poco a poco Op.4





 見ていようとか、見ていたいとか。
 そんな風に特別に意識をするよりも先に、無意識がいつの間にか勝手に気配を探し出して、気が付くとその姿を眼差しで追っている。
 自分には彼専用のセンサーのようなものでも付いているのではないかと、半ば真剣に思うほどだ。しかもとんでもなく高性能な。
 心が浮き立つような気配がするのは一体どうしてかと視線をめぐらせると、もれなくその先に姿を見つけてみたり。
 見るでもなくただぼんやりと眺めていた風景の先、いつの間にかその中央に彼の姿が入っていたり。
 そのうえそんな些細なことで単純に幸せな心地に陥るような、そんな他愛のない自分自身など想像もしたことがなかった。
 こんな感情を抱くこと。
 こんな想いが自分の中にあること。
 昨今、不思議だと感じる出来事は、どうやらすべて彼から始まっているらしい。
 啓太という、不思議な存在から。




 大柄なものの多いBL学園の中でも、常に頭ひとつ抜け出しているような七条だから。
 いつでもどこでも見渡せば、たいていすぐに目指す相手を見つけることができる。
 それは今のように、大勢の学生が賑やかに行き交う食堂であっても同じことで。
 トレーを手にしてさてどこの席に座ろうかと食堂内を見回した七条はすぐに、幸せそうにご飯茶碗を左手に持って、右手の箸につまんだ鶏の唐揚げをほくほくと頬張っている啓太を見つけた。
 頬に、意識せずとも笑みが上るのが分かる。
 七条は迷わず彼に向かって、歩を進めることにする。

 食事をすることが楽しいと感じるようになったのは、啓太と出会ってからだ。
 美味しいですね、とか、盛り付けがきれいですね、とか。
 あまりにも嬉しそうに幸せそうに同意を求められるものだから。
 確かに美味しくてきれいで楽しいような気がしてきてしまう。
 学食で出されているメニューは今までと変わらないというのに、つくづく不思議な話だ。

 肩に手が届く位置まであと数歩というところまで近づいて、そうして声をかけようと、息を吸いこんだとき。

「あ! こらっ、啓太はいつも俺の皿にセロリ入れて!」

 聞こえてきた会話に、歩み寄る七条の足が、思わず止まる。

「啓太、好き嫌いしてたら大きくなれないぞ?」
「そんな子供に云うみたいな云い方しなくたって」
「啓太が子供みたいなことするからだろ」
「だって・・・」

 セロリは苦手で・・・と。
 啓太は恨めしげな上目遣いを隣の和希に向ける。

「そんな顔してもダーメ。半分でもいいから食べろよ、ほら」
「あー!」

 ぽいぽいと箸の先ではじくようにして、和希は自分の皿から半分だけ、啓太の皿にセロリを戻してしまう。
 その様子を箸を握り締めながらせつなそうに見ていた啓太は、結局。

「・・・・・分かったよ、もう」

 情けないハの字眉になりながら、諦めたようにこっくり頷いた。

「・・・・・」

 一連のやり取りをただ眺めて。
 七条は、声を掛けそびれたまま立ち尽くす。

 誰にでも懐こい啓太のことだから、今の行動に大きな意味があったとは思わない。
 けれども果たして彼は、同じことを自分にはしてくれるだろうか? ・・・いや、きっとしてはくれない。
 それどころか、以前一緒に食事をしていたときには、サラダに入っているセロリを残さずきれいに食べていた気さえする。

 どうして・・・?

 何故、身構えられてしまうのだろう。
 ありのままに接してくれないのだろう。
 啓太が、自分や西園寺に懐いてくれているのは確かなはず。
 それはお茶会に誘ったときにイエスの返事と一緒に返ってくる、本当に嬉しそうな様子からだって分かることだ。
 けれどもなにかが・・・いったい、なにが・・・。

 なにが違うのでしょうね。
 僕と、遠藤くんと・・・なにが・・・。




 無表情に考え込みながら七条は、近くの空いている席に腰を下ろして。
 ひとり、味気ない食事に取り掛かった。






ほんとは啓太は好き嫌いがないのですよね・・・_| ̄|○ il||l
書き始めたのがCD発売前だったので
方向転換が難しかったのでこのままでゴー! ・・・とほほ。

七条は相変わらずうじうじです。
もうちょっとこのままうじうじです。


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