canon Op.6「ため、す・・・?」 もうなにがなんだか。 なにを云われているのか、なにをされようとしているのかも分からなくて。 「ええ。こうすることは、嫌ではないでしょう?」 七条が云って、もう一度。 顔が近づいて、吐息が近づいて。 そっと唇がふさがれる。 そのままちゅ、ちゅ、とついばむように、くすぐったいキスをいくつも渡されて。 息をする間がないからとかそれだけの理由じゃなく、ぬくもりが触れて離れるたびに、せつなくて胸が苦しくなる。 いやじゃないけど。 いやなんかじゃないけど、でも。 「では、これは・・・?」 おとがいに触れた指先が、やんわりと啓太の動きを封じて。 もう一度触れた唇が、誘うように、舌先が優しく閉ざされた歯列を押す。 「・・・・っ、ん・・・・ふ・・」 おずおずと迎え入れた舌先は、的確に啓太の性感を刺激して。 徐々に深まるキスに思考が乱れて、その合間に首筋を辿って降りた人差し指にゆっくりと鎖骨の形を辿られながら。 耳朶に移った唇に、いやですか? と甘い声音で囁かれて。 背筋をぞくぞくと熱いみたいな冷たいみたいな、不思議な感覚が行き来する。 「・・・いやじゃ、ない・・です」 緊張にか、恐れにか、期待にか。 喉がからからに渇いて、呼吸も上手くできない。 上からひとつずつ、器用にボタンをはずした指先が、するりと胸許に滑り込んで。 壊れてしまいそうな勢いで跳ねている心臓の上を、なだめるように優しく辿っていく。 啓太が嫌悪を覚えていないかどうか、確かめるためなのだと分かっているけれど。 じっと注がれる、穏やかなままの眼差しがいたたまれずに啓太はそっと俯いた。 「・・・・ぁ・・」 すると視界に七条の指先の動きが映って、慌ててぎゅっと目を瞑る。 「いやですか?」 「・・、・・・・っ」 「いや・・・?」 嫌じゃないという意味なのか、止めてほしいという意味なのか。 自分でも分からないままにしきりにかむりを振る啓太の答えをどう受け止めたのか、七条の指先の動きは徐々に大胆なものになっていく。 胸を、腰を、わき腹を撫で下りて。 「ぁ・・・・ゃ、だっ・・・・七条さん、待・・・っ、」 スウェットのウエストから潜り込んで下着の中へと伸ばされた指先が、もうわずかに反応をしている熱に直接に触れると。 啓太はさすがに跳ねるように腰を引いて逃れようとする。 「気持ちが悪いですか?」 「・・・っ、ぇ・・・」 「ここを、僕に触られるのは気持ち悪い?」 「・・・、・・・それ、は・・・」 問われて。 嫌悪感がないことに気付く。 驚いたし、そんな場所に触られることに戸惑いは覚えるけれど。 嫌だと思う気持ちはまったくなかった。 「どうし、て・・・っ」 戸惑ううちに躰は高められて。 初めて知る自分以外の手による愛撫に、啓太の果実は素直に、とろとろと蜜をあふれさせる。 「・・ん・・・・っ、・・・ぁ、ふ・・・・っ」 息が乱れて。 「ぁ・・・っ、だめです・・・・七条さ、・・・ゃ・・・あっ」 泣き声交じりに喘いで。 容赦なく快感を紡ぐ七条の腕を、啓太は力の入らない両手でぎゅっと握り締めた。 止めてほしいのか、そのまま続けてほしいのか、自分でも分からない。 「大丈夫・・・出してしまっていいんですよ」 「っ・・で、もっ・・・・・ぁ、・・・」 しきりにかむりを振りながら限界を訴える。 本当に、もう長くはもちそうになかった。 「伊藤くん・・・」 「・・ぁ・・、・・・ぁ、ん・・・っ」 耳朶に唇が触れて、いつもと違う声音で名前を呼ばれると、それだけでぞくぞくと背筋が震える。 ろくに抗うこともできずに啓太は、七条の胸にぎゅーっと顔を押し付けて。 「・・ぁ・・・っ、・・っ・・・・・ぁあっ!」 せつなげな嬌声とともに、間もなく七条の手を濡らしてしまった。 説明のできないたくさんのショックと、強すぎる快感の余韻。 くったりと放心している啓太の躰を、なだめるように抱きしめて。 「素敵でしたよ・・・伊藤くん、君はとても可愛い」 頬に、目許に、耳朶に。 繰り返しキスと囁きが落ちる。 「少し、待っていてください」 甘やかすみたいな優しい声音が。 混乱してぼんやりしている啓太の鼻先にもうひとつキスを落として。 脱力してもたれかかっていたぬくもりが、ゆっくりと離れていく。 どうして・・・・? 立ち上がって、遠のく大きな背中を見上げて眺めていると。 じんわりと視界がにじんできた。 どうして、あんな・・・。 余りにも簡単に、一方的に高められて。 自分のものではないような声を上げながら、訳が分からないままに七条の手を汚してしまった。 恥ずかしいところを、いっぱい見られて。 浅ましい姿を、こんなにも近くで晒して。 「・・・・・・」 最中を思い出すといたたまれなくて。 啓太はぎゅっと目を瞑って、服の袖で乱暴に目許をぬぐう。 バスルームから響いてくる、湯船にお湯を落とす水音。 その音から逃れるように。 「・・・っ・・・・」 啓太は七条の部屋を飛び出した。 |