ボリショイ劇場 白鳥の湖


2000年3月15日(日)

配役
白鳥=姫アンナ・アントニチェヴァ
王子セルゲイ・フィリン
ドミトリー・ベロガロフツェフ
王妃マリヤ・ヴォロディナ
王子の友達ゲンネジー・ヤーニン、ヤン・ゴドフスキー、ルスラン・プローニン

女官:A.V.ガリャーチェヴァ、イリーナ・ズィブロヴァ
ナポリの踊り:L.H.フィリッポヴァ、アレクサンドル・ペトゥホーフ
ハンガリーの踊り:A.I.アントロポヴァ、M.E.ヴァルキン
スペインの踊りユリアナ・マルハシャンツ、S.R.ボブロフ、
二羽の白鳥マリヤ・アレクサンドロヴァマリヤ・アラシュ
三羽の白鳥:Iu.V.エフィモヴァ、M.A.ジャルコヴァ、O.O.ツヴェトニツカヤ
四羽の白鳥:O.P.ジュルバ、T.A.クリルキナ、S.V.ルデンコ、O.A.ソコローヴァ

指揮:アンドレイ・チスチャコフ

演出:ヴァシーリエフ、一幕二場はイヴァノフ版を一部使用

台本:A.アガミロフ、V.ヴァシーリエフ



今回はキャスティングのバランスがとれた上演だった。

ヴァシーリエフ版では、ロートバルトの代わりに国王が登場して、満月の夜に白鳥を操る悪魔に変身するのが特徴であるだけあって、重要な役どころとなっている。従来の版では王子が主でロートバルトが従なのは自明であるが、この版では力の位置がはじめは国王にあり、心の葛藤や闘いがあって結局は王子に破れる演出なので、国王が役を離れてバレエで勝負にでると、あるいは王子の影が薄くなることがあった。その上、今回の王子役であるフィリンはダイナミックなジャンプよりも、むしろ静かに歩いて二枚目ぶりを発揮するタイプなので、その恐れは顕在化する可能性もあった。でもベロガロフツェフは踊りによって国王の毒の面を強調したので、国王から王子への力の移行が無理なく表現された。

バレエでは王子の友達をやったヤーニン、二羽の白鳥を踊ったアレクサンドロヴァが目立っていた。両者とも主役二人に一番近い人物で、ソリストとしての高度な技が要求されるが、それによって主役を引き立てねばならないという役回りだが、みごとにそれをこなしていた。ヤーニンはアクロバット的な技が冴えており、根っからのキャラクターダンサーだし、アレクサンドロヴァは近い将来の王女=白鳥役を想像させるような哀愁に満ちたオーラを漂わせていた。

さてアントニチェヴァだが、何と書けばよいやら。今日はもともとヴォロチコヴァが主演の予定で彼女目当てにいったうえ、アントニチェヴァは昨年九月にすでにみているのではじまる前にはがっかり気分。第一幕第二場で登場すると、ただ踊るだけでなく、湖の少しにごった臭いや踊る度に羽が少し抜け落ちる感じなんかもあって、ボリショイのプリマとしてはまず合格レヴェル。舞台で大きく見えた。ただし哀しみ苦しみ路線の一本道であり、単調さは否めないし、後半は疲れていくのがありありとわかった。余裕をもって自分のバレエを踊るという段階までは到達できてない気がした。

その他の脇役やオーケストラ(特にどこまでも通り突き抜ける音の金管とお腹にバシッとくる打楽器群)の冴えはいつもながら。オペラのオケとしては色がなさすぎるかもしれないけれど、バレエのオケとしては透明で弾力性ある音色で繊細で力強くて、といいところばかりで理想的。エルムレルが主席になって、そうした主義を明確にしているからか、最近特にそれを感じる。

今日なんかはバレエの出来としては普通といったところなのだが、底力がかなり高いレヴェルにあるので、総合力はまさにボリショイ。見に来た人を満足させる。

ヴァシーリエフ版を見るのは今回で三回目になり、慣れてきたせいか、筋書きにアレルギー反応をもちさえしなければ、これはこれで一貫しているものとして見られるようになった。一幕一場や二幕一場など、脇役にいたるまで細かい遊びがあるし、大きく明るく豪華というヴァシーリエフ的な色がはっきりしている。もちろんグリゴローヴィチ版やブルメイステル版を知っているともの足りなくはあるが、コンパクトに「白鳥」のエッセンスをまとめているというところがメリットとして肯定的に受け止めることもできそう。


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