12月 私の99年ベスト10

  さて、この時期どこでもやってることで芸がなくて恐縮だが、今年のワタクシ的ベストを出してみようと思う。といっても、今年出版されたものからではなく、個人的に今年読んだものの中からのベストなので、皆様にはなんの参考にもならないかとは思うのだが。

 ざっと数えてみたところ、今年読んだ本の総数(12月12日現在で記録の残ってるものに限る。コミックは除く)は、76冊。ひと月平均6冊ちょっとかな。うーん、もう少し読みたかったなあ。「これはゼッタイ読みたい!読もう!」と思って買った本がまだ積ん読なままになってるものも多いしなあ。

 今回のベストを選ぶにあたり、今年中に読んでいたらゼッタイにベストに入ったと思うのだが、タイムリミットになってしまったものがいろいろあり、非常に残念であった。題名を挙げるとこのあたり。

 ☆『永遠の仔』天童荒太
 ☆『木曜組曲』恩田陸
 ☆『赤い預言者』オースン・スコット・カード
 ☆『冷静と情熱のあいだ』江國香織・辻仁成
 ☆『幻獣遁走曲』倉知淳
 ☆『瞬きよりも速く』レイ・ブラッドベリ

 などなど。他に既刊本も山のよう(笑)。来年まで持ち越しね。

 それでは、ベスト10の発表です!



☆第1位『バトル・ロワイアル』(高見広春、太田出版)

 1位はもう考えるまでもなくこれに決定!これしかない!あれほど夢中になって本に没頭したのは、ひさびさの体験だった。体中の血が熱くたぎるような感覚にしびれまくった。生と死という絶体絶命の選択の中で繰り広げられる悲劇につぐ悲劇。非常にブラックな話ではあるが、でもこれは間違いなく心揺さぶる感動の傑作である。著者の荒削りなパワーがびしばしに感じられる。私が読みたいのは、まさにこういうパワーを感じさせる小説なのだ!あ、蛇足だが、これの映画化には断固反対だ!ヤバすぎるぞ!それに、あれは映画にしなくても、読んでれば十分頭の中で映像化できます。

☆第2位『時計を忘れて森へ行こう』(光原百合、東京創元社)

 これもまた傑作。というか、モロ私の趣味!(ちょっと少女趣味入ってます、すみません)森の匂いのする、優しく暖かいミステリ。『バトル・ロワイアル』とは実に対照的。『バトル〜』が影なら、こちらは光。こんなに美しいミステリに出会えたのは収穫であった。光原百合は、今後ゼッタイ注目の作家だぞ!

☆第3位『ノスタルギガンテス』(寮美千子、パロル舎)

 イメージの美しさで言えば、間違いなく今年のベスト1。小難しい言葉は一切使わず、小学生でもわかる平易な言葉しか使っていないのに、どうしてこんなにまで豊かな表現ができるのだろう!自分の頭が一挙に宇宙にまで広がるような感覚。しかも、正のベクトルじゃなく、滅びや死などの負のベクトルの美しさ!何度も読みたくなる宝物のような一冊。

☆第4位『ななつのこ』(加納朋子、創元推理文庫)

 いやあ、デビュー作がいきなりこんな傑作だったとは知らなかった。凝った構成、人間の心のひだをしっとりと描く味わい、さりげない小さな謎とそのあっと驚く謎解き、文句なしに彼女の代表作でしょう。胸にしみじみとした思いを残す、良質のミステリ。好みです。

☆第5位『てのひらの闇』(藤原伊織、文芸春秋)

 2年ぶりの藤原伊織は、やはり期待を裏切らなかった。一見世捨て人のような、でも実は熱い男のハードボイルド。く〜っ、カッコイイよオジサン!と先日人に言ったら、「安田さんてオジサン趣味なんですか?」と聞かれて愕然とした。そ、そうだったのか?(笑)
 世間の常識なんてくそくらえ。自分の正しいと思うものを信じて生きる、主人公とその周りの人物たちの潔さにしびれた。

☆第6位『恋愛中毒』(山本文緒、角川書店)

 今年は何冊か彼女の本を読んだが、やはり彼女の最高傑作はこれに尽きるでしょう。彼女の毒がじわりじわりと心に染みてきて、最後にガツンとやられます。

☆第7位『キリンヤガ』(マイク・レズニック、ハヤカワ文庫SF)

 好みで言うと『クロノス・ジョウンターの伝説』や『ジョナサンと宇宙クジラ』あたりの方が好きなのだが、今年のベストに入れるとしたらやはりこれでしょう。人によって、これほど受け取り方の分かれるSFも珍しいのでは?実にさまざまな視点から読める一冊。しかも、コリバはパロディにすると最高だ!(失礼)

☆第8位『象と耳鳴り』(恩田陸、祥伝社)

 これは純然たる本格推理短編集。全編を通して、どことなく、海外ミステリの古典みたいな古めかしい空気が漂っている。本格ファンもうなる謎解きがたっぷり楽しめる短編集。でも、やはり恩田陸らしさが随所に現れていて興味深い。普通のミステリだと、最後に謎が解けてああスッキリ、で終わるのだが、彼女の場合は謎が解けてさらになお謎が深まってしまうのだ。迷路から出たと思ったらそこは迷路の入り口だった、で終わるような読後感。これが、好きな人にはたまらないんだよなあ〜!

☆第9位『神様のボート』(江國香織、新潮社)

 読んだ直後はそうでなかったのだが、あとになってじわじわ効いてきた一冊。母と娘、ふたりだけで神様のボートに乗ってふわふわと夢と現実の隙間を漂う。そのそこはかとないさみしさが、静かに心に染みてゆく。いつも一緒にいたふたりが、だんだん離れていくところも切ない。このラストも、人によって読み方が分かれるところ。

☆第10位『MISSING』(本多孝好、双葉社)

 今回の乱読参照。日常の謎派路線の、叙情ミステリといった雰囲気の一冊。なんといっても、これがデビュー作だというから楽しみではないか。今後の活躍におおいに期待したい、注目の作家。今年の『このミステリーがすごい!』第10位にもランクイン。めでたい!

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11月 大島弓子 Part2

 

11月初旬、めでたくほぼ4年ぶりに(!)、大島弓子の新刊『雑草物語』が発売された。それを祝って、今回は15号から保留にしていた大島弓子特集、パート2だ!

 現在彼女は、角川書店のPR誌『本の旅人』にエッセイコミック「グーグーだって猫である」を連載中である。ほんの4ページだけだが、彼女の近況がわかって、ファンにはとても嬉しい贈り物である。

 どうもこれによると、大島さん病気をなさってて、入退院を繰り返していらっしゃったようだ。道理で、これじゃ新刊が出ないハズだ。 彼女の新作が読めないのはとても寂しいが、ゆっくり気力と体力を養って、また一日も早くあの魅力的なマンガを私達読者に届けて欲しいと切に願っている。

 非常におおざっぱな分類&独断と偏見で恐縮だが、大島弓子の作品を前期・後期で分けると、前期にはかなり恋愛的要素を盛り込んだ作品が多かったように思う。もちろん、家族・親子の愛情をテーマにした作品(「雨の音がきこえる」)なども存在するが。

 が、『綿の国星』発表以後から、徐々に彼女の取り上げるテーマは拡大していったように思える。もっと広く、人間″そのものを取り上げているといえようか。主人公の性別、年齢、境遇、すべててんでばらばら。ただ、その登場人物たちの繊細な心の、かすかなちりちりとした痛み、そんなものを大島弓子は追い続けている、そんな気がしてならない。そして、その痛みは読者の心に、なんともいえぬ切なさを残すのである。

 彼女の描く人々には、一種の傾向がある。それはあまりに繊細であるがゆえに、社会の枠からはみ出してしまった人間たちだ。8歳なのに大学生に恋してしまった小学生(「恋はニュートンのリンゴ」)、心の傷ゆえに過食とダイエットを繰り返す女子高生(「ダイエット」)、予知夢を見てしまう女の子(「水の中のティッシュペーパー」)などなど。彼らは何も悪いことなどしていないのに、周りから受け入れられず、奇異な目で見られてしまう。これは心の奥底に、どこか社会とうまく折り合いをつけられないと感じている私達自身である(誰もが密かにそう思ってる、というのは私の憶測でしかないが)。

 しかし、そんな彼らがささやかなハッピーエンドを迎えるとき、私達の心もふんわりやさしく、この現実世界と融合するのだ。

 彼女の作品の中でも特に好きなものを具体的に取り上げて紹介する。

☆「夏の夜の獏」(『つるばらつるばら』収録、角川書店)

 主人公は小学3年生の男の子。だが、彼は「精神年齢のみ異常発達をとげて成人になってしまった」。ゆえに登場人物はすべて、彼から見た「精神年齢」の姿で描かれるという、実にユニークな試みのマンガである。まあ、猫を人間の姿で描いた『綿の国星』の作者ならさもあらんという感じだが。

 ボケたおじいちゃんは赤ん坊、父母は子供、好意を持っているお手伝いさんの女性と自分のみがオトナという外見で描かれるのは、ひとつの家族が静かに崩壊する様である。彼は一生懸命背伸びをして周りの人々を見下ろしているのだが、ラストで道端で座り込んで号泣する姿がいじらしくて泣かせる。

☆「秋日子かく語りき」(『秋日子かく語りき』収録、角川書店)

 突然の事故で死んでしまった54歳の主婦が、たった一週間だけという約束で、秋日子という女子高生の体に入って巻き起こす珍騒動。

 おばさんが体験する、つかの間の青春(彼女は精神的には現役女子高生よりずっと熱いハートを持っているのだ)に、あったかな気持ちにさせられる。少々の切なさと共に。

☆「ロングロングケーキ」(『秋日子かく語りき』収録、角川書店)

 これは、大島弓子の書いたSF作品である(笑)。彼女の考える、時間・永遠″という概念、宇宙人″という存在、夢″というもうひとつの世界、それらを堪能することができる。でもテイストはいたっていつものほのぼの&ちょっと切ない系。世界はいくつもあるのだ、という彼女の考えには確かにSFマインドを感じる。

☆「夢虫・未草」(『大島弓子選集』10巻収録、朝日ソノラマ)

 小学生の林子の父が、ある朝突然離婚宣言。しかも、父の相手は同級生の男の子(悪ガキ)の母親だった…。揺れる子供心を描いた作品。
大島弓子はよく子供をマンガに登場させるが、これがまた実にうまい。変に理想化したりせず、等身大の傷つきやすい子供の心理をさらりと描いている。

初めて読んだときは林子に肩入れして読んだが、今読むと母親ふたりの気持ちがわかってやるせない。ラストシーンの、全員そろってお茶を飲む光景(夢なのだが)は、実は私の理想だったりする。

☆「水枕羽枕」(『大島弓子選集』10巻収録、朝日ソノラマ)

 これは姉と妹の、フクザツでへそ曲がりの姉妹愛を描いたもの。姉妹なんてこんなものよね。ケンカばっかりなんだけど、本当は誰よりもお互いの本音をわかっていて、さりげなく優しい。照れくさいから表には出さないけどね。よくわかるなあ、このイジワルで屈折した姉の気持ち(笑)。私も姉の立場だから。

☆「固い青い渋い」(『ロストハウス』収録、角川書店)

 これは私にはかなりショッキングな問題作であった。なぜなら、私も主人公たちと似たようなことを考えてた時期もあったから。

 大学の時に、カントリーライフに憧れ、過疎地で自給自足を始めたカップルの物語。ユートピアへの夢といやおうなしの現実、そして挫折。でも救いはたった一つの言葉だったのだ。いろいろと考えさせられる話。

☆『雑草物語』(角川書店)

 お久しぶりの新刊は、短編小説やインタビューなどが入った、かなりお得な一冊。ちゃんとしたマンガはこれ一作だけだが。

 雑草のようにたくましく、ビンボー生活をしているカップル。が、彼女のほうがいきなり二千億円(!)を相続することになる。周囲の豹変ぶりに翻弄されるふたり…。

 心暖まる結末がいかにも大島弓子らしくて、ホッとさせられる。彼女は豪邸で暮らす生活より、豆を煮たり、野生の木苺でジャムを作ったりする生活を選んだのだ。

 そのイキイキした表情は、人間にとって大切なものは何か?人はなんのために生きるのか?という問いへの大島さんなりの答えを示しているように思う。

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10月 森博嗣座談会

 

 どういうわけか(と言うべきか、やっぱりと言うべきか)発行人の周囲に森博嗣ファンが多いことが判明。これは一度、彼の魅力についてとことん話し合わねばなるまい!ということで、某日、某居酒屋において、「森博嗣座談会」が開催されました。ご協力下さった皆様、ありがとうございました。

 人物紹介 和:和泉澤女史、ざ:ざっぱー、ぶ:あおきぶちょう(仮)、エ:エマノン嬢、安:安田ママ

安:ざっぱーは、森博嗣を全作品読破してるんだよね。どれが一番面白かった?

ざ:『封印再度』。

安:同じく読破してるぶちょうは?

ぶ:『まどろみ消去』。短編集が好きだったんですよ。『地球儀のスライス』も。長編だとね、ダレる(笑)。作風のせいかな。あの人、ってちょっと普通つズレてるところがあるでしょ。そこがつらくなっちゃう。けっこう森さんもウンチク好きじゃないですか、京極とは違った意味で。

安:エマノンはどれが一番?

エ:まだ『詩的私的ジャック』までしか読んでないから…。好きなのは『笑わない数学者』かな。トリックが読めるとはいえ、「そりゃないよ」というのがなかったから。

安:私は『すべてがFになる』のトリックはいまだに納得いかない(笑)。

ぶ:シリーズの最後に、また『F』の登場人物が出てくるんですよ。最後につながるというか。

安:『F』がデビュー作だけど、最初に書いたんじゃないんだってね。

和:ああ、それなら納得いくな。『F』はデビュー作にしては書き慣れてる感じしたから。

エ:「ぱふ」のインタビューで読んだんですけど、この人30幾つになったらデビューしようと思ってたんですって。お金を得る手段として、小説を書こうと思って。で、本当に予定通りデビューしてしまった。

安:すごーい!

ぶ:この人、HPの日記で「(原稿を)今日は○%あげた。今日は○%あげた。○日で終わるだろう」って書いてて、ホントにその通りに書き上がってるんですよ!

安:どういう人なのいったい!?(笑)

エ:あの人にとって、「予定」は「決定」なんだよ。担当の人、ラクだろうなあ(笑)。

和:もうプロットとかみんな頭の中にあって、全部出来上がっちゃってるんだよね。

ぶ:で、それをプリントアウトするだけ。(笑)

和:そう。でなきゃそんなの出来ないよ。

エ:「大体何文字くらいの訂正になるだろう」とか言うとだいたい合ってるんですよね。

ぶ:ホントにもう理系の人だよね。文系じゃない。

安:作家のカガミだね!ちょっと○栖川さんとかは見習え?(笑)

エ:京極と対談させたら面白いでしょうねえ〜(笑)。

和:最後まで話かみ合わないだろうね。会話が成立しないかも。

ぶ:お互いウンチク語って終わり、みたいな(笑)。


安:で、結局犀川先生と萌絵はどうなるの?最後はくっつくの?

ざ:それはやっぱり言えないです、やっぱり(笑)。

和:あのじらし方、うまいよね。

ぶ:ヘンに少女マンガ的要素がうまいの!(笑)

和:この人、絶対少女マンガ読んでるんだと思う。

ぶ:萩尾望都の大ファンなんですよ。

安:そういえば森さんて昔マンガの同人誌やってたんだよね?

エ:けっこう一部では有名な同人誌だったらしいですよ。奥さんも漫画家だし。

和:読んでてそのまま、頭の中でマンガに変換できるよね。だからって無理があるわけじゃない。

安:非常に視覚的だよね。萌絵の着てる服を上から下までびっちり書いたり。

和:そのへんも理系だよね。

ぶ:「美しい女性」みたいなあいまいな書き方じゃないんだよね。

安:イヤリングとかまで細かく描写してる(笑)。

ぶ:これ、男の人が読んでも面白いのかな?

安:いや、男性のファンも多いよ。

和:文章が論理的だからかな。

エ:女の子には別の意味で楽しめる(笑)。

ぶ:キャラ系の?(笑)

安:う〜、先が楽しみ〜!

和:男の人にはまだるっこしいかもね。「さっさとやっちゃえよ!」みたいな(笑)。女の子は、シチュエーションを楽しめるけど。

ぶ:だから少女マンガなんですよ〜。

安:森さんって何の教授なの?

ぶ:建築。

和:やっぱりそうなんだ。犀川教授そのまんまだよね。

安:主人公2人のキャラの性格って、つまりは森さんそのものだよね。

エ:いっぺんあの人の思考回路を体験してみたい(笑)。

ぶ:電子回路が入ってるんじゃないかな(笑)。

エ:暗算とかすごくできそう。

ぶ:メディアファクトリーの『ミステリィ工作室』面白かったですよ。理論と理論と理論でこういうふうになるっていう思考形式がよくわかる。
和:もう考え方が常人と全然違うよね。考えてるルートが全く違う。

エ:一回本読むと、全部頭の中に入っちゃうから、もう読んだ本は手元にいらないんですって。

安:脳にハードディスク入ってるんじゃない!?(笑)

エ:私なんて、ミステリ読んでも何年かたつと犯人誰か忘れるのに。

和:そ、それは…(笑)

安:でもミステリ作家で記憶力いいと、同じネタのパクリとかしないで済むからいいよね。

和:○○なんてしょっちゅうだよ(笑)。ま、量産する人は仕方ないけど。

安:森さんの本って、ミステリのトリック的にはどう?及第点?

和:他の登場人物のこともきちんと書くからアンフェアじゃないよね。

安:書き方が非常にフェアだよね。わざとネタ隠し持ったりみたいな姑息なマネしないの。

エ:見えてなかったとか(笑)。

安:全部ネタを公正明大に出しといて、それで「さあ、問題解いてみなさい」みたいな。

和:与えられたヒントの中から考えなさいと。

ぶ:やっぱりこの人、「先生」なんですよ。

和:そうそう、数学の問題みたいな感じだよね。

エ:この人、あまりトリック重視じゃないと思う。『笑わない数学者』なんか、読んでてだいたいトリックわかるじゃないですか。でも、本人全然気にしてないんですよね。そこが潔いというか。トリックによっかかってない。

和:乱歩やポオやクリスティとか昔の人ってみんなフェアだったんだよ。最近の新本格の人って、割とずるいの多いじゃない。その点では今、日本の新本格と言われる人の中ではかなり珍しいタイプかも。

エ:森さんは、あの2人のキャラを書くのに重点をおいてるよね。

安:私は論理や推理重視のミステリってあまり好きじゃない。そこだけにこだわる作家っているじゃない?

和:それ以外は全然無視してるから、文章が雑多になる。

エ:森博嗣は、文章が簡潔なとこが好き。

安:非常に読みやすい。読んでてわかんなくなって前のとこ読み直す、ってことがまずないよね。

一同:そうそう。

エ:親類関係とかが複雑で、「あれこれ誰だっけ?」って登場人物表見直したりしなくていいし(笑)。

ぶ:この人ってミステリにありがちなエログロが全くないですよね。爽やか系?(笑)

和:おどろおどろしいところがない。

ぶ:理系だからかな。

和:そのへんが私には物足りないかな。結局殺人の動機ってお金や愛情のもつれが一番大きいじゃない。

ぶ:この人はどっかズレてるから(笑)。

安:新しいシリーズはどう?

ぶ:カンペキ、キャラ中心。コバルト文庫で出てもおかしくない。

安:コバルトお〜!?(笑)

和:今度のシリーズは、彼のよさが生かされてないと思う。なんか、キャラを作るのにすごく無理してるのがわかるんだよ。やりたいことはわかるんだけど。でもこれを続けるのはつらそうだよ。

ぶ:『F』を読んでいきなり『黒猫の三角』を読んだら、「なんだこりゃ!?」と思うと思う。犀川シリーズが「マーガレット」だとしたら、黒猫は「なかよし」なの。

安:「なかよし」〜!?(絶句)…で、主人公は誰なの?

ぶ:言えないの。

安:ええっ???

エ:でも、次が出たらやっぱり買っちゃうでしょ。

ぶ:うん(笑)。

安:でも、まだこのシリーズ続くんでしょ?

エ:年内にあと何冊出るってもう決まってますよ。2000年まで予定がたってるの(笑)。

安:ははは!鬼が笑うね。

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9月 ださこん2レポート!

 なんかここんとこ、特集がレポート続きで恐縮です。要するに、イベントに参加してばっかりってことね(笑)。これはいわゆるネットSFもののお泊まりオフ会。前回にも増して、更に内容充実の、あっという間の一夜でありました。

 時は8月28日19時。東京の旅館に集うことなんと70人!前回よりパワーアップしているのだ。
オープニングのu-ki総統の「ださこんはノンポリシーで」というセリフに笑いつつスタート。

 「東雅夫×寮美千子対談」では、とにかく寮さんのキャラに皆呆然。なんたって、あの『ノスタルギガンテス』『星兎』の静かな世界からは想像もつかない、元気なお方!とにかく爆笑対談でありました。

 なぜ小説を書くに至ったのかという経歴も驚きの連続。自分にとっての創作は、「自分の心に浮かんだ映像をいかに伝えるかという、そこに至る地図を書くこと」というセリフに大いに納得。だから、あんなに鮮やかに読者の頭の中に映像が見えるのね!

 その他、うっかり(笑)アリゾナに行ったお話や、アンナプルナに登ったお話なども。砂、鉱物、骨がお好きというのにも納得。普通、自分の飼い猫の頭蓋骨は飾らないと思います(笑)。

 乾杯、雑談モード中に寮さんにサインを頂く。とても素敵なサイン!

 21時、架空書評勝負。これは架空の本を何冊かでっちあげ、その書評をネットでアップし、優劣を競うという実にユニークな企画。それぞれ書いた人の個性が出てて、非常に面白かったです。満場一致で、1位は私も入れたお給仕犬さんに決定。ホントにこれ、超笑えました。おめでとうございます!

 22時頃、恒例の古本オークション開始。私は岩崎書店のジュブナイルSF、通称「ゴセシケ」(正しくは『合成怪物』)をダイジマンと激しく競り合う(笑)。みんなに、「おお、銀河通信仲間割れ!」と大ウケ。結局、私が降りてダイジマンに譲ってあげましたが。あとは13冊ほど文庫を購入。何買ったらいいのかわからないので、横でダイジマンから「あれいいよ、買え」と言われたものだけ落とす。

 23時半ごろから、部屋の中央あたりにて、u-ki総統vs鈴木力による待望の「もてない男たちの知らない『もてない男』」勝負スタート。これはネットでお二人が『もてない男』という本に対する意見を戦わせていたものの最終決戦だったのですが、総統の説はネットよりむしろ本人の言論の方がずっとよくわかりました。鈴木氏は逆。この方は文章の方が理論的でキレがあったよう。あれを実益のない本と酷評するu-kiさんと、文学作品と見る力さんの平行線のようでしたが、周りのギャラリーが参加することによって更に議論は白熱化!3時間もやってたってんだからすごいの一言。恋は魔物だ。

 それから夜更けのカードゲーム。これはスタッフが、この1晩のためにわざわざ作ったという、ネットSF本読みのツボをついた超爆笑ゲーム(笑)。要するに某SF古本コレクターの日常をゲーム化したのものなのですが、いやあ、凝っててめちゃいい出来でした。このすごさを、内輪でしかわかりあえないのが残念無念。

 このあたりですでに朝4時ごろ。部屋の前方でノートパソコンを見ながら慟哭している男性諸君を覗きに行く。これは、「Kanon」というギャルゲーに群がる軍団でありました。と、突然涼元氏に「安田ママさん、とにかくオープニングだけでも見てくださいよ!」といきなり拉致され、とうとうと解説&洗脳される。ふうん、なかなか面白そうじゃん(笑)。

 このあたりで既に朝。田中@東洋大SF研の暴言により、急遽、田中嬢の考える「SFもの年齢系列図」を作成することに。彼女の口から次々と飛び出す、とんでもない年齢予想にただただギャラリー大爆笑。悲喜こもごもでした。

 あっという間にエンディング。第2回ださこん大将は、大森望氏と田中嬢が同点決戦投票。見事田中嬢が栄冠(?)を勝ち取りました。彼女の今後の活躍に期待大。

 総統の「ださこん、西へ!」という爆弾宣言で締め。ええ、こうなったら地の果てでもついていきますよ、総統!(涙)おかげさまで、実に楽しいひと晩でありました。

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8月 SF大会やねこんレポート

 去年に引き続き、今年も行ってまいりました、SF大会!今年はなんと、長野県は白馬の山の上にあるホテルを借りきっての合宿形式。7月3日の夕方から始まり、翌日4日のお昼まで、1晩SFにどっぷり浸かろうというスケジュール。今回は、ダイジマンとまゆみ嬢(職場の同僚)との三人の珍道中でありました。

 16時過ぎよりオープニング(やねこん開校式)。ホントなら野外の予定だったのですが、あいにく大雨だったので急遽、B1の和室をどどんとぶちぬいた大広間に会場変更。が、すごい人、人、人!コスプレーヤーは徘徊するわ、赤ちゃんや子供はいるわの大騒ぎ!私達は後ろの方に陣取っていたのであまり舞台の声が聞こえず、せっかくのギャグを聞き逃したのがちょっと残念。きちんと6番まで歌われた、校歌斉唱には笑いました。ここで、星雲賞受賞式。

 18時、企画スタート。私達は「SFセミナーオールナイト」の一コマ目、「巽孝之編『日本SF論争史』出版予告編プロモーションスピーチ」を拝聴。これは、今年の10月頃、勁草書房にて刊行予定の本の、著者本人による内容紹介と解説でした。聞き手は小谷真理氏。恥ずかしながら、初めて聞くことばかりで、とても勉強になりました。ホントにSFって、昔から論争の絶えない世界だったのね。

 サイバーパンクうんぬんから最近のクズSF論争まで、実に詳しく、私のようなド初心者にも楽しめるようにお話して下さいました。

 20時半、私とまゆみ嬢は「神林さん20周年おめでとう 神CON騒祭スペシャル」に参加。ダイジマンはお隣の部屋の「祝 野田昌宏さんペンネーム30周年 SF美術館から人間大学まで」へ。

 入り口で販売してたファンジンをゲットして神林氏ご本人にちゃっかりサインを頂きました。他の方々はビールを開け、座布団を敷いてすでに宴会モード。神林さんを真中に据えて向かって右に司会を務める漫画家の東城和美さん、左にゲストの方がかわるがわる登場して、それぞれにこの20年にまつわるお話をして下さいました。

 しょっぱなのゲストは野阿梓氏。お二人はほぼ同時期にデビューしたそうで、「ハヤカワコンテストの当選通知が、これでも文筆業かと信じられないくらい汚い字だったので、あれが早川書房の便箋でなかったらゼッタイ友人のイタズラだと思った」などなどの細かくてオカシイ、彼らのみの知るデビュー時のエピソードをいろいろ話して下さいました。他のゲストには、先ほどの巽氏などが登場。

 22時、またSFセミナーオールナイトの部屋へ。企画名は「SFコレクターのつくり方」。これ、なんとダイジマンが司会をするというではありませんか!私は当日パンフを見るまで全然知らなかったのでびっくり!水くさいなあ(笑)。

 出演者は牧眞司氏、北原尚彦氏、日下三蔵氏。これ以上のSFコレクターはおそらくいないでしょうってくらいの濃いメンツでスタート。ダイジマンが出演者の方々に質問をふって、それに答えていただくという形式だったのですが、彼はつい司会を忘れてふんふんと聞き入ってしまい(彼もコレクターだからね)、牧さんにうまく軌道修正してもらってました(笑)。とにかくこの部屋そのものがまさにコレクターの巣窟で皆良きライバル同士。出演者と視聴者の区別がほとんどないような状態で、全員がひとつになって語り合う、といった雰囲気でおおいに盛り上がりました。

 ネタとしては、コレクターになったきっかけや、増える蔵書の保存法など。お宝発見のコツは「とにかく棚を見て、背表紙を覚えること、知識を蓄えること。どんな本なのか、見て覚えておくだけでもずっと探しやすくなるから。古本買いのコツは、知識勝負だよ」とのこと。目録買いにも、いろいろとコツがあるなど、いろんなとっておきのお話が聞けました。

 お次は0時半より、「SFクイズとビンゴの部屋」。さまざまな難問に、小浜徹也氏、大森望氏、塩沢編集長、山岸真氏などが解答するのですが、これがむっちゃくちゃ難しい!彼らよりSFに詳しいお方なんておそらく存在しないと思うのですが、そんな彼らでも「う〜ん」とうなって頭を抱えてしまうようなハードな質問ばかり!私なんてもちろん全然わっかりません(笑)。それでも、答えてしまうんだな、この解答者の方々は!もう尊敬の溜息しか出ませんでした。結果は、山岸氏がダントツでトップでした。

 第2部からは、ビンゴを組み合わせたクイズ。視聴者にビンゴをやってもらいつつ質問を出し、解答者はその観客のビンゴの紙とひきかえに、視聴者が喜ぶようなプレゼントを持参し、それをエサにするわけですね。私は偶然にも早めにビンゴとなり、山岸氏のプレゼント(秋発売予定の文庫のサイン本)をいただけることに。ラッキー。

 移動の合間にディーラーズルームものぞきました。『星界の紋章』のアーヴ語の本があまりにおかしかったので買ってしまいました。あとは、風呂場に行く途中の廊下で、1晩中ぶっ続けのアニソンメドレーなどもやってました。真夜中に、大のオトナが「あんまりソワソワしないで〜」とか大合唱してんの。アヤシイよ〜(笑)。

 翌朝8時半、エンディング。インディーズSF映像大賞、ファンジン大賞、暗黒星雲賞などの発表&授賞式が行われました。ださこんで見知った顔が何人か舞台に出てらして、「おお、あの方が受賞!」といちいち驚く私。ギャグとユーモアを交えつつ、やねこん閉校式。

 SFづくしの濃い1晩でありました。SF界きっての大物から直々にじっくりいろんなお話を聞くことができ、贅沢させていただきました。皆様、来年横浜でのZEROCONでまたお会いしましょう!

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7月 99年上半期ベスト

 ベスト10なんてえらそうなものを書けるほどたくさん読んでないのですが、とりあえずこの中で順位なぞつけてみると自分の好きな本の傾向が浮かび上がってくるのでは?と思ってやってみました。基準は「いい本」ではなく、「心動かされた本」です。あくまで自分の好みでセレクトしました。

☆第1位『時計を忘れて森へ行こう』光原百合/東京創元社

 詳しくは今月の乱読参照のこと。読んでて気持ちが暗くなるような殺伐としたミステリが多い昨今、こんなに清々しく心優しいミステリが存在するということが何よりもうれしい。

☆第2位『ノスタルギガンテス』寮美千子/パロル舎

 これも今月の乱読参照。イメージの奔流といった言葉がぴったりの本。これほど激しく感性を揺さぶられたのは久しぶりだった。

☆第3位『クロノス・ジョウンターの伝説』梶尾真治/朝日ソノラマ文庫

 珠玉の純愛タイムマシンSF。ご存知の方は、「美亜へ贈る真珠」路線といえば想像がつくであろう。これはSFファンならずとも、ぜひ読んでみて頂きたい本。愛は時を越えて存在するのだ!心洗われるラブストーリー。書下ろし付き。カジシンの柔らかい感受性が全く昔と変わらないのには驚く。

☆第4位『恋愛中毒』山本文緒/角川書店

 とにかくすごい。読後、溜息しか出ない。オンナという生き物の心に潜む恋という名の暗闇を、ここまで書くか?というくらい深く掘り下げている。しかも説得力あり。今まで、こんなに重たい恋愛小説を読んだことはなかった気がする。

☆第5位『心とろかすような』宮部みゆき/東京創元社

 これも今月の乱読紹介ずみ。人情あふれるミヤベ節全開の、ファンにはたまらない一冊。直木賞受賞の『理由』なんかより断然いいです。もっと、彼女の持ち味が出てる本で受賞して欲しかったな。

☆第6位『たんぽぽ娘』風見潤編/集英社コバルト文庫(絶版)

 絶版本の紹介なぞしてすみません。これは甘口の短篇ばかりを集めた、SFアンソロジー。SFになじみのない人でもとっつきやすい作品ばかりを収録。しかも若い女の子が好きそうなのをうまくセレクトしてある。これがお気に召したら他のこんな本もどうぞ、という紹介もあとがきについてて、とても親切。集英社さん、ぜひ復刊を!

☆第7位『新解さんの謎』赤瀬川原平/文春文庫

 これは強力オススメ本!とにかく爆笑につぐ爆笑!これは辞書版VOWでんがな!辞書のヘンテコな記述から「新解さん」という人物像まで作り上げてしまうという、著者の目のつけどころの鋭さにはとにかく脱帽。コロンブスの卵的大発見だと思う。未読の方、ぜひお試しを!

☆第8位『スプートニクの恋人』 村上春樹/講談社

 彼はホントに変わってない。こういった恋愛小説を書くにはだいぶブランクがあったにもかかわらず。心に穴があいたような絶対的、絶望的な孤独を書かせたらこの人は天下一品だと思う。

☆第9位『青猫の街』涼元悠一/新潮社

 読んだ直後より、後になってじわじわ効いてくる本というのがある。これもそのひとつ。行方不明になった友人を探すというストーリーを追っていくうちに、人が生きているってどういうことだろう?という根源的な問題まで行きついてしまう。ラストの切なさが忘れられない。

☆第10位『星虫』岩本隆雄/新潮文庫

すみません、これも今入手困難。新潮さん、復刊してね。実に爽やかでストレートな青春SF。もしも若い頃(10代とか)この本に出会っていたら、ひょっとしたら私の人生変わっていたかも、と思わせる一冊。

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