくらい読みましたか?」には、500冊以上読んでる方で、やはり「SFファンじゃない」と答えてる方がいらっしゃいました(会場爆笑)。

 「瀬名秀明についての評価」には、好意的評価が多く、非常にホッとしました。私の作品を、76%の方が読んでくださっておりました。感想も、「面白かった」が多かったです。『2001』(早川書房)は、SFファン以外には読まれていないというのがわかりました。あと、少数ですが、非常に私に対して怒り、義憤にかられている方もおりました。作家の方でアンケートに答えてくださった方もおりまして、ファンタジーノベル大賞受賞作家でらっしゃる山之口洋さんは大変本質をついたコメントを寄せてくださいました。

 科学を科学として扱っている部分は非常にリアルで説得力があるが、SF的な飛躍が弱いというご意見や、話の手際がうまいとか、逆に科学とそうでない部分との手際がうまくない、という意見もありました。

 なぜそんなにSF観にこだわるのか?無視すれば楽なのではないか?でも、私は小・中学校時代に、SFで大いに楽しませてもらったんですね。だから、自分の作品はSFとは思っていないんですが、SFファンの評価というのがとても気になるんです。切り捨てることはできない。

 話と前半と後半で、乖離が激しい、よくわからなかったという意見もありました。話が飛びますが、『ミミック』というホラー映画を見にいったときに、後半の部分で観客から失笑がもれたんですね。今までさんざん盛り上げといて、○○とはナニゴトか!という。で、私の作品に対する皆さんの反応も、もしかしたらこれなのか!?と思ったんです(会場、笑い)。でも私はこの映画が大好きなんですね。ホラーとしては、あの失笑もホラーの一部ではないかと思うわけです。

 『パラサイト・イヴ』を読んで怒りにかられたという読者のアンケートなんですが、彼女は「面白いけどSFではないとはっきり思う」というんですね。「SFの整合性からは程遠い、あれをSFと言われるのは我慢ならない」と。しかし、私を含め出版社側としては、あれをSFとして売った記憶はありません。SFとして宣伝もしてはおりません。また、利己的遺伝子をベースに書いたわけでもありません。確かに書評にはそう書かれたりしましたが、決してそうではありません。

 (文芸編集者アンケート結果のスライド)8社26名の方にお答えいただきました。取材に応じてくださったのは、角川書店、講談社、祥伝社、タクト・プランニング(森奈津子などを出してる出版社です)、メディアワークス、などです。書面で解答くださった方々もいらっしゃいます。早川書房の塩澤編集長には、たった今この会場で、書面で解答をいただきました(会場爆笑)。ほかには幻冬舎、祥伝社、徳間書店、文芸春秋などがあります。アンケートをしてみて、SF担当者以外は、SFのことを考えたことが全くない、というのもわかりました。(以下、これらはあくまでその方々の個人的な意見であって、社を代表するものではありません)

 角川ホラー文庫や徳間デュアル文庫は、最低ラインが2万部なんだそうです。どちらも同じなのに、なぜか業界では、ホラーの方が売れているというイメージがある。それは、突出して売れている本があるからなんですね。少ないけど、ベストセラーになってるものがあるわけです。でもSFにはそれがない。だからさみしげな印象があって、SFと聞いただけで、深く考えずに「売れないからやめておこう」になっちゃうわけです。でもやりたい!という編集者が出れば、この流れは変わるんじゃないかと思うんです。

 徳間デュアル文庫などは、ライトノベル系の読者をSFに引き込もうという意図があるようですが、SF読者がライトノベル系を読むようにはなっているようなんですが、ライトノベル系から、SFに流れてきている読者はほとんどいない、というのもわかりました。「若い作家を他のレーベルから引き抜いてくるのはどうか?」と尋ねましたら、角川の方は「岩井志麻子のように全然別の分野になるならともかく、ちょっと年齢層を上げただけで似たようなものを書くのではあまり読む気がしない」といわれました。これは、ちょっと見方が狭いのではないかと思いました。また、別の編集者の意見として「編集部同士の確執があって、自分からSFが書きたいという作家ならともかく、ライトノベルから作家を引っ張ってくるのははばかられる」というのもありました。メディアワークスの方に、ハルキ文庫をどう思うか聞いたところ、「自分達で新人を発掘してほしいなあ」というご意見でした。

 とある出版社の方は、かつてアイドル同好会に所属してまして、でもその頃はアイドル冬の時代と言われていたそうです。でも、彼らにしてみれば、話すことはいっぱいあったそうです。これはSFファンに似てるんじゃないか?SFファンも同様に、冬の時代を楽しめる人たちではないのだろうか?と思ったんです。

 あと、編集者のお子さん(?)が、エヴァンゲリオン見て、古事記を読みたいと言ったそうなんですね。今の人たちは、神話を求めているんではないでしょうか?昔はものを考える時代だった。でも今はそういう基盤が若い子にない。そういうのをSFとして出す義務があるのではないでしょうか。

 徳間デュアル文庫担当の大野さんは、「SFは、現実と折り合いの悪いティーンエイジャーや、折り合いの悪いまま大人になってしまった人たちに必要な文学なのではないか?」(会場爆笑)とおっしゃってました。私はこの言葉には大変感動しました。

 タクトプランニングの深澤さんは、「21世紀はヘンタイとクイアの時代だ」とおっしゃってました。「森奈津子さんがすごいのは、あのヘンタイ性を容易に理解できないからです。ああいうのはミステリではダメで、SFじゃないとできない。SFはエンタテイメントで一番最後に生まれ、人類が成熟したからこそ出現したジャンル。だから、SFだからこそ人類に言えることがある」とおっしゃってました。

 「今注目するSF作家は?」の問いには、池上永一、恩田陸などが上がっていました。私個人的には、川端裕人さんに注目しています。

 (『思考する物語』森下一仁のスライド)ここで、SFの構造を考えてみようと思います。この著者はSFの定義を「センス・オブ・ワンダー」だとさだめており、そこには「フレーム」と「スクリプト」があるといっております。

 「フレーム」とは、例えば犬というフレームですと、ファンタジーなら犬の何か一箇所が違ったものに置き換えられるわけですね。たとえば「透明な犬」とか。が、SFは、変換が起こった時に、世界が再構築されてしまうわけです。これは面白い解釈だと思いました。

 センス・オブ・ワンダーについて考えたんですが、ここにAさんがいて、Bさんはある本を読んでセンス・オブ・ワンダーを感じたわけですね。Cの僕は、その本を読んでもセンス・オブ・ワンダーを感じなかった。でもBさんにとっては、もう世界が再構築されているわけです。ここでギャップが、違和感が生じるわけなんですね。つまり、センス・オブ・ワンダーを感じるには、何か特殊な感覚が必要なのではないかと(会場爆笑)。

 「スクリプト」についてですが、これは関係原理の混乱だと解釈しました。僕は『パラサイト・イヴ』をホラーとして書いたのに、SFファンはSFだと思って読んでしまうわけですね。で、これはSF書評に問題があるのでは、と思ったんです。SF書評は文芸関係者などにもよく読まれているようです。でも、仕事を頼むことはしない。これはなぜか?聞いてみたところ、早川の「SFが読みたい!」などは、ほかに比較対象が何もないので、ちょっと信用できない、という意見がありました。

 何でも「これはSFだ!」という戦略、大森さんがやってらっしゃるようなアレですね、これはYAファン、新本格ファンなどをSFに取り込もうという戦略ですね。でも、ライトノベルの読者は、じゃあSF読もうか、とは思わないようで、他のライトノベルのレーベルを読んだりしているようです。つまり、SFファンは増えてない。

 私は今、小松左京と山田正紀が気になっているんですね。小松さんは、非常にいい科学ノンフィクションも書いてらっしゃる。今のSF作家でノンフィクション書いてる方ってとても少ない気がします。ぜひ、もっと書いて欲しいですね。

 SFは、SFファン以外の人に、何を与えてくれるのか?SFは本当に面白いのか?「文句を言うなら提案せよ!」が私の学長の口癖でしたので、私から提案を幾つか出してみようと思います。

  ひとつは、「作家で広告を出したらどうか?」今の新聞広告は、ほとんど出版社別ですね。こんなのはもう古いのではないかと。ノンフィクション作家が12人くらい集まって、全5段使って、バーンと新聞広告を出して、今度こういうレーベルが出ます、毎月1冊刊行で、1年で全12冊刊行予定、次回はこの人、帯・装丁は統一、といった感じでやってみてはどうでしょうか?

 もうひとつは「これはSFじゃない」というセリフを今後5年間言わない!(会場爆笑&拍手!!)ちなみに、他の人が、「これはSFだ」というのはオッケー。

 それから、編集者を教育せよ!今高校生くらいの、若いSFファンが、あと10人くらい将来編集者になって、SFを出版する!

 そしてSF読者は、買い支えよ!出たら必ず買え!せめてハヤカワ文庫、創元SF文庫が出たら全点買うくらいに!そして、もしSFブームが来たら、素直に喜べ!!(会場爆笑)

 7月20日には、文春新書から、『ロボット新世紀(仮)』という私のロボットノンフィクションが出ます。私は、科学ノンフィクションの古典を復刊させたいです。あと、今私は個人的にミュージカルにハマってまして。誰か『八月の博物館』をミュージカルにしてくださらないでしょうか。ミュージカルホラーなんて書いてみたいですね。

 ここで会場からの質疑応答。

堺「僕も大森さんの「なんでもSF」ってのは嫌いで、「これはSFではない」という言い方も嫌いなんです。でも、書評者として、「このSFはダメだ」というのは許していただけないでしょうか?僕はジャンル内として枠があるものはかまわないと思うんですが。「これはSFとしては、(あるいはミステリとしては)ダメ」というのは必要ではないでしょうか?」

瀬名「例えばSFマガジンなど、SFファンしか読まないものでなら構わないと思います。SF媒体じゃないところでは、系列的に評価して欲しい。あと、SFマガジンだけでなく、ミステリマガジンや文春などの、いろんな書評を読んで欲しいですね」

堺「それぞれの書評者にも、好みの傾向があるんですよね。大森さんは、このあたりが好きだという傾向だとか。このあたりを組んで読者は書評を読んで欲しいと思います。これはSFファンがすべきことですが」

質問者「先ほど、YAを読む人はSFに行かない、と言われましたが、実際私の知り合いの中学3年の子は、YAからSFに移行しています。やはりそれなりに広がりは見えているのでは?」

瀬名「確かに、編集者自身が知らなくても、そういった事例はたくさんあると思います。そうあってくれればいいな、と思います」

質問者「瀬名さんはホラー作家という認識はあるようですが、SF作家という意識はありますか?」

瀬名「今でも自分はホラー作家だと思っています。自分からSF作家だとはいえないですね」

質問者「瀬名さんが自分をSF作家だと名乗れば、一気に流れがSFに来るのでは(会場、拍手)」

瀬名「しかし僕はホラーにも恩義がありまして。『BRAIN VALLEY』はSF大賞をいただいたので、これは角川ホラー文庫に入れるのは悪いと思い、僕が強硬に反対して、普通の角川文庫のレーベルで出してもらったんです。でも、なぜか今、僕に「ホラーを書いて欲しい」という編集者はひとりもないですね。8割方が、「SFを書いて」という注文です」

質問者「瀬名さんは文庫の解説をよくなさってますが、あれも戦略ですか?」

瀬名「実は僕は文庫の解説を書くのが大好きなんです。依頼があれば引き受けますが、これも賛否両論ですね。村山由佳さんの『きみのためにできること』の解説を書いたんですが、ある読者の方に「せっかく感動してたのに、小難しい解説で感動が薄れた」といわれたときはもうやめようかと思った(笑)」(観客の声)「よかったですよ!」

瀬名「ありがとうございます。解説を書くのは好きなので、続けたいとは思います」(観客)「続けてください!」

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 瀬名さんは、この企画のために膨大で緻密な資料をどっさり用意し、SF系日記更新時刻までチェックするという、実に生真面目で誠実な方という印象を受けました。池上永一とは違う意味で、実にインパクトある、面白い企画でした。瀬名さんの「今後5年間、「これはSFじゃない!」と言わない」などのSFに対するさまざまな提言は、(実行するかどうかはともかく)大変興味深い意見でした。瀬名さん、本当にご苦労様でした。

(以下、合宿編に続く)

(このレポに間違いなどありましたら、メールか星間宇宙船にてお教え下されば幸いです)by安田ママ 01.5.7