SFセミナー2001特別編 カナダSFの世界

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 2001年4月29日(日)、青山のカナダ大使館にて、SFセミナーの特別編として『カナダSFの世界』が開催されました。

 ださこんな人たちと12時に駅で待ち合わせ。と、牧眞司さんやのだれいこさんとバッタリ。きゃー、のださんが白いスーツだあ!彼らを見送った後、お昼を食べ、1時くらいに会場へ。本当は1時半開場だったんですが。大森パパにも遭遇。みんなで「おめでとうございます」の嵐。カナダ大使館は、大きくてとてもキレイ。不思議なアート作品があちこちに飾ってありました。イヤホン型翻訳機と、記念品(バッジかストラップ。私はバッジをもらいました)を受け取る。


 14:00スタート。柏崎玲於奈さんの司会。カナダ大使館の女性の方と、SFセミナー実行委員長の永田さんがご挨拶。

14:10〜15:00、「カナダSFの現在」。パネラーは向かって右から山岸真さん、北原尚彦さん、加藤逸人さん、司会の井手聡司さん

山岸「まず最初にお断りしておきたいのは、今回のパネルでは時間の関係で、英語圏のカナダSFに限定してご紹介する、ということです。フランス語で書かれたSFもたくさんあり、盛んに読まれているということだけは申し上げておきます。

 カナダSFは1980年代にジャンルとして確立され、さらにこの10年で大変盛んに出版されました。とはいえそれ以前にも、たとえば、ヴァン・ヴォクトという有名なSF作家がおりまして、彼は第2次世界大戦中にアメリカに移住しましたが、代表作のうち『宇宙船ビーグル号』の一部分や『スラン』はカナダにいたあいだに書かれたものです。

 カナダではSFファンダムも活発で、1948年にはカナダでワールドコンが開催されました。1960年末ころには海外から多くの作家が移住してきました。有名な方では1968年にはジュディス・メリルが、その後にはマイクル・コニイなどがおります。70年代までの作家での第一人者ですと、フィリス・ゴットリーブがおります」

北原「彼女の本は『オー・マスター・キャリバン』(ハヤカワ文庫SF、品切れ)が翻訳されています。これはテンペストがモチーフのSF。ほかにはジュブナイルSFがいろいろ出ていて、スザンヌ・マルテル『SOS地底都市』(あかね書房)、モニカ・ヒューズ『イシスの灯台守』(すぐ書房)、ダグラス・ヒル《宇宙戦士キール・ランダー》シリーズ(ポプラ社)などが出ています」

山岸「1975年には、非常に重要な事件が起きました。とある高校のSF研究会で、ソウヤー氏とのちに奥さんとなるキャロリン・クリンクさんが出会ったことです(笑)。これはソウヤー氏がご自分の編集したアンソロジーの序文に書いたカナダSF略史でも、トップにも書かれているほど重要な事件です(笑)。それから、カナダ在住の作家と、外国の人がカナダを舞台にして書いた、50篇のSFアンソロジーが出版されました」

山岸「1980年代に入り、1984年にはある世界的にブームを巻き起こすSFが発表されました。ウイリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』(ハヤカワ文庫SF)です。それからガイ・ゲイブリエル・ケイの『夏の樹(上・下)』(ハヤカワ文庫)。1985年にはマーガレット・アトウッドの『侍女の物語』(新潮社)が出版されました」

北原「これはとくにジャンルSFの作家ではない人が発表したディストピアSFですかね」

山岸「それと同じく85年に、ジュディス・メリル編のアンソロジー、『Tesseracts』(四次元立方体、未訳)が出ました。これはこの時点のカナダSF作家を総動員したような本で、各巻編者を変えて現在までカナダSFのコア的存在としてつづいています」

山岸「あとはチャールズ・デ・リント『リトル・カントリー』(創元推理文庫)、ロバート・ウィルスン『時に架ける橋』(創元SF文庫)など。ウィルスンは今まではわりとファンタジー風味のものが訳されてきたんですが、最近はSF色の濃い作品が増えています。『ハーベスト』(未訳)とか。この作家はスタージョン風の孤独と疎外の物語、そしてちょっと奇妙な雰囲気が持ち味です」

北原「そして90年代に入り、ロバート・J・ソウヤーが『ゴールデン・フリース』(ハヤカワ文庫SF)で華々しくデビュー。これはSFミステリの傑作で、ミステリサイドから絶賛されました。『占星師アフサンの遠見鏡』はまだ第一部しか訳されてないので、あとの2部3部の翻訳に期待したいところ(ハヤカワさん、よろしくっ!)。そして『さよならダイノサウルス』、近未来を描いた『ターミナル・エクスペリメント』、『スタープレックス』、『フレームシフト』、『フラッシュフォワード』が日本で翻訳されました」

北原「彼の作品は、短篇も4つほど翻訳されており、ひとつが「ホームズ最後の事件再び」(SFマガジン1996年10月号)。これはSFネタだけのホームズパロディアンソロジー(未訳)の中の一篇」

山岸「この短篇は年内に本になるかも?」

加藤「なお、最新作の『Calculating God』(未訳)がヒューゴー賞の最終候補に残ってました。これはカニ型宇宙人が出てくる話。(私の横でu-ki総統が大ウケ^^)」

山岸「ほかには、大胆なアイデアでどんでん返しまたどんでん返し、という大技使いのジェイムズ・アラン・ガードナー『プラネット・ハザード』(ハヤカワ文庫SF)など」

井手「加藤さん、今の注目作家を」

加藤「では3人ほど。まずはカール・シュローダー『Ventus』(未訳)。これは長編。ダン・シモンズをシブくした感じの、かなり期待のSF作家。流行りのナノテク、テラフォーミングが入ったハードSF。あとは合作の『The Claus Effect』(未訳)」

山岸「これはサンタクロースが身長8メートルの妖精さんで(場内爆笑)」

加藤「サンタはじつはサタン(悪魔)だった、みたいな話です(笑)」

山岸「たぶん合作者のほうの発想なんでしょうけど」

加藤「それとナロ・ホプキンスン『Midnight Robber』(未訳)。ネビュラ賞候補にもなってます。ジャマイカ出身の作家で、非常に元気のいいパワフルな感じ。ヒューゴー賞もノミネートされてます。あとショーン・スチュアート。ファンタジーの期待の作家です」

山岸「カナダの作家は、主にカナダからアメリカに紹介されて評価される、という傾向にあります。アメリカにあるSF出版社がありまして、毎月10点くらいSFを出してるんですが、その10点中の1点くらいがカナダSFです。どっちにいったらいいのか迷っているアメリカSFに比べて、カナダSFは割とストレートな話が多くて、違和感なく読める。ぜひもっと多く翻訳されることを願っています」

北原「アトウッドなどの作家を見てもわかるように、カナダ小説の特徴は、過酷な状況で生き残るのが第一目的、みたいな話が多い気がします。ソウヤーの未訳本を含め、まだまだ紹介されてない傑作を翻訳してください、ハヤカワさん!(笑)」

加藤「アメリカの小説はスーパーマン的な人間が主人公になりがちだが、カナダの小説の主人公は等身大の人物が多く、大人の作品という印象を受けます。個人のことを書くだけでなく、もっとグローバルに家族、地域に広げていく傾向もあり、これはカナダが横のつながりを重視している国、だからでしょうか。先にも述べたジャマイカ出身の作家など、多彩なテイストの作家が出ているのも魅力です」

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 3時ジャストで時間切れ。知らないことだらけだったので、とても勉強になりました。訳して欲しい本が山ほど!とりあえず、アフサン第2部、3部を読みたいですね。というわけで、これが読みたい方は、近日再版された『占星師アフサンの遠見鏡』(ハヤカワ文庫SF)をゼッタイ買いましょう!この売上状況によるそうなので。


 3:00〜4:00、「ジュディス・メリルという人がいた」。パネラーは右から浅倉久志さん、森優さん、山野浩一さん、司会の牧眞司さん。

 (私はメリルについては「アンソロジー編集者」というくらいしか予備知識がないので、ちょっとこの企画のレポは合ってるかどうかあまり自信がありません。かなり不完全だと思います。覚えてるところだけ、ぽつぽつと書いておきます。申し訳ありません。)

牧「今回、カナダSFというお題ですぐに思いついたのがメリルだったのね。彼女はベトナム戦争に反対して1968年にカナダに移住してきました。そして70年に、日本で開催された「国際SFシンポジウム」で来日しています。かなり特徴のある方なんですが(笑)、お会いする前と会ってからの印象の違いはどうですか?」

浅倉「僕は初めて買ったSF本がメリル編のアンソロジーだったのね」

森「僕は雑誌「星雲」で知った」

山野「アメリカSFの開拓者、という印象があります」

森「彼女は政治活動というか反戦運動にとてもハマっていて、「SFの方が広くモノを見る目を養ってくれるんじゃないか」と言ったら軽蔑された(笑)」

森?「彼女は20代前半にSFにハマったらしい。それまでも本は読んでたらしいんだけど、結婚したダンナがSFファンで、彼女が病気になったときに、手近にあった彼の持ってたSF雑誌を読んでハマったらしい。それでSFの会合なんかに出たりして、そこで他の人とラブアフェアがあったりしたんだけど、なぜかダンナも認めていたらしい」

?「彼女は政治に非常に関心が強くて、思想の違いから、メリルがブリッシュを殴り倒した、という話もある(笑)」

浅倉「僕の印象では、彼女はすごく適応能力のある人。東京に半年住んでたときに、神田のなじみのすし屋に連れてってくれた(笑)。店のおやじとも気軽に話したりしてて。彼女は日本SFを海外に紹介したりもしてて、国際シンポジウムの翌年に矢野徹が渡米して、光瀬龍の短篇「落陽二二一七年」を共訳したりもしてた」

森「僕の家にメリルと半村良が、彼の短篇「虚空の男」を英訳するため。2晩ほど泊まったことがあって、日本語をローマ字で書いてその単語の下に英訳をつける、ってのをやったりした。完成はしなかったけど」(この時の写真のコピーを会場に回してみせてくださいました)

山野「アメリカはストレートにはイギリスSFを読まない傾向にあり、彼女はアメリカがイギリスSFに関心を持てるように、間を取り持つようなことをしていた。いろいろと、うまく紹介していて、これは彼女の大きな功績だと思う。アンソロジーを編集するためには、よい読者であり、同時によいレビュアーであることが必要で、彼女はこの点とてもよかったと思う」

山野「『SFに何ができるか』(晶文社)は浅倉さんが訳したんですよね」

浅倉「山野さんから依頼がきたんじゃなかった?(笑)ここに紹介されてる本はまだ日本では未訳のものばかりだったんだよね」

森?「彼女は68年でSFにさよならして、政治に行っちゃって、SFに興味を失っちゃったんだよね。てことは興味を失ってから来日したのか(笑)。この頃、アメリカは作家でもなんでも戦争賛成vs反対で、まっぷたつだったんだよね。でも、自力で政治活動する作家は珍しかったよね」

浅倉「東小金井のアパートに半年彼女が住んでたとき、ほぼ毎日翻訳の手伝いに行ってたんだけど、市場に一緒に買い物に行くと、「これはナニ?」っていちいち聞くんだよね。でもわからなくて、翌日から和英辞典持参で市場にいった(笑)」

森「実はあの当時、早川書房が彼女のアパート代を援助していたんだ。少しはお役に立てたかな、と」

山野「僕は彼女の優しさが印象的だった。すごく大胆な方だったけど、同時に繊細な心配りができる人だった」

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 実際に彼女にお会いした方々のお話を聞かせてもらう、というなかなかよい企画でした。いろいろとすごい方だったんですね、メリルって。

 ここで15分休憩。


 16:00〜17:30、「ロバート・J・ソウヤー インタビュー」。聞き手は野田令子さん。

注:私は英語が全然ダメで、翻訳機に頼りっぱなしでしたので、その翻訳された言葉をもとにメモをとってます。ゆえに、ダイレクトに英語がわかる他の多くの聴衆に比べて、ジョークに反応するのがワンテンポ遅かったり(笑)。でも、ソウヤー氏の英語は私が聞いてもけっこう聞き取りやすいという印象を受けました。

野田「えー、ソウヤーさんは半年前にも来日していて、日本国内を旅行されてるんですが、いかがでしたか?」

ソウヤー「非常に美しかったです。日本の自然の美しさが海外に知られてないことに驚きました。出会った人達も皆とても優しかったです」

野田「日本でいくつかのSFイベントに参加されたわけですが、いかがでしたか?」

ソウヤー「素晴らしいイベントでした。SFというのは地球全体の文学です。SFが読まれているということは、日本やカナダや世界中が未来に希望を持っているということです。それがとてもうれしいです。日本でも2007年にワールドコン(世界SF大会)が予定されているようですが、ぜひ実現させてほしいです」

野田「ファンダムとのかかわりは長いのですか?」

ソウヤー「はい、76年に最初のSFコンベンションに出、その後何百回という数のSFコンベンションに出ています。いまや、世界中どこに行っても知ってるひとがいる。世界中に家族がいるような感覚です。結婚も、SFファンダムがきっかけです(笑)」

野田「SFとの出会いは?」

ソウヤー「私は1960年の今日、生まれました。6歳のときに「スタートレック」の放映を見ています。8歳で父に連れられて、映画「2001年宇宙の旅」を見ました。ちょうどアポロ計画の時代で、時代がそういう空気だったので、本が読めるようになるずっと前から、SFの考えに触れていました。本を読みはじめたのは10〜11歳くらいです」

野田「最初に読んだSFは?」

ソウヤー「『トラブル・オン・タイタン』アラン・E・ナースです(邦題・『タイタンの反乱』)。子供向けのSFを読みたいといったら、父がアシモフの現実もののエッセイなどの本を買ってきてくれました」

野田「アシモフからSFに入ったんですか?」

ソウヤー「そうです。私はアシモフと文体が似てるとときどき言われます、シンプルなところなんかが。もし、父がディレイニーを買ってきてくれていたら、私の作風はディレイニー風になっていたかもしれません(笑)」

野田「ファンダムにはいつ頃から?」

ソウヤー「12〜14歳くらいです。ここでクラーク、ホーガン、フレデリック・ポールなどのハードSFに出会い、大きな影響を受けました。今も彼らを非常に尊敬しています。なので、私は作家の方にお会いすると、まるでスターにお会いした時のようにうれしいです」

野田「ミステリについては?」

ソウヤー「そんなに読んでいませんでしたが、母がアガサ・クリスティの大ファンでした。これは少なからず影響を受けているかもしれません。今はSFを仕事にしてしまったので、SFを読んでもあまり楽しめないのです。なので楽しみのための読書としてミステリを読んでいるのですが、SFと共通するものがありますね。どちらも知的な楽しみを重視している。今はジョン・グリシャムなどを読んでいます。彼の本は早く読めるので。彼は皆さんもご存知のベストセラー作家ですが、どの作品も皆重大な社会的テーマを含んでいます。死刑や偏見・差別、児童虐待など。それらが非常に優れたエンタテイメントの形をとっているのです。スコット・トゥローの『推定無罪』などは、私の最も好きな本のひとつです。素晴らしいです」

野田「高校卒業後は何をなさってたんですか?」

ソウヤー「その前にカナダ大使が私の目の前におりますので、紹介させてください」ここでカナダ大使がご挨拶。彼もソウヤーファンだそう。「80年代には、ライターとして活躍していました。本当はずっと昔から密かにSF作家になりたかったのですが、そんなことは夢だと思っていました。父は経済学者だったので、私もジャーナリズムの道に進んだのです。ハイテクの記事や、その頃ちょうどパソコン革命がおきていた時代だったので、そういった記事やビジネス、宇宙工学などの記事を書いていました。お金も入ったし、これはこれで興味深い仕事でした。でもやっぱり本当にやりたいことはSFを書くことだったんです。30代に入る直前、20代後半くらいの頃に「本当にやりたいことをやらなくて、それで人生終ってしまっていいのか?」と自問自答し、あとで後悔することになってはと思って、思い切ってSFの道に入りました。私が非常にラッキーだったのは、その著作が世間に受け入れられたことです。アメリカもそうでしたが、同時に日本の早川書房からもコンタクトがあり、とてもうれしかったです」

野田「日本と外国のコンベンションで、何か違いはありますか?」

ソウヤー「アメリカでも同じ質問をされました(笑)。私はここで大変失礼なことを言ってしまったのですが、「アメリカのSFファンは太ってて、日本のSFファンはやせている」と言ってしまったんです(一同大爆笑!)。でもどこの国でも皆同じです。みんな本好きです。皆自分の好きなものへの意見が非常にハッキリしていて、選り好みが激しい。基本的にみんな一緒です」

野田「日本と外国の質問の違いは?」

ソウヤー「日本では個人的な質問が多くてうれしいです。私個人に興味を持っていただけるのはとてもうれしい」

野田「ファンダムでの経験は作品に生かされていますか?」

ソウヤー「たくさん生かされていますよ。それはもう何でも。先日車で事故を起こしてしまいまして、本当は悲しいことなんですが、「これは書かなければ」と思わずうれしくなったりしてしまいます。例えば将来の私の作品の中に、白いスーツにブロンドの髪の日本女性が出てきたりしたら、誰がモデルか皆さん一発でわかりますね(会場爆笑)」>この日、インタビュアーの野田さんは白いスーツ&金髪だった

野田「奥さんに作品を読んでもらったりしますか?それで内容が変わったりしますか?」

ソウヤー「はい、私は彼女のコメントを非常に重要視しています。出来た作品はまず最初に彼女に読んでもらいます。彼女はとてもデリケートに、私を傷つけないような言い方でいろいろ意見を言ってくれます。彼女が私の最初の編集者といえるでしょう。彼女は文学もSFもたくさん読んでいますし」

野田「内助の功、ですね(笑)」

ソウヤー「はい、私のアシスタント的なことをしてくれています」

野田「ソウヤーさんの本を読んでいると、非常に「知性」というものにこだわっているという印象を受けるのですが?」

ソウヤー「人間以外の「知性」ということですよね?イエス!私は現実的に考えて、私の生きている間には星間旅行・時間旅行は不可能だと思っているんです。でも、ファーストコンタクトはひょっとしたらあるのでは?と思っているんです。E.T.との遭遇ですね。また、人工知能ができる可能性もあると思っています。この点では日本は最先端をいってますね。私は著作『スタープレックス』で、知性のあるイルカやチンパンジーを書きましたが、人間は今まで、他の知性に対してアンフェアだったような気がしているんですよ」

野田「それら以外に、知性を持っていそうな動物というと何が浮かびますか?」

ソウヤー「そうですね、50年後くらいには知性のある牛、なんかが作られるかもしれません。あるいは500年後には、知性のあるトウモロコシなどが作られているかもしれません。まさに考える食料、ですね(笑)。霊長類は、そのままでは知性化することはないでしょう。人間が何かの手を加えなければ」

野田「AIについてはどうお考えですか?」

ソウヤー「先ほどのパネル(「カナダSFの現在」)で、パネリストの方が私の作品のAIの部分を褒めてくれてうれしかったです。私は実はひとつ恐怖を抱いていることがあるんです。それは、人間が人間よりも高度な知性を持ったものを作ってしまうのではないか、という恐怖です。もう一つは、AIを、よく考えもせずに作ってしまうのではないか、ということです。例えば原爆のように。そして、その技術は確かにすごくても、それを人間が使いこなせないうちに人類がそれによって滅亡してしまう、などということがないかと。原爆の場合は、尊い犠牲のあと、何十年もかけて、それを「使わない」という知恵を人間は産み出しました。しかし、知恵を持つ機械を作り出してしまったら、時間をかけて人間が安全弁を生み出す前に、地球がホロコーストになりかねない。ノーテルの村上社長とお話してた時に映画「マトリックス」の話になって、彼は「あの世界は非常に怖い。人間から知性を奪い取ってしまう」と言っていました。ディズニーの「バンビ」のようなかわいい映画を作ってくれたらいいのに(笑)」

野田「人間の意識ほか全てをコンピュータに入れることは可能だと思いますか?」

ソウヤー「知性を機械に入れるのは技術的には可能だと思います。今世界にある危険は、「人間」そのものだと思います。大昔は、人間は野生の動物を敵として倒せばよかった。でも今は、自分達が作ったAIが我々を襲ってくるかもしれない」

野田「著作『フラッシュフォワード』で、コンピュータが未来を計算して予測するシーンがありましたが、あれは可能でしょうか?」

ソウヤー「はい、コンピュータの処理能力は、今、1年半ごとにどんどん倍増しています。今でもゲームで都市をシュミレーションできますよね?今世紀末にはあらゆる可能性をシュミレートすることができるようになるでしょう」

野田「自分の意識をコンピュータに入れてしまいたいと思いますか?」

ソウヤー「そうですね、それを選ぶかもしれません。しかし永遠に死なないという選択肢があれば、それが一番いいですねぇ(笑)。野田さんがやってらっしゃる微生物や遺伝子研究が、この問題について今世紀中になんらかの答えを出してくれるでしょう」

野田「E.T.は、いると思いますか?」

ソウヤー「91年にその質問を受けていたら、イエス!と答えていたでしょう。宇宙は広大で、可能性もたくさんありましたから。が、この10年で、多くの科学者が研究した結果、ずいぶん状況は変わってきました。実にさまざまな偶然が重なって、生命ができた、とされる考えです。例えば、月は地球と比べても大変大きい。月があの大きさであの位置にあったために、今の地球環境がある。月があそこになければ、生命は生まれなかったでしょう。現に、いまだにE.T.を求める試みはいろいろされていますが、まだなにひとつ成功していません」

野田「E.T.とのコミュニケーションは可能だと思いますか?」

ソウヤー「私は日本語が5つしかできません。でも同時通訳を通して、あるいは手ぶりなどでコミュニケーションができます。でも100%ではありません。どんなに親しい間柄の人でも、コミュニケーションに障害はある程度あります。ましてや、異星人だと、それはとてもとても難しいでしょう。例えば、イルカにも知性はありますが、それでも文章ひとつ作ることはできません。チンパンジーとも、簡単な会話はできても、人生の意味について語り合うことは不可能です。もし異星人とコミュニケーションするとしたら、大使を立て、大使同士のコミュニケーションということになるでしょう。長い時間をかけて、ゆっくりとわかりあうことになるでしょう」

野田「一番好きな異星人は?」

ソウヤー「自分が書いたものの中では『スタープレックス』の<イブ族>。複数の生命体が組み合わさったものです。他の作家の書いた異星人では、ラリー・ニーヴンの諸作に登場する宇宙人が好きです。他の本を読んでてもそうですが、厳密な異星人というのはあまりいないですね。例えばスポックは、アクセントのないイギリス人みたいでしょ(場内爆笑)。本当の異星人は、もっともっと考え方が全然違うはず。例えば「ソラリスの海」は異星人として一番よくできていると思う。惑星そのものが、ひとつの生命体という考え方。ほかにはなにもない、というのがすごく面白い。こういうものとのコミュニケーションは、なかなかうまくいかないでしょう」

野田「『ソラリス』と言えばご自身でも意思疎通困難な異星人を書かれてますね。『スタープレックス』の暗黒物質の……」

ソウヤー「??…ああ、ダークマター!忘れてました!(場内爆笑)」

野田「あのアイデアは大変素晴らしいと思います。レムとは違い、あの暗黒物質人とは困難ながらも意思疎通が出来ていましたが」

ソウヤー「実は私自身は異星人とのコミュニケーションには悲観的意見です。でも、もしできたら、非常に面白いと思います。神についてや、生命の目的はなんなのか、などの意見をぜひ聞いてみたいです、きっと全く違う考えが出てくることでしょう。そもそもSFとは、全く異なる見方を導入するものです。私はカナダ人として、フランスとイギリスの文化が複雑に混ざり合った環境で生まれ育ちました。私の中のカナダ人は、ひょっとしたらそういうコミュニケーションはできるかもしれないと思ってるんです」

野田「『スタープレックス』に出てくる、「人間原理」についておうかがいしたいのですが?」

ソウヤー「実は私は、宇宙が機能するには、知性が必要なのではないかと密かに考えているのです。もちろん本当かどうかはわかりませんが、もしかすると全ての知性が宇宙の創造にかかわるのではないか、と。もしそうだとしたら、知性を持った生物というのはとても大きな特権を持っている、と同時に重大な責任を負っていますね。私はそうであってほしいと思っています。人間の心、というものが、何か意味あるものだと思いたいです」

野田「『フラッシュ・フォワード』で、未来を選んでいく自由意志についてかかれていましたが、自由意志はあると思いますか?未来はもう決まってしまっていると思いますか?」

ソウヤー「実はあの頃、私自身がその問題について悩んでいたのです。あの本にも書きましたが、未来は映画のフィルムの終わりのコマのように、決まっているんだという考えがあります。でもやっぱり、私は人間が選択肢の決定権を持っていると思いたい。そしてそれなら、決定には責任を持たねばならないというのも事実です」

野田「どの説が正しいと思いますか?どうあって欲しいと思いますか?」

ソウヤー「正しいのは、おそらく「将来は固定されている」。この可能性が高いです。でも、あって欲しいと思うのは、やはり人間が未来を選ぶ、というほうです。私は「猿の惑星」が大好きで、さっきもこのオモチャを買いにいってたんですが(笑)、これも「将来は変えられないのか?」がテーマですね」

野田「21年後の未来はどうなっていると思いますか?」

ソウヤー「今、私たちはこうしてカナダ大使館の中に集っていますが、未来には「国」というものが存在しなくなっているのではないでしょうか。国際的に、今より平和になっていて欲しい。隣人は、今隣に住んでいる人だけではなく、今や世界中の人々が隣人でしょう。どうなるかわからないのは、宇宙開発がどのくらい進むか?ということ。月にまた人が行くのか?いずれ月に町ができて、住むことができるようになるか?ということ」

野田「何か個人的なことについての将来のビジョンは?」

ソウヤー「書きたいものを書きつづけていければそれでラッキー。そして世界中の読者がそれをサポートしてくれれば、それで十分です」

野田「では、21年後も、内田さんが訳してくださる、ということで(笑)」

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 ここから、場内からの質疑応答。(質問者は、私がお名前を存じてる方だけ、名前を入れさせていただきました)

谷田貝「ソウヤーさんの考える「知性」の定義とは?」

ソウヤー「私は「知性」と「意識」を区別して考えています。例えば、カラスは大変頭のいい動物ですが、将来のことを考えたりはしていないと思います。しかし、チンパンジーに鏡を見せて、そのあと額にペンキをぬって鏡を見せると、鏡の自分ではなく、自分自身の額を触るんですね。さきほどのことを覚えているんです。でもゴリラはこれができません。長期的思考ができないのです。私は、長期的思考ができるというのを「知性」と呼んでいます」

質問者(京フェスでもお会いした方?書店員とおっしゃってたような)「外国でも、ブックデザインによって本の売れ行きは違いますか?」

ソウヤー「はい!私は早川書房さんに言ったんですが、カナダの私の著作のデザインより、日本のデザインのほうがずっといいです!本の表紙には2種類ありまして、まずひとつは宇宙船、宇宙人など、本のテーマがそのまま描かれたもの。ここだと(舞台の頭上に、彼の日本で出版されてる著作全部の表紙のイラストが大きなパネルになってかかってた)『さよならダイノサウルス』とか。もうひとつは、『ターミナル・エクスペリメント』のような抽象的なイラスト。私としては前者のほうが好きです。確かに、テーマがそのまま出た表紙だと、SFファンしか読まないかもしれません。でも、オンライン書店では、実はお客は表紙だけで判断する、ということになりますね。ネットでは現物を手に取れませんから。でも私は作品がいいかどうかで判断して買って欲しい。オンライン書店で、すべて表紙だけで判断されることには、憂慮しています。英語ではこういう言い方があります。「本を表紙だけで判断してはいけない」これは、よく言われる「人を外見だけで判断してはいけない」というのと同じですね」

井手「科学者と宗教に対して、どのような考えを持ってらっしゃいますか?」

ソウヤー「アメリカでは、これは非常に大きな問題点となっています。日本の憲法は世紀を分離していると、今朝の読売新聞に書いてありましたが(ここちょっと違うかも)。私は神がこの世界を作ったという考えは作品に持ち込まないようにしています。これは宗教家の仕事ですから。キリスト教は価値ある考え方です、これによって海外では道徳を教えています。しかし、日本を見ていると、道徳を教えていながらも、宗教色は大変少ないですね。これはとても居心地のいいものです。私自身は、10代の頃は無神論者で、傲慢でしたが、今はとても謙虚になりました。神がいるかいないかは、そのどちらかしかありません。しかしどっちにしても、圧倒的なことです。もし、いないのなら、私たちは自分自身がもっと責任を持たねばなりません。神も宇宙人も、いるかいないか、私たちはその答えを見つけるまで探しつづけるでしょう」

質問者「先ほどのオンラインの表紙の件ですが、ではカナダのオンライン販売している本の表紙を、日本の表紙と替えてみたらいかがでしょう?」

ソウヤー「それは大変よい考えですね!(笑)実はアマゾン・コムでは、私は世界中の表紙を載せているんですが、日本の表紙が一番評判がいいです。さらには、第1章も全部オンラインで読めるようにしてあります。そのアイデアは相談してみましょう」

質問者「科学の本はお読みになりますか?」

ソウヤー「はい、たくさん読みます。特にサイエンス・ノンフィクションをたくさん読みます。私の仕事の1/3は、今のサイエンス・テクノロジーを研究することです。雑誌、ドキュメンタリーTVなど、なんでも見ます」

質問者「ファンレターは英語で書いたほうがいいですか?」

ソウヤー「そのほうがいいですが、日本語でも大丈夫ですよ。日系カナダ人の友人が大勢いますから、彼らに訳してもらいますから」

質問者「カナダの小説は、科学のことが入ってるものが非常に多いような気がしますが、将来、文学の分野で、ジャンルというのはなくなるのではないでしょうか?」

ソウヤー「実際おっしゃるとおりですね。カテゴリというのはアメリカ人が考えたことです。カナダの人口は全部で600万人で、そのうち300万人がトロント(でよかったかな?)に住んでいます。土地は広くても、非常に人口の少ない国です。そんな国では、ジャンルというのは無意味です。カナダの書店では、私の本は普通の小説、一般書として売られています。特にSF、というくくりはありません。私はカナダではごく普通の作家として知られています。しかしアメリカでは、私のことを知ってるのはSFファンだけです。私はカナダでの読まれ方を好みます。文学は文学です」

湯川「さきほど少し国の話が出ましたが、世界政府ができるのは大変だと思いますが、暴力でしかできないのでしょうか?」

ソウヤー「私もこういったことに暴力がかかわるのには心を痛めております。カナダはとても平和なところで、イギリスとフランスという二つの文化が、内戦なしに融合したという素晴らしい歴史を持っています。多文化が、うまく効率的に機能している国です。国によっては、暴動は当たり前のようですが、カナダにはそういったことはめったにありません。確かに不満分子は避けようがありません。でも、私たちはこの惑星の将来のことを考える必要があります。環境のことなどは、国ごとには解決できませんよね。暴力ゼロというのはムリでも、それを目ざしたいですね」

質問者「今後書きたいと思っている小説の題材は?」

ソウヤー「なんでも全て!いずれは全てを書きたいですね。今はネアンデルタール人に関するものを書いています。ナノテクにはあまり関心がありません。理解が難しいので。影響がどう出るか、まだわからないので。野田さんのなさってる、遺伝子学、微生物学もいずれ書いてみたいですね。『フェルマーの最終定理』を書いた人がいましたが、あのあたりも興味がありますね」

質問者「もし、自著の映像化の話がきたら?」

ソウヤー「実現したら、かなりお金が入るからそれはうれしいですね(笑)。でも、自分の考えを一番端的に表現できるのはやはり「本」という形なので、もし映画になるというのならまあ、お金くれるなら好きにやってくれ、という感じでしょうか(笑)。実はまだ未訳の本ですが、ひとつ映像化の話がきているものがありまして。でもいつ話がポシャるかまだわかりませんから。そうですね、『スタープレックス』なんか、映画化したら面白そうですね」

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  ぽんぽんと歯切れよいお答えで、どんな質問にもサクサク答えてくださったソウヤーさん。野田さんが質問に詰まったときなども、絶妙のフォローをいれて下さるなど、実に温かで気さくなお人柄がしのばれる、とてもよいインタビューでした。彼の大きな考え方には、いろいろと非常に感銘を受けました。


 この後すぐ17:30より、会場の外でレセプション、とソウヤー氏には偽って、実はサプライズバースディパーティが!彼がスピーチをはじめようとするやいなや、スタッフがクラッカーの嵐を浴びせ、会場から拍手!そしてセミナースタッフ発注の恐竜型の超ビッグなバースディケーキ(1メートルくらい?)に驚く彼の周りで、全員で「ハッピーバースデー」を合唱。カナダ大使館からのご好意で、とてもおいしいカナダ産の白ワインと赤ワインが配られ、ワインと先ほどのケーキ(中身はチョコレートケーキ)でみんなとてもごきげん(笑)。私が3杯もワインを飲み、2皿もケーキを食べたのはひみつだ。なごやかで楽しい雰囲気のパーティでした。激務でやつれたと評判の、茅原ちゃんなどとあれこれ書店話をしたり。

 私は『フラッシュフォワード』に、ご本人のサインをいただき、超感激!ああっ、英語ができればいろいろ話かけられたのに〜(涙)。「『ダイノサウルス』、すっごく面白かったです!!」とか>そのくらいしゃべれって。野田さんたちスタッフが、「進化かるた」をプレゼントしてました。これ、イラスト綺麗だし面白そうでしたね。訳者の内田さんからもサインを頂きました。ありがとうございます〜。『アフサン』復刊、がんばって売ります&買いますから!!

19:00に会場が閉まるというので、名残惜しかったが外に出る。各自解散。私は赤い顔でまっすぐ帰りました(笑)。

 いつもながら、楽しいセミナー(特別編)でした。本会にも参加しますので、そのときはまた皆様よろしくお願いします。スタッフの皆様、カナダ大使館の皆様、ソウヤーさん、本当にありがとうございました!

(このレポに間違いなどありましたら、メールか星間宇宙船にてお教えて下されば幸いです)by安田ママ 01.5.1