canon Op.7自室に戻った啓太は、電気も空調もつけずに、部屋の真ん中までたどり着いたところでへたりと床にへたりこんだ。 なにが起こったのか分からずに、混乱しすぎてしまって泣くことも考えることもできない。 七条さん・・・好きなのは西園寺さんだけど、俺とはああいうこと・・・したくなるって。 まだ躰中に、七条の触れた感触が残っている。 ああいうこと・・・と思い出すとそれだけで躰がほてりそうになって。 啓太はちぐはぐな自分の心の動きと体の反応とに戸惑う。 大人びたもの多いBL学園の中では、女の子と付き合ったこともない啓太はおくてなほうかもしれない。 それでも、ああして触れ合うことにどんな意味があるのかくらいは、当たり前に知っている。 だからといってそれこそ女の子じゃないんだから、そんなに大騒ぎをすることではないのかもしれないけれど、それでも。 あれはまるで・・・まるで・・・。 「・・・・・っ、・・」 躰の芯に残って、じわじわと浅ましく主張をしている熱の名残。 しんと凍えた部屋の空気に肌は冷えていくけれど、からだの内側に灯ったそのおきびも、頭の中をぐるぐると渦巻いて膨らむ熱も、ちっとも引いてはくれない。 でも、なんで・・・? 疑問ばかりが多すぎて、どこから考えたらよいのか分からない。 深くひとつのことを考えられずに、次々に幾つもの疑問が浮かんできては惑って、目が回りそうだ。 ああいうことは、好きな人とすることだ。 だったら七条さんは、俺とじゃなくて・・・。 思う傍から、相手云々の前に、七条という人とそういった欲とが繋がらなくて困惑する。 普段の、穏やかに笑んで控えめな態度でいる七条と、さっき啓太に触れた七条とはまったく印象が違っていた。 そのうえ・・・。 西園寺さんのことが好きなのに、俺に恋人に・・・なってほしいって。 「・・・それって・・」 代わりってこと・・・? 「・・・・・」 行き着いた途端に悲しい気持ちが溢れ出して、ぎゅうっと胸の奥が痛くなる。 でも啓太には、自分に西園寺の代わりが勤まるとも思えなかった。 そもそも代わりなんて悲しすぎる。 気持ちに、代わりなんてない。 そんなに器用なことできない。 だったら、酷いことをされたと七条を責めればよかったのかもしれない。 最初にでも途中でも、七条の手を振り払って突き放せばよかったのだ。 それが無理ならば、かっこ悪くたって滅茶苦茶に暴れて、逃げ出せばよかった。 「でも、俺・・・」 いやじゃなかった。 最中だって、最後まで一度もいやだと思うことがなかった。 今だって、いやだったとは思ってない。 ただ知りたかった。教えて欲しかった。 七条の言葉の意味を。行動の意味を。 だから、気付いてしまった。 自分の気持ちに。 「俺・・・」 上手いも下手も比べる基準がないから分からないけれど。 自分でするのと比べたら全然、比べ物にならないくらい気持ちよくて。 だから快感に流されたのだと、思えたら楽かもしれないけれど・・・そうじゃないことは啓太自身が一番良く分かっている。 「俺、七条さんのことが・・・っ」 ぎゅうっと閉じたまぶたの端からようやく、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。 行き場のないこの気持ちを、どこにどうしておいたらいいのか分からない。 自覚した途端に失恋なんて、情けなさすぎる。 |