パーク・ライフ
“軟式globe”から目が離せない。そう、僕は野球好きで草野球チームも掛け持ちしているくらいだから軟式グローブを大切に……いや、そっちのグローブじゃない。スペルもgloveとは違う。同じ響きでも、小室哲哉率いる“globe”に限りなく近い?存在。でも似てるけど似てない。なんせ面白さが違いすぎるのだから。
毎週火曜日の夜8時くらいからやっている「学校へ行こう!」という番組のワンコーナーに出ているのが、2002年の流行語大賞をかっさらいそう?な勢いの“軟式globe”なのだ。素人のグループがラップの替え歌で競い合う「B-RAPハイスクール」というコーナー。
昔、流行った「ダンス甲子園」や、RAG FAIRがCDデビューに至った「ハモネプ」のようなスタイルである。そうそう、若手芸人が順位を競っていた「ボキャブラ天国」で人気が高かった爆笑問題やネプチューンは、今バリバリ一線で活躍している。もともと実力を持っていても、やはりきっかけがないと全国区にはなれない。こういう番組や企画が「お笑い」のニューウェーブを生み出す土台の1つになっていることは確かなようだ。
少し話がそれ気味になったので、話題を戻そう。“軟式globe”のレパートリーは、本家“globe”の「I'm
fall'n D・N・A」1曲だけである。サビに(空耳アワーのような大いなる想像力で)耳を澄ましてみると「アホだなぁ〜」と聴こえる(ふむ、たしかに聴こえる♪)ところに目をつけ、見事な替え歌ラップを作り上げているのだ。メンバーはKOIKEとパーク・マンサー。先日小室哲哉と結婚したKEIKOと、ラップ担当のマーク・パンサーの名前をただひっくり返しただけ。うん、実に安直でイイ!
何といっても、自称「けっこう踊れる」細身のアフロヘアー・パークのキャラクターが面白すぎる。
「アホだなぁ〜(そうだよ、アホだよ!)、アホだなぁ〜(それがどーした、アホだよ!)、アホだなぁ〜お前、女を追っかけまわして、またドジしてる」の()内がパークの担当である。毎度、毎度、女にフラれて、それでも懲りずに女に惚れていくアホな男の姿をパーク自身がラップで表現しているのだが、とにかく歌詞が面白い。久しぶりに、「今日は火曜だ。8時までに帰って『B-RAPハイスクール』だけは絶対に見たい」と思わせてくれる番組に出会った。まさに「パーク、ありがとう」である。
パークの面白さには、かなりの反響があるようだ。検索サイトのGoogleで“パークマンサー”と入力したら、本物“マークパンサー”に迫る2500件のヒット数だった。抜くのも時間の問題だろう。しかも“軟式globe”を応援する個人ホームページがすでに多数できている。敢えて「たかが」を使わせてもらおう。たかがテレビ番組のワンコーナー、しかもそこに出演している数グループのうちの1つ“軟式globe”に対してである。ウェーブが広がる時の速さは光速なみだ……なんたって、パーク・マンサーの魅力勝ちだろう。
いやあ、長い前フリになってしまった。パーク・マンサー。パーク、パーク……『パーク・ライフ』! この作品には、正直はまりました。最近の芥川賞受賞作。先輩に薦められて読み始めたのだが、とにかく“生きた言葉”が素晴らしい。著者の吉田修一は決して難しい言葉や表現は使わない。誰が読んでもすぐに理解できる読みやすい文章だ。ただし、それは一読した時に限られる。ボーっとしていると、吉田修一が行間に浸したエキスを吸うことなく、通りすぎてしまいかねない。そう、何気なく置かれているフレーズは全て計算し尽くされていて、様々な伏線、言葉の綾、それらを全てかき集めると、スポンジケーキの空洞が見事に埋まり、恐るべし重量感のある小説が目の前に提示されていたことに気づく。
電車の中で偶然に出会った男女が、それぞれいつも訪れていた日比谷公園を舞台に、距離を縮めていくストーリーだが、吉田修一はとにかく固有名詞の使い方が巧い。“スタバ”という響きを日比谷公園の風景の中にポンっと置き、たったそれだけで独身女性の生活感を全て説明してしまう。はっきりいって魔法に近い。
芥川賞には、吉田修一のような情景がとてもイメージしやすい作風、そして最年少で受賞した平野啓一郎のような難解かつ重厚な文体が、いとも自然に混在している。そこが、この賞の魅力でもあると思う。選考基準は「これから文壇を賑わせていくであろう新しい才能」という点に集約される。……ジャンルを絞れば純文学となるのであろうが、この基準さえ満たしていれば、ジャンルなんて二の次に違いない。さすが、作家志望者の誰もが1度は夢見る芥川賞。他の文学賞よりも、注目度と重みが桁外れているわけだ。
「パーク・ライフ」というタイトルは素敵だ。本屋に置かれていたら、ふと手にとってしまうような軽さ……。軽薄さではない。軽快さのほうである。そして、黄色の日比谷公園が浮かび上がってくるような表紙のイラスト。書店の中を歩いていると、やはり目の端に飛び込んでくる。読み終えた誰もが、日比谷公園に足を運びたくなるに違いない。そうだなあ、クリスマス、お正月どちらを日比谷公園ですごそうか……。
2002.12.16
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