canon Op.3「いいのかな、ほんとに・・・」 結局こうして七条の部屋の前までやってきたものの、宿題のプリントを手に、啓太はもうかれこれ5分ほど扉の前で悶々としていた。 自分でできる分はどうにかこうにか埋めたけれども、まだ3割は空白が残っている。 七条は毎日会計の仕事をしているし、自分の分の勉強だってあるだろう。 啓太にはまったく分からないパソコンのプログラムを組んだりもしていて趣味にもとても忙しいはずなのに、寮での時間まで割いてもらっちゃってほんとにいいのかな。 それに、おや伊藤くんはこんな簡単な問題も解けないのですねなんて思われたら、かなり恥ずかしいような気がするし、と。 散々悩んで考えて、やっぱり部屋に戻ってもうちょっと自力で頑張ってから出直そうかなと決めかけたそのとき。 「・・・・ぁ」 タイミングを見計らうようにして、がちゃりと部屋の扉が開かれた。 そうして開いた扉の隙間から、ひょこりと七条の顔が覗く。 「どうしました?」 「え・・・?」 「扉の前で考え事ですか?」 フフと楽しそうに問いかける七条は、困惑顔の啓太がそこに立っていることに少しも驚いた様子がない。 考えているうちになにか独り言でも云っちゃったのかな、それでここに居ることに気付かれちゃったのかなとこっそり苦悩を深めながら、そろそろ悩むのにも飽いていた啓太は、気になっていたことをそのまま七条に聞いてみることにする。 忙しかったり迷惑だったりすれば、七条はきっとちゃんと断ってくれるだろう。 「あの・・・ほんとに俺、来ちゃってよかったのかなと思って。七条さんだってきっと忙しいのに」 相変わらず読みにくい七条の表情の変化を察することができるように、生真面目にまっすぐに顔を見上げ問う啓太に。 ああ、そんなことですか、と七条は笑みを深くする。 「大丈夫ですよ。お誘いしたのは僕ですし、僕も君と一緒にいるのはとても楽しいですから」 ね? と七条は首を傾げて、扉をもう少し引き開けた。 啓太がちょうど通れるくらいの幅を。 「ええと・・・」 扉の取っ手の辺りと七条の顔とを困惑気味に見比べる啓太に、七条はもう一度笑みで頷いてみせる。 どうぞ入ってください? とでも云うように。 「じゃあ、お邪魔します。すみません七条さん」 ぺこりと頭を下げてから。 結局促されるままに啓太は、開かれたその扉をくぐった。 |