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問題点解決の技法-2

 
  四、問題掘り下げの具体的方法
 
NO  項 目   概  要  
1 問題は氷山と同じ、現象的問題にとらわれない  問題の構造は氷山と同じようであって、我々の眼に見えている部分は表面的、現象的なごくわずかの部分に過ぎないことが多いのです。問題解決に当たっては、問題の本質を見極めるという深層分析の手法を身につけなければなりません。問題をより上部の抽象的な問題に摩り替えてはいけません。分析とは「細かく分けてみる」ことであることをくれぐれも忘れないでくださのです。
2 分析力が問題解決を可能にする  細かく分けてみるのが分析、このような分析はどうしたらできるようになるのでしょうか。また、分析は、できるだけ定量的になされる必要があります。生産性分析のケースは、違いを分析するものですが、変化についての分析は、いわゆる時系列分析に他なりません。

このことを強調して「問題解決は分析である」といわれることもあるほどですから、分析力がなければ問題解決は不可能であると断言できます。分析という思考のステップが、問題解決の前プロセスのかなりの多くを占めています。細かく分けてみるのが分析のスタートですが、個々の事象の関連を見ることのほかに、変化と違いを見ることも分析の基本として忘れてはなりません。

3 分析結果と直感が違ったら  データの分析結果が実感と異なるということは、よくあることです。データに振り回されてはなりません。一般的には「データが示しているのだから、仕方がないじゃないか」となりがちです。データ自体に誤りがなくても、読み取り方が違っているということもあります。データは洞察力をもって読み取るものです。データに振り回されてはなりません。「実感とデータがまったく異なる場合には、分析方法の誤りを疑え」ということですから、分析の基本とは、あくまでも「データ分析は層別して行え」ということです。    
4 問題の優先順位の決め方  問題によっては、抛っておいてもこれ以上に拡大しないという問題と、放置すれば手がつけられなくなるという問題もあります。この優先順位は、「問題の大きさ」と「解決のしやすさ」で考えるのが基本です。また、それは問題の性格によって変わってきます。「問題が大きく、解決も容易」という事象に位置づけられる問題は着手優先順位は当然高くなります。    
 
  五、未来型問題のとらえ方
 
1 あるべき姿をどう描くか  復元型問題の場合は、事実の把握、問題の定義を出発点として問題点を掘り下げるということは、ご理解いただいたと思いますが、未来型問題の出発点は何でしょうか。一言で言えば「あるべき姿を描く」ことです。    
2 将来の夢(ビジョン)を描く  あるべき姿や夢を実現するための機会の開発であるため、未来型問題というよりも、「課題設定」と呼んだ方が感覚的にはフィットするかもしれません。    
3 環境分析を通して、世の中の変化を先取りします  驚くほどの変化の時代です。ある分野のある変化は、自社にとって機会(チャンス)となることもあるし、機会であると同時に脅威です。それを考えるためのツールが、「環境分析表」です。変化の影響が小さくても対策を講じておかねばなりません。第二次大戦以降、つねに、「今のように変化の激しい時代はない」といわれ続けてきたように思いますが、ここ二、三年の変化は二十年分の変化に相当するのではないでしょうか。考えても意味がない程度の些細な変化もあるし、何よりもすべての変化に対策を立案しようとすると手数がかかりすぎ、現実的ではないからです。そして、各分野において、どのような「変化」が生まれ、その変化がどんな「機会」と「脅威」を自分たちにもたらし、それにどう対応するかを、「対策方向」としてできるだけ具体的に書き込んでいくのです。    
4 原理・原則から、論理的にあるべき姿を考えます  玩具事業のKFSは、商品企画力です。この特性に対しては、「価格がKFS」であると言うことができます。未来型の問題の解決力をつけるには、この特性を掴むコツを身につけておかなければなりません。また、取り替えたスペアの機器までが故障することもあり得ないわけではありません。というのは、未来型の問題解決は、前述のように「あるべき姿」を描くことから始まりますからこの「成功の鍵」を押さえること自体が、「あるべき姿」を実現することにつながります。しかも、このあるべき姿を書き出した項目の中にキーファクターが潜んでいることが多いのです。    
5 真の顧客満足は何かを考えます  顧客と直接接する営業活動はどうあるべきか、その営業部隊を顧客とする生産部門は、社内顧客である営業部隊のニーズをどのように満たしていくべきなのかと言うように、ビジネスのプロセス全体を貫いた形で見直しを図れば、おのずから「あるべき姿」も浮かび上がってくるはずです。    
6 効果性と効率を上げる余地を考えます  企業の場合、あるべき姿が自然に出てくるのを待っていたのでは、厳しい競争に勝ち残れありません。この効率の余地を上げる方法はそう難しいものではありません。検討すべき要素が明確になった後、各要素ごとの「あるべき姿」を決めることになりますが、これらは、社内の討議だけで決められないわけではありません。 たとえば、機械製品であれば、基本性能、操作性、耐久性、デザインの魅力度、ユーザーのメンテナンス費用などと分解できるし、開発機能であれば、開発期間、ヒット率、特許件数、一製品あたり開発コストに分解できます。    
 
  六、問題解決者必修の分析手法
 
1 ABC分析(パレート分析)  イタリアの経済学者パレートが発見した「パレートの法則」が役に立ちます。たくさんある問題の中から重要なものを選び、その上位二十パーセントを解決すれば、その効果はすべて解決したときの効果の八十パーセントを占めると言うのです。    
2 相関分析  よく利用される手法です。二つの要素をそれぞれ縦軸と横軸にとるグラフにプロットして相関関係の程度を、統計学的に数値(相関係数)用いて、変数相互の一方が原因で一方が結果であるタイプのつよさを求めるものです。    
3 分散分析  平均値は全体を代表するとはいいがたのです。重要なのは、平均値ではなくこの最頻値なのです。 分散分析とはデータの持っている数値の変動を、因子や誤差の変動に分けて、因子による効果を調べる方法、つまりデータの散らばり具合を分析して全体の傾向判断します。パレート分析と並んで重要な分析です。
4 意思決定に不可欠な直接原価計算  原価計算の方法には、直接原価計算、つまり製品の製造費用を固定費と変動費に分類し、変動費を中心に原価を計算、利益計画において経営者が管理することのできない固定費を期間費用として処理する原価計算の手法。さらに、全部原価計算の場合は、人件費も商品の生産に関わるものとして、原価に含める手法の二種類があります。しかし、実務では、変動費と固定費を区分して、そのうち変動費のみを原価として計算する直接原価計算を用いて原価計算を行う方が良いと言えます。
5 ブレーン・ストーミング  ブレーン・ストーミングとは、集団でアイデアを出すための会議方式の一つです。十人から十二人程度の人が集まって、出来るだけ焦点を絞った問題についてのアイデアを出し合うものです。  この方法の根底には、多くの意見、アイデアを出せば、その中に有効な解決策が含まれており、それを分析結合させることによって、解決能力を高めることが出来るという考え方です。
 
  七、解決案の立て方
 
1 問題の種類によって解決解決方法は異なる  問題解決には種類があり、たとえば、個人の問題と組織の問題とでは、アプローチ方法が異なります。この人間関係上の問題解決でも、事実の確認が最も重要なことは、他の問題解決と変わらありません。その場合も組織の問題解決を対象とします。組織内の問題にもいくつかの種類があり、その種類によって、解決の方法は変わってきます。しかし「単純問題」に、科学的アプローチを適用して時間をかけることもありません。。
2 仮説→検証のサイクルが基本 つまり、情報をあつめて仮説を作り、また情報を集めて仮説を作りを繰り返します。あらゆる情報をすべて集めてから、解決案を考えようとせずに、多少、不十分な情報であってもそれらにもとづいて、一応の仮説を立て、その仮説を検証する形で新たな情報を集めます。更にそれに対して、仮説を作りながら質問すれば、質問の内容には、その仮説を確認するためのものが含まれ、前に他の人に尋ねたものとは内容が異なってくるのです。したがって、仮説は最終的にはデータで裏づけを取るものと考えてください。
3 問題解決には定石があります  囲碁や将棋に定石があるのと同様に、問題解決にも定石があります。 戦略的定石戦略には、もろもろの個別戦略策定の指針となる基本戦略があります。◆コストで勝負するのか、差異化で勝負するのか。 ◆強者の戦略<総需要拡大戦略>この戦略には、「現在のメインを市場を拡大する戦略」と「周辺市場を拡大することによって、メインの市場への波及効果を狙う戦略」があります。 図32標準戦略 ④どうなる分からない「問題児」製品(高成長市場で低シェア)図33経験曲線 図34ABC分析図 ◆社内業務の問題解決のための改善原則したがって、この仕事をやめたらどうなるか、やめるためにはどうすればよいかを徹底して考えることが必要です。 ②分散化を考えよまた、分散処理は空間的分散ばかりでなく、時間分散もあります。⑥機械化・自動化・電子化を考えろ六番目は機械化・自動化・電子化です。
4 情報の多さがアイデアを生む  現代は情報過多の時代ですから、情報に振り回されてはいけません。「知っているつもりでも、意外と知らないことが多い」「自分の情報には驚くほど偏りがある」ことに気づいていないために、真の問題解決ができないケースは、それこそ数え切れありません。 情報源が限られていると言うことは、情報の内容そのものに偏りがあることを意味するからです。
5 対策の選択方法  複雑な問題になればなるほど、評価視点はふえるかもしれません。そうなれば、暗算で評価するのが難しくなってくるのです。ところで、手点数評価をせざるを得ないものの、点数評価には、陥りがちな落とし穴があります。加重平均方式で総合点数を出して、その点数をそのまま優劣の順位付けに使う方法です。 問題解決のための解決案の評価でもまったく同じことが言えます。  実施できない対策を対策とよぶことはできありません。たとえば、A案とB案との比較でA案のほうがコスト・パフォーマンスがよくとも、B案を選択して、A案を選んだ場合との資金差額をほかのプロジェクトに投入したほうが、トータルの投資効率がよくなると言うことが多いのです。
-1 問題点解決の技法-1  一、問題解決とは何か
二、なぜ問題解決ができないのか
三、問題解決は問題の定義から始まる     
-3 問題点解決の技法-3  八、知的生産性向上のノウハウ
九、解決案を成果に結び付けるには
1 問題解決  一、問題にもいろいろな「型」がある。
二、問題解決のスキルを磨こう
三、原因究明が解決の決め手

四、問題掘り下げの具体的方法


◇ 1、問題は氷山と同じ、現象的問題にとらわれない

(図10)を見てくださのです。図のように、問題の構造は氷山と同じようであって、我々の眼に見えている部分は表面的、現象的なごくわずかの部分に過ぎないことが多いのです。本質的あるいは構造的な問題は水面下に隠されているのです。 図10

◆因果系列分析
 したがって,我々は、問題解決に当たっては、問題の本質を見極めるという深層分析の手法を身につけなければなりません。この真相分析に当たって大きな力を発揮するのが「因果系列分析」です。
因果系列分析とは、図11に示したように、現在、現象として目に見えている問題の直接の原因は何かを探り、その直接原因は、また、どのような原因で引き起こされているのだろうか、というように原因の源流にさかのぼっていく方法です。

図11

結果―原因(結果)―原因と、結果と原因の系列をたどっていくため、原因結果の系列分析あるいは因果系列分析と呼ばれます。
この因果系列分析のポイントとは、図11の事例のように、取り上げる現象をできるだけ具体的に細分化していくことです。「問題定義のポイント」で前述したように、分析のつりが逆に抽象化にならないようにしなければなりません。

 たとえば、図11のケースで言えば、「セールスマン一人当たり売上高が少ない」→「セールスマンのやる気がない」」→「給料が安い」→「トップの従業員に対する思いやりの欠如」などと、問題をより上部の抽象的な問題に摩り替えて言ってはいけません。改めて後述しますが、分析とは「細かく分けてみる」ことであることをくれぐれも忘れないでくださのです。

◆TQCの「特性要因図」はままごと
 さて、因果系列分析は、TQCでいう「特性要因図」族に「魚の骨」図12参照 と呼ばれるものと似ているという感想を持った方もおられると思います。しかし、「魚の骨」スタイルの分析は、小集団活動などで活用していくにはよいかもしれませんが、本格的な深層分析には活用できません。

図12

その理由の第一は、「魚の骨」スタイルでは三次、四次の原因までさかのぼることは難しいし、互いに錯綜する関係を表示できないからです。
第二は、こちらのほうが、より本質的な欠点ですが、魚の中骨に小骨をぶら下げることによって、分析ではなく分類になってしまい、発想に枠をはめてしまうからです。

この考案者といわれる石川馨教授は、本来は小骨を先に作ってそれらを中骨に組みたてていくように考えられたものかもしれませんが、皆、中骨という分類の枠を先に作って、その中で発想をしているのが現実です。
たとえば、図12に示したように、「人事制度の不備」といった中骨を先に作ることによって、人事生徒という観点からしか考えられなくなってしまい、人事制度の不備に関連するものではありますが、まったく別の次元の問題として捉えるべきものまで、その分類の中に放り込んでしまうのです。

はなはだしい場合は、人事制度の不備の例を小骨として列挙することでお茶を濁してしまいます。これでは、問題の掘り下げの入り口にたちだけで、問題の深層分析にはなりません。

◆戻る

◇ 2、分析力が問題解決を可能にする

 分析という思考のステップが、問題解決の前プロセスのかなりの多くを占めています。このことを強調して「問題解決は分析である」といわれることもあるほどですから、分析力がなければ問題解決は不可能であると断言できます。これは、原因究明形の復元的問題かもしれないと、機会開発型の未来志向の問題であっても、問題のタイプを問いません。

しかし、どういうわけか、問題解決に関する書籍には、分析の方法論や分析力をどうして身につけるかに触れたものは、ほとんどありません。分析力が身につけば、問題の定義をするのも容易になり、問題解決力の八割方を手に入れたといっても過言ではないため、本書では、この分析の方法論に相当数のスペースを割きたいと考えます。

◆細かく分けてみるのが分析
 そもそも、「分析」とは、細かく分けて考える、ということです。丼で大雑把に考えていたのでは見えてこない事柄を、それらを構成するいくつかの要素に細分化し、それらを新たな視点から組み立てなおすことによって、本質を掴もうとするのが分析です。

すぐれた事情課の鑑やひらめきによって、すばらしい戦略が生み出されたり、大きな問題が解決したりすることがありますが、そのようなケースでも、その事業家の頭の中では、それまでにインプットされ蓄積された素情報を分析し、アイデアとして組み立てなおすという作業が行われているのです。

また、分析は、できるだけ定量的になされる必要になります。定性的にしかとらえようのない事象の場合はもちろんやむをえませんが、できるだけ定量化しておくことが重要です。定量化すれば、問題の相対的大きさが明確になり、全体の場合、それらの位置づけがハッキリしてくるため、優先度や緩急の順を抑えることができます。

◆分析力を身につけるには
 さて、このような分析はどうしたらできるようになるのでしょうか。「細かく分けてみろ」といわれても、どう分けてよいかが分からない、言う読者も多いのではないかと思います。
これは、前述した「丼で考えていたのでは見えてこない事柄を、それらを構成するいくつかの要素に細分化し、それらを新たな視点から組みなおす」といったことを、頭の中で行うのではなく、実際に、作業化してしまうことです。

図13、すなわち、分析しようとする事象をできるだけ細かく分解して、一つ一つのラベルに記入し、それらを紙の上で並べなおしてみるのです。

図13

 この時点では、細かく分解するための「視点」などは心配する必要はありません。原因も、結果も織り交ぜて、とにかく細かくして、一枚のラベルに二つ以上のことを記入しないように気をつけさえすればよいのです。
そして、それらのラベルの、関係があるもの同誌を並べ替えて、何がいえるかを考えるのです。ここでは、前述の因果系列分析の方法も役に立ちます。また、KJ法のまとめ方も、同様の考え方がベースにあるため、参考になります。

 ただし、関係があるもの同士を並べ替えるということについては、KJ法と違います。「なんとなく関係がありそうなものを近づけるというのではなく、自分なりの論理に従って並べ替えなければなりません。
頭の中だけで考えていたときには、堂々巡りをして、なかなかお互いの関連が分からなかったものが、物理的に目に見えるようにすることによって、文字通り「見えて」くるのです。

◆違いと変化に目をつけろ
 以上のように、細かく分けてみるのが分析のスタートですが、個々の事象の関連を見ることのほかに、変化と違いを見ることも分析の基本として忘れてはなりません。
米国人と接触する機会の多い読者はお気づきと思いますが、彼らとの会話で特徴的なのは、すぐ「なぜ」と聞くことと、「それは○○とどう違うのか?」と違いをたずねてくることです。ペイ国でマネジメントが発達したのは、異人種間のコミュニケーションの難しさがあったことと、学生時代から分析的に考える癖を叩き込まれているからです。

 この変化と違いを見るのは、定性的な問題解決でも必要なことですが、定量的な分析でとくに威力を発揮します。一つ、分かりやすいケースで説明しよう。
このケースは、ある企業の各営業所間および営業マンの生産性のバラツキが、あまりに大きいため、その原因を探ろうとしたときの多くの分析の一つです(図14参照)

図14

個々では、大阪と仙台量営業所の営業マンの生産性を(稼動日当あたりの売り上げ」という支店で比較していますが、まず行ったことは、分析の基本に忠実に「稼動日当足りの売り上げ)をいくつかの要素に細かく分けてみることです。
ここでは、「稼働日あたりの売り上げ」は「外勤日数比率」「一日当たりの訪問顧客数」「訪問一回当たり売り上げ高」という四つの要素の掛け算で表されています。

「訪問一回当たり売上高」は、腕前の指標であると同時に、「一顧客あたり訪問回数」の影響も受けているため、ベストの分解方法とはいえない面もありますが、これを眺めていれば、成績のよい営業マンと悪い営業マンとの活動量の差は歴然としているし、大阪と仙台のほんのわずかの活動の差が三割もの成果の差に結びついていることがよくわかります。

 このような分解の仕方は読者もよく目にすることと思いますが、これは生産性を分析するときの定石と思ってくださのです。生産性とは、インプットに対するアウトプットの比率であるため、原則として分数で表現することができ、それをさらに細かく分けていくと、このような分数の掛け算になります。

 この営業マンの生産性分析のケースは、違いを分析するものですが、変化についての分析は、いわゆる時系列分析に他なりません。現在のように変化が激しい時代になると、時系列分析をしておかないと、気づかないうちに市場その他の環境が大きく変わってしまい、それまでの常識をもとに考えていると問題解決ができないことも少くありません。

たとえば、今まで紙上の中心にあった製品や顧客層が、いつの間にかマイナーな存在になり、売れないと思っていた製品や軽視していた顧客層が台頭してくるということは、よくあることです。

 最近のケースでは、パソコンの家庭への浸透があります。パソコンが家電販売店で、これほどの売り場面積を占めるようになるとは、多くの人が想像できなかったはずです。しかし、きちんと時系列分析を行い、変化の兆候をとらえていた家電販売店は、やはり早めに手を打っています。 なお、時系列分析は読者にもなじみの深い分析手法であるため、手法そのものの記述は省略します。

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◇ 3、分析結果と直感が違ったら

ところで、データの分析結果が実感と異なるということは、よくあることです。そのような場合、どう判断すればよいのでしょうか。一般的には「データが示しているのだから、仕方がないじゃないか」となりがちです。しかし、ちょっと待ってくださのです。

◆データは飽くまでも一面しか示さない(数字は読むもの)
 データ自体に誤りがなくても、読み取り方が違っているということもあります。
たとえば、以前、「牛乳をたくさん飲む地域の人ほどがんになる」というデータがある医学関係の雑誌に発表されたことがありました。そして、その証拠として、スイスやニューイングランドのような牛乳をたくさん消費する地域のがん発病データと、セイロンのような地域のデータとが相関関係図で示されていました。しかし、この当事のセイロンのような地域では、ガン年例になる前に他の病気で死んでしまう方が多かったのです。データは洞察力をもって読み取るものです。データに振り回されてはなりません。

また、データそのものが誤っている、つまり、分析の仕方がおかしいということも多いのです。このような場合は、データが示す結果は、大体、経験から来る実感と大きく違うものです。
経験と勘にもとづいた判断というと、科学的ということからは程遠いように考えられがちですが、そうではありません。たとえば、需要予測では、複雑な計算式がよく用いられりますがその計算結果よりも、経験豊かな経営者の勘のほうが当たっていることは多いのです。

 また、未来予測の手法として有名な「デルファイ法」は、勘の有効性を認めることによって成り立っています。これは、複数の特定メンバーに前回の質問の質問の集計結果を示しつつ同じ質問を何回も繰り返して、質問―集計―質問と続けていくなかで一定の見解に収斂させていく方法で、まさに未来の事象に関する有識者の勘そのものです。

◆実感を大切に
 経験夜間に頼りすぎて失敗する話は少なくありませんが、データ万能主義はそれ同様に危険です。 データは洞察力をもって初めて読み取れるものですから、その洞察力は実態への精通と経験からくる勘によって研ぎ澄まされます。したがって経済でも経営でも、すぐれたデータ分析の結果は、必ず実態を良く知る者の勘や実感と一致しています。裏返せば、真のベテランの実感とマッチしないデータ分析はどこかおかしいと思わなければなりません。

たとえば、次の製薬業界のケースを見てくださのです。この業界では、同じ薬効のものであれば、価格と売れ行きとは反比例するというのが経験から来る常識でありました。ところが、大手製薬会社のA社でのデータ分析の結果は図15のようになり、価格差と勝率との相関か関係はまったくないように思われました。

図15

 そこで、同社の担当者は、日ごろの実感とは異なるものの、データが証明する以上、日ごろの常識は、いわゆる「常識のうそ」かもしれないと考え、価格の高低の売り上げへの影響の少ない商品であることを前提に戦略を立てようとしました。
しかし、これは間違いです。彼は「実感」をもっと大切にすると共に、データ分析の基礎を学んでおくべきでありました。

 前者は「実感とデータがまったく異なる場合には、分析方法の誤りを疑え」ということですから、後者の基礎とは、「データ分析は層別して行え」ということです。

 性格の異なったものが混在したままで、二つの事象に相関関係があるか否かを検証することはできありません。二者間の関係を調べようという場合は、できるだけその他の条件を同じにして行わなければ意味がありません。たとえば一方では顧客の特性が影響し、一方では競合関係が影響するといった環境下では、本当の傾向値は出てこありません。
したがって、A社には、こうしたすべてを同一図で表すというどんぶり勘定的な分析をあらため、ライバルを同じくする(図16)、あるいは市場を同じくするデータのみで分析する(図17)、というように層別に分けて分析してもらいました。

図16

 その結果、「ライバルがB社の場合には、価格の影響度が低く、他の要素で勝敗が決まることが多いが、C社の場合は価格の差がダイレクトに勝ち負けに響いている」といったようなことが分かり、従来のような画一的な十把一からげの価格政策ではなく、きめの細かい価格対応ができるようになりました。

図17 ◆同じ事実もおかれた環境で問題にもなり、模範にもなる
 飲食店などを主顧客にする厨房機器メーカーB社の機器設置状況を調べたときのことです。この調査で分かったことは、各駅から二百メートルの圏内では同社のシェアは三十㌫を超えていますが、二百メートルの県外になると一気に、一%台のシェアに落ち込んでしまうということでありました。まさに駅前営業です。
この事実は、どう解釈すべきでしょうか。営業マンが横着で行きやすいところしか訪問していないという見方もできるし、活動効率のよい駅前にターゲットを絞って生産性を上げているという見方もできます。

企業規模も小さく、ライバルに比して戦力が劣る企業に対しては、後者の見方で、望ましい動き方ということができます。しかし、営業マン数も多く、個々の営業マンにまだまだ活動余力が企業の場合には、それこそ問題でしょう。
このように、データが同じ状況に示していても、置かれた立場や環境によって、その意味するところは異なることを、問題解決にのぞむ者は知らなければなりません。

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◇ 4、問題の優先順位の決め方

 問題の定義が終わり、問題の掘り下げが進んで、ある程度根本的な問題が特定できたならば、それらの優先順位、着手順位を決めなければなりません。
問題が具体的に定義され、これまでの掘り下げがきちんとなされていれば、それらの段階で、ある程度の問題の取捨選択が行われていますが、やはり、簡単にでも最終的な確認を行うことが必要です。

 この優先順位は、図18のように、「問題の大きさ」と「解決のしやすさ」で考えるのが基本です。たとえば、同図の「問題が大きく、解決も容易」という左下の象限に位置づけられる問題に着手優先順位は当然高くなります。ただ、「問題の大きさ」と「解決のしやすさ」についても、何らかの尺度がなければ、図のどこに位置づければよいのかすらも決められないことになるため、それぞれの判断基準が改めて必要です。

図18

 まず、「問題の大きさ」について取り上げようとする問題の性格に応じて別途、計画基準を設けるしかありません。これは、家を建てる場合の選択基準と車を買う場合の選択基準とはまったく異なるのと同様、テーマによって、千差万別です。一方、「解決のしやすさ」は、「解決に要するかもしれない所要時間」を代替指標として使うことが多く、一般的には、それで間に合うと考えてよいのです。

また、「問題の大きさ」と「解決のしやすさ」のウェートは、必ずとも五対五ではないということにも注意しなければなりません。それは問題の性格によって変わってくるのです。時間がかかっても解決しなければならないMustのレベルのものであれば、後者の比重も高くなります。

 さらに問題によっては、抛っておいてもこれ以上に拡大しないという問題と、放置すれば手がつけられなくなるという問題もあります。後者の場合には当然、時間の要素が重視されます。一般に問題の評価の場合、このような「放っておけばどうなるか」あるいは「今はコントロール不能であっても、時間がたてば変わることはないか」といった「時間」の要素が抜け落ちがちですが、この図を用いれば、「解決のしやすさ=解決に要するかもしれない所要時間」を考える際におのずから判断の要素に取り込まれることになります。

◆戻る

 五、未来型問題のとらえ方

◇ 1、あるべき姿をどう描くか

復元型問題の場合は、事実の把握、問題の定義を出発点として問題点を掘り下げるということは、ご理解いただいたと思いますが、未来型問題の出発点は何でしょうか。一言で言えば「あるべき姿を描く」ことです。つまり、ビジョンや理想の設定から始まるのです。

したがって、事実の把握の仕方といった問題解決技法に直接かかわることよりも、「ものの見方、考え方」が決めてになります。

ところで、このように書くと、「ものの見方、考え方」が確立できていない人や「先を見通す力」がまだ十分でないことには、手に負えかねるものに思われるかもしれませんが、決してそうではありません。やはり、あるべき姿を描くための方法論は存在します。それに従っていけば、それなりの課題設定はできるものと安心してくださのです。

さて、その具体的な方法としては、
  • ①将来の夢(ビジョン)を描く。
  • ②環境分析を通して、これからの世の中の変化を見つける。
  • ③原理・原則から、論理的にあるべき姿を考えます。
  • ④進の顧客満足は何かを考えます。
  • ⑤効果性と効率を上げる余地を考えます。
 の五つを挙げれば十分でしょう。
◆戻る

◇ 2、将来の夢(ビジョン)を描く

これは、将来、このような会社、組織、家庭にしたいな、という願望があれば、それに至る道筋を計画することであり、それがイコール未来型問題になります。
 たとえば、十年後に、持ち家を実現したいと考えれば、頭金をいくらにし、そのために毎年いくら貯めようと計画を立てなければなりませんが、その計画を立てるプロセス自体が未来型の問題解決であると考えればよいのです。
問題というと、「それは大問題だ」というような「望ましくないこと」をどうしてもイメージしてしまいます。しかし、「望ましい姿」を実現することも、それに至る障害を解決するという意味で、問題解決の一つです。ただ、あるべき姿や夢を実現するための機会の開発であるため、未来型問題というよりも、「課題設定」と呼んだ方が感覚的にはフィットするかもしれません。
◆戻る

◇ 3、環境分析を通して、世の中の変化を先取りします。

 驚くほどの変化の時代です。第二次大戦以降、つねに、「今のように変化の激しい時代はない」といわれ続けてきたように思いますが、ここ二、三年の変化は二十年分の変化に相当するのではないでしょうか。

 政治の世界ひとつのとってみても、自由民主党の一党単独支配が崩れて、絶対に政権に就くことはないと思われていた社会党から総理大臣が出る、一連の不祥事をキッカケに、磐石と思われていた官僚組織がごくわずかではあるものの揺らぎ始めた、といったように驚くばかりの変化です。

 また、ビジネスの世界の変化はさらに早いです。円高対応のための海外シフトも定着し、円安になっても、輸入は減らありません。価格破壊の大波は小さくはなったものの、規制緩和によって内外価格差はまだ縮まりそうです。さらに日本的経営を象徴するものといわれてきた終身雇用制な年功序列制も変わり始めました。

 また、情報技術の発達には目を見張らざるを得ありません。日本では当分無理だといわれていた電子メールも大手企業を中心に普及を始めたし、パソコンが各家庭まで入り込み、情報のボーダーレス化もとどまるところを知らありません。私のような個人でさえ、毎日電子メールを読み、家庭でテレビ会議に望む時代になりました。さらに、話題のインターネットは、あっという間に新しい社会のインフラになりつつあります。

 いまや、何が自社あるいは自分にとって思わぬ脅威になるか分からないと同時に、変化の波に乗れば大きなチャンスにもなる時代です。前述のように、家電販売店では、パソコンの売り場がかなりの面積を占めるようになり、情報がらみのベンチャー企業の台頭も著しいのです。読者の周りを見渡しても、時流に乗って栄える者、変化を読み損ねて衰退する者がハッキリしてきていることに気づくはずです。、

◆未来型問題の発見こそ飛躍の道
 したがって、復元型の問題にばかり目を向けていたのでは、将来、より大きな難題にぶつかるかもしれませんし、飛躍の機会を逃してしまうかもしれません。
とにかく、変化を読み、先を読んで、環境への適応を諮るべく今から準備しなければなりません。つまり、問題が起きてから対処するのではなく、成長あるいはよりよい生活のために、自ら未来問題を積極的に見つけ、課題を設定していくことが重要になっています。

前に身近な例として挙げた「持ち家計画」にしても、金利や地価がどう変化するかの読み方によっては、計画内容も変わるかもしれませんし、消費税など税制の改変や給与制度が変わる可能性にも目を向けておかなければなりません。
では、この環境の変化を読んで課題設定にまで結びつけるにはどうしたらよいでしょうか。それには、まず「環境変化の予測」を行い、それが自分たちにとってどのような意味を持つものであるかを考えることが必要になります。

それを考えるためのツールが、図19の「環境分析表」です。この図の横軸である「分野」には、変化が起きると思われる分野を記入します。
図19 たとえば、社会、政治、景気、家族、住環境などが入ります。ビジネスの場合を想定すれば、経済一般、為替、技術進歩動向、業界動向、消費者のライフスタイル、ライバルの動向、顧客の変化、仕入れ業者の動向などが入るでしょう。

そして、各分野において、どのような「変化」が生まれ、その変化がどんな「機会」と「脅威」を自分たちにもたらし、それにどう対応するかを、「対策方向」としてできるだけ具体的に書き込んでいくのです。

 ある分野のある変化は、自社にとって機会(チャンス)となることもあるし、機会であると同時に脅威です。といったことも当然ありえます。機会であれ、脅威であれ、あるいはその両方であれ、それらに対してどんな手を打てばよいのか、何をすべきかを明らかにするのが、この「対策方向」ですから、これが未来型問題にほかなりません。

 図20は、一般的に考えられる環境変化の例ですが、現実に役立てるには、これをさらに具体的なものにしていかなければなりません。この例での表現では実用には不十分です。
図20 たとえば、「円高の進行」と書いてあれば、読む側は何となく納得するかもしれませんが、一ドルが百円なのか、それとも八十円なのかによって、打つ手はまるっきり変わってくるのです。

 輸入製品との競争にしのぎを削っている会社を考えてみるとわかりやすいでしょう。円高といっても、一ドルが百円前後に収まっているうちは、徹底したコストダウンを図ることによって、何とか今の生産体制を維持できるかもしれありません。しかし、八十円にまで円高が進めば、もはや国内のコストダウンでは何をやっても追いつかず、ASEAN諸国などに進出して海外生産を実施するしかなくなる可能性は大きのです。このような場合、「円高の進行」というレベルでは対策を考えようがありません。だから環境分析は、具体的に行わなければならないのです。

◆発生の確率とインパクトの大きさでリスクを分析する
 環境の変化を分析し、機械、脅威を挙げて対策を方向を考える場合、変化があまりに多様なため、一つ一つの変化に応じた対策を記すことが現実的に難しいというケースも多いのです。考えても意味がない程度の些細な変化もあるし、何よりもすべての変化に対策を立案しようとすると手数がかかりすぎ、現実的ではないからです。

その場合には、重要度を決めて、重要度の低い変化については目をつぶってしまうしかありません。それをチェックするのが、図21の「リスク分析表」です。

図21

「リスク分析表」では、縦軸に「変化が発生した場合の影響度の大きさ」を、横軸に「リスク発生の確率」をとっています。変化の影響が小さくても対策を講じておかねばなりません。したがって図のように、左上から右下に引いた対角線の上の網目の部分に分類された変化については、必ず何らかの手を打っておくことが必要になります。

なお、この分析に当たっては、リスクの程度をきちんと定義しておくことが必要ですさもないと、人によってそのとらえ方が異なるために、インパクトの大きさや確立のとらえ方に相当のバラツキが生じてしまいます。たとえば、図21で「原料の高騰」とありますが、これも、どの程度の高騰ととらえるかで発生の確率もインパクトの大きさも異なってくるのです。

 機械の分析について詳しくは述べませんが、リスク・アナリシス同様の分析ができることには触れておきます。すなわち、インパクトの大きさとその発生確率という二つの要素でリスクをとらえたように、機会も、゛機会を者にすることができた時の見返りの大きさ」と、「その機会をものにするための能力」の二つの角度からとらえることができます。それによって、その機会の自社にとっての重要度が分かり、重要度が高い場合には、その実現計画を戦略に織り込むことができるのです。

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◇ 4、原理・原則から、論理的にあるべき姿を考えます。

 これは未来型問題を見つけるには最も重要な考え方ですから、本章のハイライトでもあります。したがって、少し長くなりますが詳述します。三、で述べた「管理原則によるチェック「管理余地を追及する方法」も、この「原理・原則から、論理的にあるべき姿を考える」うちに入りますがここでは、「KFS(成功の鍵)」ということについて述べます。

◆ものごとには必ず成功の鍵(KFS)が存在する
 KFSとはkey factors success の頭文字をとったもので、直訳のとおり「成功の鍵」ですから、人体で言えばツボにあてはまります。つまり、ものごとの押さえどころですから、事業などの成功に不可欠の要素をいいます。もともとは事業戦略上の言葉として登場したものですが、未来型の問題解決には欠かせない考え方です。

というのは、未来型の問題解決は、前述のように「あるべき姿」を描くことから始まりますがこの「成功の鍵」を押さえること自体が、「あるべき姿」を実現することにつながるからです。つまり、「成功の鍵」を無視しては、「あるべき姿」を描きようがないのです。

 今まで、問題解決に関しては多くの書籍が出版されてきたが、私の知る限りでは、このKFSに触れた問題解決の本は存在しありません。原因指向型の復元的問題の解決ならば、それでよいでしょう。しかし、これからの変化の激しい超競争時代では、未来型、課題設定形の問題の解決力の有無が、企業に限らず、組織体の命運を決めます。

 それには、このKFS発想は不可欠ですから、これからは、このKFSを避けて通っている問題解決本は役に立たないと断言できます。閲覧のみなさんには、ここでぜひ、KFSの概念を身につけていただきたいと思います。
さて、典型的なKFSの例を挙げよう。医療機器事業の場合アフターサービスのネットワークがそれです。迅速修理体制といってもよいでしょう。

 人命にかかわる手術用機器を考えてみましょう。もし手術中に機器が故障すれば、スペアの機器を使用するにしても、すぐに直しておかなければ、次の患者の手術に差し支えます。また、取り替えたスペアの機器までが故障することもあり得ないわけではありません。したがって、病院から修理依頼があって何時間もしてから病院に到着するようでは話になりません。かなりのサービス・ネットワークを築いておかなければビジネスにはなりません。

 昔、多くの企業が、サービス・ネットワークの費用を負担させているがゆえに高くなっている医療機器の価格を見て、医者向けのビジネスはぼろもうけができるのではないかと勘違いして参入を試みたことがありました。しかし、その大半が、十分なサービス・ネットワークを築くことができずに脱落していきました。

また、最近では、帝人の酸素供給装置が、そのすぐれたサービス体制を武器に八割のシェアを獲得して成長を続けていますが、同社が成功したのは、このビジネスの拡大に先行して積極的に行ったからです。 さらにもう一つ。例を紹介します。

 玩具事業のKFSは、商品企画力です。任天堂がファミコンひとつで、あっという間にエクセレント・カンパニーの代表に駆け登ったことを思い起こしてほしいのです。また、一つのキャラクター商品が大ヒットすれば、大きな収益をもたらします。

 このように、おもちゃ事業は企画力が業績にダイレクトに結びついています。したがって、おもちゃ会社にとっては、センス豊かな人材を優遇し、彼らの創造力をフルに発揮させるような環境を用意することが最も重要なことになります。間違っても、管理型の企業文化を芽生えさせてはならないのです。

ところで、このおもちゃ業界の事例から、KFSという考え方は、戦略的問題解決に携わる人たちだけが知っていれば良いものではないことを読み取ってほしいのです。「管理型の企業文化を芽生えさせてはならない」と述べたように、人事制度や経理上の問題解決に取り組む人たちも、このことを十分に理解しておかなければ、進む方向に逆行するような制度を作ってしまう危険性があるからです。

◆KFSの見つけ方
 さて、このKFSはどのようにして見つければよいのでしょうか。未来型の問題の解決力をつけるには、このコツを身につけておかなければなりません。その五つのコツを紹介します。

① ビジネスの流れに沿って重要な要素を探す。 「開発・設計」「購買」「生産」「アターサービス」といった企業活動に必要な各ビジネスの流れに従って、それぞれのステップで、何が重要かということを書き出していく方法が一つです。この書き出した項目の中にキーファクターが潜んでいることが多いからです。

書き出し作業においては、かなり大雑把に、とりあえず重要だと考えられることはすべて挙げていけばいいでしょう。まず考ええるあらゆる要素を書き出した上で、それらをじっくり慎重に吟味して、これがキーファクターだろうというものを見つけるのです。

先のおもちゃ業界の例で言えば、「開発」のステップで重要なことをリストアップすれば、「独創性」あるいは「独創性を生み出す環境」といったことが上がってくるはずです。


②ライフサイクルごとの定石から考えてみる。
「過去の成功体験にとらわれない」の項で紹介したテープ業界のケースで、成長前期ならば、設備投資をして需要増に即応できるようにしておくのが定石であると述べました。このように経営には、ライフサイクルに応じた定石というものがあります。定石は一種の「勝ちパターン」であるだけに、この定石の中にキーファクターが存在する可能性は大きのです。こういう考え方にしたがってライフサイクルごとの定石を明らかにしていき、その中からキーファクターを見つける方法です。


述 ③コスト比重の大きいところにキーファクターが潜んでいないかを確認します。 コストの比重の大きいところにキーファクターが潜んでいる可能性が大きのです。たとえば、ワインは原価の六割がぶどうですが、このぶどうを安定的に購買できなければ、事業の基盤がはなはだ脆いものになってしまいます。したがって、ワイン事業ではぶどうの購買あるいは安定生産のノウハウがキーファクターとなります。

コストの比重が少ないところに対して何か手が打てたとしても、大勢に影響のないことを考えれば、ごく当然の目の付け所といえよう。

④顧客の購買決定要因を考える
「顧客の購買決定要因を考える」とは、簡単に言えば、なぜ顧客が買ってくれるのか、その理由を考えてみるということです。その理由の中にキーファクターが潜んでいます。顧客が「なぜ買うのか」あるいは「なぜ買わないのか」に影響する要素は事業の成功にダイレクトに結びつくだけに、KFS中のKFSになることは容易にご理解いただけるでしょう。

前述の医療機器の例で言えば、キーファクターとして上げたアフターサービス体制、迅速修理体制は購買決定要因です。

⑤特性分析から見当をつける。
特性とは、その事業あるいは企業に固有の特徴であって、戦略的に意味を持つものをさしています。そして「特性分析」とは、特性を明らかにした上で、その特性に対して企業として何をしなければならないか、何が重要かを論理的に考えることです。そうやって出てきた事柄の中からキーファクターを探すのです。

 たとえば、「消耗品である」という特性があります。この特性に対しては、「価格がKFS」であると言うことができます。例を挙げると紙オムツのケースがあります。

 紙オムツは使い捨ての消耗品です。したがってよほどお粗末な品質のものでない限り、価格が重要なポイントになってくるわけです。また、こうも考えることができます。誰が紙おむつを買うのかと考えてみると、それは若い母親が主体です。彼女たちは決まった給料の中で家計をやりくりしなければならないから、価格に最もシビアな購買層といえます。この若い母親たちにとって、使い捨ての紙オムツの選択ポイントはやはり価格と言うことになります。このように論理で考えて、価格がキーファクターだと見当をつける。

 もう一つの例を挙げれば、「ユーザーのセルフチョイス商品」と言う特性を持った商品があります。これは、ユーザーが自分で選ぶことができる商品と言うことを意味しています。これに対して、お店の人が進めて販売する商品のことを推奨販売商品とよびます。典型的なものは対面販売の化粧品です。

 このセルフチョイス商品の場合のKFSは、店頭にどれだけ魅力的に商品を並べることができる、つまり、店頭陳列力ということになります。

 このような、「セルフチョイス商品」の場合は、店頭販売員にインセンティブを与える仕組みを作ってもねそれほどの効果は得られありません。お客は自分で商品を選んで買っていくわけだから、お店の人にいくらインセンティブを与えても売り上げにはあまり関係ないからです。自社の特性をしっかりとらえていれば、そういう無駄をしなくてすみます。

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◇ 5、真の顧客満足は何かを考えます。

 ところで、顧客に製品やサービスを提供することによって存在している企業にとって、「あるべき姿を考える」ことは、「顧客満足をどう得るか」と言うことと無関係であるはずがありません。顧客に評価してもらえなければ、ライバルとの競争に敗れ、消えていくほかはないからです。

CS(カスタマー・サティスファクション=顧客満足追求活動)がブームになったことは記憶に新しいが、日本のCSの最大の欠点は、供給者の論理から抜け出せずに、顧客への応対を丁寧にするといったうわべだけの顧客満足活動であることです。

しかし、会社の中のすべての仕事が最終的には顧客満足を満たすものである以上、顧客との直接の接点になりません。商品の設計や生産の方法、会社の組織のあり方までを顧客満足の視点から検討して、課題を設定していくことも必要になります。

 顧客の真の満足を得るには、顧客と直接接する営業活動はどうあるべきか、その営業部隊を顧客とする生産部門は、社内顧客である営業部隊のニーズをどのように満たしていくべきなのかと言うように、ビジネスのプロセス全体を貫いた形で見直しを図れば、おのずから「あるべき姿」も浮かび上がってくるはずです。これは、昔から「次工程はお客様」といわれている考え方に近いと考えてよいのです。

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◇ 6、効果性と効率を上げる余地を考えます。

未来型問題はあるべき姿と現状とのギャップであると再三述べてきていますが、このあるべき姿にはビジョンと言うほど大げさなものではありませんが、かといって、復元型問題の現状の基準でもない、つねに向上していたいと言う思いから出てくるといったものも含まれます。

 これらのうちには日ごろから、こうしたいと漠然と考えていたために、自然に出てくるものも少なくありません。しかし、企業の場合には、そのようなあるべき姿が自然に出てくるのを待っていたのでは、厳しい競争に勝ち残れありません。したがって、意識的に引っ張り出すことが必要となってくりますがそれに役立つのが、「効果性と効率を上げる余地を考える」ことです。

 ここで、効果生徒は、品質を上げるというように、アウトプットそのものを向上させることを指し、効率とは、コスト低減など、同じアウトプットに対するインプットを下げることを意味しています。この方法はそう難しいものではありません。製品、サービス、社内の各組織の機能をいくつかの要素に分解して、その要素ごとに、競争に勝つためには、どのレベルまでもっていけばよいのかを検討すればよいのです。

 たとえば、機械製品であれば、基本性能、操作性、耐久性、デザインの魅力度、ユーザーのメンテナンス費用などと分解できるし、開発機能であれば、開発期間、ヒット率、特許件数、一製品あたり開発コストに分解できます。
 検討すべき要素が明確になった後は、各要素ごとの到達すべきレベル、すなわち「あるべき姿」を決めることになりますが、これらは、社内の討議だけで決められないわけではありません。しかし、競争に勝つことが目的であるので、図22のように、ライバルと比較してレベル設定をすることをお勧めする。

図22

◆ ベンチマーキングを活用せよ
 さて、このレベル設定を行うときの判断基準になるのがベンチマーキングです。ベンチマーキングとは、測定指標を設け、他者と比較することを意味します。従来は同業他社との比較が中心であったが、同業種であるかどうかにこだわらず、各機能や仕事のプロセスごとに最高の成果を上げている企業と比較することが重要です。同業の場合には、発想が似ているために、多少の差はあるものの、大同小異であることが多いからです。

たとえば、モトローラは、「三十分でお届けできない場合にはただにします」というキャッチフレーズで一時話題になったドミノビザと比較した。受注から納品までを三十分で確実に行うには、業種は異なっても、考え方の上で参考になるものがあるはずだ、という判断です。
 ゼロックスが最初に始めたといわれていますが、日本でも、セイコーエプソン、キヤノンといった優良企業はこの手法を採用し、他の優良会社にベンチマーキングのためのチームを派遣しています。

 なお、このベンチマーキングは、せっかく行うのであれば、レベル設定のための定量情報ばかりでなく、なぜ、そのようなことができたのかの背景の思想を調べることが重要です。それでなければモトローラのドミノビザとの比較は意味がないものになってしまいます。

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 六、問題解決者必修の分析手法

前述のように「問題解決は分析である」といっても過言ではないだけに、問題解決に携わるものとして知っておかなければならない必修の分析手法や考え方があります。しかし、それにもかかわらず、分析手法について十分と思われる解説をしている問題解決の書物はほとんどありません。

おそらく、これまでの著者の多くは、問題解決の方法論の教育を主業務としています。あるいは教育という手段を通じて企業の問題解決の手伝いをしているために、自ら問題解決の修羅場を経験したことが少ないからでしょう。

したがって、それらの手法を紹介するのは、経営コンサルタントである私の責務と考えて、この章を設けました。
  1. それらの手法の主なものは、次のとおりです。
  2. ① abc分析(パレート分析)
  3. ②相関分析
  4. ③分散分析
  5. ④直接原価計算
  6. ⑤ブレーン・ストーミング
  7. ⑥因果系列分析
  8. ⑦管理余地の考え方
  9. ⑧KFSの考え方
  10. ⑨PERT
  11. ⑩デルファイ法
  12. ⑪時間コスト分析
  13. ⑫分数分解法

前記の因果系列分析以下は本書の他の部分で解説しているため、手法の名称を挙げるにとどめ、他で取り上げていない最初の五手法について解説をすすめます。
なお、⑪時間コスト分析は、次章で述べる、業務の時間を人件費などを媒介にコスト換算する方法を言い、⑫分数分解法とは、四章の「違いと変化に目をつけろ」の項で、営業マンの生産性を分数の掛け算の結果として示したように、生産性の指標などを分数に分解していく方法を指しています。

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◇ 1、ABC分析(パレート分析)

 これは、最も基本的な分析手法ですから、ビジネスマンであれば、誰もが知っておかなければならない手法です。数値の大きい順にデータを並べ、その累計値の構成比により、対象をA.B.Cの三グループに分け、各グループの全体への影響度を見ます。

たとえば、自社の売上高の多い順に顧客を並べ、その売り上げ累計額をグラフ化すると、図23のような曲線が得られます。これをABC曲線(パレート図が正式名称である)これによって顧客への売り上げ集中度の傾向を見ます。

図23

 この事例では、全体のわずか18パーセントのaグループの顧客を抑えれば、前売り上げの80パーセントを抑えられることが分かります。逆に言えば、20パーセントの成果向上のために、努力の82パーセントを費やしているのです。

◆ABC曲線の描き方
前例によって説明すれば、
  1. ①売り上げの多い順に顧客を並べ、
  2. ②その売り上げの累計を計算し、
  3. ③各累計金額が総売上高に閉める百分比を計算する
  4. ④顧客数についても同様に累計百分比を求めます。
  5. ⑤売り上げ累計百分比を縦軸に、顧客数累計百分比を横軸にとって累計曲線を描く(図24)
図24

 ABCの区分の目安は、図25のとおりですが、区分することが目的ではなく、区分した対象ごとにマネジメントの仕方を変えることにポイントがあります。
 たとえば、部品管理の場合に例をとると、全体に及ぼす影響の大きいA部品は綿密な管理をし、種類が多いが、総金額の少ないC部品は、多少のロスが出ても大したことがないため、ラフな管理をする、といった具合です。また、先ほどの顧客区分について言えば、A顧客にはそれなりの努力の投入をしますが、C顧客については、そこそこにしておくことになります。

図25
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◇ 2、相関分析

 これもよく利用される分析手法です。前述の製薬会社での価格と売り上げの関係図のように、二つの要素をそれぞれ縦軸、横軸にとった図にデータをプロットして、それらの相関関係のタイプと強さを分析するものです。前例では、層別することの重要性を説明しましたが、もう一つ、この相関分析で見落としがちなことがあります。

図26

 それは、部分相関の存在です。一般に相関図で、きれいな直線的な関係が見られないと、相関関係なしと片付けてと舞いがちですが、図26と図27を見てほしいのです。図26は、ある会社の営業マン一人当たりの売上額と刺激給の年収に占めるウェートの相関図です。このような場合には、全体を見て相関関係なしと判断するのではなく、刺激給も10パーセント以下では効果がほとんどなく、40パーセントを超えても効果が薄れ、10から40までの間にお互いの相関関係があると読むのです。

また、図27は、一人当たり売り上げと担当さ奇数の関係を見たものですが、この場合は、百件までは、顧客数が多ければ多いほど売り上げも高くなりますが、百件を超えると一件ごとの活動の中身が薄くなり、かえって生産性は低下する、と読まなければなりません。

図27
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◇ 3、分散分析

 分散分析は、データの散らばり具合を分析し、全体の傾向を判断するためのものですから、ABC分析と並んで、最も重要な分析の一つです。
 一般に全体の傾向を比較しようという場合には、平均値が使われます。しかし、この平均値ほど、判断を誤らせるものはありません。平均値を計算すると、それが全体の傾向を代表するような錯覚に陥るものですが、平均値は、単にデータの総和をデータの数で割ったものに過ぎず、それが全体を代表するとは限らありません。

 平均値が全体を測る指標となり得るのは、データの分布が図28のような、つりがね型の正規分布と呼ばれる曲線を描くときだけです。
図28  しかし、データの分布が図29のようになっている場合には、平均値は全体を代表するとはいいがたのです。むしろ、最もデータの数が多い値を意味する「最頻値」のほうが実態をよく表すといってよいのです。ビジネスマンにとって重要なのは、平均値ではなくこの最頻値なのです。

 もし、一つでも極端に大きい、あるいは小さいデータがあれば、平均値は、その異常値に引っ張られて全体を代表することにはなりません。たとえば、年に一~二回、国民の貯蓄高の平均値が政府より新聞紙上に発表されます。

図29

おそらく、「こんなに高いのか」と驚かれる読者が多いことと思いますが、前期の図29のように、これは少数の高額貯蓄者のデータに引っ張られているのです。しかし、皆の実感は最頻値に近いはずです。一般に全体像を高い方向へ印象付けようとする場合には、最頻値ではなく、平均値が意図的に使われます。

◆ 平均値は実在しない値
 大体、平均値などというものは、実在しない架空の値です。たとえば、図30を見ていただきたいこれは、納期遅れのデータの分布を示したものですが、平均値では、3.3日の納期遅れとなってしまうが、こんな値は存在もしない、全体を代表するものでもありません。このケースで三日以上の納期遅れが一般的であるとして、問題解決に取り組んでも見当外れの答えしか出てこないでしょう。

図30

 我々実務家にとって必要なのは、細かい計算値ではなく、「傾向値」です。データの分布図を目を細めて見て、太く、あるいは、濃く見えるところが代表値だくらいに考えて差し支えありません。このようなデータ全体の分散の具合を眺めるのが分散分析です。

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◇ 4、意思決定に不可欠な直接原価計算

 さて、いかなるビジネスの活動にもコストがかかる以上、企業内の問題解決でコスト計算、つまり原価計算を避けて通ることはできません。原価計算というと、経理の専門家が知っておけばよいことで難しいものと思われがちですが、そうではありません。

 今までそう思っていた閲覧者は、難しいという先入観を捨てて、この項をまず読んでください。
原価計算の方法には、全部原価計算と直接原価計算とがあります。どちらの案をとろうかといった選択的意思決定の場合にも全部原価計算が使用されていますが、それがナンセンスであるケースも多いのです。

 まず、全部原価計算とは何か、直接原価計算とは何かを、配送点A店点の事例で説明しよう。
図31を見てくださのです。同図の(イ)がA店の現在の経営状況です。同店はトラック一台、運転手一命で運送業を営み、Aさんは経営者として対外折衝、電話番、帳簿付けなどを担当しています。

図31

売り上げ百二十五万円に対し、百万円の経費、したがって利益は二十五万円と個人商店としてはまずまずの成績です。荷物一個あたりでは、売り上げ五百円、経費四百円となり、一個当たりの利益は百円です。

このようなときに、毎月千五百個の荷物を保証するから、一個当たり三百八十円の配送寮で運んでもらえないかという話が持ち込まれました。この三百八十円での安売りが現在の売値五百円に悪影響を及ぼす可能性はなかった。しかし、この意思決定は誤りです。

もし、この話を引き受けていれば、図31の(ロ)にあるように、毎月十七万円の増益があったのに、Aさんの錯覚は、一個当たりの原価を四百円と勘定することによって、間接費である自分の人件費五十万円と、管理間接費十万円を新しい商売にも負担させ、二重計算していたことになります。これらの間接費は、新たな商売を引き受けようと引き受けまいと変化しないのだから、勘定に入れてはなりません。

(イ)の二十五万円の利益計算のように、間接費も含めすべての費用を原価に勘定する方式を全部原価計算とよび、(ロ)のように間接日を除いて直接日だけを計算する方法を直接原価計算といいます。
(一般には、間接費ではなく、固定費を除き、変動費だけを勘定する方法を直接原価計算というが、製品やサービスの本当の原価を計算するという点では正しくない)このように単純な事例であれば、錯覚に陥ることも少ないかもしれありません。

しかし、流通加工を自社で行うべきか外部委託すべきか、傭車を利用すべきか自社の固定車を増やすべきかといった判断時に、まったく同じ過ちを犯しているケースは驚くほど多いのです。
 単純にどれだけコストがかかっているかを知るには全部原価計算でよいが、どちらがとくか、投資すべきかどうかといった判断を必要とする場合、つまり問題解決の判断基準には直接原価計算が適していることが多いのです。A店の事例のように、意思決定によって変化しないコストを「埋没コスト」と呼ぶが、埋没コストは除外して検討しなければならないからです。

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◇ 5、ブレーン・ストーミング

 ブレーン・ストーミングとは、集団でアイデアを出すための一つの会議方式ですから、十人から十二人程度の人が集まってできるだけ焦点を絞った問題についてのアイデアを出し合うものです。このブレーン・ストーミングには基本的な四つのルールがあります。

①良い、悪いの批判は絶対にしてはなりません。
 この批判禁止、約束により、アイデアの誕生を妨げている最も重要な要因が取り除かれます。ブレーン・ストーミングの最大のポイントですから、これなくしては、ブレーン・ストーミングとはいえありません。

②自由奔放であることを歓迎します。
 こんなことをいっては笑われるので葉とか、非現実的手はなかろうかといったことを考えていたのでは、自らの発想に枠を設けることになり、斬新な発想にぶれー葉をかけることになります。そのため、単なる思い付きでよいから自由に発想させようということです。これによってメンバーの自分に価値観だけで思い込んでいたことの殻が破れます。
 ブレーン・ストーミングは、単に衆知を集めようというだけではなくむしろ、既成概念や論理の制約から解放された議論をしようというところに、その価値があることを認識することが大切です。

③量を求めます。
 ブレーン・ストーミングは、文字通り「頭脳に嵐を起こさせる」ものですから、アイデアの数が出なければ、発想に勢いが出ありません。量を求めて、次から次へとアイデアを出しているうちに既成概念にとらわれない発想が出てくるのです。

④他人のアイデアの改善結合を求めます。

 ブレーン・ストーミングでは、アイデアがアイデアを呼び、一人では思いもかけなかった成果がもたらされたこと。つまり、アイデアの相乗効果を狙っています。そのため、あまりオリジナルであることにこだわらず、他人のアイデアに付加価値をつけたアイデアをどんどん出していくことが必要です。

◆ブレーン・ストーミングの発展形、MBS
 ブレーン・ストーミングについては、ご存知の方も多く、また創業者であるA・F・オズボーン博士の著書「独創力を伸ばせ」も邦訳されています(上野一郎訳、ダイヤモンド社刊)ためにに、以上の四つのルールの照会だけで簡単に済ませ、ブレーン・ストーミングをより実務的に発展させた菊野恒夫氏考案のMBS(Management Brain Storming) の紹介に移ります。

このMBSは、「会議リーダーにかなりの指導力がないと、口下手な人や、気弱な人は発言が難しい」「自分のアイデアの真意が、その場のメンバーにどれほど理解されたかについての不安が残る」といった従来のブレーン・ストーミングの欠陥を是正するものです。

 では、MBSの手順を次に示そう。
①各人が思いついたアイディアを具体的にメモ用紙に書く。
後に八、の「知的生産成功中のノウハウ」で詳述しますが、口頭でどんどん発言するだけでなく、事前にメモに書くというところに、ブレーン・ストーミングの中身を濃くするポイントがあります。

②メモに記入したものを順次に発表します。
順番のこない者は、発表を聞きながら、見落としていたこと、他のメンバーの発表に触発されて思いついたことをメモに追加記入します。アイデアが出尽くしたと思われるまで、ぐるぐる回すが、出されたアイデアは書記役がホワイトボードに列記していく。アイデアの相乗効果を最大限に引き出すことに狙いがあります。

③出されたアイデアの背景を各発言者が説明します。
説明でわからないところがあれば、メンバーは質問して真意を理解します。このステップを踏むことで、真意を理解しないまま、すれ違いの議論に入っていく愚を避けようという工夫です。

④この段階では、批判・反論も認められます。一般のブレーン・ストーミングの場合、アイデアの評価は別の場で別のメンバーによって行われることも少なくありませんが、ここでは、アイデアを出した当事者も参加して評価を行うところまでをワンセットにしているところに特徴があります。

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 七、解決案の立て方

 

◇ 1、問題の種類によって解決解決方法は異なる

 一、で、問題解決には種類があり、たとえば、個人の問題と組織の問題とでは、アプローチ方法が異なると述べました。本書は組織の問題解決を対象とするものであることは前述しましたが、その組織内の問題にもいくつかの種類があり、その種類によって、やはり解決の方法は変わってくるのです。

◆人間の問題には科学的あプローとは不向き
まず、組織に属する人々が誰しも悩む最大の問題が、職場の人間関係です。この人間関係上の問題解決でも、事実の確認が最も重要なことは、他の問題解決と変わらありません。
 しかし、このことを除けば、本書で述べたような科学的アプローチは向かありません。人間の問題は理屈ではなく、感情が支配する世界だからです。

 科学的アプローチをとった結果があまりにも理路整然としすぎていたために、相手のことも考えて善意でしたはずの好意が、相手を心理的に追い詰める結末となり、最悪の事態になってしまうことも少なくありません。したがって、相手に嫌なことを告げなければなららない場合には、わざと字を下手に書いて若干でもこころの逃げ場を作っておく人もいるくらいです。

 先に述べた事実関係の確認にしても、その確認をしようとする好意そのものが事態をかえって悪化させることも少なくありません。たとえば、事実確認のために、あちこちと情報を集めに回ったとしましょう。そうすると、そのことは必ず、現在のトラブルの対象となっている人の耳に入るし、周囲からはじたばたしてみっともないととられかねません。よほどのことでない限り、無視して泰然自若としているほうが無難です。

 したがって、ここでの事実確認も、「人の言うことを鵜呑みにしない」「経営しすぎてコミュニケーション・ギャップを作らない」という程度に届けておいたほうがよいでしょう。人間問題に関する限り、人の言うことは実にあてにならないものですし、コミュニケーション・ギャップはお互いの疑心暗鬼を助長します。いずれにしろ、この種の問題については、その道の専門家の著書にお任せしたいのです。

◆単純な問題の解決は「経験と勘」で十分
 組織内の問題の分類として、一応触れておいたほうが良いと思うもう一つの分類は、「単純な問題」と「複雑問題」です。問題の分類にならないような分類方法ですが、「単純問題」に、ここで述べているような科学的アプローチを適用して時間をかけることもありません。経験と勘で処理すればよいのです。

四、の「問題掘り下げの具体的方法」で前述したように、それなりの人物の経験と勘には軽視できないものがあるからです。一方、「複雑な問題」には経験的アプローチは危険です。そのような場合にこそ本書を活用してくださるのです。

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◇ 2、仮説→検証のサイクルが基本

 解決策の立案の方法として、ぜひ身につけなければならない基本中の基本が、これから紹介する「仮説→検証のサイクルで考える」です。

 仮説とは、「解と思われるもの」という意味ですが、ここでのポイントは二つあります。
一つは、解決案を策定したと思ったら、実施計画のプロセスに移るのではなく、必ずその効果や実施可能性の検証を行えということです。つまり、ごく簡単事は別として、複数の解がありえるような場合には、最初に考えた解は、飽くまでも仮の案であると考え、その妥当性をチェックする手順を踏むことが必要です。

第二は、ありとあらゆる情報をすべて集めてから、解決案を考えようとせずに、多少、不十分な情報であってもそれらにもとづいて、一応の仮説を立て、その仮説を検証する形で新たな情報を集めるのです。そうすると、集める情報も第二段階以降では、一味違った深みのあるものとなります。

私は、この方法を身につけてから、コンサルタントとしての生産性が飛躍的に向上した。その実例を紹介しましょう。コンサルタントは通常、社内外のインタビュー(ヒヤリング)によって情報収集を行い、それらに基づいて解決案の提案を行う。

 当初の私は、このヒヤリングを通じて、できる限り漏れの無いように情報をあつめ、それらが出揃ったところで解決案を考えていました。しかし、その過程に気づいたのは、それでは、同じ質問に対する答えのサンプル数は増えますが最初から最後の質問までが、ほとんど同じになるため、深み、奥行きが出てこないということでありました。

それに対して、仮説を作りながら質問すれば、質問の内容には、その仮説を確認するためのものが含まれ、前回他の人に尋ねたものとは内容が異なってくるのです。つまり、質問する内容が相手により少しずつ変わって来るのです。質問自体が、インタビューの回を重ねるごとに進化していくのです。

 これは、何もコンサルティングに限ったことではありません。通常の問題解決でも、まったく同じ理屈があてはまります。すなわち、情報をあつめては仮説を作り、また情報を集めて仮説を作り直すのです。自動航行の船や飛行機のように、新しい情報を入れながら絶えず軌道修正しながら進むのです。それに対して、最初の方法は、最初にセットした方向にわき目もふらずに突進するので、当たればよいが、外れるととんでもない結果となります。

なお、仮説も最初に近いほど、確実性が低いことは、当然のことであるしたがって、最初ほど仮説は多く立て、核心の度合いに応じて絞り込んでいくことになります。

また、仮説の検証の仕方ですが、ヒヤリングでは、「それでは、このような方策も考えられるように思えりますがあなたは、どう思うか」というように、こちらの持っている仮説を相手にぶつけて意見を引き出す形が一般的でしょう。しかし、意見はあくまで意見であって、事実とは限りません。したがって、仮説は最終的にはデータで裏づけを取るものと考えてくださのです。

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◇ 3、問題解決には定石があります。

 囲碁や将棋に定石があるのと同様に、問題解決にも定石があります。 定石を知らなければ、問題解決ができないというものではありませんが、それを使うと「うまくいく確率の高い決まり手」であるだけに、知っていれば、問題解決のスピードアップや余計な試行錯誤を避けることができます。

 ただ、囲碁・将棋同様、定石どおりにやれば、必ずうまくいくというわけではありません。知らないと損をしますが、定石どおりにやりすぎても失敗するものです。勝負事の場合にはここは定石に従うべきか、あえて定石を破るべきかの判断ができる人でもビジネスの場合には定石破りの必要性を忘れてしまいがちなため、注意が肝要です。

この章では、戦略的問題解決に必要な定石と、日常的問題解決に必要な定石のそれぞれについて、問題解決者として最低知っておいて法が良いだろうと思われるものを紹介します。

(1)戦略的定石
 ビジネスの競争が厳しくなり、複雑になるに従いね戦略的な問題解決を迫られるケースが増えています。これまでの問題解決の書物では、戦略的問題をあまり取り上げていないようですが、時代が時代であるだけに避けて通るわけには行かなくなっています。戦略には、もろもろの個別戦略策定の指針となる基本戦略があります。

 通常、事業の基本スタンスとよばれるもので、競争戦略に直接タッチしありません。たとえば、経理部のメンバーも知っておかなければならない性格のものです。その中でも最も重要な定石が次の三つのスタンスを決めることです。本書は、戦略解説書ではないのでそのポイントだけを簡単に述べます。
①コストで勝負するのか、品質で勝負するのか。
②ターゲットを分散させるのか、集中させるのか。
③視状態から見て、強者の戦略を取るのか、弱者の戦略をとるのか。

◆コストで勝負するのか、差異化で勝負するのか。
 まず、「コストで勝負するのか、差異化で勝負するのか」について説明します。コストと差異化は、共に事業経営にとって重要な要素です。片方だけが重要だという企業は存在しないでしょう。しかし、それでも、どちらをより重視するかは、決めておかなければなりません。

コストで勝負するということは、人件費や原材料費などをてっていてきに抑えることによって、コスト・パフォーマンスの高い商品を作っていくことです。

一方、差異化で勝負するということは、商品そのものの機能やデザインなどの面でオリジナルティーを追求することを意味しています。したがって、マーケティングや商品開発といった仕事が非常に重要になります。

 この基本スタンスを「コスト」に置くか「差異化」に置くかによって、その後の戦略がガラッと変わってくるのです。
 たとえば。我が社は差異化で勝負することを決めたとします。この基本スタンスに従えば、開発や商品企画に対して、費用を惜しむということは本来あってはなりません。ところが現実には、景気が悪いからコスト削減が必要だとして、開発や商品規格までコスト削減の対称にしてしまうケースが少なくないのです。

 またコストで勝負するという方針を決めたのならば、低コスト化に徹しなければなりません。にもかかわらず、ライバル企業がちょっと目先の変わった商品を出すと、その真似をしてコスト高を招いてしまうことも多いのです。

◆ターゲットを分散させるのか、集中させるのか
 第二の「ターゲットを分散させるのか、集中させるのか」とは、広い市場で勝負するのか、限定された市場で勝負するのかを決めることです。

 広いターゲットで勝負するということは、あらゆるユーザー層を対象にして、様々なニーズに応えていこうとする行方です。そのためには、価格、機能などが異なることが多くの種類の商品を揃えていかなければならないため、投入する人、物、金の規模は当然大きのです。自動車業界で言えば、あらゆる車種を揃えて、あらゆるニーズに応えようとするトヨタの行き方がこれに当てはまります。

 一方、限定市場での勝負は、特定のニーズあるいは特定のユーザー層に向けてピンポイントで商品を売っていくというやり方です。したがって、経営資源をそこ一点に集中すればよく、後発企業や中小企業に多い基本スタンスです。先のトヨタに対し、マツダやスズキの行き方です。
基本スタンスの第三の視点が、強者の戦略を取るのか、弱者の戦略でいくべきかの選択です。

◆強者の戦略
強者の戦略には、「総需要拡大戦略」「総需要維持戦略」「同質化戦略」「規模の戦略」などがありますが、その一部を紹介します。

<総需要拡大戦略>
市場全体に対する需要を拡大する戦略です。需要が拡大すれば、強者は、現在のシェアに応じて自社が潤うことになるはずだという考えに基づいています。

この戦略には、「現在のメインを市場を拡大する戦略」と「周辺市場を拡大することによって、メインの市場への波及効果を狙う戦略」があります。

(イ)現在のメイン市場を拡大する戦略
現在のメインの市場を拡大する戦略としては、「新規ユーザー層の開拓」「用途開発」「使用量の増加」という三つの方法がありますが、一つだけ事例を見ておきます。

従来に無い使い方を作り出すことで市場を拡大する「用途開発」の例としては、ネスレのインスタント・コーヒーのケースがあります。昔、同社は「和食にコーヒー」というテレビ・コマーシャルを流して、コーヒー需要を掘り起こそうとしたことがありました。和食には日本茶というイメージに対して、新しいコーヒーの飲み方つまり用途を提案したのです。

(ロ)周辺市場を拡大する戦略
周辺市場の拡大によって巨大マーケットに成長したと見ていいのが、ゲーム機です。任天堂のファミコンが日本のみならず世界で爆発的に売れたのは、任天堂がゲームソフトという周辺市場の充実に力を入れたからです。面白いゲームソフトがたくさん出れば、そのソフトを楽しみたい人がゲーム機を買ってくれるという一見単純な図式ですが、周辺市場にはなかなか目が行かないものです。

 もう一つ、同質化戦略の一種であるプラグ戦略を紹介しておきます。これは、弱者が目をつけそうな穴をあらかじめ塞いでしまうことによって、付け入る隙をなくすものです。すべての商品系列を揃えるフルライン戦略は、これにあてはまります。

◆弱者の戦略
 弱者の基本戦略の定石としては、「一点集中の原則」「差別化の仕組みを作る」「一位の強みの中にある弱点を叩く」「より弱者を叩く」などがありますが、ここでは、「より弱者を叩く」戦略で成功したケンウッドのケースを紹介するにとどめます。

 ケンウッドがまだトリオといい、パイオニア、トリオ、サンスイが音響機メーカーの御三家とよばれていた時代の話です。マーケットシェア第二位のケンウッドは、当初、一位のパイオニアに追いつけ追い越せと、パイオニアに照準を合わせた戦略をとっていました。しかし、パイオニアの壁は厚く、なかなかシェアを伸ばすことができませんでした。

ところが、自社製品がパイオニアと比較して買われるよりも、サンスイとの比較で買われることが多いと気づいてから、その方針を転換し、下位企業のサンスイを叩くという戦略をとることにしました。その結果ケンウッドはシェアを拡大し、逆にサンスイは会社更生法の適応を受けるまでになったのです。

「弱者を叩け」という戦略定石を意識したものか、結果的にそうなったものかは定かではありませんが、弱者を叩く戦略が見事に当たった典型的なケースです。

そのほかに一応概要だけでも知っておいたほうが良い戦略定石に、PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)と経験曲線があります。興味のある方は、それぞれの解説書をお読みいただきたいが、そのサワリだけ紹介しておきます。

図32

◆PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)
まず、PPMは、事情あるいは製品を市場の成長率と自社のシェアの二つの軸で次の四つの区分に分け、それぞれの性格にあった標準戦略(定石)を設定するものである(図32)

①これから伸ばしていくべき「スター」製品(高成長市場で、シェアが高い)
②新たな投資は控えなければならない「負け犬」製品(市場の成長率も、シェアも低い)
③現在キャッシュを生み続けており、拡大よりも効率化を重視すべき「金のなる木」(低成長市場で、高シェア)
④どうなる分からない「問題児」製品(高成長市場で低シェア)
たとえば「金のなる木」なら効率化を中心においた戦略を、「スター」なら「積極拡大」というように、事業や製品の基本の方向付けを明確にする

◇経験曲線
 二番目の経験曲線とは一種の習熟曲線のことで、累積した生産量が二倍になっていくごとに、コストが十~二十パーセントの間の一定率で下がっていくことをいう経験法則です。

図33

図33を見てくださのです。このグラフは経験曲線を対数グラフを使って直線化したものです。縦軸の単位あたりコストと横軸の経験量(累積生産量)を見比べてみると、十から二十になると、コストは百から八十五に、さらにその倍になると七十二点五になっていることが分かります。こうした経験とコストの関連性は、多くの業種の広い範囲にわたる製品において実証されています。製品によって七十二パーセント経験曲線を描くものや、九十パーセント経験極線を描くものがあります。

 この経験効果を先取りして市場を席巻したのが日本ではカシオが最初だといわれています。電卓が発売された当初は、一台十万円以上する高級品だったものが、ある時期、カシオの低価格電卓が登場し、瞬く間に市場を制覇してしまいました。カシオは、累積生産量の増加によるコストの低下をあらかじめ見越した大量生産を行って、きわめて早い時期に思い切った低価格攻勢にでたのです。

 以上、簡単に戦略定石の一部を紹介しましたが、戦略なマーケティング上の問題解決に当たっては、このような定石をしっているのと、知らないのとでは、大きな差がつくことがご理解いただけたでしょうか。問題解決の手順としての方法論も知らなければならありませんが、そのような方法論だけを身につけても、定石を知らないと解決が難しい問題も多いのです。

(2)改善の原則
 改善の原則として、縦のものを横にしたら、あるいは、逆さにしたら、といったたぐいのヒントを並べ立てている書物があります。しかし、正直に言って、このよう原則は、発明の真似事をするには良いかもしれませんが、あまり役に立たありません。決して間違っているわけではないのですが、それらをチェックリストにして考えても大したものは出てこないし、それを活用して問題解決をするような場面自体がすくありません。それらを使う場面を想定せずに列挙しているために、具体的になっていないのでしょう。

◆「必要なことはやらなければならない」は誤り
 この項の後半でも、社内業務の問題解決を想定した、いくつかの改善原則を紹介しますが、まず、改善なり、問題解決なりの原則中の原則である「重点思考」について述べておきます。今さら「重点思考」と思われるかもしれませんが、誰もが知っているものの、現実にはほとんどできていないと言ってよいのです。

 それは、重点思考あるいは重点志向とは、片方で「重要度の低いところから手を抜く」ことだというのが理解できていないからです。口では「重点志向」と言いながら、いざという段になると「あれも必要、これも必要」と、手を抜くことが怖くなるのです。完ぺき主義は無駄を生む。捨てる勇気、やめる勇気を持たない限り、「重点志向」はお題目に終わってしまいます。

 前章で紹介したABC分析図を思い出してほしいのです。問題解決においては最も重要なことの一つであるので、もう一度同じ図(図34)を見てくださのです。一般に習って、成果を同図の縦軸、時間なりのコストを横軸に表現しています。

図34

 さて、どう図から明らかなように、BランクやCランクのことがらまで、すべてカバーしようとすると相当のコストがかかる。BランクとCランクのコストで全体の七十パーセントも占めていても、その全体に及ぼす影響は三十パーセントしかありません。つまり、Cランクまでをマネジメントしようということは、十パーセントの追加成果を得るために、全体のコスト五十パーセントを使おうということに他なりません。

 一方、Aランクだけをマネジメントすれば、三十パーセントのコストで七十パーセントの成果が得られます。重点管理の本質は、この投入コストと得られる成果のバランスを図ることによって、費用対効果を最大にしようというところにあります。

良く「必要なことは、やらねばならない」と言うが、それは間違いです。「必要であっても、やるべきでない」と言う状況は家庭の中でも、山ほどあります。それは、金、人、時間と言った資源には限りがあり、費用対効果を考えれば、それらの有限の資源をほかの事に活用したほうが得なことが多いからです。人、時間もコストと考えての広い意味でのコスト・パフォーマンス(費用効率)を考えて、必要なものもやめる割りきりが必要です。

 たとえば、会社の中の各業務にかかっているコストを分析することがありますが、このコスト分析表を作るだけで、こんな仕事にこれほどの費用をかけていたのか、だったら、やめてしまおうと全員一致ですんなりと廃止が決まる業務が出てくることも少なくありません。日ごろはあまり考えていないコスト・パフォーマンスを嫌でも意識せざる得ないからです。

厳密にやればきりが無いが、それぞれの仕事にかかっている時間を人件費でコストに換算すれば、大局はこれで判断できるので、一度トライしてみてはいかがでしょうか。

◆社内業務の問題解決のための改善原則
 ここで、社内業務を例にとって改善の原則を紹介しておきます。社内業務のためのものと言うと、範囲が狭いように聞こえるかもしれませんが、これらの原則は、マーケティングや研究開発および、先に説明した戦略的定石が適用それる部分を除けば、営業も含め、会社内の日常的な仕事の多くに応用できるはずです。

①本当に不可欠な仕事に絞り込め
 第一は、本当に不可欠な仕事に絞り込むことです。前述のように、必要だからやると言うことでは、どんどん仕事は増えていく。あれもやった方が良のです。これもやった方が良いと、欲求は際限なくエスカレートします。

本当に不可欠な仕事とは、やめたら、経営上明らかにマイナスの生じる仕事です。したがって、この仕事をやめたらどうなるか、やめるためにはどうすればよいかを徹底して考えることが必要です。

たびたび述べるように、ジャスコは花王製品については納品字の検品を原則として行わないことにした。永久になくならないだろうと思われていた仕事まで知恵を絞って、やめてしまわないと本当に競争力のある企業にはなれない時代なのです。

②分散化を考えよ
第二の着眼点は、「分散化による吸収を考える」ことです。たとえば、一人ひとりが自分のコピーは自分で取るようにすれば、コピー時間のほとんどは、各人の時間の中に埋没してしまうが、誰かに集中すれば、それだけで一人前理仕事量になります。

また、分散処理は空間的分散ばかりでなく、時間分散もあります。仕事にはそのつど処理するよりもまとめて処理したほうが良いものと、その都度処理のほうがよいものとがあります。

しかし、ややもすると都度処理をすべきものでもまとめて処理しがちです。毎日、処理をしていれば、一日の余裕時間の中に吸収され、まとまった仕事量にはならないものが、月末に一括処理をするために、ピークが生じ、余計な残業代を生み出したり、場合によっては、それが増員に結びつきます。

③仕事は平準化を心がけよ
 三番目の着眼点は、「仕事を平準化する」です。一日あるいは月間の仕事量がどうなっているかを正確に掴んでいないがゆえに、ただ漫然と仕事のピークにあわせた人員配置をしているような職場には、これは有効です。

平準化は、いつ、誰に、どの程度のピークとオフが生じているかを確認することからスタートします。現状が分かれば、そのピーク不可避のものであるのか、原因は何なのか、どうすればよいのかについても、在る程度見えてくるのです。一般に、よく分析もせずに、「A係りの月末のピークの内容は月末の請求業務であるため、避けることはできず、打つ手は無い」というように頭から決めてかかりがちです。

しかし、月末と言っても、請求業務だけでなく、他の定常的業務が依然として半分以上を占めており、それは他の人に遺憾が可能だと言うことも少なくありません。月末に請求事務が集中し、それで忙しくなるのは事実ですが、月末にはそれにすべての時間が費やされていると言った錯覚に陥りがちなので注意を要します。

④業務発生の源を絶て
四番目は、「仕事の発生の源となること自体を廃止する」ことです。典型的な事例は、買い掛け事務です。これは掛け購入と言う形態をやめて現金払いにすれば、完全になくすことができます。また辞令の交付にかなりの時間を割いている企業はまだ存在しますが、これも辞令そのものを廃止し、一覧表で告示することにすれば、事務は無くなります。最近では、見たい人がパソコンで見ればよいと、移動一覧表の各部署配布すらやめる企業が出てきています。このようにちょっと発想を転換すればよいのです。

⑤外部委託を行え
第五の着眼点は、「外部委託を行う」です。最近の言葉で言えば、アウトソーシングですが、ポイントは労務費格差を利用した単なる外注化ではなく、専門家に任せられるものは専門家に任せて、質の良い仕事を確保するところにあります。コンピュータ関連業務はもとより、最近は福利厚生業務や出張清算業務まで外部委託の対象となっています。

 このアウトソーシングは、これからの時代の問題解決の一つのポイントになると思われるもので、若干詳しく解説しておきます。この言葉が新しい意味を持って登場してきたのは、コンピュータ業界からです。コンピュータの技術革新は、まさに日進月歩ですから、新しい機械も、すぐに時代遅れのものになってしまうが、だからといって、自社でコンピュータをそう何回も取り替えるわけにはいきません。ですが、そのままにしておいたのでは、時代の流れに取り残されることが目に見えていいます。しかし、コンピューターサービスの専門企業であれば、つねに最新鋭のコンピューターを装備しているし、最新のノウハウを身につけています。

また、自社のコンピュータたーの場合には、仕事の山谷によって極端に忙しい時と機械が空いてしまうときとができます。一方、専門企業であれば、多くの顧客の仕事を請け負うことによって仕事の波は平準化されているため、コストも安のです。

コンピューターのアウトソーシングは、以上のような背景から、専門企業に任せてしまったほうが、コスト的にも技術的にも得ではないかと登場したものです。

その典型的なケースが、セブン・イレブンジャパンです。セブン・イレブンはあれだけの進んだ情報システムを持っていながら、ホスト・コンピューターは所有せずに外部委託しています。利用度が高いから自己所有するという考え方は、前記のような理由によって必ずしも得策で無いという判断からです。

このような意味でのアウトソーシングは、何もコンピューターに限ったことではありません。日本企業特有のワンセット所有主義の発想を捨て、餅は餅屋に任せ、自社は本当にやらなければならないことに専念する体制を作るべきでしょう。

⑥機械化・自動化・電子化を考えろ
六番目は機械化・自動化・電子化です。ネットワークによる情報システムの発達はとどまるところを知らありません。昔のシステムでは不可能であったことが、今やどんどん実現しています。電子メールボイスメールは当たり前となり、テレビ会議システムも、それへの投資が一月で元が取れるほど安くなっています。

⑦同期化を忘れない
七番目は、同期化を考えることです。卑近な例を挙げると、会議に集まるのに定刻に遅れる人がいると、結局最後の人が揃う時まで開始が遅れます。このようにタイミングが合わないと、大きな時間の無駄をし、完成の時期を遅らせ、他部門に迷惑を掛ける。経営上の仕事は、分業しているために、「タイミングを合わせる」ことが非常に大切です。これを同期化の原則と言う。この仕事の同期化を行うには、スケジュールをたてなければならありませんが、「誰が」「いつまで」すら決めずにチーム業務をこなそうとしていることがあまりに多い野垣になるとこです。

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◇ 4、情報の多さがアイデアを生む。

問題解決のプロセスは考えることの連続ですが、既存の情報を組み合わせて、新しい付加価値を生むことに他なりません。それだけに、考える際の基礎資料になる情報の量は多いほうが良い解決案が出てくる確率は高のです。

◆「情報過多の時代」と言う言葉に惑わされない
 現代は情報過多の時代ですから、情報に振り回されてはいけません。情報の取捨選択が大切だといわれてる。これは一面的な議論です。確かに、過多な情報に振り回され、情報の取捨選択に迷う局面が無いわけではありませんが、むしろ、問題解決においては、情報不足がネックになることのほうが圧倒的に多いのです。

しかし、このことに関する認識が足りないようです。「知っているつもりでも、意外と知らないことが多い」「自分の情報には驚くほど偏りがある」ことに気づいていないために、真の問題解決ができないケースは、それこそ数え切れありません。

ある会社で、本当に考え抜いた営業をするために、顧客情報を徹底的に集めようとしたことがあります。 その時、ベテラン営業マンたちは異口同音に「もう十年以上も担当している顧客ばかりだから、顧客情報は知り尽くしています。今さら、その必要は無い」と言う主張しました。

それではということで、彼らの顧客について私がいくつか質問を試みることになりました。しかし、満足に答えられた営業マンはほとんどいなかった。難しいことを尋ねたのではなく、担当者であれば知らなければならないことばかりあったにもかかわらず、詳しいはずの人々が答えられなかったのです。

幸い、そのミーティングが終わると、彼らは「自分たちがどれほど顧客を知らなかったかがよく分かりました」と言ってくれたがどこの組織も大同小異で、良く知っているつもりでも驚くほど知らないのが実情です。
では、なぜ、知っているつもりが知らないと言う状態になってしうのでしょうか。それは、ものを見る視点が既成概念で偏っているからです。

今のケースでも、ベテランである営業マンたちが知り尽くしていると思っていたのは、既成概念にとらわれており、そこから外れる事柄に目を向けようとしなかったからです。私のような素人から、思いもかけない質問が出てきて、びっくりしたようですが、既成概念の無い部外者だからこそそのような質問がでは多ともいえます。

◆異質の発想に取り込め。
同じ組織に属していると、どうしても皆の考え方が似通ってくるものです。その中でいくら議論しても、同質の考えの組み合わせにしかなりません。新しいアイデアはわいてこありません。

したがって、経理に関する問題解決であっても、営業のメンバーを参加させます。あるいは、時には社外のメンバーを参加させます。と言うように「異質の発想をとりくむ」ことによって、情報を量的にも質的にも充実させることが実りのある問題解決に役立つことが多いのです。問題解決の取り組む前に、必要と思われる情報をできるだけ多く集めるとともに、事情が許せば、それも大の専門家ばかりで議論するのではなく、門外漢を参加させることをお勧めします。

また、「驚くほど知らない」ことを知ると同時に、「自分の持っている情報には驚くほど偏りがある」と言うことも、つねに認識しておかなければなりません。

たとえば、読者自身の社内での情報源の数を考えてみてくださのです。ほんの数人の情報に基づいて判断したり、意思決定をしていることが多いはずです。これは冷静に考えてみると恐ろしいことです。情報源が限られていると言うことは、情報の内容そのものに偏りがあることを意味するからです。

その上、誰しも、自分に都合の良い情報だけをピックアップしがちになります。そうすると、ますます、限られたか頼った情報で判断することになってしまいます。 重要な問題を解決する場合には、偏りの無い情報を集める環境づくりから始めることをお勧めします。

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◇ 5、対策の選択方法

◆効果、実現可能性、経済性が三大基準
 企業内の問題解決で、解決案(対策案)が最初から一つしかないということは希でしょう。したがって、提案された複数の対策からどれを選択すべきかの基準が必要になってくるのです。もし、そのような判断基準が存在しなければ、声の大きい人の案やその場の最上位者が出した案に決まりがちですし、多数決で決めるにしても、案の選択をめぐって右往左往しなればなりません。

 この対策選択の基準は、大別すれば三つ、効果、実現可能性、経済性と考えてよいでしょう。
まず、効果の大きさを測って比較します。これは当然のことですが、この当たり前のことが中途半端に、あるいは、抽象的なおざなりな検討で済まされていることが多いのです。たとえば、定量的にあらわすことができるものは、数字で効果を表現することは常識ですが、営業や管理間接部門の問題解決については、定量化が難しいと言う理由であいまいなままで議論がなされています。

しかし、定性的な問題と言えども、何がしかの前提を設ければ、定量化できることは少なく無いし、通信簿のように五段階評価を行うだけでも、議論の的はかなり絞られてくるものです。

また、効果の判定についても、いくつかに細分化して行うことが必要です。たとえば戦略やマーケティング上の問題解決であれば、売り上げ増大へのインパクト、ライバルへの打撃度、ユーザー・イメージへの影響や話題性、過当競争の防止度など、まず個別の観点で評価してから、総合評価をすることになろう。これを最初からどんぶりで「どれが良いと思うか」と聞かれても、聞かれた方が困ってしまいます。全体の印象で答えるしかないからです。

◆P・Q・C・D・S・Mも基本の一つ
また、生産や会社内部の問題解決であれば、三十年もの昔から言われている、P・Q・C・D・S・Mも効果の評価視点としてつかえるでしょう。

PはProductivety(生産性がよくなっているのか)
Qはquality(質が良くなるか)
Cはcost(コストが下がるか)
DはDelivery(仕事が早くなるか)
SはSsafety(安全性が高まるか)
MはMorale(労働意欲が向上するか) です。

さらに、効果にはマイナスの効果があることも忘れてはなりません。いわば、副作用ですから、「この案のデメリットは何か」と言う形で話題になるものです。例として挙げた前記の評価視点のマイナス点として上がってくるものもあれば、別途ピックアップしなければならないものもしょう。

いずれにしろ、複雑な問題になればなるほど、評価視点はふえるかもしれませんし、そうなれば、暗算で評価するのが難しくなってくるのです。つまり、主観を定量化した通信簿方式かもしれないと、もう少し科学的な方法かもしれないと、何がしかの点数評価をしなければ無理だと言うことです。しかし、人事考課の場合には点数評価をするくせに、このような局面になると、「エイヤッ」とばかりに度胸で決めてしまうのが多いのは、どうしたものでしょうか。

◆加重平均の点数で対策を選択すありません。
 ところで、手点数評価をせざるを得ないものの、点数評価には、陥りがちな落とし穴があります。加重平均方式で総合点数を出して、その点数をそのまま優劣の順位付けに使う方法です。

 経験のある読者は多いと思いますが、人事考課でも、積み上げの点数合計が、対象となった人物の総合評価の実感と食い違うことが少なくありません。このような場合、皆、個々の評価項目ごとにもう一度見直しをしてみるのですが、やはり、それらの評価項目に従う限り、総合点は変わらず、どうしたらよいか頭を抱えることになります。

それは、評価項目がすべての要素をカバーしきれないことと、加重平均に用いる加重係数を完璧なものに作り上げることが不可能だからです。問題解決のための解決案の評価でもまったく同じことが言えます。

 とくに、問題解決の場合には、加重係数の設定が非常に難しいのです。本当にキーになる項目に思い切ったウェートをつけられず、どうしてもばら撒き方のウェート配分になるからです。理屈では、確かに評価項目に挙げて当然と思われるのですが、本当に結果に効いてくるのはごく限られたファクターであることが多いのが現実です。

 たとえば、新規事業からの撤退の是非を、事業の利益率など、複数の指標の加重平均スコアで判断するとよいと解説した書物がありますが、ナンセンスです。いくらスコアが高くても、前に紹介したKFSを押さえていなければ、その事業の競争に勝つことはできないし、逆に、スコアが低くても、KFSさえしっかり押さえていれば、勝つ方法はあります。

だいたい、ものごとの帰結というものは、多くの要因があるように見えても、ごく少数の要因で決定付けられるものです。多くの要因に目を奪われ、本質を見失ってはなりません。
 したがって、「加重平均などウエートづけした結果の総合点数をイコール解決案の優先順位としてはならない」と思ったほうが現実的です。その点数はあくまで参考にして、主観と勘で選ぶのが間違いありません。ただし、この主観と勘は、デルファイ法の解説で述べたように、凡人のそれでなく、それなりの経験や見識を持った人物のものであることが条件です。

◆己の体力と相談して対策を選べ。
 さて、次の選択基準は、実現可能性です。いくらすばらしい成果かが出ることが分かっていても、自社の力では無理なことを計画しても始まらありません。実施できない対策を対策とよぶことはできありません。実施体力を考えなければならないと言うことです。その策を実行できるだけの人物がいるか、それを受け入れられる風土があるか、効果が出るまで投資をし続けるだけの資金があるか、時間的に間に合うタイミングで仕上げることができるか、人・時間・金といった資源上の制約を考慮して選択いなければなりません。

第三の選択基準である経済性は、コスト・パフォーマンス、かなわち費用対効果のバランスを考えよ、と言うことを意味しています。利益を追求しなければなら無い企業であれば、投資効果を考えなければなりません。たとえ成果そのものは一番大きな対策案であっても、それに費用がかかりすぎる場合には、次善の策を選ばねばなりません。

 このことは、常識的に理解していただけると思いますが、気をつけなければならないのは、コスト・パフォーマンスは、提案された解決案同士で考えればよいと錯覚しがちなことです。

たとえば、A案とB案との比較でA案のほうがコスト・パフォーマンスがよくとも、B案を選択して、A案を選んだ場合との資金差額をほかのプロジェクトに投入したほうが、トータルの投資効率がよくなると言うことが多いのです。

新しいエリアに出展する場合など、中途半端な出展よりも、きちんとした営業所を構えて最初からスケールを狙ったほうがよいケースは少なくありませんが、そのエリアでの営業活動はそこそこにとどめ、変わりに、既存の営業所の拡充に資金を投じたほうがよいというような場合が、これにあてはまります。

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