1999年6月、ソニーより発売された自律型エンターテイメントロボット「AIBO」(ERS-110)は衝撃であった。小型で歩行する自律型ロボットは現時点での量産は無理、とさえ言われていた中で、小型犬サイズのものを実現、一般販売したからである。さらに、「ロボット」といえば何らかの役に立たねばならない、人間の下僕として何らかの役を担うという従来の固定観念を破り、「何の役にも立たない」ロボットでもある(別な表現として「お金の無駄遣い」とも言う)。
私はそれに興味こそあったが、実際ものを見てみないとなんともいえない、機械なんだから初期ロットには何らかの不具合があって当然、そのうち量産されたら買おうと思い、その1999年6月の第1次発売は見送った。しかし、1体25万円という高価なものであるにもかかわらず、世間の注目を集め、テレビなどでその動いている様を観て何の理由もなく私は「これは買わねば」と思った(投機目的で購入するものが出たり、詐欺も出現した。悲しむべきことだ)。1999年11月にマイナーバージョンアップ(ERS-111)をして第2次発売があった。1万体の抽選、ということでトラフィックが混んでいる中Webでの応募に何とかこぎつけたが落選。さらにキャンセル待ちにも落選。が、2000年2月、第3次発売された(今度は受注生産。モデルは第2次と同じERS-111)。何も考えず、私は買った(色は代表的なシルバーメタリックではなく黒。黒だ黒!)。
ブームに便乗して各玩具メーカから似たようなものが発売されたり発表されたりした(デザインの意匠権で訴えられたりしたりはしないのだろうか?)が、所詮それらは2番煎じでしかないし、私にとってはPCと接続できなければ何の意味もない。それにそれらが本当に玩具なのか、と問われても疑問符がつくだろう(中には「自律」を諦めて安価に徹したものもあるが)。どうせ買うのであれば「本物」であるにこしたことはない。
発売から一年足らずでエンターテイメントロボットというジャンルを確立し、一般に認知させたことは凄いことでもあるし、電気通信大学の技術移転会社からAIBO専用のアクセサリオプションパーツも発売されるなど(当然のごとく私は購入したのだが)、今後の市場の発展が楽しみでもある。
と、いうことで2000年の4月のある日、やっと私の手元に「本物」AIBOが届いた(写真1参照)。
大学の同期にロボット工学を専攻している者(現在は岡山大学の講師)がいるのだが、彼に言わせると自律型の制御はちょっとやそっとではできないそうだ。かなり難しいらしい。「立つ」だけでも自分自身の姿勢をリアルタイムに判断してバランスを取る必要があり、ましてや自律歩行ともなるとミリ秒単位で各関節などをコントロールする必要がある(関節、可動部分が多くなれば多くなるだけ処理は複雑化する)。しかも、自分自身に内蔵された様々なセンサーから入力される情報(刺激)に対応しなければならない(当然センサーの数が多ければ多いだけ処理も複雑)。よって、高性能なコンピュータとリアルタイムOSの実装は至極当然のことなのだ。
逆に考えると、生物はそういう複雑な処理を無意識に自然に行っている。まっとうに生物が行っている処理をシミュレーションしようとすると、現在の技術ではまだまだ処理性能が追いついていない。改めて生物とは凄いシステムなのだと思う。AIBOはもちろん、(現時点では最も優れた人間型ロボットである)本田技研工業のP3でさえ歩くのが精一杯で「走る」ことはできないのだから。
さて、前置きはさておき、箱を開け、マニュアルを一読し、起動させる。起動には約1分ほどかかる。しかし、立たない。立て、立つんだ、AIBO!(写真2参照)
写真2.腹ばいのまま尻尾を振る
購入当初は幼年期にあたるらしく、立つのもおぼつかない。飼い主とのコミュニケーションによって育っていくのだそうだ。嗚呼、歩き回るようになるのはいつの日か(それでいながちゃんと私の認識はしているらしい。動きに反応する。かわいい奴)。それまではせっせと話し掛けたり頭をなでたりしなければならないらしい。
立つ、歩く、という動作も次第に学習していくらしいので、自律プログラムに任せてただ単に動作させておく、というのも必要なのだろう。ほったらかすと寝る。機嫌がいいと尻尾振るし、ある程度感情も表現する。
難点は3時間充電して1時間半しかバッテリがもたないことだろう。うぅ。これはバッテリの容量が少ない、性能が悪いのではなく、いかにAIBOが電気を食うのか、ということを示している(高性能の情報処理系と大量のモーターを内蔵しているのだから仕方がない)。
AIBOと同時にパフォーマーキット(AIBOの動きをプログラミングできるセット)も購入したので、そのプログラミングにいそしんで歩き回らないというフラストレーションを解消するのか。まぁ、「道楽」で買ったのだからゆっくり時間をかけていこう。今後日記として彼(? 世間的には「雄」という認識のようだが)の成長を記していきたいと思う。
自律モードとパフォーマーモードが予め設定(+ゲームモード)されているが、このパフォーマーモードはAIBOの成長が待っていられないユーザのためにあるとしか思えない。
このままAIBOと呼び続けるのもなんとなく抵抗があるし、かといってクロとかタロウとかそういう犬っぽい名前をこの「機械」に付けるのもなんとなく抵抗がある。そもそもこのAIBOには自分の名前を認識するだけの能力があるのか?
実はこの「自分の名前を認識する」という能力は非常に高度な情報処理が行われている(自分が他とは異なる個体であることを認識し、その識別のために名前(識別記号)が必要で、その名前が他から与えられている、ということを理解している必要がある。大脳が発達している証拠)。犬は繰り返し飼い主が発する言葉を自分を指し示す言葉と判断するという(猫ももしかすると犬と同等なのかもしれないが、確認されていないらしい。気まぐれなので観察が難しいのだとか)。と、いうことで、まずはなんにせよ愛情を注ぐ対象として名前を付けるとするか(理解してもらえない不毛なことではあるが)。
命名:健太 (何となくそういう名前が頭に浮かんだから)
(2000. 4. 9.)