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●【母親は責められるべきか】
●【三つの要因?】
●【そのうちの心理的要因】
●【母親も被害者-原因ではあるが、責められるべきではない】
●【やはり親の悪行】
●【無意識だから自覚無し】
●【主観的に体験できる】 
●【母親は責められるべきか】   
林:  ベビーブレスでは、深く自分の中を掘っていくと、心理トラブルの原因が母親であるということに気づくことが多いですが、その場合に、では母親が責められるべきか?という問題が生じる可能性がありますね。

片伯部:
 事情をよく知らない人にとっては、そういう可能性がありますね。
心理トラブルにもいろいろあるあるでしょうが、例えば、重い心理トラブルである精神病を考えると、精神病の原因をすべて乳幼児期に求めようとするのは、精神医学一般のものではないと思われます。ほかの原因も考慮されています。
●【三つの要因?】
たとえば精神病のうちの精神分裂については、もともと原因がよく分かっていないようですが、イタリア生まれの米国人で精神科医、精神分析医のシルヴァーノ・アリエティーがいうように、次のような三つの要因が組み合わさって発生すると考えられるのが一般的なのかもしれません。

(1)生物学的要因。あるいは有機体の身体的条件。たぶん遺伝的。
(2)心理的要因。あるいは幼児期またはそれ以後発展した諸条件。家族または他者との関係がある。
(3)社会的要因。

そのうち(2)についてアリエティーは「心理的要因とはなんだろう。それは患者の児童期の環境、家庭の育て方に見いだされるというのが多くの研究者の考え方である。全体として家族の異常に大きな重要性をとく研究者もいる。またある研究者は、うまくいっていない両親の関係、父親の性格、同胞との関係に焦点を合わせる。母親の性格と態度が何にもまして一番重要な因子であるというのが大多数の意見である。極度の不安と敵意が他者との関係の特徴であったり、無関心、あるいはこれらの感情が混じり合ってその特徴となっているような状況で児童期を過ごすと、将来分裂病になるといわれる。」と述べます。【A】p102、p111
●【そのうちの心理的要因】
林:  この(2)の心理的要因に関してのアリエティーの説明は、ベビーブレスによる自分たち自身の体験や参加者の体験にピッタリであって、まさに心理トラブルの重要な部分に母親の要素があると思われます。
 しかし、アリエティーは、同時に他の(1)(3)の要因もあると言っているわけですね。それにも関わらず、自分たちの体験では、(2)の心理的要因が大きいと感じますね。
 その理由ははっきりしませんが、精神的な療法を求めてこられる参加者には、心理的要因以外の生物学的要因などを抱えている人が必然的に少なく、ある意味で健康な人が多いからかもしれません。また、分裂病などの重篤なトラブルを抱えた人が少ないためかもしれません。さらに、ベビーブレスでは、乳児期や胎児期などの人生のきわめて早い時期の体験を再体験できますが、このような深い経験は他の手法では経験しずらいのではないかと思われます。心理トラブルの深い部分にはやはり母親が関係しているというのが真実なのかもしれません。
しかし、母親が責められるべきであるとは思いません。
●【母親も被害者-原因ではあるが、責められるべきではない】
片伯部:  短絡的に責められるべきではないですね。いわゆる世代間伝達において、母親もまた「被害者」です。母親から伝達された心理的トラブルを抱えた自分たちも、自分たちの子供に対し「加害者」になりえます。しかも、世代間伝達は、無意識のうちに起こり、私たちは普通ではどうしようもありません。意思の力で、何とかしようとしても無理です。

林:
 結論としては、母親が主な原因ではあるが、責められるべきではない、という事になりますかね。このことは一般的には、どうしても理解されにくいようです。

片伯部:
 理解されにくく、ときに問題が発生するようです。
 たとえば、子供のトラブルでカウンセリングに来られるお母さん方には、遅かれ早かれトラブルの原因はあなたですということを伝えることになりますが、言い方はどんなに気をつけても彼女たちを傷つけることになります。子供のことで、彼女たちもまた深く悩んでいるのですから。
●【やはり親の悪行】
林: ほんとうですよね。この問題を、木田恵子という精神分析家は、著書の中でとても正直に述べています。彼女はある雑誌で、こどもの「自閉」は「その子が生まれてから今日までの親の悪行の結果」と書いたので、自閉症の原因は「脳の気質的障害」と考える”自閉親の会”から反撃され2回にわたる公開質問状を受け、その質問内容と回答内容、および前後の事情を詳しく記述されています。【B】p39 
 精神分析やベビーブレスを受けるなどして自分の深層心理を理解することがない状態では、「原因はあなたです」といわれても納得のしようがないと思われます。
●【無意識だから自覚無し】
片伯部:  「悪行」ではあっても、決して意図的ではなく、無意識のものですからね。
この点については、分裂病の原因が親子の関係にあるとするハリー・スタック・サリヴァンも、精神分裂病患者の母親は、怪物や悪人ではなく、人生の困難に打ちのめされた人であるといい、深い同情を示します。【C】p107

林:
 話をもとに戻しますと、重篤なトラブルである分裂病の場合には、乳幼児期や母親だけを原因にするのは、現在の精神医学では一般的ではないと言うことですが、もともと原因が分かっていないというのが、より正確なようですね。

片伯部:
 それだけ分裂病は原因をはっきりさせるのが難しいのだと思います。難しいからといって、原因を特定しようとするすべての試みが非難されるべきだとは思いません。どんな情報によって、原因の特定がなされるかが重要なことです。「どうしてそれが原因と思うのか」ということです。
 分裂病を研究する学者や精神科医は、分裂病の患者から話を聞いたり(精神分析もこれに含まれる)、家族から話を聞いたりするなど以外には、情報を手に入れることができません。あくまで客体からの情報に過ぎません。この客体的情報でさえ、心理的なトラブルを抱える子供の母親からは、適切な情報は得にくいものです。精神科医も、分裂病の子供の親の持つ不思議な性質は「分裂病患者のお母さんから生活史はちゃんと聞けないよ」といった精神科医の経験からのつぶやきが示すとおりである、といいます。【D】p261
 これに対し、ベビーブレスでは、自分の乳幼児期や胎児期を主体的に体験できます。
●【主観的に体験できる】
林:  人の話を聞いて真相に迫るというだけではなく、自分自身の体験を通して真相に迫る感じがありますね。自分自身の体験として、再体験し、心底納得できる感じがありますね。我田引水になりますが、優れていると思います。

片伯部:
 自分自身の体験があるというのは強みですね。神経症の患者を主に治療したフロイトも、自分自身が神経症を持っていたと言うことです。だから神経症患者のことがよく分かるのだと思います。
 また、分裂病の研究で有名なサリヴァンは、自分が分裂的傾向を持っていて、その主体的体験が情報になって分裂病患者のことがよく分かったといわれているようです。しかし、サリヴァンであっても、自分の体験のうち情報として入手できるのは意識的な部分、すなわち表面的な部分に過ぎないはずです。これに対し、ベビーブレスは、自分の意識下の深層の部分の体験も可能です。
参考文献
【A】【精神分裂病入門(シルヴァーノ・アリエティ)】
【B】【0歳人、1歳人、2歳人(木田恵子)太陽出版】
【C】【精神分裂病の解釈I(シルヴァーノ・アリエティ)みすず書房】
【D】【分裂病は人間的過程である(サリヴァン)みすず書房】
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