2000年2月16日(水)
指揮:A.コプィロフ
演出:プティパ、ゴールスキー
改訂版再現:A.ファデェーチェフ
プロローグが終わり、第一幕があくと、バルセロナの海岸線を描いた背景が舞台の後景に明るく大きく広がっている。舞台上の人々はそれにぴったりマッチして、生き生きした南国の街の活気あふれる情景が迫ってきて、熱気がムンムン。これにキトリが登場して加われば、目も眩むほど華麗な舞台になるだろう・・・と思わせるところだったのだが、ルニキナはカチカチ。ぎこちなくて、足の動きも動作も、いかにもバレエ学校で習いましたという感じ。徐々に固さは取れ、普通になってきたが、普通以上にはならない。若手の総力を合わせた脇役陣は力溢れているのに、なぜか主役のところだけに照明が当たっていないよう。しっかり踊っているのになぜか決まらない。キトリの友達の方がより目立つ、ということはさすがにないのだが、アレクサンドロヴァの扮する街の踊り子がでてきたら、その差は歴然。どちらが主役かわからなくなった。
第二幕も、ぴんと張り詰めた踊りをみせてくれたのはスペインの踊りやジプシーたちソリスト陣。バジルのフィリンはルニキナをなんとか盛りたてようとするのだが、技量の差がありすぎて、二人で踊るとフィリンばかりが目立ってしまう。
絶妙のタイミングでドンキホーテが風車に飛び込み、巻き込まれて夢の場面になると、カプツォーヴァの独断場。本物のキューピットとはきっとこういうものなのだろうと思わせる、おちゃめさ、好奇心、かわいさなどを彼女はすべて備えている。ドリュアスのアラシュはいつもながら表情なく、どてっとしたそっけのないもので、地味さではルニキナといい勝負。
公爵に招かれて、大勢の貴族の参列のもとでキトリとバジルが結婚式をあげるというのは筋的にはしっくりといかないけれど、話とバレエの見せ場をうまくからみあわせていていい舞台になっていた。夢でもないのにキューピットがでるのも変ではあるが、結婚式であることだし、カプツォーヴァがみられるのだから文句はない。ただ、最後にドンキホーテとサンチョパンサが退場する場面は唐突すぎるので、これから旅をつづけるという暗示が欲しい。
今回はボリショイの総合力を感じさせる公演であった。プリマがだめでもソリスト、コールド、音楽、舞台装置(ドンキホーテが乗る白馬ならず、サンチョパンサが乗るロバも白色で、見るからに毛並みのいいものを使っていた)、演出に押し出す力が十分以上あって楽しめた。
ただ、ルニキナにとってボリショイのプリマというのは荷が重すぎるのではないか。黒でも灰色でもいいので独自の色があれば、それが艶となり華になっていくのに、彼女は無色透明。あったとしても淡いグリーンや水色で弱々しい。ジゼルやアニュータはいいにしても、他のバレエで主役を踊らせるのは、彼女にとって気の毒である。オーケストラは好意的にテンポを落として踊りやすくしていたにもかかわらず、観客からの拍手はまばらだし、モスクワのバレエ愛好者が陣取る4階席より上からはほとんど拍手がなかったことがそれを象徴している。
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