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一桁のビジネスマン《行動心理資料》より

【ショーマンシップ】

 「隅々まで目が行き届いている」とは、評判の高い経営者に贈られる多くの人々の賛辞です。
 実際は、大会社の社長が末端の仕事や個人的なことに、通じていようといまいと、たいして違いはありません。

いかにも、細かいことに関心があると云わんばかりの態度を示す社長の、ちょっとした方便というより小さい気遣いは、一種の薬みたいな効果があるように思われます。

 社長が社内で起こる全ての出来事を、知らないことは云うまでもありません。しかし、ある朝の社内巡回のときに、従業員の怪我や病気について、尋ねたとすれば、それは、社内の詳しい報告に目を通したからにほかなりません。

しかし、部下への影響といえば、「社長は、我々に個人的な関心を寄せている。それに、人の長になるだけあって素晴らしい頭をもっている」という感じを持たせております。

 このように感じさせることは、景気不景気を問わず、規律と士気を保つのに重要な役目を果たします。これがよい目的に使われるショーマンシップであるのです。

 役員室をノックすると、せかせかした調子で「どうぞ!」と答え、相手が入ってきても、二、三分は書類から目を離さないといった指導者などは、筆者から云わせれば、ショーマンシップを下手に使っているのです。なんとなれば、「少々お待ちください」とか「お掛けなさい」と言えないほど忙しい人は、頭のきれる人ではないからです。

 ショーマンシップとハッタリとの間には、はっきりした区別があります。ここで使っているショーマンシップは、ハッタリとは関係がありません。ここでいうショーマンシップとは、自分を表に引っ張り出して、「仕事にうってつけの人間である」と云う印象を売り込むことです。

ショーマンシップは、適用する分野毎に異なったフォームをとります。基本的な原則が全般的に適用される他のことと異なって、セールスマンにとって良いショーマンシップも、技術者には、鼻持ちならない無作法なこととな場合もあるためです。

 技術者が相手に強い印象を与えるのは、控えめな言い方で言葉を選び、ときには「これは事実と云うよりは、仮定の話でありますが」といったり、一般に公平無私である客観的で、感情に流れない観察者のようにみせるときです。

 セールスマンでも、控えめで飾らない言葉を使うと、かえって効果が上がるときは、そのやり方を遠慮なく使うようにします。
しかし、セールスマンは、先ず売り込まんとする製品に惚れ込んでいるように見せかけて、相手の感情に訴えねばならないのです。顧客の心に食い入る必要があるのは、保険や化粧品の外交ばかりではありません。

 とくに、腕利きの不動産のセールスマンは、若い夫婦を家に夢中になるように仕向けます。自動車のセールスマンは、買い手の所有欲とか、スタート・ダッシュの力強さにたいする憧れとか、美しい線にたいする惚れ込みにつけいってビジネスをしています。

他の産業に売る込みする人でも経験を積んでいる人は、冷静な購入係も個人的な偏見を持っていることを良く知っています。
また、数年前に、思い切って新しいものを買い入れて失敗した悪い経験が、今でも選択に当たって、慎重すぎるくらいに慎重になる原因をつくっている場合もあります。

 ですから、ショーマンシップの応用は、応対する人間の違いがあるほど沢山の面があるのだと考えられます。
 一口に云えば、技術者は事実に冷静な関心を示すべきです。また、経営担当者は、落ち着いた権威と有能さの印象を与えなければならないと思います。そして、営業マンは貧しさを表に出さないで、自分の製品にたいする心酔振りを示すことだと思います。

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