ダンチェンコ劇場 舞踊の魂


2000年3月4日(土)
ロシアの代表的な舞踊雑誌「バレエ」が1994年から、毎年一回、各部門での優秀者を表彰し、あわせてガラコンサートを催す夕べ。

今年度の受賞者は

「新星」:マリヤ・アレクサンドロヴァ、アンドレイ・ファデェーエフ
「バレエの師」:ナタリヤ・ドゥジンスカヤ、オリガ・レペシンスカヤ
「指導者」:ピョートル・ペストフ
「バレエのパトロン」:アンドレイ・ペトロフ
「振り付けデヴュー」:イヴァン・ファデェーエフ

ガラコンサートのプログラムは以下のとおり

第一部

「ショパンニアーナ」:アンナ・アントニチェヴァ、アンドレイ・ウヴァーロフ
「金のがちょう」:セルゲイ・サタロフ、アンジェリカ・ネチャーエヴァ、マリーナ・ニキーチナ、ナターリヤ。コロィヒナ、オリガ・フォーキナ(ロシア室内バレエ「モスクワ」)
「ネルヴ」:ヤン・ゴドフスキー
「ナポレオン・ボナパルテ」:ジャンナ・ボゴロディツカヤ、アレグ・コルゼンコフ、ヴァレリー・ラントラトフ(クレムリン・バレエ)
「トムソーヤ」:ヴァディム・クレメンスキー、アレクサンドル・ダーエフ
「エレジー(タイスの瞑想曲)」:スヴェトラーナ・ロマノーヴァ、コンスタンチン・マトヴェーエフ
「ロシアン・ハムレット」:マリヤ・アレクサンドロヴァ、ドミトリー・ベロガロフツェフ
「眠れる美女」からパドドゥ:イリーナ・ジェロンキナ、アンドリアン・ファデェーエフ(マリインスキー劇場)
「エスメラルダ」:アナスタシーア・メスィコヴァ(ソロ)、ナタリヤ・サドーヴァヤ、エカテリーナ・シュルィギナ、ポリーナ・セミオノヴァ、マリヤ・ボグダーノヴィチ(モスクワ舞踊学校上級生)
「ワルツ」(モシュコフスキー):マリアンナ・ルイシュキナ、ヴィタリー・ブレウセンコ(ダンチェンコ劇場)
「ドンキホーテ」からカスタネットのヴァリエーション:ナタリヤ・レドフスカヤ

第二部

「くるみわり人形」からパドドゥ:エレーナ・シェシナ、アンドレイ・メルクリエフ(ムソルグスキー記念マールィ劇場)
「海賊」からヴァリエーション:アンドレイ・ボロティン(ボリショイ劇場)
「シルフィーダ」からパドドゥ:タチヤーナ・プロツェンコ、ユーリー・ブルラーカ(ロシアバレエ団)
「タランテラ」:バルガリータ・クーリク、ヴラジーミル・キム(マリインスキー劇場)
「白鳥の湖」:エレーナ・アンドリエンコ、ヴラジーミル・ネパロージニー
「アディエムス」(ジェンキンス作曲、ザネッラ振付け):アナスタシーア・ヴォロチコーヴァ
「ライモンダ」からパドドゥ:ニコライツィスカリッゼ、ガリーナ・ステパネンコ
「くるみわり人形」から「パヴロヴァとチェッケッティ」(ノイマイヤー振付け):ウリヤーナ・ロパートキナ、ヴァディム・デスニツキー


このようにさまざまな演目、さまざまな舞踊家が出演していてとても贅沢な一夜。
ただ、それぞれの力がはっきりとわかってしまうので踊り手にとっては恐い公演でもある。レドフスカヤは別にして、ボリショイ、マリインスキーとそれ以外の劇場ではかなり技量の差があった。

受賞者のアレクサンドロヴァは何を踊るのかと思ってたら、二夜連続(前日はボリショイで全幕)でロシアン・ハムレット。第一幕終わりの英雄交響曲第二楽章にあわせて、エカテリーナ二世の苦悩を描く場面であった。女帝ということで、少ない動きで威厳をみせつつ、スケールの大きさを表現しなければならず難しい役所である。まだこなれていないところもあり、若いゆえに表現しきれないようなところもあったが、どっしりしたバレエを踊った。

第一部では他に、ルイシキナとレドフスカヤがそれぞれ抒情性からは程遠いがアクロバット的な技で目をひきつける、きもちいいバレエをみせてくれたのが印象に残った。

ヴァシーリエフ版白鳥の湖の初演者、アンドリエンコとネパロージニーは何とプテイパ版の黒鳥の場面で登場。さすがに今のボリショイ劇場ではできない、でも踊りたい、というデモンストレーションであったのか。踊りはなかなかよく、全幕とおして見たくなるほどであった。

ステパネンコとツィスカリッゼはベテランの余裕をみせてくれる踊り。ほぼ完璧だなぁとみほれていると、最後にステパネンコをツィスカリッゼが支える際にタイミングがあわず、飛ばしてしまうところがあったのはご愛敬。

この夜、一番印象に残ったのはドゥジンスカヤの二人の教え子、ヴォロチコヴァとロパートキナ。
ヴォロチコヴァは一人で踊りながら、100人が舞台上にいるのと同じほど、強烈な光をはなっていた。後ろ向きに舞台後方へ進みながらちらりと正面に顔をむける場面は神がかり的で、ぞくりとさせられた。

そして最後がロパートキナ。バレエのレッスン風景で、今日の受賞者へのはなむけの意味をこめているのであろうか。現代アメリカの舞踊家ノイマイヤーの作品だが、19世紀的な雰囲気でとても品がよく、ドガがバレリーナを描いた場面を彷彿とさせるもの。ひとつひとつの踊りから金箔がぱらぱらとふりまかれ、それが地面におちると真っ白な雪にかわっているかようなステージ。この世のものと思えない美しさという形容があるが、まさにそれ。舞台をみながら、伝説のバレリーナが蘇って眼前にいるような気分になり、いや、ロパートキナは伝説のバレリーナと呼ばれるようになるんだなぁという思いでぼーっとしていると、他のお客さんも同じなのか、踊り終わってもしばらくはブラヴォーもでず、徐々に盛大な拍手に変わっていった。

この夜は受賞者の一人、ドゥジンスカヤ(1912年生まれ)の他にも、メッセレル(1908年生まれ)がステージに上がり、「わたしゃもう足があがらなくなっちゃいいました」といいながら、ぐるりとまわってみせてくれた。また、モスクワ舞踊学校の校長ゴロフキナ(1915年生まれ)が最前列にすわってたりして、ヴィデオでしか知らないバレリーナを生で見るのに「間に合った」という意味でも豪華版であった。


歴代入賞者

1994年度
「新星」:ウリヤーナ・ロパートキナ、ヴャチスラフ・ゴルデーエフ
「舞踊の魔術師」:バリース・エイフマン
「バレエのパトロン」:ミハイル・アルノポリスキー
1995年度
「新星」:ブロニスラヴァ・ニジンスカヤ、ニコライ・ツィスカリッゼ
「舞踊の魔術師」:ニキータ・ドルグシン
「バレエのパトロン」:ラウファリ・ムハメジャノフ
1996年度
「新星」:マイヤ・ドゥムチェンコ、キリス・ヴォルコフ
「舞踊の魔術師」:ナタリヤ・カサートキナ、ヴラジーミル・ヴァシリョーフ
「バレエの師」:アンナ・エルマコーヴァ、ヴェーラ・クラソフスカヤ
「バレエのパトロン」:タチヤーナ・ウスチーノヴァ
1997年度
「新星」:タチヤーナ・クラスノヴァ、ニコライ・バヤルチコフ
「舞踊の魔術師」:ヴラジーミル・ザハーロフ
「バレエの師」:マリーナ・セミョーノヴァ
「バレエのパトロン」:セルゲイ・ニクーリン
1998年度
「新星」:アンナ・アントニチェヴァ、バリース・リヴォフ−アノヒン
「舞踊の魔術師」:
ヴラジーミル・アレフィエフ、ドミトリー・ブリャンツェフ、
「バレエの師」:アッラ・シェレスト
「バレエのパトロン」:ニコライ・グリシュコ、ヴラジーミル・ウリン

賞の対象は以下のとおり
新星:非凡な創造性を表現した若い芸術家
舞踊の魔術師:バレエ作品の製作者(振付け家、作曲家、舞台美術担当者、指揮者
バレエのパトロン:芸術・実務監督、マネージャー、後援者、プロデューサーなど、バレエ芸術にこころから身をささげるプロの裏方=指導者
バレエの師(1996年から):ロシアバレエの発展に顕著に貢献したバレエ芸術分野の理論・実践家
バレエの指導者(1999年度から):教え子が芸術上、顕著な成功をおさめたその先生

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