サントリーホール・バッハ2000
  BCJ “バッハ/ヨハネ受難曲(第4稿)”


2000/07/28  19:00  東京:サントリーホール *日本語字幕付

*同一プロダクション 2000/07/29 18:30 新潟:りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館


バッハ/ヨハネ受難曲 BWV245(1749年第4稿)(全曲)


指揮・チェンバロ:鈴木雅明     合唱と管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン

声楽:ソプラノ・・・鈴木美登里(アリア)、鈴木美紀子、緋田芳江(女中)、柳沢亜紀
    アルト・・・・ロビン・ブレイズ(アリア)、鈴木 環、田村由紀絵、上杉清仁
    テノール・・ゲルト・テュルク(福音書記者,アリア)、鈴木 准(下僕)、
          谷口洋介、原田博之、水越 啓
    バス・・・・・・ステファン・マクラウド(イエス,アリア)、浦野智行(ペテロ、ピラト)、
          小笠原美敬、緋田吉也

管弦楽:(コンサートマスター)若松夏美
     フラウト・トラヴェルソ I,II:前田りり子、菅 きよみ
     オーボエ I,オーボエ・ダ・カッチャ:三宮正満
     オーボエ II,オーボエ・ダモーレ:江崎浩司
     ヴァイオリン I :若松夏美(オブリガート)、小田瑠奈、竹嶋祐子、渡邊慶子
     ヴァイオリンII :高田あずみ(オブリガート)、荒木優子、小野萬里
     ヴィオラ:森田芳子、渡部安見子
     ヴィオラ・ダ・ガンバ:福沢 宏
     通奏低音:鈴木秀美、山廣美芽(チェロ)、櫻井 茂(コントラバス)、
            二口晴一(ファゴット)、クリスティアン・ボイゼ(コントラ・ファゴット)
            鈴木雅明、北御門はる(チェンバロ)、今井奈緒子(オルガン)


 
《参考》         ヨハネ受難曲の魅力 〜新潟公演(7/29)に寄せて〜  
 
バッハ・コレギウム・ジャパン 音楽監督 鈴木雅明

 『主よ、主よ、主よ』、三度の悲痛な叫びによって始まるヨハネ受難曲。1723年4月7日 バッハがライプツィヒで迎えた最初の受難日礼拝は、このヨハネ受難曲によって行われました。彼はよほどこれを愛したのか、その後三度も再演し、その都度念入りな化粧直しを施しています。死の直前、1749年の生涯最後の受難曲演奏に取り上げたのも、やはりこのヨハネ受難曲でしたから、結局これは、ライプツィヒ時代の最初と最後を飾った記念すべき作品と言ってもいいでしょう。
 受難曲とは、イエス・キリストの十字架とその意味について瞑想し、三日後の復活祭に備えるため、キリスト教会が古くから守ってきた礼拝音楽です。本来は福音書の受難記事の朗唱に由来していますが、18世紀にはアリアなどの自由詞を加えて、豊かで劇的な音楽作品に仕上げられていました。特にバッハは、聖書の内容を自分自身との関連において捉え、単に劇的な表現ばかりではなく、驚くべき様々な手法を使って、私たちへ力強い慰めのメッセージを送ってくれるのです。例えば、第1部の最後。ユダの裏切りによって捕らえられたイエスは、ユダヤの宗教裁判にかけられます。その裁きの庭に入り込んだペテロは、「あなたもあの人の一味だった」と指摘され、必死でそれを打ち消すのですが、3度打ち消した時、イエスの預言どおり鶏が鳴くのでした。イエスの言葉を思い出したペテロは、外へ出て激しく泣くのですが、この「激しく泣く」部分は、実は本来ヨハネの福音書にはありません。恐らくバッハ自身がマタイの福音書から借用したものと思われますが、ここに作曲者自身がペテロと自分自身を重ね合わせて、身を裂くような半音階的な慟哭を刻んでいるのです。マタイ受難曲と比較する と、群衆の合唱に重きが置かれ、半音階的あるいは無調的とさえ呼びたくなるような激しい転調、跳躍、不協和音などなど、あらゆる手段を講じて、憎むべき私たちすべての罪をえぐり出すのです。しかし、激しいばかりではありません。曲がゴルゴタの丘に至って、第32曲のバスが歌うように、十字架の上で首を垂れるイエスは、そのことによって私たちの罪をあがない、すべてが十字架によって成就したことを示すため、黙ってうなずいているのです。そのことによって得られる平安こそ、バッハが私たちに残してくれた偉大なメッセージにほかなりません。
 バッハ没後250年の今年、命日の7月28日を中心として世界中でバッハが演奏されていることでしょう。そして、現代にいたるまで、活き活きと生きているバッハの音楽が、世界の聴衆と共に、ここ新潟でも聴かれることは、本当に大きな喜びです。バッハ最後の受難曲演奏を記念して、私たちバッハ・コレギウム・ジャパンでも、その最終版によって演奏致します。バッハはこの最後の演奏に際し、1730年代に一旦省略した最後のコラール、つまり、いまわの時と永遠の命を希うコラールを、再び復活させました。これは恐らく、バッハ自身の死への予感がなさしめたことに違いありません。煙突のようなバロック・コントラファゴットやチェンバロを加え、ソリストも共に合唱を歌う受難曲の響きによって、皆様と共にバッハの世界に一瞬でも思いを馳せることができれば、これにまさる幸いはありません。

(オリジナル掲載:00/07/24、新潟公演チラシ掲載文より:太字は当HP編集者によるものです)

【コメント】
 ヨーロッパツアー帰国後すぐに行われた記念すべき演奏会。まさにヨハン・セバスチャン・バッハがこの世を去ってから250年目の命日当日の演奏会である。全世界に衛星生中継で演奏が届けられ、日本ではFMが生中継、BSTV放送が翌日深夜にオンエアされた。 というわけで、BCJとして2回目の「ヨハネ」全曲演奏ビデオ(しかも2回とも“第4稿”!!)が残された。
 今回の演奏の大きな特徴は、2000年になってからの新しい取り組み、コンチェルティスト&リピエニストのコンセプトの導入であろう。簡単に言えばソリストも合唱を歌うということである(ただし、福音書記者はBCJ「マタイ」2000に続いて今回も原則ソロパートのみ)。この試みが各パートの響きの芯を作り、少人数ながらしっかりしたラインの見える歌声になっていたことも大きな収穫だ。特にアルトパートに特別に参加した“蔵の街”音楽祭入賞のカウンターテナー、上杉さんの加入は大きな力になっていたのではないかと思う。
 この演奏については、「フォーラム」にご感想をいただき、その中にもコメントを書いたので、よろしければ参照してください。(No.194,195) なお第4稿についてなど、「ヨハネ受難曲」に関する資料はこちらでご覧ください。 (矢口) (00/08/17)

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