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問題点解決の技法-1

 
  一、問題解決とは何か
 
NO  項 目   概  要  
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 問題とは何か  日常的に言葉にする「問題」と、問題解決の対象としての「問題」とは必ずしも一致するものではありません。問題とは、ひと ことで言えば、「解決すべき事柄」ということで、テーマの特性です。 解決をしなくてもよいもの、あるいは、明らかに解決のしようがない事柄は問題といいません。
 2  問題の種類 問題解決を「個人としての問題解決」と「組織やグループ」としての問題解決」に分けることもできます。一方、「個人としての問題解決」は、システマティックにアプローチすることが常に適切であるとはかぎりません。「組織やグループとしての問題解決」のほうが一般的に複雑な問題が多く、かなり順序だてて科学的にアプローチしないと解決で きないことが多いのです。 
  -1  ◆二つの問題 問題解決は、「日常的問題の解決」対「非日常的問題の解決」、「戦略問題の解決」対「コントロール型問題の解 決」など、種々の視点で区分することができます。一方、「未来型問題」の解決は機会開発であり、「革新のマネジメント」あるいは「目標指向型の問題解決」といっても、解決の ためのアプローチは、「復元的問題の解決」とはまったく違ってきます。 
 3  問題解決の一般的手順 一応、問題解決の流れともいえる「問題解決の一般手順」を要約しておき ます。 1 問題の提起 問題の提起がうまくできないからといって、消極的になる必要はありません。大切なのは問題意識です。 2 情報収集 このステップのキーワードです。3 問題の深層分析「問題解決とは分析である」という面が大きいことを知らなければなりません。基本的な分析手法は身につけておくことが必要になります。

4 問題の評価・選択 優先順位をつけて取捨選択 し、着手順位を決めるのが、この手順4です。5 課題(解決テーマ)の設定「問題のくくり」を検討するのです。6 解決案の立案 問題解決のプロセスは、仮説―検証の繰り返しです。具体的な解決案は、プロジェクトとして検討していくなかで 順次解決していくことになります。

7 解決案の評価・選択 評価するステップを峻別して手順を分けて行うことに尽きてしまいます。8 実施手順計画の作成 手順に携わるメンバーが何をすればよいのかイメージが湧くように、手順を具体的に細分化して計画するステップです。これにはPERT手法(後述)を参考にするとよいでしょう。9 手順と進度管理≪キーワードは「人間心理の理解とその気にさせる演出」≫です。  
 
 二、なぜ問題解決ができないのか 
 
 1  抽象的思考への慣れ  抽象的な思考の慣れは、問題解決の大きな障害です。このことに気がついている人は少ないです。なぜ妨げなのか質問する人もおりません。信頼関係の秩序が壊れるとは、どういう状態になることをいうのか、どのようになれば秩序が維持できなくなるのか、国会では具体的に 質問した議員はほとんどおりません。

なぜでしょうか? 外国人とくにアメリカ人はよく 質問しますが、これも、言葉のイメージで分かった気になってしまう一つの例です。抽象化を防ぐためには、何事も(当然と思えるほど) 「なぜなぜ」と突っ込んで考えることになります。  
 2  既成概念と暗黙の前提にとらわれる  いまや絶対になくならないと思っていた仕事(作業)がなくなってしまう時代です。しかし、このままでは問題は解決 しない。既成概念は問題解決の敵と心得な ければならない。 既成概念というものが、如何にあ てにならないものでであるか、お分かりいただけたでしょうか。多くのメンバーが不可能と思ったはずです。

ご存知の方も多いと思いますが、「九つの点をすべて通って「一筆 書きしてください」という問題です。通常、大胆な目標は高すぎる目標であって、やる気を削いでしまうと考えがちです。実行して四週間から三週間まで短縮するのも容易ではなかったはずです。その結果、難しいと考えていたことが実現してしまいます。 
 3  手段と目的の履き違え  ある目的のための手段であったものが、いつの間にか目的化してしまったために、ことがうまく運ばない。問題が解 決できないことが多々あります。 手段が目的化している典型例といえます。このような手段と目的の履き違えは役所に限らず企業内でもすくなくありません。たとえば、運輸省の規則で、スキー場には、リフトの脇に風向計をつけなければならないことになっています。

それが室内スキー場にも適用され、風向計を設置しない限り、絶対に許可を出さないという運輸省と申請者との間でトラ ブルが起きたことがあります。ルールというのは何かの目的のためにあるということを無視した「事なかれ主義」の典型としか言いようがないのです。 
 4  失敗を恐れるこころ  システムが思ったほどに稼動しないのは、彼らにやる気がないからではなく、やろうとしていますが、やり方がわからないのが原 因だったのです。つまり、自分でできると思って初めて、動 くということです。それに、失敗を恐れる心は、この裏返しになります。 この経験や他のもろもろのケースから、私が学んだのは、やる気がない、と思われるケースの大半が、本当にやる気がないからで はなく、やり方がわからないためであることです。 
 5  組織風土と価値観  組織の風土・カルチャーは問題解決と無縁ではありません。世の中の変化も緩やかなときには、それでも何とかなるでしょうが、問題山積みの現在にあっては、あきらかに役所の体質が問題 解決の障害になっています。では、民間の企業はどうでしょうか。

つまり、ワイガヤとよばれる自由な論議の風土が問題を解決しやすくしている本田技研工業のような会社もあれば、過度の減点主義の風土や組織の価値観が 問題解決の障害になっている組織もあります。「言うだけ」で終わってしまう「尻切れトンボ」 型、仲良しクラブで悪く思われないことを重視する型、計画は立てるが一向に実行できない型、下手でも実行力のある型、猪突猛進型、石橋を叩いても渡らない型、と様々です。 
 6  社内だけでやろうとして発想の枠を狭める  問題解決においても、社外活用するという発想はなかなか出にくいのです。一社だけでは投資しきれずに、ライバルとも手を結ばざるを得なくなっ ていることなど、時代の要請があるからです。ところで、社外まで枠を広げて問題解決をするのは、アウトソーシングばかりではありません。「必ずしも社内だけを前提に発想してきたわけではない」という反論があるかもしれないのです。つまり、問題解決の発想を変えていかなければ生き残れないような時代になっているのです。 
 7  解決の余地がないところを動かそうと  問題解決ができない理由の一つに、解決の余地がないところを何とかしようとしていることがあります。この一番多いパターンが「全社一律二十パーセントカット」といった一律削減方式です。 
 8  プライド・面子にこだわるな  プライド・面子にこだわるのは個人ばかりではありません。いわゆる一流会社といわ れている企業、あるいは、その業界でトップにある企業には日常的に見られることです。しかし、(我々に)あるいは(我が社に)そのようなことがあってはなりませんという気持が、判断を誤らせてしまいます。  
 9  過去の成功体験にとらわれる   バブル期以前の高度成長時代の成功体験は使えないと考えるべきです。このポイントをしっかり押さえて、オーディオテープ業界で成功したのがTDKです。問題解決ができない理由は「過去の成功体験にとらわれる」ということでもあり、成長期であるから需要はぐんぐん伸びてます。成長期と成熟期とでは、とくにリスクの大きさがまったく異なります。
 10  方法論の欠如  〇問題解決におけるリスク・マネジメントの方法〇問題の掘り下げ方〇問題定義の仕方が肝要。問題解決の手順論だけでは問題は決して解決しないことです。 

   三、問題解決は問題の定義から始まる

 (1)  問題定義のポイント  問題を解決するのですから、その対策となる問題が明確になっていなければ、解決のしようがありません。問題が正確に定義できれば、問題の半分は解決したといってもよい ほどです。

また、具体的であるためには、定量化できるものは、できるだけ定量化しておく必要があります。これだけでは、問題解決ができ ないのは当然であるとともに、たったこれだけのことができるだけで、つまり、正しい問題定義ができれば、かなりの問題が解決 するはずだということを理解していただければ幸いです。 
 (2)  パーセプション・ギャップの存在を認識せよ  問題解決は、前述のように、問題の定義から始まりますが、その問題の明確化のための議論自体がすれ違いになっては、話になり ません。立場や価値観の違いで問題は変わります。最初から情報の収集選択を行ってはなりません。「これは問題 だ」と思っていても、他人に言わせれば「問題だという方が問題だ」ということになり、ときには問題の定義をめぐって紛糾する ことになります。情報収 集と情報の取捨選択は分けて行わなければなりません。 
 (3)  問題定義は事実の把握から  問題解決では事実が主人公です。耳を傾けるのは、意見の背後にある事実を掴むためです。閲覧者諸兄は「大福帳経営」という言葉をご存知でしょうか。これは他人の意見を尊重して問題を定義しろ、ということではありません。「大福帳」一枚一枚に具体的 に記されている過去の生の取引データから判断していかなければ本当の事実は見えてこないのです。 
 (4)  すぐ対策を考えるな  対策ではなく、問題点から入っていけば、対策案が上司から、立場の違いで否定されたとしても、事実としての問題まで が葬り去られてしまうことは避けられます。事実認識をおろそかにした対策は、単なる思い付きに過ぎません。問題解決というと、問題の原因究明もそこそこに、すぐに「○○すべきだ」というような対策を先に論じがちになりま す。 
 (5)  管理原則から問題を見つける  このマネジメントとは、会社の中での問題解決そのものです。つまり、管理の問題であり、もう一 つは、計画が記載されていないのではなく、計画自体がないケースです。「管理資料」 とよばれながら、望ましい姿、つまり計画値すら載っていないものが多いのではないでしょうか。営業マンのいわゆる「自己管理」です。これは管理ではなく、「放任」といいます。 
 (6)  管理余地を追求  管理余地とは、文字とおり「管理するだけの余地がありますか」といった視点で考えていくものです。 管理原則を発展させた考え方に「管理余地のマネジメント」があります。ある化学繊維会社の品質管理のケースでは、品質基準を挙げるところに管理余地が存在し、品質管理図を作成するところには、管理余地がほとんどなかったのです。

この紡糸工程では、屑糸が出ます。そのため紡糸工程で「屑糸発生率」をとらえ、それを、その工程の業績管理指標としていました。しかし、屑糸発生の原因が原液混合にあることもわかっていました。

問題解決とは常識的に考えても、問題の原因を特定 し、その原因をつぶすことであるはずです。つまり、紡糸部門にとっては、ほとんど手の打ちようのない管理不能要員ですから、紡糸工程にとっては、管理余地が存在しなかったのです。 
 -2  問題点解決の技法-2  四、問題掘り下げの具体的方法
五、未来型問題のとらえ方
六、問題解決者必修の分析手法
七、解決案の立て方 
 -3  問題点解決の技法-3  八、知的生産性向上のノウハウ
九、解決案を成果に結び付けるには
1 問題解決  一、問題にもいろいろな「型」がある。
二、問題解決のスキルを磨こう
三、原因究明が解決の決め手

一、問題解決とは何か 

1. 問題とは何か

問題とは解決すべき事柄
 問題とは、ひとことで言えば、「解決すべき事柄」ということです。言い換えれば、問題の裏側には、必ず対策が存在します。

したがって、解決をしなくてもよいもの、あるいは、明らかに解決のしようがない事柄は問題といいません。それらは、与件ある いは特性と呼びます。与件とは与えられた前提条件を意味しますし、特性は事業や企業あるいは商品などに固有の特徴を示すま す。当たり前のことのようですが、この両者を混同しているために、前進できないことが多々あります。

たとえば、以前、ある農機具の会社で、こんなことがありました。同社の社長が、「わが社のセールスマンの顧客での滞留時間は一時間と聞いていますが、無駄 話ばかりしているのではないか。もっと縮めるよう努力しろ。」といいだしたのです。たまたま会合で同席したほかの業界の経営 者から、訪問管理の重要性と、その業界での滞留時間は平均15分であることを聞いてきたのが発端だったようでした。

しかし、まだまだのんびりしていた当時の農機具販売の世界では、農家に上がりこんで漬物でもつまみながら雑談するといったタ イプのセールスマンのほうが成果を上げていました。なまじ、効率を気にして、要件だけで帰ってしまうと、「あのセールスマン は売込みばかりで、自分の都合だけで商売をしている」と非難される状況にありました。

さすがスピードの時代の昨今では、そのようなことはなくなった様ですが、当時は、訪問滞留時間が長いことは、度を越さなけれ ば問題ではなく、農機具業界の特性であったのです。つまり、当時の状況では、長い訪問滞留時間は解決すべき事柄ではなく、そ れを前後に営業活動を考えなければならなかったのです。

また、ある清涼飲料の会社では、同社の飲料事業がかかえる問題点を一度すべて洗い出してみようということに成りまして、従業 員にも問題提起のアンケートを試みましたが、その中で最も多く提起された問題点が、「売り上げが天候に左右される」というこ とでありました。しかし、これも問題ではなく、それはテーマの特性だったのです。

確かに、天候に売り上げが左右され過ぎるのは、会社としては好ましいことではありませんが、飲料事業にとどまる限りは、いた し方のないことです。

 必要なのは、「そのような特性があるのだから、月々の売り上げの上下で一喜一憂しても仕方がないのです。売り上げの評価も 短月ではなく、累計で行おう」といったように、事業の特性に合ったマネジメントをすることです。

この清涼飲料の会社で多くの従業員が「何とかなりませんものか」と感じたことは、解決のしようがなく、問題解決の対象として の問題に当たらないのです。しかし、日常会話では、「売り上げが天候に左右されるのが問題だ」といった具合によく使われる言 い回しです。

つまり、我々が日常的に言葉にする「問題」と、問題解決の対象としての「問題」とは必ずしも一致するものではありません。 それだけに、ビジネスの場で問題解決を考える場合には、意識して、問題と与件・特性を区別する癖をつけておかなければ、いつ の間にか、解決のしようのないことを議論していることになりかねません。

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2. 問題の種類

「問題とは解決すべきものであること」が分かったところで、次に、問題にはいくつかの種類があります。そのためには、それぞ れの性格によって解決のアプローチが違うことを理解しなければいけません。

たとえば、問題解決を「個人としての問題解決」と「組織やグループ」としての問題解決」に分けることもできます。この二者の 間には共通して役に立つ方法論がありますが、やはり両者の基本的アプローチは違ってきます。

「組織やグループとしての問題解決」のほうが一般的に複雑な問題が多く、かなり順序だてて科学的にアプローチしないと解決で きないことが多いのです。
一方、「個人としての問題解決」は、システマティックにアプローチすることが常に適切であるとはかぎりません。一人の場合に は、科学的アプローチよりも、「考える頻度」のほうがポイントとなることがこれもまた多いのです。

 通常、「個人としての問題解決」は、問題意識をもつことからスタートして、何度か考えているうちに「こうすればよい」とひ らめく、というプロセスを経ることが、この「何度考えて」という頻度、ようするに、「思考の時間」を持つことが、「一度に考 える時間数」以上に重要になります。

考えていないつもりでも、脳は必要な情報をキャッチするためにアンテナを張って、アイデアなどを孵化してくれるからです。日 本では「考えをあたためる」、米国では「アイデアをインキュベートする(孵化する)」といいますが、これらの言葉は、先人た ちの、そのような経験にもとづいているのです。

八章の「知的生産性向上のノウハウ」でも述べますが、このことは、組織で考える場合にも当てはまります、しかし、この効果は個人で 考える場合のほうが大きいです。ニュートンはりんごが木から地面に落ちるのを見て引力の法則に気づいたといわれますが、ニュート ンも突然ひらめいたのではなく何度も考えて「思考が熟成していたから」こそ気がついたのです。

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◆二つの問題
 問題解決は、この他にも「日常的問題の解決」対「非日常的問題の解決」、「戦略問題の解決」対「コントロール型問題の解 決」など、種々の視点で区分することができます。
しかし、ここでは組織で仕事をしている人々を主たる閲覧者と想定しているので、ビジネスマンにとって最も基本的な二つの問題 である「復元的問題」と「未来型問題」の解決に対象を絞ります。

図1を見ていただきたい。図に示したように、ビジネスに限らず、世の中の問題は「復元的問題」と「未来型問題」に大別され る。「復元的問題」は、現状と現在の基準値とのギャップであり、「未来型問題」は現在の基準値と将来のあるべき姿とのギャッ プです。

図1

 したがって、「復元的問題」の解決は、定常状態の維持管理ないしは正常性の回復を目指すものであり、「維持的マネジメン ト」あるいは「原因指向型の問題解決」といってよいでしょう。
一方、「未来型問題」の解決は機会開発であり、「革新のマネジメント」あるいは「目標指向型の問題解決」といっても、解決の ためのアプローチは、「復元的問題の解決」とはまったく違ってきます。

たとえば、永年住んでいる自宅が老朽化し、台所に水漏れが発生した場合の問題解決は復元的問題の 解決です。それに対し、新たに家を建てようといった計画は未来型問題の解決になるわけです。
ですから、両者のアプローチが明らかに違うことは誰でも理解できるとおもいます。それで、何が本質的な違いなのでしょうかと いいますと、前者の場合は実現すべき基準値は比較的明確ですし、「現状の把握がスタート」ですが、後者の場合には、どのよう な家を建てるのかの「目標設定から始め」なければなりません。

 これが、「復元的問題の解決」と「未来型問題の解決」の基本的な違いですから、ビジネスの場合もおいてもそのことは変りま せん。ふだん「ビジネスマンは問題意識を持たなければなりません」といわれますが、それは、特に後者の「ビジョンを描き、現 実と未来とのギャップ」を意識することにほかなりません。もし、そうでもなかったら、せいぜい現状の維持にとどまり、進歩が ないからではないでしょうか。

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図2・図3

3. 問題解決の一般的手順

「問題解決とは何か」をご理解いただくめに、ここで、一応、問題解決の流れともいえる「問題解決の一般手順」を要約しておき ます。以下は、その手順の概要ですが、書く手順の詳細とポイントについては、それぞれ関連する項を参照してください。

◆手順1 問題の提起
この手順は、問題を明確にするステップです。したがって、前項で述べたように、将来のあるべき姿や現在の基準値をまず確認し たうえで、現状の姿のありのままに描き出し、それららの間のギャップを浮き彫りにすることからスタートします。

三で問題の定義の仕方を詳しく解説しますが、「現在行われている行為が何のために行われているか、本来の目的にかなっている のか」あるいは「その目的自体が、いまでも意味のあるものなのか」を考えることは、最も手っ取り早い問題発見の方法の一つで す。

また、問題の提起がうまくできないからといって、消極的になる必要はありません。漠然と感じていたことが、非常に重要なこと であったということは多いのです。最初から問題が明確に捉えられなくても、後で詰めができればよいでしょう。とりあえずは、 自分がなんとなく問題だと感じていることでも勇気をもって提起することが重要な点です。ですから、大切なのは問題意識です。

◆手順2 情報収集
次のステップは、問題の原因になっていそうな、あるいは関連のありそうなあらゆる情報を掴むことです。
ここでのポイントは、あまり情報の取捨選択をせずに幅広く集めることです安易に対策に飛びつかないことです事実と意見を峻別 して徹底的に事実を掴むことです。事実には、上位者といえども反論できません。 「事実ほど強いのはない」が、このステップのキーワードです。

◆手順3 問題の深層分析
われわれの眼に見えている問題は氷山の一角であり、表面的な一つの現象に過ぎないことが多いのです。これらの表層の現象にと らわれずに、問題の本質を把握しなければ、根本的な問題の解決はできません。
そのためには、できるだけ具体的に細かく分けて見ることが必要になります。細かく分けてみるとは、分析にほかならなりません が、「問題解決とは分析である」という面が大きいことを知らなければなりません。

原因追求型の問題の場合には、現象から、その原因へ、そしてさらに、その原因へとさかのぼって原因―結果の系列をとらえる事 が基本になります。
一方、未来型問題の場合には、実現したい姿を明確にイメージした上で、その姿を実現するためには、何をすべきか、何が障害に なりそうかを論理的に考えてポイントを押さえます。その際には、世の中の定石といわれているものが参考になります。

いずれにしろ、問題の性格によっては、分析の方法を知らなければ問題の解きほぐしすらできないものが多いのです。問題解決 は、分析力なくしてはありえませんから、基本的な分析手法は身につけておくことが必要になります。

◆手順4 問題の評価・選択
手順3のステップには、すでに問題の評価というプロセスもある程度組み込まれていますが、やはりそれだけでは本当の問題の絞 込みにはなりません。 前の第3手順で一応のフィルターを通してピックアップされた問題を、さらに目的に照らして評価し、優先順位をつけて取捨選択 し、着手順位を決めるのが、この手順4です。

◆手順5 課題(解決テーマ)の設定
選択した問題が、そのまま単独で、一つの解決すべきテーマになることもあれば、複数の問題が複雑に絡み合っているため、個々 の問題を別々に取り上げては、部分最適に陥るものもあります。

部分最適とは、ある部門あるいは、ある局面だけ見れば、効果のある解決策であるものの、全社的あるいは総合的見地から眺めた 場合、トータルでの成果はむしろマイナスになっている状態をいいます。 皆、良かれと思って問題解決に取り組み、知恵を絞っているのですが、全体が見えないために、自部門の正解が結果的に他部門の 足を引っ張ることもすくなくありません。

営業部門が顧客満足を高めるために小口多頻度配送に踏み切ったところ、生産部門の混乱を招き、かなりのコストアップにつな がったというようなケースは、この典型です。
このように複雑な問題が絡み合っている場合には、一つのテーマごとに解決していっても、全体としては、整合性のとれないもの になる可能性があるため、それら複数の問題を同時に考え、同時に解決すべき事柄としてグルーピングして、テーマ設定しなけれ ばなりません。

要するに、ここでは一緒に解決していくべき「問題のくくり」を検討するのです。 たとえば、営業の生産性向上のための諸手だてを一つのパッケージとして、システム化しなければ意味がないような場合、「セー ルス・マネジメント・システムの確立」といったテーマ設定になるでしょう。

◆手順6 解決案の立案
ここでは、既成概念にとらわれずにできるだけ多くの着想を得ることがポイントになります。そのためには、ブレーン・ストーミ ングといった方法がありますし戦略定石や改善の原則といったものも参考になります。

また、問題解決のプロセスは、仮説―検証の繰り返しです。最初に考えた案は、あくまで仮説と心得て、できるだけ定量的に検証 していきます。最初に考えた仮説にこだわりすぎないことが大切です。どうかすると、検証が立証の努力になりがちなので気をつ けなければなりません。

前述のシステム化して解決しなければならない性格の複雑な問題の場合には、必ずしも具体的な解決案とはならずに、解決方向と いったレベルしか出せないことも多いのですが、最初はそれでよいでしょう。

これらの問題は、後で述べる「実施手順計画」の作成が重要であり、具体的な解決案は、プロジェクトとして検討していくなかで 順次解決していくことになります。

◆手順7 解決案の評価・選択
効果の大きさ、実現可能性、経済性といった観点から、解決案を評価し、選択するのですが、ここでのポイントは、解決案を考え るステップと評価するステップを峻別して手順を分けて行うことに尽きてしまいます。

◆手順8 実施手順計画の作成
手順に携わるメンバーが何をすればよいのかイメージが湧くように、手順を具体的に細分化して計画するステップです。

「誰が」「いつまでに」をきちんと入れておくことは当然のこととして、どこまで細かく手順を計画できるかが成否の分かれ目に なります。これにはPERT手法(後述)を参考にするとよいでしょう。

◆手順9 手順と進度管理
解決案を実施するのは人間です。そのため、取るに足りないような僅かな感情の行き違いが問題解決を急に駄目にさせることがあ ります。関係者の心理を理解して、必要な演出を心がけることなどが実施上の重要なコツです。

また、何らかの進度管理の仕掛けを作り、当初の目的からずれていないかをチェックする役割の人物を配するなどの配慮も欠かせ ません。いずれにしろ、通達一本で「やれ」と指示して、先に進むほど人間社会は単純ではありません。
ここでの≪キーワードは「人間心理の理解とその気にさせる演出」≫です。

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二、なぜ問題解決ができないのか

「問題解決とは何か」のおよそのイメージがつかめたところで、「なぜ問題解決ができないのか」を考えてみましょう。問題解決の具 体的方法についは三以下で詳述しますが、この章も問題解決に取り組む際の留意点として、具体的な方法におとらず充分に読手の役に 立つはずです。

さて、私の経営コンサルタントとしての経験からすれば、以下のことを問題解決の十大ネックとして挙げることができます。

  1. 抽象的思考になれ、具体的に考えられない。
  2. 既成概念にとらわれています。
  3. 手段がいつの間にか目的化しています。
  4. 失敗を恐れるこころ。
  5. 組織の風土と価値観
  6. 社内だけでやろうとして発想の枠を狭める
  7. 解決の余地の大きさの見極めができない。
  8. プライドや面子にこだわります。
  9. 過去の成功体験にとらわれる
  10. 問題解決の定石など方法論を知らない。
  11.  以上のの十項目です。
以下、これらの障害一つ一つについて説明します。
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1. 抽象的思考への慣れ。

まず、最初にあげなければならないのが、抽象的思考に慣れてしまって、具体的に考える癖が身についていないことです。この悪癖を 克服できれば、ビジネスに限らず、世の中の問題の多くがかたづいてしまいます。それほど大きな障害なのですが、このことに気がつ いている人は少ないのです。

私が本業としている経営コンサルタントの世界でも、能力のある人は必ずものごとを具体的にとらえています。
また、意外な発想、人の意表を突くような発想をして、難題を解決していくタイプの人々が周囲にいる閲覧者もおられると思いま すが、彼らの発想パターンをよく観察してほしいです。一見、意外に思えるのは、跳んだ発想ができるからではなく、他の人たち が、一種の先入観で当たり前と思い込んでいたようなことを具体的に突き詰めて考えることによって、その本質を見抜くことがで きるからです。

それでは、抽象的思考とは、どのような思考を指すのかを、例を挙げてみます。
安全信用組合などに始まった一連の金融破綻劇で、大蔵官僚や日銀が金科玉条のように口にする言葉に、「信用の秩序の維持」の ためとか、「取り付け騒ぎ」が起きると大変だから、というのがありました。

国会での審議も、この抽象思考を持ち出されると、野党の追及もとたんにトーンダウンしてしまいます。さながら水戸黄門の葵の 紋の印籠でした。

しかし、信用秩序が壊れるとは、どういう状態になることをいうのか、どのようになれば秩序が維持できなくなるのか、具体的に 質問した議員はほとんどありません。また、取り付け騒ぎにしても、それがなぜいけないのかを質問した人もいなかったのです。 信用秩序の破壊、とりつけ騒ぎ、という言葉だけで、「それは大変だ、そうさせてはいけない」と思い込んでしまうのです。

要するに、その言葉の中身を吟味することなく、言葉のイメージだけで分かった気になっているのです。
取り付け騒ぎが起きても必ずしもパニックになるとは限らないことは、米国など諸外国の例を見ても分かることです。

このような信用秩序の維持といった抽象的な説明で判った気になり、納得してしまうのは、もちろん、政治や行政の世界にかぎり ません。われわれの日常生活でも文字通りの日常茶飯事であるし、ビジネスの世界でも数え切れないのです。

たとえば、大企業の中期計画には、具体性を欠くために使えないものが多いということをご存知でしょうか。なぜ、そうなるので しょうか?

それは、高学歴の文章にたけたスタッフが美辞麗句を駆使して書き上げるため、一見もっともなことに思えてしまう一つの例で す。言葉遣いが巧みなだけに、さっと一読しただけでは、至極もっともなことに思えてしまうのです。

しかし、じっくり、実施の具体的な場面をイメージしながら読むと、「はて、これはいったい、どうして実施するのでしょうか」 という疑問がわいてきます。これも、言葉のイメージで分かった気になってしまう一つの例です。

要するに、ある言葉を受けて、簡単に「なるほど」と納得しないことが肝要です。そのためには、何事も(当然と思えるほど) 「なぜなぜ」と突っ込んで考えることです。コンサルタントの世界では、これを「なぜなぜ問答」といっていますが、私の駆け出 しのころは、先輩に、自分の当たり前と思っていることを「なぜ」と問われて、返事に休止、「黒はなぜ黒いか」というような質 問は困ると思ったものです。

これは日本語の特性や、あまりあからさまな追求はしないという日本人の特性からくる面もありますが、何よりも我々が欧米人に 比べて論理的に考えることに慣れていないということが大きいのです。

外資系コンサルタント会社に勤務した経験からすると、あきらかに日本人は質問が少ないのです。外国人とくにアメリカ人はよく 質問します。「そんな細かいことは胴だっていいじゃないか」と腹の立つこともありましたが、今から振り返ってみると、それが 問題を明確にした面があることは否めないのです。

詰問調の質問になると、うまく行くものがうまくいかない。ということになってしまいますが、相手の言っていることの真意を確 認するという形での質問は多用すべきです。

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2. 既成概念と暗黙の前提にとらわれる

前述の言葉のイメージで即断してしまうのも一種の思い込みですが、既成概念から抜けられないための思い込みも非常に多いので す。
まず、図4の問題を解いていただきたい。有名な問題なので、ご存知の方も多いと思いますが、「九つの点をすべて通って「一筆 書きしてください」という問題です。解答は後のページに示してあるが、解答を見る前に自分でチャレンジしていただきたい。

ところで、「五パーセントの改善は難しいが三十パーセントの改革は易しい」という言葉を聴いたことはないでしょうか。経営の 神様の松下幸之助さんの言葉だそうです。

これは次のようなことを意味しています。すなわち、五パーセントの改善であれば、それは何とかなるでしょうと従来の延長線上 の発想で済ませようとその結果、できると思ったはずの五パーセントも改善できないで終わってしまいます。しかし、三十パーセ ントの改革の場合には、従来の発想では歯がたたないことは明らかであるため、既成概念から離れ、まったく新しい角度で取り組 まざるを得ないのです。その結果、難しいと考えていたことが実現してしまいます。

図4 ◇大胆な目標
この考え方を積極的に活用したものに「大胆な目標」がある。リエンジニアリングを契機に最近クローズアップされてきたものだ が、各社ですごい成果を挙げている。

通常、大胆な目標は高すぎる目標であって、かえってやる気を削いでしまうと考えがちである。私自身も、昔は、目標というもの は、低すぎても高すぎても意味がない、背伸びしてやっと届くかどうかといった程度の目標が一番よいと考えた。

しかし、現実に、無理あるいは非常識と思えるような目標を達成しているケースが続々と出ているのです。人間理知襟再現のない パワーにはいまさらながらに驚かされる。

ここで具体的な例を紹介しよう。まずソニーの一宮工場の例である。同工場では、以前、大型テレビの納品リードタイムが四週間 あった。それを一年間で三週間に縮めたところで、後二年のうちに四日までに短縮しようという目標を立てた。そして、それを見 事に達成してしまったのです。

四週間から三週間まで短縮するのも容易ではなかったはずです。それを四日という目標を出したのだから、当時の工場のメンバーは 驚いたに違いない。多くのメンバーが不可能と思ったはずです。このように、一見不可能と思われる目標が既成概念の呪縛から 人々を解き放ち、知的生産性をアップさせるのです。

最近では、このような実例を範として、コストハーフ運動が諸メーカーで盛んである。 ところで、大手スーパーのジャスコでは、花王製品については発注作業をやめてしまったことをご存知でしょうか。世の中のほと んどの人が、商品を仕入れて販売する以上、発注作業は当然のことであって、未来永劫なくなることなどありえない仕事だと思っ たいたはずである。

従来、ジャスコでは、他社同様、花王のA製品がどの店舗でいつ頃品切れになるので、そろそろ注文をしようか、というスタイル で発注作業を続けてきた。しかし、両者のコンピューターをオンラインで結んだことによって、ジャスコ各店舗での買おう製品の 売れ行きと在庫を買おう側で即時につかめるようになったため、花王はジャスコからの注文を待たずに、必要量と送るタイミング を自主的に判断して送り届けることにしたのである。
その結果、ジャスコでは、グループ全体で百万枚に及ぶ発注伝票が不要になり、削減できた直接費用だけでも膨大な額に上ったと いう。

図5

これはコンピューター技術の発達によって必然的にもたらされたものと、単純に考えてはいけない。 いくらオンラインで情報が入手できるようになっても、発注は買う側が行うものという既成概念にとらわれていたならば、決して 実現しなかったはずだからです。

ここでは、詳細は省略するが、両者の間では、納品に伴う検品作業も日常的なものを廃止してしまいました。この検品も、これま では将来にわたって絶対になくならない仕事の一つと思われてきたはずである。

このように、いまや絶対になくならないと思っていた仕事までがなくなってしまう時代である。既成概念というものが、如何にあ てにならないものであるか、お分かりいただけたでしょうか。

さて、この講の最初で紹介した一筆書きの問題の回答に入ろう。この問題にはじめて取り組んだほとんどの人は、九つの点の外側 の点を結ぶ四角形の枠を想定して、その四角からはみ出さない範囲での一筆書きを考えたはずです。しかし、それでは問題は解決 しない。

図5の回答のように四角の枠をはみ出さないと一筆書きにならない。問題では、ひとことも「九つの点の外側にはみ出してはいけ ない」とは言ってないにもかかわらず、回答者が勝手に枠を暗黙の前提においてしまうのです。既成概念は問題解決の敵と心得な ければならない。

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3. 手段と目的の履き違え

本来、ある目的のための手段であったものが、いつの間にか目的化してしまったために、ことがうまく運ばない、あるいは、問題が解 決できないことが多々あります。

とくにルール、規則、制度など、ある目的の達成をスムーズにするために決めたものが、かえって障害になることには、よく見聞 します。社会の構造が変わり、投資すべき重点が変わっているにもかかわらず、昔の農業振興のために決めた国家予算の配分率 を、後生大事に守ろうとしている官僚の思考パターンは、その最も足るものです。手段であるルールさえ守っていれば、仮にうま くいかなくとも言い訳が立つという事なかれ主義からくるこの種の「本末転倒」は役所の世界では常識になっています。

たとえば、運輸省の規則で、スキー場には、リフトの脇に風向計をつけなければなりませんことになっています。もちろん、強風 の際にはリフトを停止して、乗客の安全確保を図ろうということが目的です。

しかし、それが室内スキー場にも適用され、風向計を設置しない限り、絶対に許可を出さないという運輸省と申請者との間でトラ ブルが起きたことがあります。外部と壁などで遮断された室内スキー場では、強風はおろか微風さえも起こるはずもないのに、規 則だからの一点張りであったといいます。

ルールというのは何かの目的のためにあると、いうことを無視した「事なかれ主義」の典型としか言いようがないのです。

さらにひどい例になると、阪神大震災の折、携帯電話の寄付を申し出たモトローラ社に対し、神戸市役所の係官は、他の人のとり なしによって最終的に受け取ったものの、当初は、役所の備品に貼る識別表がないことを理由に電話機の受け取りを拒否したとい います。(「日系ビジネス」1995年2月6日号による)

役所の備品に識別表を貼るのは、市の財産を紛失したりすることの内容に、きちんと管理するためですが、ひいては市民の生活と 財産を守るためです。このケースでは、市民を守るために、より役立つでしょうと思われる携帯電話の寄付を断り、相対的に低次 元にあるルールのほうを重視したのです。

ところで、このような手段と目的の履き違えは役所に限らず企業内でもすくなくありません。ただ、役所と若干異なるのは、自己 保身のためよりも、自分の行っていることが本末転倒であることに気がつかないケースのほうが多いことです。

まず、身近な例を挙げます。営業マンの活動管理の手段の一つとして、得意先別の訪問頻度を定めている会社はすくなくありませ ん。これには、特別の事情がない限り、定められた頻度で訪問するのが売り上げの増大に一番寄与するはずだという前提がありま す。

しかし、ライバルの構成が激しくなってきた場合には、当初定めた頻度以上に訪問はなければ、売り上げの維持すら難しくなるこ とは明らかです。それにもかかわらず、依然として決められた頻度以上に訪問しないという営業マンは多いのです。手段が目的化 している典型例といえよう。

あるいは、「和」を企業の経営方針の中心に掲げている会社は今では少なくありませんが、ライバルに勝つために一致団結して協 力しようという、勝つための手段であったはずの「和」がいつの間にか目的になってしまい、人の嫌がることはいわず、信賞必罰 もなく、まるで「仲良しクラブ」になっている会社も多いのです。

さらに、環境が変わったにもかかわらず、以前の環境を前提とした制度にしがみついているのも、目的を軽んじたものといえましょう。

たとえば、終身雇用・年功序列が有効でたった時代に策定された人事制度の多くは、いまや人々の活力をそぐ現況となってきてい ることも多く、見直さなければなりません。

以上のようなケースにとどまらず、手段が目的化している例は、どの企業でも数え切れないのです。 当事者たちがその罠にはまっていることに気がつかないことも多いだけに始末が悪いです。目的を見ずしての問題解決はありえな いだけに、日頃から意識して心しなければならないでしょう。

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4. 失敗を恐れるこころ

問題解決ができない理由の一つとして、失敗やリスクを恐れるこころを無視することはできません。やはり、組織に所属するものとし ては、失敗したくない、マイナス評価を受けて将来に響いては困ると考えるのは当然です。したがって、単に失敗を恐れるなといって も、当事者が頑張れるわけではありません。

成功したときの本人にとってのメリットが、失敗のマイナスよりもはるかに大きいということを事前に形で見せてあげるか、失敗 しても、業績評価のうえで大きな減点にはなりませんというお墨付きを与えることも、ときに考えなければなりません。

図6

もともと優秀で、本来は積極的な人間が今回に限って、消極的であるというような場合には、この失敗への恐れか、テーマそのも のに評価を見出していないかのどちらかであることが多いのです。

図6を見ていただきたい。これは、私が「やる気の三段階」と呼ぶものですが、通常、文字通り、箸にも棒にもかからないといっ た人物の場合を除けば、やる気は三つのレベルで構成される。

まず第一に、そのことに意味があると、必要性を理解してもらわなければ、どのような優秀な人であっても動かないのです。たと えば、トップの命令であっても、腹の中で、こんなことやっても無駄なのにと思っていれば、適当に動いたフリをして、お茶を濁 してしまうことでしょう。

第二のレベルは、必要性が理解できても、達成可能と思わなければ動かないことです。つまり、自分でできると思って初めて、動 くということですし、失敗を恐れる心は、この裏返しになります。

第三のレベルは、ここまで行けば理想的といったレベルです。自分の存在価値を実感できるようになると、それこそ、すごいパ ワーを発揮します。

いずれにしろ、人間の心や気持ちの持ち方が問題解決の障害になっていると自覚したならば、問題のポイントが、この三つの段階 のどこにあるのかを見極めなければなりません。それは、その障害の所在によって、まったく打つ手が変わってくるからなので す。

ところで、この失敗を恐れる心は、「消極的だ」とか、「臆病だ」とか非難したからといって、うまくいくものではありません。

与えられたテーマが、組織として非常に重要な課題であることは理解できていても、失敗を恐れて先に進めないのは、自分の能力 を超えていると感ずる。あるいは、やり方がわからないか、のどちらかです。したがって、指示を出す上司は、自分のやり方のイ メージを既にもっていれば、それを部下に示してやることが肝心です。

一例として、私のコンサルタント駆け出しの頃に、ある会社で営業のマネジメント・システムの導入を手伝ったときのことを紹介 します。

当時、私は、実施のためのマニュアルも分かりやすく書き、説明会でも懇切丁寧に説明しました。実施には万全を期したつもりで いました。ところが、新しいシステムが意図した通りに実行されません。成果がなかなか見えてこなかったのです。私はあれほど 丁寧に説明したのだから、これは、第一線のメンバーのやる気がないからだと考え、各営業所に尻たたきに出かけていって愕然と しました。

システムが思ったほどに稼動しないのは、彼らにやる気がないからではなく、やろうとしていますが、やり方がわからないのが原 因だったのです。

この経験や他のもろもろのケースから、私が学んだのは、やる気がない、と思われるケースの大半が、本当にやる気がないからで はなく、やり方がわからないためであることです。仕掛けた立場の人間が判らないはずはないと思っていることが、現実には分か らずに、つまづいていることがあるのです。

したがって、多くの企業で見られるように、通達一枚で会社が動くと思ったら、それは大間違いであり、そのような姿勢を続ける 限り、問題解決は全く望めないことになります。

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5. 組織風土と価値観

組織には、人間同様、十人十色といえるほどの個性や風土の違いがあります。いつも「言うだけ」で終わってしまう「尻切れトンボ」 型の企業、仲良しクラブではないかと思うほど、他の人に悪く思われないことを重視する企業、計画は立てるが一向に実行できない企 業、計画は下手でも実行力のある企業、猪突猛進型の企業、石橋を叩いても渡らない企業、と様々です。

このような組織の風土・カルチャーは問題解決と無縁ではありません。つまり、ワイガヤとよばれる自由な論議の風土が問題を解 決しやすくしている本田技研工業のような会社もあれば、多くの銀行に見られるように、過度の減点主義の風土や組織の価値観が 問題解決の障害になっている組織もあります。

たとえば、前述の役所の場合には、国民や市民から後ろ指を指されることを極度に恐れる風土があります。そのため、無難に大過 なくということが重要な内部の評価か基準になっています。そのため、前例にないことをやって、万一うまくいかなければ、出世 にも響く、前例どおりにやってダメであれば、それなりに、言い訳は立つし、大目にも見てもらえます。そのようなことから、変 わったことはやらないという、事なかれ主義の文化が育っているのです。

世の中の変化も緩やかなときには、それでも何とかなるでしょうが、問題山積みの現在にあっては、あきらかに役所の体質が問題 解決の障害になっています。このような事態にまで至った場合は、内部での問題解決や自浄作用を期待することは難しくなりま す。

では、民間の企業はどうでしょうか。民間の場合も程度や内容こそ異なるものの、風土や内部の価値基準が問題解決の障害になる ことが多いのです。

たとえば、トップの強烈な個性の前に言いたいこともいえないという雰囲気が生じます。問題の突っ込んだ議論ができないという 会社は、それこそ数え切れないでしょう。あるいは、たとえ、ワンマンでなくとも、優秀なるがゆえに完璧を求めます。、議論に 強い経営者の場合にも、部下が「社長と議論してもかなわない」と、コミュニケーションをあきらめてしまうため、同じような状 況が生まれます。

また、これまで昇格や昇給にはあまり差をつけない主義できて、過度に平等を重視してきた古いタイプの人事部では、超競争時代 に即した優勝劣敗形の人事制度を設計することは至難の業です。

こうした種類の問題解決は、お役所と同様に当事者に期待することはできません。ソニーや大成建設などでは、今までの制度に のっとって運営する旧人事部に加え、改革を検討する、実質的に第二人事部ともよべるような組織を設けていると聞きます。トッ プになかなか直言しにくい状況では、当然、社外のコンサルタントに声をかけることも多くなります。

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6. 社内だけでやろうとして発想の枠を狭める

最近でこそ、徐々に変わりつつありますが、これまでは、なんでも自分のところでやる、少しでも事業に関連のあるものは何でも、あ りとあらゆる仕事を抱えるという「自前主義」「ワンセット主義」が日本企業の特色のひとつでありました。

そのために、問題解決においても、社外活用するという発想はなかなか出てこないのです。すべてを自前でやるという暗黙あるい は無意識の前提に立って考えることによって、自らの発想の範囲を狭くしているのです。

七章でも紹介しますが、何十年も前から「改善の原則」といえば、「外部委託を考えろ」という考え方が必ず登場して来ました。 ですから、「必ずしも社内だけを前提に発想してきたわけではない」という反論があるかもしれないのです。

しかし、それは「面倒な仕事は外へ出してしまえ」「中小企業との給与格差を利用してコストを下げろ」といった、下請けへの外 注発想であったところに限界がありました。

今、ここで「社内だけ前提に考えるな」といっているのは、そのようなレベルのことではなく、外部の専門的なノウハウを活用せ よという、はるかに積極的な次元のことです。これを単なる外注と区分して、最近は「アウトソーシング」と呼んでいます。たと えば、経理業務すべてを社外に出してしまう会社も出現していますが、この「アウトソーシング」の詳細は後述の七章で述べるこ とにします。

ところで、社外まで枠を広げて問題解決をするのは、アウトソーシングばかりではありません。社外との提携、技術導入などもま すます重要になっています。

それは、変化のスピードが速く、自社だけでやっていたのでは間に合わなくなっていることです。競争の規模が大きくなり、生き 残っていくための投資規模が巨大になっているためです。一社だけでは投資しきれずに、ライバルとも手を結ばざるを得なくなっ ていることなど、時代の要請があるからです。

図7

つまり、問題解決の発想も変えていかなければ生き残れないような時代になっているのです。この両者について、それぞれ簡単に 事例を紹介しよう。

まず、医薬品会社F者のライフサイクル・マネジメント(LCM)の例があります。図7は、その考え方を示したものです。

同社の場合、次の柱となる商品Bが登場する前に、現在の柱である商品Aが衰退期を迎え、三~七年後には、今のメイン市場には 売るものがなくなってしまうことが明白です。

したがって、F社としても、次の商品Bが発売されるまでの間、市場の関係を維持しておくために、技術導入をしてでも売る物を 確保することが必要と判断して、点線で示されるようなライフサイクル曲線を描く商品を導入しました。

同社はオリジナリティーを社是としてきただけに、従来は他社開発製品を扱うことは、タブーでしたが、いまや、そのようなこと は言っていられない時代となったのです。

後者の投資規模にかかわる事例では、一時のいすゞ自動車と本田技研工業の提携があります。いすゞ自動車はRV車「ロデオ」を 米国の本田の販売網に供給し、本田は小型乗用車「ドマニー」をいすずの国内販売網に供給するという提携です。

本田にとっては米国で人気の高いRV車が品揃えに加わることになり、一方、いすずにとっては、乗用車をもつことでビジネス・ チャンスを増やすばかりでなく、RVを乗用車と比較購買して買っていく層へのアピールができます。これを両者が別々に投資し ていたのでは、かえって体力を弱めることにもなりかねません。

いまや、非競合他社はもちろんのことです場合によっては、プライドを捨てて、ライバルとも手を結ぶ「呉越同舟」も必要になっ ている時代です。それを、相変わらず、自社だけで、と発想していたのでは、問題解決ができないと同時に大きなチャンスを逃が すことになります。

前述のジャスコの発注業務改革の大きな成果も、ジャスコだけで効率化を図ろうと考えていては得られなかったことは間違いな く、買おうと手を結んだからこそ実現したことです。企業の枠を超えて問題解決に取り組む時代になってきたことを認識するには 格好の事例です。

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7. 解決の余地がないところを動かそうと

問題解決ができない理由の一つに、解決の余地がないところを何とかしようとしていることがあります。「そんな馬鹿な」と思われる 閲覧者もいるかもしれなりませんが、それは案外と多いものです。

詳細は三の「管理予知を追及する」の項で述べますが、ここでは、日常的に身近な例を一つ挙げてイメージを掴んでいただきま す。

不景気になったり、会社の業績が悪くなったりすると、多くの会社で取り組むのが、全社を挙げての経費削減活動です。このとき に一番多いパターンが「全社一律二十パーセントカット」といった一律削減方式です。

しかし、この方式は無意味とはいいませんが、理論的に考えて実現できない部署が発生するため、あまり賛成できません。会社内 の経費発生原因となる理由が、経費発生時点の何ヶ月も前に先行して生ずることが多いからです。
たとえば、人件費を何パーセントか削ろうとしても、既に採用してしまっている以上、実現できないということもあります。

このように、解決しようとする問題の原因が既に発生してしまって、手の打ちようのないものまで解決しようと試みていることは 少くないのです。問題解決には、解決の余地、管理の余地がどれだけ残っているのかをチェックすることが欠かせないことを肝に 銘ずる必要があります。

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8. プライド・面子にこだわるな。

プライド・面子にこだわるのは個人ばかりではありません。会社やそのほかの組織とても同じことです。プライド・面子にこだわって は、まともな判断ができなくなります。

毎年のように、官僚や公的団体あるいは大企業の不祥事隠しがマスコミを賑わせますが、その多くがわれわれ外部の人間から見れ ば、「隠したって、どうせ分かってしまい、かえって問題を大きくするだけなのに」と思うようなことばかりです。隠した当事者 たちも、自分たちに関係のないことであれば、冷静にそのような判断ができるだけの頭を持っている人たちのはずです。

しかし、(我々に)あるいは(我が社に)そのようなことがあってはなりませんという気持が、判断を誤らせてしまいます。

問題解決とは関係のない話に思えるかもしれなりませんが、ここで強調したいのは、行過ぎたプライドと面子へのこだわりは思考 停止を招くということです。このような思考停止は、不祥事発生のような極端なケースにかぎりません。いわゆる一流会社といわ れている企業、あるいは、その業界でトップにある企業には日常的に見られることです。

たとえば、トップシェアを誇る会社にとっては、ほとんど脅威を感じないような弱小のライバル企業が画期的な新製品を発売した 場合に、必ずといってよいほど出てくる発言が(そんなものは無視すればよいでしょう。どうせたいしたことはないと、だいたい うちのような大手が弱小企業の真似をして後追いをするなどみっともない)という類のものです。

しかし、あるカメラ・メーカーは、そのプライドのためにポケットカメラ市場に出遅れたし、一流の看板にこだわって、低価格で 売るべき商品に高値をつけて失敗した会社もすくなくありません。

過度のプライドはプラスに働くものであり、必要なものですが、それにこだわってモノが見えなくなり、問題解決ができなかった り、大失敗したケースは数え切れないのです。

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9. 過去の成功体験にとらわれる。

問題解決ができない理由に「過去の成功体験にとらわれる」ということもあります。これだけ変化の激しい時代であれば、時の経過と ともに、問題の所在も成功のポイントも変わらないほうが不思議です。にもかかわらず、過去の成功体験にこだわりすぎて失敗したと いう話は後を絶たないのです。

とくに、バブル期以前の高度成長時代の成功体験は使えないと考えるべきです。成長期と成熟期とでは、とくにリスクの大きさが まったく異なります。バブル期のように、「行け行けどんどん」では破滅への道を歩むようなものであることは、誰でも理解でき るでしょう。

たとえば、成長前期において、余力のある設備を持っていることが成功の決め手になりますが、成熟期に課題設備は命取りになり ます。成長期であるから需要はぐんぐん伸びていきます。企業としては、需要の伸びに追いつくだけの供給力が必要になります。 供給することができれば、マーケットの拡大に伴って事業は拡大しますが、供給できなければせっかくのチャンスをみすみす逃し てしまうことになります。

このポイントをしっかり押さえて、オーディオテープ業界で成功したのがTDK。富士写真フィルムといった日本のメーカーで す。それまでのトップ企業であった米国の3M社は、成長期に入ってからの需要増に対応しきれず、シェア競争に負けてしまいま した。

しかし、オーディオテープで成功した各社は、ビデォテープでも同じ状況になると予想して相当の設備投資をしたが、それぞれの 投資規模も参入企業の数も昔とは比較にならぬほどに増えていたために供給過剰となり、慢性的値崩れという最悪の結果を招いて しまいました。オーディオテープでの成功がアダになった形です。

また、製品が成熟してくれば、研究開発や設計によって差別化を図っていく余地か少なくなり、生産コストやマーケティングが成 功の大きな鍵となってきます。

たとえば、一時期、高品質のテープレコーダーでその名を馳せた赤井電機は、いつの間にか業績が悪化し、他社の傘下に入ってし まいました。テープレコーダーのマーケットが成熟化するに伴い、事業のポイントが開発設計からマーケティングに移ってきたこ とを軽視し、十分な手を打たなかったからです

おそらく、マーケティングの重要性は認識していたと思いますが、品質で大成功を収めた体験を過信したために、ソニーのような マーケティングにたけたメーカーにシェアを奪われてしまったのです。

このように過去の成功体験にこだわっていると、問題解決ができないどころか、企業の運命までおかしくしてしまう危険性がある にもかかわらず、相変わらず「自分は、このやり方で成功してきたんだ」と言い張って、部下の新しい提言に耳を貸そうとしない 経営者や管理者は実に多いのです。過去の成功を支えた諸条件がいまなお整っているはずはないということに、なぜきがつかない のでしょうか。

このような言葉が出てきたときの経営者は、すでに頭の柔軟性を失い引退の潮時かもしれないのです。
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10. 方法論の欠如。

問題は、既存の知識の当てはめてはなく、その場その場の実態に応じて自ら知恵を振り絞って行うのが理想的ですが、なかには方法論 を知らなければ解決のしようがないという問題も存在します。

また、将棋や囲碁の定石のように、知っていることによって、問題解決の効率が格段に高まることも多いのです。しかし、現実 は、方法論を知らなさ過ぎるというのが、正直な実感です。竹やりを持って根性だけで近代兵器に立ち向かうようなことも多いの です。

方法論の具体的な内容については、この問題解決技法のそれぞれのパートで解説しますので、ここでは、どのような方法論を知ら なければいけないのか、その項目を挙げるだけにとどめます。

以下の項目が、その主なものですが、他の問題解決の解説書にあるような問題解決の手順論だけでは問題は決して解決しないこと です。つまり、③の分析手法や④の戦略定石などを知らなければ、問題解決の勉強も「お遊び」に終わってしまうことを知って読 み進んでほしいです。その意味で本書は、他の問題解決書とは、相当趣を異にしております。

  1. 問題定義の仕方
  2. 問題の掘り下げ方
  3. 基本的な分析方法とデータの読み方
  4. 戦略的な定石と改善の原則
  5. 対策構想の構築の方法
  6. 問題と対策の評価の仕方
  7. 解決案の手順計画の立て方
  8. 実行策の周知徹底のさせ方
  9. 問題解決におけるリスク・マネジメントの方法
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三、問題解決は問題の定義から始まる

(1)  問題定義のポイント

問題を解決するのですから、その対策となる問題が明確になっていなければ、解決のしようがないのです。しかし、それにもかかわら ず、問題が不明確であることに気がつかないまま、解決しようと無駄な努力をしているケースは多いのです。

それだけ、問題の定義は、普通に考える以上に難しいのです。問題が正確に定義できれば、問題の半分は解決したといってもよい ほどです。そこで、本章では、問題定義の具体的な方法を述べます。

◆問題は具体的に細分化してとらえよ
問題定義に当たっての最重要事項は、なんと言っても、「具体的に」定義することです。これまでも述べたように、具体化は細分 化から始まります。

たとえば、身近な営業でのケースから紹介すると、「商品知識が不足している」というだけでは、問題を定義したことになりませ ん。問題の原因らしきものが見えてこないからです。この場合には、せめて、

  • 「商品知識の必要性に対する認識不足」なのか、
  • 「商品知識の学び方を知らない」のか、
  • 「商品知識の教育訓練がなされていない」のか、
  • 「商品知識の教育訓練のやり方がまずい」のか、
  • 「商品知識を補う販売ツールが適切でない」のか、
  • などのいずれであるのかぐらいは明確にしなければなりません。問題の所在がどこにあるかで、打つべき手も変わってく るのです。
なお、以上の説明から検討がつくと思いますが、複数の問題点を一つの文章に表現することをしてはなりません。各問題点を個別に解 決する方法と、複合汚染をいっぺんに解決する方法とではおのずと異なるからです。 ◆5W1Hはやはり基本

  • この問題の具体化の基本は、やはり、小学校で習った5W1H、つまり、
  • 「どこで」(where)
  • 「だれが」(who)
  • 「いつ」(when)
  • 「何を」(what)
  • 「なぜ」(why)
  • の5つのWと、
  • 「どのように」(how)
  • の1Hで定義することです。
この5W1Hを知らない閲覧者はいないと思いますが、これほどポピュラーになっていても、なかなか守られていないのが実態です。 もちろん、問題定義の際に、これら全てが揃っていなければならないというものではありませんが、主語すら明確でないケースが多い だけに、改めてチェックするようにします。

◆問題は定量的にとらえよ
また、具体的であるためには、定量化できるものは、できるだけ定量化しておく必要があります。「ライバルの低価格構成への対 応策がとられていない」解いた問題にしても、ライバルが半値で攻めてくるのか、10パーセント引きで来るのかでは、まったく 対策が異なってきます。

後者であれば、通常のコストダウン対策で間に合うかもしれなりませんが、半値となれば、それではとても間に合わず、海外生産 に踏み切らなければならないかもしれないのです。

閲覧者は以上をよんで、どのように感じられたでしょうか。言われてみれば当たり前の初歩的なことはかりです。しかし、この初 歩的なことすら、ないがしろにされているのが現実です。思い当たる節も多いのではないでしょうか。これでは、問題解決ができ ないのは当然であるとともに、たったこれだけのことができるだけで、つまり、正しい問題定義ができれば、かなりの問題が解決 するはずだということを理解していただければ幸いです。

◆問題分類時には抽象化に気をつけよ
また、問題の数が多い場合、問題点をグルーピングしたり、分類した上で定義をすることがあります。この方法については、後で 詳しく説明しますが、ここでは、くれぐれも分類することによって問題を抽象化しないように、と強調します。

たとえば、納期が遅い→担当者の連絡が不十分→管理者の指導不足→管理意識の欠如→責任権限が不明確、などと、より抽象的に なったり、上部の問題に置き換えたりしてはいけないのです。この例は笑い話のようですが、ある一部上場企業で現実にあったも のであり、多くの企業でこれに近いことをしています。

とくにKJ法(川喜田二郎氏考案の問題整理法)のトレーニングを受けた人々に、この傾向が強いようです。
KJ法では、問題点をグルーピングして、それをひとことで言えばどうなるかと「表札作り」をしていますが、この表札を作って いく過程で抽象化や問題の放り上げが行われやすいからです。

川喜田氏が専門とする文化人類学での混沌とした問題の整理と、具体策に結び付けなければなりませんビジネス上の問題整理とは おのずと異なってきます。

手法には、それが登場してきた背景があるので、その背景と限界を知った上で活用しないとヤケドの元となります。私もKJ法の 価値は評価していますが、KJ法は文化人類学では発想法になっても、ビジネスの上では、一つの整理法です。

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(2) パーセプション・ギャップの存在を認識せよ。

よくコミュニケーション・ギャップという言葉が使われます。コミュニケーションの不足などにより誤解が生じることをいうの ですが、これと同様に気をつけなければなりませんのがパーセプション・ギャップ、日本語で言えば、認識ギャップの存在です。

◆同じ言葉でも人によってイメージする内容は異なります。
人々が用いる言葉は、同じ言葉であっても、それぞれの人たちの育ちや過去の環境、あるいはその場の状況と無縁ではありませ ん。たとえば、会議の席などで使われる「まあ、やってみた前」というトップの発言にしても、その人より、「どうせできっこな い、やれるものならやってみろ」というネガティブなものから、「難しいことですが、応援するからチャレンジしてみる」という 好意的なニュアンスにモノまで、広い範囲にわたっています。

同様のことは、会社の中では、毎日どこかで起きています。あなたも、悪げもなく軽く言ったつもりが、一向に伝わらなかった理 という経験を、少なからずお持ちのはずです。

問題解決は、前述のように、問題の定義から始まりますが、その問題の明確化のための議論自体がすれ違いになっては、話になり ません。同じ言葉を使っても、そのイメージする内容は人によって異なることが少なくないだけに、誤解を招きそうな言葉につい ては、お互いに定義の確認をする努力を怠ってはなりません。

たとえば、原料高騰について議論する場合、Aさんは10パーセントくらいの高騰をイメージしているのに対し、Bさんは、二倍 を考えていたとすると、話がかみ合うはずがないのです。この種の食い違いは、議論をしているうちに、おかしいと気づくので、 そう問題は大きくなりませんかもしれないのです。

◆立場や価値観の違いで問題は変わる
しかし、立場の価値観の違いから来る認識の違いの場合には、そのギャップの存在に気づかぬまま討議し、結局は上位者のポジ ション・パワーで決まることが少なからずあります。これでは、せっかくの議論も時間の浪費と徒労に終わります。

では、このパーセプション・ギャップからくるすれ違いは、どう防げばよいのでしょうか。決定的な決め手はないがそれでも、こ のようなパーセプション・ギャップがありますことを忘れないだけでも違ってきます。

もう一つは、八章の「知的生産性向上のノウハウ」で後述するように、面倒でもホワイトボードに書いてみることです。書くだけ で自然に違いが浮かび上がってくることも多いのです。また、若干面倒なため、活用するのは、本当に重要な問題を議論する場合 に限られるでしょうが、次の例のように何らかの形で認識の違いを定量化してみることも有益です。

図8

図8はある部品メーカーで、特注品ーの対応を「事業にとっての重要度」と「充足度」という観点から討議したときの、幹部の認 識の差を示した実例です。この図を見れば、社長、営業部長、成蔵部長、開発部長それぞれが、驚くほど異なった見方をしている ことが分かります。

営業部長は、絶えず顧客に接しプレッシャーを受けているだけに、「売り上げをあげるためには非常に重要であるにもかかわら す、当社はできていない」と考えていますし、開発部長は、「そんなに特注ばかり受けていては採算が悪くなる、今の特注品に対 する開発スピードは我ながらよくやっている」と思っています。

この違いは、それぞれの立場を反映し狷介の相違であり、自分が正しい、内容が異なっても、各社でよく見られる現象です。しか し、このような見解の相違をそのままに問題解決に望んでもうまくいかないことは明白です。

さて、価値観の違いから来る認識の違いも大きいものです。自分が正しい、これしかないと信じきっていることが、他人から見れ ばおかしいことで、場合によっては180度異なる見方をされることすら珍しいことではありません。したがって、「これは問題 だ」と思っていても、他人に言わせれば「問題だという方が問題だ」ということになり、ときには問題の定義をめぐって紛糾する ことになります。

価値観の多様性ということは理解しているつもりでも、いざ自分のこととなると、どうしても自分が正しく、相手が間違ってい ると思いたくなるのが人情です。それだけに、問題定義のための情報収集の段階では、異なった価値観による見方を切り捨てるよ うなことはせずに、虚心坦懐で、あらゆることに素直に耳を傾けることが必要になります。

◆最初から情報の収集選択を行ってはなりません。
もちろん、他の人の問題提起の中には完全に見当はずれの意見もありますし、経験が浅いがゆえの、あるいは情報が不足している がゆえに、的外れになっている意見もあります。しかし本人がそれを一生懸命に真面目に考えて発言している以上、一見つまらな いように思える意見の中にも一部の理があることを忘れてはなりません。

つまり、「なぜ、そういう発言をするのか」というところまでにまで思いを馳せることが、問題解決の糸口となるのです。「なぜ そんな見方があるのでしょう」「なぜそう考えるのでしょう」と、まったく異なった見方や反対意見の背景を探ることによって、 それまで考えても見なかったような事実が浮かび上がることもすくなくありません。

たとえば、私自身、話しを聞いているときには聞き流していたことが、後で重要な意味を持つものであったことを、コンサルティ ングの場で何度も経験しています。

したがって、私は問題解決のためのヒヤリングを行う場合には、できるだけ漏らさずメモをとることを原則としています。情報収 集と情報の取捨選択は分けて行わなければなりません。取捨選択をしながら情報を収集するのは、一見効率的ですが、下手をする と色眼鏡をかけて情報を集めていることになりかねません。

おかしい、間違っていると思っても、とにかく言い分を聞いてみる、耳を傾けるという姿勢が、問題解決者に求められる態度で す。

後述するように、問題解決では、仮説―検証というステップが非常に大切です。しかし、仮説を立てるということと、情報の選り 分けをすることとは違います。最初から予断をもって情報を集めるようでは、問題解決者の資格はありません。

もちろん、最終的には、データの裏づけを取るなどして取捨選択は行わざるを得ないのです。しかし、最初から即断して、取捨 選択しては、大事なポイントを見落とす危険があります。

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(3) 問題定義は事実の把握から

価値観や立場によって問題は変わります。価値観の多様性を知り、まず耳を傾けることが問題解決の第一歩だと述べました。しかし、 これは他人の意見を尊重して問題を定義しろ、ということではありません。

◆現場百篇
尊重しなければならないのは、あくまで事実です。発言する場合に「事実と意見を分けて言え」ということがよく言われますが、 これは聞く場合にも、そのまま当てはまります。耳を傾けるのは、意見の背後にある事実を掴むためです。問題解決では事実が主 人公だからです。

私のコンサルタントとしての感覚的判断では、問題が解決できない理由の八割までが事実についての認識の食い違いによるもので す。裏返せば、それだけ事実をつかんでいないということです。

とくに「こうやっているはず、こうなっているはず」というのは、危ないのです。そう思っていても、案外そのようにはなってい ないものです。必ず自分の目と耳で確かめることです。刑事の世界では「現場百篇」という言葉があります。分からなくなった ら、とにかく現場へ行け、何か現場が語りかけてくれる、というものです。情報収集の段階では、刑事コロンボの「しつこさ」が 必要とされるのです。

私は経営コンサルタントですが、第三者である人間がいきなりやってきて、なぜ会社の問題解決ができるのか不思議に思う閲覧者 もおられると思います。それは、問題解決の方法論を身につけているから、ということはもちろんですが、「業界や企業の実情を 知らないがゆえに、徹底的に事実情報を集めるから」ということも大きな要素です。したがって、この情報収集をあまりせずにお 手伝いをする、企業の顧問としての活動などでは、自分本来の力が発揮できていない気がして、歯がゆさを感じるくらいです。

◆生データを大切に
事実の把握の一環としてのデータ分析も、集計した結果のデータを見るのではなく、生のデータ、つまり伝票単位でのデータ分析 からはじめることが重要です。

閲覧者諸兄は「大福帳経営」という言葉をご存知でしょうか。これは、大福帳時代の古臭い経営という意味でありません。これか らの経営のあり方の一つとして、日経BO社の「日経情報ストラジー」誌が提唱していることです。「大福帳」一枚一枚に具体的 に記されている過去の生の取引データから判断していかなければ本当の事実は見えてこないのです。ということをいっているので す。この生データの重要性は世間ではあまり理解されていないだけに、この「大福帳経営」の効果を実証する記事が頻繁に同誌に 登場し始めたときは、我が意を得たりの思いでありました。

というのは、問題解決におけるコンサルタントの優位性の一つがここにあったからです。たとえば、私もコンサルタント駆け出し のころ、過去数ヶ月の営業日報を一枚一枚めくりながら、データ分析をしたことがあります。一般の企業の人であれば、手はホコ リだらけになるし、それだけで相当の時間を費やさねばなりませんし、面倒でとてもやっていられない作業でした。

しかし、そのような細かい分析をしていくことによって、永木要所ごとの平均値や、合計を見ていたのでは決して見えてこない、 投入時間に見合うだけの価値のある事実が浮かび上がってきます。

幸い、現在はコンピューターの発達により、膨大な作業をせずとも、生データからの分析ができるようになっています。した がって、これからは、できるだけ生に近いデータをデータベースとして蓄積することを意識したコンピューター・システムの設計 が必要とされます。セブンイレブンに代表されるPOSデータの活用はこの典型゛でしょう。

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(4) すぐ対策を考えるな

われわれは、問題解決というと、問題の原因究明もそこそこに、すぐに「○○すべきだ」というような対策を先に論じがちになりま す。 図9

というのは、問題というものは、図9のように、多面的なものであって、自分が主張する対策は、問題の多くの側面の一面だけを とらえたものであるかもしれないからです。問題はあらゆる角度から事実を中心に検討し、その上で始めて対策を考えるべきで す。

事実認識をおろそかにした対策は、対策ではなく、単なる思い付きに過ぎません。たとえば、「セールスマンの契約納期が短すぎ る」という問題提起がなされたとします。この場合に、「セールスマンに、生産期間を考えて受注するように教育する」というよ うな対策が出されるかもしれなりませんが、この対策を論ずる前に、本当に契約納期が短すぎるのかを確認しなければなりませ ん。生産期間が長すぎるのかもしれないのです。

このような問題は多面的なものであるため、優先度の差はあるにしても、対策は一つとは限らないし、対策を通して問題を見るた めに、問題の一面しか見えなくなってしまう危険性があります。

また、対策には、それを選択する人が置かれている立場によって変わるという側面があります。社長と部長、部長と課長、課長と 担当者と立場が変われば、もっている情報も権限も異なってくるため、重視すべき問題の側面も異なり、とるべき対策も変わって くるのです。

たとえば、一担当者がライバルとの提携までを考えるのは、通常は分を超えた発想として、受け入れられないことが多いでしょう し、上司である営業本部長がいくら頼りないと思っても、その首のすげ替えを提案するわけには行かないのです。

このように、対策の選択には、選択者の立場から来る情報量の違い、権限の違いが大いに影響します。したがって、下手に対策か ら議論に入ると、「それは俺が考えることだ」あるいは「君は知らないでしょうが、こういう事情があるので、実行不可能な案な んだよ」といった具合に、一蹴されてしまうことになります。

しかし、対策ではなく、問題点から入っていけば、対策案が上司から、立場の違いで否定されたとしても、事実としての問題まで が葬り去られてしまうことは避けることができます。あまり賛成することはできなりませんが、どうしても、早い段階から自分の 考える対策を提示したければ、解決案と一緒に、否定の仕様のない事実としての問題点も明示しておくべきです。

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(5) 管理原則から問題を見つける。

マネジメントという言葉があります。このマネジメントは、会社の中での問題解決そのものです。 したがって、このマネジメント、つまり、「管理とは何か」を厳密に考えることによって、問題解決の道筋が見えてくることも多いの です。では、管理の原則とは、どのようなことを言うのでしょうか。

これは、いわゆる「PLAN-DO-SEE」のマネジメント・サイクルに従って行動することです。この言葉は、ビジネスマン であれば誰でも知っていることでしょう。しかし、この言葉の奥深さを本当に理解している人は少ないのです。まず、この 「PLAN-DO-SEE」を日本語で言い換えて考えてみましょう。

  • すなわち、管理とは、
  • ①計画を定め
  • ②計画を関係者に十分周知徹底をはすり、
  • ③計画と実績との差をとらえ、
  • ④その差をなくす、あるいは、小さくする行動をとることです
  • です。

ごく易しく言えば、「管理とは、望ましい姿に近づける活動」です。 しかし、皆さんの周りを見回してほしいです。管理とは呼ばれているものの、この原則から大きく外れていることだらけではない でしょうか。

身近な典型的な例を挙げよう。毎月、あるいは毎週、定期的にアウトプットされる「管理資料」を見てみましょう。「管理資料」 とよばれながら、それに、望ましい姿、つまり計画値すら乗っていないものも多いのではないでしょうか。実績だけの羅列データ は過去と比較してどうであったのかは分かるが、その値が本当に望ましいかどうかは見当がつかないのです。

これには二つのケースが考えられる。一つは、計画自体はありますものの、それがきちんと明示されていないケースです。もう一 つは、たまたま、計画が記載されていないのではなく、計画自体がないケースである.これらは共に、管理と呼ぶことはできな い、成り行き経営というのが正確なところでしょう。

計画のない管理が存在していないかどうか、これは、社内の潜在的問題を探る手がかりになります。後者は論外としても、全社の 問題には意外と気がついていないケースが多いのです。計画や標準が決まっていても、それが事実上知らされていないケースで す。知らされていなければ、計画が最初から存在しなかったのと大差はありません。

計画事項を書類で回覧する程度でことたれりとしているケースも少なくなりませんが、それで、きちんと意思が伝わると思ったら 大間違いです。重要なテーマになればなるほど、計画の伝え方が適切であるかどうかまで、気を配らなければなりません。

もう一つ例を挙げます。営業マンのいわゆる「自己管理」です。自己管理であっても、管理という以上、自ら努力して近づけるべ き「望ましい姿」がガイドラインとして、核営業マンにと示されていなければなりません。しかし、大方は、ガイドラインもな く、成績結果での判断がすべてとなっています。これは管理ではなく、「放任」といいます。

今度は、「計画と実績の差を掴む」ということに触れてみましょう。前述の管理資料には、計画地が載っていなかったが、記載す れば、それで済むのでしょうか?記載してあっても、その差異が適切に表現されていなければ使いようがないでしょう。

「適切に表現する」とは、対策アクションに結びつきやすいように表現するという意味です。たとえば、絶対値で表現したほうが よいものもあれば、比率のほうがよい場合もあろう。さらに、単純な比較ではなく、累計で比較しないと意味のない者もありま す。天候や時々の事情に影響されやすい事業の場合がこれに当たる。

また、この差異は、その差を解消できるだけのタイミングでとらえられなければ意味かはありません。たとえば、二ヶ月遅れの営 業実績検討表などは、結果が分かるだけで軌道修正のアクションのとりようがないのです。これが二ヶ月というほどの極端な遅れ でなくとも、一ヵ月後であっても、「先月は申し訳ありませんでした。今月はがんばります」で何の対策もうたれることなく終わ り、翌月にまた同じせりふを聞くことになるのがオチです。

このような、もう手の打ちようのない「死亡診断書」は、皆さんの会社でも、探すのにさほど苦労はいらないはずです。毎月の営 業実績検討は、まだ月末までに間のある、たとえば、二十日頃に行うなどプロセスのマネジメントでなければ効果は少ないのです

この「管理原則から考える」と次項の「管理余地の考え方」は、むかし、私が菊野恒夫氏に教えていただいたことです。いわれ てみればとうぜんのことで、コロンブスの卵のようなものですが、この二つの視点をある程度身につけることができた時には、 「これで何とかコンサルタントとして飯が食える」と感じたものです。それぐらい、この二つのものの見方は問題解決には欠かせ ない視点です。

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(6) 管理余地を追求

前項の管理原則を発展させた考え方に「管理余地のマネジメント」があります。これは、管理原則のこうで述べても差し支えないので すが、非常に重要な問題解決の視点、あるいは問題発見の視点を提供してくれるため、特別にスペースを割きたいとおもいます。

管理余地とは、文字とおり「管理するだけの余地がありますか」といった視点で考えていくものです。前述の例で行けば、タイミ ングを失した「死亡診断書」的書類は、管理余地のないところを管理しよう、つまり、問題解決をしようと、無駄な努力をしてい る典型といえます。

また、ある化学繊維会社の例として紹介した品質管理のケースでは、品質基準を挙げるところに管理余地が存在し、品質管理図を 作成するところには、管理余地がほとんどなかったのです。

このように、管理余地からの発想を行うには、管理原則の視点からのチェックがスタートとなりますが、そのほかの目の付け所を 紹介しておきます。

ひとつは、原因の発生部署に対して手が打たれているか、ということです。問題解決とは常識的に考えても、問題の原因を特定 し、その原因をつぶすことであるはずです。しかし、実態は後述するように、きめ細かく考えずに、暗算で即断してしまうため に、原因の存在しないしころに手を打つなど、かなりお粗末なものです。

先に例を挙げた繊維会社でこんなことがありました。繊維会社であるから、当然、糸を紡ぐという工程があります。ふつう、紡糸 工程といいます。この紡糸工程では、屑糸が出ます。屑糸はあきらかに会社にとってのロスですから、管理の対象として目をつけ られます。そのために、同社では、紡糸工程で「屑糸発生率」をとらえ、それを、その工程の業績管理指標としていました。当該 部署では、その指標で自分たちの評価が決まるわけですから、「屑糸発生率」の上下を日々一喜一憂していましたが、これはまっ たくナンセンスです。

なぜならば、その屑糸の発生の原因の大半は、紡糸機不具合やセッテングの拙さにあるのではありません。最初の工程である現役 混合の割合や温度管理にあるからです。つまり、それらは、紡糸部門にとっては、ほとんど手の打ちようのない管理不能要員です から、紡糸工程にとっては、管理余地が存在しなかったのです。

その会社は、誰もそのなを知らない人はいない一流企業です。また、屑糸発生の原因が原液混合にあることもわかっていました。 それでも、このようなことがありますのです。問題の原因発生箇所に対して適切な手が打たれているかどうか、この至極、当たり 前のことから見直してみたらよいのではないでしょうか。

二番目の問題解決の目の付け所は、管理「先行度」です。会社の中のことに限らず、対策への着手と成果との間にはタイムラグ (時間のずれ)があるのは普通です。しかし、この当たり前のことが、よく無視されます。

たとえば、期の途中で業績が低下した場合など、各部門一律に何%経費カットといった指令が出されることが多いのです。多くの 人は、これに何の疑問も差し挟まずに、ただ、右往左往しています。

しかし、これも無意味な指示といわざるを得ないのです。費用の性格によって、一週間前の打ち手で十分に効果が出ますから、一 年以上前の意思決定によって費用の九十九パーセントが確定しているものまで、様々であり、後者については、六ヶ月も経過した 時点で十五パーセントのカット指令を出しても、まったく効果はありません。

同様のことは、経営のほかの分野でも多々見受けられます。たとえば、在庫管理において、販売部門の販売予測精度の低さに起因 する在庫の増加まで、物流部門の責任にしていることも多いのです。販売計画と実売の差から生ずる在庫については、販売部門以 外には管理の余地はありません。在庫増加の原因が、販売計画と実売のずれにあるにもかかわらず、在庫が増えたといって生産や 物流担当の部門を責めるのはお門違いです。

現実に、このコストの負担責任を物流担当部門から販売部門へ移管した竹で、在庫が半減は他企業も存在このように、管理余地が どこにあるのか、また、その余地をマネジメントしていく責任をどの部門に持たせるべき課の判断は非常に重要です。

これをマネジメント余地とコストセンターのマッチングと呼びますが、このマッチングがうまくいかなければ、全社的観点からのコス ト削減の動機付けは期待できません。

◆コストや問題はシステムの設計時に大半が決まります。
ところで、問題の大きさ、あるいは原因は、システムなり制度を設計したときに決まってしまい、その後にどんな手を打とうと、 たいした解決にならないことが多いことも知らなければなりません。

たとえば、富士通では、パソコンの製造コストは企画設計段階で原価がほぼ百パーセント決まってしまい、工場のラインに乗って からではもうコストダウンの余地はないとして、開発部門も製造子会社である島根富士通に移管し、事業ごとの独立採算体制の下 で企画設計を考える方向を打ち出しました。これも管理余地の考え方です。

このような最初のシステムや制度の設計いかんで大半が決まってしまうケースは、日常的なレベルでもよく目にします。

たとえば、膨大な受注処理コストが問題になっていても、いったん受注処理システムが構築されてしまえば、日常活動のうちでの コスト・マネジメント余地は相対的に少なくなります。コストの大半は、最初に設計されたシステムそのものによって規定される からです。

さらに、梱包費用にしても、日々のロスの管理もさることながら、梱包をできるだけ必要としないような製品設計を行うことのほ うが重要です。

このように考えてみれば当然のことも、原因分析するときに抜け落ちてしまうことが多いのです。原因分析では、システムそのも のは所与のものとされ、その後の工程のみを対象にしがちだからです。

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