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◆今週の記事
◆実弾も飛んだ選挙イヤー
今年は世界的な選挙の当たり年。なんといっても世界の注目を集めるのがアメリカの大統領選挙だが、これとちょうど合う形で大統領選挙をやる国が結構ある。ロシアの大統領選挙が3月にあってプーチン大統領がまた選ばれて2030年までの君臨が決まったし(ロシア史全体を見回しても異例の長期君臨では)、6月のメキシコ大統領選挙ではクラウディア=シェインバウム氏が同国初の女性大統領に選ばれている。
大統領選挙以外でも、注目される総選挙が二つ、つい先日イギリスとフランスで行われた。
イギリスの方だが、こちらは前回の「贋作サミット」でもちょっと触れたように、ほぼ事前の予想通りの結果で、与党であった保守党が200議席以上を減らす惨敗、野党の労働党が200議席以上を増やす大勝をして(完全小選挙区制なのでこういうことになる)、そのまま12年ぶりの政権交代となった。初のインド系イギリス首相となったスナク氏は在任2年に満たずに辞任、労働党党首のスターマー氏が新首相となった。なお、前の前の首相で先日「ディープステート」がどうのと陰謀論を口にしたトラス氏は落選の憂き目にあっている。いや実はスナクさん自身も初の現職首相落選になるのでは、との観測もあったくらいだ。
今回のイギリスの総選挙、実は久々に首相が議会解散の決断を下して実施したものだった。日本と同様、イギリスでも議会の解散は国王の仕事の一つとされるが首相の「助言」が必要、結局は首相に解散権があることになっていたのだが、2011年に「議会任期固定法」なんてものが成立して、首相の判断とは関係なく基本的に議員の任期5年ごとに総選挙をやるという形に変更されていた。しかし保守党政権ではその廃止が進められ、2022年から結局元通りの制度になっていたのだった。
そんなわけで首相自らの時期判断で解散に踏み切ったわけだけど保守党にとっては史上最大の敗戦という結果に。その原因についてはいろいろ言われてるけど、どっかの国と似た話で政治家のパーティーが問題視されてたり(こちらはコロナ自粛の中だったから問題になったんだけど)、保守党にスキャンダルが目立ったこと、EU離脱による経済的影響が不安視されだしたこと、一方で極右系政党に保守票を食われたこと、などが挙がっている。
極右政党の台頭というのも最近のヨーロッパでみられる傾向で、イタリアに続いてオランダでも極右政党主導の連立政権が成立している。そしてフランスでも先ごろ行われた欧州議会選挙で極右勢力が躍進したため、マクロン大統領が国民議会の解散総選挙に踏み切った。オリンピック開催直前というタイミングで堂なんだ、という声もあったがとにかく総選挙となり、直前の予想ではルペン(娘さんのほうね)党首率いる極右政党「国民連合」が第一党、下手すると過半数をとってしまうかも、と見られていた。フランスの総選挙はまず第一回の投票を行い、それから上位二名での決選投票を行うという二段階方式で、第一回では確かに「国民連合」が第一党となっていた。
しかし、これまでにも例があるのだが、第一回投票で極右が伸びると、中道・左派の政党が手を組んで決選投票でひっくり返す、というパターンが今度も起こり、フタを開けてみれば左派「新人民戦線」が躍進して第一党、国民連合は三位という結果に。イフギリスの総選挙に続いて西欧の右寄りな流れを止めた、というようにも報じられているが、どちらの例でも左右双方に票が伸びている面もあって、一歩違えばまた全然違う結果になってしまうかもしれない。
そして大本命注目のアメリカの大統領選だ。この7月にいろいろと大きな動きがあった。
なんだかんだやってるううちに大統領選の顔合わせは4年前とまったく同じ人物による高齢者対決にほぼ確定していた。6月にアメリカ大統領選おなじみの重要イベント、テレビ討論会の第一回が実施され、ここでバイデン大統領が明らかに「老い」を感じさせる状態で「惨敗」とまで呼ばれる結果になってしまう。これを受けて民主党とその支持層の間で一部でくすぶっていた「バイデンおろし」の声が一気に高まった。まぁ前回の大統領選でもチラチラ言われていたことで、その時点ですでに「何かあったらハリスが大統領になればいい」ってな声があったのを覚えている。確かに副大統領ってのはもしもの時に大統領になる人、ということでセットで選ぶのだ。
そんな感じでなんとなく「トランプ有利?」ってな観測が流れだしたときに突如降ってわいたのが「トランプ暗殺未遂事件」だった。
7月13日、ペンシルベニア州バトラー近郊の選挙集会場で事件は起きた。演説するトランプ前大統領めがけて、100m以上離れた建物の屋上からライフル銃による狙撃が計8発なされ、トランプ氏は右耳を負傷したものの命には全く別状なし、聴衆が一人死亡、そして犯人は直後にシークレットサービスにより射殺された。
銃弾が耳を貫通、ということはほんの数センチでもずれていたら致命傷になっていたわけで、トランプ氏にとってはまさに奇跡的幸運だった。かつてレーガン大統領暗殺未遂事件でも心臓から数センチというきわどさで命を拾った前例を思い出す。一部の見方だが、トランプ氏は狙撃のその瞬間に演説のためにデータを確認しようと壇上のスクリーンに目をやるため顔を微妙に傾けていたため命を拾う結果になったともいい、なんだか「ジャッカルの日」みたいな話でもある。
狙撃の直後、会場からシークレットサービスらに運び出される直前、トランプ氏がやおら立ち上がって拳を突き上げるファイティングポーズを聴衆に見せ、その瞬間を撮影した一枚の写真が、見事に星条旗をバックにした構図になっていて、トランプ陣営、支持者により盛大に利用され、この暗殺未遂事件は結果的にトランプ氏に有利な効果をもたらした。それもあって一部に「自作自演陰謀説」もささやかれてはいるのだけど、さすがにそんなリスクの高すぎる謀略は実行しないだろう。最初から耳だけ打ち抜く狙撃なんて、それこそゴルゴ13の仕業としか思えない(実際ゴルゴにも似たような話があったような…)。
選挙中の暗殺未遂狙撃といえば、2004年の台湾の総統選挙中に現職の陳水扁総統が銃撃され重傷を負った例がある。これも犯人と目された人物が死んでいるため背景が判然とせず、結果的に陳水扁再選という結果が出てるので一部に自作自演説もくすぶったが、これも一歩違えば当人が死んじゃうリスク高すぎな状況だったのでさすがにそんな賭けはやらんだろうと。そういやこのとき、日本のあるハードボイルド系推理小説で都知事選で似た銃撃事件が起こるという内容のものがあると当サイトの伝言板で教えていただいたっけ。撃たれる人がまぁ、モデルが誰だか一目瞭然だったっけ。
トランプ氏を狙撃したのは同州に住む20際の大学生で、トランプ暗殺を企てた動機は本人が直後に射殺されたこともあってまったく不明。報道によるとおとなしいというかいじめられっ子といっていい性格の青年で、政治思想的にはやや保守よりで共和党党員の登録をしていた。ただその登録自体が暗殺実行のためだったという可能性もあり、彼の自宅からはバイデン大統領その他有力政治家の動向をチェックしていた痕跡やケネディ暗殺事件についてネットで調べた記録があったといい、何か大きなことをしでかして歴史に名を残そう、くらいのつもりだったのでは。レーガン暗殺未遂事件の犯人も「ジョディ=フォスターの気を引きたい」というとんでもない理由だったしな。今度の事件の犯人も、アメリカにおける銃撃事件の一コマとして歴史に残ることは間違いないだろう。そして、銃撃された当人も含めて、共和党にそんな危ない銃を規制しようなんて声はまったく出てないのであった。
さて暗殺未遂事件の直後にアメリカ共和党の大会が開かれ、トランプ氏が公式に共和党の大統領候補に、バンス上院議員が副大統領候補に指名された。暗殺未遂、そこからの奇跡的生還ということで大会はトランプ個人党の祭りの様相であったという。そして副大統領候補の指名には、あのイーロン=マスク氏が深く関与していたと言われるんだが、このバンスという人、若手で元気なのは分かるがトランプ並みかそれ以上に口が悪い。こんなのを押し込んだマスクさんって、何を考えてるんだろうと思うばかりで。
なお、トランプ氏を崇拝する陰謀論者、Qアノン系の方々の間ではながらくケネディJr.(飛行機事故死してるが彼らは生存を信じている)が突然登場して副大統領候補になるというシナリオがかねてより主張されていたが、当然そんなことにはならなかった。それでも彼らは「いずれ現れる」と信じ続けてますけどね。
こうした盛り上がりを受け、なんだか「トランプ再選確定」という空気も流れる中、民主党内ではますますバイデンおろしの声が強まり、本人はあくまで選挙続行の姿勢を見せ続けていたものの、結局7月21日に正式に選挙からの撤退を表明した。現職大統領が選挙での不利を悟って撤退表明するのは1968年のジョンソン大統領以来となる。
バイデン撤退、ということは副大統領であるカマラ=ハリス氏が後任になるのが自然な流れ。さっきも書いたが前の大統領選の時ですら「バイデンじゃなくてハリスを鰓bbだ」という人はすでに存在していて、ここで現実になった形。正直副大統領として地味な印象もあって、急に大統領候補になってどうなのかな?と思ったら、直後の世論調査ではトランプ氏をややリード、あるいは拮抗、といったデータが出て、少なくともバイデンのままよりは良かったということになりそう。
相手がハリス氏に変わったことで、トランプ陣営の彼女への「口撃」もさっそく加熱してきた。バンス氏は「子どもを産んでない女性」と揶揄し、ハリス氏のジャマイカやインド系の人種的特徴もしっかり攻撃対象になっている。マスク氏にいたっては自身が経営しているX(ツイッター)においてハリス氏のフェイク動画の拡散を始める始末。
アメリカの風刺1コマ漫画で、「老人に投票するな」という看板を大慌てで消してる共和党本部、というのがあってこれには「トランプさんも耳が痛いだろうな」と笑ったが、この国の大統領選挙はホントに世界的に笑いごとじゃないんだよな。
そして我が国では、岸田文雄首相が9月の自民党総裁選への不出馬を表明、来月での退陣を明確にした。支持率の低さは相当なものだったが、とって代わる人が出るようなエネルギーも党内になかったもので、なんだかんだで日本政治史では長期政権の部類になってしまった。
退陣表明を受けて総裁選には立候補者が乱立、結局のところ麻生さんやら菅さんやらの元首相たちがキングメーカー的に立ち回りはじめ、派閥の論理も頭をもたげてきているのがなんとも。総裁選で新首相が決まったら、こちらも総選挙になったりするのかも。
◆ヒトそれぞれの物語
何度か書いてる気がするが、近年人類史の研究が熱い。ことに現生人類とは近い「親戚」ではあるが種としては異なる「別の人類」が割と最近まで生息していたという事実が確認され、彼らに関する新たな発見が相次いで人類史がどんどん塗り替えられているのだ。今回もそれに関するニュースが二つ続いたのでまとめて書いてみる。
一つがシベリアのアルタイ山脈の洞窟で2008年に存在が確認された「デニソワ人」だ。骨などはほんのわずかしか見つかっていないがDNA分析により「別の人類」と断定された人類で、100万年以上前に現生人類と枝分かれしたが、ネアンデルタール人、現生人類とも一部で交配し、現生人類にその遺伝子を残しているとされている。
「デニソワ人」の名前は発見された「デニソワ洞窟」に由来するが、中国西方の甘粛省、チベット高原の東北の隅に位置する「白石崖溶洞」からも顎の骨の化石が確認されている。この顎の化石自体は1980年にすでに発見されていたが(発見したのはこの洞窟で修行していたチベット仏教僧だったとか)、「デニソワ人」の存在が確認されたのちの2019年になってDNA分析によりこれもまた「デニソワ人」のものであることが確認された。しかも16万年前のものと鑑定され、海抜3280mという場所でどういう生活をしていたのか、研究者たちは関心を寄せていた。
7月はじめに科学雑誌「ネイチャー」誌上に研究チームの論文が掲載され、それを報じたCNNウェブ版記事を読んだところでは、白石崖洞からは数千点にのぼる動物の骨が発見されたという。それらの骨は現在は絶滅している大型動物ケブカサイ、野生のヒツジやヤク、マーモット、鳥など多種多様で、デニソワ人たちがこれらを狩って生活して歌ことをうかがわせる。現在でもかなりの標高の土地で決して生活しやすいところとは思えないが、そこでデニソワ人たちはなかなかたくましく生きていたのでは、と研究者は見ているらしい。
さらに4万8000年〜3万2000年と推定される堆積層から新たにデニソワ人の肋骨の断片も発見したといい、デニソワ人たちはこの地に十万年以上の長きにわたって生息していた可能性もあるとのこと。我々現生人類が「出アフリカ」して世界にひろがるのにせいぜい7,8万年とされていることから考えると、気が遠くなるほどの時間、この地に彼らがいたということになりそう。もちろん同じデニソワ人の一族がずっとそこにいた、というわけではなく複数の集団が移動して入れ替わり立ち替わり、という可能性もあるけど。
もう一つの話題が、「フローレス原人」。こちらは2003年にインドネシアのフローレス島で発見され、体長が1m程度しかないという「小型人類」として研究者たちを驚かせた。同じインドネシアで見つかった「ジャワ原人」はおおむね現生人類と同じ体長だったのだが、彼らの一部がフローレス島に100万年ほど前に移住し、その地で何らかの適応をして小型に「進化」したのだと考えられている。この話を聞くたび、僕は「ブラック・ジャック」の傑作の一編「ちぢむ!」を連想してしまうのだなぁ。
これまた8月あたまの「ネイチャー・コミュニケーションズ」誌に論文が掲載され、東京大学などの研究チームがフローレス原人の新たな化石を確認したと発表した。それは2013年に見つかっていた上腕部の骨の化石で、およそ70万年前の地層から見つかり、当初は子供の骨ではないかと見られていたが血管が通る穴の密度から成人のものと判断されたといい、長さ21〜22cmの上腕からその身長は100cm程度と推定、「人類」の中ではこれまで確認されているなかで最小のものと見られるそうだ。
また興味深いのは、今回の発見でフローレス原人の「小型化」は70万年前にはすでに進んでいたことになり、島への推定移住時期の100万年前からざっと30万年でこの進化が進んでしまった、という結論になることだ。30万年、って長いようにも思うだろうけど、数百万年、数千万年単位の話が出てくる生物進化話の界隈ではえらく早いスピードでの体格変化だとも感じる。
30万年、というと我々現生人類の歴史もそのくらいではないかとの推定がある。この間、体格的にはほとんど変化していないわけだが、知能面ではある時期急激に発達したとする説もあって、人類の進化が思いのほか急ピッチに進むことがありということかも。そして、フローレス人もネアンデルタール人も3万年ほど前に絶滅したと考えられ、デニソワ人も同様だったかもしれない。そしてそれは現生人類の世界拡散の時期と重なるあたり、偶然ではないのかもしれない。
◆神様に祭り上げられて
日本独自の宗教である「神道」は、「八百万(やおよろず)の神」なんて言葉があるくらい森羅万象あらゆるものを神様にして祭るのだが、実在した人間そのものも神様にして祭ってしまう例も多々ある。菅原道真は「天神様」として祭られ、平将門も神田明神に祭られ(もっとも明治から戦後直後までは「逆賊」として蓮されていた)、近代以降になると後醍醐天皇や南朝忠臣が軒並み神様にされたり、吉田松陰、西郷隆盛、明治天皇、乃木希典、東郷平八郎など幕末から明治にかけて活躍した人物が神社に祭られている。護国神社や靖国神社のような大人数をひとまとめに合祀、というのもあるわけだけど、みんな「政治的意図」を強くもった神様祭り上げと言える。
近頃は「神対応」だの「神回」だの「神作画」だの、「神」もずいぶん安っぽく使われるようになっちゃってるな。
そんな「神様」の列に新たな歴史人物が加わった。僕も聞いた時、正直かなり意外に思ったのだが、それは榎本武揚だ、
榎本武揚は幕末の風雲のなかで幕臣として活動した人物だが、他の幕末有名人たちに比べると知名度はそれほど高くはないかもしれない。幕臣としてオランダに留学、帰国後に戊辰戦争のなか旧幕府軍を率いて北上、蝦夷地の五稜郭を占領して、この地に独立国「蝦夷共和国」を建国、選挙により共和国総裁になった。あっという間に終わるとはいえ日本史上、初の選挙により選出された国家元首あるいは首長である。函館戦争に敗北して明治政府に投降、その才能を惜しまれて助命され、明治政府のもとでも活躍した。特に自身が共和国を築いた北海道の開発や、ロシアと交渉して領土を確定した「樺太・千島交換条約」の締結など結構重要な仕事もしている。
一部でそんな彼を主役にした小説やドラマがあるにはあるが(特に日テレ年末時代劇「五稜郭」は異例の作品)、日本人的には忠義を尽くして一緒に滅ぶ方が好みなのか、いまいち人気がない気がする。
そんな榎本が「神」に祀られる、とのニュースを見たから驚いたわけだ。別に新たに神社を建てて神に祭る、という話ではさすがになくて、すでにある神社に「合祀」するという話。それも榎本自身が建立した神社に、というところが面白い。
榎本は赦免後に北海道開拓使で働いていて、その際に小樽の国有地を払い下げられ、そこにこしらえた祠を1876年(明治9)に開拓民の安寧やロシアからの脅威を意識した「北海鎮護」の額を掲げた神社に仕立てた。これがさらに教派神道の教会と合体することになって「龍宮神社」となり、現在に至っている。この神社は海の神である「ワダツミ三神」を主祭神としているが、他に豊受媛命(食物神)、大物主命、そしてなぜか大毘古命と桓武天皇(それぞれ北陸、東北の征服をしてるので「蝦夷」とひっかけてるのだろうか)が祀られている。そしてこのたび、新たに創建者である榎本武揚までも祭神に加えようとしているわけだ。報道によると神社本庁のコメントとして、幕末・明治の偉人を祭った神社はいくつもあるが、創始者自身が祭神になる例は初めてだという。
龍宮神社ではここ最近榎本の神様化計画を進めていたようで、寄付金をもとに境内に榎本の銅像も建てていて、宮司も「機は熟した」として2026年から榎本を祭神に加えることにしたそうだ。まぁそれこそ死人に口なし、本人の意図なんぞお構いなし。「祭り上げる」という日本語はよく言ったものだ、などと思ってしまう。個人的には「蝦夷共和国総裁」であった人物を北海道の神様にするってのは面白いとは思うんだけど、一歩間違えると北海道独立論につながったりはしないかな、と。
なお、同神社では2008年に麻生太郎氏がここを参拝したら一か月後に総理大臣に就任したことをもって「開運・出世」のご利益があると主張している。ああ、あのときは福田康夫じゃ選挙に勝てないってんで公明党が引きずり降ろして一見人気があるように見えた麻生太郎を神輿にかつぎだし、翌年の総選挙で大敗、自民党の下野という結果を招いているので、正直ご利益のほどは知れている。とりあえず榎本武揚というゆかりの有名人を神社の目玉にしたいんだろうが、この人も敗軍の総大将だったんだからあまりご利益は…という気がするなぁ。
◆花の都の五輪の影で
パリ五輪もこないだ開幕したと思ったら、もう閉幕。そりゃまぁ、毎度そういうことなんだけど、あっという間に終わる夏祭りという感は毎度あるな。始まる直前にTGVへの妨害活動が起きたり、開会式でのフランス革命や最後の晩餐パロディの演出が、ハプスブルク家やオルレアン王家の末裔やバチカン教皇庁の反発を呼んだりといった騒ぎはあったが、結局は大会自体は平穏無事に終わっている・
僕はもともとスポーツにそう興味はないし、オリンピック開催のたびにわきあがる利権的・政治的なあれやこれやの問題に不快感を覚えることもあるんだが、それでも各種競技をチラチラ見ていて、本当に世界中の国々の人たちが集まって入場行進(今回はセーヌ川の上だった)や試合をやっているのは壮観と思うし、古代ギリシャでオリンピックやってる間は戦争をしなかったことにならって一種の平和運動として始まった近代オリンピックの理念自体は、「お祭り騒ぎ」状態になっているとしてもまだ根底に流れてはいて、それはやはり評価すべきだと思っている。
しかし残念ながら、このパリ五輪の間にも世界では戦争・紛争は起こっていた。ロシアとウクライナの戦争はまったく変化なく続いていて、フランスのマクロン大統領から「五輪休戦」の呼びかけもあったがウクライナのゼレンスキー大統領はそれを「ロシアを利する」と拒否、逆に五輪期間中にロシア領内への積極攻勢をかけた。このところウクライナ軍はロシア軍への反転攻勢も不発、むしろ押され気味(といってロシアもウクライナ東部占領が限界っぽい)で、ゼレンスキー大統領も「国民が望むなら領土割譲での和平もありうる」と言ったとも報じられていたが、今回の越境侵攻はクルスク州の各地の占領にひとまず成功し、ロシア側がこれから必死の挽回にかかるという気配。ウクライナ側としてはかなり危ない賭けに出てる観もあり、この越境攻撃によってロシア側を揺さぶってプーチン政権への反発を呼び起こそうとしている、あるいは占領地をロシアが占領しているウクライナ東部地域と交換する狙いがあるんじゃないかとも言われている。ウクライナを支援するアメリカなど「西側」諸国としてはウクライナが大々的な越境攻撃をかけることには危険視あるいは不安視している気配もあって…
オリンピックは「平和の祭典」という建前なので、あからさまな侵略戦争している最中のロシアは前回から参加を認められていない。しかし現在、パレスチナ自治区のガザ地区に猛烈な攻撃をかけてすでに4万人もの一般市民を殺しているイスラエルが参加を認められていることに疑問の声も少なくない。そりゃまぁイスラエル政府としてはガザ地区を支配する組織「ハマス」による大規模テロへの報復という大義名分はあるんだろうが、それにしても度を過ぎてないか、と世界中で非難されている。「ハマスを全滅させる」と言ってるがそのために市民もろとも爆撃しまくり、新たな憎悪の種をばらまいている一方で、ハマス指導者を訪問先のイランでピンポイントで暗殺するという、思いっきり他国の主権を無視した、ナチス残党追跡以来のモサドの伝統作戦もしっかり進めている。イランも何らかの報復はすると表明しているが、なんかイスラエルはそれも含めて中東全体を不安定な方向にひきずりこもうと意図してるようにすら見える。
このイスラエルの駐日大使を、8月9日の長崎の平和祈念式典に招待しなかったら、日本以外のG7諸国の駐日大使が足並みそろえて式典への出席を見送る、という事態も起きた。平和祈念式典に現実に戦争してる国を呼ぶべきではない、という声はあがっていて、先立つ8月6日の広島での平和祈念式典でもロシア大使を招待しない一方でイスラエル大使を招待したことに批判も出ていた。
もっともこの式典で広島県の湯崎英彦知事が挨拶のスピーチをし、先日弥生時代の遺跡を訪ねて当時も戦争があった証拠を見たことに触れ、現代の戦争では弱者が強者にふみにじられ、銃弾やミサイルで殺戮されていると述べ、このくだりがイスラエルのガザでの行為をあてこするようにも聞こえて、そのときNHKのカメラがばっちりイスラエル大使にピントを合わせていたことがネットで話題になっていた。まぁあくまで名指しはしてないし、国連の中心となるべき大国が…というくだりはロシアを念頭に置いていたととれるが、その国連によって建国されたイスラエルがヨルダン川西岸への入植という明らかな国際法違反の行為をこの最中にも推進していることを思い合わせるとやはりイスラエルも念頭に置いているはずだ。広島市長の平和宣言でも「イスラエル・パレスチナの情勢」という表現で言及はされていた。以前村上春樹氏がイスラエルの文学賞を授与され、ボイコットすべきとの意見も出たがあえてイスラエルに赴き、そのスピーチでイスラエル批判をする、というのがあったが、あれを連想したりもしたな。
長崎市長の発言によると、特にイスラエルを批判する意図はなく、式典を平穏に行うため(つまりイスラエル招待への抗議活動を懸念して)にイスラエル大使招待を見送ったということになりそう。それでもアメリカなどG7各国はこれを「反イスラエル」と受け止めて、自分たちの立場を明確にする、という理由で式典参加を見送った。最近のイスラエルの行動にはさすがに欧米でも批判は広がっていて、最大の後ろ盾であるアメリカもさすがに持て余してる様子だし、かつてのナチスのことでイスラエルには遠慮の傾向があるドイツもイスラエルへの武器輸出を停止したりしてる。それでもイスラエルが絡むとここまで足並みそろえるか、という気もした。こういうこともあるから、あえて戦争してる国だろうがなんだろうが式典に招待して(戦争してる国にこそ来てもらうべき、って考えもあるはず)、来るか来ないかはそちらに任せる、ってことにすりゃいいんじゃないかな。
パリ五輪期間中にもう一つ心配になったのが、イギリス各地で起こった極右暴動だ。イギリス版ネトウヨたちがSNSでデマを拡散、各地で移民排斥を唱える集会を呼びかけて、一部ではイスラム系移民のいる施設などへの破壊活動、警察隊との衝突にも及んだ。上の記事でも書いたように先の総選挙で保守党が大敗、労働党に政権交代となったわけだが、このとき保守勢力の票の一部が極右に流れてその勢力を拡大した、との話もあった(考えてみれば保守党党首の首相はインド系移民だった)。労働党政権は移民に寛容な方向に行くと見られていて、今度の極右勢力の暴動もそれに対抗する意図もあったのだろう。そういやアメリカ共和党の副大統領候補、ヴァンス氏が労働党政権を揶揄して「イギリスは初の核保有のイスラム国家になった」と暴言吐いてたっけ。これもまた今度の暴動を起こした連中と呼応するものだ。
一方でこうした極右の動きに対し、市民団体や労働組合などが反極右のデモ・集会や、移民たちの保護に乗り出し、ひとまずこうした動きを封じ込めたことは救いだった。就任まもないスターマー首相も「肌の色や信仰を理由に人々を標的にする者は極右である」「この無秩序な行為に関わった者は、直接的にであろうが、ネット上で扇動するだけして逃げ出そうが、後悔することになるだろう」と演説で訴え、関係した者たちを厳正かつスピーディーに処分すると約束した。
この件と並行して気をつけなきゃいけないなと本気で思ったのが、近頃日本のネット上でもイギリスのと同様なデマ拡散も含めて露骨な外国人排斥を扇動する投稿が嫌でも目につくことだ。100年前の関東大震災の時の朝鮮人虐殺のようなことが、何かのはずみで起こりそうな気配は常にある(東日本大震災の時は未発に終わったが一部同様のことをしようとした連中は実際にいた)。
僕がウォッチしているQアノン系トランプ信奉陰謀論者ももれなく外国人排斥論者だし(もっとも彼らは自分たちの嫌うものを全部非日本人とし「本物の日本人」は実人口の半分くらいと考えている)、いずれトランプ氏の命令一下日本から外国人が全て退去になると本気で信じてる人もいる。彼らは極端な例としても、近頃のネトウヨは欧米白人極右の影響なのかイスラム教徒や黒人を攻撃対象にシフトしてきている感もある。
「平和の祭典」やってる影で世界中あれこれと不寛容でキナ臭い話がいろいろあった、くそ暑い夏である。
2024/8/18の記事
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