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#11000 
徹夜城(もともとGWは家にこもりがちな管理人) 2020/05/01 22:29
いろいろ大変な黄金週間で。

 そもそも「ゴールデンウィーク」という言葉は映画業界が作ったもので、昭和の「天皇誕生日」「憲法記念日」「こどもの日」が集中して(もちろん戦後のことです)お盆正月と並ぶ映画ぼの書き入れ時になったために呼び名がついたとかで。かの「七人の侍」もゴールデンウィーク向け公開作品でした(もっともこの映画の場合は製作が遅れに遅れたのですが)。
 今年は映画館があらかた閉まってしまってますし、3月から公映画公開の延期が相次ぎ、さらには映画およびドラマ、アニメなど映像作品の制作自体がストップ状態に。この余波はしばらく続きそうです。今年の大河、どうするんでしょうかねぇ。まさか「キングダム」の代わりに「未来少年コナン」持ってきたみたいに「太平記」を急遽もってくるなんてことは(脚本家が同じなんで話は通しやすそうな)。


>バラージさん
 毎度いろいろとご紹介どうもです。見るのがとても追いつかない状況ですが(汗)。
 ギリシャ近現代史の話では「Z」だけは見たことがありました。たぶんバラージさんと同じでTV放送時に録画したものだと思います。実はあれを入れたものかどうか迷ってはいたんですよね。
 こういう「史実をモデルにしたフィクション」な作品は扱いが難しい。特に近現代の話だとなおさらで。日本映画でも「金環蝕」「不毛地帯」といった山本薩夫監督作品はモ出るとなった史実や人物がおりますからねぇ。「不毛地帯」に絡めていえば山崎豊子原作作品は多くがモデルありで、それでいてかなりフィクションも含むから微妙で…


>歴史学は要らない?
 歴史に関心があるからこの伝言板見てるんだと思うんですが、そこにこういうタイトルで書き込みをするとはまぁチャレンジな、とまず思ってしまいました。サラマンサさんのご意見もありましたが、投稿された内容自体は僕も興味と反応を示してしまうものでしたから、いいネタを投じていただいたということでそのままにしておきましょう。

 「歴史学は要らない?」というご意見、読んでみてまだよく真意がつかめないところもありますが、要は自然科学のように「科学的」に「モノ」を証拠にゆるぎのない「正解」を出してくれないことに「歴史学って学問なの?」と素朴に疑問をもたれた、とそう解釈しておきます。まぁこの手の話は何度も見聞きしておりますので。

 サラマンサさんもおっしゃるように、歴史学においては文献こそが「物証」です。もちろん文献がすべて正しいわけでもなく、歴史上起こったことすべてが文献に書かれてるわけでもありませんが、当時の人に直接会って話が聞けない以上、捜査資料として文献以上のものはとりあえずないわけです(映像・音声記録が出来てからの時代はそれも同様の扱いになりますね)。
 歴史学を犯罪捜査に例えるなr、文献だけがその素材であるわけで、それを読み込み、分析し、検証して真実は何なのかにじりよっていく、というものだと思ってます。その文献の読み取り方によって、あるいは研究者自身の抱える時代背景などによって「史実」が変化していくのも当然なんですが、それでも動かせない「史実」ってのも出てくるわけです。その辺のあいまいさが許せん、っていう人にはそもそも歴史研究とかは向いてない。
 僕なんかは、これまで生きてきた中でも関心大正のいろんな「史実」の見解がゴロンゴロンかわっていくのを見てきてますからね、むしろそれこそが歴史学の醍醐味ではないかと。だから一部にある「歴史学者は文献偏重」だの「先行研究を墨守している」といった批判はお門違いであると。

 旧石器捏造事件の本、追跡した毎日新聞の記者さんによる本なら僕も所有してます。あの事件は僕もかなりショックでしたねぇ。いや、実は「秩父原人の住居」あたりでおあぶなっかしさは個人的にも感じていたんですが、むしろ事件発覚後に知ることになった、ゴッドハンド氏周辺のほとんどオカルトの状態のほうがショックで。文献史学をやってる者からすると考古学って「科学的」にやってるんだとずっと思ってたもんですから。
 ま、自然科学方面でも高温超電導とかSTAP細胞とかで似たようなケースがありましたが。

 なお、日本海賊、つまり倭寇の話ですが、船だって文献資料や水没資料から調べることはできるんですよ。僕は倭寇で漫画でも描いてみようかと思ってる人間ですから、一応その辺の資料も集めてます。完全再現は難しいけどだいたいのところはわかるものです。

 竜骨(キール)の話で思い出したことが。
 北大路欣也主演、佐藤順弥監督の映画「空海」で、空海が遣唐使船で唐にわたる途中で嵐に揺られながら、「唐の船には竜骨というのがあって頑丈だ」ってなセリフがあるんですよ。これ、間違いでして中国の船は伝統的に竜骨がありません。船体が隔壁構造になっていて頑丈で あることはマルコ・ポーロも書いていたような。

最後に、地震予知のかたわら「邪馬台国沖縄説」だのを唱えてる学者さんといえばサラマンサさんも察しが着かれていたように木村政昭氏のことでしょうね。面白いと思う人はもちろんいるでしょうけど、僕はこの人については「与那国海底遺跡」の本を読んで「だめだこりゃ」と突き放しております。「ムー大陸沖縄説」なんてのまで口にした人ですからねぇ。 





#10998 
サラマンサ 2020/05/01 18:40
正直書込むか迷ったのですが

>私は日本人ではないさん
あなたが日本人かどうかは知りませんが、日本語をわざと崩してますね(以前書き込まれていた方に似ていますね)。

「地震予知では知られた学者」「邪馬台国が沖縄にあった説の本」とは木村政昭あたりのことでしょう。あの人は地震予知研究にしても歴史考察にしてもいいかげんなことを書くひとですよ。それを読んで「理屈はおもしろい」とおっしゃるなら、私は日本人ではないさんは自然科学の基礎的な素養すら欠けているのでは、と疑わざるを得ません。

なお、文献は物証ですよ。私は日本人ではないさんが自然科学を愛好されるのは勝手ですが、まず身の回りのものをよく観察することからやり直されてはいかがですか。

管理人さんへ
私は、私は日本人ではないさんは以前書き込まれていた方と同一人物だと考えていますが、仮に違ったとしてもこの手の書き込みはどんどん削除した方がいいと思います。
前回の書き込みから随分間が空いてしまいましたが、拙文失礼致しました。






#10997 
私は日本人ではない 2020/05/01 01:48
歴史学要らないのでは?

日本のなりたちを知りたく、あれこれ読みました。
母国語でないので、新書が中心ですが。
読んでいて感心するのは、自然科学を専門とする人達の著者なんですね。
古気象学、脳医学、情報工学、地質学、船舶と運河の専門家、生物学……当然ですが相手にされてないです。
しかし文献などは幾らでも解釈できます。
日本海賊なしても、彼らの使った船が、どのような構造で、キールのない船で、どなような航海をしていたのか
理解できません。
邪馬台国が沖縄にあった説の本を読みました。さすがにとは思いますが、その著者は地震予知では知られた学者のようです。信じられないですが、理屈はおもしろいと思います。なんで文献ばかりで、物証を重ねないのでしゃうか。物証をする学問に考古学がありますが、
ゴッドハンド事件とあう事件の新聞貴社さんの文庫本を読んで幻滅しました。
なんっ物証から解明しないのでしょうか?
文法が変ならすみません。互換性の話で、友人に頼んでますのですみません。



#10996 
バラージ 2020/04/27 23:49
清朝後宮文芸ドラマ

 今度は岡江久美子さんが亡くなられ、これもなかなかにショック。女優さんですが、個人的には朝の情報番組『はなまるマーケット』の印象のほうが強く残ってます。気さくで元気な明るいおばさんという感じでした。ご冥福をお祈りします。
 史点のコロナと宗教とはちょっと違うんですが、北海道弟子屈町のアイヌ民族の有志らが、病気の神が人間に近づかないよう祈りの儀式を行ったというニュースもありました。アイヌ民族の共生の精神に基づき、儀式は病気の神パヨカカムイを退治することを目的とせず、「何とか鎮まりください。お互いに生きていきましょう」と祈ったとのこと。
 地方紙には経済学者の水野和夫という人の寄稿が寄せられていて、今回の事態を20世紀初頭のスペイン風邪や世界大恐慌になぞらえるのは間違いだと書いてました。今回の事態は文明史論的にはグローバリゼーションの果てに起こったという意味で14世紀の黒死病(ペスト)に匹敵する事態であり、黒死病によってキリスト教会の権威が失墜して資本主義の萌芽が生まれ、やがてそれが極限まで進んだのが現在のグローバリゼーションだとしています。さらにそれ以前にさかのぼるとローマ帝国末期の疫病の大流行で多神教信仰が衰え、人々はキリスト教という一神教に救いを求めたのが歴史の転換点で、今回の事態は多神教→一神教→資本主義とその極点としてのグローバリゼーション、に次ぐ文明史の大転換となるという主旨の文章でしたね。それが正しいのかはわかりませんが、僕も実は今回の事態はあらゆる意味でかなり大きな世界の変容につながるのではないかという漠たる予感があります。それがどのような変容になるかはわからないけれど。


 さて、WOWOWで放送していた中国ドラマ『如懿伝 紫禁城に散る宿命の王妃』の録画をようやく観終わりました。
 乾隆帝の2番目の皇后で、後に何らかの理由で乾隆帝の怒りを買って廃后にされた継皇后(または烏拉那拉皇后。諡がないため便宜上そう呼ばれる)という人が主人公・烏拉那拉如懿(ウラナラにょい)のモデルだそうですが、彼女にしろ他の后妃たちにしろ史書に記録がほとんど残っていないため、お話はほとんど(印象としては9割以上)が創作です。以前も書きましたが、原作は『宮廷の諍い女』の原作者によるネット小説だそうで、その小説はドラマ版『宮廷の諍い女』の続編らしいんですが、ドラマ版『如懿伝』は設定が多少変わっていて、ドラマ版『宮廷の諍い女』の続編ではなく独立した作品なんだとか(ややこしいなあ)。
 いわゆる後宮ドラマ(とか大奥ドラマとかハーレムドラマとか)ではお馴染みの后妃たちによる熾烈な後宮闘争劇なんですが、それを文芸調に格調高く描いた本格派ドラマで、主演のジョウ・シュンを初め、乾隆帝役のウォレス・フォ、后妃たちを演じるチャン・チュンニン、ドン・ジエ、シン・ジーレイ、トン・ヤオ、リー・チュン、皇太后役のヴィヴィアン・ウーなどの実力派俳優たちがいずれも素晴らしい演技。壮大なセットや美術もすごいし、人物の所作などもかなり忠実に再現してるように見受けられます。全てが一流の仕事ぶりで最後まで飽きることなく観ることができたんですが、それでも87話は個人的には長すぎかなあ。さすがに途中ちょっとだれました。まあ、もともと好きな女優のジョウ・シュンが主演だったからってのが観た理由でして。とはいえ非常に質の高いドラマなのは間違いなく、おすすめのドラマです。
 民族的な部分に気を使ったのか、李氏朝鮮とおぼしき国を玉氏、回部(ウイグル)を寒部という名称に変えています。他の作品でもそういう例は結構見られ、中国は多民族国家ということもあるんでしょうが、そういうところに神経をとがらせてる印象です。
 ともかくどんだけ金かけたんだという豪華すぎるセットや美術(96億円という触れ込み)に、こんなん作られたら日本のテレビドラマは到底かなわんなあと思ってしまいました。


>あざとくて何が悪いの?
 大河ドラマの思い出、今回は2008年の『篤姫』。
 主人公の天璋院篤姫は大ヒットした2003年のフジテレビの連ドラ『大奥』でも主人公だった人で、主演の宮﨑あおいは朝ドラ史上初めてオーディションなしで主演に選ばれた2006年の『純情きらり』終了直後に大河主演を発表という、いろいろ狙いすぎというか、なんとか当てようというNHKの下心が見え見えに感じられて、やらしいなあと放送前はちょっと斜めに見ておりました。しかしやはりわが家の女性陣が観てたため僕も初回から観たところ、これが予想外に面白い。たとえあざとく狙ったドラマだろうと、結果的に作品としての出来が良ければ何の問題もないという好例となりました。
 主演の宮﨑あおいは大河史上最年少主演ながら、この時点ですでに若き大物だったのであまりそんな感じはしませんでしたね。彼女はカンヌ映画祭で国際批評家連盟賞を受賞した2001年の映画『EUREKA(ユリイカ)』でのヒロイン役が出世作。以後毎年のようにアート系、エンタメ系問わず映画で主演またはヒロイン級の出演をしており、2005年には映画『NANA』が大ヒット。その一方でテレビドラマにはあまり出ておらず、2002年から2003年にBS-i(現BS-TBS)で放送された『ケータイ刑事(デカ) 銭形愛』、2004年のNHK連ドラ『ちょっと待って、神様』での主演が目立つくらいでした。しかしそれも希少価値でしかなく、前記の通り2006年の朝ドラ『純情きらり』で朝ドラ史上初めてオーディションをせずオファーにより主演、そして大河主演という流れでした。
 登場人物では、篤姫の幼なじみでほのかに想いを寄せていたという設定の小松帯刀や、篤姫付の侍女・幾島などマイナーな存在だった人たちが一躍有名人となり、松坂慶子演じる幾島の「女の道は一本道でございます」という台詞も流行語になりました。暗愚な将軍として有名な篤姫の夫・徳川家定を、本当は頭脳明晰なのだが暗愚なふりをしていたという設定にし、その後を継いだ徳川家茂も好青年として描く一方で、最後の将軍・徳川慶喜は悪役まわり(個人的にはちょい不満・笑)。また家定の生母・本寿院を高畑淳子がコミカルに演じてたのも印象に残ってます。その一方で登場人物が多くなりすぎて煩雑になるのを嫌ったか、家茂の生母・実成院は登場せず。ちなみにフジ『大奥』では本寿院が登場せず、実成院は野際陽子が演じ、安達祐実演じる和宮と嫁姑バトルを繰り広げてたらしい。同じくフジ『大奥』で天璋院の対立キャラとして浅野ゆう子が演じていた大奥総取締・滝山は本作では対立キャラではありませんでした(史実的に本作のほうが正しいみたい)。
 平均視聴率は24.5%と歴代幕末大河で最高の平均視聴率をあげるとともに、現在のところ21世紀に入ってからの大河で最高の平均視聴率を記録しています。過去をさかのぼっても1996年の『秀吉』以来の高視聴率。しかも初回視聴率は20.3%でしたから、そこから平均24.5%まで上げたということは内容が相当にウケたのだということがわかります。僕もさすがに後半は脱落しましたが、00年代大河では最も観た大河ドラマでなおかつ最も面白かった大河ドラマでした。



#10995 
バラージ 2020/04/21 20:59
歴史映像作品感想追記・ヨーロッパ史編①

 『ひょうきん族』は僕も前記の通り地元での放送時間帯の関係でそんなに観ていませんでした。ビートたけしはそれ以前に漫才ブームでツービートとして知ったという感じで、テレビ番組は『スーパーJOCKEY』や『天才たけしの元気が出るテレビ』のほうが観てましたね(そのため『元気が出るテレビ』の裏番組の大河ドラマはほとんど観ていない時期があった)。明石家さんまは最初に知ったのは『ヤングおー!おー!』だったかなあ? これまた今は亡き小林繁投手の形態模写をしてるのを見たような記憶があります。


 名画座未掲載の歴史映像作品の感想の追記、今回はヨーロッパ史編その1。

・トルコ史
『ラスト・ハーレム』……#10843、#10845
 追記することは特にありません。

『消えた声が、その名を呼ぶ』……#10105
 追記することは特にありません。

・ロシア史
『ザ・コンクエスト シベリア大戦記(WOWOW放映邦題:ザ・バトルフィールド シベリア戦記)』……#10959
 追記することは特にありません。

『太陽に灼かれて』……#9629
 1930年代ソ連のスターリンによる大粛清を背景としたニキータ・ミハルコフ監督・主演の1994年のロシア映画。架空の人物のみが登場する架空の物語なんですが、そういう作品のほうがこういう現代史ドラマでは創作の自由性があるし、一般人の目から見た歴史も描きやすいとも言えます。ただ、前半の展開がスローテンポな作風でちょっとかったるいんだよな。まあまあ面白かったけど。ニキータ・ミハルコフ演じるコトフ大佐の娘ナージャ役を演じてる小さな女の子は実際のミハルコフの娘ナージャ・ミハルコフ。ニキータ・ミハルコフは続編として2010年に『戦火のナージャ』、2011年に『遥かなる勝利へ』(僕はいずれも未見)という独ソ戦を舞台とした2本を撮ってますが、劇中では10年くらいしか経ってないのに、実際には16年も経っちゃってるんで、ナージャが成長しすぎのような(笑)。ちなみに、どの映画サイトでもナージャ・ミハルコ「フ」となってるんですが、ロシア語では女性の姓は語尾に「а」が付く(例えば男性が~ovに対して女性が~ova)らしいんでミハルコ「ワ」が正しいんじゃないかなあ? テニス選手シャラポワの父親はシャラポフですし。

・ポーランド史
『コルチャック先生』……#10634
 追記することは特にありません。

・チェコ・スロバキア史
『存在の耐えられない軽さ』……#9629
 チェコスロバキアからフランスに亡命した小説家ミラン・クンデラの原作小説を、米国のフィリップ・カウフマン監督がイギリスのダニエル・デイ=ルイス、フランスのジュリエット・ビノシュ、スウェーデンのレナ・オリン主演で映画化した、プラハの春とチェコ事件を背景とした1988年の恋愛映画です。原作は未読。確か僕が大学に入った年にその大学のある都市では公開されたんじゃなかったかな。邦題が印象的だった記憶があるんですよね。ただその時は観には行かず、ビデオも二巻組(3時間弱)という長さになんとなく尻込みして、結局観たのは21世紀になってからでした。舞台がチェコスロバキアで俳優もヨーロッパ勢なんで、クールでスマートなヨーロッパの恋愛映画だとばかり思ってたんですが、実は米国映画だったんですね。それでも前半は第1印象通りのクールでスマートなヨーロッパ映画風の恋愛映画なんですが、後半は一変。プラハの春とチェコ事件がかなり直接的に描かれ、社会派要素のかなり強い映画となります。なかなか面白い映画でした。

・現代ギリシャ史(バルカン諸国史に入るのかな?)
『旅芸人の記録』……#9629、映画板#1215
 テオ・アンゲロプロス監督の長編叙事詩的映画。大学時代にリバイバル上映で観ました。ある旅芸人一座の愛憎劇を1939年から1952年のギリシャ現代史を背景として描いていく大河ドラマで、4時間近い長さの難解で前衛的な作風の作品です。歴史映画とは言いがたいんですが、ギリシャ現代史を描いた作品は珍しいし、映画として優れているのでご紹介。と言ってもギリシャ現代史にくわしくないと歴史的なところはよくわからないだろうし、僕も観た時にはギリシャ現代史を背景としていることがなんとなくわかったという程度でした。そもそも観た時は別にそこを目当てに観たわけではなく、純粋に映画として面白そうだったのと、ギリシャ映画という珍しさに惹かれて観たんですよね。作風もやや難解なので万人にはお勧めしがたい作品ですが、時間軸や空間をも解体し、唐突に始まり唐突に終わるところまで含めて、“映画”という枠そのものを解体しようとする野心的な作品でした。
 歴史的には、1939年のメタクサス将軍の極右独裁体制の開始から、イタリア軍の侵攻、1942年のドイツ軍占領、1944年の国民統一戦線(共産党系の国民解放軍と亡命した国王の復権を望む王党派の民主国民同盟の連立政府)の勝利、戦後のゲリラ下部組織の掃討から共産派弾圧、1952年のパパゴス元帥の軍事政権の誕生までが描かれています。軍事政権下の1975年に公開され、製作中は作品内容を前世紀の田園劇と偽って製作されたとのこと。主人公の旅芸人一座の物語はアトレウス家の古代神話――戦争から帰ったアガメムノンが妻とアイギストスに殺され、やがて息子オレステスが姉エレクトラと共にその復讐を果す――をモデルとしており、登場人物の名前も神話の人物そのままです。

『Z』……#9629、映画板#1215
 ギリシャのコスタ・ガブラス監督が1969年に撮ったアルジェリア・フランス合作映画。確か90年代にNHK-BSで放送されたのを録画して観ました。1963年の軍事政権下ギリシャで起きた自由主義者グリゴリス・ランブラキス暗殺事件をモデルとした小説の映画化とのことで、ギリシャでは上映中止となったそうです。これまた製作時期的に歴史映画というより社会派映画といった方がいいんですが、やはり珍しいギリシャ現代史の映画ですし面白かったんで。ただコスタ・ガブラスの映画は他に『ミュージック・ボックス』も大学時代に観ましたが、面白いことは面白いんだけどちょっとジャーナリスティックな雰囲気が強くて、映画的遊びが少ないように感じましたね。


>なにぃ! あれは伝説の剛刀・風林火山!!(特に意味はない)
 大河ドラマの思い出、今回は2007年の『風林火山』。久々のおっさん主人公大河です。僕は原作未読、映画や日テレ年末時代劇スペシャルも未見で、大河前年のテレ朝2時間ドラマを観ただけでしたが、戦国ドラマということでわが家でもチャンネルを回してたので付き合いで時々観てました。
 またずいぶん古い小説を原作に使うなあと思ったんですが、原作自体が短めの小説なためもあってか、かなりオリジナル要素が強いらしく、また原作にオリジナルストーリーを加えるというより、オリジナルストーリーに原作の要素を取り入れていると言ったほうが近いとのこと。実際、序盤ではオリジナルキャラクターのミツ(貫地谷しほり)がヒロインとなり、終盤でもやはりオリジナルキャラクターのリツ(前田亜季)がヒロインとなっていたようです。
 序盤では北条氏綱、今川氏輝、玄広恵探など映画やドラマにはめったに登場しない珍しい面々も登場したようで、結構ディープな戦国ファンというかマニア向け。俳優陣では『徳川慶喜』以来の大河出演となった清水美砂(現・清水美沙。真田幸隆の妻・忍芽)や、ずいぶん遅れた大河初出演の桜井幸子(武田信玄の妹・禰々)など個人的にうれしい面々が出てました。一方で今になってみれば脇役に池松壮亮(信玄の少年期&諏訪(武田)勝頼の二役)、真木よう子(美瑠姫)、高橋一生(駒井政武)、太賀(竜若丸)、柄本佑(長笈)など次世代への胎動が感じられます。2年後の『天地人』で大人気となった加藤清史郎くんも実は本作が大河初出演だったんですね(武田義信の幼少期)。
 配役発表の段階で驚いたのが、ヒロインの由布姫役に全く無名の新人・柴本幸が抜擢されたこと。出演者集合会見の写真を見ても、スターや大物たちに囲まれた中でインパクトというかスター性が感じられず、この娘がヒロインでだいじょうぶか?と今一つピンと来なかったというのが正直なところでした。はたしてその予感は的中。たとえ演技が拙くともそこにスターとしての“輝き”があれば、そんなものは気にならないどころかむしろ多くの人々を魅了するものです。いや、むしろヒロインに必要とされるのはそういう“輝き”だとすら言えます。時代を画した若手女優やアイドルには必ずと言っていいほどそのような“輝き”がある。しかし残念ながら柴本さんにはそういうものは感じられませんでした。本作の感想を散見しても、ドラマ自体の出来を評価する人たちにおいてさえ柴本さんの評価はいまいちです。彼女にはヒロイン役はちょっと荷が重すぎたんじゃないかなぁ。僕は彼女がヒロイン役の映画『TAJOMARU』も観ましたが、やはり今一つでした。NHKは賭けに失敗しましたね。同じように配役発表で驚いたGacktの上杉謙信が予想外にハマっていたのとは対照的です。しかも由布姫のライバル的立ち位置の三条夫人役が演技派の池脇千鶴だったからなあ。本作では原作や新田次郎の『武田信玄』と違って三条夫人を高慢な悪妻として描かず、穏やかな心優しき女性として描き、それをまた池脇千鶴が見事な演技力で新たな三条夫人像として演じあげてしまったもんだから、ヒロインの由布姫のほうがすっかり霞んでしまいました。
 それが影響したわけでもないでしょうが、平均視聴率は18.7%とまたも低迷。実は僕は図らずも別々の女性ライターが、「本作のようなドラマはあまり好きではない」というようなことをそれぞれ本に書いているのを読んだことがあります。いずれも歴史ドラマ本ではなく、1つは“マゲ女”と呼ばれる時代劇ファンのライターによる時代劇本、もう1つはドラマ全般を扱った女性ライターによるドラマ本でして、本作の他にも『平清盛』『真田丸』なども同様にあまり好きではない大河ドラマとして挙げられてました。全く別々の本でプロの女性ライター2人が全く同じような意見を書いているのを読んで、重厚な本格歴史ものみたいなドラマを敬遠する層というのは特に女性には確実に存在するんだなあと実感した記憶があります。



#10994 
徹夜城(ここんとこPCエンジン漬け気味の管理人) 2020/04/19 22:29
「太平記」アンコール放送も第三回で

 今日の早朝、BSの「太平記」再放送は早くも第三回「風雲児」。主人公・高氏が京都にやって来て、後醍醐天皇を目撃、日野俊基と語り合い、楠木正季、佐々木道誉とも初対面する。そしてその夜には藤夜叉と、のちのちえらいことになってしまう原因を作ってしまう、そして夜が明けたら正中の変が勃発…という大変な回です。僕も自作DVD引っ張り出して久々に見ましたが、これ一日の話ですよね。

 片岡孝夫(当時)の後醍醐天皇初お目見えの重要シーン。「大全」の方にも書いてますが予告編でこの映像がでたとき「えらく上品な後醍醐だな」とちょっと違和感というか、ガッカリした覚えがあります。しかしさすが、これは計画的なものなんですね。笠置山での挙兵で敗れて捕えられると、無精ひげが生えて来て「朕にも人間の臭いがしてきたぞ」と呵々大笑、ここから本格的に「あの後醍醐」になっていくんです。

 陣内孝則の道誉もいきなり立花談義から入って強烈でした。これが最終回までずっと引っ張られることになります。このドラマの道誉は出家しないで俗体のまま「道誉」と呼ばれる変なことになってしまいますが(ドラマ中では「佐々木判官」と呼ばれますけど)、北条高時も出家しませんし、道誉は高時の出家につきあって出家したと考えればドラマ内ではつじつまがあうことにもなります(笑)。

 当たり前ですが、藤夜叉を演じる宮沢りえも若いですよねぇ。当時17歳ですよ。アイドルとしては絶頂期だったかな。そもそもちょっと過激な売り方をしてましたから、この藤夜叉の役にもちょうどよかったということかも。最初のうちあぶなっかしいんですが、中盤からぐっとうまくなっていきます。
 この回、麿赤児の文観も初登場していて、このドラマでは案外息長く要所要所で登場するんですよね。賀名生の南朝でもちょっとだけの出演ながら場をさらってしまってました。



#10993 
ラノベ小僧 2020/04/08 00:13
思い出の歴史映画

ジェームズ、ホーナー音楽の映画から
「グローリー」
南北戦争時、北部軍に創設された黒人部隊の実話映画。
戦闘シーンはもちろん、デンゼル、ワシントンのアカデミー賞納得の演技も素晴らしかったです。映画の重いラストは最高でした。初めて観た当時は青春映画だと思ってみたら戦争映画でビックリ!!
「ザ、ダイバー」
黒人初のマスターダイバー、カール、ブラシアの実話を描く歴史映画の一種…
個人的に「海猿」より好きな映画。カール、ブラシア役のキューバ、クッティングJr.とロバート、デニーロの共演が良い♪



#10992 
ラノベ小僧 2020/04/08 00:01
訃報の思い出

記憶にある訃報でショックだった思い出はまず、小6の時のいかりや長介の訃報でしたね。当時、スカパーだったかのチャンネルで毎週だったか週何回か「ドリフ大爆笑」を再放送しており、小学生時代ずっと見ておりました。
亡くなった時、親戚とかが亡くなったような感覚でした…
その次に訃報で思い出があるのがアーサー、C、クラークとチャールトン、ヘストンですね。アーサー、C、クラーク先生の「2001年宇宙の旅」、続編の「2010年宇宙の旅」、「幼年期の終わり」を中学生の頃よく読みました。
小学生時代、「エイリアン」が3夜連続放送した後、「2001年宇宙の旅」が衛星放送の映画で「エイリアン」シリーズの後に放送したのを観てインパクトを受けた思い出がありましたな。映画はワケわからん状態だったけど宇宙船やコンピューターのデザインとかがカッコいいと思ったなあ。
チャールトン、ヘストンの場合は「猿の惑星」、「ベン、ハー」等の映画をよく観たので他人と思えなかったです。アーサー、C、クラーク先生と同じ小、中学生と親しみのあった方々だったからスゴいショックでしたね、亡くなった時。
高校生の時、市川崑監督、マイケル、ジャクソンと名匠と大スターの訃報が相次いだのも思い出ですなあ。市川崑監督の映画は金田一耕助シリーズしか観てなかったけど、名匠がいなくなったと感じ、マイケル、ジャクソンが亡くなった時に高校生ながらひとつの時代が終わったと身近に感じた記憶があります。
この頃に映画音楽マニアになって大ファンになったジェームズ、ホーナーが事故で急死した時は一晩中泣いたのを覚えてますが、亡くなったショックの中、「ドラえもん」でジャイアンをやってたたてかべ和也さん死去のニュースが…
志村けんの急死も他人と思えない所か近所の人が亡くなったような感覚でした…



#10991 
徹夜城(「太平記」特需に喜ぶ管理人) 2020/04/06 23:35
「太平記」再放送はやはり大きいなぁ

 肩書に「特需」などと書きましたが、別に僕に一銭も入るわけではなく、単にアクセス数が増えるということでして。ここ数年ではめったにないほどの数値を昨日から今日にかけてたたき出しましたね。もちろん「太平記大全」がですが、その余波で「南北朝列伝」などいろいろアクセスがあがってます。

>ラノベ小僧さん
 そうですか、紀行コーナー「太平記のふるさと」放送したんですね!あれは完全版DVDにもなぜか収録されず、CS放送でも入らなかったそうなのですが、NHK本体での再放送だとアリになるというのは不思議。
 「太平記のふるさと」コーナーは、南北朝といういまいちなじみのない時代のドラマを視聴者に補完提示するために作られたコーナーのようで、いくつかの回では本編ストーリーの補足になってます(多々良浜の戦いあたりとか)。しかしこれがその後の大河の定番化していったりするから分かりませんねぇ。

>バラージさん
 なんかこの一週間ほど志村けん追悼番組だらけになってた印象すらありますね。確かに「国民的」存在ではあったのでしょう。
 僕は小学校時代に「全員集合」で、中学以降はあまり見てなかったですね。裏にのしてきた「ひょうきん族」も全然見てなくって、ビートたけしだの明石家さんまだのを意識したのってかなり後になってからだったと思います。

 確かいかりや長介が亡くなった時の「史点」で触れたと思うんですが、僕は一度だけ、小学生の時に「全員集合」の公開収録をナマで見てるんですよ。僕の住む市の市民会館は年に何度か公開生放送やってたんで、一度応募してみたら当選しちゃって一家で見に行ったんです。小学校のころながらかなり詳細に覚えてまして、本番前にいかりやさんが出て来て「全員集合!」を何度も練習させ、いつの間にか本番に入り、隙を突くように客席後方からドリフの4人が走って来るんですね。あの瞬間、僕と志村けんの距離が一番近くなった(まぁ10mくらいかな)んだなぁ、といま感慨深く思い出します。



#10990 
バラージ 2020/04/05 15:52
とんでもねえ、あたしゃ神様だよ

>1つ前の史点
 志村けんの急死(と言っていいでしょう)は僕も衝撃でした。こういう言い方をしていいかわからないけど、もう少し“助走期間”があればまた違ったでしょうが、本当に「急死」でしたから。
 僕の志村けんの1番古い記憶は物心ついた頃だと思うんですが、荒井注が卒業する回に新たに加入するメンバーとして紹介されたのを観た記憶がおぼろげながらあります。あるいは懐かし映像などでもっと後になってから観たのかもしれませんが、先日テレビの追悼再放送でもその場面を流してました。『8時だヨ!全員集合!』はもちろん面白がって観ていた世代で、有名なギャグやネタやコントも当然知ってるんですが、じゃあ「のめり込む」ほどまでに夢中になっていたかというと、そこまでではなかったかもしれません。記憶を掘り起こすと、僕が子供時代に「のめり込む」ほど夢中になってたお笑い芸人は欽ちゃんこと萩本欽一やツービートのビートたけしだったんですよね。そのたけしも出てた『オレたちひょうきん族』が『全員集合』を終わらせ、その後始まった『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』が『ひょうきん族』を終わらせたと言われますが、僕の地元では民放がTBS系列局と日本テレビ系列局しかなく、フジテレビ系列の『ひょうきん族』は違う時間帯(確かTBS系列の土曜夕方だったかに1ヶ月遅れ)でやってたので、そのあたりは今一つピンと来ません。とはいえ『全員集合』をよく観ていたのはやはり小学生の頃で、中学以降はあまり観なくなっていったのも事実。『加トケン』も観てはいたけれど、そこまで熱心ではありませんでしたね(バカ映画『アタック・オブ・ザ・キラー・トマト』(未見)のパロディをやってたのは覚えている。もっとも元ネタの『アタック~』を知ったのは大学進学後だったが)。
 僕が大学進学し地元を離れた頃に『加トケン』の裏のフジテレビ系列で『ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!』が始まり、僕はそっちに夢中に。その前後から、とんねるず、ダウンタウンを含む「お笑い第3世代」が台頭して世代交代が行われ、その頃から志村けんは時代劇における『水戸黄門』のようなクラシックな存在になっていった印象でした。しかし、その後も舞台を深夜などに移しつつ、粘り強くコントを続け、第一線で活躍し続けました。ご冥福をお祈りします。

 コロナウィルスはエボラ出血熱などに比べると致死率は低いが感染率は高いとのことで、そのためアフリカでの流行にとどまったエボラに対して、コロナは世界中に広がってしまったとの話もあります。ワクチンの実用化も1年半はかかるという話もあり、どうなるか予測がつかないのもなんとも。ウィルスを甘く見て街に繰り出す若者とそれに怒る年寄りなんて構図も日本だけでなく米国やイタリアや香港など世界中で起こっていたようで、どこでも変わらないんだなあと思わされたりします。そんな風景もあっという間に過去のものとなり、街から人が消えた映像ばかりを見ることになって、ドラマやバラエティなどのテレビ番組も収録自体が次々中止に。いったいどうなるのか……。

>DVDや録画で観た歴史映画
『LBJ ケネディの意志を継いだ男』
 ケネディとニクソンに挟まれて地味で目立たないリンドン・B・ジョンソン大統領を主人公とした米国映画。去年地元でも公開されたんですが、1週間しか上映されなかったんで観逃してしまいました。1960年の大統領予備選でジョン・F・ケネディに敗れ、そのケネディの要請で副大統領に就任するあたりから、63年のケネディ暗殺で大統領に昇格就任し、その遺志を継いで公民権運動を推し進めることを決意して最初の大統領演説をするあたりまでが描かれています。うーん、期待はずれだったなあ。『記者たち 衝撃と畏怖の真実』のロブ・ライナー監督だからちょっと期待してたんですが全くの凡作でした。弟のロバート・ケネディを敵役にして(実際に2人は仲が悪かったらしい)ジョンソンを美化しようとしてますが美化しきれてないというか、根回しに奔走する副大統領の姿は政治家というより“政治屋”といった感じ。かといってある程度の美化はしているのでピカレスク風なわけでもなく、なんとも中途半端でモヤモヤするぼんやりとした描き方でした。たぶんジョンソンという人がそういう人だったから、そういう描き方にならざるを得なかったんでしょう。公民権法制定に尽力したのは事実ですが、その一方でこれまた映画にもちょこちょこ出てきますがベトナム戦争に本格的に首を突っ込んだのもジョンソンなわけで、評価が難しい人物と言えます。ケネディ兄弟に対するコンプレックスに悩む描写はオリバー・ストーンの『ニクソン』といっしょだし、どんな大統領でも映画にして面白いというわけではないんだなあ。ジョンソンを演じるウディ・ハレルソンのそっくりさんぶりだけは見事でした。

『天安門、恋人たち』
 1987年から2001年までの中国を舞台とした、ロウ・イエ監督による暗く鬱屈とした2006年の青春恋愛映画。天安門事件を描いたシーンと大胆な性描写があったため本国では公開禁止になったとのこと。主演女優ハオ・レイがヘアも見せるフルヌードで激しいセックス・シーンを演じています。DVDはノーカット完全無修正版。
 北朝鮮との国境に近い田舎町から北京の大学へと進学した、奔放で孤高な雰囲気を持つ女子学生が主人公。彼女はある男子学生と出会い、運命的に恋に落ち、狂おしく愛し合います。その頃、民主化を求める学生たちの運動が激化し、主人公たちもその運動に身を投じますが、軍によって鎮圧されその動きは挫折。その混乱の中、心のすれ違いから主人公は恋人の元を去ります。以後、各地を流浪しては男と刹那的に関係を持つ主人公と、自由を求め東西統一されたドイツのベルリンに渡った男は、共に満たされぬ日々を送り、心の奥にしまいこんだお互いのことを忘れられずにいました。10年ぶりに帰国した男は偶然会った友人から主人公が結婚したと聞かされ、彼女に会いに行き、2人はかつてのように愛し合おうとするのですが……。
 歴史的な部分で言うと、天安門事件のシーンは中盤で唐突に始まります。背景や経緯には特に触れず、主人公たちが見聞した範囲しか描かれませんが、結構踏み込んだストレートな描写で、そりゃ公開禁止になるわなと思わされました。後半には、ベルリンの壁崩壊・ソ連解体・香港返還などといった歴史的・社会的事件の実際の映像も差し挟まれるんですが、主人公たちはそのような社会の激動とは遠く離れたところで、失意に打ちのめされた人生を送っています。
 ロウ・イエ監督はそれ以前の『ふたりの人魚』『パープル・バタフライ』も暗い恋愛映画でしたが、この映画は扱ったテーマのせいもあって、より一層暗い。特にちょうど中盤にある天安門事件以前の前半と、以後の後半とでは暗さの種類が全く異なるのが印象的でした。前半の学生時代の暗さは青春特有のもやもやした暗さであって、そこには奥底にマグマのように燃えたぎる情熱があります。それがセックス、そして天安門事件で爆発するんですが、それが叩き潰された後半は、色彩を欠いた世界の目に見えぬ牢獄の中で、青春の残骸を抱えて彷徨するような救いのない暗さです。そこにあるのは青春という最も輝いた時代は終わったという残酷で無惨な現実でしかありません。それが民主化運動の失敗という挫折感と二重写しになっていて、自らも学生として天安門事件に参加したというロウ・イエの深い心の傷がうかがえます。
 映画は最後まで救いのない暗さで終わるんですが、その暗さが印象に残る映画でした。僕の大学入学年に天安門事件が起こったので主人公たちとは同世代。最も良かった大学時代は終わり、もう戻れないという感覚など、なんとなく共鳴する部分がありましたね。いい映画でした。



#10989 
ラノベ小僧 2020/04/05 07:51
太平記1回

観ましたよ♪第1回「父と子」
アバンタイトルでベルリンの壁崩壊の映像が出てくるのが斬新に見えましたね。
オープニングのクレジット、思わず声で読みたくなる豪華な配役陣ですなあ…
片岡鶴太郎の高時、フランキー堺の長崎円喜がはまり役でしたね。
DVDではカットの紀行部分が観れて嬉しかったです。



#10988 
徹夜城(新作じゃないけど南北朝ドラマの放送に血が騒ぐ管理人) 2020/04/04 23:23
いよいよ明日の早朝から

 いよいよ明日、日曜朝六時という、まぁ僕はまず起きていない時間帯に大河「太平記」のアンコール放送が開始されます。気が早いのか、待ちきれない方なのか、昨日今日と「太平記大全」のアクセスが急に増えておりますな(笑)。
 僕は放送当時の録画と完全版ソフトも所有してるので、改めてこの放送を見ることはしないと思いますが…見る機会自体がそうそうない、という方もいるでしょうし、これを機会に南北朝界隈が盛り上がってくれると嬉しいな、と。

 明日早朝放送の第一回「父と子」は1時間15分くらいあったはずですので、時間には注意を。この回見どころは、いきなり戦闘シーンから入る「霜月騒動」、足利荘に守護小山氏の軍が押し寄せて来るロケシーン、そして真田広之の高氏が猛犬とやりあうアクションシーン、そしてセリフはないけど、今は亡きショーケン演じる義貞の登場シーンですね。



#10987 
徹夜城(今年は追いつめられて恒例行事を果たした管理人) 2020/04/01 17:03
四月バカ史点

 …どうにか更新しました。結局夕方5時ですか。エイプリルフールはその日の午前中まで、というのがマナー(?)らしいですけどね。
 今回は前回の普通の「史点」更新が前日夜中という、えらく追いつめられたスケジュールで、アイデアも含めると最速執筆記録かもしれません(笑)。



#10986 
徹夜城(これから四月バカを速攻で書く予定の管理人) 2020/03/31 22:54
今年の漢字一字はもう決まったようなものか。

…というタイトルを書いてから、「コロナ」を一字で漢字で書くのは難しい、何が一番多く得票するかといったら単純に「病」とかになるのかも、と考えてしまいました。
 さて、つい先ほど「史点」を一か月以上ぶりに更新しました。コロナウィルス騒動でやっぱり気が重かったというのもありまして、ようやく書いたと思ったら志村けんさんの急逝でひとつ記事を差し替えということにもなりました。僕の世代ではかなりの衝撃で、触れないわけにはいきませんでしたね。
 そして明日は恒例の「四月バカ史点」をやるわけですが、なんとこれから書き始めます。明日のどの時間にアップされるか、さあお立合い(汗)。


>読書
 この騒ぎの感、ヒマといえばヒマでしたので昨年購入してから放置していた「いやいやながらルパンを生んだ作家・モーリス・ルブラン伝」をチビチビと読破。アルセーヌ・ルパンの生みの親ルブランの初の本格的伝記で500ページはある大著。残された手紙類など多くの史料を駆使してルブランの一生を詳細に復元、解説した労作です。もちろんルパンのこともずいぶん出てきますが、タイトルにあるようにそもそもルブランにとってはルパンとの関係は「事故」「不本意」なもので、当初はモーパッサンの後継者を自負する純文学作家だったのですよね。そんな彼の文学青年時代から、ベル・エポックのさなかのルパンシリーズのヒット、第一次世界大戦と戦間期、そして第二次大戦勃発直後の死去と、彼の人生を語りつつこの時代のフランスの文化・社会を詳しく知れる、歴史本としても好著になってします。ドレフュス事件とか、世界大戦、映画の発達とかいった事例にルブランがどう反応いていたかも興味深いところで。

 なおルブランの妹で女優であったジョルジョット=ルブランについてもずいぶん触れていまして、彼女の伝記としても読めます(モーリスとは仲が良くやららに手紙を残しているため)。彼女はあのメーテルリンクの恋人として一時は事実上の妻の立場だったこともあり、一世を風靡した時期もあるんですよね。「青い鳥」の公演で出演した新人女優に恋人の座を奪われる、という悲劇になるんですが。兄モーリスとは一か月違いで亡くなっています。

 本サイトの「怪盗ルパンの館」コーナーはルパンシリーズを歴史的に解説することを主眼としてるんですが、子の伝記のおかげでいろいろ書き足したり修正しなきゃならなくなりそうな…


>太平記最終回
 そろそろ再放送が始まる「太平記」ですが、その最終回の話題が出てますね。
 「ましらの石」は諸般の事情で途中退場になってますから、最後の尊氏の回想に出てくるのは難しかったでしょうねぇ…展開から察するに、石の登場が続いていたら最後に出て来る観阿弥の周辺、あるいは直冬の周辺に登場してたと思うんですよ。石と尊氏の「決着」をなんらかの形でつけてほしかった気はしてます。





#10985 
ラノベ小僧 2020/03/31 00:46
大河ドラマとアニメの思い出

先日、「葵~徳川三代」の最終回を観て今日は総集編を観ましたが、
やはり近年の総集編は一時間程度、微妙な編集が多いのかあ…と思った次第…

最終回の思い出は「太平記」、何度も観た最終回ですが、アニメ「AngelBeats!」の最終回で感動した後に一時間たっぷりな太平記の最終回は見ごたえありましたなあ。
「太平記」最終回の個人的に感動した場面は最後の回想シーンです。
後醍醐天皇や楠木正成も良いけど、ましらの石や北畠親房、顕家親子も入れてほしかった気がするなあ…

先日の「葵~徳川三代」の最終回も締めくくりは良かったと思います。
お江が亡くなる回の長い回想シーンは朝から泣きそうになった場面でした。



#10984 
バラージ 2020/03/28 22:41
歴史映像作品感想追記 東南アジア~アフリカ編

 いや本当に大変なことになりましたね。僕の20日前の書き込みはまだちょっとのんきな感じでしたが(僕の地方はいまだ感染者ゼロということもありまして)、あれから20日であっという間に世界的危機になってしまいました。ウィルス自体ももちろん大変なことなんですが、仮にそれがおさまったとしても経済への悪影響も心配です。事と次第によっては再び世界大恐慌になるかもなんて話もちらっと出てたりして、歴史的には大恐慌による民心の荒廃がファシズムや軍国主義の台頭を呼び込んだことを考えると、ウィルス以前から排外主義が強まっていたことと合わせて何やら不安。東京オリンピックの延期もこれまた戦前の中止と符合してるようで暗い気持ちになります。
 そんな戦前の東京オリンピック中止を描いた去年の大河ドラマ『いだてん』が早くも4月から再放送ですが、東京オリンピックに向けて盛り上げていこうという狙いもあったんだろうなあと考えると、とことんついてないドラマだよな。


 名画座未掲載の歴史映像作品の感想の追記、今回は東南アジアから南アジア、西アジア・アフリカまで。

・ベトナム史
『天と地』……#9607
 オリバー・ストーン監督が『プラトーン』『7月4日に生まれて』に次いで作った1993年のベトナム戦争映画で、3本合わせてベトナム戦争三部作とも呼ばれています。ベトナム戦争映画を2本撮ったストーンが、ベトナム側から見たベトナム戦争映画を撮りたいと考えて、米国に移住したベトナム人女性レ・リー・ヘイスリップの自伝的小説を映画化した作品。日本公開時にはヘイスリップの原作は回顧録とかノンフィクションと紹介されていましたが、実際にはあくまでも自伝的小説でフィクションが含まれており、彼女の実人生とは異なる部分もあるようです。
 20世紀の歴史の中でも大きなトピックの1つであるベトナム戦争。しかし米国にはベトナム戦争映画は数多くあるものの架空の小状況を描いた戦争映画がほとんどで、いわゆる歴史映画と呼べそうなものは少なく、ベトナム史に入れられそうなベトナム側から見たものはさらに少ない(米国映画だから当然ですが)。そんな中、この映画は例外的にベトナム側が主人公の作品で、歴史要素というか実話要素もあるため取り上げてみました。
 ただ映画としての出来はどうもいまいち。それまでストーンの映画はどれも面白かったんですが、初めてつまらないと感じた作品でした。ベトナム側は南ベトナム政府軍ばかりでなく、南ベトナム解放民族戦線(いわゆるベトコン)も悪く描かれてるんだけど、米軍は意外と悪く描かれてないんですよね。『プラトーン』『7月4日に生まれて』では米軍の恥部も描いていたストーンだけに、原作の問題も大きいように思われます(ストーンは主人公が南ベトナム政府軍に拷問されるシーンで、原作にはいない米軍将校を立ち会わせているとのこと)。
 また、すっかり忘れてたけど前半の舞台がベトナム(後半は米国)にも関わらず全編英語だったようで、それも不満の一因だったかも。まあ主人公の母親役が中国人のジョアン・チェンで父親役がカンボジア人のハイン・S・ニョールだから2人ともベトナム語はしゃべれんだろうしねえ。ベトナム系米国人俳優なんて少なかっただろうし、当時のベトナム本国も専業俳優がそもそも少なかったらしいし(まあ、それ以前に当時のベトナムの俳優が米国映画に出れるわけないか。ちなみに『グッドモーニング,ベトナム』でベトナム人のヒロインを演じたのも当時のタイの国民的人気女優チンタラー・スカパットだった)、米国内の興行的な理由もあっただろうから仕方ないのかもしれんけど……。オーディションで選ばれた主演のベトナム系米国人ヘップ・ティ・リーは幼少期にボートピープルとして米国に渡り、当時は大学生だったそうですが、2017年に胃ガンで46歳で亡くなったとのこと。若くして亡くなったわけですが、20代前半だった『天と地』のイメージしかないので、46歳という年齢に「いつの間にかそんなに時が過ぎ去ってたんだなあ」とちょっと感慨を感じてしまいました。ハイン・S・ニョールともどもご冥福をお祈りします。

『コウノトリの歌』……#9607、映画板#1230
 こちらはベトナム・シンガポール合作のベトナム戦争映画。DVD邦題は『SONG OF THE STORK コウノトリの歌』。ベトナム映画のベトナム戦争ものも何本か観たんですが、やはり架空の小状況を描いた戦争映画ばかり。1つにはたぶん予算の問題もあるんでしょうね。そんな中でこの映画は実際にベトナム戦争を経験した何人かのベトナム人の証言を元に作られたようなので紹介しておきます。
 シンガポールでテレビの仕事に関わってきたジョナサン・フーと、ベトナム人のグエン・ファン・クアン・ビンの共同監督とのことで、確かジョナサン・フーが近隣国のことなのにベトナム戦争を何も知らなかったことに思い至り、ベトナム側に働きかけて製作したと聞いたような記憶があります。実際にベトナム戦争を経験した人へのインタビューの後にそれを再現しつつフィクションも交えたドラマ部分が始まるという構成で、それが3人分ほど繰り返されるオムニバス的な映画なんですが、なんというかテレビで見かける再現ドラマのノリに近い。ホウ・シャオシェンの『戯夢人生』も同じような作り方なんですが、技術的な部分で大きな差があります。南ベトナムが舞台になることがほとんどのベトナム戦争映画で、北ベトナムも舞台として出てくるのは珍しかったですね。
 しかし、ベトナム戦争映画の感想を散見すると、南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)と北ベトナムを同じものと思ってる人が結構いますねえ。まあ仕方ないのかもしれないけど。

・カンボジア史
『シアター・プノンペン』……#10427
 追記することは特にありません。

・インドネシア史
『アクト・オブ・キリング』……#9665
 追記することは特にありません。続編というか姉妹編の『ルック・オブ・サイレンス』も公開されましたがそちらは未見。

・インド史
『遠い雷鳴』……#9607
 ベンガル語映画の国際的巨匠サタジット・レイ監督による1973年の映画。確か90年代にNHK教育テレビでやってた「アジア映画劇場」で観ました(同枠では同じくサタジット・レイ監督の『チャルラータ』も観たなあ)。ビデオ化も含めてソフト化はされていません。これも歴史映画とは言いがたいんですが、史実を背景とした映画として優れた作品なのでご紹介。
 1942年のベンガル地方の田舎が舞台。日本軍のビルマ侵攻により米の輸入が途絶えたために米の価格が高騰して食糧不足が発生。主人公夫婦は托鉢に頼るバラモン階級であるがゆえに労働が行えず、米の購入もままならず苦境に陥る……というお話。翌1943年にはベンガルで500万人以上が死ぬ大飢饉となったそうで、映画はその暗い予感の中で終わります。直接的には戦火に見舞われていないインドにも第二次世界大戦による暗い影響が及んでいたことがわかりますが、そのような歴史的事実を背景としつつ、同時にカースト制度の矛盾に苦しむ人々を描き出すのがサタジット・レイのもう1つの狙いでしょう。主人公夫婦は決して裕福ではなく、米価の高騰によって生活苦に陥ります。周囲にもそのような人々が続出し、カースト最上位のバラモンだからといって必ずしも恵まれたわけではない、むしろ戒律により労働を行えないバラモンだからこそ苦境に陥るという、教科書的理解からはわからないカースト制度の実態が興味深かったですね。そのような人々の姿を通して、最上位のバラモンもまた苦しめられるカースト制度の非人間性に対する静かな疑問が突きつけられた秀作でした。

『ミルカ』……#10458
 追記することは特にありません。

・イスラム圏史
『千年医師物語 ペルシアの彼方へ』……#10656
 追記することは特にありません。

『アラビアの女王 愛と宿命の日々』……#10711
 追記することは特にありません。


>一豊! お前のやった事は全部お見通しだ!(特に意味はない)
 大河ドラマの思い出、今回は2006年の『功名が辻』。またも夫婦ものですが、ついに主人公夫婦の名前順が男女逆転です(ま、それ以前にも逆転どころか奥さん単独主人公の『おんな太閤記』や『花の乱』があったけど)。いちおう司馬遼太郎原作ですが、それで選んだというより利まつアゲインを露骨に狙ったあからさまな二番煎じの作品ですね(前田利家役で唐沢寿明がゲスト出演もした)。まあ必ずしもそれが悪いことだとは思わないけど、個人的には何年か前に観たのと似たようなドラマをまた観ようという気にはなれませんでした。利まつよりさらに小者の主人公だったし。しかし女性だし戦国だしということで我が家では毎週観ていたため、僕も付き合いで時々観ることに。
 そんなチラ見程度の感想では、とにかくひたすら自由奔放にドラマとしての面白さを追求してた利まつに比べると、どうも物語が上手く弾んでいかないように感じられました。原作に引っ張られて物語をゼロから作れなかったというか、自由な創造の飛翔を羽ばたかせようとすると原作に足を取られて地面に着地してしまうとでも言いますか、なんかそんな風に感じられましたね。あるいは二番煎じにならないように、あえて利まつとは違う路線を狙ったのかもしれないけど。
 そんな個人的感想はそれとして、平均視聴率は利まつにこそ及ばなかったものの20.9%と利まつ以来の20%台を回復。NHKもやっぱり今は女子大河だなとの確信を深めたことでしょう。特筆すべきこととしては最初から最後まで視聴率がほぼ横ばいだったらしいこと。だいたいドラマの視聴率は序盤(下手したら初回)が最も高く、徐々に下がっていくものなので、比較的波が少なかったということらしい。
 あとはざっと出演者を見たら、小りんという忍者役で長澤まさみが出演してて、ああ、そういえばと思い出したんですが、何やら『真田丸』の役柄とごっちゃになっちゃうんだよな。

>ほんとのおんな太閤記リターンズ
 2009年のテレ東正月長時間時代劇『寧々 おんな太閤記』が時代劇専門チャンネルで放送されてたんで録画して観ました。地元にテレ東系列局がなく未放送だったんですよね。主演は上記『功名が辻』でも主演だった仲間由紀恵ですが、僕が観たのは好きな女優の星野真里さんが脇役(寧々の妹やや役)で出てたからというただそれだけの理由です(笑)。
 橋田壽賀子オリジナル脚本の大河ドラマ『おんな太閤記』のリメイクなんですが、『おんな~』は僕が初めて観た大河にして全話観た数少ない大河の1つだけど、さすがにはるか昔の子供の頃なんで内容はかなり忘れちゃってます。今回は10時間ドラマとはいえ、全50話のドラマを実質全10話に縮めるんだからそもそもが無茶な話でダイジェスト感がすごい。お決まりの物語をざっとなぞっただけの薄いドラマで、仲間由紀恵と秀吉役の市川亀治郎(現・市川猿之助)以外はちょい役に毛が生えたような出番で入れ替わり立ち替わりといった感じ。お目当ての星野さんもそれほど出番はありませんでした。原作が40年も前のものなので仕方ないんですが、その後発表されたり定着した新説などはほとんど取り入れない、古典的な定番の秀吉夫婦物語でしたね。
 大河では赤木春恵が演じてた秀吉の母なかが十朱幸代、泉ピン子が演じてた妹あさひが田畑智子と、全体的にずいぶんこぎれいな配役に(笑)。大河では淀君だった池上季実子が本作では淀殿付きの大蔵卿というところは、おお、と思ったり。信長役の村上弘明に既視感があると思ったら、#10933で紹介した『太閤記 天下を獲った男・秀吉』でも信長役でほとんどいっしょのキャラクターでした。また金田明夫と小沢真珠が演じる、秀吉に仕える忍者が出てきたんですが、そんな人いたっけ?と思ったらやっぱり本作オリジナルキャラだった。あとナレーションが森光子なんですが、この頃にはもうしゃべり方がかなりモゴモゴフガフガしており、聞き取れないというほどではありませんが、ナレーションとしてはそのモゴモゴフガフガぶりがどうにも気になりました。

>名画座情報
『江戸城大乱』……LDはポニーキャニオンから出ていたようです。
『ブラザーフッド』……ウォン=ビンは「=」の入らない「ウォンビン」が正しいです。
『ジンギスカン(1965年の米国映画)』……劇場公開邦題は「・」の入った「ジンギス・カン」だったようで、VHS化の際に「・」の抜けた「ジンギスカン」という邦題になったようです。
『チンギスハーン』……「・」の入った「チンギス・ハーン」が正確な邦題のようです。



#10983 
ひで 2020/03/26 13:27
「人間の知恵はそんなもんだって、乗り越えられる」となるといいなあ。

管理人様お久しぶりです。

それにしても、世界史で「モンゴル時代とペスト大流行」とか、「コロンブスの交換のマイナス面」等々、疫病と世界史がらみの話(最近だとスペイン風邪なんかも出てきたか、、、)はありますが、世界の一体化と病気の大流行をリアルタイムで体感することになろうとは。情勢がすぐに変わっていくので、なかなか追いつけないところもありますが、果たしてどうなることやら。今回の病気がこれといった治療法がないっぽいというところもなんかめんどくさいことになっているという感じがします、、、。栄養を取ってゆっくり寝て休む、手洗い大事、顔をむやみに弄らない、そんなことを日々の暮らしで気をつけるしか無いんでしょうかね。

イギリスでチャールズ皇太子が陽性だとか、イタリアで終油の秘蹟に関わった聖職者が多く死んでいるとか、最近では若者の感染者や死亡者例もとりあげられるなど、病は老若男女、社会の上下問わずに広まっているようです。この大流行の後の世界がどうなるのか、去年でて、未だ図書館で予約が回ってくる気配が無いシャイデル「暴力と不平等の人類史: 戦争・革命・崩壊・疫病」で語られている事柄を図らずも補強してしまうようなことになるのか、それを乗り越える知恵が働くのか、、、、

まあ、なんともいえないのですがね、私なんぞには。

https://historia334.web.fc2.com/


#10982 
徹夜城(映画もろくに見に行けないのでストレスもたまる管理人) 2020/03/25 23:55
なんと新田義貞の歴史番組が

 どうも、管理人のくせにまたまたお久しぶりです。「史点」もずいぶんサボってますが、別に僕が例のコロナに感染したとかそういうことではありません。が、この新型コロナのためにそれ以外のニュースがほとんどない状態になってしまい、「史点ネタ」もなかなか集まらないんですよね。なんとか恒例行事の前に一回ぐらい更新したいもんですが。

 まぁそれにしても世界的な大騒ぎで、オリンピックも延期に。日本はまだおとなしく対応してる感がありますが、あちこちの国では外出禁止、営業停止、国境封鎖と凄いことになってます。一時気が緩んだあとで東京も下手すりゃ封鎖かもなんて状況で。
 小松左京の「復活の日」から「首都焼失」に進む感じで。よもや「日本沈没」にならなきゃいいんですが。


>南北朝番組
今日、NHKのBS「英雄たちの選択」が新田義貞で驚きました。南北朝がとりあげられること自体が珍しいのに、その中で義貞故人を採り上げたのはさらに珍しい。尊氏、後醍醐、正成どまりが定番でしたからねぇ。番組では大河「太平記」の映像が盛大に使われておりました。

 新田義貞というと「太平記」がそう書いてるせいですが「足利尊氏のライバル」で武家の棟梁の地位を争った、同格の立場として扱われることが多かったのですが、近年の研究では実際には同格はおろか新田氏じたいが足利一門の一員、実質家臣に筋近い立場だったと見られていて、この番組でもその線で語られました(漫画「バンデット」もそうでしたね)。
 面白いと思ったのはそこからで、その立場の義貞が後醍醐に利用される形とはいえ、機会をとらえて実力で朱筋の足利にとってかわろうとした、いわば「下剋上」のはしりなのかも、という見方を提示していたこと。まあ確かに南北朝動乱では全国の武家で本家筋に対抗、あわよくばとってかわろうとする分家筋(たいてい南朝方)という構図がやたらに見られ、新田VS足利もその線で論じることもできるのかなぁと。
 ああ、あと大河では「貧乏御家人」と強調されてましたが、これも最近の研究ではそうでもないようで、番組中でも「幕府が豊かな新田領に課税」とさりげなくナレを入れてました。

 後醍醐が尊氏と一時和睦、義貞を見捨てようとした一件も大きくとりあげられましたが、後醍醐に抗議をしたのは家臣の堀口貞満であって義貞は何も言えなかった、というところに彼の個性を見てましたね。そしてその後の義貞が一時とはいえ北陸に「第三極勢力」を作ろうとする(古典太平記も「三国志」故事を引いて例えてた)ことについて、これも実力主義の戦国武将のはしりかもしれない、ってな話を持って来てました。なるほどそういう観点mあるかな、と。

 だけど出演者の誰もが義貞個人の能力についてはあまり評価してない。「普通の人」とか「坂東武者」とか「政治的なことがわからない純朴」とか。「愛されキャラ」なんて言葉まで出たのには驚きましたが。
 驚いたと言えば高橋源一郎さんが後醍醐はすごい革新的な日と、ということで「スティーブ・ジョブズみたいなもん」と言ってたりしました(笑)。



#10981 
バラージ 2020/03/08 20:05
歴史映像作品感想追記 朝鮮・韓国史&東アジア史その他編

 まさか歴史の教科書でしか知らない石油ショックみたいなことが、今になってまた起こるとは。ちょうどトイレットペーパーが無くなりそうだったんで、あちこち探し回る羽目になりました。


 名画座未掲載の歴史映像作品の感想の追記、今回は朝鮮・韓国史編と東アジア史その他編をまとめて(モンゴル史はなし)。ハングル文字は多分文字化けすると思うので、韓国映画の原題は書きません。

・朝鮮・韓国史
『神弓 KAMIYUMI』……#9434
 弓矢アクションが超面白くて興奮したんで、もっとそういう映画が出てこないかな~と思ったんですが、撮影が大変なのか今のところ他に弓矢アクション映画は見かけませんね。ちなみに原題を直訳すると「最終兵器・弓」となるそうです。

『ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女』……#10752
 追記することは特にありません。

『道 白磁の人』……#9165
 これも追記することは特にありません。

『愛の黙示録』(「尹鶴子(ユン・ハクチャ)の生涯」というサブタイトル付きで掲載している映画サイトもあり)……#9595、映画板#1207
 1995年の日韓合作映画ですが、日本が資本を出しているため韓国では日本映画と分類されて公開できず、98年の日本映画解禁により輸入解禁第一号になったとのこと。日本では97年に公開されました。主人公・田内千鶴子(尹鶴子)の息子・田内基(尹基)の『愛の黙示録 母よ、そして我が子らへ』が原作で、脚本は中島丈博、監督は金洙容(キム・スヨン)、主演は石田えりという布陣。ビデオ化はされなかったんで、てっきりDVD化もされてないと思ってたんですが、「社会福祉法人 こころの家族」という団体の「映画「愛の黙示録」を世界におくる会」というところからDVDが販売されているようです。

『国際市場で逢いましょう』……#10458
 追記することは特にありません。

『ユゴ 大統領有故』……#9299
 これも追記することは特にありません。

『タクシー運転手 約束は海を越えて』……#10948
 これも追記することは特にありません。

『1987、ある闘いの真実』……#10948
 これも追記することは特にありません。

『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』……#10948
 これも追記することは特にありません。


・東アジア史その他
『戯夢人生』(原題:戯夢人生)……#9549、映画板#1202
 ホウ・シャオシェン監督の台湾現代史三部作の2作目で第一部にあたる1993年の映画。1895年から1945年という台湾の日本占領時代を背景に、初期ホウ・シャオシェン映画の常連で伝統芸能の人形劇「布袋戯」の国宝的名人でもある李天祿(李天禄、リー・ティエンルー)の半生が、彼自身の回想を通して描かれていきます。俳優が演じるドラマ部分とドラマ部分の間に李天祿の語り(というかインタビューというか)が挟まれるという少々変わった構成なんですが、その両者がどうも今一つ噛み合ってなかった感じ。決して映画の出来が悪かったわけではなく、傑作『恋恋風塵』『悲情城市』の後だっただけに少々物足りなく感じたのかもしれません。同じ中華圏でも、戦場となった大陸とは異なる台湾の様相が興味深く感じられました。ホウ・シャオシェン映画の中でなぜかこれだけがDVD化されてなくて、ビデオ&LDのみです。

『悲情城市』(原題:悲情城市)……#9549、映画板#1202
 ホウ・シャオシェンの台湾現代史三部作の1作目で第二部にあたる1989年の映画。日本が降伏した1945年から、国民党が台湾に逃亡してくる1949年までを、ある台湾人の大家族を主人公に描いた群像劇です。日本植民地時代と国民党台湾逃亡に挟まれた、日本人の意識としては空白だったと言ってもよい台湾の時代を描いた映画で、僕はこの映画で二・二八事件を知りました。二・二八事件を描いた最初の映画だったとのことで、ようやく戒厳令が解除されてから2年後に公開された映画だったそうです。
 とはいえ、観た当時はそんなことはほとんど知らず、あくまで『恋恋風塵』に続くホウ・シャオシェン監督の映画として観ました。僕はそれ以前にまず中国第五世代のチャン・イーモウ監督の『紅いコーリャン』に衝撃を受けていて、その次の洗礼が台湾ニューシネマのホウ・シャオシェンでしたね。さらにその後、チョウ・ユンファが主演したメイベル・チャン監督の『誰かがあなたを愛してる』やレオン・ポーチ監督の『風の輝く朝に』といった香港ニューウェーブに触れていく時代です。う~ん、懐かしい。
 製作側からのオファーで、大家族の四男役で主演した香港俳優トニー・レオンは台湾語が話せなかったため、聾唖者の役になったというのは有名な話。また、その恋人役で初期ホウ・シャオシェン映画のミューズだった辛樹芬(シン・シューフェン)の最後の出演作となった映画でもあります。ホウ・シャオシェンが『童年往事 時の流れ』のヒロインを探している時に街で偶然見かけて一目惚れし、熱心に口説き落として出演させたそうで、以後『恋恋風塵』でもヒロイン役、『ナイルの娘』では脇役で出演したものの、渡米して結婚。しかしホウ・シャオシェンの強い希望で一時帰国して本作に出演したのが最後の映画出演となりました。おそらく辛樹芬本人はあまり女優業に強い関心がなかったんじゃないかなという気がします。映画を観ていても、職業女優とは違うちょっと素人っぽい儚げな雰囲気に、そういうところがなんとなく感じられました。

『好男好女』(原題:好男好女)……#9549、映画板#1202
 ホウ・シャオシェンの台湾現代史三部作の最終作で1995年の映画。1940~50年代の抗日戦争から戦後の二・二八事件、そしてその後の白色テロの時代が取り上げられています。といっても主人公は現代の女優で、彼女が演じるフィクションの映画という劇中劇の形で描かれるという物語構造になっており、しかもウェイトが現代の女優の物語のほうに置かれていて劇中劇は断片的にしか出てこないため、歴史部分については非常にわかりにくい。
 製作までに企画が紆余曲折したようで、当初は釈放された老政治犯を描く朱天心(チュー・ティエンシン)の『台湾從前有個浦島太郎』を原作とする予定だったそうですが、アイドル歌手出身の伊能静を主演にキャスティングした後に、鍾浩東・蒋碧玉ら政治的迫害を受けた人々のドキュメントである藍博洲(ラン・ボーチョウ)の『幌馬車の歌』(映画公開から10年後に邦訳が出版)を原作に採用したとのこと。そうこうしてるうちにホウ・シャオシェンの意識や関心・興味が過去から現在に移ってきちゃったんでしょうね。むしろ次作の現代劇『憂鬱な楽園』につながる要素の多い映画になっているように思います。
 伊能静は公開当時、同じ台湾の金城武みたいに日本人の血をひいているような紹介がありましたが、実際には芸名で、本名は呉静怡。母親が再婚した日本人継父の姓が芸名の由来だそうで、中国語発音では「イーナン・チン(またはイー・ナンチン)」、英語名は「アニー・イー」ですが、日本では最初の紹介以来「いのう しずか」で通っています。

『[牛古]嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(原題:[牛古]嶺街少年殺人事件。[牛古]は牛偏に古)……#10573
 追記することは特にありません。

『軍中楽園』(原題:軍中樂園)……#10779
 追記することは特にありません。

『GF*BF』(原題:女朋友。男朋友)……#9881、映画板#1544
 歴史的事象が全編に散りばめられていて、プロローグの2012年で描かれる女子中学生の「スカートを脱いで短パンを履こう」運動からして実際に起こった事件をモデルにしているとのこと。1990年パートの学生運動は「野百合学運」「三月学運」と呼ばれるもので、1997年パートの幕開けに描かれる同性結婚式もやはり実際に同様のことがその年に行われたそうです。かつての学生運動の闘士が、空前の高度経済成長を謳歌する1997年の台湾では大物政治家の娘婿になってペコペコしてるというのは、日本の学生運動でもよくある話のような。


 これまでに感想の追記を書いた名画座未掲載の歴史映像作品でDVD化がされてない作品のうち、ビデオ(VHS)化のみの作品と、ビデオだけでなくレーザーディスク(LD)化もされている作品とがあるので、その部分について追記を。

・ビデオとLDの両方がある作品……『ハリマオ』『南京1937』『チャイニーズ・ボックス』
・ビデオ化のみの作品……『曽我兄弟 富士の夜襲』『さよなら李香蘭』『黒い太陽七三一 戦慄!石井七三一細菌部隊の全貌』『異聞 始皇帝謀殺』『青い凧』


>『バビロン・ベルリン』
 GYAO!の無料動画で配信が始まりました。今のところ1~2話が配信中で今月29日まで配信とのこと。以降毎週2話ずつ配信されていく模様です。このドラマはBS12で観たんですが、すごく面白かったんでもう1回観ようっと。ていうか録画保存したいんで、BS12で再放送してくれんかな。

>『いだてん』再放送
 ふと改めて気づいたんですが、再放送は足袋屋がピエール瀧から三宅弘城に変わった撮り直しバージョンの放送になるんですね。そういう意味では新しく観るシーンということに。

>名画座情報
『卑弥呼』……キングレコードから「ATG初DVD化BOX」という他のATG9作品とのBOXセットでDVD発売されています。単品バラ売りはありません。
『戦国疾風伝 二人の軍師』……「~秀吉に天下を獲らせた男たち~」というサブタイトルが付いているようです。
『水滸伝(1983年の映画)』……DVD化はされていませんが、VHSの他にパイオニアLDCからLDも発売されています。
『忠烈図』……LDはパイオニアLDCから出ていたようです。
『マンドハイ』……DVD化はされていませんが、VHSの他にパイオニアLDCからLDも発売されています。
『ソドムとゴモラ(1962年)』……DVD化はされていませんが、VHSの他に日本コロムビア株式会社からLDも発売されています。
『ダビデとゴライアス』……DVD化はされていませんが、東芝映像ソフト株式会社からVHSが出ています。
『キング・ダビデ 愛と闘いの伝説』……DVD化はされていませんが、VHSの他にパラマウントホームエンタテインメントジャパンからLDも発売されています。
『侵略者』……DVD化はされていませんが、『侵略王アッチラ』の邦題で東宝からVHSが出ています。
『パン・タデウシュ物語』……DVD化はされていませんが、エムスリイエンタテイメントからVHSが出ています。
『ヴァイキング・サーガ』……「・」無しの『ヴァイキングサーガ』が正確な邦題のようです。
『戦うパンチョビラ』……VHS邦題は正確には劇場公開邦題と違って『戦うパンチョ・ビラ』と「・」が入っているようです。
『モアイの謎』……DVD化はされていませんが、VHSの他にパイオニアLDCからLDも発売されています(邦題はVHSと同じ)。



#10977 
バラージ 2020/02/24 22:09
文字化け

 文字化けした部分は、「山[木査]樹之恋」(2文字目が「木偏に査」)です。



#10975 
バラージ 2020/02/24 21:56
歴史映像作品感想追記・中国史編④

 はじめましての方が続けていらっしゃいましたね。大河『太平記』のDVDボックスを所有とか、4回も通して観たとかすごいなあ。僕はさすがに50話もあるドラマのDVDボックスを買ったり、全話再視聴したりは、お値段的にも時間的にもなかなか……。


 名画座未掲載の歴史映像作品の感想の追記、中国近代史編の後編です。今回は文革だらけ(笑)。

『戦場のレクイエム』(原題:集結號)……#9501
 追記することはあまりありません。国共内戦の3大戦役の1つとされる淮海戦役が前半の舞台とのことで、監督はフォン・シャオガン。原作は楊金遠(ヤン・ジンユエン)の短編『官司』(未訳)だそうです。

『芙蓉鎮』(原題:芙蓉鎮)……#9549、映画板#1203
 架空の田舎町・芙蓉鎮を舞台に文化大革命を描いた謝晋(シェ・チン)監督による1987年の映画。原作は古華の同名小説。日本公開は1988年とのことですが、僕が観たのはもうちょっと後で、チャン・イーモウ監督のデビュー作『紅いコーリャン』(1987年製作。1989年日本公開)よりも後になってから。この映画を観たのは確か大学時代で、映画館でもレンタルビデオやテレビ放送でもなく、多分学内での上映会かホール・会館などでの上映会だったんじゃないかと記憶しています。謝晋は中国映画史では第三世代に属する人で、文革前から映画監督をしていたとのこと。それだけに当時僕が衝撃を受けた第五世代のチャン・イーモウの映画に比べると作風がやや古くさく感じられました。力作ではあるんですけれども。主演の劉暁慶(リウ・シャオチン)は、『紅いコーリャン』でデビューしたコン・リーの前の時代のスター女優で、1984年の映画『西太后』(原題:火焼圓明園/垂簾聴政。未見)でも主演しています。

『青い凧』(原題:藍風箏)……#9549
 文革で下放された経験のある、第五世代のティエン・チュアンチュアン(田壮壮)監督による1993年の映画。DVD化はされていません。1953年のスターリンの死に始まり、50年代半ばの百花斉放百家争鳴と反右派闘争、60年代後半の文化大革命までを描いています。中国本国では上映禁止となり、ティエン・チュアンチュアンは以後10年映画製作を禁止されたとのこと。ティエン・チュアンチュアンは、同じ第五世代のチャン・イーモウやチェン・カイコーに比べてやや難解な作風と言われ、僕はこの作品しか観ていませんが、とにかく淡々としたリアリズム的映画で途中ちょっとつらかった記憶あり。

『活きる』(原題:活着)……#9549、映画板#1203
 やはり文革で下放された経験のあるチャン・イーモウ監督による1994年の映画。原作は余華(ユイ・ホア)の同名小説。1940年代後半の国共内戦から50年代の大躍進政策、60年代の文化大革命までが描かれます。この映画も中国本国では上映禁止となり、日本での公開も遅れ2002年になってようやく公開されました(後の監督作『上海ルージュ』『キープ・クール』『あの子を探して』『初恋のきた道』が先に日本公開されている)。主演はグォ・ヨウで、コン・リーがその妻役……なんだけど、やっぱりポスターもDVDもコン・リーが主役みたいでグォ・ヨウは写ってないんだよな。カンヌ映画祭で男優賞まで獲ったというのに。第五世代では最も後発で文革を描いた映画を撮ったチャン・イーモウですが、糾弾調の告発映画というより喜劇的悲劇というか悲劇的喜劇というか、ある種の不条理なものとして内戦や大躍進や文革を描いている感じ。各家庭に鍋釜まで供出させて出来上がったのは使い物にならない屑鉄だったとか(日本の戦時中といっしょだな)、娘の出産のために訪れた病院は文革で医者が追放されて、知識はあっても実技経験のない若い看護婦が威張っているが、娘が急変すると対処できずにおろおろするばかりといったエピソードが印象的。しかしどのような災厄が起ころうとも生き抜いていく庶民の姿が、グォ・ヨウの飄々とした演技で表現された作品でした。

『太陽の少年』(原題:陽光燦爛的日子)……#9549、映画板#1203
 俳優チアン・ウェンの監督デビュー作となった1994年の青春映画。原作は王朔(ワン・シュオ)の『動物凶猛』(未訳)。チアン・ウェンは監督としては第六世代に当たり、同世代の原作者による小説に惚れ込んで映画化したとのこと。1970年代初頭の文化大革命下の北京を舞台に少年のひと夏の恋を描いた映画で、大人や青年たちが消えた街は少年たちにとって天国だったという予想外の視点からの映画でした。第五世代よりさらに新しい感覚の映画という感じで、なかなか面白かったんですが、この映画だけ観たら文革なんてたいしたことなかったと思ってしまいそう(笑)。あと、青春映画大好きな僕ですが、ヒロイン女優のニン・チンのエキゾチックな濃い目の顔立ちが今一つ好みじゃないんだよな。

『小さな中国のお針子』(原題:Balzac Et La Petite Tailleuse Chinoise)……#9549、映画板#1203
 フランスで活動する中国人監督ダイ・シージエが自作の小説『バルザックと小さな中国のお針子』を自ら映画化した2002年のフランス・中国合作による青春映画。1970年代初頭、農村に下放された2人の青年は、村の無学な美しいお針子に魅せられ、文盲の彼女に禁書であるバルザックをはじめとする西洋文学を読み聞かせることに夢中になる。お針子は教養を得て変貌していくが、やがて西洋文学の影響で「自由」に目覚め……というストーリー。ダイ・シージエは世代的には第五世代で、やはり自らも下放された経験があるとのこと。どことなくフランス映画の香りがする映画で、変貌していくヒロインを演じるジョウ・シュンが素晴らしい。主演した香港映画『ハリウッド★ホンコン』での彼女が素晴らしかったんで、この映画も観てみたんですが、これまた良かったですねえ。その一方で2人の青年役のリウ・イエとチェン・クンの顔立ちが似てて、途中でどっちがどっちだかわからなくなるのが困りもの。

『サンザシの樹の下で』(原題:山&#26946;樹之戀)……#9549
 チャン・イーモウ監督が三たび文革を扱った悲恋映画(2度目に文革を取り上げた『初恋のきた道』は背景のみで直接は描かれない)。原作は中国系米国人小説家エイ・ミーの『山&#26946;樹之戀』(未訳)。1970年代初め、地方の農村に下放された女子高生が主人公。彼女は地質調査に訪れていた青年と惹かれ合うが、彼女の両親は反革命分子とされており、恋愛にうつつを抜かすようなことは批判の対象となるため人目を忍ぶ恋だった。やがて青年は病に倒れ……というストーリー。人の自然な感情である恋すら許されぬ文革の非人間性と、2人の恋の悲劇的結末が胸に迫る映画です。オーディションで選ばれた主演のチョウ・ドンユィは、決して美人ではない(競泳の岩崎恭子にちょっと似てる)にも関わらす非常に魅力的。当然ながらこの後、売れっ子になっていきます。チャン・イーモウは良い女優を次々見つけるなあ。

『妻への家路』(原題:帰来)……#9889
 追記することは特にありません。

『芳華 youth』(原題:芳華)……#10901
 これも追記することは特にありません。

『メイド・イン・ホンコン』(原題:香港製造)……映画板#1729
 これも追記することは特にありません。歴史映画ではなく、香港の中国返還直前を同時代的に描いた映画ですが、中国返還を描いた歴史映画がないってのと、これもある種の歴史の記録の一断面ってことでご紹介。

『チャイニーズ・ボックス』(原題:Chinese Box)
 香港出身で米国で活動するウェイン・ワン監督による1997年のイギリス・香港合作映画で、これも歴史映画ではなく香港の中国返還直前を同時代的に描いた映画です。返還直前の香港を舞台にジェレミー・アイアンズ演じるイギリス人ジャーナリスト、コン・リー演じる中国人女性、マギー・チャン演じる香港人女性の愛が交錯するアート系恋愛映画で、コン・リーとマギー・チャンが共演と聞いて楽しみにしてたら、直接の共演シーンはなく拍子抜け。映画の出来もアート系映画だけあって、ところどころわかりにくいところもあり、まあまあといったところでした。DVD化はされていません。


>カルト大河
 大河ドラマの思い出、今回は2004年の『新選組!』。しかし幕末にあまり興味のない僕は中でも新選組には特に興味がなく、配役的にも興味のある人が出ておらず、さらに三谷幸喜のドラマは民放で何本かチラッと観たけど作風が苦手。ということで観る気が全く起きず、家族も誰も興味がなくてそもそもチャンネルを合わせていなかったため、チラッと観ることもありませんでした。なので内容についてはほとんど何も言えません。平均視聴率は17.4%とまたも低迷。しかし熱狂的ファンの要望で続編単発ドラマ『新選組!! 土方歳三最期の一日』が作られたということは、このドラマもやはりカルト的にウケたドラマなんだろうなあ。本編では榎本武揚役で草彅剛が友情出演してたようですが、香取慎吾の出ない続編ではもうそんな義理はないということか、榎本役は片岡愛之助に変身しちゃったようで(笑)。三谷脚本の民放連ドラには幕末を舞台にした『竜馬におまかせ!』というハチャメチャコメディ時代劇もありましたね。こっちはチラッとだけ観ましたが、個人的にはやっぱりちょっと……というドラマでした。

 2005年の『義経』については、#10879で書いたので省略。平均視聴率は19.5%とやや回復したものの、20%にはやはり届かず。

>名画座情報
『怪傑 洪吉童』……『洪吉童 ホン・ギルトン』の邦題でブロードウェイよりDVD化されています(北朝鮮映画の全貌シリーズ)。
『ソドムとゴモラ(1962年)』……DVD化はされていませんが、VHSの他にLDも発売されています。



#10974 
やたろう 2020/02/24 21:12
三年B組…正成先生~!

大河太平記の再放送が決まったと聞き、南北朝時代ファンとりわけ足利尊氏、佐々木道誉、そして武田鉄矢さんの楠木正成好き(笑)としては歓喜に堪えない一人です。南北朝は好きですが、此方様の太平記大全を拝見しながら予習させていただきたく思います。あの正成、個人的には好きなのですが、「大楠公を侮辱した」と嫌っている一部の人々もいるようです。歴史用語の「悪党」に抗議した湊川神社の件もありましたが、エンターテインメントなのですから、あまりカリカリしないで楽しむのが吉と思う次第です。

太平記関連の書籍では、「大楠公」のコミックやあおむら純さんの日本の歴史を読みましたが、前者は宗教的は要素はありますが、皇国史観の影響がない現代人にとっても正成の魅力を伝える名著と考えます(忍者の女の子が可愛いのもポイント)。また、あの作品に感じたのが「正成の言う事を聞かないと負ける」的なジンクスで、ごだ帝(また不敬罪)はじめ護良様も坊門さんも正成をないがしろにして大敗を喫し、彼の願いや戦術に対して率直に受け止めた尊氏が勝つ描写はそれを如実に書いているなと言う印象です。

後者は子供時代に読みあさったシリーズだったので、懐かしさに浸りながら読み進めることが出来ましたし、あおむらさんの親しみ易く深みがある絵柄と巧みな進め方で複雑なる南北朝時代を学べるのは魅力的でしたね。なお、このシリーズの名物と言うかマスコットは好々爺の博士(もしくは先生)と子供達で、カゴ直利さんの日本の歴史にも角帽とジャケットで決めた、ステレオタイプな博士姿のおじいちゃんが描かれていましたが、こうした味のある可愛いキャラが昔の学習漫画には多かったなぁ…と、ノスタルジックな気分に浸るあたり、私も年を感じてしまいました(笑)。

https://rekisou.exblog.jp/


#10973 
吾輩の飼主 2020/02/20 23:13
大河ドラマあれこれ

>管理人さま
ご返信ありがとうございました。
太平記、確か大河50作の時にNHKが作った特番内の視聴者人気ランキングで上位に入っていたような覚えがありますね。
毎週1話ずつじっくり見て、「太平記」大全を読み返すのが今から楽しみです。

(>バラージ様 の投稿内容にも関連しますが)
ちなみに私の中では、過去に見た作品の中で長らく太平記がナンバーワンでしたが、昨年は「いだてん」に見事にハマり、トップツーという感じになっています。
以前は当然のように1年間全話観ていた大河ドラマも、すっかり途中脱落が定番になっていたのですが(近年の完走は真田丸と平清盛くらい)、本当に久しぶりに大河にどっぷり浸かった1年でした。
「いだてん」はかなり好みが分かれると思いますし、世間的には「否」の方が多かったのだと思いますが、4月から太平記、いだてんの両作が再放送ということで、私自身はとてもテンションが上がっているところです。

「麒麟がくる」は、今のところ観続けていますが、直近の放送回は説明的な台詞が多すぎたのと、偶然の出会いパターンが繰り返されてイマイチだったかなという印象です。
前半生の多くが謎に包まれている光秀を題材に描くので、中々難しい面も多いとは思いますが…



#10972 
ラノベ小僧 2020/02/20 20:45
初めまして

小、中学生の時に歴史漫画を読んで歴史オタクを自称してるぐらいのマニアックな者です。
初めて観た大河ドラマが「武蔵MUSASI」でしたが巌流島ぐらいしか記憶にない…最終回まで結構観てたのが「新撰組!」ですねえ。
「太平記」はDVDBOX持ってます♪
原作本は六興社の単行本を全巻持ってます。個人的に好きな歴史人物は足利尊氏、源頼朝、戦国武将は徳川家康か武田信玄です。
再放送中の「葵徳川三代」毎週観てます。当時小学生でしたが観てなかったです…今や亡くなった大スター一杯出てますなあ…
今後お世話になります。



#10971 
バラージ 2020/02/18 22:24
影武者献帝劉協

 BS12で放送されていた中国ドラマ『三国志 SECRET of THREE KINGDOMS』の録画をようやく観終わりました。わりと快調に録画を消化してたんですがそれでも週5ペースはきつく、1月から他の新ドラマ(歴史ものではない)が始まったこともあって録画視聴が滞り、さらに1月末からテニスの全豪オープンが始まりそっちの視聴を優先してたため、1ヶ月遅れでの視聴終了となりました。
 ストーリーは以前も書きましたが、西暦200年という曹操が袁紹との決戦に及ぼうとしていた時代に物語が始まります。楊俊の息子・楊平は司馬家に預けられ司馬懿らと兄弟のように育ったが、ある日父に漢王朝の都・許昌へと連れ出される。実は楊平は献帝劉協の双子の弟・劉平で、曹操の傀儡に甘んぜず密かに反撃を志しながら病死してしまった兄の遺言で、兄に成りすまし曹操の野望と戦うことになる……というお話。原作小説があるらしいんですが、ま、要するに影武者もので、歴史ドラマというより娯楽時代劇のノリと言っていいでしょう。『影武者徳川家康』みたいなもんなのかな(そっちは原作もマンガもドラマも未見だからよくわかんないけど)。
 基本的に曹操陣営の話で劉備や孫権は出てきません(袁紹陣営は多少出てくる)。とにかく美男美女だらけで目の保養になる三国志で、イケメンな献帝や司馬懿に最初はちょっと戸惑いますが(笑)、観ているうちにだんだん慣れてきます。当然ながらストーリー展開はかなり自由奔放で、主人公のイケメンがやたらあまっちょろいことを言うのは最近のこの手の中国ドラマの傾向なのかもしれないけど、架空人物ということも相まってぎりぎり許容範囲内の言動かと。全54話の半分以上を過ぎても200年の官渡の戦いの話で、このペースで終わるのかと思ってたら途中から猛スピードで話が進み、220年の禅譲による後漢王朝の滅亡と魏王朝の成立までが描かれてました。ただ時間経過の観念が薄いのか、数年経ってるはずが数ヶ月とか数週間にしか感じられなかったりして、後半は「今はいったい何年頃なんだ?」と首をかしげることもしばしば。また影武者ものの定番として後半だんだん矛盾が出てきて苦しくなってきたりもするんですが、これもぎりぎり許容範囲かな。あと最初のほうに出てきた伏線っぽいネタの一部が、早々に放り出したのかそれとも忘れたのか、あっさりスルーされちゃってたものがあったような。
 と、ここまで批判めいたことばかり書いてきましたが、じゃあつまらなかったのかというとそんなことはなく、まあまあ面白かったです。『麗王別姫』なんかに比べるとそれほど女性専用のドラマではなく、男が観てもそこまでの違和感はありません。曹操ファンとしては、曹操が敵役になっちゃってることに微妙なところもあるんですが、登場人物の設定が絶妙で三国志ファンならニヤリとするような部分も多い。よほどの三国志ファンでも知らないようなマニアックな人物もちょこちょこ出てきて、主人公の養父と設定されている楊俊も調べると実在の人物でした。三国志はやり尽くされてることもあるし、僕も正史系に演義系と一周回って何でも来いの心境ということもあって、ユルいスタンスで観てましたね。
 そもそも僕が観た動機は、ヒロイン・伏寿(伏皇后)役の女優レジーナ・ワンが観たいからというものでして(笑)。彼女の妖艶な美貌と演技派っぷりを堪能できたので満足でございます。貂蝉、甄夫人という三国志の美人たちと一堂に会するシーンがあるんですが、伏皇后が1番美人なんだよな(笑)。サブヒロインの唐瑛(前皇帝弘農王劉弁の未亡人・唐姫)役のドン・ジエはWOWOWで放送中の『如懿伝』にも出てますが、チャン・イーモウ監督の『至福のとき』(2000年)でデビューした時にはまだ20歳。最後に観たのはウォン・カーウァイ監督の『2046』(2004年)でしたが、いつの間にかもうアラフォーなのね。時が経つのは早い。イーモウ映画でデビューしたことからコン・リー、チャン・ツィイーと並べて語られてましたが、2人に比べるとちょっと地味だな~と感じてた通り、地味めのキャリアとなりました。
 そういえばこのドラマの放送やDVD発売時の煽り文句が「動画再生回数30億回」というもので、この「動画再生回数○億回」ってのが最近の中国ドラマ定番の煽り文句になってるんですよね。中国では視聴率という物差しが有効ではないのか、それとも動画配信がそれほど一般化してるんでしょうか。

 それにしても最近は視聴者も韓流時代劇(史劇含む)が飽和状態になってきたのか中華時代劇のBS放送も増えてきて、さらに韓流一色だったドラマムック本にも中華時代劇ものがちらほらと出てきたのはうれしいところ。ただ中国ドラマはまだほとんどが時代劇かファンタジーで個人的にはその辺はもうお腹いっぱいなんだよな。韓国ドラマや台湾ドラマみたいに現代劇ドラマも観たい。役者さんがコスプレしてない素顔に近いドラマが。レジーナ・ワンが出てる現代劇ドラマやってよ!と思ってる今日この頃です。


>小説の賞味期限
 大河ドラマの思い出、今回は2003年の『武蔵 MUSASHI』。最初に吉川英治の『宮本武蔵』が原作だと聞いた時には何度目の映像化だよと思うと同時に、正直大河の原作としては違和感がありました。確かに宮本武蔵は実在した歴史上の人物ですが、吉川『武蔵』はほとんどが創作で歴史小説というよりは時代小説に近い印象があり、歴史ドラマというイメージの大河ドラマとはちょっと違うんじゃないかと思ったんですよね。それでいてストーリーはあまりにも有名で、原作未読で映像やマンガなどの二次作品もほとんど観ていない僕でもある程度は知っていたため、忠臣蔵なんかと同様にまたかよって感じで、どうも観る気が起きませんでした。
 放送時には、朱実役の内山理名目当てでほんのちらっとだけ観ましたが、米倉涼子がお通のイメージに合わんなあと思った記憶あり。とはいえおそらくは確信犯的にそうしたんでしょうね。というのも当時すでに吉川『武蔵』の人物造形は古くて時代に合わないものになっていたように思うんですよ。何しろ戦前に書かれた小説ですから。村上春樹がトルーマン・カポーティの『ティファニーで朝食を』について、「同時代の多くの古典候補が歳月の試練に耐えきれず坂をずるずる滑り落ちていったが、『ティファニー』は現代の古典としてしっかり生き延びている」と表現してましたが、吉川『武蔵』も滑り落ちつつある古典候補の1つなのかもしれません。何しろ『ティファニー』より昔の小説ですし。またやはり村上春樹が「翻訳の賞味期限」という表現で、時代が変わるにつれて読者の感覚も変わるので翻訳も時代に合わせて新訳を行う必要性があるというようなことを言ってたんですが、同様に小説の映像化にもやはり賞味期限があるんではなかろうか。このドラマのちょっと前に大ヒットした、吉川『武蔵』原作のマンガ『バガボンド』もおそらくかなり大胆に改変されていて、僕はちらっとしか読んでませんが佐々木小次郎が聾唖者という設定で驚きました。その『バガボンド』人気にしたって宮本武蔵とか、ましてや吉川英治とかではなく、井上雄彦が『SLAM DUNK』の次に描いたマンガってのが大ヒットした理由だろうしなあ。
 ドラマに話を戻して、ざっとスタッフを見たら脚本が鎌田敏夫。僕でも知ってる有名脚本家だったんですね。作品歴を見ても『飛び出せ青春』『俺たちの旅』『金曜日の妻たちへ』『男女7人夏(&秋)物語』『29歳のクリスマス』などなど有名な大ヒットドラマが枚挙の暇もありません。ただ、時代劇を手掛けたことはドラマでは全くなかったようで、あえて言えば映画で『戦国自衛隊』『里見八犬伝』『天と地と』を手掛けてるくらい。また出演者で目にとまったのが千姫役の橋本愛美という女優。あれ?ひょっとして……と思って調べると、やはり橋本マナミさんの旧芸名でした。この時はまだ19歳だったと聞くと、時の流れを感じたりなんかして(笑)。平均視聴率は16.7%と、前年持ち直したのも束の間、あっという間に急落してしまいました。

 原作の『宮本武蔵』については、軍国主義に傾いていく世の風潮を嫌った吉川英治が求道小説に逃避したんじゃないかと僕は勝手に思ってたんですが、完全に勝手な思い込みで実は全然違ってたらしい(笑)。中島岳志『親鸞と日本主義』(新潮社)によると、吉川はバリバリの皇国主義者で「ペンによる報国」の先頭に立ち、昭和天皇の終戦の詔勅を聞いた時には表に飛び出し地面にひれ伏して号泣したという、かなりファナティックな人だったようです。『宮本武蔵』ももともとはかなり皇国史観バリバリの小説だったそうですが、戦後しばらくしてから民主主義的な価値観への転換に伴って大幅に書き換えられ、現在流通してるものは全て戦後版とのこと。

>大河ドラマ
 『太平記』は今やってる『葵 徳川三代』再放送の後番組のようですが、『いだてん』も4月からBSプレミアムとBS4Kで同時放送されるようですね。去年のドラマなのにもう再放送なのか。やはり一般ウケはしなかったけど、カルト的人気を博したドラマってことなのかなあ。
 『麒麟がくる』は、僕はついに脱落。脚本自体があまり面白くないと感じるのは僕だけでしょうか? それと書き忘れてたんですが、急遽の代役となった川口春奈。彼女の演技も決して悪くはないんだけど、やっぱり沢尻エリカと比べちゃうとちょっとなあと感じちゃうんですよね……。観てて、ああ、ここは沢尻エリカだったらもっとハマってただろうなあと思っちゃうところがちょこちょこある。もう1人のヒロイン門脇麦と雰囲気が似てるのも、お互いの魅力を殺し合っちゃってるようで残念。まあ彼女が悪いわけではないし、言ってもしょうがないことなんだけど。



#10970 
徹夜城(そもそも人ごみには行きたがらない管理人) 2020/02/17 23:21
コロナウィルスのニュースばかりで

 まぁそれにしても、無理もないとは思うのですが、連日ニューう関係はコロナウィルスの話題ばかりで。とうとう東京マラソンが一般人参加なし、令和最初の天皇誕生日も一般参賀なし、といろいろイベントに影響が出てきました。展開次第ではホントにオリンピックにも…という声もチラホラと。

>吾輩の飼主さん
 はじめてまして。ずいぶん前にもご覧になっているようですが、「太平記大全」その他をお楽しみいただければ幸いです。
 思えば「太平記大全」も作ったのは20年近く前になってしまうのですよねぇ(汗)。あれのご案内か何かに「放送から10年」と書いてるくだりがあったはず。
 大河「太平記」は南北朝唯一の大河ということもあって見てる人の絶対数は少なそうなんですが、見ている人の間では非常に評価は高く、過去いくつかあった投票でも上位に食い込むことはありましたね。
 再放送ということで、どのくらい来客があるかな、というのもこの大河のバロメーターになるような気がしてます。



#10969 
吾輩の飼主 2020/02/16 10:54
初めまして

初めて投稿させていただきます。
(ご挨拶的なものがこちらの掲示板でいいのか自信がないのですが、ご容赦ください。)

10年ほど前、時代劇専門チャンネルで放送された「太平記」に魅了された者です。
その後、今日までに記憶している限りで最低4回は全話見直したのですが、そのたび、1話ごとにこちらの「太平記」大全を読みながら堪能させてもらっていました。
ですので、こちらへの書き込みは初めてなのですが、私個人としては何度も何度も大変お世話になっていたのです。

今回、4月からNHK BSで太平記が全話再放送ということで、久々にこちらにお邪魔し、どうしてもこれまでの御礼を申し上げたく、こうやって掲示板にも投稿をさせてもらいました。

最近、こういった個人サイトはすっかり数が少なくなり、検索してもWikipediaかまとめサイトか…みたいな状況の中で、変わらず活動されていて、そういう意味でもとても嬉しくなりました。
(個人的に、こういった掲示板への書き込みもとても久しぶりな気がします。)

4月以降、また「太平記」大全をじっくり読ませていただくことになると思います。
どうぞよろしくお願いいたします。



#10968 
徹夜城(四月からアクセスが増えると嬉しい管理人) 2020/02/13 23:08
大河「太平記」を再放送とのことで。

 今日発表されましたが、四月からNHKのBSで、日曜の朝に「太平記」の再放送をするんだそうです。今年の大河が同じ脚本家だからかな?
 とっくに完全版のソフト化もされてますけど、「放送」となると時代劇専門チャンネルとかそういうのでしかやってなくて、BSとはいえ比較的見やすいもので全話放送というのはやはり喜ばしい。これを機に見てみようという人もいるでしょうし…そもそもこの手の再放送にもあまり恵まれなかった気がするなぁ。
 当然ながら当サイトの「太平記大全」にもアクセスが増えるだろうと皮算用してます(笑)。

 あ、昨日付で「史点」も更新しております。



#10967 
バラージ 2020/02/08 22:49
歴史映像作品感想追記・中国史編③

 なにやら僕の投稿ばかり続いてますが、名画座未掲載の歴史映像作品の感想の追記、中国近代史編その1。

『さらば復讐の狼たちよ』(原題:譲子弾飛)……映画板#1351
 1920年という辛亥革命後の混乱する中国を舞台とした西部劇風の痛快アクション活劇で、実際の事件を描いたわけでもなければ実在の人物が出てくるわけでもない全く架空の物語なんですが、時代の空気はよく描けてるんじゃないかということと、何より映画としてすごく面白いのでご紹介。ま、これも個人的な趣味です(笑)。
 ストーリーは、地方の県知事に赴任する男の隊列を山賊一党が襲撃。捕まった男は実は県知事の地位を金で買った詐欺師で、自分は書記だと嘘をついて山賊の首領に県知事に成りすまして赴任すればボロ儲けできると持ちかける。ところが県は顔役が金と暴力で支配しており、県知事は傀儡に過ぎなかった。そこから山賊・詐欺師・顔役の知力と武力を尽くした虚々実々の駆け引きが繰り広げられていく……というもの。なお、あらすじなどでチアン・ウェン演じる主人公の一党を“ギャング”と表現してますが、これは邦題ともども集客のためにノワール映画っぽく見せかけようとの意図だったと思われます(主演の1人がチョウ・ユンファだし)。しかし実際に映画を観ればわかる通り主人公一党は山賊とか馬賊であってギャングではありません。映画全体に中国革命史の隠喩が散りばめられてるらしいんだけど、日本人にはほとんどよくわからない(笑)。とはいえ別にそんなことわからなくても無問題。普通に娯楽映画として面白く観れる映画です。山賊のチアン・ウェン(兼監督)、詐欺師のグォ・ヨウ、顔役のチョウ・ユンファという演技派俳優たちの騙し合いによるどんでん返しの連続が痛快な娯楽活劇です。

『パープル・バタフライ』(原題:紫蝴蝶)……#9549
 第一次上海事変前後の上海を舞台とした恋愛サスペンスドラマ映画。これまた実際の事件や実在の人物を扱った映画ではありませんが、個人的趣味で紹介しちゃいます。
 1928年の満州地方で愛し合った中国人女性と日本人男性が、1931年の上海で再会。女性は名を変え、抗日地下組織“パープル・バタフライ”の一員となっており、男性は日本軍の諜報部員として上海に赴任してきた。女性の恋人でもあるパープル・バタフライのリーダーは、彼女に諜報部員との過去を利用して接触し情報を引き出すことを指示。一方、そのような社会情勢には無縁だった中国人カップルもパープル・バタフライと日本軍諜報機関の戦闘に巻き込まれ女性が命を落とす。失意の男は復讐心を抱き、やがて彼ら複数の恋人たちの運命は悲劇へと向かっていく……というストーリー。
 とにかく全編に渡って暗く哀しい雰囲気の映画で、台詞も少ないというロウ・イエ監督の作風が良い。役者たちの抑えた演技も印象的で、ほとんどノーメイクの主演チャン・ツィイーがとにかく美しく目の保養。アップの素顔に、意外にほくろが多いんだな~と見とれたりなんかして。日本軍諜報員役の仲村トオルも好演でした。カップル役はこの頃から目立ち始めたリウ・イエとリー・ビンビン。映画はエピローグで日中戦争の記録映像がコラージュ的というかモンタージュ的に流れるんですが、中国が暗い時代に突入していくことが暗示されているように感じました。

『ロアン・リンユィ 阮玲玉』(原題:阮玲玉)……#9665
 1920~30年代に活躍した上海の映画女優・阮玲玉(ロアン・リンユィ)の半生を描いた1991年の香港の伝記映画。1929年に映画初主演する頃から、1935年に25歳の若さで自ら命を断つまでが描かれています。主演のマギー・チャンがベルリン国際映画祭で最優秀女優賞を受賞しました。なお、デジタルリマスター版DVDでは邦題が『ロアン・リンユイ 阮玲玉』と「イ」が大文字になっているので注意が必要。
 マギーが阮玲玉を演じる一般的な再現パートを中心としながら、映画撮影のシーンでは現存する阮玲玉の出演映画の映像も使用され、さらに阮玲玉と親交があり当時存命していた女優・黎莉莉(劇中ではカリーナ・ラウが演じている)ら映画人へのインタビューや、映画製作過程でのマギーやレオン・カーフェイ(映画監督・蔡楚生役)、カリーナら出演俳優とスタッフによる登場人物や時代背景についてのディスカッションも挿入されるなど、多方面から光を当てることによって実在の人物を立体的に浮かび上がらせるという特殊な構成となっています。映画の舞台裏まで見せることによって「これはあくまで映画だ」ということを表明しつつ、実際に残る映像や証言さえも絶対的に確かなものではないことも暗に示し、さらに現代を生きる俳優たちの(演じている人物たちとは異なる)素の意見を映し出すことによって、事実や史実というものの不確かさや不安定さ、実在の人物を題材とする作品の虚構性と真実性をあぶり出していくスタンリー・クワン監督の手腕が素晴らしい。そういう意味で「歴史」というものに対する示唆的な映画となっているとも言えるでしょう。
 阮玲玉がその犠牲者の1人となった、芸能人のプライベートを標的にするイエロー・ジャーナリズムによるスキャンダリズムという古くて新しい問題も大きなテーマとなっており、また満州事変とそれに続く第一次上海事変の際に中国政府が反日的な映画の製作を禁止し、日本軍の空襲から避難した阮玲玉ら心ある映画人たちがそれに憤るという描写もあります。

『花の生涯 梅蘭芳(メイ・ランファン)』(原題:梅蘭芳)……映画板#1201
 20世紀前半に活躍した伝説的な京劇の女形俳優・梅蘭芳(メイ・ランファン)の伝記映画で、20世紀初頭の幼少期から第二次大戦終結時までを描いています。京劇を題材とした傑作『さらば、わが愛 覇王別姫』のチェン・カイコー監督作品ですが、カイコーはそれ以後今一つの作品が続き、しばらく観なくなっていたためどうも今一つ興味がわきませんでした。しかしチャン・ツィイーが出てたのと、ひょっとしたら今度こそ面白いかもという淡い期待で観に行ったんだと思います。
 まずこの映画、伝記映画であるにも関わらずほぼ全編フィクションなんですよね。一応大枠では梅蘭芳の半生をなぞってはいるんだけど、個々のエピソードはほとんどがフィクション。序盤の若い頃の師匠との演技対決からして到底事実とは思えなかったんで、パンフに載ってた年表で確認したらやはり完全に創作でした。その序盤だけで早くも首をひねる内容だったんですが、成人後も創作エピソード連発で、そもそも主要人物で実在なのが梅蘭芳と奥さんとヒロインの孟小冬(モン・シャオトン)しかいないようです。その奥さんも実際には第二夫人だったようで(梅蘭芳は昔の風習で複数の妻がいた)、第一夫人はいなかったことになっちゃってますし、第三夫人だったともされる孟小冬とも恋愛関係にとどめられる(第二夫人の反対で婚姻はできず事実婚関係にとどめられたという話もある)など、事実からの改変が非常に多い。なんでも第二夫人の息子が監修したらしく、生々しい話は回避して創作エピソードにしてしまったようです(第一夫人の子は全て夭逝し、孟小冬との間には子供はいなかった)。
 単純に映画として観てもやはり今一つの出来。見どころは終盤の日本軍との対決ぐらいかなあ。ちなみに中盤の奥さんと結婚するあたりで、梅蘭芳の若い頃を演じるユイ・シャオチュンのもとに中国風に嫁入りしてきた奥さんがベールみたいな布をかぶって顔を見せないままいきなり場面転換となり、夫婦が本役の俳優レオン・ライとチェン・ホン(カイコー監督の奥さん)に突然変わって夫婦生活が始まってるという、つながりが変な部分があったんですが、若い頃の梅蘭芳の妻を演じたジリアン・チョンの出演シーンが、有名なエディソン・チャン事件(くわしくは各自調べてください)のため全カットされたらしい。災難でしたね。どこの国でも起こることなんだな。
 面白かったのは、チャン・ツィイー演じる男役の京劇女優の孟小冬。男役の京劇女優がいたということを初めて知りました。本人の写真を見ると、演じたチャン・ツィイーに引けを取らないくらいの美人です。ちなみに映画では描かれてませんが、孟小冬は梅蘭芳と離婚したずっと後になってから、有名なギャングの杜月笙(映画『落陽』ではユン・ピョウが演じていた)と再婚したとのこと。

『南京1937』(原題:南京大屠殺)……#9549
 日中戦争初期に起こった南京事件(南京大虐殺)を描いた1995年の中国・香港・台湾合作映画。プロデュースがジョン・ウーで、監督は中国第五世代の1人の呉子牛(ウー・ツーニウ)。日本ではビデオ化された後に劇場公開もされましたが、DVD化はされていません。映画館で上映中に右翼の男がカッターでスクリーンを切り裂いたり、街宣車が連日押し掛けて映画館が上映を短期間で打ち切るなどの事件も起きました。
 第二次上海事変の戦火を逃れて南京に避難してきた中国人男性(チン・ハン)と日本人女性(早乙女愛)の夫婦が、追撃してきた日本軍による南京大虐殺に巻き込まれるというストーリーなんですが、そもそもその設定に無理がありすぎ。日本人女性を被害者の側に置くというのは、この時期の中華圏の日中戦争映画に見られるもののようですが、日本人全体が悪という印象を避けるためと、日本人にも被害者側に感情移入してもらうという意図なのかもしれません。しかし実際にそういう例は聞いたことがないし、仮にあったとしても極めて稀なケースと思われ、物語としては不自然な感を免れない。また単純に映画として観ても今一つの出来で、凡作としか言い様がありませんでした。南京大虐殺を扱った映画として当時は貴重でしたが、今となっては下記のようなもっと優れた映画があるので取り立てて観る必要はないと思われます。

『南京!南京!』(原題:南京!南京!)……#9625
 追記することはあまりありません。相変わらず劇場公開もDVD化もされていないんですが、現在ではAmazon Prime VideoやTSUTAYA TV、Google Play ムービー& TV、Rakuten TV、ビデオマーケットなどで日本語字幕付きで動画配信されています。おそらく製作時点では動画配信が一般的ではなかったため契約などを交わしていなかったんでしょうね。ここまで動画配信という形態が一般化するとは誰も予想できなかったわけで、時代の流れを感じさせます。まあ、おかげでこの傑作を日本語字幕付きで観賞できるようになったわけですが。

『ジョン・ラーベ 南京のシンドラー』(原題:John Rabe)……#9974
 これまた追記することは特になし。

『チルドレン・オブ・ホァンシー 遥かなる希望の道』(原題:The Children of Huang Shi)……#9549、映画板#1230
 日中戦争中にイギリス人ジャーナリストのジョージ・ホッグが戦火を逃れて中国人孤児60人を連れ、黄石(ホァンシー)から山丹まで700マイルの逃避行をする姿を描いたオーストラリア・中国・ドイツ合作のドラマ映画。監督はロジャー・スポティスウッド、主演はジョナサン・リース=マイヤーズ。
 ストーリーは、特ダネを求めて上海租界から南京に潜入したホッグが南京大虐殺の一端を目撃・撮影して日本軍に捕らえられるが、中国共産党の軍人に救われ黄石の施設へと送られる。そこには約60人の中国人孤児がいた。ホッグと孤児たちは心を通わせていくが、やがて黄石にも日本軍が迫り、ホッグは孤児たちを連れて700マイル離れた山丹まで逃れようとする、というもの。ホッグと孤児たちは実在の人物ですが、それ以外のホッグを助けるラダ・ミッチェル演じる従軍看護婦やチョウ・ユンファ演じる共産党軍人、ミシェール・ヨー演じる富豪などは明らかに架空人物っぽい。実際、調べるとかなりフィクションが加えられていて、ホッグが中国に来たのは1937年12月に起きた南京事件の翌年2月で、黄石から山丹への逃避行も1944年のことで国民党との対立によるもののようです。ただ、ホッグが共産党に協力して様々な抗日活動をしたのは事実のようで、ストーリーの中心である孤児たちとの逃避行も(細かいディテールはともかく)もちろん事実。映画の出来も、欧米人によるエキゾチシズムが多少感じられるとはいえまあまあ面白く、最後に現在は老齢となった実際の孤児たちが登場し、ホッグを回想して感謝の言葉を述べるのがなかなかに感動的です。

『セブン・イヤーズ・イン・チベット』(原題:Seven Years in Tibet)……#9549
 オーストリアの登山家ハインリヒ・ハラーがチベットで過ごした7年間を記した自伝を、ジャン=ジャック・アノー監督がブラッド・ピット主演で映画化した1997年の米国映画。1939年にヒマラヤ山脈ナンガ・パルバット登山を目指しながら断念したハラーは、第二次大戦の勃発によってイギリス植民地インドで抑留されるが、1942年に脱走に成功。1945年にはチベットにたどり着き、ラサで生活するうちにダライ・ラマ14世の家庭教師となるが、大戦終結後に国共内戦を勝ち抜いた中国共産党軍がチベットに侵攻してくる……というストーリー。『薔薇の名前』のアノー監督だけあってなかなかよくできた映画でまあまあ面白いんですが、ちょっとチベットが理想化され過ぎてるような気がしますね。どうも欧米人のチベット信仰には度が過ぎるところがあり、やや違和感を感じます。この映画も上記『チルドレン・オブ・ホァンシー』や『ラストエンペラー』同様にそこはかとなく欧米人によるエキゾチシズムを感じるんだよな。その一方で中国共産党軍はものすごく悪者に描かれていたため、中国政府は強く抗議し中国では上映禁止になったそうです。確かに中国のチベット弾圧は問題だとは思うんだけど、これも描き方がちょっとどうもね。単純すぎるというかなんというか。
 なおハラーはナチ党員・ナチス親衛隊員で、ドイツによるオーストリア併合を支持し、ヒトラー個人にも好意的な内容の手紙を送っていたとのことですが、軽微なものなので戦後は不問にされたそうです。ナチ・ハンターとして著名なサイモン・ヴィーゼンタールによってそれが暴かれ、映画上映の際にはユダヤ系団体から映画の内容に対する批判や、上映ボイコット騒動があったとか。


>『麒麟がくる』
 早くも3話をスルーしてしまいました。今日の再放送で回収したけど、もう脱落寸前。木村文乃は2話からの登場じゃなかったのね。てか、このドラマの主人公ってモックンでしたっけ?(笑) 周りの人物に比べて主人公だけがキャラ立ちしてないのは『平清盛』や『真田丸』もそうでしたが、このドラマはモックン道三以外に見どころが見つからない。斎藤高政(義龍)役の伊藤英明なんて民放で放送してるドラマ『病院で念仏を唱えないでください』の主演のほうが、家族に付き合って観てるにも関わらず印象に残っちゃったりしてます。



#10966 
バラージ 2020/01/22 22:06
麒麟が……くる~~~(byザキヤマ)

 『麒麟がくる』第1回を観ました。んー、まぁ、あんなもんかなぁ。旅の道中をもっとじっくり描くかと思ったら、あっさり行って、あっさり任務を果たし、あっさり帰ってきちゃいますね。この辺は2週分放送が遅れた上に、夏にパラリンピックで5週分休む影響もあるのかも。夏の休みについては働き方改革の影響で、パラリンピックは口実なんじゃないかという気もしますが。再来年以降も放送回数の減少はあるかもしれません。
 いきなり冒頭から襲ってきた野盜と戦うとか、火事の家から子供を救出(映画『バックドラフト』のごとく・笑)とか、いかにもベタなシーンも目につきましたし、映像の色合いも妙にカラフルというか、田んぼの緑があまりに鮮やかすぎてどうも不自然。あれ、特撮か何かで着色したんじゃないかなぁ。いいところを探すと、本木雅弘演じる史上最高にイケメンな斎藤道三(笑)。個人的に大注目だったんですが、やっぱり主人公を食っちゃって、並ぶとどっちが主人公だかわからん状態に(笑)。もう1つの注目だった木村文乃さんは2話からの登場なのね。吉田鋼太郎の松永久秀もなかなかの貫禄でした。
 ただ、第1話のドラマとしての出来だけから言うと、正直言って2話以降も観たいと思うレベルではなかったなあ(去年、『独眼竜政宗』だか『春日局』ぶりに大河ドラマを全話観たと言ってた友人も今年は早くもリタイア宣言)。配役的に興味あるのも前記モックン道三とヒロイン文乃さんぐらい。歴史ネタで言うと足利義輝・細川晴元・三好長慶といったあたりが今後登場するらしく、これはなかなか珍しい。義輝と長慶は過去の大河にも登場したことがあるらしいんだけど記憶にはありません。義輝を演じるのは向井理なんで派手に斬り死にを遂げてくれることでしょう。晴元は大河初登場らしく、同じく大河未登場の義輝の親父12代将軍義晴や、義昭のライバルとなった14代将軍義栄なんかもチラッとでも登場してくれるでしょうか? でも、その興味だけで観続ける気にまではならないなあ。ま、とりあえずあと何話か観てみますかね。

>おんな太閤記リターンズ
 大河ドラマの思い出シリーズ、今回は2002年の『利家とまつ 加賀百万石物語』。『花の乱』以来久々の女性大河です(夫婦大河は実質的に女性大河と言って良い)。
 最初に主人公が前田利家・まつ夫妻と聞いた時すぐに、ああ、これは「『おんな太閤記』の夢よ、もう1度」という企画だなと思いました。利家・まつ夫妻といえばそれくらい『おんな太閤記』で滝田栄と音無美紀子が演じていた、主人公ねね・秀吉夫妻のお隣さんで親友でもある夫婦が印象的だったんですよね。大河ドラマが1996年の『秀吉』をピークとして右肩下がりに視聴率が低下していた時期でもあり、女性や若者を視聴者層に取り込むため、中高年女性視聴者の支持で平均30%以上という高視聴率をあげ、80年代大河バブルの先駆けとなった『おんな太閤記』のテイストを盛り込み、より若い主演男女優で現代風にリライトするという狙いがあるんだろうとの印象を持ちました。
 実際に観たらやはり予想通りの内容で、しかもそれが見事に当たり平均視聴率22.1%と久しぶりに20%台を回復。以後、“女子大河”が次々に作られ、00年代大河の救世主となります。我が家でも珍しく女性陣が熱心に観てた記憶があり、戦国ものということで父ももちろん観てたため、僕も付き合ってちょこちょこ観てました。そんなちょこちょこ観の感想としては、なるほど確かにこれはなかなか面白いというもの。安土桃山ものは正直言ってちょっと飽きが来てたんで、こういう変化球的な味付けの安土桃山ものは新鮮だったし、配役など全体的に若々しさが感じられるのも良かった。まあ毎週観たくなるほどのドラマではなかったけれど、家族が観てるといっしょについなんとなく観てしまうというドラマではありました。肩に力を入れず気楽に飯食いながら観れちゃうとでも言いますか。あくまで娯楽優先という姿勢で何よりまずドラマとしての面白さを追及したのが成功したんでしょう。松嶋菜々子と反町隆史の夫婦共演も話題になり、松嶋演じるまつの「私におまかせくださいませ」、反町演じる信長の「で、あるか」も流行語になりました。
 前半は利家とまつ、秀吉とねね、佐々成政とはる(天海祐希)の三夫婦の出世競争と友情を描き、信長の妹の市(田中美里)も含めた女性陣の物語における比重が大きかったのもやはり女性向け。また有名な信長の正室・濃姫(石堂夏央)よりも、側室の吉乃(森口瑤子)のほうが目立っていたのも目新しかったですね。このあたりは『武功夜話』の影響なのかな? 後半になると『花の慶次』ですっかり有名になった前田慶次まで出てきちゃうというサービスぶり。慶次役の及川光博は記者会見か何かで松嶋のことを「菜々子ベイビー」と呼んでたような(笑)。ミッチーはまだこの頃はそのキャラ引きずってたのね(笑)。

 ちなみに本作がビデオ化されるのと同時期に『加賀百万石 母と子の戦国サバイバル』というNHK単発ドラマのビデオもいっしょにレンタル店に並んでて、松坂慶子と松嶋菜々子がW主演のごとくパッケージに写ってたんですが、まつ役は松坂。松嶋は淀殿役で別に主演ではなかったようです(笑)。1999年の正月ドラマで、DVD化はされていません。



#10965 
バラージ 2020/01/16 23:02
歴史映像作品感想追記・中国史編②

 名画座未掲載の歴史映像作品の感想の追記、中国前近代史(2)編。

『少林寺』(原題:少林寺)……映画板#1200
 リー・リンチェイ(現ジェット・リー)のデビュー作となった1982年の中国・香港合作によるカンフー映画。公開当時、テレビで「ハァー、ハッ!ハッ!ハッ!ハッハッ! しょぉーりんーじ!」というCMをやってたのを今でもよく覚えています(笑)。中国全国武術大会で5年連続チャンピオンになったというリンチェイをはじめ中国武術のチャンピオンたちが大集合という触れ込みで、テレビの吹替で観たんですが確かにものすごいアクロバティックな武術アクションの数々。ブルース・リーともジャッキー・チェンとも違ったカンフーアクション映画で面白かった記憶があります。その一方でストーリーのほうはさっぱり覚えてないんですが、確か唐の皇帝が主人公たち少林寺の味方として出てきたか、主人公たち少林寺が唐の皇帝に味方してたかだったよなあと思って調べると、隋末の戦乱が舞台でやはり主人公たち少林寺と李世民(リー将軍)が味方同士。王世充(ワン将軍)が敵役でした。ま、史実どうこうって映画ではありませんが。
 ちなみに『少林寺2』(原題:少林小子)は、リー・リンチェイ主演で他の出演者も多数共通しているカンフー映画という以外は本作と全然関係ないストーリー。清の時代の一般庶民の話で少林寺も出てきません。

『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』(原題:狄仁杰之通天帝国)……#9444
『ライズ・オブ・シードラゴン 謎の鉄の爪』(原題:狄仁杰之神都龍王)……#10458
 これは追記することはあまりないかな。『王朝の陰謀』は則天武后(武則天)時代が舞台ですが、前日譚の『ライズ・オブ・シードラゴン』は高宗の時代が舞台で則天武后はまだ皇后です。やはり1作目のほうが面白かったですね。第3作『王朝の陰謀 闇の四天王と黄金のドラゴン』(原題:狄仁杰之四大天王)は『ライズ・オブ・シードラゴン』と同じキャストの続編で、やはり第1作の『王朝の陰謀』よりは前の時代の話ですが、僕はもういいかなという感じで未見です。

『楊貴妃 レディ・オブ・ザ・ダイナスティ』(映画祭邦題『楊貴妃 Lady Of The Dynasty』。原題:王朝的女人・楊貴妃)……#10688
 内容的な部分で追記することは特にないんですが、調べてみると完成までに相当紆余曲折というかゴタゴタがあったようで、そっちのほうが映画よりもよっぽど面白い(笑)。
 ニュースサイトのレコードチャイナで追っかけてみると、最初に企画が持ち上がったのは2009年。この時点では『楊貴妃』という仮題の中英合作で、李白の目から見た楊貴妃を描くといった企画だったらしい。しかしようやく製作に入ったのは2年後の2011年。タイトルは『盛唐危機』に変更され中韓日合作となり、監督が『猟奇的な彼女』で有名な韓国のクァク・ジェヨン、主演の楊貴妃役がファン・ビンビン、玄宗役が米国香港のジョン・ローン、李白役が台湾のワン・リーホン、さらに遣唐使役で日本から小栗旬という布陣でした。ところがクァク監督と主演兼出資者のファンが演出や撮影を巡って対立。ついには翌2012年にクァク監督が降板してしまいます。代わってティエン・チュアンチュアン(田壮壮)を監督に招聘と報道され、タイトルも『楊貴妃』に戻して再始動しようとしますが、今度はローン、ワン、小栗がそろって降板。一時は完全に暗礁に乗り上げ、お蔵入りの危機だったとか。2013年に香港のレオン・ライを玄宗役に迎えてようやく改めてクランクインしたようで、報道ではこの時点でチャン・イーモウがプロデューサーとして参加と報じられたようですが、実際にはティエンもチャンも初監督の旧友シーチンのサポート役だったようです。別の媒体記事でのインタビューによると、80年代に脚本を2本書いた後は映画界を離れ企業人として活動していたシーチンは、もともとは製作中断中に脚本の改稿を依頼されたらしく、改稿後(この時点で李白も遣唐使もいなくなったようです)に旧友のティエンやチャンに監督を依頼したところ、「脚本を一番わかってるのは君だから君が監督したほうがいい。技術的経験が足りない部分は我々がサポートするから」と言われたそうです。こうしてようやく完成し、『王朝的女人・楊貴妃』のタイトルで2015年に公開。日本では2017年に映画祭で上映されたのみで劇場公開はされずにDVD化されました。

『麗王別姫 花散る永遠の愛』(原題:大唐栄耀)……#10863、#10870、#10881、#10901、#10916
 これも追記することは特になし。

『黒衣の刺客』(原題:刺客 聶隠娘)……#10130、#10881、映画板#1613
 あまり歴史とは関係のない映画ですが、個人的な趣味で紹介してしまおう(笑)。といっても過去の書き込みに追記することはあまりありません。原作は裴ケイ(金偏に刑)による唐代の伝奇小説『聶隠娘』ですが、ホウ・シャオシェン監督は話を大幅に改変して、ほとんどオリジナルの物語にしているようです。登場人物のうち田季安、嘉誠公主、田興は実在の人物のようですが、そもそも原作からして史実とはだいぶ違っているみたい。パンフレットによると、原作では主人公の聶隠娘は暗殺組織によってうなじを切開されて暗殺用の匕首を隠せるように手術されたらしい。改造人間か!(笑) 妻夫木聡演じる日本人青年が日本に残してきた妻役の忽那汐里の出演シーンは国際版ではカットされているそうで、なんでも編集の女性スタッフが「青年に奥さんがいるなんて、隠娘がかわいそう」と盛んに言っていたためとのこと。しかしホウ・シャオシェンとしてはそのエピソードが捨てがたかったらしく、日本公開版でだけ元に戻したそうで、おかげで日本でだけディレクターズカット完全版が観れることになりました。

『LOVERS』(原題:十面埋伏)……#10881、映画板#1728
 これまた完全に趣味で紹介する映画。歴史映画じゃなく武侠映画ですね。登場人物は全員架空だし、飛刀門という反乱組織も架空です。ただまあ反乱が頻発した唐末期の時代状況を背景とした映画ということで。追記することはほとんどないんですが、チャン・イーモウ監督の武侠映画としては『HERO』よりもこっちのほうがずっと面白かったです。チャン・ツィイー、金城武、アンディ・ラウのアンサンブルが素晴らしい。

『王妃の紋章』(原題:満城尽帯黄金甲)……#映画板#1329
 個人的趣味に走った映画3作目。五代十国時代の後唐という非常に珍しい時代を舞台とした史劇風の映画ですが、登場する皇帝一族全員が架空人物で物語も当然ながら全くの架空の話。プライベート関係の終わりによって『上海ルージュ』を最後にコンビを解消したチャン・イーモウとコン・リーが10年ぶりにタッグを組んだ作品で、原作は曹禺が1934年に書いた戯曲『雷雨』だそうですが、チャン・イーモウのことだから大幅に改変してるんではなかろうか。これも追記することはあまりありませんが、最後に死体が速攻で片付けられて大量の美しい花で全てが糊塗されてしまうシーンは、権力とその公的な歴史に対するシニカルな批判が込められているようで興味深かったです。

『楊家将 烈士七兄弟の伝説』(原題:忠烈楊家将)……#9672
 北宋初期を舞台とした古典文学『楊家将演義』の序盤部分を脱出アクションものに換骨奪胎したアクション時代劇映画。『楊家将演義』とは北漢から北宋に降った武将の楊業とその子孫4代に渡る楊一族の物語とのことで、ノリとしては『水滸伝』に近いみたい。本作に出てくるのは楊業とその息子たち7人(原典では8人)で、六男の楊延昭が後に父の後を継ぎます。楊業と楊延昭は実在の人物とのこと。遼との戦いの話で、映画の冒頭には太宗趙匡義もチラッと出てきました。遼側はほぼ架空の人物。原典の後の時代では、名画座に収録されている『大遼太后』『千秋太后』にも登場してる蕭太后が敵ボスとして登場するそうです。

『女ドラゴンと怒りの未亡人軍団』(DVD邦題『楊家女将伝 女ドラゴンと怒りの未亡人軍団』。原題:楊門女将之軍令如山)……#9444
 『楊家将演義』から派生した京劇『楊門女将』を題材に映画化した1972年の映画『14アマゾネス 王女の剣』(日本ではDVDスルー。原題:十四女英豪)をリメイクした2011年のアクション時代劇映画。楊家の3代目楊宗保が西夏との戦いで死に、楊家を目の敵にする北宋朝廷の姦臣は息子の4代目楊文広に父の後を継いで西夏の大軍と戦うよう命じる。楊文広の母で楊宗保の未亡人・穆桂英(演:セシリア・チャン)、楊宗保の母で2代目楊延昭の未亡人・柴郡主(演:リウ・シャオチン)、楊延昭の母で初代楊業の未亡人・余太君(演:チェン・ペイペイ)らをはじめとする楊家の未亡人たちは、一族最後の男子である楊文広を守るため共に出陣する、というストーリー。穆桂英の回想シーンで2代目楊延昭も登場しています。京劇『楊門女将』は原典とは違うところも結構あるらしく、主人公の穆桂英は原典ではこの頃すでに死んでいるとか。ほぼ全員が架空の人物で、70年代香港映画テイストをおそらくあえて再現しようとしたんじゃないかと思われますが、結果としてはチープなB級大作になっちゃったという感じの作品。

『ブレイド・マスター』(原題:〈糸肅〉春刀)〈糸肅〉は糸偏に肅……#10556
『修羅 黒衣の反逆』(原題:〈糸肅〉春刀 修羅戦場)……#10756
 これらも特に追記することはありません。

『如懿伝 紫禁城に散る宿命の王妃』(原題:如懿伝)……#10901、#10902、#10932、#10947
 現在視聴中。



#10964 
バラージ 2020/01/10 22:28
3度目の北条大河

 うーん、北条義時かあ……。念願の頼朝大河がまた遠のいたなあ。『平清盛』が終わった後、「次の源平大河は10年後、これまた完全版の残ってない『草燃える』のリメイクで頼朝か政子が主人公」と予想してたんで、当たらずとも遠からずなんですが、僕の希望はあくまで頼朝主人公でした。でも当時(00年代)は女性大河が高視聴率だったし政子主人公の可能性が高いんだろうなあと思ってたんです。ところがその後(10年代)女性大河が低視聴率になり風向きが変わったため、これはひょっとして頼朝大河あるか?とちょっとだけ期待してたんだけど、義時主人公とはちょっと意表を突かれた感じ。まあ、『平清盛』で頼朝の若い頃を結構描いちゃったってのもあるとは思うんですけどね。『草燃える』も夫婦主人公ということもあって、頼朝が政子と出会う伊豆に流されてからしか描かれてませんが、この時も若い頃は『新・平家物語』でもう描いてたという事情もあったんじゃないでしょうか。それにしても、また10年後に源平大河をやるにしても続けて鎌倉方ってことはないだろうし、20年後とかなっちゃうと正直もうねえ。はあ……がっくり。
 僕は源平好きではあるものの、政子や時政・義時ら北条氏はあんまり好きじゃないんです。ただ政子はもちろん、義時も一部の女性には結構人気があるようで、『草燃える』の原作者・永井路子もその1人。杉本苑子との対談で「義時が好き」と2人で盛り上がってたのを何かで読んだ記憶があります。竹宮惠子のマンガ日本の古典シリーズ『吾妻鏡』もその線に沿った作品でしょう。でも正直言って永井は義時や三浦義村を高く評価しすぎなんだよな。その一方で当然ながら義時は悪役にされちゃうことも多く、平岩弓枝『かまくら三国志』や安彦良和『安東 ANTON』なんかがその代表。いずれも内容的にはほとんどフィクションで、どちらかというと伝奇時代小説orマンガなんですが、個人的には実はこちらの描写のほうがしっくりきたりなんかして(笑)。
 三谷幸喜もダークヒーローとして描くと言ってますが、ダークではあってもヒーローではあるわけで、まあ主人公なんだから当然か。#10733で書いたように、『草燃える』では義時と関わる人に架空人物が多かったんで、そのあたりはまた違った設定と描写になるというか、そうせざるを得ないでしょう。そういえば『草燃える』は承久の乱で終わりで、政子や義時の死までは描かれませんでしたが、今度こそ描かれるのかな。あと、『鎌倉殿の13人』ていうタイトルがいかにも三谷っぽいというか、狙ってるなあという感じ。ミステリーみたいで、僕はなぜか市川崑監督の『黒い十人の女』(未見)を連想してしまいました。

 南北朝大河もここまで来ると、すぐ翌年とかはもちろん無理でも、案外そう遠くもないんじゃないかという気も。というのも室町以前の大河を列挙すると次のようになるんですが、こうして見ると南北朝のターンもそろそろ来るんじゃないかという気がするんですよね。個人的には2度目の南北朝より先にまず足利義満主人公をやってほしいんですが。
1966年『源義経』
1972年『新・平家物語』
1976年『風と雲と虹と』
1979年『草燃える』
1986年『武蔵坊弁慶』(新大型時代劇)
1991年『太平記』
1993年~4年『炎立つ』
1994年『花の乱』
2001年『北条時宗』
2005年『義経』
2012年『平清盛』
2022年『鎌倉殿の13人』

>事件は現場で起きているが、主人公は会議室にいる
 大河ドラマの思い出シリーズ。ようやく21世紀に入り、さすがにもう「思ひ出」じゃないかなということで、タイトルを毎回変えてみることにしました。それでももう20年近く前のことになるんですけどね。
 というわけで今回は2001年の『北条時宗』。実は日野富子が主人公の『花の乱』をやった時に、これでまだやってない時代は鎌倉中期と室町前期、主人公は北条時宗と足利義満しかいないだろうなと思ったりしたんですよね。元寇という絵的に見せやすいクライマックスがある分、時宗のほうが可能性は高いかなとも思ったりしたんで、おお、ついに来たかという感じでした。
 主演は当時NHKで市川染五郎(現:松本幸四郎)・東儀秀樹と共に伝統芸能若手イケメントリオとして推されてた和泉元彌(なんか3人で番組やってたよなと改めて調べると、BSの『ジャパネスクな男たち』という番組だったようで)。この人もその後いろいろあったけど今でもしぶとく生き残ってますね。それから渡辺謙と北大路欣也が出てるのは、原作が高橋克彦なだけに『炎立つ』のお詫びというかリベンジなんだろうな。当時42歳の渡辺が36歳で死んだ北条時頼の20歳前から演じることにちょっと無理を感じたけど、主演俳優の父親役なんで年上にせざるを得なかったんでしょう。しかしそんなことよりも、個人的にうれしかったのは安達泰盛の妻・梨子役で牧瀬里穂がようやく大河に初出演したこと。1990年の映画『東京上空いらっしゃいませ』『つぐみ』での鮮烈デビューに魅せられた者としては「10年おせーよ、大河!」ってな感じでしたし、メインのヒロインじゃないってのも不満でしたが、それでも楽しみではありました。しかしドラマを実際に観てみると、どうもマキセが今一つ魅力的ではない。彼女だけではなく西田ひかるも木村佳乃も、これだけキレイどころをそろえながらちっとも魅力的じゃないんですよね。このあたり『炎立つ』といっしょで、男同士の熱すぎる友情を描くのは好きだけど、女性を描くのは苦手と言われる高橋克彦の特徴なのかも。そういうところがどうも個人的趣味に合わないんだよなあ。
 また、全体的に史実と異なる陰謀とか暗殺があまりに多すぎるのもちょっと……。別に史実と違う展開がダメとか史実通りにしろというわけではありませんが、あまりにも陰謀と暗殺が多すぎて不自然になっちゃってるんですよね。まあ、そうしないとネタがなくて1年持たないって事情もあったんだろうけどそれにしても。これも『炎立つ』でもその傾向があったんだよなあ。その一方で時宗の異母兄の時輔が生き延びて大陸に渡りフビライと会ったりしちゃうんですが、主人公の時宗とライバルのクビライが物語で1度も顔を合わせないんで、2人をつなぐ役割を時輔に担わせたということらしい(まさか義経北行説のリベンジじゃないよな?・笑)。また主役の時宗がやたらと平和主義者なんでだんだん話のつじつまが合わなくなってくるのもどうも。もちろん好戦的だったりしたら問題があるというのもわかるんですが(外国が絡むんで特に)。そんなこんなで結局途中からはだんだん観なくなっちゃいましたね。
 さすがにモンゴル襲来のあたりは観たものの、うかつにもその場面が来るまで気づかなかったんですが、物語のクライマックスである元寇の現場に主人公の時宗がいません。いやまあ史実がそうだから当然っちゃあ当然なんですが、ドラマとしては困っちゃう展開ですよね。クライマックスに主人公不在になっちゃうし、主人公のほうを描くとクライマックスの現場が描けなくなっちゃうし。考えてみれば元寇を題材とした映画はそこそこあるのに、時宗を主人公としたものがほとんどないのはそのあたりに理由があるんでしょう。歴史上の有名人なのに映画やドラマの主人公になかなかならない人物には、それなりにちゃんと理由があるもんだなあと納得してしまいました(このあたり源頼朝なんかにも同じことが言えそう)。さすがにドラマ的にまずいと思ったか、史実では鎌倉にいたはずの時宗の弟宗政(演:比留間由哲)と平頼綱を博多まで出陣させちゃってましたが(そんで宗政は戦死しちゃう)、そんなことをするくらいならいっそのこと時宗自身が博多まで出陣しちゃえば良かったのに。でもってクビライも自ら出陣して、元寇の現場で一騎討ちとかさせちゃったほうがドラマとしては面白かったんではなかろうか?(史実派が目くじら立てるから無理かもしれんけど・笑) 平均視聴率も相変わらず18.5%の低空飛行でした。



#10963 
徹夜城(正月早々今年の楽しみの一つが消えた管理人) 2020/01/08 21:56
なんと再来年の大河の発表

なんとまぁ、「麒麟がくる」が遅れてる穴埋めってわけでもないでしょうが、再来年2022年の大河ドラマが正月早々に発表されてしまいました。
三谷幸喜脚本、小栗旬主演で「鎌倉殿の13人」と題して主役は北条義時だそうであります。

…と聞くと、「そりゃ『草燃える』の実質リメイクでは?」と思ってしまうのですけど、「真田太平記」があっても「真田丸」をやった三谷さんだけに、また違った手でくるのでありましょう。
 今日の記者会見で三谷さんは「サザエとカツオが波平を追い出す話」とたとえたそうで(笑)、すると頼朝はマスオさん、頼家がタラちゃん?

 それにしても来年の渋沢栄一に続き、チャレンジなネタで連続しますね、大河ドラマ。毎年「今年はいつ、何が発表されるのかなぁ」と楽しみにしてるわけですが、今年はいきなりそれが終わってしまいました(涙)。
 ツイッターでも書いたことですが、やっぱり南北朝大河は来ませんねぇ。年号変わったしもしかして…という期待もあったんですが。この年に鎌倉時代やられてしまうと中世ネタはすぐにはこなそうだし



#10962 
徹夜城(今年もよろしくお願いしますと今頃挨拶にまわる管理人) 2020/01/08 14:34
謹賀新年

もう8日なんですけどねぇ、各コーナートップページの新年挨拶も消えてからですが、こちらでようやく新年最初のご挨拶です。
 もうすでにかなりの方に見て頂いてるようですが、昨日付で一か月以上遅れた「史点」をアップしております。とうとう2020年でありますねぇ。あそこでもちょっと触れましたが、ゴーンさん脱出やら中東情勢やら年明け早々波乱含みとなりました。

今年はなんとか「南北朝列伝」と「しりとり歴史人物館」「ヘンテコ歴史本」「マンガで南北朝」の更新をしなくてはなぁ、と抱負に掲げておきます。そんなこと書いておいて唐突に違うところが更新されたりするかもですが(笑)。今挙げたコーナーは少なくとも次に何をやるかは決まっているものでしてね。

 南北朝列伝tおいえば、昨年出たミネルヴァ日本評伝選「懐良親王」を読んだら、いろいろ「列伝」でも修正必要な記述が出てきました。きわめつけは懐良親王の命日を記したとされる資料が、どうも江戸時代の南朝熱に乗っかった全くの捏造ものみたい、という話で…だいたいそのころ亡くなったんだろうとは思われますが寺の過去帳なんてのはないらしいんですね。南朝関係ってこういうことが結構あるから怖い。



#10961 
バラージ 2020/01/07 20:34
追記

 文字化けした部分は「樊かい」です。



#10960 
バラージ 2020/01/07 20:22
歴史映像作品感想追記・中国史編①

 こちらの板でも今年もよろしくお願いします。早速ですが最新の過去ログが盛大に文字化けしとりますよ……と思ったら修正されてた。でもまだちょっと変ですね。
 てなわけで名画座未掲載の歴史映像作品の感想の追記、先史時代の作品はないのでとばして中国前近代史(1)編です。

『運命の子』(原題:趙氏孤児)……#9045
 春秋時代の晋の趙武が幼少時に一族絶滅から救われ復讐を果たすまでを描いた元の雑劇(歌劇)『趙氏孤児』をチェン・カイコー監督が映画化。主人公は趙武を救い育てた程嬰と趙氏を滅ぼした屠岸賈で、それぞれグォ・ヨウとワン・シュエチーというシブい演技派俳優が演じています。日本版ポスターでは、主演2人が地味すぎると思ったか子役趙武と母親の荘姫役のファン・ビンビンだけ写ってて、母子ものに見せかけようとした様子。DVDでは主演2人を始め少年趙武など多数の俳優が写ってますが(子役趙武はいなくなった)、1番でかでかと写ってるのはファン・ビンビンで彼女の単独主演みたいになってしまいました(笑)。
 チェン・カイコーの映画は『始皇帝暗殺』までは観たんですが、ハリウッド進出作『キリング・ミー・ソフトリー』は興味がわかず、中国に戻った『北京ヴァイオリン』『PROMISE』もなんとなく観逃し、その次の『花の生涯 梅蘭芳』は助演のチャン・ツィイー目当てで観たけど期待外れ。なので特に好きな俳優が出てるわけでもない本作はあまり観る気が起きなかったんですが、この頃から徐々に中華圏映画が地元で公開されなくなってきたため、応援の意味を込めて観てみるかと映画館まで出向きました。
 しかしやっぱりどうもいまいち。観ててお話にどうにも無理があるように感じられて仕方がありませんでした。今となっては古臭い話なんで現代的な新解釈を加えているようですが、それでもなんだか不自然な話になっちゃってます。また終盤まではドラマ映画として進んできたのに、クライマックスの復讐劇でいきなりワイヤーアクションばりばりの武侠チャンバラみたくなっちゃうのも唐突で面食らいました。カイコーってアクションや特撮はあんまり上手くないんじゃないかなあ。なお、程嬰と共に趙氏孤児を助けた公孫杵臼(演:チャン・フォンイー)の名前が長すぎると思ったかそれとも漢字が難しすぎると思ったか字幕では「公孫」という表記にされちゃってました。そういや父親の仇の元で育てられた子供が仇を父親のように慕って成長するという展開はNHK大河ドラマ『義経』でも使われてたネタですが、原作者か脚本家が『趙氏孤児』をヒントにしたんだろうか?
 この映画の元ネタは『趙氏孤児』ですが、そのまた元ネタは『史記』「趙世家」。しかしこの「趙世家」の記述自体が説話的でそのまま史実とは到底信じがたい。「趙世家」は趙武の子孫が建てた戦国時代の趙の記録を参照したと言われ、同じ『史記』でももっと簡潔な「晋世家」の記述とも矛盾があります。どうもご先祖様の事績を飾り、都合の悪いところは隠蔽したような匂いがプンプンするんだよなあ。そもそも程嬰も屠岸賈も「趙世家」にしか出てこないし。『春秋左氏伝』にも趙氏の族滅と趙武による復興の話があるんですが、「趙世家」とは全然違う非劇的で生臭い話でして(どちらかというと「晋世家」に近い)、それだけにむしろリアリティを感じさせます。

『孔子の教え』(原題:孔子)……#9007
 孔子の半生を描いた伝記映画で、主演はチョウ・ユンファ。孔子の映画なんて説教くさそうで退屈そうだな~と思ったんですが、これまた『運命の子』と同じく中華圏映画応援という理由と、好きな女優のジョウ・シュンが出てたんで映画館で観ました。
 意外にも前半は孔子が軍師として活躍する『レッドクリフ』張りにCGバリバリの合戦映画でなかなか面白かったんですが、失脚した孔子が諸国放浪の旅をする後半が甚だ退屈。それでもその後半の最初のほうで南子役のジョウ・シュンが出てきて、そのさすがの演技力と存在感で魅せてくれるんですが(名前が二番手のわりには出番少なめの客寄せパンダ的出演でしたけど)、彼女の退場後はどうにもこうにもつまらない。竜頭蛇尾を絵に描いたような映画でした。
 ちなみに本作では「孔子の師匠は老子」説を採っているようで、失脚した孔子が心の中の老子に「師よ、私はまた失敗してしまいました」と語りかけ、それに対して老子が「それもまた善きかな」みたいに返すという脳内映像?みたいな描写があります。まあ史実どうこうというより、そのほうが面白いからでしょう。

『異聞 始皇帝謀殺』(原題:秦頌)……#10953
 特に追記することはありません。

『項羽と劉邦 WHITE VENGEANCE』(邦題をサブタイトルなしの『項羽と劉邦』とするサイトもあり。原題:鴻門宴伝奇)……#9654
 項羽と劉邦挙兵後の話とはいえ2時間ちょっとに話を詰めこんだためダイジェスト感が強いですね。まぁそれは仕方がないにしても、作風がコテコテの香港映画なのがなあ。本作の劉邦(演:レオン・ライ)は珍しく『三国志演義』の劉備みたいに無能だけど高潔な善人キャラ。虞姫(演:リウ・イーフェイ)にほのかな想いを寄せますが、ラブラブの項羽(演:ウィリアム・フォン)と虞姫は全く気づかず、善人劉邦も特に行動は起こさないので、このテーマは特に深まらないまま消滅してしまいます。ちなみに呂雉は登場しません。項羽はひたすらイケメンで虞姫はひたすら美しいというわかりやすさで、他の人物もなんだかキャラがマンガ的。裏主人公とも言えるのが范増(演:アンソニー・ウォン)と張良(演:チャン・ハンユー)で、智者は智者を知るライバル関係に描かれ、范増の最期に張良が駆けつけて看取ったりします。鴻門の会でも漢文の授業で習ったような史実エピソードはそこそこに、なぜか范増と張良が囲碁で勝負する展開となり、しかもそれがどういうわけか囲碁の形を借りた気功合戦みたいになってしまいます。范増「3四、黒!」ドカッ! 張良「グハァ!(と血を吐く)」みたいなノリになり、さすがに笑ってしまいました。他にもわざわざ劉邦の元に援軍要請に来て兵を得た韓信が、合戦では結局1人で戦ってて(演じるはアクション俳優のアンディ・オン)、だったら援軍いらねーじゃん!とかツッコミどころ満載の珍作です。最後は、あんなにいい人だった劉邦が史実通り粛清を始めちゃいますが、一応死んだ范増が残した最後の策という設定とはいえあまりにも唐突。ちなみに実際に粛清した人が韓信しか登場しないため、劉邦は勢い余って張良・蕭何・樊&#22130;まで粛清しちゃってます。

『項羽と劉邦 鴻門の会』(原題:王的盛宴)……#9654
 死期の近づいた晩年の劉邦による過去の回想と、野心を捨て去らぬ若き功将・韓信を粛清していく現在とを交互に描いていくルー・チュアン監督の文芸映画。どちらかというと現在に重点が置かれ、邦題と違って項羽の出番は多くありません。回想パートも時系列順ではなくいろんな時代に飛ぶため、この時代にくわしくないとちょっとわかりにくいかも。そういう意味ではマニア向けですが、過去と現在を交互に描くことによって人々の有為転変する運命を浮き彫りにしていく構成が素晴らしい。
 例えば、劉邦に寝返った項羽の伯父・項伯は現在では皇帝劉邦にひれ伏して拝謁していますが、鴻門の会の直前には劉邦のほうが項伯にペコペコして項羽への仲介を懇願している。しかし現在に戻るとやはり項伯は皇帝劉邦や皇后呂雉にひれ伏して拝謁していて……という切り返しが、時の流れといつの間にか変わってしまった両者の立ち位置を残酷なまでに描き出しています。かつては劉邦とは君臣というより同志のような関係だった張良や蕭何も、現在では皇帝劉邦や皇后呂雉に韓信の赦免をひたすら懇願することしかできない。快活な英雄だった劉邦は年老いて猜疑心の虜となって、それを自覚しつつも脱することはできずに自らも苦しみ、貞淑な妻だった呂雉は歳を取って夫の愛を失ったことを悟り、権力欲に囚われている。そんな中で1人変わることを拒む韓信がそれゆえに粛清されていく。
 シェイクスピア悲劇のごとく暗く陰鬱な群像心理劇ですが非常に面白かったです。劉邦役のリウ・イエ、韓信役のチャン・チェン、呂雉役のチン・ラン、項羽役のダニエル・ウーなどいずれも好演ですが、劉邦に権力の魔力を囁き「秦は滅びぬ」と言い残して項羽に処刑されていく最後の秦王・子嬰などの脇役も強い印象を残します。劉邦と呂雉を毛沢東と江青になぞらえて「裏切られた革命」を描いている感もあり、また「権力者によって書き記される歴史書」に対する不信が語られているのも印象的でした。

『ドラゴン・ブレイド』(原題:天将雄師)……#10098
 特に追記することはありません。

『三国志英傑伝 関羽』(DVD邦題『KAN-WOO/関羽 三国志英傑伝』。原題:關雲長)……#9250
 これも追記することはあまりなし。観た人の感想を映画サイトで読むと、ドニー・イェンに興味のない三国志(または関羽)ファンと、三国志に興味のないドニーファンの双方から別々の理由で低評価でして。三国志(関羽)ファンいわく「こんなの三国志(関羽)じゃない!」。ドニー(カンフー)ファンいわく「ドニーのカンフーシーンが少ない!」ってな感じですが、三国志とカンフーアクション、どっちも好きな僕は面白かったんですけどねえ。ドニーの硬質な演技(つまりちょっと大根)が関羽の堅すぎる性格と奇跡的にマッチして、曹操の底知れぬ懐の深さを演じるチアン・ウェンと好対照を為してました。ヒロイン役の劉備の側室・綺蘭(架空人物)を演じてるのはスン・リー。

『曹操暗殺 三国志外伝』(原題:銅雀台)……#9672
 これも追記することはほぼないかな。主演のチョウ・ユンファが権力者・曹操の孤独を表現してますが、映画自体はいまいち。ヒロインの刺客・霊雎(架空人物)と回想シーンのみに登場する貂蝉の二役をリウ・イーフェイが演じています。今観てるドラマ『三国志 SECRET of THREE KINGDOMS』は部分部分でこの映画とかぶるネタがあるんだけど、何か共通のネタでもあるんだろうか?

『三国志 SECRET of THREE KINGDOMS』(原題:三國機密之潜龍在淵)……#10932、#10933、#10953
 現在視聴中。

『ムーラン』(原題:花木蘭)……#9351、9363
 これも特に追記することはありません。ハリウッド製の実写映画『ムーラン』が公開されますが、果たしてどんなもんでしょうか? あんまり興味なかったけどコン・リーが出てるなら観るしかないかな。


>ドラマ『曹操』における曹操の曾祖父について思い出したこと
 名画座に収録されている中国のテレビドラマ『曹操』。僕はDVDで半分くらいまで観て挫折したんですが、ドラマの序盤で曹操の曾祖父として朝廷で権勢を振るう宦官の曹節が出てきていました。その時に、「あれ? 祖父は宦官の曹騰だったけど、その父親もそうだったっけ? 確かに曹節っていう宦官もその頃にいた記憶はあるけど……」と思ったものの、深く追及しないまま流して、そのまま忘れちゃってたんですよね。先日なんとなく思い出して改めて調べてみると、曹騰の父も名前は曹節ですが、霊帝時代に朝廷で権勢を振るった宦官の曹節とは同姓同名の別人でした。曹操の曾祖父の曹節(名を曹萌とする説もあるらしい)についてはくわしいことはわからないようで、ドラマでは誤解か意図的にかわかりませんが両者を同一人物にしていたようです。



#10959 
バラージ 2019/12/30 23:27
いろいろ越年

 今年も終わりに近づきましたが、「名画座未掲載の歴史映像作品の感想の追記」とか「昔の大河ドラマの思ひ出」とか、個人的に始めたことがいろいろ中途半端になってしまってます。気が向いた時にマイペースで書くとは言ってたんですが、実は今年中にさらっと終わるだろうと思ってたんですよね。今年は個人的に面白い歴史映画が多かった上に、大河ドラマも数年ぶりに全話観たり、後半には外国の歴史ドラマも面白いのが何本か放送されたりとなんやかんや別のネタを書く機会も多く、その分上記のネタの書き込みのペースが落ちてしまいました。ま、見通しが甘かったともいうことですが、そんなわけで来年に続きます。
 来年に続くといえば、今観てる中国史ドラマ『如懿伝』と『三国志 SECRET of THREE KINGDOMS』の放送もまだ来年まで続きます。まあNHKの朝ドラも毎年下半期は翌年まで続くわけですしね。『スカーレット』も毎回観てるわけではありませんがなかなか面白い。やっぱ戸田恵梨香はいいなあ。


>録画で観た歴史映画
『ザ・バトルフィールド シベリア戦記』
 WOWOWでDVD化前に先行放送された劇場未公開のロシアの合戦史劇映画。来年発売予定のDVDは『ザ・コンクエスト シベリア大戦記』という邦題になるようです。原題は『Tobol(のキリル文字)』、英語題は『Conquest of Siberia』。
 舞台は18世紀。遊牧国家ジュンガルに敗れた清が、ロシアのシベリア総督にジュンガルの挟撃を要請。スウェーデンと大北方戦争中の皇帝ピョートル1世は難色を示すが、賄賂を貰った総督はシベリアにあるという金塊の噂で皇帝を口説き落とし、シベリアの国境トボル川に探索軍が送られることになる。ロシアがスウェーデンを破ったポルタヴァの戦いの捕虜としてシベリアに送られたスウェーデン人も現地で軍に加え、ジュンガルとは和平を保ちつつ金塊探索をしようとするが、総督の陰謀で探索軍とジュンガルは戦争に突入する……というストーリー。
 若いロシア軍人のイヴァン・デマーリンと、ジュンガルに寝返るスウェーデン人捕虜のヨハン・レネットが一応主人公のようですが、全体的には群像劇的な映画となっています。実際の史実を基にしているとのことですが、マイナーな地域が舞台なのでどこまでが史実なのか今一つよくわからない。調べてみるとヨハン・レネットとその恋人ブリギッタは、史実から大幅に改変してはいるようですがヨハン・グスタフ・レナトとブリギッタ・クリスティアナ・シュルツェンフェルドという実在の人物がモデルのようです。もう1人の主人公イヴァンとその恋人マーシャは架空の人物のようで、マーシャの父親と設定されているセミヨン・レメゾフは実在の人物らしいんですが1世紀前の17世紀の人物でした。敵役のジュンガルの将軍オンホンダイも架空人物と思われ、その上官でちょっとだけ登場するドンドボという将軍は実在の人物(ドンドプともいう)みたい。ピョートル1世は豪快で独裁的な専制君主として描かれ、出番は少ないながらも強烈な印象を残します。皇后エカチェリーナもチラッと登場。
 映画は多少のご都合主義はありつつも、大量の製作費をつぎ込んだ娯楽アクション合戦映画でなかなか面白かったです。なんかロシア映画も作りがハリウッド化してきた感じですね。中盤のジュンガルの大軍なんかは多分VFXでしょう。ジュンガル役の俳優はシベリア方面のアジア系ロシア人俳優なのかな。

>そういや映画館で観てたと思い出した歴史映画
『氷上の王、ジョン・カリー』
 7月に映画館で観てたんだけど、なぜかすっかり忘れていた映画。1976年インスブルック五輪で金メダルを獲得し、プロに転向してアイスショーのカンパニーを立ち上げたフィギュアスケーターのジョン・カリーの伝記ドキュメンタリー映画です。
 ジョン・カリーという名前は聞いたことがあり、フィギュアスケートにバレーの要素を取り入れて芸術性を高めた選手の1人という程度の知識はありましたが、それ以上くわしくは知らなかったんで興味深く観ました。活字ではなく映像だと実際の演技を観れるのがやはり良いですね。オリンピックばかりでなく、プロに転向してからの演技も(個人所有のものも含めて)いくつか映像が残っているようで、フィギュアスケートによる芸術を目指したカリーの演技を観ることができたし、確かに素晴らしいものでした。またカリーのパーソナルな側面である同性愛とそれをめぐる70年代の世間の反応や、AIDSによる44歳での死(1994年)なども興味深かったです。ただ個人的に1番興味深かったのは、カリーのカンパニーが1984年に来日してたということで、映画の中の80年代バブル経済の日本の空気が妙に懐かしかったりなんかして。



#10958 
バラージ 2019/12/20 22:25
歴史を駆ける 時代を泳ぐ

 『いだてん 東京オリムピック噺』、完結しましたね。戦後から1964年東京オリンピックまでの田畑編後半はかなりの駆け足になってしまい(マラソンだけに)、それまでに比べるとやや盛り上がりに欠けた気がしますが、最終話は見事大団円に終わりました(ちなみに金栗編前半13話、後半11話、田畑編前半15話、後半8話)。
 田畑編後半で面白かったのは、前半で父の死の真相にたどり着いた五りんがそのまま落語家の道を歩むかと思いきや、迷走して1度ドロップアウトしちゃうところ。この「成長しそうになるとふりだしに戻る」パターンは『あまちゃん』の主人公といっしょです。また最終話における、まず前半にオリンピック開会式の顛末を描き、後半にその裏側で起こっていた五りんのエピソードを描くというドラマ構造は『木更津キャッツアイ』と同じパターン(ちなみに『木更津~』も放送時の視聴率は悪く、主演の岡田准一は「みんななんでこの面白さがわかんねえんだよ」と思ってたとか。しかしカルト的にはウケにウケて、続編の映画版が2作も作られることになったドラマです)。裏側といえばこの田畑編後半の、というよりも『いだてん』の物語全体の裏主人公は実は五りんだったと言ってもいいんじゃないでしょうか。思えば彼が志ん生の元を訪ねてくるところから物語は始まったわけですし、シマ、小松勝、五りんと親子三代に渡る、この物語のキーパーソンだったと言えるでしょう。
 占い好きのバーのママ・マリーに最後にあんな役割を担わせたのも、そう来たか!と思ったし、たけし演じる志ん生が「チャフラフスカ!」とやってたのはもちろん「コマネチ!」のパロディ。劇中で結婚・妊娠・出産してた知恵役の川栄李奈が実際に結婚・妊娠・出産というおめでたいシンクロもありました。最終話のサブタイトル「時間よ止まれ」(元ネタはもちろん矢沢永吉の歌)は、「時よ止まれ、君は美しい」という有名なフレーズから連想したんだろうと僕は思ったんですが、制作側のインタビューをいろいろ読むと別に関係なかったみたい。ちなみに僕は「時よ~」はカメラのCMか何かのフレーズだとなぜか記憶してたんですが、実際には1972年ミュンヘン五輪の記録映画の邦題でした。
 逆に田畑編後半でちょっと疑問に感じたのは、田畑の失脚が川島正次郎1人の画策で行われたように描かれてたところ。いくら“政界の寝業師”とはいえ川島1人の力だけでそうなるとは思えないんですが、調べても史実におけるこのあたりの経緯がよくわからないんですよね。インドネシアのアジア大会が直接の原因なのはドラマの通りのようですが、その裏で川島の暗躍が本当にあったのかがどうもよくわからない。検索しても史実の話がなかなか無くて、『いだてん』の話題ばっかり出てきちゃうんだよな(笑)。川島の暗躍の元ネタとしてわずかに検索にかかるのが産経新聞系ばっかりってのも、スカルノが左派系だけにちょっと引っ掛かるところではあります。また、なんでも川島には直系の子孫がおらず(子供は夭折したらしい)、悪者にしても文句が出にくいからではないかと推測してるツイッターもありました。
 ま、そんなところもありつつも1年を通して非常に面白いドラマでした。僕は2012年の『平清盛』以来久々の完走です(マラソンだけに)。全4章の章立てが変わるごとに新たな物語に馴染むのにやや時間がかかるきらいはありましたが、金栗編後半終盤の第21回「櫻の園」、第22回「ヴィーナスの誕生」、第23回「大地」、第24回「種まく人」の流れや、田畑編前半終盤の第38回「長いお別れ」、第39回「懐かしの満州」などは素晴らしかったです。超久々に総集編も観ようかな。大河の総集編を観るなんていつぶりだろ?(『平清盛』も総集編はさすがに観なかった)

 以下の関連記事も紹介しときますかね。一つ目は金栗四三についてのスポーツジャーナリストの武田薫の記事。
「NHK大河「いだてん」のモデル 金栗四三の苦労と功績を知る」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/245724

 もう一つは上でも触れた特徴的なサブタイトルの元ネタについて。僕も観ていていくつか元ネタがわからない回もあったんで、なるほどとなりました。
「サブタイトルで読み直す『いだてん~東京オリムピック噺』【金栗四三編】」
https://www.oricon.co.jp/news/2151061/full/
「サブタイトルで読み直す『いだてん~東京オリムピック噺』【田畑政治編】」
https://www.oricon.co.jp/news/2151062/full/


>安倍首相の先祖
 安倍晋太郎氏および晋三首相の先祖とされる安倍氏は、安倍貞任の弟で前九年の役の後に西国に流罪となった宗任のようですね。ちなみに宗任については以前書いた通り、実は頼時の嫡子だとする説があります。
 そんな晋太郎氏、桜を見る会のジャパンライフ問題で、先日大往生を遂げた中曽根元首相ともども過去をほじくり返されちゃいましたね。それにしてもジャパンライフは80年代からマルチ商法を国会で追及されてたんですねえ。よく今まで放置されてきたなあ。

>映画館で観た映画
『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯』
 去年観たドキュメンタリー映画『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー』の続編というか姉妹編のドキュメンタリー映画。米軍占領下の戦後沖縄の政治家・瀬長亀次郎の生涯が、彼の詳細な日記などを追いながらプライベートな面も含めてさらに深く描き出されていきます。教公二法阻止闘争・コザ騒動・毒ガス兵器移送(レッドハット作戦)・復帰措置に関する建議書などの沖縄戦後史も綴られていて、前作でも取り上げられていた亀次郎と佐藤栄作首相の国会論戦はさらに長尺で挿入。またその前々代の岸信介首相も登場しています。先日観たドキュメンタリー映画『i 新聞記者ドキュメント』でも辺野古など沖縄問題が取り上げられてましたが、やはり今に続く問題なんですね。



#10957 
カプラン 2019/12/20 22:00
お久しぶりです:今年の大河の感想など

こんばんは。HN・カプランでございます。
久々にお世話になります。皆様、いかがお過ごしでしょうか。
私はとりたてて体調不良ではありませんが、帰宅後のこの時間帯になると
もう睡魔に襲われることもしばしばで――そろそろ、寄る年波を意識せざ
る得なくなり始めたのでしょうか^_^;

さて、大河ドラマ『いだてん』もフィナーレとなりましたね。思うところを
書いてみたいと思います。
まず題材の選択についてですが、大河ドラマは得てしてマンネリという宿命を
背負っています。その関係もあり、今回の題材はその(周期的な)刷新という
課題にもフィットし、なおかつオリンピックを題材に据えるよい機会でも
ありました。ただし、いわゆる大河ドラマの固定的な視聴層として想定される
(であろう)中高年男性が継続視聴するかどうかという点は、どこまで読みが
できていたかどうか――? あるいは、固定的な層の視聴がある程度削がれることも
見越したうえで、新たにより若年層への浸透/人気を狙っていたのか――?
この辺りは、それなりの賭けの要素が強かったように思います:ただ、朝の連ドラの
趣向を踏襲すれば、必ずしもこうした狙いは的外れにはならないはずという読みが
制作側にはあったのではないかと推察しますが。
ただ結果として、視聴率的にはかなり苦しい結果となりました:現実は厳しかったです…。
私が初回を見た時の印象はといえば、「このテンポの速さで60分展開されると、
疲れてしまう人もいるのではなかろうか。」と。軽快といえば軽快なのですが、
シーンの切り替えが早く、TVを見ながら内容の咀嚼についていけるかどうか――、
見ていて懸念していました。最後の羽田の運動会のシーンは、同回のクライマッ
クスのシーンなのですが、疲れを感じた人がいたとすれば空騒ぎのシーンになって
しまっているのではないか――、そんな印象を感じました。また、朝ドラのように
15分ならば耐えられるが、45分に及ぶと疲れて脱落してしまうのではないかという
点も危惧としてありました。
では、1年を通じてという点ではどうだったか。私としては、初回の印象ほど
目まぐるしさゆえの疲れは感じませんでした:実際には、さほど急展開に振り回される
作りではなかったと思いました。初回の印象で、もし視聴に疲れ/忍耐を感じてしまい
脱落が生じてしまっていたとしたら、これまた残念なことと思いました。
このドラマ――とりわけ近年の大河ドラマという括りで考えた場合、特筆すべき点
として、初回からドラマのクオリティが維持されたという点であったと思います。
視聴率が低迷すると、途中でテコ入れがされて物語の内容や力点で変わってしまい、
全体としてチグハグで、下手をすれば改悪の出来になってしまうというパターンが
散見されるのですが――どの作品のことかはお答えいたしかねますが^_^;――、
今回はそれがなかった。制作側も(ようやく?? )学習したのかなあ、と感じて
おります。まあ、テコ入れに相当する回――本放送とは別に、途中で番組PR向けの
特別回を導入する――はありましたが、手法としてはまだ良心的だと思いました:
色々アクシデントがあり放送回の繰り延べをするために、結果として行われた面も
あるのですが。(前回の『西郷どん』のときでも用いられましたが、)今後は、
物語の改変でテコ入れするのではなく、こうした手法を使ってほしいものです。
キャストの面では、役所広司さんの起用が嬉しかった。役所さんの大河ドラマの
起用って、『華の乱』以来だとか…。『徳川家康』の織田信長役で(も)当たって
以来、地道にキャリアを重ねて円熟し、大河ドラマでカムバックしてくれたのは、
個人的にはなかなかしみじみとしました・笑。(そういえば、松平健さんが
『元禄繚乱』で久々に大河カムバックしたときも似たような感慨を覚えた記憶
が…。) ただ、役どころがストーリーの都合上、天真爛漫キャラだったので、
円熟味の発揮にまでは至らなかったのかな? 今後とも、今度は大河時代劇で、
キャリアにふさわしい円熟味を魅せてほしいものです――来年の『麒麟が来る』
あたり、どうでしょう? ^_^;

で、このまま来年の大河ドラマ『麒麟が来る』の話題へ^_^;
そもそも池端俊策先生って、今御幾つでしょうか? ひょっとして、大河ドラマ執筆
時点での最高年齢を更新している? おそらくその関係もあって、サポートメンバー
の意味合いも兼ね脚本が共同執筆体制になっているのかなあとも思ったり…。
ともかく、1年間無事に執筆してくださいというのが、まず一点。
物語の内容としては――、『太平記』レベルのクオリティを維持していただければ
私としては言うことなしです・爆。といいますか、いまBSプレミアムで再放送され
ているジェームス三木先生作の『葵 徳川三代』に言及しますと、このドラマって、
『八代将軍吉宗』の作劇手法を自己模倣なんですよねえ。なぜ引き合いに出すかと
いうと、作者が持っている才能の「引き出し」というものが仮にあるとすると、
池端先生もおそらく『太平記』で培った手練手管を自己模倣してくるのではないかな
と思っているわけです。ただ、その模倣の手法において、工夫がなくてほぼトレース
同然だとするとどうしても評価は下がってしまう――残念ながら、ここ最近の大河
ドラマに比べれば『葵 徳川三代』は良質だと思いますが、しかしジェームス三木
作品という評価基準が加わると、素直に肯定できない面を感じてしまうわけです。
(ちなみに、麒麟というモチーフって、おそらく『太平記』で出てきた「ただの
木切れ」に相当するのかな? そもそも麒麟って、太平や仁徳の象徴である一方で、
本来は出現してはならない聖獣だそうで…? そのあたりのアンビバレントさ加減は、
何だか『太平記』で出てきた神聖さ/美しさ、実際はほぼ無価値にしか見えない
「ただの木切れ」というモチーフとそっくりな感じがするのですが。その意味でも、
作風の自己模倣なのかなあ――と、邪推してみたり^_^;。ま、この辺りは放送を
楽しみにしましょう・笑。) という訳で、(行うとしても)工夫のある自己模倣を
期待したいというのが、第二点。
最後に期待したい点は、キャストの演技ですかねえ…。彫の深いキャラクター像を
演技できるかなあ…。その意味でも、役所広司さん、出てほしいなあ…。^_^;

…、この時間帯、眠くなるといいつつ長々とカキコしてしまいました。お目汚し、
恐縮です。<(_ _)>
さて、今年も残すところあとわずかです。気ぜわしい時期ではございますが、
穏やかな新年をお迎えください。
では、失礼いたします。



#10956 
徹夜城(今日は久々に書店で立ち読みした管理人) 2019/12/04 23:02
年末に訃報が続き

 はや12月、今年も大詰めになってきましたが、いろいろと有名人の訃報が続きます。中曽根康弘元首相もついに101歳でお亡くなりに。次回史点ネタ確定ですが、首相経験者の最高齢記録ではなかったということにちょっとビックリ。
 他に声優の井井上真樹夫さん。石川五エ門とハーロックが代表ですが、慣れ親しんだ声優さんが亡くなると当人の顔ではなく役の顔でイメージしてるせいもあって、こみ上げるものがあります。ハーロックといえば松本零士先生はどうやらご無事で退院されたようで。
 そして今日は中村哲さんが非業の死。こういう亡くなり方をされるとかなりキツイ。


>連想の石川五右衛門
 ツイッターで書いたネタですが、先日の「ルパン三世」のスペシャルで、石川五エ門に対して「ご先祖が義賊」と声をかける場面があり、「え?」と違和感を覚えてまして。
 以前「GOEMON」という、ファンタジー時代劇みたいな映画があったんですが、あれも「義賊」イメージで五右衛門を描いてました。つまり金持ちから盗んで貧乏人に恵、というやつ。でもそれって鼠小僧治郎吉のイメージと混線してるんじゃないかと。次郎吉だってホントは貧乏人に恵んだりなんてしてなかったですけどね。

 石川五右衛門は豊臣秀吉の天下の時代に実在した盗賊ですが、同時代史料はごくわずか。それでもかなり名をとどろかせていて、家族もろとも釜ゆでの刑に処されたことは確か。さらに多くの子分たちが一緒に処刑されてるので、割と大きな盗賊集団の首領だった可能性が高い、と僕は以前から五右衛門をそうイメージしてます。義賊だったという記録は一切ないですが、当然大名とか商人とか金持ちを狙ったでしょうね。秀吉の寝所に忍び込んだという伝説がホントかどうかは分かりませんが、あるいは庶民の政治批判の声をくみあげて人気があった、ってことはあったかもしれない。
 ちょうど戦国から全国統一の流れのころですからね、「盗賊業界」における戦国期の終わりに出て来た「泥棒戦国大名」みたいなイメージを勝手に僕は持ってます。専門が海賊で趣味がルパンだったりするんで、どうも昔から五右衛門も気になってるんですよね。


>やたろうさん
 カゴ直利さんの「日本の歴史」って入手できるんだ!、と驚いてアマゾンを覗いてみたら、なるほど古本がチョコチョコ出てますね。だいぶ前に確かめた時は全然見つからなくって。今回もあいにく「南北朝の争い」はなかったです。僕は現物を読みに「国際こども図書館」まで行ったんですが。
 kのおシリーズ、むかし小学校の図書館や市立図書館に置いてあって、あらかたの巻は読んでます。あのコーナーにも書いてますが、全体的に講談調というか、史実かどうかより面白い話優先なところがあり、確かにそれが面白かったんですね。今となってはいささか問題のある描写も目につきましたが…近代以降は別の漫画家さんで、ここでも講談的ノリは多かった。「死んでもラッパを話しませんでした」をこれで覚えましたし(笑)。
 その「ぎょうせい」の「なぜなに事典」もチェックしないといけないかな。「ごだ帝」が講釈師とあっては(笑)>


>バラージさん
 1989年は昭和天皇から始まり、手塚治虫、美空ひばり、松下幸之助、田川水泡、ホメイニ…などなどなど、大物の物故者が多いのも特徴でした。
 安倍さんのご先祖が安倍野貞任とかあの辺いいくらしい、って話はあるらしいですが、それにからめて「東日流外三郡誌」がらみで名前を利用されたことがあったような…


>そうそう、空き忘れるとこだった。
 映画「決算忠臣蔵」を先週見てきました。いや~日本映画でこれだけ笑ったのも久々。忠臣蔵をとことん「カネ」の話に収束させた、関西的ノリ(製作が吉本・松竹)でコテコテ。画面上で現在の金額に換算した数字を表示し、何にいくらかかるのか、実にわかりやすく示してくれて、「討ち入り」も大変なんだ、と実感できます。
 いずれ栄耀栄華の方でも書きます。



#10955 
バラージ 2019/12/03 23:31
1989

>史点
 1989年というと、僕も故郷を離れ大学に入って一人暮らしを始めた年で、そのためもあってか様々な社会的事件が印象に残ってます。それらのニュースを見た『筑紫哲也NEWS23』が始まったのもこの年で、改めて調べると10月から始まっていたようですね。
 ベルリンの壁崩壊は、僕はそれ単独よりも東欧ドミノ現象の1つとして印象に残ってまして、東ドイツ・ポーランド・チェコスロバキア・ハンガリー・ルーマニア・ブルガリアなどで次々と共産党独裁政権が倒れていったのは本当に驚きでした。そのちょっと前から起きていたソ連のゴルバチョフ大統領によるペレストロイカの影響が大きかったんでしょうが、物心ついた時からずっと東西冷戦が当たり前の状態だったんで、今まさにリアルタイムで世界が変化していることをものすごく実感した記憶があります。
 1989年は史点で挙げられてる天安門事件や坂本弁護士一家殺害事件の他にも、僕が大学入学以前の3月まででは、昭和天皇の死去とそれに伴う社会全体の自粛現象および平成への代替わり、ソ連がアフガニスタンから撤退、ホメイニ師が『悪魔の詩』著者の殺害を指示などの事件がありました。4月以後は、消費税の導入、ビルマの呼称がミャンマーに変わる、ピート・ローズが野球賭博で永久追放、天皇の次男(現・秋篠宮)が川嶋紀子さんと婚約、ソニーがコロンビア映画買収、三菱地所がロックフェラー・センター買収、ブッシュとゴルバチョフが冷戦終結を宣言、米軍がパナマ侵攻など、本当に大きな事件が次々起こった印象です。リクルート事件などの影響で支持率がどん底まで落ちた竹下内閣が退陣し、宇野内閣になるも今度は首相の女性スキャンダルで選挙に惨敗し退陣、土井たか子党首のマドンナ旋風により社会党躍進、そして海部内閣発足もこの年。手塚治虫、ホメイニ師、美空ひばり、カラヤン、マルコス元大統領、松田優作、サハロフ博士が亡くなった年でもあります。まさに激動の時代でした。

 安倍首相の在任日数最長記録がいまいち話題になってないのは、抜いた対象の桂太郎がこれまたよほどの歴史好きか政治好きでもない限り誰だかよくわかんない人だからでしょうね。僕も名前のインパクトで名前だけは知ってましたが、じゃあどういう人でどういう首相だったかと言われると答えられなかったりします(笑)。
 晋三首相の父・安倍晋太郎氏については、首相有力候補の1人だったけどリクルート事件のために首相になり損ねちゃった眼鏡の人というイメージ。この晋太郎氏、自分は前九年の役で滅亡した安倍氏の末裔だと自称してたことがあります。むかし図書館で、安倍氏についての本に序文を寄せた中でそう書いてるのを読んだことがあるんですよね。まあリップサービスのつもりだったのかもしれないけど。

>『葵 徳川三代』の思ひ出
 大河ドラマの思い出、今回は20世紀最後の作品となった『葵 徳川三代』。久々にハマった大河ドラマで、途中2、3話観逃したもののほぼ全話観ました。
 徳川家康・秀忠・家光の三代が主人公と見せかけて、実は実質的主人公は真ん中の秀忠だと脚本のジェームス三木もノベライズのあとがきで明言してました。実際観ていて秀忠がなかなか死なないんで、「あれ? このペースだと家光の時代をやる時間が無くなっちゃうんじゃね?」と思ってたら、ラス前の回でようやく秀忠が死去し、家光単独主人公は最終回1時間スペシャルのみで家綱誕生までを描いてお茶を濁しちゃってました。『徳川秀忠』じゃ視聴者が食いつかないと考えて有名な家康と家光でサンドイッチにしちゃったんでしょう。よくよく考えればドラマは秀吉の死の直後から始まったんで家康も晩年しか描かれてなかったんですが、その時はあんまり違和感を感じなかったんですよね。
 初回から視聴者を引き付けるためかいきなり1時間半の拡大スペシャルで関ヶ原の戦いを描くという力の入れよう。当時は大河ドラマの総集編が過去作も含めてビデオ化され出した時期でしたが、本作はその初回がまるごとビデオ化されてましたね。DVDに切り替わる少し前の時代で、完全版DVD化が当たり前になった今となってはなんだか懐かしい。第2話から秀吉の死までさかのぼって描き始めるという手法が取られ、関ヶ原がなかなかだったんで真田幸村好きとしては大河で描かれるのは意外に珍しい大坂夏の陣が楽しみでした。さすがに関ヶ原に比べればややスケールが落ちたものの、これまたなかなかの出来でしたね。全49話のうちそこまでで30話と半分以上を費やしており、家康の死が32話。しかしその後の秀忠時代も楽しみに観れたのは、その少し前に読んだ今谷明の『武家と天皇』(岩波新書)とドンピシャの時代だったから。江戸初期の幕府と朝廷の関係を紫衣事件をクライマックスとして分析した本で、今谷の「武家政権と天皇」シリーズの最終作。なかなか面白い本だったんで、そのあたりが描かれるのを楽しみにしていた記憶があります。
 登場人物を演じる役者が実際の人物に近い歳のベテランばかりで、若い美男美女俳優がほとんどいないのもリアリティがあって新鮮でした……とずーっと思ってたんですが、これについては改めていろいろ調べてみると、むしろ実際の人物たちよりも相当歳上の俳優ばかりが演じていたことが判明。秀忠を演じる西田敏行や妻のお江を演じる岩下志麻が、序盤では本物より相当歳上なのはわかってましたが(関ヶ原当時、秀忠は数え22歳だったのに西田は当時54歳、そして数え28歳だったお江を当時60歳の岩下が演じるという無理矢理さ)、それは晩年まで演じるためだろうと思ってました。しかし、それに合わせるためか他の人物も本物より歳上の俳優となってしまったようで、秀忠の兄の結城秀康27歳を岡本富士太55歳が演じ、弟の松平忠吉21歳を寺泉憲54歳が演じ、お江の姉の淀殿32歳を小川真由美62歳が、お初31歳を波乃久里子56歳が演じるというとんでもない事態に(笑)。当時アラサーだった浅井三姉妹を当時アラ還だった三女優が演じてたわけで、観てた当時は三女優の演技と貫禄っぷりに疑問の余地なく納得しちゃってたわけですが、実は全然リアルじゃなかったのでした。むしろ後の『江』なんかのほうが人物と役者の年齢的にはよっぽどリアルなのであった。さらにそれに合わせるためか他の俳優も大半が実際の人物よりもやたら歳上で、石田三成41歳を江守徹57歳が、大谷吉継41歳を細川俊之61歳が演じています。もっとすごいのが48歳の毛利輝元を70歳の宇津井健が演じちゃってるところ。輝元なんてどうせ関ヶ原のあたりにしか出てこないんだから、そこまで歳上の役者にすることもなかろうに……。実際、僕も途中からはあまりに若い俳優ーー特に女優が出てこないんでちょっと欲求不満に感じてたら、最終回にようやく家光の側室役で若い女優がぞろぞろ出てきて、おお!とちょっと喜んじゃった記憶あり。
 平均視聴率は下げ止まらず、18.5%とついに20%を切ってしまいました。かつて『独眼竜政宗』で歴代最高の平均視聴率39.7%を取ったジェームス三木脚本でしたが、時の流れは残酷です。初回視聴率の22.6%が最高視聴率だったとのことで、製作側の力の入れ方とは裏腹に初回で脱落した視聴者が多かったみたい。一般視聴者からしたら、いきなりお話の状況も舞台もよくわからないまま1時間半も延々合戦を見せられたといった感じだったのかも。実は戦闘ストーリーって人によっては退屈に感じることも多いし、特に女性は拒否反応を示すことが少なくないんですよね(少なくとも面白がる女性はあまりいないと思う)。大河視聴者の大半を占める高齢層(もしくは中高年層)からそっぽを向かれちゃったのかもしれません。
 また、あるサイトでは前半は視聴率が低迷したが、家康死後になったらやや持ち直したと書かれてました。各回の視聴率は見つけられなかったので裏付けはありませんが、それが正しいとするとちょっと興味深いところ。主人公でありながら豊臣家を潰していく家康の悪どさが敬遠されたんでしょうか? もしくは主演が津川雅彦から西田敏行にバトンタッチされたから? とはいえ最初から秀忠が主人公っぽかった記憶がありますが。あと、批判する側からは「歴史年表大河」と揶揄する声もあります。確かに解説役?の徳川光圀の説明も相まって、史実の消化のような展開になってしまい、物語的なダイナミズムには欠けてたかもしれません。
 もちろん本作を高く評価する声もあります。大河ドラママニアとして有名な松村邦洋は、本作を大河ドラマの最高傑作と言ってました。ただ逆に言うとマニア向けの作品で、一般視聴者ウケはしないドラマと言えそうです。



#10954 
やたろう 2019/12/02 23:03
南北朝読書近況報告

徹夜城様、ご無沙汰しております。懐良親王に関する書籍を読んでおられるとのことですが、あの方は色々と興味深い点(九州独立政権とか日本国王とか)があるので、私も興味がありますね。

仕事に私事にと追われる1年でしたが、読書だけはしたいと考え、こちら様でも話題となる南北朝関係を読んでおります。『マンガで南北朝!』で見たのがきっかけでカゴ直利さんの『日本の歴史』を買いましたが、描かれた時代が時代なだけにメインは正成と言った感じを受けました。個人的には講談調に少年マンガ(集英社なだけに)が加味されているなと言った感じで、尊氏は単なる悪人ではなく、必要悪と言うかダークヒーロー(横光三国志の曹操的ポジション)で、正統派の正成に対するアンチテーゼにも見えました。

そうした二大ヒーローの存在感と並ばせる意味で、例の義貞美化シーン(湊川戦の前で正成に野心家扱いされているなど、全体的に扱いが悪い)が加えられたり、逆に普段は英主なのに大塔宮逮捕や尊氏が九州から捲土重来した時に突如として後醍醐帝が暴君化するのかなあ…と色々と考えつつ読んでいました。なお、文観と思しき僧侶は自分が買った本では『法勝寺の恵鎮』となっており、出版年によって訂正されているのか、少し気になります。

また、ぎょうせいの『歴史人物なぜなぜ事典⑩』と言う本は一冊丸ごとが南北朝で、扱われる人物は後醍醐天皇・足利尊氏・足利義満でイラストは宮田淳一さんと言う方が描かれているのを見つけました。この宮田さんは『タイガーマスク二世』や『パチンコ梁山泊』など武闘派の男臭い漫画を描かれていますが、この本はその濃さをマイルドにしつつ、コミカルにした雰囲気です。

ごだ帝(不敬罪確定)が講釈師のように物語を進めたかと思えば『マンガ肉』をかじり、のび太君のようにお昼寝をする濃さ、尊氏は戦えば強いくせにすぐに弱音を吐いて切腹を口にするどうしようもない大将なのに対し、義満は朝貢貿易なのは気に入らないとしつつも商売だと割り切るしっかりした将軍様ぶりなのが、新鮮でした(笑)。なお、作者が彼らのファンだったのかは不明ですが、親房が目力のあるシブい坊主で、頼之も忠臣よりかは非情かつ敏腕な武人で描かれ、脇役がカッコイイおっさん揃いなのも、個人的にはツボです。

マンガばかりを紹介してしまいましたが、読み物としては亀田俊和さんの『南朝の真実 忠臣という幻想』を読んでいて、建武新政を引き継ごうとした尊氏の政治や後醍醐帝による討幕に至るまでの皇室、楠木一家の戦略、親房のマキャヴェリズムなどが詳細に書かれていて、なかなかに楽しめました。懐良親王も少し登場していますので、おススメの一冊と思います。

https://rekisou.exblog.jp/


#10953 
バラージ 2019/11/26 23:01
ナチス台頭前夜の時代のベルリン

 『トキワ荘の青春』は僕の個人的趣味から紹介しちゃいましたが、歴史映画かというとちょっと微妙な感じになっちゃいますよね。近現代史ものの伝記映画や実話映画なんかも歴史映画と言えるかは実に微妙なところで、作品によるという感じでしょうか。
 ただ、以前も書いたように特に日本の戦後史なんかについては政治史や社会史ばかりでなく文化史やサブカルチャー史も無視できないと思うんですよね。昔、20世紀の各1年を各1冊で扱う『週刊20世紀』というムックが出てましたが、トップトピックが「長嶋茂雄デビュー」とか「山口百恵引退」とか「インベーダーゲーム大流行」という号があり、確かにそのニュースこそが最もその年、その時代をよく表しているとも思えるんですよね。


 BS12で放送していたドイツの連続ドラマ『バビロン・ベルリン』が終わりました。第1シーズン8話と第2シーズン8話の16話まとめて放送ということですが、やっぱりドラマはこれくらいの回数が適当だよなあ(笑)。
 ドイツ史上最大の規模で製作されたテレビドラマとのことで、以前書いた通り1929年というワイマール共和国末期、ナチス台頭前夜のベルリンを舞台としたハードボイルド・サスペンス・ミステリー。ある極秘任務を帯びてケルン警察からベルリン警視庁の風紀課に転任してきたゲレオン・ラート警部と、ベルリン警視庁の記録係として日雇い労働をしながら夜は別の顔を持つ貧困層の女性シャルロッテ・リッターが主人公。やがて任務終了とともに風紀課から殺人課へ異動したゲレオンと、ベルリン警視庁初の女性刑事になろうとするシャルロッテは、思いもよらぬ巨大な政治的陰謀に巻き込まれていく……というストーリー。
 いやぁ、面白かった。やっぱり俺は歴史系の映画(これはドラマですが)では世界史の近現代ものが好きなんだよな。登場人物はほとんどが架空の人物ですが、非常に歴史的要素が強いドラマでした。実在の人物はシュトレーゼ外相やヒンデンブルク大統領などごく一部だけで出番もわずかなものでしたが、第一次世界大戦の痛手からようやく立ち直り、空前の繁栄を誇る世界大恐慌直前の大都会ベルリン(人口が史上最大だった時代とのこと)と、その文化的成熟の裏側にある都市的退廃や貧富の差の拡大など、様々な社会状況が壮大なロケやセットでリアルに描かれています。いかがわしい違法ポルノ映画やナイトクラブでの売春などが描かれる(『グレート・ギャツビー』と同時代。また80年代バブルの雰囲気も感じた)一方で、血のメーデー事件や黒い国防軍、ドイツ共産党にアルメニア系ギャング、戦争のPTSDと薬物依存と催眠療法、亡命トロツキー派・スターリンの秘密警察・反革命ロシア貴族の抗争、そしてナチスはまだ泡沫政党の1つに過ぎずヒトラーの名前が台詞の中で1度出てくるだけ……などの歴史的事象が上手く物語に絡められ、まぎれもなく歴史ドラマになってました。
 また、そのような歴史要素を抜きにして単純にドラマとして観ても面白かった。多数の人物と勢力がそれぞれの思惑で動き、物語から出たり入ったりするため、若干錯綜気味でわかりにくいところもありますが、それぞれの俳優が好演するキャラクターの魅力も相まってドラマに惹き込まれました。完全に清廉潔白な人物が1人も出てこないのもまたリアル。ゲレオン役の主演フォルカー・ブルッフや、裏の顔を持つ上司ヴォルター上級警部役のペーター・クルトも好演ですが、なんといってもシャルロッテ役の女優リヴ・リサ・フリースがいい! 個人的には彼女が最大の収穫かな(笑)。「灰は灰に 塵は塵に」という歌い出しで始まる劇中歌でもあるデカダンスな主題歌も良かった。ドイツ本国では来年1月からシーズン3の放送が始まるとのことで、シーズン4の製作も決まってるとか。ぜひそっちも日本でも放送してほしいですね。

 同じくBS12で放送中の『三国志 SECRET of THREE KINGDOMS』も視聴中。こちらはなんというか完全に娯楽時代劇のノリですな。そもそも主人公が献帝の双子の弟で影武者っていう時点でわかってたことですが、大枠では史実に沿っているものの基本的にはほぼフィクション。しかし出てくる曹操陣営の人物たちの性格づけというかキャラクター設定が絶妙で、なかなかに面白い。そして個人的には1番の目当てである皇后伏寿役のレジーナ・ワン。演技は上手いし色っぽいしで、彼女が観れればもうなんだっていいや(笑)。しかし週5放送はちょっときついなあ。録画消化が追いつかないよ。
 そんなわけでもう1つ録画してるWOWOWの『如懿伝』は録画消化が完全に停滞中。ドラマ自体は面白いんですが。


>『いだてん』
 金栗四三の妻となるスヤが再婚だったというストーリー展開について、そのような文献資料がないため、視聴者のブログなどでもなぜ再婚という設定にしたのか疑問を呈するものがちらほらありました(僕も意図がよくわからなかった)が、制作スタッフへの以下のインタビューによると実はスタッフの取材で判明した事実だったそうです。ちょっとびっくり。
https://realsound.jp/movie/2019/11/post-450174.html

>『麒麟がくる』
 今度はこちらで問題が……。大河、ほんと受難続きだなあ。
 そういえば『麒麟がくる』の脚本は当初は池端俊策と発表されたようですが、かなり早い段階、確か最初の発表から1ヶ月以内に前川洋一・岩本真耶との3人体制に変更されてました。多分メインは池端なんでしょうが、なんか問題でもあったんですかねえ? 大河では脚本家複数人体制は結構珍しく、近年では『八重の桜』『花燃ゆ』が脚本家複数ですが、『八重』は山本むつみがメインで、吉澤智子と三浦有為子は後半に何話か入ったのみ、『花燃ゆ』は当初は大島里美と宮村優子の2人体制でしたが、途中から金子ありさが執筆に参加し、第36回以降は小松江里子が残り全話を書いたとのこと。

>ビデオで観た歴史映画
『異聞 始皇帝謀殺』
 1998年に中国映画『始皇帝暗殺』が日本公開された時に便乗的にビデオスルーされた中国・香港合作映画(香港は金を出しただけで中身は全くの中国映画)。ただし製作・本国公開は実はこっちが先で1996年の映画。
 昔あった小さなレンタルビデオ店1軒だけにビデオが入荷されてたんですが、いつか観ようと思ってるうちにつぶれてしまいました。DVD化されてないんで今に至るまで観れずにいたんですが、ふと何の気なしにAmazonで検索したらレンタル落ち中古ビデオが1円で売られてるのを発見。おお、と思わず買ってしまいました。どうせ今さらDVD化はされないでしょうし。
 邦題は完全に便乗タイトルですが、原題は『秦頌』で直訳すると「秦を讃える歌」でしょうか?(台詞の字幕では「国歌」とされていた) 秦の始皇帝と彼を暗殺しようとした燕の楽士の高漸離の史実が基になってはいるんですが、それを大幅に改変して実質ほとんどオリジナルの物語にしています。というか史実を材料として使って、全く別の物語を作り上げたと言ったほうがいいかも。史実での高漸離は、秦王贏政(始皇帝)を暗殺しようとした刺客・荊軻の友人で、『始皇帝暗殺』にもちょっとだけ出てきましたが、本作では設定が大幅に違い、荊軻とも友人ではありません。本作では荊軻による暗殺未遂は序盤であっさり片付けられてしまいます。始皇帝は燕(史実では趙)の人質時代に高漸離の母の乳を飲んで育った幼なじみという設定で、燕を滅ぼした始皇帝は今や音楽家として名声を博す高漸離に秦の国歌(秦頌)を作らせようとするが……というストーリー。ヒロインとして始皇帝の娘で高漸離と愛し合うユエヤンという架空人物が登場します。始皇帝役はチアン・ウェン(姜文)、高漸離役はグォ・ヨウ(葛優)といういずれも大物演技派俳優。ヒロインのユエヤンはシュイ・チン(許晴)という女優が演じてますが、『始皇帝暗殺』のコン・リーに比べるとやっぱりちょっと地味。小品の文芸映画かもしくはB級史劇かと思いきや、壮大なセットを使い大規模な野外ロケも行ったスケールの大きな史劇大作で、史実とは異なるところも多いものの人物造形は非常によく練られており、ちょっとシェイクスピア悲劇みたいな話でした。なかなか面白かったです。
 ただ日本語字幕では人物の名前を中国語発音のカタカナ表記にしてるので、誰なのかがわかりづらかったし違和感がありました。始皇帝の名前の贏政は「ユン・ジョン」、高漸離は「カオ・ジアンリ」などとなっていて、架空人物であるユエヤンはエンドロールや百度百科・中国語版Wikiで確認すると漢字表記は「櫟陽公主」のようです。



#10952 
つね 2019/11/16 18:06
東京一極集中

>京都でやってたころへの「先祖返り」
今回の即位式についてはそのようです。

>「上皇は京都に」
私もそれを耳にしたことはあります。新聞だったかこのサイトだったか。京都からしたらそう思うのも分からないではありませんが、そこでも書かれてましたが、上皇陛下は東京生まれ東京育ち(そもそも大正天皇からなので4代続けて)ですし、子や孫から引き離されてしまいますからいい話ではなかったでしょうね。

皇室はとにかく、「東京一極集中を解消する」という話を聞くたびに、「まずお役人から動けよ」と思ってしまいます。結局、役所が東京に集中し便利だから民間も東京に集まるのだし、少し考えれば分かる話のはずですが、官庁移転の話がほとんど出ないのは、本気で解消する気ないんでしょうね。だから安心して首都大学東京なんかもまた名前を戻すのかな。



#10951 
徹夜城(大著をようやく読み終えた管理人) 2019/11/13 21:50
「サピエンス全史」やっと読了

 この本についてはかなり特殊な、チビチビとした読み方をしたものでえらく時間がかかってしまいましたが、なるほど評判になるだけあって面白かったです。現在の人間、本書で言う「サピエンス」がなこんな異常な生物になってしまったのか、それは一言で言うと「認知革命」、ぶっちゃけていうと「架空のことを語れる」「ウソや虚構を信じられる」といった能力を得てしまったからだ、というのは言われてみるとナルホドと思う話ではあります。人間が今も作っている国家やら企業やらだって所詮は虚構だ、と言われりゃその通りで。そのあとの「農業革命」「科学革命」についてはあえていうと目新しいことは言ってないように思いますが語り口・切り口が確かに面白い。けこう辛辣にエグいことも言ってますが、現状と未来に対しては割と楽観論を述べてると自分でも言ってますね。
 「銃・病原菌・鉄」もそうでしたが、こういうスケールの大きい人類史考察本というのは読んでてワクワクしますね。
 さてこれでようやく一つ片付いたので「懐良親王」と「いやいやながらルパンを生んだ男・モーリス・ルブラン」を読みにかからないと…ペースが遅すぎるかな。「しりとり」の次の人の史料読み込みもしなきゃいけないし。

>つねさん
 ちょいと遅れましたが、史点記事へのご指摘どうも。つまり、むしろ京都でやってたころへの「先祖返り」と言える現象だったということでしょうか。
 今度は大嘗祭が行われるわけですが、これも昭和あでは京都でやってたわけで、先日どっかの新聞で京都の「皇室御用達」店(かつてそうだったという自称ですけど)の人が「昭和までは即位礼・大嘗祭が京都で行われていたことを知らない人が多い」と嘆いてました。今度の譲位でも「上皇は京都に」という声が実際あったみたいですしね。

>バラージさん
「時和装の青春」は、TV放送時の一部カット版で見たことがあります。トキワ荘関係は僕はマニアといっていいくり詳しいと自認してますが、この市川準監督の映画はちょっと戸惑ったというか…アパートの外観や内部の「暗さ」がリアルんですけど、同時に他のトキワ荘ものにあるような「明るさ」ではなく「暗さ」にスポットをあてた印象でした。
 なにせ主人公が寺田ヒロオ。トキワ荘グループのリーダーですあら当然とも思えますが結局「筆を折る」ことになってしまった人でもあります。やがて大物になっていった藤子・石ノ森・赤塚といった人たちから「兄貴分」「親父さん」と慕われ伝説的存在になってますが、当人自身はいろいろと複雑な思いを積もらせて辛くもあったようです。「まんが道」の続編でもその辺を描いてはいましたが…映画はそれを直接ではないけど、それだけにかえって濃厚に暗さを暗示してしまった印象でした。
 また森安なおやにおスポットを当てている点。この人も言ってしまえば「脱落組」で、映画でも絵が荒れたようにグループの中では珍しく女性の存在もあった。ともすれば存在自体がカットされかねないこの人に着目してるところもこの映画の雰囲気に大きく反映していたように思います。
 以前「BSマンガ夜話」で「まんが道」がとりあげられたとき、いしかわじゅんさんだったと思うんだけど、「この美しい明るい青春ドラマだけじゃなかったと思うんだよね」という発言があって、実際一部元住人の書籍でそういう面も出てるらしいのですが、この映画はそういう面を強調して見せていたようにも感じましたね。

 「トキワ荘の青春」も戦後史の1ページだとは思うんですが、これまで「メイが阿」に入れちゃうと関連で入れなきゃいけないのが無制限に増える気もしてさすがに躊躇しちゃいますねぇ。同様の理由で近代史の「伝記映画」みたいなのは僕は今のところ「名画座」に入れるのは避けてます。



#10950 
バラージ 2019/11/09 18:30
歴史映像作品感想追記・日本史編④

 名画座未掲載の歴史映像作品の感想の追記、戦後~現代編です。日本史編は今回で終わり。

『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー』……#10688
 これもあらかた書いたので特に追記することはありません。続編の『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯』が東京では現在公開中のようですが、うちの地方にはまだ来てません。

『トットチャンネル』……#9665
 テレビ草創期を描いた黒柳徹子の同名原作(僕は未読ですが、自伝的小説とするものと自伝的エッセイとするものがあり、新潮社の公式サイトでは“青春記”と表現されています)を、大森一樹監督が斉藤由貴主演で映画化した青春群像劇。大森&斉藤コンビは『恋する女たち』に続く2作目で、その次が『「さよなら」の女たち』となります(僕はどっちも未見)。
 1953年に日本初のテレビ放送を始めたNHKの専属俳優となった少女が主人公で、名前はトットこと「柴柳徹子」になっています。その他の人物もすべて架空の人物(もしくは仮名?)のようですが、映画内のエピソードはほとんどが実際の黒柳さん及び周囲の人々のテレビ草創期のエピソードのようです。黒柳さんの不思議ちゃんというか天然ぶりが炸裂した爆笑エピソードを散りばめつつ、おそらく大森監督はあえて斉藤由貴を黒柳徹子に近づけようとはせず、むしろなんというか「斉藤由貴の映画」として撮っている感じ。また全面的に50年代風俗を再現しようとはしていないようにも思われ、どことなく80年代当時の雰囲気を映画の中に持ち込んでいるように感じられます。大森監督の“映画的表現”を優先している感じで、そのあたりは好き嫌いが分かれそう。僕は好きなんですけどね。なんといってもコメディエンヌとしての資質をいかんなく発揮した斉藤由貴が魅力的。テレビジョン草創期という文化史を背景とした青春群像劇の佳作でした。
 なぜか近年になって黒柳徹子ブームが起こり、当のNHKやテレビ朝日で同テーマの連ドラ(前者は満島ひかり主演の『トットてれび』、後者は清野菜名と松下奈緒ダブル主演の『トットちゃん!』)が作られましたが、そっちはチラッと観ただけです。

『トキワ荘の青春』……#9665
 マンガ家の寺田ヒロオ(本木雅弘)を主人公に、後の巨匠マンガ家たちが若き日に集っていたアパート・トキワ荘の1950年代を描いた市川準監督の青春群像劇。他に登場するマンガ家は、安孫子素雄(鈴木卓爾)、藤本弘(阿部サダヲ)、石森章太郎(さとうこうじ)、赤塚不二夫(大森嘉之)、森安直哉(古田新太)、鈴木伸一(生瀬勝久)、つのだじろう(翁華栄)、水野英子(松梨智子)、手塚治虫(北村想)、つげ義春(土屋良太)、棚下照生(柳ユーレイ)。
 公開時に映画館で観ましたが、その頃はまだ市川監督のファンではなく(『つぐみ』は傑作だったし、レンタルビデオ店で見かけた『BU・SU』や『会社物語』も気になってはいたけれど)、トキワ荘にそこまで強い興味を持っていたわけでもありませんでした。もちろんトキワ荘は知ってましたが、手塚が住んでたアパートで彼に憧れた藤子不二雄・赤塚・石森が若い頃に住んでいたという程度の知識で、寺田のことはこの映画を観るまで全く知らず。『まんが道』も読んでなくて、小学生の頃にコロコロコミックに載ってた『ハムサラダくん』という若き日の藤子を主人公としたマンガを読んでいたくらいでした。じゃあなぜこの映画を観たかというと今となってはもうよく覚えてないんですが、ポスターやチラシのデザインに惹かれたか、タイトルの「トキワ荘」とか「青春」になんとなく惹かれたかといったあたりだったんじゃないかと思います。
 購入したDVDを数年ぶりに観返したんですが、まず最初に「史実を基にしたフィクションです」と出るのがちょっと面白い。「史実」と表現しちゃうところにクスリと笑ってしまいます(いやまあ確かに史実と言えば史実なんだけど)。時代的にはトキワ荘に藤本と安孫子が訪ねてくるあたりから、寺田がトキワ荘を出ていくまでが描かれてるんですが、上記の通り史実に忠実なわけではなく、トキワ荘マニアによると時系列的には事実と異なる部分も多いらしい。とはいえ僕はトキワ荘マニアではないので、そのあたりはわりとどうでもよかったりします。市川監督もまた漫画マニアではなく(市川監督はもともとは画家志望だった)、トキワ荘に強い思い入れがあったわけではないそうですが、ではなぜこの映画を撮ったかというと、自宅近くにあった雰囲気のいい古い木造アパートがある日取り壊されて更地になっていて、なんだかそこに暮らしていた人たちまでもが一瞬にして消えてしまったかのような寂しさを感じ、アパートの映画を撮りたいと思ってトキワ荘に行き着いたとのこと。実際、ポスターやチラシ、パンフには「un Apartment」という英題(なのかな?)が書かれていて、ちょっと不思議だった記憶があります。
 夢を追う若い漫画家たちの日常を淡々と描いていく静謐な映画で、改めて観直すと紛れもない市川準の映画です。売れっ子になっていく者、売れずに悩み苦しむ者、別の道に進む者、彼らそれぞれに同じように暖かな視線を注ぐ中で市川監督が主人公に選んだのは、時流に乗ることを拒み自ら舞台から降りていく寺田ヒロオという人物でした。この(映画の中では)修行僧か求道者を思わせる寺田を、本木雅弘が静かな演技で好演。女優に比べ男優で映画を観ることはあまりない僕ですが、90年代当時は珍しく本木と永瀬正敏の2人が気になる男優でした。本木はその2年前にNHKの4人の男優フィーチャー企画「男前」で市川を逆指名して、自らの主演短編映画『ラッキィ』を監督してもらっており(これまた好編)、その短編映画と本作『トキワ荘の青春』が彼にとって1つの転機になった作品とのことで、「自分の座標軸みたいな作品」と表現しています。実際、本作の本木は素晴らしく、これがやがては『おくりびと』につながっていったんではないかという連想まで働きました(未見だけど)。
 また他の出演俳優も阿部・古田・生瀬、自ら映画監督もする鈴木卓爾など今となってはいずれも大物ですが、当時は本木と柳ユーレイ以外は知らない役者ばっかりだなぁと思った記憶があります。みんな映画出演はほとんど初めてで、小劇場で演劇を観るのが好きだという市川監督が見いだした才能たちでした。DVDの特典映像として収録されているメイキング映画を観ると彼らの若き日の姿はまるで「『トキワ荘の青春』の青春」といった感じ。映画とメイキングが二重映しになっているかのようで、優れた作品というものは時代とそして歴史とリンクしていくものだと感じさせられます。
 いわゆる歴史映画かと聞かれると正直微妙なんですが、僕の個人的趣味から紹介しちゃいました。紛れもなく市川準監督中期の傑作です。

『SAWADA 青森からベトナムへ ピュリッツァー賞カメラマン沢田教一の生と死』……#9665
 ベトナム戦争を撮影取材して、有名な『安全への逃避』でハーグ第9回世界報道写真コンテスト大賞を受賞、さらにピュリッツァー賞も受賞したが、1970年にカンボジアで戦死した報道カメラマン沢田教一の生涯を追ったドキュメンタリー映画。監督は五十嵐匠。
 沢田サタ夫人ら肉親や世界中のジャーナリストたちを含む友人・知人、沢田が関わりを持ったベトナムの人々などの証言をもとに沢田の生涯を描いた力作で、特に沢田の死が迫ってくる後半の重苦しい緊張感は胸に迫るものがありました。また映画の中に映し出される沢田が撮影した写真の数々も相まって、感動的な作品となっています。伝記ドキュメンタリーではありますが、沢田の生涯を通して戦後日本史やアジア史・世界史がその後ろに透けて見えるとも言える作品。

『地雷を踏んだらサヨウナラ』……#9525
 カンボジア内戦やベトナム戦争を撮影取材した戦場カメラマンの一ノ瀬泰造を描いたドラマ映画。原作は泰造が残した書簡をまとめた同名書籍で、タイトルは泰造が手紙の中に書いた言葉の1節。監督は上記『SAWADA』と同じ五十嵐匠で、浅野忠信が泰造役を演じています。
 泰造がカンボジアに入国した1972年から、彼が消息を絶った73年までを描いてるんですが、クメール・ルージュに殺された泰造の最期は詳細が不明のため創作となっています。行き急ぐかのように全身からエネルギーを発散させる泰造を浅野が好演。泰造と親交のあった著名なベトナム戦争の報道カメラマン石川文洋は、本作の浅野を観て一瞬本物の泰造が甦ったかと思ったほど似てたと著書に書いています。

『Aサインデイズ』……#9687、栄耀映画伝言板#1489
 1968年から75年、返還前後からベトナム戦争終結までの沖縄を舞台とした崔洋一監督のロックバンド青春映画。沖縄のロック歌手・喜屋武マリー(現Marie)の半生をモデルとした利根川裕の小説『喜屋武マリーの青春』を原案としています。主演は中川安奈と石橋凌。
 タイトルにもある「Aサインバー」とは米軍から風俗営業の許可をもらったバーのことだそうで、そこで演奏するロックバンドのリードヴォーカルとなる女性が主人公。名前は「エリ」に変えられており、前記の通り実話そのままの伝記映画ではなく、あくまでモデルとした映画ということのようですが、返還期前後の沖縄の社会風俗が描かれていて興味深く、また映画としてもなかなか面白かったです。途中でバンドに加入した主人公が喉を潰すほどの猛特訓をするシーンが印象的。

『ヒットメーカー 阿久悠物語』……#9525
 2008年に日本テレビで放送された単発ドラマ。作詞家の阿久悠の半生を、彼が企画した70年代のオーディション番組『スター誕生!』を中心に、少年時代から1978年の第20回日本レコード大賞まで描いています。監督は金子修介で、主演は田辺誠一。中三トリオ(桜田淳子・山口百恵・森昌子)やピンク・レディーも女優やアイドルが演じてますが、僕は好きな女優の星野真里が山口百恵を演じてたのでそれ目当てで観ました。なかなか面白かったんですが、『スタ誕』などの実際の映像も使っているため、権利関係からソフト化や再放送はしない前提で作られたとのこと。なので今となっては観る方法は非常に限られております。戦後史、特に70年代以降については大衆文化(サブカルチャー)史が政治史や社会史と同等かそれ以上に歴史や社会を映し出しているように思いますね。

『あまちゃん』
 前掲記事「大河ドラマ「いだてん」は、なぜ人気がないのか https://blogos.com/article/405871/」を読んで、「そう言われてみると、確かに『あまちゃん』も80年代アイドル史の1つの側面を描いた作品と言えるのかも」と思いました。本流の2008年~2011年を描いたストーリーも今となってはある種の歴史の1断面と言えるかもしれません。東日本大震災を描いた作品としても最も成功した作品の1つと言っていいでしょう。

『主戦場』……#10913
 以前も書きましたが、映画の終盤には慰安婦論争を超えて戦後日本史から現代日本の右派の動向へと切り込んでいき、一種の「歴史映画」になっていきます。岸信介から孫の安倍晋三へとつながる系譜、90年代後半からの「新しい教科書をつくる会」「靖国神社」「日本会議」など。


>史点
 緒方貞子さんが犬養毅のひ孫というのは訃報のニュース記事で知りました。ということは安藤和津さんの遠い親戚になるわけですな。調べると安藤さんは孫(次男の娘)とのことで、ということは現在『いだてん』で「東洋の魔女」をやってる安藤サクラさんがひ孫ということに。でもってその夫の柄本佑がシマの夫でリクの母の増野さん(こちらは全員架空の人物ですが)。といってもご当人たちには当然ながら犬養は「自分が生まれる前に死んだ歴史上の人物」っていう感覚でしょうけど。
 沖縄の首里城は昔いた会社の社員旅行で行ったことがあります。再建されて1~2年ぐらいしか経ってない頃だったと思いますが、何しろ真新しくピカピカなので文化遺産というより同時期に作られた「えさし藤原の郷」(実はこっちには行ったことがない)みたいなテーマパークという印象でした。その沖縄旅行の思い出としては、米軍基地の多さと広さのほうが強く印象に残ってたりします。



#10949 
つね 2019/11/07 20:10
即位の礼

視点お疲れ様です。
ちょっと以前に新聞で読んでいたのと違和感がある箇所があったので調べてみました。

>そして今回はその高御座で覆いが開かれるまで天皇の姿が見られないという「演出」があったが、これは今回初めてのこと。

日経だとたしか、前回は廊下を通る時点で参列者から見えたが、今回は昭和以前に戻したという記載があったように思ったので検索したら以下の記事が分かりやすそう。

https://www.buzzfeed.com/jp/keiyoshikawa/sokuirei-seiden?bfsource=relatedmanual

ここでは、
「かつて京都御所で行われていた即位礼において、歴代の天皇は、式場である紫宸殿の後方からお出ましになり、高御座にその後方の階段からお昇りになった上で、初めて参列者にお姿を現されていた」
とあります。管理人さんのご指摘はまた違う意味なのかもしれませんが。



#10948 
バラージ 2019/11/02 21:19
激動の韓国現代史映画

 最近、1980~90年代の韓国を舞台とした韓国の社会派映画を3本続けて観たので、その感想を。

>DVDで観た映画
『タクシー運転手 約束は海を越えて』
 1980年の韓国で光州事件の現場に潜入し事件を撮影して世界に報道したドイツ人記者を乗せて、ソウル・光州間を往復したタクシー運転手の実話を基にしたドラマ映画。
 序盤はソン・ガンホ演じるタクシー運転手の少々コミカルなシーンが続くんですが、そこから光州の凄惨な軍の暴行現場に切り替わる落差がなんともショッキング。ちなみに本物のドイツ人記者は報道後に再渡韓しタクシー運転手を探したんですが、見つけることができないまま2016年に亡くなったそうです。そのため映画の中のタクシー運転手の私生活についてはほぼフィクションなんですが、映画の大ヒット後に息子が名乗り出たそうで、本人は1984年に他界したとのこと。
 終盤のタクシー運転手たちと私服警察のカーチェイスなんかも明らかにフィクションでしょうが、わかった上でもタクシー運転手たちの熱い男の友情と自由を求める魂の叫びにグッときます。イケメンや美女が1人も出てこないのもリアリティがあって良い。社会派映画であると同時に娯楽映画としても一級品でした。去年公開された時に観に行くか迷ったんですが、1週間しか上映されないんで観逃しちゃったんですよね。やっぱり観に行くべきでした。いやぁ、面白かった。

『1987、ある闘いの真実』
 1987年の全斗煥軍事政権下の警察による学生運動家パク・ジョンチョル(朴鍾哲)拷問致死事件から、6月民主抗争に至る民主化闘争の実話を描いた社会派映画。警察によるデモや民主化運動の弾圧・拷問の隠蔽、それに抗する検事・記者・学生・看守・運動家といった人々を実録風に描く群像劇となっています。
 劇中でも触れられてましたが、翌1988年はソウルオリンピックが開催された年。そんな最近まで韓国ではこんなひどいことが起こっていたとは驚きですが、本作では『タクシー運転手』以上に、警察の恐ろしいやり口が描かれています。登場人物はほぼ全て実在の人物ですが、キム・テリ演じるノンポリ女子大生だけが架空の人物で、彼女が観客の視点・視線を代表するキャラクターと言えるでしょう(韓国でも1987年民主化運動や1980年の光州事件は若い人には忘れられつつあるらしい)。やはり可愛い女優さんが出てくると一服の清涼剤。その女子大生が大学で見せられる光州事件を外国人記者が撮影した映像が、上記『タクシー運転手』のドイツ人記者が撮影した映像です。
 畳み掛けるような展開で、権力の暴力や圧力とそれに屈することなく抵抗する人々を描き、途中で目が離せない圧倒的な作品でした。『タクシー運転手』も素晴らしかったんですが、この映画はさらにそれ以上。傑作と言っていいでしょう。これまた去年公開されたんですが、やはり1週間しか上映されず観逃しました。これも映画館で観るべきだったなあ。

>映画館で観た映画
『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』
 1990年代、北朝鮮の核開発疑惑を探るためビジネスマンを装って北朝鮮への潜入工作を行ったスパイ「黒金星(ブラック・ヴィーナス)」の実話を基にした社会派政治サスペンス映画。リアルなスパイ活動を描いた映画で、アクションシーンなんかは当然ながら全くないんですが、矢継ぎ早に描かれる緊迫感あふれるサスペンスフルな展開にハラハラドキドキしっぱなしでした。北朝鮮側も当然ながらスパイ潜入を非常に警戒していて、本当にビジネスマンかを試すトラップをこれでもかというくらい仕掛けてくるんですよね。
 改革開放路線の中国を舞台とした北朝鮮の外貨獲得活動や、保守政権から金大中による初の革新政権へと変わる韓国政界の変動、北朝鮮国内の飢餓的惨状なども描かれ、後半は特殊メイクでそっくりな金正日も登場。これら90年代朝鮮半島の社会情勢も今となっては1つの歴史と言っていいでしょう。その裏側でこんなことが起こっていたとは全く知りませんでしたが、それは韓国人も同様のようで主演のファン・ジョンミンも全く知らなかったとか。そのファン・ジョンミンが外見は普通のおじさんといった感じで、人混みでも目立たないところがまたリアル。彼をはじめ、北朝鮮の外貨獲得最高責任者や、主人公の上司の諜報機関長、北朝鮮の対諜報機関軍人などを演じる俳優陣がいずれも好演。美術やセットなども、北朝鮮の街並みなんていったいどうやって作ったんだ?というような壮大なスケールで圧倒されます。もちろん多少はCGも使ってるんでしょうが、明らかにセットでもCGでもない建築物がバンバン出てくるんですよね(撮影は韓国と台湾でしたらしい)。南北の男の思わぬ友情にジーンとさせられるラストも良かった。いやぁ、これまた傑作でした。
 あえて難を言えば、出てくる女性がたいして意味のない役ばかりで、すごく比重が軽い。史実がそうだからということもあるんでしょうが、この辺は韓国映画というか韓国文化特有の問題で、儒教の影響が強いから男尊女卑的な傾向があると言われます(もちろん韓国映画全部がそうではなく、女性映画もいっぱいあるんだけれども)。そのぶん男同士の熱い友情を描くのは上手いんですが、女優大好きな僕としてはそこはちょっと残念。

 それにしても、この手のジャンルの映画では、もう日本映画は完全に韓国映画に負けてますね。あと、『タクシー運転手』『1987、ある闘いの真実』は、観ていると現在の香港情勢を連想せずにはいられませんでした。
 また、以前自分が物心ついた80年代以降(もしくは70年代後半以降)を舞台とした映画は歴史映画と認識しづらいと書きましたが、最近は20世紀までを舞台とした映画はもう歴史映画と言っていいんじゃないかという気分になってきました。なぜかというと最近自分自身でも90年代をノスタルジックに振り返ることがありまして。それだけ時が経ったということなのかもしれません。


>『いだてん』第3部最終回
 ちょっと今さらではありますが、第3部最終回の感想も軽く書いときますかね。当初は古今亭志ん生の満州時代に興味があったというクドカンが最も書きたかった話ということで、志ん生と三遊亭圓生に、物語全体の鍵を握る架空人物の1人・小松勝が絡むというストーリー。主人公の田端も金栗もほとんど出てこない珍しい回となりましたが、それが余計に特別な回であることを際立たせてました。美川秀信もちゃっかり再登場。故郷熊本でカフェを開いてるはずが、どこをどうして満州まで流れ着いたやら(笑)。まあ戦時下じゃカフェなんてやってられないか。そして「志ん生の『富久』は絶品」の謎が見事解き明かされるとともに、侵入してきたソ連軍による日本人女性の強制連行や殺戮を描きつつ、「沖縄で米兵が、もっと言やあ日本人が中国でさんざっぱらやってきたこと」と今回も日本の被害ばかりでなく加害の側面にも、わずかではありますがきちんと触れてましたね(最終章初回でも、戦後フィリピンでの戦時中の記憶による日本人への憎悪の描写がありました)。
 落語の「富久」はこのドラマにおける重要な噺の1つになってましたが、ドラマでは他にも落語噺が物語のネタに大いに使われていて、オリンピック派遣費を高橋是清から引き出した回では「火焔太鼓」、金栗が舞台から一旦退場して主人公が完全に田端に変わる回では「替り目」、ロサンゼルス五輪で日本水泳陣に腹を壊す選手が続出したときは「疝気の虫」、ラトゥールを東京で接待する際には「目黒のさんま」がモチーフとして使われてます。

>最近読んだ本
 『歴史戦と思想戦』(山崎雅弘、集英社新書)を読了。以前読んだ『「天皇機関説」事件』の著者の本なんですが、そっちに比べれば内容的には知ってることもやや多く、期待したほどではなかったかな。「歴史戦」を主張してる人たちは、ドキュメンタリー映画『主戦場』にも登場してる人が多く(映画のほうにも「歴史戦」の話は出てきた)、本書を読んでもトンデモ歴史観を披露しているのがよくわかります。



#10947 
バラージ 2019/10/27 22:26
戦前オリンピック・マラソン史いろいろ

 パソコン復活。

 前回、オリンピックにおける酷暑の中のマラソンについて、『いだてん』で描かれた1912年ストックホルム五輪でも金栗四三が日射病(熱中症)で棄権し(厳密にはレース中に行方不明)、フランシスコ・ラザロは脱水症状で死亡した(帽子をかぶっておらず、また過度の発汗を防止するために体にワックスを塗っていたため正常な発汗が妨げられたのが原因とのこと)と書きましたが、そういえば『いだてん』ではその前の1908年ロンドン五輪を現地で見た永井道明(杉本哲太)が、競技場に1位で入ってきたマラソン選手がふらふらで何度も倒れた末にゴールしたのを「(なんとか)の悲劇」と言って、マラソン競技に反対してたなと思い出しました。調べてみると、その選手はドランド・ピエトリで「ドランドの悲劇」。ピエトリは何度も係員に助け起こされたため失格となり、2番目にゴールした選手が繰り上がりで金メダルになったそうです。このマラソンは7月24日に異常なほどの暑さの中で行われたとのことで、金栗やラザロの走ったストックホルム五輪のマラソンも7月14日に行われ気温が40℃に達し日陰でも32℃を計測するという記録的な暑さで、68人中33人が途中棄権したそうです。
 さらにさかのぼるとオリンピックのマラソンには他にもいろいろと事件があったようで、1904年セントルイス五輪では「キセル・マラソン事件」というのが起こってます。8月30日に行われたマラソンはこれまた32℃とも40℃近いとも言われる猛暑の中で行われ、出場選手32人のうち完走したのは14人。フレッド・ローツは高温と疲労のため20㎞過ぎで道に倒れ、たまたま通りかかった車に乗せてもらい競技場に帰ろうとしたんですが、競技場に向かう途中で車がエンストしてしまい、体力が回復していたローツは車から逃げるように走り出し、そのまま1位でゴールしてしまったんだとか。しかしローツを車に乗せた男が迅速に告発したため、その場でローツの不正は暴かれ、即座に優勝は取り消されたそうです。
 この手の“ズル”はオリンピック初期のマラソンではたびたび行われたようで、これまた40℃近い高温の中で行われた1900年パリ五輪のマラソン(7月19日に開催)では、優勝したミシェル・テアトについて、仕事で覚えたパリの通りの知識を活かしコースをショートカットしたと他の何人かのランナーが主張したそうで、同様の疑義はオリンピック歴史家からも出されているとのこと。第1回オリンピック1896年アテネ五輪のマラソン(4月10日に開催)でも3位に入ったスピリドン・ベロカスが後に馬車に乗ってコースの一部を通過したことが発覚し、4位の選手が繰り上げ3位になったそうです。
 そもそもマラソンは第1回1896年アテネ五輪のために考え出された競技で、他の競技と違って街中を走り回る上、当時はテレビ中継などがないことはもちろん、40㎞くまなく係員配置などもされなかったと思われ、不正をしやすい環境だったことが推測されます。また4月に行われた初回を除けば、いずれも7~8月にマラソンは行われており、棄権が続出してるのも初期からの特徴だったようで、そういう意味では初期のマラソンは試行錯誤の段階だったんでしょう。
 個人的には、1984年ロサンゼルス五輪の女子マラソンでガブリエラ・アンデルセンがふらふらになりながらゴールしたのが記憶に残ってます。やはり熱中症が原因ですが、おかげで世界中で有名になったアンデルセンはマラソン選手としてはたいした成績を残さなかった選手のようで、こういう注目のされ方をするのは不本意だったようです。また、2004年アテネ五輪女子マラソンで、当時の世界記録保持者ポーラ・ラドクリフが棄権したシーンも印象的でした。やはり気温30℃を超える猛暑の影響がその一因と言われるそうです(もう1つは脚の故障による消炎剤の過剰な服用により内臓に悪影響を及ぼしたことがあるらしい)。ちなみにその時優勝したのは日本の野口みずき選手でした。

>冬季オリンピック戦前史
 『いだてん』では全く触れられていない冬季オリンピックですが、一般的にも夏季オリンピックに比べると一段下の扱いをされることが多く、オリンピックの歴史について書かれた本でも夏季のみ言及されて冬季を取り上げていないものがあったりします。
 冬季オリンピックは夏季オリンピックよりも遅れて、1924年にフランスのシャモニー・モンブランで行われたのが最初。以後、第二次大戦前に行われた冬季オリンピックは、1928年サン・モリッツ五輪(スイス)、1932年レークプラシッド五輪(米国)、1936年ガルミッシュ・パルテンキルヘン五輪(ドイツ)で、1940年には札幌冬季五輪が予定されていましたが東京夏季五輪同様に返上されました。1992年までは冬季も夏季も同年で、冬季のほうが先(1~2月)に行われてたのは個人的には記憶に新しいところ。
 ナチス政権下の1936年ガルミッシュ・パルテンキルヘン五輪では、大会前日にIOCが大会会場周辺に貼られていたユダヤ人排斥のビラやポスターを撤去するようヒトラーに要求。ヒトラーは1度は反発したもののラトゥールIOC会長の厳然とした申し出に屈して、要求通りにポスターなどを撤去する命令を出したとのこと。同年の夏季ベルリン五輪でユダヤ人迫害政策が緩められたのは、そのあたりにも理由がありそうです。
 出場した日本人選手にフィギュアスケート女子シングルの稲田悦子がおり、彼女は当時12歳の小学生。第二次大戦前の冬季五輪に参加した唯一の日本人女子選手であると同時に、現在でもオリンピック日本人最年少出場記録だとのこと。開会式でヒトラーが「あの小さな少女は何をしに来ているのか?」と側近に訪ねたらしく、試合を観覧したヒトラーと握手をしたそうです。26人中10位となり、女王ソニア・ヘニーが「近い将来必ず稲田の時代が来る」と断言したそうですが、1940年札幌冬季五輪返上で選手として旬の時期を逃しました。戦後に復帰したものの全盛期は過ぎており、後に指導者としても活躍しました。

>『いだてん』
 今度は女子バレーボール大松監督役のチュートリアル徳井かあ。ほんと一難去ってまた一難だなあ。11月から出演予定だそうだし、今から撮り直しはどう考えても間に合わないのでは……。打ち上げも終わったニュースが出てましたし。

>即位礼正殿の儀
 ニュースで見た安倍首相の「天皇陛下ばんざーい!」を見て、『いだてん』学徒出陣シーンにおいて、実写映像による東條英機首相が音頭を取った、仲野太賀演じる小松勝ら学徒の「天皇陛下ばんざーい!」を連想してしまいました。こんなところにもシンクロニシティ(共時性)が……。

>歴史ドラマいろいろ
 『いだてん』以外にも、WOWOWの『如懿伝』、BS12の『バビロン・ベルリン』と歴史ドラマの放送がかぶって、しかもどっちも週2放送だから録画消化がきつい今日この頃。来月からはBS12で『三国志 Secret of Three Kingdoms』が始まりますが、これは週5放送なんだよなあ。歴史ドラマばっかり観たり録画したりしてるわけでもないし。
 『如懿伝』はようやく半分の40話を過ぎました。主演のジョウ・シュンをはじめ、ウォレス・フォ、チャン・チュンニン、ドン・ジエ、シン・ジーレイ、ヴィヴィアン・ウーなど華も演技力もある俳優陣に、演出や脚本、美術・セットなど全ての質が高い一流の仕事ぶりでここまで面白く観続けてきたんですが、お話があまりにも延々と后妃たちの後宮陰謀暗闘劇なんで、さすがにちょっと飽きてきました。まぁよく出来てるのは確かだし何より主演がジョウ・シュンなんで最後まで観続けるとは思いますが、やっぱり80話は長すぎるよなあ。
 『バビロン・ベルリン』は6話まで観終わったんですが、まだ物語の全体像がいまいち見えてきません。一応、主人公の刑事が故郷のケルン市長のスキャンダルを揉み消すために同僚にも秘密で極秘捜査をしてるらしいことはわかるんですが、それと平行して描かれる亡命トロツキー派とスターリンの秘密警察の抗争に主人公がどう関係していくのかがまだいまいちよくわからない。ただ莫大な予算で再現された壮大なセットや、1920年代末期ベルリンのデカダンス(退廃的)な雰囲気、ヒロイン女優のリヴ・リサ・フリース(リヴ・リサ・フライズの表記もあり)の魅力で面白く観れてしまいます。本国では8話までがシーズン1、16話までがシーズン2で、BS12では一挙放送となるらしい。本国ではシーズン3以降の製作も決定してるとのこと。原作はフォルカー・クッチャーによる警察小説『ベルリン警視庁殺人課ゲレオン・ラート警部』シリーズで、日本でも創元推理文庫から『濡れた魚』『死者の声なき声』『ゴールドスティン』が刊行されているそうです。

>名画座情報追記
『創世の竜 李世民 大唐建国記』……『創世の「龍」 李世民 大唐建国記』が正しい邦題のようです。



#10946 
つね 2019/10/27 21:20
作戦名他

ちとしつこくなってしまいますが。

ふと「バルバロッサ作戦」(1941年ドイツ軍のソ連侵攻作戦)はどんな意味なんだろうとwikiで調べてみると「神聖ローマ帝国フリードリヒ1世のあだ名「赤ひげ」に由来」とありました。ふーん、と思っていると「白作戦」(1939年ポーランド侵攻)、「黄作戦」「赤作戦」(1940年フランス侵攻)、「青作戦」(1942年ソ連攻勢)とあり、なんか日本と似ているなという印象。日本陸軍はドイツ陸軍に影響を受けているからかなと考えたり。「冬の嵐」(1942年ドイツ軍によるスターリングラードで包囲されたドイツ軍の救援作戦)、「春の目覚め」(1945年ハンガリーでのドイツ軍反攻作戦)とかもありますが。
ソ連軍は「バグラチオン作戦」(1944年の反攻作戦、ナポレオン戦争期にボロジノで戦死した将軍名)が思い浮かびます。

「ファウンデーション」、以前から興味がありつつ手が出ていなかったのですが、この機会に読んでみようかな、と書店でハヤカワ文庫を探ると「我はロボット」しかなかったので挫折。他の出版社でもあるみたいですが、やっぱりハヤカワ文庫が入手しやすさやシリーズ作の翻訳数からすると適切なのかな。



#10945 
徹夜城(「ファウンデーション」いよいよドラマ化との報道に血が騒ぐ管理人) 2019/10/24 21:56
即位、礼、着席

 ちと日が経ちましたが、なんだかんだで見物してましたよテレビで。「即位礼正殿の儀」。大雨で中庭にいろいろ並べられなかったようですが終わるころに晴れて虹がかかるという「演出」に天照大神がどうのこうのとかネット上で言われてる始末(笑)。
 伝統のなんとやら、という外国参列者の声もずいぶんありましたが、あの儀式の進行自体は近代の産物で、しかも今回は天皇自身が姿を現す場面に劇的要素を盛り込むなど新たな工夫があったりします。
 このあたり、天皇本人が日本中世史研究者としてレポートのひとつも「史学雑誌」なり「歴史研究」なり「日本歴史」なりに載せてくれませんかねぇ。「山と渓谷」には寄稿したことがありましたが。


>つねさん
 作戦名、確かに兵士あるいは指揮官の士気高揚のたえ、というのはあると思います。「オーバーロード」はこれまで意識しませんでしたが言われてみれば大仰。最近の米軍のは「不朽」だの「正義」だの、より精神論的というか宗教がかってきてる気もしますが、ああいうのどの辺の人たちが考えるんですかねぇ。

 日本軍の作戦名については良く知らないですが、思い出す限りでは確かにあまり文学性はなく記号的ですかね。末期の「菊水作戦」なんかはブンガク的ではあるのですが、由来が楠木正成で、つまりは最初から「玉砕」想定の命名になっちゃってて、士気なんぞあがりませんよね。こういう悲壮感ヒロイズムに酔っていく軍隊っちゅうのも怖い。水木しげるさんの「総員玉砕せよ!でも南方戦線で「この地形は湊川に似てると思わんか」と玉砕作戦を進める司令官が出て来て、なにげに怖い。


>バラージさん
 「ヒトラーに屈しなかった国王」は内容的に戦争よりも王室の在り方がメインになってる印象でしたし、北欧史あんまりないし、であそこに入ることになりました。その一方で同じノルウェー話の「テレマークの要塞」は戦争映画に分類しました。
 
 東京五輪のマラソン・競歩が唐突に札幌移転という話に一気になってしまいましたが、「いだてん」でストックホルム五輪での棄権続出・死者まで出た例を映像で見ちゃった僕らとしては札幌に移せば解決なのか疑問も感じますねぇ。



#10944 
バラージ 2019/10/21 22:17
名画座

 テスト書き込み、どうもすいません。ただいまパソコンを修理に出してまして。以前書いた「スマホから書き込もうとすると書き込みアイコンが隠れる現象」でしばらく書き込めんなあと思ってたんですが、ちょっと試してみたら書き込めそうだったんでテストしてみました。いつの間にか上記現象が起こらなくなっていたようです。

 前回の書き込み以後に、台風で列島に甚大な被害が出たり、『いだてん』第3部が終わったり、IOCの要請で来年の東京オリンピックのマラソンと競歩が札幌で行われることになったりといろいろなことがありました。
 個人的には幸いなことに台風の被害はほとんどありませんでしたが、ニュースで台風被害を見ていると震災のことを思い出します。個人的にも停電やライフラインの寸断を経験しましたし。それにしてもオール電化の家は停電になると大変てのはあの時もニュースになったような気がするんだけど、10年も経ってないのに忘れられてしまったんだろうか? 東京の真夏の暑さを危惧したマラソン・競歩の都市変更は、1912年ストックホルム五輪でも金栗四三が棄権したしポルトガルのラザロも亡くなったしなあ、などと『いだてん』とのシンクロを感じちゃったりして。どうも『いだてん』にはこの手のシンクロニシティ(共時性)を感じさせる話題が多いんだよな。


 名画座、更新ご苦労様です。いやあ、今回は大量ですね。今回追加された作品で僕が観たものは、『永遠のニシパ ~北海道と名付けた男 松浦武四郎~』(#10905)、『ヒトラーに屈しなかった国王』(#10700)、『それでも夜は明ける』(#9616)、『バイス』(#10879)、『リベレイター 南米一の英雄 シモン・ボリバル』(#10726、#10730)、『野火』(#9950)で、いずれも感想は記述済み。『ヒトラーに屈しなかった国王』は北欧史に入れたんですね。第二次大戦とどっちかな~と思ったんですが。その他では『竜馬がゆく(1997年)』をほんのチラッとだけ観た記憶あり。確か竜馬と後藤象二郎(尾美としのり)が大政奉還について語り合うシーンで、なぜかお互いを「後藤くん」「竜馬さん」と呼び合い、なんだか竜馬のほうが格上というか先輩みたいな描かれ方だったような。
 なお今回も以下の部分が未修整、または新たに誤りが。重箱の角つつくようですいません。

『鶴姫伝奇』……「興亡瀬戸内水軍」というサブタイトルがついています。
『家康、江戸を建てる』……NHKエンタープライズからDVD化されています。
『花燃ゆ』……完全版・総集編ともにBlu-ray化もされています。
『永遠のニシパ ~北海道と名付けた男 松浦武四郎~』……NHKエンタープライズからBlu-ray&DVDが11月27日に発売予定だそうです。
『ザ・エンペラー 西蔵之王』……劇場公開邦題はただの『ザ・エンペラー』で、「西蔵之王」というサブタイトルが付いているのはVHS邦題です。
『ウォーロード 男たちの誓い』……日本で劇場公開されたのは113分の短縮版のみで、DVDは逆に126分の完全版のみ。
『観相師』……厳密には『観相師 ―かんそうし―』という邦題のようです。
『ジュリアス・シーザー(1970年)』……復刻シネマライブラリーよりBlu-ray&DVD化されています。
『ルードヴィヒ』……最初に公開された際の邦題は『ルー「ドウ」ィヒ 神々の黄昏』で184分。完全版の邦題は『ルー「トヴ」ィヒ』。『ルー「ドヴ」ィヒ』はどちらにしろ誤りです。DVDは両バージョンともあり。
『リベレイター』……「南米一の英雄 シモン・ボリバル」というサブタイトルが付いています。


>『毛利元就』『徳川慶喜』『元禄繚乱』の思ひ出
 大河ドラマの思い出、またも3作まとめて。
 『毛利元就』は前半はまあまあ観てました。戦国ドラマというと信玄・謙信・信長・秀吉・家康がほとんどでやや飽きが来てたんで、有名なわりには映像化されるのが珍しい元就のドラマは新鮮でしたね(多分これ以外に元就が出てくる映像作品はほとんどないはず)。元就の映像化が少ないのはライバル的立ち位置の大内・陶・尼子が今一つパッとせず、信玄vs謙信とか三英傑のようなライバル物語や群雄物語にならないためなんでしょう。原作は永井路子の『山霧 毛利元就の妻』で主人公は奥さんのほう。しかもさほど長くない小説なので実質ほとんどオリジナルなんではないかと。
 元就については通りいっぺんにしか知らず、特に前半生はほとんど知らなかったんで最初のほうはわりと興味深く観ました。爺さんのイメージが強い元就の若い頃が新鮮でしたし、嫡男じゃなかったとか、家督を狙う弟(このあたりは伊達政宗とも似てる)や強い権力を持つ家臣団の粛清とかも初めて知りましたね。大内義興や尼子経久もそれまで全然知らなかった人物でした(義隆や晴久は知ってましたが)。特に個人的に興味を引いたのがちょっとだけ出てきたマイナーな後期室町将軍の1人足利義稙。ふと興味を持って調べてみると2度将軍になったことを含めいろいろと面白い人物でした。『花の乱』の終盤にも足利義材の名で登場してた(義材→義尹→義稙と改名してる)のを後で総集編ビデオを観て知ったんですが、放送時にはそのあたりはもう観てなかったんだよな。本作で演じてたのは当時は怪優のイメージが強かった田口トモロヲ。『花の乱』では大沢たかおが演じてたようです。
 他の俳優陣では改めて思い返せば森田剛演じる少年期の元就と、松坂慶子演じる継母杉の方の義理の母子関係を当時は面白がって観てた記憶あり。V6森田は当時はジャニーズらしく美少年だったような記憶ですが、いつの間にやら男臭くて渋い脇役キャラになっちゃいましたね。松坂さんはコミカルな役柄が新鮮で評判でしたが、後に『篤姫』の幾島役で印象が上書きされちゃいました。架空人物の村上水軍の娘・加芽役が葉月里緒菜というのも今となってはなんだか懐かしい。
 ただ結局途中で脱落して、後半はちょこちょことしか観てませんでした。好評だったV6森田が後半に孫の輝元役で再登場したようですがそれも未見。平均視聴率は前年の『秀吉』から大きく下げて23.4%。このあたりから大河ドラマの視聴率は下がる一方となっていきます。

 『徳川慶喜』は序盤をちょっとだけ観ました。以前にも書きましたが、僕がこの頃(90年代)に好きな男優だったのが永瀬正敏と本木雅弘でして、その本木が主演ということで興味を持ったのです。時代劇以外でも活躍してる若手(といっても30代ですが)の主演抜擢に、「よしよし、NHKもわかってきたようだな」と上から目線で褒めたりしてましたね(笑)。しかもヒロインが清水美砂(現・清水美沙。新門辰五郎の娘で慶喜の妾およし)に鶴田真由(慶喜の6歳上の義理の祖母・徳信院直子)なら観るしかねえだろってな感じで(あ、石田ひかりさんもいましたね。すいません)、序盤は観たんです。しかし当時存命だった父親が幕末に全く興味がなくてチャンネルを変えたがり(父は戦国以外にほぼ興味がなかった)、僕もまた何度も書いてる通り幕末そのものにはあまり興味がなかったりするので、チャンネル争いをしたりビデオ録画してまで観なくてもいいかという感じでフェードアウトしちゃいました。ただ、興味のない幕末の中で実は慶喜にはちょっとだけ興味があったりするので、BSで再放送してくれたりすれば観てみたいなあとも思ったり。観た中では慶喜と直子の姉弟のような歳の離れた恋人のようなほのかな関係性が印象に残ってます。平均視聴率は21.1%。
 ちなみに慶喜の曾孫のカメラマン徳川慶朝さんは歴史に全然興味がなく、慶喜の子孫という話題になると「世が世なら将軍でしたね」と言われたり、中には自分のことでもないのに本気で悔しがったりされるのでうんざりしたとか(笑)。ご当人は政治に全然興味がないので将軍になんてなりたくもないし、歴史に興味ないこともあって将軍時代の慶喜にも全く興味がないが、維新後の趣味人として生きた慶喜には興味がある。大河も全然観てなかったが、維新で話が終わってしまったようなので観なくて良かったとエッセイに書いてました(笑)。

 『元禄繚乱』はほぼ未見。題材的にも配役的にも興味なし。最初、忠臣蔵が題材と聞いた時には、「またかよ。毎年毎年どっかの局でやってて、こっちはもう飽き飽きなんだよ」と思っちゃいましたね。結局、初回だけチラッと観たかな。覚えてるのは4代将軍徳川家綱(堀内正美)が死にそうなとこと、後に5代将軍を継ぐ弟の綱吉がやたらテンション高く飯を食ってるとこぐらい。あと吉良がそれほど悪者じゃなかったような気が。平均視聴率は20.2%。低視聴率のせいもあってか、打ち上げの席で脚本の中島丈博が主演の中村勘九郎の演技について「目が死んでる」と批判し、2人がつかみ合いの喧嘩になったという記事が週刊誌に載ってた記憶あり(中島もよくいろんな人と揉めるなあ)。低視聴率は主演や脚本のせいというより忠臣蔵という題材そのものがもうウケない時代になってたんじゃないかという気がします。



#10943 
バラージ 2019/10/21 21:54
テスト

テスト



#10942 
つね 2019/10/21 17:54
作戦名

史点更新お疲れ様です。
本筋とは離れますが、作戦名はある意味、士気高揚的な面もあると思うので、文学的になってしまうのでしょうか。「砂漠の盾」とか「砂漠の嵐」とかはまだ分かりやすいかな。
仮想ですが、「銀河英雄伝説」の「ラグナロック(神々の黄昏)」なんかは秀逸です。「ガンダム」だと「V作戦」とか「星一号作戦」が有名ですね。

太平洋戦争時の日本軍の作戦名は「あ号」(開戦時の南方作戦全体の総称&1944年海軍によるマリアナ諸島防衛作戦)とか「ア号」(1943年北太平洋方面防衛作戦&1944年陸軍によるマリアナ諸島防衛作戦)とか他にも「E号」とか「M号」とか文学的薫りの欠片もありません。
連合軍側だと「オーヴァーロード(大君主)」(ノルマンデイー上陸作戦)、「オリンピック」(九州上陸)など。国民性かなあ。
作戦名が立てられること自体がろくなものではないのでしょうが、「トモダチ作戦」(東日本大震災のときのアメリカ軍の救援作戦名)はいい名前。



#10941 
徹夜城(12時間ばかり停電をくらった管理人) 2019/10/14 13:38
台風は過ぎ去りましたが

 ちょうど台風19号が来る直前に「歴史映像名画座」の更新をしたんですよね。そろそろ台風が来て、もしかすると停電とかあるかも、と大急ぎで仕上げてアップ、その後しばらくしてチェックしてみたら誤字脱衣誤変換の嵐が見つかり、直そうと思ったら停電に(汗)。なんだかんだでついさっきまで直しをやってました。

 それにしても、今度の台風はかなりのものだとは事前に警告されてはいましたが、特に鉄道関係出予想以上の被害が出てますね。ローカル線のいくつかは橋は流されるなど復旧できるのか心配なほど(廃止って線も出てきますからね)。そして北陸新幹線の車両基地の水没映像もビックリ。ありゃ廃車にせざるをえないのでは…全体の3分の1があそこにあったらしですが。
 棒の地元も利根川など各河川もかなりの増水ですが、なんとか水害にはならないですみそうな。




#10940 
つね 2019/10/09 23:23
いだてん

>バラージさん
>美川(勝地涼)が開いていた「カフェ」
そのことです。どちらにしても「朝日新聞社に怒鳴り込むよりはバーで出会ったほうが自然」という趣旨に変わりはありません。せっかくだからバーという舞台をもっと有効活用してもよかったのではと。

>「オリンピック」をテーマ
まあそれならそうでいいのですが、私には金栗も田畑も「愛すべきバカ」には思えなかったということが嘉納治五郎(こちらは「愛すべきバカ老人」に見える)主役のほうが良かったのではと思える所以ですね。個人的には見てていらつかせる言動でした。落語も同様で、かなり初期から「邪魔」と思っていました。大河ドラマとしては馴染みのない時代なのだから、あまりいろいろ混ぜるのではなくストレートにしてほしかったと思っています。

まあ個人の感想なのでこれ以上は言いません。



#10939 
バラージ 2019/10/09 22:09
ごめんね青春

 最近パソコンの調子が悪く、修理に出さなきゃならんかも。ちょうど1年前に修理に出したばかりなのに……。

 さて、もはや田畑も金栗も志ん生もほとんど脇役と化して、“太賀ドラマ”となっていた今週の『いだてん』ですが、いやぁまたまたすごかった。金栗編の後編終盤でも架空人物のシマが物語のキーマンとなってましたが、田畑編の前編終盤ではやはり架空人物の小松勝(とリク)が物語のキーマンとなっており、これがやはり架空人物の五りんへとつながって、実は史実ではあまり関係性を持たない金栗と田畑と志ん生をつなげていく。これこそが「物語」なのではないでしょうか。別々に見えた糸が紡ぎ合わされて1つの縄へと糾われていくような展開は、考えてみれば村上春樹の長編小説にもよく見られるものです。シマが日本女子スポーツ黎明期に活動した女性の象徴だったように、小松勝はあの無謀な戦争に青春を奪われた若者たちの象徴であり、やはり近現代が舞台の場合、架空人物がいないと物語が上手く動いていかないことが多い。『山河燃ゆ』『いのち』などは架空人物が主人公でしたし。
 あと、今回はたけし志ん生が脳出血で倒れて半身麻痺した演技が、たけし自身が事故を起こした時の顔面麻痺とシンクロしてしまったんですが、これも当初から狙ったことなのかどうなのか。計算だったとしても偶然だったとしても見事。
 次回田畑編前編最終回はいよいよ初回からの謎だった五りんの父・小松勝と志ん生の満州での邂逅が描かれます。今から楽しみ。
 あ、そういやずっと書こうと思いつつ毎回忘れてたこと。時間を巻き戻して二・二六事件の時、あの朝日新聞社のどこかに映画『スパイ・ゾルゲ』でモックンが演じた尾崎秀実もいたんだなあ。

>つねさん
「金栗は熊本でバーで飲む前から酔っぱらうシーンがあったんだし、上京してもバーに行っているはず。」
 そんなシーンありましたっけ? ひょっとして美川(勝地涼)が開いていた「カフェ」のことでしょうか? あれは偶然見つけた店で、しかも美川が店主だったからという話でしたし、そもそも(酒も出してはいましたが)「バー」ではなく「カフェ」ですね。

「嘉納治五郎一代記みたいな形で若いころから描いてしまっていいと思いますよ。後半はオリンピックにどっぷり関わりますし、10月終わりか11月初めくらいで急死してしまって、戦後、嘉納の遺志を継いだ田畑たちがオリンピック招致を果たすという形で問題ないかと。」
 いや、さすがにそれは無理筋な要求なんではないでしょうか。製作側はあくまで「オリンピック」をテーマに描こうと考えたのであって、そのような製作方針からは嘉納治五郎の生涯を若い頃から描こうという発想になるはずがありません。嘉納は後半生にならないとオリンピックに関わらない上に、オリンピックを描くには中途半端なところで死んでしまいます。オリンピックが題材なんですから、当然ドラマ序盤からオリンピックが描かれるわけですし、そうなると当然序盤からオリンピックを描くのに適当な人物を主人公に選ぶでしょう。また、志ん生が語りという構想も先にあったわけですから、そういう意味でも世代の違う嘉納の若い頃からという発想にはならないと思われます。
 製作の経緯については以下の記事にも書かれていますが、1番最初に出てきたアイデアは「戦時中の歴史」だったそうです。
「『いだてん』制作の裏側は“もうひとつのオリンピック”だったーーチーフ演出・井上剛の挑戦」
https://realsound.jp/movie/2019/09/post-421608_1.html

>最近DVDで観た歴史映画
『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』
 17世紀オランダのチューリップ熱という世界最古の投機熱バブル景気の時代を背景とした米英合作の恋愛映画。歴史ものではなく時代ものですが、扱ってる時代が珍しくて興味深かったです。人々がチューリップの球根を競りで異常な高値で買ったり売ったりしてるのは端から見るとアホみたいでかなり滑稽。ちょっと80~90年代バブルを当てはめてる感もあり。原作小説があるらしく、原作者はフェルメールの絵画の世界を小説にしたかったとのことで、映画も屋外セットを含めた美術が素晴らしい。お話のほうは複数の登場人物それぞれにあまりにも偶然な不運がやたらと起こったり、「それ、絶対失敗するだろ」という浅知恵を働かせたりして、どんどん悲劇に向かっていくんで、ちょっとイライラしながら観てたら、最後には見事にみんなハッピーエンドになってしまい、ホッとしたような話がうますぎるような。まあまあ面白い映画でしたが、1番印象に残ったのは主演のアリシア・ヴィキャンデルの華奢で美しいヌードでした。



#10938 
つね 2019/10/06 23:28
いだてん

>バラージさん
「落語批判を受けて落語パートが削られてしまった」
失礼しました。断定的に書いてしまいましたが、推測でした。ただ、ストックホルムオリンピックで金栗のマラソンと美濃部の車夫を同時に見せていたころと比べると明らかに落語パートは減少しています。当初から二部に入ったら、そうするつもりだった可能性はありますが、今の若き(もう若くありませんが)志ん生パートは細切れでないほうがいいくらい。来週は満州で五りんの父や金栗の悪友と交わりがありそうですが。人のせいにするわけではありませんが、バラージさんの「ちなみにクドカンさんは当初は古今亭志ん生で大河をやってみたかったとか」(#10820)、徹夜城さんの「もともと宮藤さんは志ん生のドラマを構想していてそこにオリンピックがのっかってきた」(#10871)という発言も、最初はもっと落語中心にするつもりだったのが、「落語パートが削られている」「当初の構想と違ってきている」というイメージを助長しています。

「金栗の朝日新聞怒鳴り込み」
「多分あれは金栗と田畑を会わせるためにそういう展開にしたんだと思われます。」
私もそうなんだろうなあという推測はできましたが、別に金栗と田畑は知らない仲ではないし、バーで出会って「河野君はどないしたんやろか」みたいな会話をさせていればより自然にいけたはず。金栗は熊本でバーで飲む前から酔っぱらうシーンがあったんだし、上京してもバーに行っているはず。

「嘉納の若い頃から描くとオリンピックと全然関係ない話になっちゃいますし。」
いや別に嘉納治五郎一代記みたいな形で若いころから描いてしまっていいと思いますよ。後半はオリンピックにどっぷり関わりますし、10月終わりか11月初めくらいで急死してしまって、戦後、嘉納の遺志を継いだ田畑たちがオリンピック招致を果たすという形で問題ないかと。前半はクーベルタンの近代オリンピック復活話も背景として入れればいい。



#10937 
バラージ 2019/10/06 18:44
ドラマ&映画いろいろ

>『いだてん』
 ついに嘉納治五郎退場ということで、いよいよ第3部のクライマックスに向かっていきますね。嘉納を金栗・田畑・志ん生に次ぐ第4の主役と表現する記事もありましたが、個人的には別の記事にあったように準主役という位置付けが妥当だと思われます。実際の嘉納や金栗は(そしてもちろん田畑も)かなり計画的で戦略家な面もある人物だったようですが、『いだてん』では上記4人とも一種の「愛すべきバカ」として描かれており(第2部最終回の復興大運動会でも金栗の妻スヤが金栗のことを「『ああ、バカだ、バカの走りよる』って、みんな笑っとるだけたい」と満面の笑顔で言っていた)、これは『木更津キャッツアイ』『あまちゃん』などにも共通するクドカン作品特有のキャラクター造形と言っていいでしょう。「偉い人」というイメージの嘉納を、「愛すべきバカ老人」としてチャーミングに描いたのは特筆もので、さすがクドカンといったところです。役所さん、お疲れ様でした。

>つねさん
 「落語批判を受けて落語パートが削られてしまった」とのことですが、僕は全くの初耳だったんで典拠を教えていただけないでしょうか?
 金栗が朝日新聞に怒鳴り込むのは僕もちょっと不自然に思いましたが、多分あれは金栗と田畑を会わせるためにそういう展開にしたんだと思われます。また、嘉納は物語開始時点ですでに功成り名遂げた人物であり、また老人なので単独主人公とするには不向きなんじゃないでしょうか。かといって嘉納の若い頃から描くとオリンピックと全然関係ない話になっちゃいますし。
 志ん生の息子2人を森山未來が2役(というか3役か)で演じてたのは、その回を演出していた大根仁監督の発案だそうで、大根監督の“遊び”でしょう。そういや大根と森山は『モテキ』でも組んでたな。一方、杉咲花ちゃんの再登場も初めから予定されていたかどうか微妙なところ。シマ役の好評を受けての再登場の可能性も高いんですよね。大河ドラマではそういうのって結構あることですし。前者が1話限りの“遊び”なのは観てて歴然なので、性質が違う杉咲花再登場はほとんどの人が予想がつかず反響となったんだと思われます(僕も全くの予想外だった)。ちなみに僕は最初の構想からずれてるとは感じないです。役者の突然の交代による影響は多少感じますけど。

>最近DVDで観た歴史映画
『最後のランナー』
 イギリス映画『炎のランナー』で、安息日は走れないと言っていた1924年パリ五輪400m金メダリストのエリック・リデル。『炎~』の最後に字幕で、その後宣教師として中国に渡り、第二次世界大戦で日本軍の収容所に入れられ病死したと触れられていましたが、そのリデルの後半生、特に日本軍の収容所に入れられて以後を描いた伝記映画です。原題は『On Wings of Eagles』。てっきりイギリス映画だと思って、ヨーロッパ映画っぽい作風だな~と感じながら観てたんですが、調べると米中香合作映画でした。主演はイギリスのジョセフ・ファインズ(『恋に落ちたシェイクスピア』『エリザベス』『スターリングラード』『マンデラの名もなき看守』『レッド・バロン』)、共演のショーン・ドウ(『サンザシの樹の下で』)はカナダ華僑出身の中国俳優、監督のスティーブン・シン(『項羽と劉邦 その愛と興亡』)は香港、共同監督のマイケル・パーカー(『プライベート・ムーン』)はカナダという多国籍体制で、テロップやエンドロールは全て英語。パーカーはプロデューサーも兼ねており、実質米国というよりカナダ映画なんではないでしょうか。史実をベースにしているとありましたが、どこまでが事実でどこからがフィクションなのか観ていても今一つよくわからない。日本軍収容所長の日本語がカタコト(おそらくアジア系欧米人俳優)とか相変わらずの勘違い日本描写もありますが、そこまでひどくはなく許容範囲内でしょう。やや低予算の小品といった感じの落ち着いた作風で、まあまあ面白かったです。

>『花の乱』『八代将軍吉宗』『秀吉』の思ひ出
 大河ドラマの思い出、またもまとめて。
 『花の乱』は最初に題材を聞いた時、日野富子はあまり好きじゃないし、応仁の乱もぱっとしない戦いだしで、どうにも興味が持てませんでした。室町時代なら足利義満を先にやるべきなんじゃないの?と思ったりもしましたね(当時今谷明の『室町の王権』を読んでたか読んでなかったかは記憶が曖昧)。主演の三田佳子さんもこれまた僕は世代的に興味がなく……(すいません。『Wの悲劇』の羽鳥翔は名演だったと思います)。そんなわけで当初はあまり観てなかったんですが、たまたま観た回での細川勝元役の野村萬斎が素晴らしく、この人誰だ!? 三田佳子も市川團十郎も萬屋錦之介も食われちゃってるぞ、と我が家でも評判でしたね。そのせいでそれまで教科書的なイメージしかなかった勝元が、ものすごい切れ者という印象になってしまったのは困り者ですが(笑)、そこから勝元というか萬斎さんが退場するまではちょこちょこ観てました。他の俳優では『ずっとあなたが好きだった』の冬彦さんで大ブレークした佐野史郎が足利義視役。僕は義視には同情的なんですが、本作では主人公が富子なので残念ながらやや悪役まわり。世代的に気になった女優は大館佐子役の鶴田真由なんですが、序盤で退場してしまい観る機会を逸しました(後半、蛍火の名で再登場したようですが、そのあたりは観てない)。
 観てたのはあくまでちょこちょこだけですが、週刊テレビ情報誌である程度ストーリーはチェックしてて、ずっと後になってからビデオで総集編を観ました。歴史ドラマというより伝奇ドラマに近いテイストで、今になってみれば中世的あやかしの世界を表現しようとしたんだろうとわかりますが、当時はあまりにも史実と違うというか、そういうレベルではないくらいぶっ飛んだ話だったため、どうにもついていけませんでしたね。椿(富子)と本物の富子(森侍者)の入れ替わりも今となっては『とりかへばや物語』あたりに着想を得たのかなと思い至りますが、当時は大映ドラマ『乳姉妹』かよと突っ込んでました。富子があまりにも聖女みたいに描かれてるのも史実以前に人物像としてなんだか鼻白みましたし、登場人物の感情にも共感できないところが多く、どうもしっくり来ませんでしたねえ。特に怨霊とか超常現象みたいなネタは受け付けませんでした(これも今は『源氏物語』にもあるネタだとはわかりますが……)。脚本だけじゃなく演出もなんかちょっとなあ。息子義尚が死んで世を儚んだ富子が自害しようとするがなぜかできない(姉妹の森侍者が身代わりの陰腹を切っていた)というシーンもなんだか三田さんの1人コントみたいに見えてしまいました。そういや義政に鎌倉公方に任命されながら伊豆堀越にとどまって堀越公方となった義政の庶兄政知は登場しませんでしたが、関東情勢って台詞だけでもちょっとくらい触れられたのかな? 当時享徳の乱で一足先に戦国状態に突入していた関東情勢が幕府にも大きな影響を与えたらしいんですが、もしちょっとでも描かれてたら北条早雲もチラッと出せてたかも。
 脚本の市川森一は『後鑑』を買い込むほどの力の入れようだったそうですが、うーん僕はちょっと合わなかったなあ。市川はこの時代がよほど気に入ったのか、映画『TAJOMARU』でも同じ時代を舞台にしていますが、これもいまいちでした。市川脚本だと『ウルトラセブン』の「盗まれたウルトラアイ」とか映画『異人たちとの夏』とか単発ドラマ『私が愛したウルトラセブン』とか連ドラ『鏡は眠らない』とかは面白かったんだけどなあ。ちなみにもともとは4月~9月の半年放送の予定だったのが、『琉球』『炎』の不振で1年単位に戻すことになったため9ヶ月の放送になったそうです。平均視聴率は14.1%と、10年代に『平清盛』に抜かれるまで最低記録でした。そういえば90年代唯一の女性主人公大河ですね。80年代や21世紀は女性主人公が多いのに、なんか意外。

 『八代将軍吉宗』はほぼ未見。題材的にも配役的にも興味がありませんでした。唯一、京本政樹演じる天一坊が出てきたシーンをなぜかたまたま観ましたが、ゲスト出演的で確か冒頭から10分程度で出番は終わってた記憶。あとは大岡忠相が地質調査か何かをしてるシーン、徳川家重を演じる中村梅雀の名演技、若い頃の田沼意次(小林健)なんかをチラッと観たというか見かけたぐらいですね。平均視聴率は26.4%とマイナーな題材ながら意外な健闘。しかし完全版DVDは未だ出ていません。羽賀研二(徳川継友)の出演がネックかとも思われますが、そもそもそのような問題のない『峠の群像』も完全版DVDが出ておらず、『春日局』『元禄繚乱』の完全版DVD化もかなり遅れたことを考えると江戸大河の人気のなさも一因と思えなくもありません。総集編ビデオやDVDの売り上げが芳しくなかったり、完全版DVD化の要望が少ないなどの理由があるのかも。リアルタイムにテレビ視聴する人は多かったけど、年月が経ってからソフトを購入したい人は少ない作品なんでしょう。ベストセラーとロングセラーの違いとでも言いますか。

 『秀吉』もほぼ未見。『おんな太閤記』と題材がかぶってるし、この頃には戦国というか安土桃山はやや食傷気味でした。ただ題材は超メジャーだったものの、主演が個性派俳優の竹中直人というのが新鮮だった記憶があります。監督と主演を兼ねた映画『無能の人』でブレイクし、以後映画に引っ張りだこだった竹中さんですが、当時テレビドラマにはあまり出てなかったんですよね。それまでの大河主演俳優とはかなり異なるタイプの役者だったんでどうなるかやや不安でしたが、見事に演じて大河に新風をもたらしたようです。「心配御無用!」という台詞は流行語にもなりました。あとは秀吉と石川五右衛門が幼なじみというのが新機軸かな(秀長については『おんな太閤記』でもかなりフィーチャーされてるので新機軸というほどではない)。他に秀吉正室の名前が「ねね」ではなく「おね」なのが新しかったりもしましたが、世を騒がせたのはなんといっても以前も触れた竹中秀吉の横チン事件(笑)。いろんな週刊誌で記事になってたんで、観てない僕も知りました。なかなかソフト化がされなかったのもこれが原因と思われます。今だったら映像が即ネットにアップされちゃうだろうなあ。僕が唯一観たのは最終回で、そこで描かれてたのはてっきり醍醐の花見だと思ってたら時代が違い、史実にはない架空の花見だったらしい。秀吉の晩年は暗い話になるので描かれず、曖昧模糊とした終わり方になったようです。他に五右衛門釜茹でのシーンもチラッと観たかな。平均視聴率は30.5%と高視聴率を上げ、現在のところ平均30%を超えた最後の大河となっています。

>ドイツ史?ドラマ
 BS12で『バビロン・ベルリン』というドイツの連続ドラマが始まりました。たまたま当日に新聞のテレビ欄で見つけて、ドイツの連ドラなんて珍しいな。どんなドラマなんだろ?と調べたら、1929年のワイマール共和国末期、ナチス台頭前夜を舞台としたドラマらしく、こりゃ珍しいと1・2話(毎週2話ずつ放送)を録画して観てみた次第。サスペンス・ミステリーで、まだ主人公も含めていろいろと謎だらけですが、雰囲気はあってなかなか面白い。歴史ものというより時代ものの感じですが、続けて観てみようと思います。

>名画座掲載情報
『征服者』……復刻シネマライブラリーよりブルーレイ&DVD化。
『恋に落ちたシェークスピア』……『恋に落ちたシェ「イ」クスピア』が正しい邦題のようです。



#10936 
つね 2019/10/01 23:40


「アントワープ」ではなく、「ストックホルム」でした。嘉納治五郎の思い出でも出てきたけどストックホルムオリンピックの描写も良かった。あのころと比べると寂しい。



#10935 
つね 2019/10/01 23:35
最後の晩餐

基本的に「いだてん」に批判的な私も(一応、見てはいます)、嘉納治五郎最後のシーンはしみじみ良かったと思います。子供のような情熱をオリンピックに注ぎ、時には周りに迷惑をかけつつも悪意はなく(招致活動のときにIOC脱退を言い出したのは疑問。彼らしくない)国際的にも尊敬されている。やっぱり素直に彼が主役で良かったんじゃないの?
ドラマの都合だろうけど「人生で一番面白かったこと」に柔道は挙げられないのかな。おかげで紀行で山下泰裕さんが涙声だったような気がする(おい)。

後は批判になってしまう。
「笑いになりませんね」って、ポカンとしていた寄席の客は、テレビの前の視聴者の姿。やっぱり落語シーンは流れを断ち切る。もっともアントワープのころからの落語不要論者の私が言うのもなんですが、落語批判を受けて落語パートが削られてしまった結果、ますます邪魔な存在になってしまうという悪循環はあったように思います。
金栗は、国会での演説を聞いてなぜ朝日新聞に怒鳴り込みに行くのか。河野はもういないと聞いても理解できていないし。以前から冷水を浴びての奇声はもとより、嫌がる女性(シマ)を笑顔で追いかけたり、養母に抱き着いたり(そういえばなんでスヤは再婚の設定にしたんだろう)、15年前に震災で行方不明になった女性とその娘を間違えて抱き着いたり(普通、別人と気づくでしょう)、なんでこんな非常識な人間にしてしまったのか。どうも主役としては共感しにくい。「あれがどうした」の田畑は言うに及ばず。
杉咲花の復活も、それ以前に森山が志ん生の息子役で出ていたから二番煎じ感が。あの演じ分けは見事でしたが。むしろたけしの代わりに森山が老けメークで老齢期の志ん生をやっていれば、年月が経過した感じが出て良かったんじゃないかと。

時代やテーマは悪くなかったと思うだけに、惜しい感がどうにも。最初の構想からかなりずれてしまっているんだろうとは見ていても分かりますが。



#10934 
徹夜城(祖先の地ではいちおう曹洞宗の家ということになっている管理人) 2019/09/29 23:00
「いだてん」ひとつの大詰め

 どうも、久々に書き込んでます。
 本日放送の「いだてん」で、第一回以来ほとんど主役といってもいい存在だった、柔道創始者にして日本初のIOC委員、嘉納治五郎が世を去りました。役所広司さんの大河出演自体が久々だったのですが、ときにコミカルに、ときに重量感たっぷりに存在感を残したのはさすがでありました。
 嘉納治五郎はパリ万博に行って柔道(当時は柔術と言ったようですが)を広め、パリ警視庁でも採用していたことはアルセーヌ・ルパンの小説中でも言及されています。そもそもルパン自身異様に早く柔術を会得していまして、どうも嘉納治五郎当人から教わらないと間に合わない…というう話は前にも書いたかと。ついでながらルパンの作者モーリス・ルブランの本格的伝記本「いやいやながらルパンを生み出した作家」がようやく初の邦訳出版となり、いま読み始めてます。

 「いだてん」では朝日記者から政治家に転身した河野一郎が「五輪返上」を訴えたりしてますが、のちの実際の東京五輪ではもちろん推進の中心にいました。発表されたところによると東京オリンピックの記録映画を担当した市川崑監督を三谷幸喜さんが演じるそうですが、市川監督と河野一郎の「芸術か記録か」論争の話はやるんでしょうかね。


>「日蓮」
 以前、大映製作の「日蓮と蒙古大襲来」という映画を見たことがありましたが、今度は萬屋錦之介主演の「日蓮」(1979)を見てみました。プロデューサーは同じ永田雅一でしたが、こちらは大映もつぶれたあとだし、日蓮遠忌700年企画ということもあってか、無茶な内容にはならず、結構史実に忠実な映画になってました。
 なんせ「蒙古大襲来」のほうでは日蓮が北条時宗と一緒に博多に赴き、南無妙法蓮華経と祈り続けたら嵐で蒙古軍壊滅、という無茶な映画でしたからねぇ。こちらはそんなことは一切なく、それどころか日蓮が実は「蒙古軍が今日も鎌倉も火の海にすればよい!」と騒いで蒙古軍が壊滅してガッカリ(日蓮の日頃の主張からすればそういうことになる)というのがちゃんと描かれていて、ちょっと驚かされました。
 しかしまぁ錦之介の日蓮ですからねぇ、全編大迫力で、死ぬ間際もやたらに元気に吠えまくってます(笑)。時期的にも「柳生一族の陰謀」の「夢だ夢だ夢だ~!」のころですしねぇ。


>訃報
歴史学者の藤木久志さんが亡くなられました。そんなにたくさん読んでたわけではないんですが、「雑兵たちの戦場」という一冊はかなり衝撃的でした。あまり表ざたに扱われることがない、「戦国の実態」の怖さがわかる本でした。



#10933 
バラージ 2019/09/25 15:02
歴史映像作品感想追記・日本史編のこれまた追記

 名画座未掲載の歴史映像作品の感想の追記、戦後~現代編に行く前に、神話~敗戦までの作品で観たのをうっかり忘れてたものを追記。ほぼ全てが好きな女優が出てたからという理由で観た映画&テレビドラマです(笑)。

『太閤記 天下を獲った男・秀吉』
 2006年にテレビ朝日で放送された連続ドラマ。主演は中村橋之助(現・中村芝翫)。ソフト化はされていません。ドラマ自体には正直言ってほとんど興味がなかったんですが、ねね役が好きな女優の星野真里で、観たのはそれがほぼ唯一の理由。1クールで秀吉の長い生涯を描けるのか?と思ったら、なんと全6回で終了でした。初回と最終回は2時間スペシャルだったとはいえ、秀吉定番のエピソードを駆け足で描き、最終回でようやく本能寺から一気に賤ヶ岳の戦いあたりまで、そして関白就任と死をちょろっと描いて終わったようです。てか観たはずなのに初回以外は全然覚えてないんだよな。初回は確か桶狭間の戦いまでで、六平直政演じる今川義元がほとんどバカ殿みたいな描かれ方という、古典的というか典型的な娯楽時代劇でした。

『徳川家康と三人の女』
 2008年にテレビ朝日で放送された単発2時間ドラマ。主演は松平健。家康の生涯を築山御前・朝日姫・淀の方という彼に関わった3人の女性を通して描くという切り口のドラマでしたが、それでも家康の長い生涯を2時間ちょいで描くのはさすがに無理がありましたね。ダイジェストというかオムニバスみたいになっちゃってました。築山御前役が高島礼子、朝日姫役が若村麻由美、淀の方役が星野真里ということで、やはり星野さん目当てで観たドラマです。これもソフト化されていません。

『大奥 第一章』
 2003年の幕末を舞台とした連ドラ『大奥』が思わぬヒットとなったフジテレビが翌2004年に作ったシリーズ第2作。第1作同様に続編の単発スペシャルも翌2005年に作られました。
 こちらは春日局(松下由樹)を主人公に大奥草創期を描いたドラマで、第1部は家光(西島秀俊)の乳母となった春日局と生母お江与(高島礼子)の女の戦いを描き、第2部は大奥総取締となった春日局と彼女の強引さに反発する家光側室お万(瀬戸朝香)の対立を中心に、家光の正室孝子(木村多江)・側室お楽(京野ことみ)・お夏(野波麻帆)・お玉(星野真里)ら妻妾たちの愛憎を描いています。これまた好きな女優の星野真里と野波麻帆が共演というのが観た目的。このフジ大奥シリーズは中堅実力派女優を多数配するというキャスティング的には好みに合ったドラマなんですが、浅野妙子脚本のドラマ内容は完全に女性向けで男にはちとつらい。昼ドラ風と言いますか、最近中国ドラマで流行りのラブ史劇とでも言いますか。まあ思ったほどドロドロじゃなかったのが救いでしたが、史実からは大胆に改変しちゃったところが多い娯楽時代劇といったところ。

『忠臣蔵の恋 四十八人目の忠臣』……#10504
 2016~7年にNHKで放送された土曜時代劇。ソフト化はされていません。原作は諸田玲子の『四十八人目の忠臣』。これは終盤しか観てません。また忠臣蔵かよ~、という感じで全然食指が動かなかったんですよね。ところが討ち入りが中盤で終わってしまい、なんで?と不思議に思ったら、主人公(武井咲)はそこから大奥に上がって将軍家宣のお手が付き、七代将軍家継を産む月光院となるというお話でした。前半では磯貝正久の恋人だったようです。終盤しか観てないんですが、さすがにNHK地上波時代劇は作りがしっかりして役者も粒ぞろいでなかなか面白かったです。江島役が90年代に好きだった清水美沙で、おお、と思ったりも。

『幕末純情伝』……映画板#1252
 沖田総司は実は女だったという設定のつかこうへいの小説の映画化で、主演は牧瀬里穂。キャッチコピーは「沖田総司はBカップ」。坂本龍馬(渡辺謙。白血病からの復帰作)・土方歳三(杉本哲太)との三角関係を描いたラブコメ時代劇ですが、一応明治維新へ至る歴史の流れも描かれています。薩長の描き方が結構辛辣というか、かなりおちょくっていて、薩長ファンは不快かも。『東京上空いらっしゃいませ』『つぐみ』に続く牧瀬の主演3作目で、彼女目当てで公開時に映画館で観ましたが、前2作の足下にも及ばない駄作でした。映画化以前につか自身の演出で舞台化もされていて、そちらは若手女優の登竜門として現在に至るまで何度も上演されています。

『遠き落日』……映画板#1416
 細菌学者の野口英世と母シカの母子愛を中心に、英世の生涯を描いた神山征二郎監督による伝記映画。原作は渡辺淳一の同名小説と、脚本も兼ねてる新藤兼人の『ノグチの母 野口英世物語』で、どっちかというと自身が脚本を書いてるだけあって新藤の著作の要素が強いみたい。トップクレジットは母シカ役の三田佳子で、英世役の三上博史とのダブル主演。劇場公開時にヒロインの牧瀬里穂目当てで観ましたが、出番が少なくてがっかりした記憶があります(英世の求愛を断る山内ヨネ子役)。僕は母ものが苦手なんですが、比較的泣かせ要素は抑えめで過剰なお涙頂戴ものにはなっていませんでした。その一方で渡辺の原作では描いてるらしい英世の金銭的だらしなさなどについてもさらっとしか触れておらず、全体的にはきわめて平凡な伝記映画といった印象。決して面白くはありませんでした。基本は母ものだしね。

『涙たたえて微笑せよ 明治の息子・島田清次郎』
 1995年にNHKで放送された単発ドラマ。大正時代に流行作家となった小説家の島田清次郎を描いた伝記ドラマで、僕はこれ以前にマンガ『栄光なき天才たち』で島田のことを知りました。なんと去年DVD化されていたようでびっくり。ビデオ化はされなかったのになあ。まあ出来のいいドラマでしたから、要望が多かったのかもしれません。脚本は早坂暁で、演出は久世光彦。主演は本木雅弘、ヒロインは清水美砂(現・清水美沙)で、2人は本作の3年前に映画『シコふんじゃった。』の主演とヒロインで共演しており、3年後には大河ドラマ『徳川慶喜』でも主演とヒロインで共演することになります。
 弱冠20歳で自伝的な処女長編『地上』が大ベストセラーとなり一躍流行作家となるも、生来の卑屈の裏返しともいうべき自己肥大で誇大妄想的な増長慢や傲慢さ、奇嬌な言動などで徐々に文壇から孤立し、やがて女性スキャンダルで人気は失墜、早発性痴呆(統合失調症)と診断されて精神病院に収容され、31歳の若さで亡くなるまでの島田の生涯を描いていて、放送時に観ましたがなかなか面白かった記憶あり。本木雅弘がエキセントリックな芝居で島田を好演してました。清水美砂は最初の妻・豊役で、島田の狂気的な言動に翻弄され別居するも、彼が精神病ではないと信じて奔走するという役どころ。大正時代の世相も描かれていて、歴史ドラマ的要素も結構ありました。島田は社会主義に傾倒していたようですが、本作では大杉栄のもとに通いつめていたという設定で、大杉が甘粕正彦大尉に殺されるシーンもちょっとだけ描かれてるんですが、そのシーンで甘粕を演じてるのが若い頃の椎名桔平らしい。

『宮沢賢治 その愛』
 タイトル通り宮沢賢治の伝記映画で、監督が神山征二郎、脚本が新藤兼人、主演が三上博史で、ヒロインが牧瀬里穂というところまで『遠き落日』と同じという、当然ながら作風もほとんどいっしょの映画です。なので感想もほとんどいっしょ。きわめて平凡な伝記映画で、はっきり言ってかなり退屈でした。なんか児童向けの伝記本を読まされてるような感じなんだよな。牧瀬の出番が少なくてがっかりしたところまでいっしょで、『遠き落日』とごっちゃになってるのかどんな役だったか全然思い出せなかったんですが、調べたら賢治に求愛するも断られた高瀬露の役らしく、役どころだけは『遠き落日』と真逆でした。賢治生誕100年を記念して松竹で製作された映画で、同様に東映では大森一樹監督、緒形直人主演の伝記映画『わが心の銀河鉄道 宮沢賢治物語』が作られましたがそっちは未見。


>最近観た歴史映画
『引っ越し大名!』
 生涯に7度も国替を命じられ、“引っ越し大名”とあだ名をつけられたという松平直矩の、姫路藩から豊後日田藩への国替を題材としたコメディ時代劇。もともとはあまり観る気がなかったんですが、ふとチラシをよく見たら犬童一心監督とあって、おお犬童監督なら観てみっかと思いまして。原作・脚本は『超高速!参勤交代』『サムライマラソン』(いずれも未見)と同じ人とのことで、確かに似たっぽい雰囲気です。
 タイトルは「引っ越し大名」ですが主人公は大名の直矩ではなく、“引っ越し奉行”なるものに任命された家臣の片桐春之助という架空の人物。書庫番として書庫に引きこもって書物ばかり読んでいた春之助が、筋肉脳の幼馴染みや前引っ越し奉行の娘の子持ちバツイチ女性の助けを得て、藩をあげての引っ越し大騒動となった国替を成し遂げていくまでを、真面目さとコメディが絶妙なバランスの娯楽時代劇として描いています。
 主演の星野源や珍しく筋肉バカを演じる高橋一生も好演ですが、父より引っ越しマニュアルを受け継いだ子持ちバツイチ女性役の高畑充希が良い。しっかり者でありながら可愛らしさも持つ女性をとても上手く演じてました。さすが演技派。乗馬のシーンもあってなかなかかっこよかった。大枠以外は史実とはあまり関係ありませんが、気楽に楽しめる映画でまあまあ面白かったです。

>中国史ドラマ
 前回DVDレンタルで観始めたと書いた『三国志 SECRET OF THREE KINGDOMS』ですが、BS12で11月から放送されるようです。11月まで待てばタダで観れるんだけど、でも早く続きも観たいしレジーナ・ワンも観たいし、どうしようか迷うなあ。ちなみに原作者はWOWOWで放送され、つい数か月前にDVD化もされたドラマ『三国志 ~司馬懿 軍師連盟~』の原作者でもあるらしく、本作でも司馬懿が主人公の劉平の幼なじみで彼を助ける役どころ。原作者はよっぽど司馬懿が好きなのか?

>『いだてん』と二・二六映画と視聴率についてのいくつかの記事
 ちょっと前に出た『いだてん』での二・二六事件の描写からの二・二六事件映像作品の話題。同じことを考える人はいるもので、以下のような記事がありました。

「二・二六事件は映画・ドラマでどう描かれてきたか。大河ドラマでは「いだてん」で35年ぶり2度目の登場」
https://www.excite.co.jp/news/article/E1568605144145/
「二・二六事件はどう描かれてきたか更に検証「パトレイバー」にも登場した事件のイメージ」
https://www.excite.co.jp/news/article/E1568649434636/

 記事を読むと歴史映像名画座収録作品では、『戒厳令』『動乱』『226』『スパイ・ゾルゲ』『激動の昭和史 軍閥』『山河燃ゆ』で二・二六事件が描かれてるようですね。

 また、『いだてん』の低視聴率について分析した下記の記事も面白く読みました。批判的観点からの記事ではなく、執筆者自身はむしろ『いだてん』を高く評価してるんですが、視聴率につての純粋な分析がされていて非常に興味深かったです。

「大河ドラマ「いだてん」は、なぜ人気がないのか」
https://blogos.com/article/405871/

>史点
 タイとウルトラマンというと映画板にも書いた(#1752)日タイ合作映画『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』を連想しちゃいますねえ。あの映画の内容は仏教的にいいのか?(笑)
 「アイヌは先住民ではない」という主張をしてる北海道議・札幌市議の話題からの連想ですが、ぶっちゃけ都道府県議や区市町村議レベルだと選挙でも誰を選んだらいいかよくわからないようなこともあってか、変な人が議員になっちゃうこともあるんでしょうねえ。ちょっと前の「号泣議員」も確かどっかの市議だったし、つい最近は朝鮮通信使について「女性に対する暴行、殺人、強盗を繰り返す凶悪犯罪者集団」なんて議会で発言した区議がいたそうで。これなんてもう右とか左とかのレベルじゃなく常識的に考えて、んなわきゃないってわかるだろと思うんですが、そもそもこういう発言をする人に常識説いたって無駄か。地方議員に限らず、これと大して変わりないレベルの発言をしてる国会議員もいることだしなあ。



#10932 
バラージ 2019/09/16 23:01
ベルリンの暗い影

 『いだてん』は今週も素晴らしかった。冒頭、1961年のハリマヤに五りん(神木隆之介)と知恵(川栄李奈)が訪ねてくる展開がまず上手い。こういう時代が前後する構成にはわかりにくさがあることも確かですが、歴史の流れというものをドラマや映画の中で実感させる効果があるんですよね。そして、まさかの杉咲花ちゃん再登場でもう涙腺が……。今週は金栗と弟子の小松(架空の人物)の上京に、オリンピックもマラソンがメインということもあって田畑編であるにもかかわらず金栗パートの比重が高かった。
 舞台がベルリン五輪に移ると、『栄光のランナー 1936ベルリン』にも出てきた、後にIOC会長になる米国のブランデージも登場し、同映画で主人公だったジェシー・オーエンス、そして孫基禎と南昇竜は実写映像で登場。今回はリーフェンシュタールの記録映画がふんだんに使われてましたね。頻繁に映し出されるナチスのハーケンクロイツも映像の構図として効果的でした。1940年五輪開催地投票で東京に投じる中国代表、ナチスの宥和政策として通訳に登用されたユダヤ人、開会式でのハイル・ヒトラーの嵐、軍隊の行進を思わせる選手入場、日本の国旗と国歌にうつむくマラソン金&銅メダルの孫基禎と南昇竜など、オリンピックに政治の暗い影が伸びてくる描写がこれまた秀逸でした。
 来週はいよいよ前畑がんばれ! そしていよいよ田畑編前半の1940年オリンピックのクライマックスへと向かっていくことでしょう。


>中国史ドラマ
 レジーナ・ワンがヒロインの伏寿(伏皇后)役で出演してるドラマ『三国志 Secret of Three Kingdoms』(原題:三國機密之潜龍在淵)のDVDがレンタル開始ということで、早速第1巻(1・2話)を借りて観ました。
 うん、これは『麗王別姫』なんかよりずっと面白い。ストーリーは以前も書きましたが、時代は曹操が呂布を滅ぼし袁紹との決戦に及ぼうとしていた時代。主人公の楊平は父に預けられた司馬家で育てられたが、自分が実は献帝劉協の双子の弟・劉平だったことを知る。突然病死した兄の遺言で、劉平は兄に成り済まして曹操の野望と戦うことになる、という物語。なかなかにぶっ飛んだお話ですが、こちとら三国志に関しては1周回ってどんな話だろうとドラマ(映画)として面白ければそれで良し、という境地に到達してるので問題なし。『麗王別姫』みたいな女性向けラブ史劇かと危ぶみましたが、2話まで観た限りでは男が観ても楽しめそう。とにかくレジーナ・ワンが『麗王別姫』の時とは違ってやたらと美しくて色っぽい。セクシーというか官能的な描写が多くて、もうたまらん!(こら・笑) とはいえ新作連ドラDVDはレンタルにお金が……。視聴時間もなあ。『如懿伝』も週2ペースで放送中だし、他にも歴史ものばっかりじゃなく現代劇のドラマも観たいし(今季は『だから私は推しました』『監察医 朝顔』が面白い)。
 その『如懿伝』も相変わらず面白いですね。後宮を舞台とした謀略合戦といった感じで、后妃たちの描き分けも上手く、多彩な美しき女優陣の演技合戦も見ごたえがあります。舞台が後宮に限定され、后妃たちも名前や血縁関係以外はほとんどわからない人たちばかりのようなのでほぼ創作でしょうが、こちらも面白ければそれで良し(笑)。ちなみに本国ではなぜか放送許可がなかなか下りず、1年後にようやく放送となったものの、全く同じ舞台の別ドラマ『瓔珞<エイラク> 紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃』(原題:延禧攻略)と競作という形になってしまったとか。しかも『如懿伝』と『瓔珞』では人物設定が真逆らしく、両方観てた人はさぞや混乱したことでしょう。

>歴史秘話ヒストリア
 11日の放送が承久の乱ということで、普段ほとんど観ないこの番組をちょっと興味を持って観てみました。本論の承久の乱についてやその前段の北条義時が権力を握って以後の部分については特に目新しい知見はなかったんですが(あくまで源平好きの僕にとっては)、冒頭の義時の青年時代について知らなかった話がありました。
 義時が長い間北条姓を名乗らず、文献などには江間姓で記されているという指摘はすでに知ってましたが、その理由として父時政の後妻牧の方が娘を頼朝の妻にしようとしてたのに、頼朝がその娘を嫌って政子を妻にしてしまったことに怒り、政子の実の弟義時に家督を継がせず他家に出してしまったのではないかという説が紹介されてたのは全くの初耳。と同時にいろいろと疑問が。
 まずこれは放送時間の関係でしょうが、義時は次男坊で兄宗時が北条家の嫡男だったことには全く触れられていませんね。義時が江間姓を名乗ったのがいつ頃からかはっきりしませんが、宗時は頼朝挙兵直後の石橋山の戦いで討死しており、頼朝と政子の婚姻は挙兵以前のため、上記の説では時系列的に矛盾があります。あるいは挙兵以前の婚姻時の恨みを持ち続け、宗時死後に義時に家督を継がせなかったということなら矛盾はないわけですが、そもそも牧の方が娘を頼朝の妻にしようとしてたという話自体が聞いたことないんだよな。牧の方は政子と同年代と考えられるため、その娘となると頼朝よりも相当年下になっちゃいますし。
 そのあたりを記してる可能性がある史料としては『吾妻鏡』、延慶本『平家物語』、『源平盛衰記』、真名本『曽我物語』といったところでしょうか。その説を話してた岡田清一さんはミネルヴァ日本評伝選の『北条義時』を書いてるとのことで、近くの大型書店でちょいと立ち読みしてみると、やはり挙兵以前の婚姻時の恨みを持ち続け宗時死後に義時に家督を継がせなかったという説で、根拠となる史料として真名本『曽我物語』の記述が挙げられてました。もちろん岡田氏は断定まではしてないんですが、それにしてもやや無理がある説のような気がするんだよなあ。



#10931 
つね 2019/09/12 23:03
新聞連載小説

2016年4月から通勤時にコンビニで日経新聞を購入しているのですが、連載小説が意外と面白い。
「琥珀の夢」(サントリー創業者の伝記)、「愉楽にて」、「ワカタケル」ときて、今週から始まった「ミチクサ先生」は主人公が夏目漱石なのですが、なぜかセントヘレナ島のナポレオンから話が始まっています。まだ2話ですが導入部としては引き付けられます。
それにしても新聞小説って、読者層を反映しているのか、比較的歴史ものが多い気がします。上記でも「愉楽にて」以外は歴史ものだし、かつては「三国志」や「坂の上の雲」もそうですからね。まあ「失楽園」なんかも日経連載でしたし、「愉楽にて」もその系統だし、私の記憶に残るのが歴史ものなのかもしれません。

平日だけ購読していると、当然ながら土日も話が進むんですよね。「琥珀の夢」は難問が降りかかって、金曜日時点ではさあどうする、だったのが月曜日には解決していたことが多かった気がする。主人公も金曜日までピンピンしていたのに、月曜日にはすでに亡くなって次代の話になっていた。作者、狙っていたのかなあ。あ、「ミチクサ先生」も「琥珀の夢」と同じ伊集院静さんだ。



#10930 
ろんた 2019/09/12 00:36
牛乳とレイシズム

 史点更新お疲れ様です

「牛乳を飲めるのは、俺たち白人だけだぜ!」ってのは、その子供っぽさに笑ってしまいますが、それが攻撃性として他者に向けられると、とんでもないことをやらかすわけで、背筋が寒くなったりもします。
 しかし、どうやら哺乳類の大人は母乳が飲めない体質(乳糖不耐症)なのが普通なのだそうです。赤ん坊じゃなくなると乳糖が分解できなくなり、お腹が痛くなっちゃうんで乳離れするというメカニズムらしい。うっかりペットの犬や猫に牛乳をやっちゃうと往生するので要注意。最近はスーパーでも売ってる、犬猫用の牛乳を与えましょう。
 で、人間の場合はコーカサスに住んでた連中の間で突然変異が起こり、大人でも牛乳が飲めるようになったとか。白人のことをコーカソイドって言うくらいですから、彼らは白人かその祖先だったんでしょう。しかし、白人至上主義者には不本意でしょうが、人種は生物学上の種とは異なり交配可能なので、ユーラシアの東の端っこの弧状列島にすがりついている、我々モンゴロイドの間でも「乳糖不耐症」は少数派だったりするのでした。
 人類みな兄弟ってのは本当ですね(笑)。

>日韓関係
 これは安倍外交の失敗でしょう。面白いのは輸出手続き云々とかホワイト国云々とかを決めた際、御用評論家たちが当日は報復措置と認め、その翌日には否定していたこと。この前のGSOMIA破棄の際にも同じ現象が見られた。シラを切るなら切り通せ(笑)。
 そもそも安倍さんの危うい所って、自分は外交が得意、と思い込んでいる所じゃなかろうか。この人、ウクライナ問題で総スカン喰らってるロシアにのこのこ出かけていったり、この間はイランに出かけていったり、何で今そこへ行く、ってコトが多い。トランプとマブダチだぜ、って言ってたらTPPから離脱されちゃうし、北方領土については記憶に新しい。世論調査では威勢のいい意見が多数を占めてるらしいけど、威勢のいい方も威勢の悪い方も、何をどうすればいいか分からなくて思考停止しているんじゃないか。これも外交の失敗のせいだろう。
 落としどころとしては、元徴用工には金を払う。韓国政府には個人への補償用に支払った金の返還を求めるってところか。ああ、もちろん何十倍になるか知らないけど利子込みでですよ。しかし日本が支払った金が「漢江の奇跡」の元手になり、請け負った日本企業から「金環蝕」的に保守政界に還流した、って話は誰もしないなぁ。そうそう、韓国けしからんネタでなぜか金大中事件を取り上げてる番組があったけど、日本政府が政治決着を図った話はスルーだった。あの時は「KCIAの馬鹿野郎、雑な仕事しやがって、バックれられねぇじゃねぇか!」ってのが日本政府の本音だったと思うんだけど。いずれにしても、日本の保守政権と韓国の軍事政権とは"ちんちんかもかも"だったのだ。そしてそのバックに「昭和の妖怪」がいたりなんかして(笑)。

>三国志
 国立博物館の展示、「ぶらぶら美術博物館」(BS日テレ)で紹介されていました。興味深かったのは、三国が政治的にだけでなく、社会的文化的にも分化していたこと。特に「俑」の特徴が興味深かった。蜀は写実的、呉はフィギュア的(小さい)、魏は抽象的。レギュラーの小木(おぎやはぎ)が「下手なんじゃないか」と言ってたけど、三層の穀物倉庫の模型など見ると技術的な問題ではなく美意識の問題だと考えた方がよさそう。三国時代に生まれた変化とは考えにくいので、分裂すべくして分裂したのだろうか。
 白磁も紹介されてましたけど、その後隋代まで現れず、隋代以降も見えなくなってしまうとか。白磁が出たんなら(隋代のはずだから?)曹操の墓じゃない、という意見もあるそうですね。
 笑ったのは呉から発掘された墓室のレンガ。小口にある字が(二個合わせて)「晋平呉天下太平」(晋が呉を平らげて天下太平(?))と読める。題して"世界一短い三国志の結末"(笑)。魏から出土したレンガには、黄巾の乱のスローガンを掘ったものも出て来たとか。
 あと「歴史秘話ヒトリア」なんですが、あれ、BSプレミアムの番組の、スタジオトークをカットした再編集版みたい。少なくとも、オープニングで紹介されてたビデオは全部見ている。で、人形劇もBSの方で既に復活。本放送以来ってのは嘘で(笑)、本当は三週間ぶりの復活なのでした。



#10929 
バラージ 2019/09/10 23:05
新一万円札大河

 2021年大河ドラマがようやく発表されましたね。渋沢栄一が主人公の『青天を衝け』だそうで、主演は現在の朝ドラ『なつぞら』で出番が終わったばかりの吉沢亮。
 題材を聞いた第一印象はかなり苦し紛れの企画だな~と。新一万円札が発表された時も歴史にくわしい人以外は「誰それ?」状態だっただけに視聴率を狙った企画とは思えない。発表がやや遅れたことから考えても、NHKももう何をやったら視聴率が取れるのかほとほとわからなくなり、新一万円札の人にしちゃえ!と勢いで決めちゃったんじゃないかと(笑)。時代的には『八重の桜』『花燃ゆ』と同時代になりそうで(『西郷どん』みたいにほとんど幕末になっちゃったりして・笑)、視聴率的にはやはり期待できないでしょうねえ。もっとも世の中何が当たるかわかんないし、瓢箪から駒ということもないとは言い切れませんが。
 個人的にはとんと興味がわかない題材で、多分ほとんど観ないだろうな~。まあ始まってみたら意外と面白かったり、好きな女優が出ててつい観ちゃったりという可能性もないわけではないけれども。


>『いだてん』
 先週のムッソリーニに直談判に行く話はちょっと無理があるような気がしたんですが、調べてみるとやはりちょっと史実とは違うようで。直談判でムッソリーニから辞退を取り付けたのは意外にも本当のことのようですが、直後の総会でイタリアがそれをひっくり返したのは、次の1944年オリンピックにIOC創設50周年を記念してIOC本部のあるスイスのローザンヌが立候補することになったため、44年の自国開催は不利と見たムッソリーニが翻意したというのが真相のようです。しかしその後イタリアは第二次エチオピア戦争を始めたため、ムッソリーニは再び方針を翻して日本支持を表明したとのことで、駐イタリア大使でもあった杉村陽太郎(加藤雅也)は戦争についてエチオピア不支持を表明したらしく、少々生臭い舞台裏だったみたい。ちなみに実際には田畑政治はこの1940年東京オリンピック招致にはほとんど関わっていなかったとのこと。

 そして今週はまず二・二六事件が発生し、田畑の朝日新聞社にも反乱兵が押し寄せましたが、それ以前に僕が観た中では映画『スパイ・ゾルゲ』で唯一それが描かれ、そちらでも緒方竹虎がチラッと出てきてました。
 オリンピック関連ではついにマラソンの孫基禎と南昇竜が登場。といってもロングで顔はほとんどわかりませんでしたが、ちゃんと出てくるのか?と気になってた人も多いようで、僕もその1人。マラソンで金メダルと銅メダルを取った人たちだけに、まさか出さないとは思えなかったけど、なかなか出てくるという情報もなくて気を揉みました。
 また、美川秀信(勝地涼)に続いて清さん(峯田和伸)と小梅(橋本愛)の再登場もうれしい。金栗四三編では彼ら架空の人物たち(美川は実在のモデルがいるようだが、劇中ではほぼ架空の人物として動いている)が物語の牽引力になった部分も大きかっただけに、周囲に架空の人物がバーのママ・マリー(薬師丸ひろ子)しかいない田畑政治編はどうも物語に堅さがあるというか、柔軟性に欠けるような気がしてるんですよね。
 ともかく次回は1936年ベルリン五輪。米国映画『栄光のランナー 1936ベルリン』でも舞台となりましたが、前畑や孫の金メダルも描かれるでしょうし楽しみです(メインは前畑だろうし、孫と南はほとんど顔が映らなかったんであまり出番はないだろうけど)。というかもう9月なので今月中に1940年東京五輪編を終えて、10月からは最終章の1964年東京五輪編になるはず。五りん(神木隆之介)の母親が満州で志ん生の落語を聞いたというエピソードも描かなきゃならないわけで、物語を消化できるのか少々心配。また当初から予想はしてましたが、残り回数的に戦中戦後は一気に時代が飛びそうな感じはしますね。

>史点
 トランプ大統領は相変わらず読めない人ですねえ。前も書いたと思うんですけど、トランプさんはなんというかハチャメチャなのは確かなんですが、「“本当は”何を考えてるのか?」ということがいまいちわからない人のような気がします。ある意味、自分のことしか考えてなさそうでもあり、こちらがいくら恩を売ってるつもりでも、今までの大統領と違ってそれを“忖度”してくれる人ではないような。日本もこの人頼みになっちゃうのは危険な気がしますね。
 日本政府の「読み違い」は週刊プレイボーイ先週号のしりあがり寿の4コマ漫画『時事おやじ』でも、安倍首相はじめ政府首脳が「うーむ、韓国の出方はわかりませんな」「まさかあそこまでやるとは…」とネタにされてました(笑)。報復措置として、徴用工問題とは本来無関係のホワイト国除外に飛び火させちゃったのも失策だったと思います。それに対してさらに韓国政府もこれまた無関係のGSOMIA破棄をしちゃったもんだから、収拾のつかない事態になってしまったという意味でも「読み違い」だったような。これまた混迷を極める香港情勢(こちらも出口が見えない)と合わせて、極東アジア地域が不安定化してるのがちょっと怖い今日この頃。
 そういえば韓国の日本製品不買運動を見て、90年代初めの米国での日本製品不買運動を思い出しちゃったのは僕だけでしょうか?(他に言及してるのを見かけないような気がする) あの時は確か『筑紫哲也NEWS23』で、純粋な米国国産車はあるのか?と外国製の部品をどんどん取り去っていったら最終的にハンドルだけになった、というオチの特集を見た記憶があります。当時、米国に滞在していた村上春樹のエッセイ集『やがて哀しき外国語』もジャパンバッシングの話題を取り上げていて、非常に興味深くかつ面白かったですね。個人的には90年代なんてついこの間という感覚があるんですが、あの頃の米国でのジャパンバッシングを思い出すと本当に今昔之感がありますねえ。♪そんな時代も、あーったねとー。



#10928 
徹夜城(大河の話題に乗り遅れた管理人) 2019/09/10 20:14
経済人大河

 ちと出遅れましたが、やっと発表された再来年大河。新札がらみで渋沢栄一ですか…発表遅いんで素材でモメてんのかと思ってたら、こりゃ単に主演俳優の朝ドラ出番終了を待っての発表だったようですね。
 このところのサイクルから言うと女性主役で幕末、という予想もしたんですが、「花燃ゆ」やっちゃったあとではもう…と思ってたら幕末から近代の経済人大河ということになりますね。経済人、ということでは以前「経世済民の男」というシリーズで高橋是清、小林一三などがドラマ化されましたが、あれはその予兆だったのかも。

 高橋是清といえば、「いだてん」は先日「226」をやってて、萩原健一演じる高橋是清暗殺シーンが描かれました。ショーケンさんはこのシーン撮影は間に合わなかったようですが、暗殺シーンではわざわざ移築保存されてる高橋邸で撮影してるんですってね(言われなきゃわからん)。
 ショーケンさんは映画「226」では反乱将校役でしたが、何やら因縁めいてます。


>やっと行ってきました。
 ツイッターでは書いてるんですが、やや日が経った者のこちらでも。先週、東京国立博物館の「三国志展」行ってきました。確か今週いっぱいぐらいでは。先週もまだまだ人が多かったですねぇ。
 展示の序盤は「演義」系の絵や彫刻を紹介して大雑把なストーリーを追い、だんだん発掘物など史実系の展示が多くなる、という展開。「曹操の墓」内部を実物大で再現した(構造だけですが)部屋が面白かったです。話題になった、ここから発掘された「白磁」も展示されてたような。
 「人形劇・三国志」の人形(曹操・劉備・孫権・諸葛亮・孟獲・献帝・曹丕・甘寧)とあ、横山光輝「三国志」の名場面の原画など、マニア心をくすぐるものもありましたし、「第四極」である遼東の公孫氏ですとか、史実系にマニアックにツッコんだ展示などもあり、まずまず楽しめました。
 まぁなんだかんだ言っても、僕の中国史好きのルーツはやはり三国志だからなぁ。そこからあっちゃこっちゃヘンな方向へ首突っ込んでますけど(笑)、日本の南北朝だって「三国志っぽい」から入り込みましたし、後期倭寇を専門にしたのもこの世界が三国志と水滸伝と大航海時代ロマンをごった煮にした素材だったからです。



#10927 
つね 2019/09/09 22:11
大河ドラマ

「いだてん」の失敗(と言ってもいいでしょう)から、しばらくは近現代やらないかな、と思いましたが、チャレンジしてきましたね。まあ「いだてん」は初回視聴率が比較的高かった(そして「いだてん」暫定最高視聴率)ことからも近現代が悪かったわけではないと思ってます。ただ、私は初めてクドカンドラマ見ましたが、合う合わないが激しそうです。残念ながら私も合わないほうです。でもストックホルムオリンピックのころは素晴らしかった。そのころから落語邪魔とは思ってましたが。

さて再来年は前半、福沢諭吉、後半、渋沢栄一くらいの遊びがあってもと思いましたが、あまり繋がりなさそうですね。調べたら5歳差(福沢が年長)しかありませんでした。



#10926 
ひで 2019/09/09 19:35
再来年の大河

昨今の状況から再来年に大河ドラマがあるのかどうか(なくなるかもしれないなあと一瞬思ったりもしました)、気にはしていましたがとりあえずやるようですね。題材は新一万円札の顔・渋沢栄一、タイトル『青天を衝け』は渋沢が詠んだ漢詩からとったとか。で、渋沢栄一ときいて、帝都物語を思い出す人もいるかもしれませんが、ああいう風にはまずならないでしょう。

王子の飛鳥山公園に渋沢史料館がありますが、大河ドラマをやる頃には改修が終わっているといいなと。

https://historia334.web.fc2.com/


#10925 
つね 2019/09/08 23:19
史点感想

更新お疲れ様です。ちょっと思ったことなど。

>グリーンランド買収
そのものの話題ではなく「地球温暖化で北極圏の航路が可能になる」という話。私が最初にこの話題に触れたのは実はゴルゴ13の「極北航路」(SPコミックス187巻2017年12月)です。ゴルゴの場合、コミックスになるよりも5、6年早く作られているので、事情通にはもっと早く知られていたんでしょう。
そういえば麻生首相(当時)は、「国際情勢についてはゴルゴ13から知識を得ている」とか発言して、中曽根さんが読んでみて「麻生君は馬鹿だなあ」と呟いたとかどっかで見た覚えがあります。まあ事実は創作より奇なり、を知っている中曽根さんには子供だましの話にしか思えなかったかもしれません。でもゴルゴ13以上の怪物が現実にいるとは思えませんが。

>不寛容な世界
トランプさんの影響で不寛容な世界ができたというよりは、不寛容な世界ができた影響としてトランプ大統領が誕生したように思っています。で、その不寛容な世界ができた要因は何かというと「寛容すぎた世界」なのではと。どうも知識人というのは移民には同情を寄せても国内の貧困階級には無関心で、その結果、しっぺ返しを受けているのがトランプ大統領とかブレグジットとかドイツ極右躍進なんじゃないかと。もっともトランプさんの言動は確かに過激なので「ヒヨコか卵か」論もありえます。

>日韓関係
最近の問題が徴用工問題から発生しているところからすると、私にはむしろ韓国のほうが「日本がこれまでのように折れるだろう」と甘く見ていたように思えます。日経なんかでも「日本がホワイト国から外さざるを得ないようになるまでに追い詰められた」と解釈してますし。どちらも折れられないので長引きそうですが、GSOMIA破棄したり法相候補が追及されたり、あちらさんは大丈夫なのかいな、という気になります。

まあ同じ風景を見ていても、観点が違えば感想も異なるということで。



#10924 
バラージ 2019/09/04 10:47
安倍氏・清原氏・奥州藤原氏をめぐる二、三の事柄

 大河ドラマ『炎立つ』の感想を書いた流れで、安倍氏・清原氏・奥州藤原氏関連の話題をいくつか書かせていただきます。

>歴史学研究の話
 歴史学の分野で前九年の役・後三年の役や安倍氏・清原氏・奥州藤原氏について新たな説がいろいろ出されているようなので、僕の知ってる範囲で一部をご紹介。

 まず安倍氏についてですが、前九年の役の主役の1人として有名な安倍貞任(頼時の次男)は頼時の嫡子ではなく、三男の宗任が嫡子だという説が出されています。その理由として貞任の別名が厨川次郎、宗任の別名が鳥海三郎で、鳥海柵が奥六郡の中央部にあるのに対して厨川柵は北端に位置していることがあります。源氏(朝廷)側に寝返った北方の一族の説得に向かい、伏兵に射たれて重傷を負った頼時は鳥海柵まで帰って死んでおり、おそらく鳥海柵が安倍氏の本拠だったと考えられることから、本拠を領する宗任が嫡子だったと推定されるとのこと。
 次に前九年の役と後三年の役の間の1070年に起きた「延久蝦夷合戦」という戦役にのみ登場する、合戦の褒賞として鎮守府将軍に任じられた「清原貞衡」という人物について。この謎の人物については、清原武貞(前九年の役の褒賞として鎮守府将軍に任じられた武則の子)の別名という説や、清原真衡(武貞の子で後三年の役前半の主要人物の1人)の誤記とする説が唱えられていましたが、近年になってそのどちらでもなく武則を海道平氏出身として貞衡はその弟とする説や、貞衡が海道平氏出身で武貞の娘婿とする説などが出されているそうです。延久蝦夷合戦について記載する史料自体が少なく、いろいろと不明な点が多いとか。
 それから後三年の役の後半における清衡&源義家vs清原家衡&武衡(武則の子で武貞の弟。真衡・清衡・家衡の叔父)となった段階について。基本的に戦乱の構造は清衡と家衡の兄弟対立が発端のはずですが、史料ではずっと後の『平家物語』なども含めて賊として武衡のみの名を挙げるか「武衡家衡」と武衡を先に挙げています。僕もこれが不思議だったんですが、後半段階における戦乱の黒幕は武衡で、武衡は一時やはり海道平氏に養子入りしていたとする説が出されているようです。
 最後に奥州藤原氏の一族で庶流の樋爪氏(系譜には諸説あり、清衡の四男清綱の子俊衡が初代とする説、清綱を清衡の弟とする説、俊衡を基衡の子で秀衡の弟とする説などがある)について。近年では樋爪氏の拠点の樋爪館は平泉に次ぐ都市で事実上の副都であり、樋爪氏は奥州藤原氏本家に匹敵する勢力だったとする説が出されています。樋爪俊衡は大河ドラマでは『源義経』のみに登場してるらしく、『炎立つ』には出てきてません。というか『炎立つ』第三部は奥州藤原氏が主人公にも関わらず、放送期間が4ヶ月と短かったためか出てこない人物も多く、逆に『源義経』にのみ登場する人物が多かったりします。

>小説とマンガの話
 前回ちょっとだけ触れた今東光の小説『蒼き蝦夷の血』は、『炎立つ』以前に全国区レベルの小説家によって書かれた奥州藤原氏通史の小説で、サブタイトルに「藤原四代」とある通り、当時中尊寺貫主だった今が清衡・基衡・秀衡・泰衡の奥州藤原氏四代を描こうとした小説です。しかし今の死により秀衡の途中で絶筆になったとのことで、僕は徳間文庫版をほんのパラパラッとだけ読みました。
 最初の「清衡の巻」はタイトル通りあくまで清衡の話なので前九年の役についてはわりとあっさり片付けられていて、『炎立つ』で第一部・第二部(原作小説では4冊分)にあたる話がすべて詰め込まれています。なぜか史実とは違って清原真衡が清衡より年下という設定になってるんですが理由は不明。「基衡の巻」は『炎』ではカットされた二代基衡の時代で、ネタが少ない基衡だけに他に描いた小説はほとんどないので貴重です。それぞれ一巻で終わった清衡・基衡に対して、「秀衡の巻」は未完に終わったにも関わらず二巻(単行本では三巻)もあり、『炎』とは逆にここが長い。そんなに書くネタがあるのかと思ったら、案の定源平合戦が延々続く話で奥州藤原氏なんてどこへやら、義経が主人公みたいになっちゃってるらしい。平家滅亡まで書かれて絶筆となりました。その後の秀衡と、最終巻になるはずだった泰衡がどう描かれたか今となっては知る由もありませんが、確か今氏は「泰衡復権」を意図して執筆するとあとがきか何かに書いていたはず。未完に終わったのが残念です。

 この『蒼き蝦夷の血』を原作としたマンガ作品が大河『炎立つ』の放送時に出版されてました。明らかな大河便乗作品ですが、タイトルは『奥州藤原四代』でサブタイトルが「蒼き蝦夷の血」。作者は横山まさみち。実はつい最近新装版の廉価コミックがコンビニで売られてまして、それですっかり忘れてたこのマンガを思い出したわけです。
 最初に出版された時、原作が未完に終わってるのにどうするんだろ?と思ったら、平家滅亡後はやはりオリジナル展開に。しかしその展開がなんというかもうね……。典型的な義経悲劇の英雄物語で、泰衡は愚か者の卑劣な小悪党みたいな描かれ方。横山さんよお、あんた原作者が泰衡復権の物語として構想してたこと知ってる? まさか原作として使わせてもらっといて知らないなんてことないよね? というわけで原作の意図を踏みにじるような描き方に腹がたつやら悔しいやら。そもそもこの人の描く人物って顔立ちで善人か悪人かが丸わかりなんだよなあ。まあマンガらしいっちゃマンガらしいんだけど、義経と泰衡の顔を見ただけで、ああこりゃヤバいと思いましたよ。やれやれ。



#10923 
バラージ 2019/09/03 11:35
主戦場

>私は日本人ではないさん
 はじめまして、でよろしいですかね? 以前によく似た経歴の方がいらしてたような記憶があるんですが、その方とは別人でしょうか?

 で、本論ですが、ドキュメンタリー映画『主戦場』についての僕の感想にご批判があるようですが、正直言いましてあなたの文章を読んでも何をおっしゃりたいのかが今一つわかりかねます。どうも僕が書いた「徐々に旗色の悪くなった否定派がだんだんしどろもどろになっていき、最終的にはこてんぱんにやられちゃうのがなんとも痛快」という部分がお気に障ったようですが、まず第1におそらくあなたは『主戦場』自体はご覧になられていませんよね? 『主戦場』は日本公開の後、韓国でも公開されたという報道は見ましたが、フランスで公開されたというニュースは今のところ聞きませんし(自主上映とかはあるかもしれない)、そもそもあなたの文章には映画の内容に触れた部分が全くありません。だとしたら、まず映画をご覧になってくださいとしか言い様がないんですが、現実的には難しいと思うので一応軽くだけ説明しておくと、否定派の主張のでたらめぶりがドキュメンタリー映画の映像というわかりやすい形で露にされるのが、僕は観ていて非常に痛快だったわけでして、そのような「個人的感想」を書くことの何が問題なのか、あなたの文章を読んでもどうもよくわかりません。
 「仮に正しいとしても、それが日本社会に受け入れられるものか疑問に思います」とのことですが、『主戦場』は東京での単館上映から全国規模へ上映が広がり、ロングランとなっている劇場もあるようですから、少なくともある程度は日本社会に受け入れられていると思いますよ。また、ご自身の経験からフランスの移民問題と絡めて言及しておられますが、現代フランスの移民問題と旧日本軍の慰安婦問題というかなり異なるものを同列に語ることにそもそも無理があるように感じます(人権問題という大づかみの部分では重なるところもあるかもしれませんが)。
 「そのように片側の立場で感情的にものを申すのは、クレバスを拡げて、意見を分断させるのが目的ではと疑います」とか「現実的な場で市民感情が対立するリスクを考えていない、平和ボケした日本人の妄言としか思えませんね。民族感情に訴えて、争いを拡げたいのでしょうか?」といった部分に関しては完全に意味不明。どうして僕が映画『主戦場』の内容について「痛快」と感想を書いたら「クレバスを拡げて、意見を分断させるのが目的」で「民族感情に訴えて、争いを拡げたい」ことになっちゃうんでしょうか? 誰と誰の意見を分断? 民族感情って? 誰と誰の争い? 映画を観ていただければわかりますが、映画に登場するインタビュイーたちは否定派も事実認定派も多くが日本人ですし、米国人インタビュイーにもやはり否定派と事実認定派がいて、韓国人インタビュイーでも意見が分かれている部分があることがわかります。国籍や民族とは関係ありません。また否定派と事実認定派はもともと意見が分断し対立してるわけですから、僕が改めて何かを言ったところで別に変わりはないわけです。
 そもそもただの一般人である僕がここで映画の感想を書いたくらいで「意見を分断」したり「民族感情に訴えて、争いを拡げ」たりできるわけがないと思うんですが。僕にそんな影響力があるわけありませんよ。
 最後に、フランスのお隣のドイツの大学で『主戦場』が自主上映されたというニュース記事がありますので、よろしければお読みください。

【特集】ドイツの若者は慰安婦問題を扱った映画「主戦場」をどう見たか 「歴史を知る」。それは「問い続ける」ということ
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190808-00000002-yonnana-soci



#10922 
私は日本人ではない 2019/09/02 04:49
憲兵なついて追記

「憲兵」という言葉に抵抗がある方の誤解があると思うので。我々は「警察」です。
イタリアでは国家憲兵隊員をカラビナーゼと言いますが、カラビとはカービン銃。つまりは、
「三銃士」です。
戦争で他国を制圧した時に、その治安を制圧した側が担保せざる得ないので、制圧地域の刑事事件を担当する為に産まれた制度なようです。平時は刑事事件を担当し、
有事には、制圧地域の治安を担当する。そのような歴史で産まれたようです。
警察に対する歴史の違いで、我々は「警察」です。
「軍隊」ではありません。歴史的に外人部隊からビシー政権への反旗があったようで、国家憲兵隊は仏外人部隊との関係が深く、外人部隊除隊者の有職率は少なくありませんが、それでも数パーセントです。



#10921 
私は日本人ではない 2019/09/02 04:11
よく解りませんね

バラージさんが、映画の批評で、否定派がしどろもどろになってゆくのが痛快と書かれていました。
そのような意見もあるのかなと思います。
勘違いをしないで欲しいのですが。
私は日本人ではない。仏外人部隊に15年を勤務しまして、現在はフランス人です。元はハーフです。現在は憲兵隊員です。私は経歴から多数のアジアやアフリカや中東からの戦友と過ごしました。実は仏では、部隊でも市民生活でも少数派なので、仲良しなのですよ。
ケンカがある?
無いとは言いませんが。それを言うと純フランス人社会に呑まれるので、非仏純粋派いがいは、過去はともかくとして結託する方向にあります。今の日韓や日中には簡潔なくアジア人はアジア人で固まるのです。
社会にフランス人として国籍を得た仲間にはアフリカ系もいますので、仕事とは関係なく、有色人種差別には、
同調します。なので、今の日本と韓国の争いには、もう少し冷静になれないものかと思います。
それでバラージ様のご意見ですが。仮に正しいとしても、それが日本社会に受け入れられるものか疑問に思います。フランス人として。
どの国にも黒歴史はあります。それは善悪の事はおるとは思います。だけれども、軍を離れ、庶民の中で刑事事件を管轄する者として、「受け入れられるか否か」は別であると思うのです。それは我々の任務でも、ムスリム移民社会で感じるのです。
差別はある。最前線の我々も思う。我々は国の為に義務を命懸けで果たして国籍を得たので、何もしていないで主張する移民には反発がある。君らはフランスの為に何か血を流したのか?と。
だけれども、国がそれを認めるならば、対等に扱うのが
警察権力である我々です。このようなジレンマを御理解戴きたい。その上でですが。
逮捕する中には、かつてフランスに被害を被り、日本で言うゲットーに追いやられた若者は少なくないです。
時に同情を禁じ得ない!
だけれども、その弁の正統性を問わずに、「痛快」でおるとは、自分とは対立する側の人の気持ちを逆撫でしていませんでしょうか?
どちらが「正統」であるとか「正義」であるとか、主張は様々だあります。そしてどちらも簡単には被害者意識や偏見を越えられません。
どちらにも「感情」があるので。「正義」では、簡単には埋める事が出来ないクレパスがあります。
それは長い時間軸でしか埋められない感情が残るのですよ。「痛快」と思うのは勝手ですが、そのように片側の立場で感情的にものを申すのは、クレバスを拡げて、意見を分断させるのが目的ではと疑います。
感情的に対すれば、必ずや反発があります。それは時間と議論を経由して、傷を埋めてゆくしかない!
それは対テロから(現場の者として中東系は不利であると感じる)刑事事件まで捜査する者としての感想です。
現場で両者の立場に立たざる得ない者として、簡単に「痛快」とか言われるのは、現実的な場で市民感情が対立するリスクを考えていない、平和ボケした日本人(繰り返し言いますが、私は今はフランス人だ!)の妄言としか思えませんね。民族感情に訴えて、争いを拡げたいのでしょうか?




#10920 
バラージ 2019/08/31 22:26
アナーキーな映画

 『金子文子と朴烈(パク・ヨル)』という韓国映画を観ました。
 関東大震災直後に起こった朝鮮人虐殺の最中に逮捕され、爆弾による皇太子(後の昭和天皇)暗殺を謀ったというでっち上げの大逆罪で死刑判決を受けた(直後に恩赦で無期懲役に減刑)植民地朝鮮出身のアナーキスト(無政府主義者)朴烈とその恋人である日本人アナーキスト金子文子を描いた映画です。以前、映画祭で『朴烈(パク・ヨル) 植民地からのアナキスト』という邦題で上映されたことや、その後上記邦題で劇場公開された際に「無味乾燥な邦題になっちゃった」と感想を書いたんですが、実際に観てみたら朴烈と金子文子のダブル主人公と言っていい映画なので、むしろ上記邦題で正解ですね。原題は『朴烈』ですが、最近の韓国では長いタイトルは嫌がられるからだそうです。
 僕はこの2人を全く知らなかったんですが、それは韓国でも同様らしく出演俳優たちも全然知らなかったとのこと。朴烈ら同志は爆弾入手を計画はしたものの失敗に終わっており、また爆弾の使用目的もはっきり決まってはいなかったようです。また朴烈は文子を巻き込まないために計画を秘密にしていたそうですが、彼女は自分も計画の仲間だと主張して、同様に逮捕されたとのこと。大逆事件というでっち上げの構図も彼らは自らの思想を法廷で主張するために積極的に受け入れ、法廷で堂々と弁論を展開していったんだとか。
 映画は2人の出会いから、関東大震災(CGも使ってかなりリアルな描写)と自警団による朝鮮人虐殺、国際的批判を恐れた政府による隠蔽のスケープゴートとしての朴烈らの逮捕と取り調べ、そして裁判までを描いています。全編日本が舞台で7割ぐらいが日本語の映画ですが、日本在住経験のある韓国人俳優や日本出身の在日コリアン俳優、そして日本人俳優を多く起用しており、時代考証にも不自然なところはほとんどありません。特に金子文子役のチェ・ヒソ(中村アンに似てる)は小学生の時に日本に住んでいたそうで、ほぼネイティブな日本語の台詞を話していて非常に好演。韓国にある当時の日本語の裁判資料も読み込んだそうだからすごい。朴烈役のイ・ジェフンもこれまた熱演でしたね。
 唯一、ん?と思ったのは、内務大臣の水野錬太郎があまりにもわかりやすい悪役になっちゃってるところで、観終わってからパンフを読んだら、やはりそこは史実と異なるようです。イ・ジュンイク監督の意図としては「日本人vs朝鮮人」という民族的な構図になるのを避けたかったようで、そこで水野1人に悪役を集約し、その一方で2人を支援する布施辰治弁護士などの良心派日本人も多数登場させてるんですが、政府の中で1人だけ徹底的な悪役にされちゃった水野はちょっと気の毒。
 自警団による朝鮮人虐殺やアナーキストによる天皇制批判などの描写はいずれも史実であるとはいえ、日本映画だったらなかなか描けなかったでしょう。力作でした。


>『炎立つ』の思ひ出
 大河ドラマの思い出、今回は奥州藤原氏の興亡を描いた『炎立つ』。地元が舞台ということで僕の地方では放送前から大いに盛り上がり、地元の大型書店に大量の中吊り広告がぶら下がってたのを覚えています。撮影用に新たにオープンセットとして建設された「えさし藤原の郷」は、現在に至るまで大河ドラマなどの撮影がたびたび行われる一大テーマパークとなりました。
 当初NHKは原作の高橋克彦に、清衡・基衡・秀衡の奥州藤原氏三代を題材として依頼したらしいんですが、高橋が「前九年の役からやりたい」「最後の主人公は泰衡にしたい」と要望したらしく、「経清(前九年の役)・清衡(後三年の役)・泰衡(源平合戦&奥州合戦)」という構成になったようです。これについては僕も賛成で、基衡はネタが少ないし秀衡の前半生もネタほぼ皆無だし、そもそも実は地元民としても1番盛り上がるのは奥州藤原氏以前の前九年の役だったりするんですよね。また泰衡復権というのも、それ以前に今東光が小説『蒼き蝦夷の血』で試みながら絶筆となって果たせなかったことでした。
 ただ、気になったところもいくつかあって、まず藤原経清って人を全然知らなかったこと。おそらく地元でも知名度は相当低かったはず。前九年の役というと安倍貞任で、経清って誰?状態でした。当時すでに『蝦夷の末裔』(高橋崇、中公新書)を読んでたと思うんですが、経清は全然印象に残ってませんし、清衡の父で前九年の役で安倍氏側についたと知って、そんな人いたんだと思ったほどです。次に第一部において配役のネームバリューから安倍氏や源氏に比べて清原氏の扱いが軽いと予想できたこと。清原氏は歴史的には両者に匹敵する重要で大きな勢力なんですが、どうもドラマでは完全な脇役に追いやられていたようで、そこはちょっとがっかり。また、あくまで個人的にですが渡辺謙は泰衡のイメージとは違うな~とも思いました。泰衡はもうちょっと線の細いイメージだったんですよね。原作の高橋は同じ東北を舞台とした大河『独眼竜政宗』に思い入れがあったらしく、それで主人公に渡辺、その(第三部の)父・秀衡役に『政宗』で主人公の父・輝宗を演じた北大路欣也を希望したようです。やはり『政宗』に出演した村田雄浩が貞任役になったのもおそらく高橋の希望だったんではないかと。最後に1番引っ掛かったのは、なんといっても第三部で義経北行説を取っちゃったこと。公式ガイドの鼎談で高橋が明言してて、渡辺も「先生、ぜひ義経を逃がしてください!」とノリノリでした。泰衡復権のための方法が義経北行説だとしたら、そんなトンデモ説でも取らない限り泰衡の復権はできないと言ってるようなもんで、それは逆効果なんではあるまいか? 判官贔屓嫌いの僕は本当にがっかりしました。
 とはいえ『琉球の風』最終回からのハイパーリンク予告がなかなかにかっこよく、また『水戸黄門』を卒業したばかりの里見浩太朗と西村晃(金売り吉次)が大河でまた共演という話題もあって、初回は観た記憶があります。しかし、実際に観てもやっぱりどうもしっくり来なかった。結局、第一部をところどころ観たにとどまり、第二部はほんのチラッとだけで、第三部は全く観ませんでした(週刊テレビ情報誌であらすじは追っかけてましたが)。
 なお原作の高橋は思い入れが強すぎたか、第一部の執筆に時間をかけすぎて第二部の中盤で中島丈博の脚本が原作に追いついてしまい(第一部にあたる部分が三巻なのに、第二・三部にあたる部分が一巻ずつだったので変だなとは思った)、NHKも含めた三者協議の末にそれ以降は中島とNHKの主導でドラマのストーリーが作られたとのこと。予定にはなかったゼロからのストーリー作成をすることになった中島は怒り心頭だったようで、その顛末を雑誌や著書に記しているそうです。僕はそれについてはずっと後に知ったんですが、その影響なのか秀衡役の北大路がいつの間にか降板して渡瀬恒彦に代わっていたので、あれ?と思った記憶があります。北大路が病気にでもなったのかと思いましたが、どうもそうではないようなので不思議だったんですよね。
 ずっと後になってからビデオで総集編を観ましたが、やっぱりうーんという感じ。なんというかストーリーも演出もどうもしっくり来ません。特に、同じ高橋原作の『北条時宗』『アテルイ伝』にも共通することなんですが、女性キャラが魅力に乏しい。高橋の小説は読んだことがないんですが、男同士の熱すぎる友情を描くのは得意だけど女性描写は苦手という感想もちらほらあったりして、だとしたらやっぱり趣味が合わんなあ。じゃあ実質中島のオリジナル脚本となった第三部はどうかというとこれもどうも……。まあ経緯から言って中島も気乗りがしなかったんだろうけど、ずいぶん薄いドラマだったような。女性描写についても妙にどろどろだったらしく、中島の近年のヒットドラマが昼ドラ『真珠夫人』『牡丹と薔薇』と考えると想像がつくような。
 そして義経北行説ですが、監修の入間田宣夫が歴史学者としては認められないと頑強に反対したそうで、結局泰衡によって逃がされるものの途中で何者かに襲われ(総集編を観た限りでは山賊か何かかと思ったんですが、秀衡の舅で泰衡の祖父の藤原基成(林隆三)が襲わせたらしい)生死不明という玉虫色の結末に終わりました。義経北行説に反対だった僕ですが、実際に総集編を観た感想としては、あんな中途半端な展開にするくらいならちゃんと義経を生き延びさせたほうが良かったんじゃないかと。あれじゃあ主人公・泰衡のしたことが全くの無駄に終わって、ドラマとしてちっとも面白くないし、物語的にもわざわざ義経を逃がした意味が全然なくなってしまいます。入間田の歴史学者としての考えもわかりますが、原作者による物語の肝と言ってもいい部分が歴史監修(史実考証)の意見でひっくり返るというのはそもそも問題があるように思います。もっとも第三部は原作者が事実上離脱していて、脚本の中島やNHKは北行説に思い入れもないんで妥協して適当にお茶を濁しちゃったんでしょう(ドラマ終了後に出版された原作では義経はちゃんと生き延びているようです)。
 奥州藤原氏が主人公の映像作品がまた作られる可能性はかなり低いでしょうし、泰衡復権は義経や頼朝が主人公のドラマでは無理でしょうから、こんな結果に終わってしまったことが残念でなりません。つくづく不幸な道程をたどったドラマでした。平均視聴率も17.7%と低迷。

>mozawaさん
 沢口靖子の李香蘭、良かったですよね。山口淑子さんご本人には、「歌のシーンでは音を消して拝見しました」って言われちゃったらしいですが(笑)。沢口靖子は1995年版の映画『ひめゆりの塔』もなかなか良かったですよ。

>徹夜城さん
 すでに書きましたが、『さよなら李香蘭』は某有名動画サイトに全編あげられております。4時間の長さですが、かなりの秀作ですので観て損はないと思いますよ。ちなみに当初は和田勉が監督する予定だったらしいんですが、いったん製作が中止になり再び製作されることになった時に降板したとのことです。



#10919 
徹夜城(もう8月が終わることに焦る管理人) 2019/08/30 23:10
ちょっと前のベストセラーを

 ただいま「史点」を一か月以上ぶりに書いてる最中(汗)
 さてそんな中でもいろいろ歴史本を並行して読んでるんですが、その中に「サピエンス全史」上下巻があります。何年か前に売れて、その便乗本を買った僕ですが(笑)、本体の法を今頃買ってチビチビと読んでます。人類史全体を俯瞰した本ですが、序盤の旧石器時代段階でめっぽう面白い。こういうネタも好きなんですよね。
 現生人類の「意識革命」とは何だったのか、それは「架空の話ができること」だという話とか、人類史の大半を占める狩猟採集生活の実態、そして人類が拡散していく過程で世界中の大型生物がハイスピードで絶滅していく恐るべき展開などなど。

>歴史番組
 ちと間が空きましたが、先日のNHKの「歴史秘話ヒストリア」が「三国志」。東京国立博物館でやってる展示とのタイアップですが、まだ見に行ってなくって。
 番組全体については新鮮味はなかったんですが、なんつっても往年の名作(と自分で言ってた)「人形劇・三国志」を当時のスタッフおよび谷隼人・森本レオの声の出演で30ウン年ぶりの復活をしたのが見物でした。完全に同じではないけど雰囲気はよく再現してました。いったん死んだ劉備が「言い忘れた」と言って蘇るというギャグまであり(笑)。
 関羽・張飛も出て来てましたがクレジットがないところを見ると別の声優さんがソックリにアテたようですね。
 「人形劇三国志」は当時の僕を歴史好きに引きずりこんだという点で「徳川家康」ともども「自分史」で重要な位置を占めてます。この「人形劇」をやると知って母が買ってきた岩波少年文庫版「三国志」がまた名訳でして(児童向けダイジェストながらかなり細かい)一気に僕を中国史にハマらせたものです。怪盗ルパンも同時期くらいに全訳読んでるから、このサイトの「多趣味」のかなりの部分はこの時期に根があるんですよね。


>李香蘭ドラマ
 バラージさんとmozawa(こちらではお久です)の挙げてた話題に関連して。
 李香蘭ドラマは大きく二度作られてるようですが、僕自身はどちらも見てません。接点のある川島芳子とか嵯峨浩のドラマで顔を出してたのを見たような、という程度で。
 で、話が大きく飛ぶ感がありますが、ただいま放送中の倉本聰ドラマ「やすらぎの刻」の序盤で、主人公の脚本家が「ベテラン大物女優」たちを使った満蒙開拓団の悲劇を描くドラマの執筆を進めていたら、同時並行の別規格が「若手女優主演の李香蘭ドラマ」に奪い取られてしまうというくだりがあり…どうも倉本聰の実体験くさい。李香蘭ドラマというと…と思い当たるところはあるわけです。局は「湾岸テレビ」になってましたかね。

>つねさん
 なるほど、片岡孝太郎さん、ちょうど実年齢で昭和天皇を演じてきてるわけですね。天皇を演じるのは歌舞伎役者、という伝統がありますが昭和天皇についても孝太郎さんが当たり役になるのかもしれません。「終戦のエンペラー」ではセリフもロクになかったですが、今回のはセリフ大量で、しかもよく似せてました。



#10918 
mozawa 2019/08/29 22:02
お久しぶりです

こちらではお久しぶりです。青い鳥の方ではお目汚ししておりますが…

李香蘭、沢口靖子のベストではないかと思っています。このあと、太平記で直冬に厳しく義詮を溺愛する悪女を演りきれなかったのが惜しいと常々残念です。
今振り返れば、キャストは太平記組がいたんですねえ。

話は変わりますが、呉座勇一先生の「戦争の日本中世史」を読んでいます。尊氏没後の動きがイメージできるのは、主様の架空大河のおかげです。



#10917 
つね 2019/08/24 10:55
拝謁記

私もNHKスペシャル見ました。一級資料による後付けという意味では凄いのでしょうが、昭和天皇が退位や反省の表明をしたがって、吉田首相が止めたという流れ自体はどこかで見たことがあり、この部分をスクープとするのはやや疑問。憲法改正への言及とかも意外感はないし。まだ研究中なので、これから知られざる事実が出てくるかもしれませんが、ややNHKの自画自賛気味な気もしました。当たり前のことながら昭和天皇も独特の立場にありながらも一人の人間・政治家だったという点に焦点が当てられたような気もしました。

再現ドラマは見ごたえありましたね。
ちなみに偶然でしょうが、
終戦時(1945年)→昭和天皇44歳
サンフランシスコ平和条約発効の記念式典(1952年)→昭和天皇51歳

「終戦のエンペラー」(2012年アメリカ公開)→片岡孝太郎さん44歳
「拝謁記」(2019年)→片岡孝太郎さん51歳



#10916 
バラージ 2019/08/24 00:14
歴史映像作品感想追記・日本史編③

 名画座未掲載の歴史映像作品の感想の追記、明治~敗戦編の後編です。

『さよなら李香蘭』……#9525、#10664
 1989年12月にフジテレビで2時間半×二夜連続で放送されたスペシャルドラマ。原作は山口淑子・藤原作弥共著の『李香蘭 私の半生』。当時僕は李香蘭という人を全く知らなかったのになんで観たかはもう覚えてないんですが、多分たまたま初日を観て面白かったんで2日目も観たとかだったんではないかと。あるいはビデオで観たんだったかな? 残念ながらDVD化はされてなくて、中古ビデオもクソ高いしなあと思って某有名動画サイトを探したら全編あげられてました。CM抜きでも4時間もあるんですが、久々に観たくなって20年以上ぶりに全編観たら、面白くてついつい一気観しちゃいました。やっぱりこれDVD化してほしいなあ。
 李香蘭の半生に関わった人たちが入れ替り立ち替り登場する文字通りの超豪華キャストで、予算を8億円もかけたらしく(う~ん、バブル時代)大規模な中国ロケが行われた壮大なスケールの大作となっています。日本軍の悪行もきちんと描かれていて、特に序盤で平頂山事件が出てきてたのは今回観直して初めて気づいたというか、すっかり忘れちゃってたようで全く記憶にありませんでした。平頂山事件の映像化って多分他にはないんじゃないかな。その一方で、日中友好の夢破れて酒に溺れていく父・文雄(平幹二朗)や、やはり同様に阿片に逃避する、満映に淑子を歌手として紹介した陸軍報道部中佐・山家亨(小林稔侍)、従軍する自分を自嘲するリベラルな小説家の田村泰次郎(勝野洋)、駆り出された戦争で死ぬ下級兵士(柳葉敏郎)など、時代と国家の犠牲となった日本人にもかなりスポットを当てています。キャストの中でも特に印象に残ったのが甘粕正彦役の片岡鶴太郎と川島芳子役の山田邦子で、当時はまだお笑い芸人のイメージが強かった二人の意外な好演は助演男女優賞もの。個人的には歴代の甘粕役と川島役でベストなんではないかと思います。
 忘れちゃいけない主人公の李香蘭を演じた沢口靖子。歌に中国語(ただしドラマは大半の部分が日本語ですが、まあ茶の間にお届けするテレビドラマですからね)とかなり大変だったでしょうが、彼女もなかなかの好演でした。松岡洋右を父とする海軍士官・松岡謙一郎(西城秀樹)や、ボディガード役の東宝文芸部員・児玉英水(三田村邦彦)との淡いロマンスも良かったです。主演の彼女が良くなきゃ、ここまで良いドラマにはならなかったでしょう。熱演でした。
 配役であえて難点を言うと、プレイボーイだった山家役が小林稔侍ってのはちょっとイメージに合わないかな。稔侍さん、間違いなく好演ではあるんですが、風貌やキャラクター的にプレイボーイのイメージはないですよね。あと、中国人役も日本人俳優が演じてるのもちょっとあれですが、そこはまあこの時代の限界でしょう。
 ちなみに中国ロケの途中で中国政府から急かされて帰ってきたら直後に天安門事件が起こったらしい。

『李香蘭』……#9488、#10678
 こちらは2007年のテレビ東京の2時間半×2夜スペシャルドラマで、原作は山口淑子『「李香蘭」を生きて 私の履歴書』。地元にテレ東系列局がないんでテレビ放送で観れなかったこともありますが、上記『さよなら李香蘭』が傑作だっただけに、DVDがレンタルされてもほとんど同じストーリーのドラマをわざわざ観る気が起きず、ずっと未見でした。そしたら数年後にBSジャパン(現BSテレ東)で放送されたんで、タダならと思ってその時に観ました。
 観た感想としては、やはり『さよなら李香蘭』に比べるといまいちな出来。なんだか戦争中の満州や中国(日本も)という緊張感に欠けるマイルドな雰囲気のまったりとした展開で、満州国や日中戦争における日本軍の蛮行の描写も少なく、というよりも戦争の描写そのものが少ない。日本軍の下級兵士も確かほとんど出てこなかったはず。こっちの原作は未読なんで原作同士の違いはわからないし、また脚本や演出のせいもあるんだろうけど、あるいはこれは予算の関係もあったんですかねえ。俳優陣も脇役や友情出演に至るまで豪華だった『さよなら李香蘭』に比べるとかなり小ぶりでずいぶん見劣りがします。まあ、このあたりはテレ東と全盛期フジの差なのかもしれませんが、それにしてもなあ。主演の上戸彩はまだしも、川島芳子役の菊川怜と甘粕正彦役の中村獅童は残念ながら山田邦子と片岡鶴太郎には遠く及びませんでしたし、山家亨役が小野武彦ってのも……。小野さん、いい役者だとは思うけど、小林稔侍以上にプレイボーイには見えませんよね。
 いろいろ悪く書きましたが、『さよなら李香蘭』に比べればってことで、駄作というわけではありません。ただ、やっぱりこの時代を描くにしては“薄い”ドラマだなぁと思わざるを得ませんでした。
 それにしてもこうして見ると、僕はハリマオといい李香蘭といい、国と国、あるいは民族と民族、文化と文化、ある集団とある集団など、「なにか」と「なにか」の狭間、境界線の上で、どちらにも所属することができないまま孤独に立ち尽くしているような人物に惹かれるところがあるようです。

『杉原千畝 スギハラチウネ』……#10022
 これはあらかた書いたんで付け加えることはあまりありません。まごうかたなき駄作です。1つだけ追記すると、小日向文世が演じる大島浩駐独大使がほとんど悪魔的人物に描かれてるのがなんとも。確かに大島は熱烈なナチスとヒトラーの崇拝者だったようですが、本作での大島は小日向さんがドラマ『相棒』で演じてた悪魔的(メフィストフェレス的)犯罪者に近い演技と描写で、実在の人物をそういう風に描いては逆に事実から離れてしまうように思います。

『黒い太陽七三一 戦慄!石井七三一細菌部隊の全貌』……#9549、#10609
 人体実験を行ったことで有名な関東軍七三一部隊を描いた香港映画。日本では映画祭で『黒い太陽七三一 戦慄!石井細菌部隊』の邦題で上映後、にっかつビデオより同邦題でビデオ化、後に上記の邦題で劇場公開され、マクザムよりビデオが再発売されました。DVD化はされていません。僕は最初のにっかつ版ビデオで観ましたが、パッケージデザインがアングラ映画みたいなグロいやつで借りるのにちょっと勇気がいりましたね(マクザム版はまとも)。
 1945年3月に七三一部隊長に再任された石井四郎中将が赴任してきてから、8月にソ連軍の侵攻で研究所の破壊と証拠湮滅を行った上で逃亡するまで、研究所で行われる数々の人体実験をドキュメンタリータッチで淡々と描いていく映画です。日本人役もすべて中国人俳優が演じてますが、日本版では日本語で吹き替えられていて不自然さはありません。グロいシーンが多いのでそういうのが苦手な人にはおすすめできませんが、そもそも七三一部隊の人体実験がグロいんだから仕方がない。ややストーリー性が弱いという欠点もありますが、なかなかに硬派な社会派映画でした。
 1作目で話は完結してるんですが、マクザムで再発売された際に続編として『黒い太陽七三一Ⅱ 悪魔の生態実験室』『黒い太陽七三一III 石井細菌部隊の最期』という映画が同時にビデオ化されています。しかし監督が悪名高いフィルマーク社でパクり映画を乱造したゴッドフリー・ホーに変わっており、僕は未見ですが無許可で映像を一部パクって勝手に作った続編なんではなかろうか。ゴッドフリー・ホーの映画は観たことないけど評判を聞くとやりかねない。この続編のみがビデオメーカーというところからDVD化されてるのも多分権利先が違うからでしょう。DVD邦題も『黒い太陽 恐怖の細菌部隊731 殺人工場』『黒い太陽 恐怖の細菌部隊731II 死亡列車』と変えられて1作目をなかったことに見せかけようとしてるあたり、DVD出してる日本の会社も……(笑)。

『海と毒薬』……#9525
 太平洋戦争末期の1945年に起こった九州大学生体解剖事件をモデルとした遠藤周作の同名小説を熊井啓監督が映画化。実際の事件をモデルとしてはいますが、ストーリーや登場人物はオリジナル性が強いようです。
 『黒い太陽七三一』と類似テーマの作品ですが、映画としての完成度はこちらのほうが上。異常な行為を描きながら、淡々と静謐に物語が進んでいくのが、冷えた静かな底知れぬ恐怖を感じさせます。モノクロの映像が戦争中の雰囲気を醸し出すことや、生体解剖手術のグロさの緩和に非常に効果的に使われています。そのモノクロ映像とともに、2人の主人公である良心派と冷徹派の医学部研究生(奥田瑛二、渡辺謙)の対比や医学部内の熾烈な権力闘争など、『白い巨塔』に類似してるところも。

『三たびの海峡』……#9525
 太平洋戦争末期に日本へ強制連行された朝鮮人男性の戦中・戦後を描いた帚木蓬生の同名小説を神山征二郎監督が映画化。戦後50年の1995年に製作された太平洋戦争映画の1本です。
 1995年現在、韓国で会社を経営する主人公(三國連太郎。若い頃は李鐘浩)の回想という形で物語は描かれていきます。主人公は最初は1945年に強制連行されて対馬海峡を渡り、2度目は日本の敗戦で朝鮮へ帰るために愛し合う日本人女性(南野陽子)と再び海峡を渡り、そして3度目はそれから50年後……。主人公が送り込まれた北九州の炭坑での危険で過酷な労働と、朝鮮人の命など屁とも思わぬ労務監督(隆大介)との関係が物語のポイントとなっています。
 徴用工問題が持ち上がってる今こそ観るべき映画とも言えますが、映画としては力作ではあるものの映画的“遊び”の部分が今一つ少なく(神山監督らしいとも言えるが)、また現在のパートで老け役の俳優(三國ら)と老けメイクの俳優(隆ら)が混在してリアリティーを損ねているなど、いろいろと惜しい部分のある映画です。


>中国ドラマ『麗王別姫 花散る永遠の愛』
 よ~~やく録画を観終わりました。いや~、終盤のラブ史劇展開がどうにもこうにもきつかった。このドラマのイケメンどもには本当にイライラしました。特に主人公・沈珍珠の夫・李俶(後の代宗)。準主人公で一応頭のいい設定のようですが、沈珍珠のことになるとすぐ頭に血が上って政務も軍務もほっぽり出して駆け付けようとするし、とてもじゃないけど頭がよさそうに見えない。どう見ても皇帝不適格者にしか思えないんですよね。当の沈珍珠にさえ自分の立場をわきまえろと諭されちゃう始末で、だんだんイケメン顔までもアホ面に見えてきてしまいます(笑)。まあ、このあたりは沈珍珠役のジン・ティエンと李俶役のアレン・レンの演技力の差なのかもしれませんが。個人的お目当てのレジーナ・ワンは恋敵役のサブヒロインということもあって、映画『軍中楽園』『戦神 ゴッド・オブ・ウォー』に比べると今一つ。演技はさすがですが、役どころがね。
 ともあれ、この時代を描いた映画やドラマは楊貴妃ものがほとんどで楊貴妃が死ぬところで話が終わってしまうため、それ以後(玄宗の次々代で孫の代宗即位まで)も描いた本ドラマは興味深く観れました。フィクション度が強いながらも、大枠では史実通りのようですし。といっても全80数話のうちレジーナ・ワンの出てくる後半40話ぐらいしか観てないけど(笑)。

>欧州歴史ドラマ
 『オスマン帝国外伝』『エカテリーナ』『イザベル』は、いずれもCSのチャンネル銀河で放送されたものが、そのままBS日テレで放送されたようです。チャンネル銀河では『フアナ~狂乱のスペイン女王~』『カルロス~聖なる帝国の覇者~』もすでに放送済みのようで、現在は『オスマン帝国外伝』のシーズン3が放送中。



#10915 
徹夜城(下の書き込みで名前が表示されてない管理人) 2019/08/22 21:21
書き忘れの海外ドラマ

 下の書き込みに書き忘れ…というより、長くなるので分けて書きます。

「クイーン・メアリー」
 NHKで放送してたやつ、ようやく全部見終えました。シーズン3まであって全部で60回ぐらいあったのかな。これまで何度も映像化されてきたスコットランド女王メアリー・シチュアート(今年も映画がありました)、このドラマは彼女がフランス王妃だった時代から初めて、多くの登場人物とよく言えば飽きさせない、悪くいうと悪趣味(笑)なエピソードを羅列して延々と続くドラマにしたもの。正直ついていきにくいと思いつつ全部見ましたが…
 これ、シーズン3で打ち切られたんですかね。多くの伏線をぶっちぎって、最後の10分くらいでいきなり21年後の処刑シーンに飛んで、はい、オシマイ。さすがに唖然としました。ほとんどフランス史のドラマになってたような気もするなぁ。

「イザベル~波乱のスペイン女王~」
 いまBS日テレで放送中。この枠は「オスマン帝国外伝」「エカテリーナ」と海外歴史ドラマ枠になってるのか、今度はスペイン直送のこのドラマが放送されてます。録画だめしつつチラ見してますが、コロンブスも出てきますね。
 スペインではこのあと「フアナ」「カルロス1世(=カール5世)」と三代続けてドラマ化していて、どうもこれらも日本上陸してくれる気配が。これまで日本では紹介されてこなかったこうした国々の歴史映像が見られるというのはいい傾向です。



#10914 
2019/08/22 21:05
本業の血が騒いだか

 例によって「史点」は一か月ほどサボってますが、ちょうどいいというか、今年のG7サミットはこれからやるんで、贋作サミットともども更新ということになりそうです。

 そこでもネタにされそうですが、トランプ大統領がグリーンランドの「買収」を言い出し、それを「冗談だろ」と相手にしないデンマークと首脳会談をキャンセルして「おいおい、マジなのか?」と注目されてるわけで。トランプさんの言動は、素でヘンなのでパロディにしにくいと改めて思いました。
 「史点」でも書くだろうからここでは簡単にしますが、アメリカは過去にアラスカを二束三文でロシアから購入した歴史がありますね。その辺を念頭に置いてるのか、温暖化を見込んで不動産屋の血が騒いだのか…おういや来年のG7にロシア招待とかも言い出してますね。

>皇位継承史
 佐伯智広「皇位継承の中世史」(吉川弘文館歴史ライブラリー)を読了。南北朝がらみで興味があったんで買ってみたんですが、中世史の前座となる古代史の皇位継承史からやってて、ここが案外面白かった。古代における兄弟間継承、女帝即位の例についての最近の学界の考え方が書かれてて、なるほど、と。この時代にはある程度政治的指導力が求められたんで大人じゃないとダメってんで兄弟や女性に行くんだけど、摂関政治成立でその必要がなくなるわけですな。
 中世史では院政、源平合戦、鎌倉幕府と両統分裂の過程が書かれてて、こっちは僕も見聞きした話が多いんですが、ここでも両統分裂以前の話が知らんことも多くて面白く読めました。知ってはいたけど四条天皇の死に方は歴代天皇史上もっとも…(汗)なものではありました。

 この本、ちょうど今年の皇位継承に「便乗」した煽り文句が帯に書かれてるんですけど、あとがきによると作者は八年前から準備していたと。もちろん天皇が生前譲位するなんて全く予想もしてなかったとのことでした。

>NHK夏の歴史番組
 バラージさんも触れておられますが、今年のNHKの夏の戦争関連、近現代史関連の番組はなかなか充実しておりました。全部見たわけではないんですが、見たものについて軽く(ツイッターで放送直後につぶやいたりしたんで、即座にこっちに書く気にはなれなかったんですよね)。

「かくて『自由』は死せり」
…これは夏のホラー番組だと思いましたね。戦前の極右新聞「日本」を中心に昭和前期の日本社会が一気に右傾化していく過程を描いていて、その新聞の影響力そのものはちと疑問も感じましたが、恐慌のなか強硬意見が通ってゆき、議会政治も終わっていくのが思いのほか急展開だったことにかなりの怖さを感じます。特に大正デモクラシーの影響を受けた自由主義な地方教師が極右へと変貌していくところはかなり怖い。それと浜口雄幸狙撃犯の法事に今も集まる民族主義者たちの光景も…

「二・二六事件」
 これ以上新資料なんて出るんかい、と思ってたら、海軍内で詳細な記録史料があったというもので、確かにかなりの内容。特に凄いのは事件実行前の段階で事件首謀者や暗殺対象リストがほぼ完全に把握されていたこと。sこまで分かってて…と思うばかりで。先日紹介した映画「動乱」でも首謀青年将校たちの動向を監視してるキャラ(確か米倉斉加年)が出てきましたが。

「昭和天皇拝謁記」
 これも大変なスクープ。NHKが番組に仕立てただけでなくニュースでも独占的にやりましたが、他のマスコミも後追いしてますね。
 初代宮内庁長官だった人物が、占領期の昭和天皇とのやりとりを詳細に記録したもので、昭和天皇の戦争への反省や戦後の自衛隊、安保体制についても思いのほか積極的に発言していて、うっかりすると「象徴」からはみ出しそうなほどだったことが分かって面白かった。実は戦時中も戦争指導にノータッチだったわけでもなく、上記の二・二六でも「大元帥」として結構指揮権発動してるんですよね。
 NHKの番組自体は主権回復時の「おことば」をめぐる攻防に焦点が置かれていて、片岡孝太郎演じる昭和天皇と橋爪功演じる宮内庁長官の二人芝居がドラマとして見ごたえあり。片岡さんは「終戦のエンペラー」でも昭和天皇役でした。

 それにしても、こにの「拝謁記」、記録した当人は晩年にこれを焼き捨てようとして息子さんに止められたとか。大変な歴史資料もこういうアブナイ綱渡りで残されるおのなのだなぁ、と思うばかりでした。



#10913 
バラージ 2019/08/20 00:06
論争の彼方に

 話題のドキュメンタリー映画『主戦場』を観ました。在日中の大学院生である日系米国人のミキ・デザキ監督が、慰安婦問題について論争する日本・米国・韓国の否定派と事実認定派双方の30人近い論者たちにインタビューし、さらに大量の記録映像やニュース映像、記事や研究などを検証・分析して慰安婦問題を描き出したドキュメンタリー映画です。監督は当初は慰安婦問題にそれほどくわしくなく、自らが日本社会で受けた人種差別の経験や、それをYouTubeで紹介したらネット右翼に攻撃されたこと、そして元慰安婦の証言を初めて報道した元朝日新聞記者の植村隆も自分と同じようにネット右翼に攻撃されたことを知り、慰安婦問題に興味を持ち理解したいと考えたそうです。
 映画は、「慰安婦は20万人いたのか?」「性奴隷だったのか?」「強制連行はあったのか?」などなどの論点について、対立する双方の主張や意見を交互に紹介していくという構成がまず面白い。双方の主張は最初のうちはイーブンのようでいて、徐々に旗色の悪くなった否定派がだんだんしどろもどろになっていき、最終的にはこてんぱんにやられちゃうのがなんとも痛快。多様な論点と情報量を盛り込みながら、それらが整理されて非常にわかりやすく構成されているのにも感心したし、ある意味エンターテイメントとしても面白い映画になっていて、とても初めての監督作とは思えません。韓国や米国にとって耳の痛い話もちゃんと盛り込んでいるのも公平な態度です。
 論者たちの半分くらいは名前を聞いたことのある人なんですが、櫻井よしことケント・ギルバート以外はしゃべっている映像をほぼ初めて見ました。へえ~、こういう人なんだ、と興味深かったですね。否定派の言ってることはほんとにめちゃくちゃなんですが、特に杉田水脈・藤木俊一・加瀬英明あたりはそれを通り越して、なんかコワイというか薄ら寒いというか、そこだけホラー映画のような。あとケント・ギルバートっていつの間にあんな(日本の)ウヨクになったんだろ? 何人かの識者が指摘してる通り否定派の人たちのほうがキャラは立っていて、事実認定派の人たちは常識的である分おとなしめに見えてしまうのはちょっと皮肉。
 そして映画は終盤、慰安婦問題を超えて戦後日本史から現代日本の右派の動向へと切り込んでいきます。そう、一種の「歴史映画」になっていくんです。それは岸信介から孫の安倍晋三へとつながる系譜。90年代後半からの「新しい教科書をつくる会」、そして「靖国神社」「日本会議」……。近年の安倍政権の対外活動については僕も知らないことがあってびっくりしました。こうして映画は最後には監督自身も当然ながら製作時には意図しなかったであろう現在の日韓問題や「表現の不自由」展問題にまでつながっていきます。まさにシンクロニシティというべきか、「すぐれた創作作品というのは時として時代とシンクロしちゃうことがある」わけですね。いや~、面白かった。これ、必見ですよ。
 『新聞記者』にしても『主戦場』にしても、圧力や抗議を恐れてかテレビメディアがそろって黙殺する中で口コミというかSNSで評判が広がり、話題となって全国規模で公開されてるのはうれしい話。どうも最近は嫌なニュースが多いですが、日本人の良心はまだまだ死んでないと思えて心強い。


>戦争番組
 今や数少ない硬派な報道系番組となったTBSの『報道特集』では10日に「松本零士さん、福田元首相が語る戦争」と「台湾の元日本兵が語る戦争」の二本立てを放送。前者では、福田元首相が他でもたびたび語っている公文書管理の重要性が以前から興味深かった話。日本の公的機関は昔から今に至るまで都合の悪い公文書はバンバン廃棄しちゃうんですよね。何かの本で読んだんですが、幕末の一会桑政権について一橋家と会津藩は有名だけど桑名藩は影が薄いよなぁと思ってたら、なんと桑名藩は維新時に文書をほとんど廃棄しちゃったからだと知って驚いたことがあります。後者では、台湾の元日本兵たちが語る東南アジア戦線での飢餓の話が印象的でした。日本軍が補給や兵站を非常に軽視してたことは有名ですが、こういうのを観るともう戦う前に負けていたということがよくわかります。台湾で特攻兵器「震洋」の拠点が発見されたというのも子供の頃に軍艦に夢中になってた身としては妙に懐かしい気持ちに。これ、モーターボートの先っちょに爆薬仕込んだだけの代物なんだよなあ。
 17日には「最悪の日韓関係~和解への道は」と「戦争孤児と500人のお母さん」。前者は、やたら“愛国的”論調が目立つテレビメディアの中では比較的冷静な視点で、韓国の中にも様々な意見があるという、考えてみりゃ当たり前のことが現地ロケを交えて伝えられてました。後者は、これまた非常に重い話。当事者の言葉にはやはり重いものがあります。
 同じくTBSの『NEWS23』では15日に「綾瀬はるか「戦争」を聞く シベリア抑留者たちの記憶」を放送。こちらもまた飢えの話が印象的でした。壮絶な話でしたね。抑留者の記憶があるという、自らのおじやいとこもドイツとの戦争から帰らなかったロシアの老女性の「戦争なんてなくなればいい」という言葉も胸を突かれました。
 そしてまたまたNHKスペシャル、18日は『戦争と“幻のオリンピック” アスリート 知られざる闘い』。これまた重い話で、『いだてん』では皆川猿時が演じてる松澤一鶴も登場。皆川さんもドラマ公式ブックのインタビューで「僕が演じてるとそう見えないでしょうが、本物の松澤一鶴は理系出身の理論派だったそうです」と言ってました。ちなみに主人公の田畑政治もドラマでは新聞記者の仕事をちっともしてないように見えますが、実際にはちゃんと仕事もしてたそうです。そりゃそうだ。でなきゃクビになっちゃうもんね(笑)。番組に戻ると日中戦争・第二次世界大戦だけでなく、『いだてん』でも描かれてましたが第一次世界大戦でも同じようなことがあったでしょうし、1964年東京五輪以後も、西側諸国がボイコットした1980年モスクワ五輪やその報復で東側諸国がボイコットした1984年ロサンゼルス五輪と、スポーツ選手は政治に翻弄されることが続きました。



#10912 
バラージ 2019/08/14 15:30
暗い時代

 NHKスペシャル『かくて“自由”は死せり ~ある新聞と戦争への道~』を観ました。いやぁ、なかなかに重厚なドキュメンタリーでした。近年は「戦中」よりも「戦前」の歴史に個人的に興味があるんですが、そういう本を読んだり映像を観たりしてると、現在に近いところが多いように感じられてちょっと怖くなるところがあります。
 こういう社会全体の右傾化って個人的にはやはり貧困と格差の拡大というのが大きいように思えます。大正から昭和に変わっても大正デモクラシーの影響もあり、世の中がすぐに右傾化したわけではなかったと思うんですが、世界大恐慌がすべてを吹き飛ばしてしまいました。大不況が人々から余裕を失わせ、政治家や財界人に対する国民の不満が鬱積していった。二・二六事件を起こした若手将校たちも都市の享楽に対する農村の貧困という格差に憤りを感じていたことがよく言及されるわけで、このあたりはナチスが台頭したドイツにも同じことが言えるんじゃないかと。
 番組に戻ると、蓑田胸喜(むねき)が出てきたことにちょっとびっくり。実は去年続けざまに読んだ『「天皇機関説」事件』(山崎雅弘、集英社新書、#10618に記述)と『親鸞と日本主義』(中島岳志、新潮選書)に、それまで全然知らなかったこの人が出てきまして。敵と見た相手を激烈かつ執拗に攻撃するその言論姿勢から、名前を文字って蓑田“狂気”と言われたそうで、こんな人に絡まれたら嫌だろうなぁ。敗戦後5ヶ月で自殺しましたが、病気がちだったこともあるとはいえ、結局彼の“観念”が“現実”の前に敗れ去ったことに耐えられなかったんでしょう。彼にとって“自らの観念の死”は“自らの死”と同等だったのだと思われます。
 しかし1番驚いたのは蓑田の息子さんや、国家主義者に転向した伊那の音楽教師の息子さんが登場したこと。こういう人たちが登場すると、蓑田胸喜や音楽教師が実際に生きていた人なんだと実感できます。父の文章を読まないようにしてきたのはなぜですか?と問われた蓑田の息子さん、最後の数ページが破り捨てられた父の戦中日記を見つめる音楽教師の息子さん、それぞれの答が出ないまま何度も思いを反芻しているかのような複雑な表情が印象に残りました。

 そしてBS1スペシャル『幻の巨大空母“信濃”~乗組員が語る 大和型“不沈艦”の悲劇~』も観ました。小学生の頃から軍艦ファンだったのでこれは観とこうかなと思いまして。大半が知ってたことでしたが、これまた元搭乗員の方が語ると艦が沈没するということは戦争であって本当に大変なことなんだなということがわかります。それにしても信濃が完成した時にはもうレイテ沖海戦も終わって搭載機もパイロットもなく、空母が完成しても何の役にも立たなかったんだよなあ。それどころかマリアナ沖海戦で海軍航空部隊は事実上壊滅してしまってましたからね。


>三鷹事件
 前回の書き忘れ。不勉強にも、再審請求が出されていたことを知りませんでした。戦後はまだ終わっていないということか……。下山事件、松川事件は劇映画化されている(『日本の熱い日々 謀殺・下山事件』『松川事件』『にっぽん泥棒物語』)のに、三鷹事件だけされてないのもそのためなのかな。

>五・一五、二・二六映画など
 五・一五事件が描かれた映画としては、僕は未見ですが新東宝の『重臣と青年将校 陸海軍流血史』という映画があるようです。といっても五・一五事件単独ではなく、張作霖爆殺事件から二・二六事件までの昭和日本軍テロリズム&クーデター&謀略史をまとめて扱っちゃったという新東宝お得意の映画のようで、他にも浜口首相銃撃事件(これは軍じゃなく右翼なんだけど)、柳条湖事件、三月事件、十月事件、相沢事件(永田鉄山斬殺事件)と事件てんこ盛り(笑)。DVD化もされてて、デアゴスティーニの東宝・新東宝戦争映画シリーズにも収録されているようです。
 新東宝といえば『大虐殺』という映画もあって、こちらは関東大震災における朝鮮人虐殺・社会主義者虐殺と大杉栄虐殺事件、そしてギロチン社事件を題材とした映画とのこと。主演は天地茂で、『菊とギロチン』では寛一郎(佐藤浩市の息子)が演じていたギロチン社の古田大次郎をモデルにしたと思しき古川大次郎という人物を演じているそうです。新東宝とは思えない(?)硬派な社会派映画らしく、それゆえになのかDVD化はされていません。『暴圧 関東大震災と軍部』というタイトルでビデオ化はされたようですが、もともと映画自体も『暴圧』というタイトルだったはずが、大蔵貢社長が『大虐殺』という扇情的なタイトルに変えてしまったという噂も。

>「表現の不自由・その後」展
 脅迫容疑で逮捕されたトラック運転手は実際にはガソリン携行缶は買っておらず、単細胞な考えで脅迫だけしたらしいですが、ほんとどうしようもねえ野郎だな。どうしようもないと言えば河村たかし名古屋市長も以前からああいう人ですが、維新の会の大阪府知事もなんだかなあ。だいたい昭和以後で“維新”なんて言い出すのにろくなのはいないんだよな。そして今度はその「表現の不自由・その後」芸術監督の津田大介氏が登壇予定だった神戸のシンポジウムが中止となったようで、嫌な流れですねえ。

>大河ドラマ
 『いだてん』は古橋廣之進役で北島康介さんが出演することが発表されたようですね。
 再来年の大河ですが、NHKも何をやったら視聴率が取れるのか相当頭を悩ませてるんじゃないですかねえ。00年代に救世主となった『利まつ』『篤姫』などの“女子大河”も、10年代に入ってからは『八重』『花燃ゆ』『直虎』とそろって討死で万策尽きたというところかも。



#10911 
徹夜城(国立博物館の三国志展をいつ見に行くか悩む管理人) 2019/08/08 22:09
五・一五と二・二六

 受験生には区別がつきにくい両事件についての話題が続いておりますので、僕もまたちょこっと書きます。

 五・一五事件の映像化作品というと、それ単体で扱ってるわけではないですが山本薩夫監督の大作「戦争と人間」には短いながらあったはず。まぁこの映画、張作霖爆殺から満州事変、二・二六はもちろん西安事件まで映像化されてるという、ちょっとした通史的映画でして・

 そして「二・二六事件」ですが、これは多いんですよねぇ。一つには規模が大きいクーデター事件ということ、二つには「雪の中の反乱」というのが忠臣蔵・桜田門外の変と並んで「絵になる」ことが理由ではありましょう。漫画「沈黙の艦隊」で「この国では大雪の日に政変が起きる」というセリフがあったんですが、この三つのイメージが重なってるのだと思います。

 僕も全部把握してるわけじゃないですが、見たものについて。
 まず高倉健主演・森谷司郎監督の「動乱」があります。これ、一応登場人物は全て仮名にし一応フィクション仕立てですが永田鉄山暗殺事件も含めて史実の流れは再現してます。ただ高倉主演のせいもあってか決起将校たちの行動はかなり美化されてまして、それこそ「貧しい国民を救うため」みたいな、どちらかというと左派革命的な趣向で描かれてます。脚本が「戦争と人間」など山本薩夫作品が多い山田信夫のせいかも、とも思うのですが、それにしてもそれは肩入れしすぎだろうと。
 まぁ永享与えたとして死刑になった北一輝がこれまた単純に右翼と言えない、むしろ左翼的な部分も濃厚に持ってたややこしい人なのでそういう解釈も出て来るか、とは思いますが、それで大勢殺してるのは…ああ、北一輝といえば三国連太郎が演じた「戒厳令」ってのもありました。

 もう一つあげるとズバリのタイトルの「226」。五社英雄監督、笠原和夫脚本の豪華作で当時宣伝も派手で話題にはなった気もしますが、事件の流れを追っかけてるだけの凡作という感想です。
 ただこれ、笠原和夫のインタビュー読むと、本来はもっとエグい脚本だったのがいろいろ問題ありなところは外されてしまった結果らしいんですね。あくまえエンタメ作品として作る、ということでは正解なのかもしれませんが。
 笠原自身は「二・二六事件は壬申の乱だ」と言ってまして、昭和天皇と秩父宮の兄弟間抗争ととらえていたんですね。そりゃまぁ、そのまんまじゃ企画通らないだろうなぁ。そもそお笠原は「昭和天皇の兄弟はみんな父親が違う」というもっと大変なことを主張してました(これがどうも旧宮家のどこかが情報源だったらしくそれで笠原も信じてた)。
 二・二六事件で秩父宮当人が乗らなくてもかつぎだされそうにはなった形跡はあるんですよね。弘前から列車で上野に着いたら即拘束されてますし。その途中の列車の中で説得を受けたとか受けないとかいう話もありまして…まぁこの辺も語りだすときりがない昭和史の「闇」が浮上してきます。
 映画「226」は三浦友和の「天皇陛下万歳」という苦いつぶやきで終わったように記憶してますが、あれは笠原和夫的にはかなり痛烈に批判を突き付けたつもりだったようで。「大日本帝国」でも同じようなことをしてますね。


>アジアのバカ大将さん
 お久しぶりです。また、いいタイミングで両事件についてのコメントありがとうございまう。
 ちょっと補足しておくと、僕が商売道具にしてる中学教科書では五・一五事件については「犬養が満州国建国に反対したから」という明記はありました(他社のは分かんないけど)。二・二六については中学レベルでは統制派・皇道派の対立までは深入りできないようで、こっちの動機は今一つ分かりにくいですね。高校の日本史なら結構説明してるんじゃないでしょうか。
 中学の歴史教科書も、僕が受験産業に関わって以来、気が付くと結構変わって来てます。近現代史比重がかなり重くなってまして、大正から昭和前期の政治過程なんか結構詳細です。戦後史もかなり長くなってまして、21世紀にはいるくらいまでは「歴史」の範疇にされてますね。そのため三年生の夏休み前後まで歴史授業が終わらず現場は大変のようですが…
 前にも書いたことですが、右も左も問わず「学校の歴史の授業j明治までしかやらない」という言説がまだしばしば見聞きするので、ついつい書いてしまいました。


>表現の不自由展
 結局、日本ではやっぱり表現の自由の認識度が低いのだな、ということを改めて思い知らせた、ということで皮肉にも意義があった企画になった感があり。
 名古屋市長もそうですが大阪府知事もひどいもんで。それに対し愛知県知事が実にまっとうな正論をハッキリと吐いてるところが、「当たり前」なんだけど評価したいところです。

 「いだてん」が五・一五事件を描いたことが今回の話題のきっかけではありますが、先日の回でも主人公が「言論の自由が失われていく」ことを危惧するセリフがあり、妙に今の話とシンクロしてしまい…作者も意図したわけではないでしょうが(案外重ねてるのかもしれないけど)、すぐれた創作作品というのは時として時代とシンクロしちゃうことがあるんですよね。



#10910 
アジアのバカ大将 2019/08/06 22:47
原因が書かれない五・一五と二・二六

ご無沙汰しました。
五・一五と二・二六について、少しおしゃべりさせていただきます。
不思議なことに、日本史上に大書されるこの二大テロ事件はについて、
日本の教科書では直接の原因がかかれていません。誠に不思議です。
誰の都合が悪いのでしょうか?
両事件とも「腐敗した政党政治に不満を持った青年将校たち起こした」
と、テロリスト側に同情的な記述がなされています。それは背景では
あっても原因ではありませんでした。
二・二六などは、完全に統制派と皇道派という陸軍内部での派閥争いの
先鋭化にすぎません。これより先、永田総監斬殺事件(陸軍省内で白昼
起きた)もありました。権力争いに敗れた真崎大将ら皇道派の逆切れで
した。
 青年将校らも、五・一五の前例(現役の首相を殺しても最高刑10年)
があるので、高をくくっていたのは見え見えです。こんなふざけた連中
に、同情の余地など本来毛筋ほどもありません。
一方の五・一五は、明らかに満州事変の解決(リットン報告の線での、
満州国という名を捨てて、国際管理委員会という実を取る方法での解決)
に動いていた犬養首相が「消された」事件でした。
孫文と親交のあった犬養首相は、孫文の側近として中国革命に貢献した
萱野長知を南京に送り、行政院長(首相)の孫科(孫文長男)の内諾
を得、さらに満州での戦闘停止命令を出すことで天皇の支持を得て
いたのです。
エドガー・スノウによると、五・一五の前夜、昭和天皇は首相慰労の
晩餐会を開きました。老首相はその席で天皇に、孫文の高潔な人柄の
思い出を語ったそうです。
 五・一五も二・二六も、後々まで事実が正しく伝えられることなく
テロの恐怖(軍部に反抗すると命がない)のみが残り、日本は戦争
への道をまっしぐらに進み、十年を待たず亡国となりました。
 歴史が正しく語られないことへの危惧は、河村名古屋市長の表現
の自由抑圧と、それを支持する言論が、マスメディアで大手を振って
まかりとおるをみると、慄然とせざるをえません。今はすでに「戦前」
になっていると感じる、今日この頃です。




#10909 
バラージ 2019/08/03 11:13
まだベルリンの壁がなかった頃

 『僕たちは希望という名の列車に乗った』というドイツ映画を観ました。舞台は1956年の東ドイツ。当時はまだベルリンの壁もなく、検問はあるもののある程度の自由な東西の往来ができた。西ベルリンにある祖父の墓参りにかこつけて西側の映画を観に行った東ドイツの進学高校生2人は、ニュース映画でハンガリーでの政権に対する民衆放棄(ハンガリー動乱またはハンガリー事件)を知る。2人の提案でクラス全員が、犠牲になったハンガリー民衆のために授業の初めに2分間の黙祷をするが、それが反革命的行為と見なされ教育大臣が直接調査に乗り出す大問題となる……。
 東ドイツが舞台の映画は珍しいですが、ベルリンの壁建設前の時代が描かれるのはさらに珍しい。当時はまだ建国から10年しか経ってない若い国だった東ドイツでの、高校生たちの若さゆえの正義感から来る行動を、権力の側がじわじわと締め付けるように追いつめていく様がこわい。相手の1番弱いところを見つけ出し、そこをえぐるように巧妙かつ執拗に攻める陰湿さが恐ろしい。反ナチの闘士が権力を取るとナチと同じことをするという国家による思想統制の怖さは、今香港で起こっている事態を見てもよくわかりますし、戦前戦中の大日本帝国だってそうだったんでしょう。
 それに対して追いつめられた若者たちが最後に取った行動がなかなかに感動的。実際に当時高校生だった人が書いたノンフィクションをモデルとした映画とのことで、細部は変えてあるらしいんですが、まず実話映画と言っていいでしょう。なかなか面白かったです。


>『信長』『琉球の風』の思ひ出
 大河ドラマの思い出、今回もほとんど観てないため2作まとめてです。
 『信長』は放送前の番宣番組は観た記憶がありますが、前回書いた通り配役がまるでトレンディドラマみたいで、んー、これはちょっと……という感じでしたね。特に郷ひろみの徳川家康とマイケル富岡の明智光秀にはびっくり。本編のほうはチラッとしか観てないんですが、とにかく暗い雰囲気のドラマという印象。映像も暗いし、人物のしゃべり方も、ルイス・フロイスを演じる外国人俳優のナレーションもなんか暗い。キリスト教が大きくクローズアップされたドラマだったようですが、結局1番話題になったのは架空キャラの加納随天だったような。ヴァリニャーノに奴隷として連れてこられ信長に武士として取り立てられた黒人の弥助(本作ではソテロ)が初登場した映像作品らしく、弥助はその存在の面白さからか以後の作品によく登場するようになり、ついには彼を主人公としたハリウッド映画まで作られることになったというニュースが先日出てましたね。平均視聴率は24.6%で前年の『太平記』に及ばず。信長は日本史の人物でも一二を争う人気者ですが、1年も続くドラマはそれだけでは視聴率は取れない、あくまでドラマが面白いかどうかだという、よくよく考えりゃ当たり前の話ですな。
 『琉球の風』は第1話は観ました。主人公の啓泰が明に赴く中国ロケのシーンが壮大だった記憶あり。ただ、その後はほとんど観てなくて、ショー・コスギがヌンチャクで戦ってたとか、沢田研二演じる尚寧王が江戸に連行されるシーンをチラッと観た記憶がある程度。初の琉球史ドラマということで興味はあったんですが、やはり日曜の夜に家にいたくない&その他にもこの頃は個人的にそれどころじゃなかったということもありまして。最終回は観たと思うんですが、それは本編終了後に琉球王国と奥州藤原氏の文化的共通点から次の『炎立つ』の予告編へとつなげるハイパーリンクな展開が上手いなぁと思った記憶があるからで、肝心の本編の記憶はさっぱりありません。平均視聴率は17.3%と惨敗。しかし地元の沖縄県では第1回の視聴率が驚異の82%に達したんだとか。すげえ。

>名画座掲載情報
『信長』……キャストの欄の前田利家と橋爪淳の登場人物名と俳優名の掲載位置が逆になってます。

>大河と朝ドラ
 現役首相が殺害されたことや先に起きたため軍部の台頭を象徴することで一般的には五・一五事件のほうが有名なのに、二・二六事件のほうが映像化作品が多いのはそのほとんどの作品で殺した側のほうが主人公になっちゃってるところにも理由の一端があるように思われます。要するに妙に犯人側に同情的な作品が多く、そういう大衆心理が戦後も根強くあったことがうかがえるのが複雑な気持ちにさせられるところ。
 朝ドラは毎年家族が観てるんで、その日によって付き合いでなんとなく観たり観なかったりなんですが、『なつぞら』は基本的に主人公のモデルがいないオリジナル作品だったはず。ただ、僕は個人的には『あまちゃん』や『ひよっこ』ほどには乗れていません。まあ、つまらなくはないんですが。



#10908 
徹夜城(ようやく暑苦しくなってきて熱中症に注意の管理人) 2019/07/30 22:46
あの皇子の伝記本

 今日になって知ったのですが、ミネルヴァ日本評伝選の一冊として
森茂暁懐良親王」
 が、8月31日発売とのこと。もちろん前からラインナップにはあったと思うんですが、このシリーズはどれがいつ出るやら全くわかりませんからね。
 この人の研究書はそれこそ戦前の「征西将軍宮」など先行がありますが、伝記本のようなものは初めてになるんじゃないかなぁ…「皇子たちの南北朝」の著者であるだけに楽しみです。

 懐良親王といえば北方謙三さん初の歴史小説「武王の門」の主人公で、それ以外に小説のネタになったことは皆無と思うのですが、これを機に改めて読み直してみましょうかね。
 南北朝大河、あるいは映像化作品は相変わらず実現しませんが、「武王の門」は結構映像向きのような気がしています。


>「いだてん」
 一昨日の放送になりますが、高橋是清に続き犬養毅が登場しましたが、その回のうちに五・一五事件で暗殺されるくだりが描かれました。五・一五事件の映像化じたいあまりなく、かなりじっくりかつ衝撃邸に描いてくれたと思います。「話せばわかる」はドラマ的により強調されましたが。
 あのドラマ中でもチラッと触れられてましたが、当時犬養暗殺実行者たちに対し英雄視する声が、ドラマでは「一部に」と言ってましたが、それどころではなくかなり広く存在しました。被害者のはずの犬養の方が悪者にされちゃって、何やら忠臣蔵の吉良みたいにされたっぽいんですね。犬養家はかなりつらい思いをしたようです。
 裁判の公判中にも「どうか軽いお裁きを」と傍聴席から声をあげた女性がいたという話もありますし、世論をおもんぱかったのか実際軽い判決になってしまい、当時これを「天皇の意思」とみなす人も少なくなかった。二・二六事件を起こした連中もまさにそうで、自分たちの行為が天皇に褒められると勘違いすることになるわけで。
 二・二六といえば高橋是清もこれで暗殺されるわけですが、ドラマの撮影は間に合わなかったんじゃないかなぁ…いろいろ組み合わせて映像化はできるでしょうから、絶対描かれると思いますけどね。

 あとドラマ中では満州事変が当時国民の多くに「支持」された(自作自演謀略と知られるのは戦後だけど政治家・軍人・報道では公然の秘密)様子、それにともない犬養の「外交的解決」が批判されたことも描かれてて、なかなか示唆的でした。この直後に国際連盟脱退があるわけですがこれも国民が大喝采しちゃいます(もちろんマスコミも)。吉田茂がのちに言ってますが、この辺から日本の社会は明らかに「変調」してくる。ここらへんが変わり目だったろうし、国民が妙に熱狂支持する外交政策はたいがいロクなことになりません(逆に猛反発されたものは後から思えば正解が多い)。

 とまぁ、前回ドラマでは犬養さんアッコよく描かれたんですが、当時の政党政治がかなり問題を抱えていて国民の批判があったのも事実。二大政党の状況で対抗者の浜口雄幸内閣を「統帥権干犯」として軍部と結びついて追及、ある意味では浜口を間接的に殺すことになってます。そしてそれが最後に自分にも跳ね返って来て政党政治自体も終わってしまうという、いろいろ残念なところもある政治家です。

 政治かと言えば、やはり「いだてん」前回で朝日新聞記者だった河野一郎が政界入りを宣言。これが緒方竹虎ともども戦後の自民党結成までつながっていくんですが、映画「小説吉田学校」で梅宮辰夫演じる河野一郎にtながっていくのかと思うとちょっと楽しい(笑)。あれでは若山富三郎の三木武吉と一緒にいるとほとんど東映ヤクザ映画で(笑)。いや、実際この辺の政治家たちってかなりヤクザ的な人たちではありました。

>なんと朝ドラの話題。
「なつぞら」、東映動画初期、長編映画時代やテレビアニメ開始時代を描いていて、史実を微妙に変えつつ結構なぞっているので、ちょっとしたっ歴史ドラマだなぁと思いつつ見てます。登場人物のモデルが一目瞭然…と言ってたらその裏をかいたカップル成立が起きてて、まぁそういうところは史実どおりやってもな、と思うところでした。




#10907 
バラージ 2019/07/23 22:56
歴史映像作品感想追記・日本史編②

 名画座未掲載の歴史映像作品の感想の追記第2回、明治~敗戦編の前編です。

『竜馬の妻とその夫と愛人』……#9525、歴史板#1243
 西村松兵衛(木梨憲武)という冴えない男と再婚して長屋で貧乏暮らしをしている坂本竜馬の元妻のおりょう(鈴木京香)を竜馬の十三回忌に招くため、おりょうの妹の夫で竜馬と師弟関係にあった新政府の役人の菅野覚兵衛(中井貴一)が訪れる。だが貧乏と退屈な暮らしにすっかり愛想を尽かしたおりょうは、竜馬そっくりの愛人の虎蔵(江口洋介)と駆け落ちをしようとしていた。「これ以上、竜馬の名を汚すようなことがあった場合はおりょうを斬れ」との命を受けていた覚兵衛は、情けない夫の松兵衛を見かねたこともあっておりょうを虎蔵から取り戻させようとするのだが……という恋愛喜劇映画。
 原作は三谷幸喜の舞台で、おりょう・西村松兵衛・菅野覚兵衛の3人は実在の人物ですがストーリー自体は全くのフィクション。舞台を観た市川準監督の熱望で映画化(脚本は三谷)されたそうですが、市川ファンの僕としては、市川準が時代劇かぁ……と今一つ食指が動きませんでした。市川監督の映画の特徴の1つに、その時代の空気まで切り取ったようなリアリティーを感じさせる風景の映像があるんですが、時代劇ではそういう風景も描けませんしね。実際に観た感想としても市川映画としては今一つというもの。なんというか映画全体に市川準らしさがほとんどありません。市川監督も新たな表現に挑戦したかったのかもしれないけど、三谷作品とは相性が悪かったのかも。これは僕だけの感想ではないようで、歴史板#1685に書いた市川準監督映画上映リクエストアンケートでも21作品中18位と人気下位に沈んでいます。逆に三谷ファンなら面白いのかもしれませんね。三谷作品が苦手な僕にはよくわかんないけど。
 ちなみに晩年までCM演出も手掛けていた市川監督の最後のCMに出演していたのが三谷さんで、CAの相武紗季と空港でおニャン子クラブの「セーラー服を脱がさないで」を踊るというCMでした。

『海難1890』……#10022
 もうあらかた書いてしまったので改めて追記することはありません。トルコ史の要素も入ってるかもしれませんが、基本的に日本史ものと言っていいでしょう。

『菊とギロチン』……#10775
 これもつい去年の映画だし改めて追記することはないなあ。そういえば関東大震災直後の話なので、『いだてん』金栗四三編の終盤と重なる時代の映画ですね。

『丘を越えて』……#9525
 昭和初期の東京を舞台に、文藝春秋社社長で小説家の菊池寛(西田敏行)、その私設秘書に採用された細川葉子(架空の人物でモデルは小説家の佐藤碧子。池脇千鶴)、朝鮮貴族出身で日本留学中の編集者・馬海松(後に児童文学作家となる。西島秀俊)の三角関係を描いた文芸ドラマ映画。監督は高橋伴明。原作は猪瀬直樹の小説『こころの王国』で、ご本人も直木三十五役で特別出演しています。昭和初期モダニズムの雰囲気と、やがてそれが暗い時代へと傾斜していく予感も漂わせた作品で、それらが非常に上手く表現された佳作。西田と西島も好演ですが、とにかく池脇千鶴がいい! 彼女の魅力なしには成り立たない映画と言って良く、池脇千鶴にハズレなし、と思い始めた頃の1本です。

『熱い嵐』
 確かどこかでちょっとだけ触れましたが、1979年にTBSで放送された高橋是清の生涯を描いた単発ドラマ。ソフト化はされていません。二部構成で前半は国広富之、後半は森繁久彌が是清を演じてたとのことですが、リアルタイムで観た僕は森繁さんの記憶しかないんで後半しか観てなかったのかも。もうあまり覚えてませんが、是清が失敗をするたびに「ダルマはまた転んでしまった」というナレーションが入ってたのが記憶に残ってます。

『マライの虎』……歴史板#1230
 戦前のイギリス領マレーで「ハリマオ」(マレー語で“虎”)と呼ばれた日本人盗賊で、後に日本軍特務機関の軍属としてマレー侵攻に協力した谷豊を主人公とした戦中の戦意高揚映画。激安DVDが本屋で500円以下の特価で売ってたんで買って観た作品です。僕は昔からこのハリマオこと谷豊に強く惹かれるものがありまして。興味を持ったのは確か中野不二男の『マレーの虎 ハリマオ伝説』(新潮社、1988年。後に文春文庫)を本屋で見かけた頃か、もしくは下記の映画『ハリマオ』が公開された1989年頃だったんじゃないかと思います。
 まず最初に言っておくと、本作は映画としてはB級アクションで面白くありません。特にアクション映画でありながらアクションシーンがチープな上に、その展開も支離滅裂なのが致命的。また『シンガポール総攻撃』という映画の現地ロケの副産物として作られたとのことでストーリーを練る時間がなかったのか、ある部分では事実に妙に忠実(谷と接触した特務機関「F機関」の情報によるものでしょう)な一方で、事実から相当に遊離した創作部分もあり、その2つが上手く融合しておらず全体的にちぐはぐな印象です。ただハリマオに興味のある者としては、その創作部分が映画的な面白さとは別の意味で興味深い作品だったりします。
 創作部分の大半は当然ながら戦意高揚目的の国策的な改変・創作なんですが、イギリスはまるごと悪者なのに対して中国人は共産党特務のみが悪役として登場し、他の中国人は扇動されているだけのような描写が、当時の日本軍の占領政策として興味深い。満州事変の頃のマレーでイギリス植民地政府と共産党がグルだなんて荒唐無稽もいいところで、実際には植民地政府はマレー共産党を弾圧してたようですが、日本軍が侵攻すると獄中の共産党員を釈放して抗日部隊を結成させ、彼らは日本軍に対して最も苛烈な抵抗をしたとのことなのでそのあたりが筋立てに影響したのかも。あと映画だけ観てると中国人で共産党なんで中国共産党かと思っちゃうんですが、さすがに満州事変の頃に中国共産党がマレーくんだりで工作してるわけはないんでマレー共産党なんだろうなと思われます。でもこの共産党、中国人(華僑)一色でマレー人やインド人は皆無なんだよな(まあ華僑が多数派だったようではありますが)。出てくるマレー人は最初から谷の下男や友人か、イギリス人にこきつかわれて谷(=日本)の正義に目覚めるという型通りのプロパガンダ映画。もちろん史実と違って最後はハリマオが名誉の戦死を遂げるのでした。
 映画としては僕の大の苦手の母ものの要素が強く、またハリマオと子分たちの関係にそこはかとなく任侠もの(国定忠治とか清水次郎長みたいな)のテイストがあって、ハリマオが「可愛い子分のてめえたちとも……」とでも言い出しそうな雰囲気(笑)。ハリマオ役の主演俳優がえらくおっさん顔なのもイメージに合いません(当時は谷豊の顔なんて製作側はわからなかったんだろうけど)。DVDは映画が終わったと思ったら別バージョンのエンディングが自動的に始まり(メニュー画面はなし)、別バージョンはおそらく現地上映バージョンなんじゃないかと思われますが、これがまた無理矢理な展開で苦笑もの。それからオープニングだったかエンディングだったかで流れるテーマ音楽の「♪ハリマオ~、ハリマオ~」という節が戦後の『快傑ハリマオ』の主題歌にそっくりで、作詞作曲は別人なんですが『快傑ハリマオ』のほうがパクったんだろうな。

『ハリマオ』……#9525
 同じくハリマオこと谷豊の半生をフィリピン・ロケで描いた1989年の映画。監督が和田勉で主演は陣内孝則。劇場公開時は観ておらず数年後にビデオで観ました。DVD化はされていません。劇場公開時にテレビスポットで流れた「右の耳ならオカマだが、左の耳なら勇気の印」(ピアスのこと)というキャッチコピーと「トラ・トラ・トラたい!」と叫ぶ陣内さんのことは覚えてます。
 こちらも映画としての面白さはいまいち。部分部分では良いところというか、こういうシーンや演出を入れてほしい、俺だったらこういうシーンを入れるな、と以前から思ってたようなところはちょこちょこあるんですが、その一方でなんでこういう展開にするかなぁ?と思わざるを得ないところも多く、また映画のテンポが悪いのかいまいち物語が弾んでいかない感じで途中かなり退屈します。外国人キャストがえらくチープなのも不満だし、陣内さんも熱演ではありますが僕のハリマオのイメージからするとちょっとミスキャストのような……。僕が90年代に、もしまたハリマオが映画化されるとしたらハリマオ役を演じてほしいなと思ってたのは永瀬正敏。以後俳優の年齢経過により僕の個人的希望は萩原聖人、瑛太と変わっていきましたが今だったら誰なんだろ?
 『マライの虎』とは別の方向性で史実からの改変というかフィクションの部分も多く、谷豊以外の登場人物は全て仮名といいますか架空の人物になっています。谷の家族も全て名前が変えられていて、史実では満州事変前に病死した父親が映画では豊の死後まで生きていたり、父親の愛人が実は……(ネタバレ回避のために伏せる)とか、事実を改変したところが妙に多い。というかむしろ自由に物語を創作するために仮名(架空の人物)にしちゃった感が強い。また映画には、豊に接触し籠絡する日本軍の諜報機関「J機関」の機関長として山崎努演じる城ヶ崎小佐なる人物が出てくるんですが、史実ではこれはF機関の藤原岩市小佐。城ヶ崎はこれまた史実からかなり離れた自由な創作キャラクターとなっていて、山崎はインパクト大のまさに怪演ですが、怪演すぎてリアリティーには欠けています。怪演すぎてリアリティーに欠けるといえば豊の父親役の川谷拓三もそうで、川谷さんが70年代に当たり役としてたチンピラヤクザみたいな描かれ方なのもちょっとなあ。ハリマオの死に方もさすがにちょっと不自然に感じざるを得ず、史実通りで良かったんじゃないかと。描きたいことはわかるんだけど、もっと他に描き方はあっただろうと思うんですよね。
 そんなわけで残念な出来に終わったハリマオの映画化作品ですが、また誰かが映画化してくれないかなぁ。


>『太平記』の思ひ出・追記
 平均視聴率は26.0%。80年代以降の戦国以外を題材とした大河では『いのち』に次ぐ高さで、マイナーな題材のわりには大健闘と言っていいかと。ただ、ちょっとだけ気になるのは初回視聴率(34.6%)が最高視聴率だったこと。大河ではこういう例は意外と少ないんですよね。まあ初回が高すぎたとも言えますが。

>最近読んでる本
 前にちょこっと立ち読みしたら面白かったものの以後そのままうっちゃってた『征夷大将軍研究の最前線』(日本史史料研究会・監修、関口崇史・編、洋泉社 歴史新書y)を改めて買って読んでいる最中です。歴史新書yから多数出ている「最前線」シリーズの1冊で、文字通り「征夷大将軍」の最新研究についての著作集。鎌倉幕府以降の武家の棟梁としての征夷大将軍を扱っており、全体的には室町将軍足利氏の比重が高い感じ。
 中でも興味深かったのは、一般的に頼朝の子孫断絶後に足利氏が「源氏の嫡流」と目されるようになり、鎌倉後期には「将軍は源氏であるべき」という「源氏将軍観の高揚」が起こったとする説に対する批判論で、三代将軍実朝没後には「源氏の嫡流」自体が断絶したと認識されており、「源氏将軍観の高揚」とされる事例が表しているのは「故頼朝の権威の上昇」だとする論には非常に説得力がありました。僕は以前から頼朝の子孫断絶後は足利氏が源氏の嫡流だったとする論には疑問を感じてたんで、我が意を得たりという感じ。他に徳川氏が自らを新田氏の子孫とする過程で起こった事象についてもなかなか面白かったです。
 あと、ハリマオのことを書いてるうちになんか懐かしくなって前記『マレーの虎 ハリマオ伝説』や、『ハリマオ マレーの虎、60年後の真実』(山本節、大修館書店、2002年)を読み直しています。それから積ん読状態だった『増補 南京事件論争史』(笠原十九司、平凡社ライブラリー)にもちょっと手を付けたところ。7割近くが旧版の記述なんで残り3割を読めばいいかな。

>歴史映画?
 『三国志 黄巾の乱』(原題:魔国志黄巾之乱)という中国映画が9月にDVDスルーされることを知ったんですが、発売会社の公式ページを読むと歴史ファンからすればなかなかのトンデモ映画(笑)。原題や日本版予告編を見てもまともな三国志ものでないのは明らかですが、これはかなり珍作の予感。



#10906 
徹夜城(ようやく暑い季節になったと思う管理人) 2019/07/17 23:52
「永遠のニシパ」など

 少し日を置いてしまいましたが、先日放送された「永遠のニシパ」(シは小文字)について。ツイッターでは放送直後にいろいろ書いてまして、それとかぶる話になります。

 うーん…事前に期待しただけに、拍子抜けした感想を持ってしまいました。北海道150周年企画、その名付け親の松浦武四郎を主役に、ということはいいんですけど、ドラマにするにはこうするしかなかったんかい、とツッコんでしまうところが多くて。
 ひどい目にあっていたアイヌたちの状況を描き、アイヌ文化やアイヌ語を尊重したドラマ作り(それは武四郎の姿勢でもある)は評価したいんですが、ヒロインとなるリセがらみの話がいちいちクサい。安易な恋愛ばなしにならないのはいいんですが。
 あと松前藩から命を狙われるいきなりのチャンバラ展開。唐突感と不自然さがありありすぎて、それがあの弓矢シーンでクサい二つの話が結びついて頭を抱えることに。飽きさせないように、ってことなんだろうけどこの展開は…後半・終盤はまぁまぁ見てられましたが。

 ちょうお「しりとり歴史人物巻」で間宮林蔵のことを書いた直後だったんで、いろいろこうすりゃいいのにと思うところはありましてねぇ…あれにも書きましたが、武四郎は蝦夷内陸部探検で林蔵を案内したアイヌたちに出会ってるんですよね。それと、これも書いた話ですが、林蔵は実際にアイヌ女性と結ばれて娘が生まれていた可能性があります。こっちはそのまんまドラマになると。

 武四郎が松前藩に暗殺作戦をかけられる展開、元ネタがあるのかどうかは未確認ですが、ずっと先輩の最上徳内は実際に松前藩に毒殺作戦をかけられたという逸話があるようですね。「風雲児たち」の影響なんですが、最上徳内のドラマというのもいつか見てみたいものです。

 「永遠のニシパ」で松浦武四郎が「北加伊道」→「北海道」と名付ける場面があり、そこで「アイヌはむかし『カイ』と自分たちを呼んでいたから」という話をしてましたが、これは僕も以前調べたことがありました。「カイ」とは「蝦夷」の音読みという話もあるんですが、北方民族の間ではアイヌを「カイ」「クイ」と呼んでいた形跡は実際にあるそうで、13世紀に元軍がギリヤーク人を助けて「クイ」と呼ばれる民族とカラフトで交戦してますが、これもどうも北海道から来たアイヌだったらしい。この戦いが流れ流れて鎌倉幕府末期の津軽や出羽の「蝦夷大乱」に影響したのでは…なんて説もあったりしまして、これで話が「太平記」につながる次第で(笑)。


>ケニーさん
 はじめまして。「太平記」を見始めておられるわけですね。赤坂城攻防あたりだと、これから鎌倉幕府滅亡まで怒涛の展開ですよ。ドラマとしてもこのあたりが一番顔ぞろえも凄いしスケールもデカいしで一番面白いくだりかもしれません。
 大河「太平記」を見てる人がネット検索すると、やはり当サイトの「太平記大全」にぶつかるようですね。&#8459;課の大河でもこういう企画やってるところはないんじゃないかなぁ、と自負してる次第です。お楽しみいただければ幸い。「太平記」から南北朝におハマりになったら、「南北朝列伝」なんかもご利用ください。

 大河「太平記」の主人公・足利尊氏ですが、確かにドラマ中でもいまいちハッキリしない人なんですよねぇ。これで幕府作って天下とるんかい、ってキャラで。伝わる逸話を見ていくと実際にそういう人だったんじゃないかと思わせるところもあり、なかなかとらえにくいキャラクターの人ではあります。
 ドラマでは特に建武政権に反旗を翻すあたりでこの人の複雑怪奇ぶりが見られると思います。


>バラージさん
 これはまた「太平記」でも大変な文章を(^^;)元号も変わったことですし、そろそろ南北朝大河が来てもいいんじゃないかなぁ、と思ってるんですけどね。
 再来年の大河の発表、現時点でやや遅れ気味ですね。ここ最近のパターンからいうと、幕末で女主人公、ってなりそうですが「花燃ゆ」やっちゃったしなぁ…



#10905 
バラージ 2019/07/17 22:17
『永遠のニシパ ~北海道と名付けた男 松浦武四郎~』(「シ」は小文字)

 夏だっていうのにさっぱり気温が上がりませんねえ。夏大好き人間としては物足りない。それでもこっちはまだマシで、仙台や東京はもっと涼しいようで。そんな中、僕は先々週・先週とウィンブルドン漬けの日々。男子シングルス準々決勝のフェデラーvs錦織、準決勝のフェデラーvsナダル、決勝のジョコビッチvsフェデラーと歴史的名勝負続きで寝不足気味です。

 ドラマ『永遠のニシパ ~北海道と名付けた男 松浦武四郎~』(「シ」は小文字)を観ました。やや駆け足気味でしたが、要領よくまとめてたっていう感じですかね。正直、松浦武四郎って面白い人物ではあるけれど、調査のためにあちこち歩き回ってるだけじゃドラマにならないし、一体どうするんだ?と思ってたんですが、フィクションを交えて上手く作ってたなという印象です。和人(松前藩・江戸幕府・明治政府)のアイヌに対する過酷な収奪についてもきちんと触れてましたし、アイヌ役の俳優たちがちゃんとアイヌ語をしゃべって日本語字幕付きだったのにも感心しました。松本潤と深田恭子は顔立ち的にアイヌと和人が逆じゃないかと思ったけど(笑)。


>大河ドラマ『春日局』の思ひ出・追記
 そういえば職場で古株の権力者的なOLを「お局様」と呼ぶのは、この『春日局』がきっかけという話があります。なんかもっと昔からそう呼ばれてたような気もするんですが、もしほんとだとしたらちょっとびっくり。

>大河ドラマ『太平記』の思ひ出
 大河ドラマの思い出、今回はここの掲示板的にはメインイベントの『太平記』。といっても僕は全話観たりはしてなくて、ところどころ観た、結構観てたといった程度。当時、戦国はちょっと飽きたけど江戸や幕末には興味がなかった僕は、戦国以外の合戦もので過去にドラマ化されたことのない時代ということで、年末年始に帰った実家で父親と面白そうだねと言ってた記憶あり。しかし前回書いた通りの理由で毎週日曜夜8時にテレビの前にいないことの多かった僕は、結局ところどころ観るだけとなりました。当時はビデオも再生専用しか持ってなかったし(友人の友人から中古を1000円で買った)、録画できたとしてもそうまでしては多分観なかったかな。とはいえ観てない時も週刊テレビ情報誌で結構ストーリーは追っかけてましたが。
 当時の僕は南北朝時代については通り一遍にしか知らず、知っていた人物は足利尊氏・後醍醐天皇・楠木正成・新田義貞・護良親王・北畠親房・北畠顕家・名和長年ぐらい。南朝側ばっかりですが、次々に戦死するんで歴史の流れの中で名前が出てくるんですよね。足利直義や高師直は知ってたような知らなかったような記憶が曖昧。将軍一覧とかに名前が載ってる足利義詮は二代将軍として名前だけは知ってましたし、同様に執権一覧に載ってる北条高時・貞顕・守時も名前だけは知ってましたが、最後の執権は守時なのになんで高時のほうが重要人物?という程度の認識。得宗政治も教科書に載ってたかもしれないけど全然記憶になかったですねえ。元寇の後は永仁の徳政令しか覚えてません。
 ドラマは今になって配役を見回すと、『独眼竜政宗』『徳川家康』『おんな太閤記』などからの続投が多いとともに、当時全盛を極めたトレンディドラマの出演俳優が非常に多い。次の大河『信長』の配役を見た時に「トレンディ大河かよ」と思った記憶があるんですが、本作も十分にトレンディ大河だったんだなぁと思わされます。例えば真田広之と赤井英和は『高校教師』(93年)ですし、沢口靖子と後藤久美子は『痛快!ロックンロール通り』(88年)、宮沢りえは『いつも誰かに恋してるッ!』と『いつか誰かと朝帰りッ!』(いずれも90年)、宮沢と赤井は『東京エレベーターガール』(92年)、高嶋政伸は『HOTEL』(90年~)、陣内孝則と柳葉敏郎は元祖トレンディドラマと言われる『君の瞳をタイホする!』(88年)に『愛し合ってるかい!』(89年)、本木雅弘は『抱きしめたい!』(88年)、陣内と本木は『恋のパラダイス』(90年)、筒井道隆は『二十歳の約束』(92年)に『あすなろ白書』(93年)、武田鉄矢でさえ本作と同じ91年に『101回目のプロポーズ』ですからねえ。ちなみにその裏で似たようなテーマを扱って惨敗したのが片岡鶴太郎の『結婚したい男たち』。もうほとんどの人が覚えちゃいないドラマでしょうが、主題歌の大江千里「格好悪いふられ方」は有名かな。そんな鶴太郎にも『男女7人夏物語』(86年)&『秋物語』(87年)があります。まあ、ここまでずらずら挙げながら僕はほとんど観てないわけですが、各俳優の忙しさは尋常じゃなかったと思われ、柳葉演じるましらの石や本木演じる千種忠顕が自然消滅のような感じで退場しちゃったのもそれが原因でしょう。
 話を『太平記』に戻すと前半はわりと観てましたが、あくまで比較的観てたという程度で、新田義貞役なんかは根津甚八の記憶はあるものの降板前の萩原健一の記憶はないんで、多分そのあたりは観てなかったんでしょう。鎌倉幕府滅亡後の後半はやや観る頻度が減り、湊川の戦い、北畠顕家の最後のシーンと父親房が顕家討死の報せを聞き涙する場面、高師直の最期なんかは観た記憶がありますが、新田義貞や後醍醐天皇の最期とか楠木正行は観てません。最終回も観てないなあ。比較的従来の人物像を踏襲した後醍醐天皇や、農民的な楠木正成の人物像にはやや違和感がありましたね。
 強く印象に残った人物としてはまず北条高時と長崎円喜。2人ともそれまで全然知らなかった人ですが、片岡鶴太郎とフランキー堺の好演も相まって鎌倉幕府滅亡の回などは素晴らしい出来でした。あえて難点を言えば、29歳で死んだ高時を演じるには鶴ちゃん(当時37歳)はちょっと歳を取りすぎかな。当時は高時の年齢をそもそも知らなかったから特に不自然とも思わなかったけど、今になってみるとさすがにどう見ても20代には見えません。それからこれまたそれまで全然知らなかった佐々木道誉も、陣内孝則の好演もあり強烈な印象を残しました。婆娑羅大名というのもあれで知った感じ。筒井道隆演じる足利直冬も良かった。やはり全然知らない人でしたが、映画『バタアシ金魚』(90年)でデビューして間もない頃の筒井君の熱演もあって非常に気になる歴史人物の1人になりましたね。そして『独眼竜政宗』で後藤久美子に夢中になった身としては、彼女が北畠顕家を演じていたことも見逃せなかったポイント。当然ながらどう見ても男には見えなかったけど、それは当たり前の話で予想通りのこと。ゴクミが見れればそれで良かったのです(笑)。ゴクミの後輩の国民的美少女・小田茜も高時の愛妾・顕子役で出てましたね。確かドラマデビュー作だったはず。当然ながら拙い演技でしたが、さすがに画面に映るだけで印象に残るお顔立ちでした(小田茜は当時13歳で、年齢差的に鶴太郎演じる高時がちょっとロリコン変態に見えなくもなかったけど・笑)。そういえば第21回にだけ登場している「局」役の深浦加奈子の役柄について「北条高時夫人」とか「正室」としている情報があるんですがどうなんでしょう? 僕はさっぱり記憶にないんで何とも言えませんが。この頃は駆け出しでちょい役だった深浦さんは後に名バイプレーヤーになっていきますが、彼女も若くして亡くなられました。ご冥福をお祈りします。

>南北朝列伝
 今後加筆される予定でまだされてないだけかもしれませんが、北条貞時はNHK大河ドラマ『北条時宗』に登場しています。演じているのは、金子雄→小池城太朗→佐保祐樹とのこと。

>『いだてん』と視聴率
 人見絹枝が退場し金栗四三の出番も終わって、いよいよ完全に水泳編に突入でしょうか。人見絹枝は僕はマンガ『栄光なき天才たち』で知ったんですよね。四三の兄実次も良かった。演じる中村獅童さんと勘九郎さんの関係性とダブるのはもちろん狙ったんでしょうが、見事にハマりましたね。あと阿部サダヲの田畑政治は、明らかに『木更津キャッツアイ』の猫田が入ってるよな(笑)。もちろん狙ってやってるんだろうけど。
 視聴率についてはいろいろ難しいところがあります。『平清盛』なんかもそうでしたが狭い範囲に熱烈にウケるカルト的というか通好みというかマニア向けの作品なのかなあ。でも視聴率的には広くウケないとダメなんですよね。特に近年の傾向として60代以上の高齢者、要するにおじいちゃん・おばあちゃんが観ないと世帯視聴率が上がらないことが指摘されています。テレビ視聴者が実際の人口比率よりも高齢者に偏っている、要するに若者がテレビを観なくなっているという指摘です。意外なことにNHKは逆に近年は若者視聴者層の開拓に力を入れているようで、むしろ民放よりチャレンジングなドラマが多かったりするんですが、大河と朝ドラ以外は視聴率どうこうという話にならないから自由だし、朝ドラは一時の視聴率低迷を脱して好調なので、大河だけがヤバい感じになってるんですよね。そういえば再来年の大河もまだ発表されてませんねえ。



#10904 
ケニー 2019/07/14 22:35
役に立つ情報ありがとうございます(太平記)

はじめまして。大河ドラマ好きのアラフィフの者です。よろしくお願いします。
大河ドラマ好きといっても、テーマや出演者に興味がないと見ない作品もあるもので。
今年は職場の同僚にすすめられて「平清盛」を見ました。松山ケンイチさんにあまり興味がなく、
また平安時代の知識も乏しい私は、リアルタイムでは見ておらず、気がすすまなかったのですが
同僚以外の人も、イチオシというので、「1、2話見て、面白くなかったら途中棄権しよう」
くらいの気持ちで見始めました。で、すっかりハマってしまいました。
初めて宅配DVDレンタルサービスを契約し、仕事から帰ってから夜毎日見ていました。
平清盛の生き方は、今の自分に刺激になりました。
次から次へ登場する人物とその配役も楽しく同僚が言うとおり傑作だと思いました。
当時、最低の視聴率だったそうですが
それに協力した?自分も何をやっていたんだか…
そこから、源平に興味が出たので、次に見たのが「義経」(滝沢秀明さん主演)で、
次は、総集編でしたが「草燃える」です。
そんなこんなで、今、見ているのが「太平記」です。
太平記の情報をググっていたら、このページに出会ったというわけです。
粗筋、出演者の情報、とても役に立ちます。ありがとうございます。
先ほど、赤坂城の攻防が終わったところです。
足利尊氏、学生の時に習ったと思いますが、詳しく知らない人でした。
どうやって室町幕府を開くのか、興味を持って見ていますが、
今のところ、なんかはっきりしない人だな、という感想です。
これから、変わっていくのでしょうか。
これからも、このページで情報を確認しながら、太平記を楽しみたいと思います。
長々と失礼しました。



#10903 
徹夜城(このところ止まっていた企画をいろいろ動かしてる管理人) 2019/07/14 14:13
なんと「しりとり」更新。

 …恥ずかしながら7年ぶりに「しりとり歴史人物館」を本日更新しました。
 さっき試しましたが、人物を選ぶ左側のフレーム、最近見た方だと更新されないで表示されることがあるようです。フレームの再読み込みをすると新規のものが表示されるはずです。

 いっつも「次は早めに」とか言ってるんですよねぇ(笑)。今回のも取材先が近いこともあって7年前に行ってるし、文章も3分の1くらいその時に書いていたんですが、プツッと止まるとなかなか再起動しないクセがありまいて。先日「っヘンテコ歴史本」も更新しましたし、やってみますか、という気になってここ数週間これいかかりきりでした。話題の「闇営業」が「間宮業」に空目いたほどで(笑)。
 次の人も実は7年前に決まっているのですが、さてなるべく早めに更新したいな、と(爆)


>「いだてん」
 バラージさんもお書きでしたが、ここ数回の「いだてん」はすごかった。いや、それ以外でも毎回僕は楽しんでましたけど。ここまで乗って見てる大河は久々なんですが、世間的には冷たい風が…ただ視聴率だけでははかれないものがあるぞ、と最近擁護・評価の記事もあちこちであがってますよね。

 第二部、田畑政治編に入りまして、創造しい主役キャラが面白いのですが、先ごろ亡くなった萩原健一演じる高橋是清が出てくるなど、スポーツ以外の部分での近現代史ドラマにもなっています。なんちゅうても、主人公の職場である朝日新聞が…緒方竹虎、河野一郎がいるんですもんね。これが戦後の自民党の歴史へとつながっていくわけです。

 そうそう、松浦武四郎のドラマ、明日放送なんですよね。偶然にも今回の「しりとり」がいいタイミングになってしまいました。



#10902 
バラージ 2019/07/05 23:35
名画座未掲載の歴史映像作品の感想の追記・日本史編①

 少し前に歴史映像名画座掲載作品の感想の追記を書きましたが、同様に僕が観た名画座には未掲載の映画やテレビドラマの感想を書いたもので書き忘れたことを思い出したり追記したりしたくなったものがあるんで、これまたちょこちょこ書いていこうかなと思います。まずは日本史の江戸後期まで。

『かぐや姫の物語』……#9501、#10752(『竹取物語』のところに追記)
 えー、いきなりですが特に追記することはありません(笑)。以前にあらかた書いちゃったかな。古典や昔話っていうのはお話としてすでに出来上がってるものだから、下手に現代的解釈で改変を加えると上手くいかないところがあるように思えますね。

『曽我兄弟 富士の夜襲』……#10834、#10843(追記)
 これも追記することは特にないかなぁ。つい最近書いたばっかりだし。いきなりないないづくしですいません。

『一休さん』(連続テレビアニメ)……映画板#1194
 子供の頃に結構観てたアニメですが全話観たわけではありません。当時僕の地方ではテレ朝系列局がなかったため東京での本放送よりも放送時期は遅れて、違う時間帯に放送されてたんだと思います。DVDも全話収録ではなく傑作選のようですが、Amazonprimeでは全話動画配信されているようです。歴史上の一休宗純ではなく一休とんち話のアニメなんで史実的にどうこう言う作品ではないんですが、僕の世代における室町時代のパブリックイメージを作り上げた作品と言っていいでしょう。というかこれ以外に狭義の室町時代を舞台とした有名な映像作品があまりない。本作の実写化作品も歴史映像名画座に収録されてる最新作を含めてどれもソフト化されていませんしね。足利義満というといまだに本作の声優キートン山田氏の声が思い浮かんでしまいます。後半はネタが尽きたのか一休以外のとんち話や大岡政談のエピソード(三方一両損、先に手を離したほうが本当の母親など)もネタにしてました。

『TAJOMARU』……#9434
 これも史実とはほとんど無関係ですが、室町時代の作品が少ないんで。本作の将軍足利義政はなぜか出家してる上に失明してるという設定。先日亡くなった萩原健一が怪演しています。ただ映画自体の面白さはどうもいまいち。特にヒロインが魅力薄でして。演じてるのは大河『風林火山』でデビュー作にしてヒロインを演じた柴本幸ですが、その時も思ったけど彼女にヒロインは荷が重すぎたんじゃないかなぁ。

『里見八犬伝』(2006年のTBSスペシャルドラマ)……#9434
 これも史実とはほとんど関係ありませんが、それでも数ある『里見八犬伝』の映像化作品の中では、これが1番歴史と関連性があるんじゃないかと。他に1954年の東映映画5部作もDVD化されてますが、子供向けプログラムピクチャーで歴史との関連性はほとんどないようですし、最も有名な1983年の角川映画は鎌田敏夫の翻案小説を映画化した娯楽ファンタジー時代劇で、やはり歴史との関連性はほぼありません。まあ角川映画版は子供の頃にテレビで観て、なかなか面白かったんですけどね。真田広之と薬師丸ひろ子のベッドシーン?がお茶の間で流れてドキドキしてしまいました(笑)。

『真田風雲録』……#10443
 中村錦之助が演じる主人公は「はなれ猿の佐助」という猿飛佐助に相当する人物で、以下渡辺美佐子演じる「むささびのお霧」(霧隠才蔵)、ジェリー藤尾演じる「かわうその六」(海野六郎)、常田富士男演じる「どもりの伊三」(三好伊三入道)、大前均演じる「ずく入の清次」(三好清海入道)が冒頭から出てくる関ヶ原の戦災孤児という設定。由利鎌之助(ミッキー・カーチス)、穴山小助(河原崎長一郎)、根津甚八(米倉斉加年)、筧十蔵(春日俊二)、望月六郎(岡村春彦)は途中参加ですが、伊三と清次はあまり目立たず、むしろ鎌之助のほうが目立っている印象(小助以下もまた目立たず)。資料によって望月六郎役を岡村春彦、服部半蔵役を原田甲子郎としているものと、望月六郎役を和崎俊哉、服部半蔵役を平幹二朗としているものがありますが、キャストロールを見ると前者が正しいようです。平以外の3人は知らない俳優な上に半蔵は全編黒ずくめ忍者で目と声しかわからないんで本編からは判別できないんですけどね(笑)。歴史ものどうこう以前にまず映画としての出来が素晴らしい。『真田幸村の謀略』や2016年版『真田十勇士』なんか足元にも及ばない傑作です。

『水戸黄門海を渡る』……#9646
 映画としては面白かったけど、これもあくまで史実ではなく娯楽映画。前にも書いたけど、登場するアイヌの酋長シャ「グ」シャインは史実のシャ「ク」シャインをモデルとした架空の人物と見るべきでしょう。まあ水戸黄門と助さん・格さんだって史実の徳川光圀と家臣たちをモデルにした架空の人物みたいなもんですからね。もちろん内容も史実をヒントにはしてるものの、基本的には関係ありません。シャクシャインはそのまま物語にすると最期が悲惨すぎて救いがないので、映像化はなかなか難しいところ。

『カムイの剣』……#9525
 幕末の蝦夷地を舞台としてアイヌの少年を主人公とした冒険アニメ映画、ということは漠然と覚えてるんですが、それ以上のことはほとんど忘れちゃってます。確か幕府の隠密が敵ボスで、主人公を助ける脇役で西郷隆盛が出てきたという記憶があるくらい。改めて調べると、主人公は米国にも渡り、ジェロニモやマーク・トウェインとも会ったりするようです。


>『武田信玄』『春日局』『翔ぶが如く』の思ひ出
 大河ドラマの思い出、またも3作まとめて……ということは? そう。またもほとんど観てなかったのです。
 『武田信玄』は僕の好きな戦国ものなのになぜ観てなかったのか? 今となってはもうよく覚えていませんが、前年の『独眼竜政宗』は面白くて全話観たとはいえ、やはり1年間ドラマを観続けるのにちょっと疲れたのかもしれません。またもう1年戦国ドラマを観ることを敬遠してしまったのかも。まあ今となってはもうよくわからないんですけどね。1つだけわかっていることは、この年僕は再び裏番組の『天才たけしの元気が出るテレビ』を観ていたということで、『信玄』はなぜか最終回だけ観たんですが、年末に『元気が出るテレビ』のほうが1週早く放送を終えていたのかも。そしてその最終回がすごく面白かった記憶があります。父の信虎が病床の信玄の元に来て上洛するよう涙ながらに叱咤するところとか、信玄が臨終の場面で「神よ……甲斐に光を……」とつぶやくところとか(しかもちょうど信玄の顔にだけ光が差す演出)、謙信に毘沙門天が乗り移り一人二役みたいになっちゃうところとか、最後にナレーションの大井夫人が信玄の生涯に関わった人々の名を挙げていくところとか、いちいちカッコ良かった(だからといって今さら最初から観ようとは思わないんだけど・笑)。ただ、善徳寺の会盟シーンや桶狭間の合戦で義元が討たれるシーンも観た記憶があるので、後に名場面集みたいな番組かCSでの再放送でもちらっと観たのかもしれません。ちなみに総集編もなぜか最後の第5回しか観なかったんだよな。中井貴一というと当時は『ふぞろいの林檎たち』のイメージ(観てないけど)、一方の柴田恭兵は『あぶない刑事』のイメージ(やっぱり観てない)で、始まる前はミスキャストのように思えたんですが、なかなかハマってましたね。あと武田義信役が堤真一とのことで、堤さん、この頃大河によく出てたんだ。売れたのはもっと後の遅咲きで、この頃はさっぱり記憶にありません。平均視聴率は39.2%と前年の『政宗』に次ぐ歴代2位の高視聴率。初回視聴率42.5%は歴代最高でした。
 『春日局』は全く観ていません。理由の1つは題材的にも配役的にも興味がなかったこと。主演の大原麗子さんは当時の僕には世代的にあまり興味のない女優さんでしたし(要するに当時の僕にはおばさんだった。どうもすいません。「すこ~し愛して。なが~く愛して」というウイスキーのCMは好きでした)、同じ橋田壽賀子脚本の『おんな太閤記』は全話観た僕ですがあの頃は少年期。『春日局』の時は思春期から青年期に移ろうかという時期で、この頃には橋田ドラマにはもう興味が持てず、むしろ敬遠するようになってました。もう1つの理由はこの年から大学に入り一人暮らしを始め、日曜の夜8時にアパートに帰ってないことが多かったこと。なんとなくイヤだったんですよね、日曜の夜8時までにアパートに帰る、みたいなことが。そんな僕の事情とは関係なく、視聴率は好調だったようで平均視聴率は歴代3位の32.4%。『政宗』『信玄』とは差があるものの、橋田壽賀子恐るべしといったところか。ちなみに初回が珍しく元日放送で、そのため初回視聴率は歴代最低(14.3%)だったそうですが、昭和天皇の病状が深刻だったんで放送休止を危ぶんで前倒しで放送したのかも。
 『翔ぶが如く』もこれまた全く観ていません。やはり題材的にも配役的にも全く興味がありませんでした。平均視聴率は歴代ベスト3だった前3作から大きく下落して23.2%。70年代の『勝海舟』にも及ばない惨敗となりました。脚本は『徳川家康』と同じ『3年B組金八先生』の小山内美江子でしたが、高視聴率とはいかなかったようです。理由はよくわかりませんが、やはり幕末は視聴率が取れない。薩摩弁が乱舞して時折字幕が入ったとのことなので、そういうところも一因かも。橋田壽賀子が『渡鬼』の台詞がやたら多い理由について、主婦は台所仕事をしている時間帯なので画面を観ていなくても耳で聞いているだけで話がわかるようにしなければならない、と答えていたのを何かで読んだ覚えがあります。

>最近DVDで観た映画
『地獄門』
 またまた観た源平映画。ブックオフで激安版DVDが260円で売ってたんで買っちゃいました。映像や音声にかなりノイズが入ってる上に、画面の両脇が切れておりビデオ映像をそのままDVDにしたのかな? まあ激安だし別にいいんですけど。元ネタは文覚の発心譚なんでしょうが、映画は海外受けを狙って抹香臭さを嫌ったのかそれとも原作がそうなのか仏教説話臭はなくなっており、その一方で肝心の盛遠が袈裟に惚れちゃう描写がおざなりなため、いつの間に盛遠が袈裟に懸想するようになったのかがわかりにくい。このストーリーなら盛遠が袈裟の美しさに心奪われるシーンをもっと丹念に細やかに描くべきだと思うんですが、それがないんで主人公がただの犯罪者レベルのストーカーにしか見えない。また映画サイトで感想を散見すると、冒頭の兵乱について「平家全盛の時代に清盛に対して起こった反乱」とか「平家の支配する世に陰りが見え始めた時代」と誤解してる人が少なからずいるんですが、確かにこの時代にくわしくないとわかりにくかったかも。清盛がなぜかすでに入道になっているのも誤解の原因かもしれません。最初期のカラー映画ということでいろんな色を使えてうれしかったのか、やたらカラフルに色を使っていて色鮮やかである半面、ちょっと絵的に不自然な感じもしました。あと、なんで『地獄門』てタイトルなんだろ?とずっと思ってたんですが、観たら一応地獄門という門が出てくるだけでほとんど意味がなかった(笑・まあ黒澤の『羅生門』もそうなんだけど)。日本映画の黄金時代な上に『羅生門』の成功に味をしめた海外の賞狙いということもあってやたら豪華に金をかけたスペクタクルで、そういう意味では悪くない映画ではありますが、カンヌでグランプリを取るほどの映画とも思えませんでしたね。

>中国ドラマ『如懿伝』
 10話ちょいまで放送が終わりましたが、面白く観続けています。抑えた雰囲気の落ち着いた作風と、俳優陣の好演、セットや所作などの繊細なリアリティーがいい。原作小説は『宮廷の諍い女』(未見)の原作者によるネット小説だそうで、その小説はドラマ版のほうの『宮廷の諍い女』の続編らしいんですが、ドラマ版『如懿伝』は設定が多少変わっていて、ドラマ版『宮廷の諍い女』の続編ではなく独立した作品なんだとか(あー、ややこしい)。

>史点
>>個人的には香港のデモには頑張ってもらいたいのだけど、進む方向によっては規模は小さいながらも「天安門」が再現されかねないと危惧もしている。

 僕も同じ気持ちですねえ。しかし天安門事件からももう30年か……。時は容赦なく過ぎ去っていきますな。あの年は僕も大学に入って故郷を離れ一人暮らしを始めた非常に思い出深い年です。
 それからアンネ・フランクからのナチス・ドイツ絡みですが、先日新聞の書評で『隣人ヒトラー』(エドガー・フォイヒトヴァンガー著、平野暁人訳、岩波書店)という回想録が紹介されてました。公式サイトによると「少年時代に、ヒトラーの家の真向かいに住んでいたユダヤ人歴史家による追想記。果たして、ヒトラーはどのような隣人だったのか。幸せな一家の上に垂れ込める暗雲……。史実と少年一家の生活をつぶさにたどりながら、不安高まる1930年代を年ごとに描き出す。ヨーロッパ各国で訳出された、希有なドキュメント。」とのこと。
 チバニアンは最初に聞いた時、何だ?千葉県人のことか?と思っちゃいました。そういや昔、騎馬民族国家を文字った「千葉民族国家」というくだらないだじゃれを思い付いたことがあります。



#10901 
バラージ 2019/06/24 22:34
『いだてん』金栗四三篇完結!

 いや~、最後の2話は素晴らしかったですね。女子スポーツの黎明期から関東大震災への流れが感動的過ぎました。クドカンは『あまちゃん』でも東日本大震災の描写が素晴らしかったんですが、今回も本当にすごかった。シマちゃん先生……(涙)。朝鮮人ら外国人虐殺をきちんと描いてたのも良かった。はっきりと朝鮮人と言及してはいませんでしたし直接的な描写でもありませんでしたが、ぎりぎりまで攻めた描写だったと思います。若き日の古今亭志ん生を絡めた描写も、登場人物大集結となった復興大運動会も最高でした。
 お次の田畑政治篇では人見絹枝に続いて前畑秀子(上白石萌歌)も登場とのことで、こちらも非常に楽しみです。


>文革後の時代の映画
 『芳華 youth』という中国映画を観ました。1970年代後半を舞台とした、文工団に所属する若者たちの青春群像劇です。
 文工団(文芸工作団)とは、歌や舞踊・演奏・演劇などに秀でた若者たちが全国から集められ、軍の兵士を招待して披露したり慰問したりする人民解放軍内の組織。文革下の70年代が最盛期で、改革解放路線に転換した80年代には多くが解散されたとのこと。監督のフォン・シャオガンも原作・脚本のゲリン・ヤン(厳歌苓)も70年代に文工団に所属していたそうで、映画は2人の青春時代のノスタルジックな思い出に彩られいます。
 物語は文革末期の1976年に始まります。やがて毛沢東の死と四人組の失脚で文革は終わりますが、世の中は急には変わりません。そして中越戦争が勃発。80年代に入り、改革解放路線という時代の変化とともに文工団は解散。改革解放路線が進んだ90年代がエピローグとなります。ちょっと過剰に感傷的で泣かせが過ぎるような気もしますが、観ているとついつい泣かされてしまうのも事実で、面白いことは否定できません。実際、中国では大ヒットしたそうですが、そのような感傷性が要因の1つなのは間違いないでしょう。
 あえて無名の若い俳優ばかりを集めたキャスティングが素晴らしく、文工団の若者たちの煌めく青春群像がまばゆいほどですが、誰からも認められる理想的模範生男子と、実父が反革命分子とされ家庭的に不遇な少女の主人公2人は、ある事件がきっかけで文工団を去り、中越戦争でそれぞれ体と心に傷を負い、改革解放の流れからも脱落します。しかし監督はあくまでそのような2人に暖かな視線を送り、最後に救いを与えているのがグッときました。
 中越戦争の激烈で凄惨な描写は凄まじく、ベトナムに完敗を喫した不名誉な戦争として世間から忘れられた史実の一端を、規制の厳しい中国でぎりぎりの線まで描いたのは評価に値します。それが中越戦争で傷ついた初老世代に共鳴したことが、また大ヒットの要因の1つでもあるようです。いい映画でした。


>中国歴史ドラマ
 放送が終わった『麗王別姫』は録画残り10数話のところで足踏み状態。武侠ドラマというか日本で言う民放娯楽時代劇のノリでそこそこ面白かったんですが、終盤後宮の男女話になってから昼メロみたいなノリでちょっとしんどい……。愛しているのはお前(主人公)だけパターンはこういうドラマの常で仕方ないんだけど、旦那が側室持つの嫌がって延々ごねたり、嫌々側室を持ったら持ったでほんとは持ちたくなかったとぐちぐち言ったり、しまいにはそれが原因で後宮に大問題が起こったりと、男の感覚としてはあり得なくてイライラしちゃうんですよねえ。史実の代宗は10人近い側室と40人近い子供がいたらしいんですが(笑)。
 そんなうちにWOWOWで『如懿伝 紫禁城に散る宿命の王妃』の放送も始まっちゃったため、つまんなかったら切っちゃおうと録画を観たら、これが意外と面白くて結構ハマっちゃってます。こちらは大河ドラマのノリに近く、予算も潤沢なのかセットも豪華で紫禁城ロケもしてる様子。人物の所作など考証も綿密なようです。安史の乱を描く『麗王別姫』と違って舞台はほぼ後宮内で、そうなると当然ながら史実の量も少ないのでかなり創作のドラマなんですが、ドラマとしての質はこっちのほうがずっと高いような。ただ雰囲気の暗さは好みの分かれるところかもしれません。主演の如懿役のジョウ・シュンはさすがの演技力で、脇を固める乾隆帝役のウォレス・フォ、皇后役のドン・ジエら后妃陣もいずれも好演。それにしてもドン・ジエももうアラフォーか。チャン・イーモウ監督の『至福のとき』からもう20年とは。ジョウ・シュンもチャン・ツィイーもヴィッキー・チャオも40代のお母さんだし、時が経つのはなんと早いことか……。みんないつまで経っても外見は若くて変わらんから実感しづらいけど。そして前代の雍正帝の皇后役がジョアン・チェンで、側室(乾隆帝時代の皇太后)役がヴィヴィアン・ウーというところで、「おお、『ラストエンペラー』」(笑)。この2人はさすがに老けたな~。雍正帝役のチャン・フォンイーも含めていずれも貫禄の演技ですが、チャン・フォンイーとジョアン・チェンは特別出演か、2~3話であっさり退場しちゃいました。

>てこ歴
 いやぁ、笑わせていただきました(笑い事じゃないのかもしれないけど)。落合秘史とやらは僕も大型書店で5冊ぐらい並んでるのを見かけたんですが、もうタイトルからしてやばいことがわかったし、僕はそういうトンデモ本はスルーしちゃうんで、こういう風に紹介していただけるとありがたい(笑)。著者の主張の発展というか展開は、典型的な偽書(古史古伝)製作者のパターンですね。話が世界規模になったり古い時代にさかのぼっていったりとどんどんでかくなるところなんか、長山靖生の『偽史冒険世界』で知った竹内文書にそっくりです。



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