ボリショイ劇場 ドンキホーテ


2003年9月30日(日)

配役
キトリガリーナ・ステパネンコ
バジルユーリー・クレフツォフ
ドンキホーテ:アレクセイ・ロパレヴィッチ、
サンチョパンサアンドレイ・ペトゥホーフ
ガマシュ:ヴィクトル・アレヒン、
ジュアニッタ:イリーナ・セミレチェンスカヤ
ピッキリヤ:ナタリヤ・マランディナ、
闘牛士:イリヤ・ルィジャコフ、
街の踊り子:アナスタシア・ヤツエンコ
メルセデス:イリーナ・ズィブローヴァ
ロレンツォ:アンドレイ・シトニコフ、
ロレンツォの妻:エフゲニヤ・ヴォロチコヴァ、
公爵:リナト・アリフリン
公爵夫人:マリヤ・イスプラトフスカヤ、
居酒屋の主人:セルゲイ・マクシメンコフ、
ドリュアスの女王:マリヤ・アラーシュ
三人のドリュアス:ナタリヤ・ヴィスクベンコ、ユリヤ・エフィモヴァ、マリヤ・ジャルコヴァ、
四人のドリュアス:ダリヤ・グレーヴィチ、ユリヤ・ルニキナ、スヴェトラーナ・パヴロヴァ、イリーナ・セレンコヴァ
キューピット:ニーナ・カプツォーヴァ
スペインの踊り:マリヤ・ヴォロディナ、オリガ・リョーヴァ、アリサ・ヤルツェヴァ
ジプシー:ユリアナ・マルハシャンツ
ボレロ:アンナ・アントロポヴァ、ヴラディミル・モイセーエフ
第一のヴァリエーション:アンナ・ツィガンコーヴァ、
第二のヴァリエーションエカテリーナ・シプーリナ

指揮:アレクサンドル・コプィロフ

演出:プティパ、ゴールスキー

改訂版再現:A.ファデェーチェフ



幕があがると、そこはもうバルセロナ。明るい雑踏の中からバジルのクレフツォフ登場。
彼はスパルタクスのイメージが強いので、プレイボーイを演じるのはどうかと思っていたが、思ったよりはさまになっている。
だけど基本的に地が真面目なのか、遊び人になりきれていない。
第2幕、キトリの父親に結婚を認めてもらえず、狂言自殺で訴える場面では、はじめから勢いが足りずうそ臭く、倒れた後に介抱するキトリにちょっかい出す場面でもとても控えめ。
もう年なのか、キトリをリフトする前の勢いをためるところで「よいしょっ」と思わず声をかけたくなりたいくらい力のなさが表にあらわれて、その度に心配してしまう。
踊りはさすがにしっかりしているけれど、他の三人に追い越されてしまったこともあり(フィリン、ウヴァーロフ、ツィスカリッゼは人民芸術家。クレフツォフは功労芸術家止まり)ボリショイのプリンシパルでは一番地味なのでは。
私のイメージするバジルにはタイプ的にあわない気がするけれど、そうした弱々しげな優男を気の強いステパネンコが引っ張るというのも話としては面白いからか、最近はこのコンビで出演しているようです。

キトリを踊るステパネンコには余裕があり、随所に細かい表情づけがみられる。顔はいかついけれど、性格からしても彼女はこれがはまり役。
たとえば第1幕はじめの方でバジルのキスをかわす場面では、いつもながら「おあずけよ」とばかり両肩を軽くあげたり、第2幕はじめのバジルにジャンプで飛び込んでいき、成功すると2回めにはもっと派手に飛んだり。
いうまでもなく第3幕のグランフェッテでは4回に1回を最後までダブルで通し、テンポを速めにあおるオーケストラにぴったりついていた。
その後の斜めに廻るところではオケがついていけない程。回転系が得意な彼女だが、今晩は特にさえていた。

脇役では何といってもサンチョ・パンサのペトゥホーフとキューピットのカプツォーヴァ。
ペトゥホーフは身体全体が諧謔味にあふれ、動きがあればそのままサンチョ・パンサの表現となってあらわれる。
もちろんそれが彼の地というわけではなく、細かくみるとさまざまな遊びを四六時中くりひろげている。
たとえばキトリの踊りを皆が見ている時に、サンチョ・パンサは舞台の袖でその観客となりつつも、そばにいる娘のおしりをさわって怒られたり、お酒をネコババしようとしたり・・・。
キャラクターにこういう大物がいることによってボリショイの舞台はぐっと盛り上がり、熱くなる。

そしてカプツォーヴァ。彼女はいるだけでキューピットそのもの、と書けばそれですべてを説明できてしまう気がする。
動きのあとで決めのポーズをとるほんのちょっと前に微笑む、ニッコリと軽く口を開く時の歯の現れ方のタイミングや息のつき方。
そこまで計算して踊っているのか、そうしたしぐさが自然に出てくるのか。彼女のキューピットを見ているとドンキホーテならずとも夢心地になってくる。

他の見所としてはマルハシャンツのジプシーの踊り。何かに憑かれたかのように、われを忘れて客席の一点をみつめて踊る彼女の踊りには神々しささえ感じた。
闘牛士と街の踊り子のからみもこのバレエの見せ場だけど、レベルの高いところで標準的な出来。

ステパネンコ、ペトゥホーフ、カプツォーヴァ、マルハシャンツが、ただ歩くだけで劇中人物になってしまうような集中力を見せてくれれば、それが他のメンバーにも伝わらないわけはなく、豪華なドンキホーテを堪能した。


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