canon Op.2一人きりで食べる夕飯は、なんだか味気なくてつまらない。 トレーを手にして席に着く前に食堂内をくるりと見回してみたけれど、知り合いと空席の両方があるテーブルは見付からなくて、啓太は仕方なくがらんと空いていた壁際のテーブルに席を取る。 いつもご飯を一緒に食べる和希は今日は手芸部の作業が忙しいらしくて、放課後になると同時に慌てて教室を飛び出していってしまった。 今度はタヌキの着ぐるみがどうとか云っていたけれども、教室を出る直前に。 「なにかあったらすぐに携帯に連絡しろよ!」 としっかり云い置かれてしまった。 つくづく面倒見がいいやつだよなあと、ありがたい気持ちと感心してしまう気持ちの半々で、啓太はその背中を見送ったのだけれど。 授業中も、休み時間も、お昼休みも、いつもよりもぼんやりしてしまっていたせいで、和希にもいつも以上の心配をかけてしまっている自覚はある。 和希だって忙しいのに、だめだなあ俺・・・と、スプーンの先でシチューの中のブロッコリーをころころと転がしながら、啓太はほうっとひとつため息をついた。 と。 「勉強は進んでいますか」 ため息にかぶせるようにして、斜め後ろから声を掛けられた。 この声はもしかしてと慌ててくるりと仰のいたその先には、案の定な相手が立っている。 「あ・・・七条さん!」 こここここんばんはっ、とあからさまにうろたえる啓太の様子に気付いていないはずもなかろうに。 突っ込むこともせずに七条はにこにこといつも通りの笑顔で歩み寄ってくると、すぐ脇に立って啓太の顔を見下ろす。 「こんばんは伊藤くん。隣に座ってもよろしいですか?」 「もっ、勿論ですっ」 「ありがとう」 七条はそう云って、早速啓太の隣にトレーを置いた。 そうして静かに椅子を引いて、ゆっくりと腰をおろす。 「英語の補習、宿題がたくさん出て大変だって云っていましたよね」 「え」 「ため息をついていたでしょう? だから、勉強が行き詰っているのかなと思ったんですけど」 違いましたか? と首を傾げられて。 「そ・・・そうでした」 啓太はぽろりとスプーンを取り落とす。 そう。そういえば。 英語の補習で宿題がたくさん出てすごく大変なんです、と七条に話をしたのがきっかけだった。 そのたくさんの宿題よりももっとずっと大変なものをひょっこり渡されてしまったものだから、そっちのことばかりが頭を占めてしまっていたけれど。 宿題の期限だって迫っている。 その上まったく手に付かない。 なんだかもう、あっちもこっちも上手くたたずで、どこから手をつけたらよいのかも分からなくなってくる。 元々あれこれを同時進行でこなせるような器用なタイプではないものだから、ノルマが嵩めば嵩むほど、簡単に混乱状態に陥ってしまうのだ。 その自覚もあって、はあ、と思わずもう一度盛大にため息をついた啓太に、七条がくすりと笑う。 「苦戦をしているみたいですね」 「ぁ・・・・は、はい。俺、ほんとに英語苦手みたいで」 苦戦している原因の大半は、七条から渡されたあのキスにあるのだけれど。 悩みの大元である当人に本当のことを云う訳にもいかずに、啓太はへへへと誤魔化し笑いで頬を掻く。 啓太の動揺に気付いているのかいないのか、七条は上品な動作でスプーンにシチューをすくって一口食べたあと。 ふと何事か思いついたように、その動作を止めた。 「ああ、そうだ」 言葉の先を問うように、啓太は七条の横顔を見る。 すると返されるのは、いつもどおりの穏やかな笑み。 「よかったら、僕が見てあげましょうか」 「え・・・」 「補習の宿題です。英語でしたら僕でも力になれると思いますし」 「本当ですかっ?」 目を輝かせて思わず喜んでしまってから。 はたと、いいのかなと心配になる。 会計部の仕事に趣味のパソコンにと、七条は暇をもてあましているようなタイプには見えないから。 宿題を見てもらえるのならば啓太にとってはとても心強いけれど、迷惑になってしまうのでは・・・と尋ねる前に顔に出てしまう。 その表情から啓太の心配を読み取ったらしい七条は。 「大丈夫ですよ。だって」 優しい笑顔で、当たり前のように続けた。 「だって僕たちは、友達でしょう?」 |