ビジネスに従事する人達は、誰でもがそうであるように、自分の上役と、自分の勤めている会社に、投資したお金と努力にたいして結果の良い報酬を求めます。
ところが、人間は誰でも、ありがちなこととして、自分は誰よりも優れている何か特別な才能に恵まれているのではないかと考えます。この考え方が、平凡な真理の理解を、妨げる原因になっているのではないか、と思われます。
子供のときの「神童が、大人になって失敗する原因」あるいは、「全優の学生であった人が世の中で失敗する原因」の半分は、ここにあるものと思われるからです。
生まれてから最初の二十年前後という年月は、頭脳優秀であることを、試験という時折の修業の場で証明することが、みんなに認められます。しかも確かな法定の教育を受ける青春時代の成功の代名詞でもあります。そして、多くの人々はこうした考えの下に育ってきているのです。
その後の人生は、学校を卒業してからさらに長い時間をかけた上で、「頭脳だけでは、人生の成功のための、貧弱なバロメータ」にしかなり得ない、という奇妙な真理がそれぞれの人々に、受け入れられるようになります。
ビジネスの業界においては、この「頭脳だけのバロメーター」は、貧弱であることが正しいと、誰にでも見とめられ、それが真理だとされております。
ビジネス上の重要なことは、「系統的に、大量に、産み出す能力」です。その人々の産み出すものは、意見であろうと、商品であろうと、また、販売であろうと、美術であろうと、能率であろうと、会計数字であろうとを問わないのです。
上役は上役なりに毎日の目標、さらにより長期の目標を具体的にもっている人間なのだと考えます。
そうすることが、上役に認められ、良い報酬を与えられるような従業員となり、それが自分自身であろうと、部下であろうとを問いません。社長に提供する能力を作り上げることが目標の第一歩なのです。
それには先ず、上役の目的と動機を理解します。それから目的を自分の仕事の分野で押し進める手段を発見するようにします。
各企業がその職場職場の指導者に対して求める一般的な性質はいくつかありますが、その相対的な重要度は仕事によって異なります。
例えば、信頼性という「性質」は、各雇用者の評価リストの上位に近いところにあります。一方、考えを産み出す創造力は、広告係には必要性が大ですが、会計経理係にとっては、リストの下位にくるかも知れません。
上役になるにしたがって、信頼性は、仕事の形式を問わず比例的に、その重要性を増大します。
気分がよいときには素晴らしい成績をあげますが、気分が乗らないときにはさっぱり成績をあげることのできない「気分屋」は、セールス系統には合格するでしょう。
しかし、そのような人では販売次長としでは、いかに年間扱い量が大きくできてもその人に耐えられない仕事になります。
もし、そのような人が地位についたとすれば、それは彼が考えを生み出し、他のセールスマンに活を入れるという良い結果を、生む期待をされてのことになります。
彼は自分のやり方を変えない限りそれ以上に昇進するのには無理があります。営業部長に指名される人は、セールスマンとしてはそれほど優れてはいないかも知れませんが、彼よりも着実な経営能力をもっている人物であるはずだと思います。
これは、当然そうあるべきものです。
熱しやすく冷めやすい性質をもつセールスマンの優れた実績に報いるのには、経営の仕事を与えると云うのは当を得たものではありません。自らの性質にあった仕事についた方が幸せであり、本人ならびに会社に利益を上げさせるものだからです。
信頼性とは、ここでは普通の他人任せとか、自己責任性を意味するものではありません。
この二つのことは、指導者なら当然誰でも備えているものと考えなければならない性質だからです。信頼性と云うのは、権限内に入ってくる全ての事柄に責任をとることを意味するもので、全ての仕事を、約束した通りに実行する習慣を意味しているためです。
さらに、何か重要なことをするのを忘れたときや、何かの有利点を見逃したときに、言い訳する時間を最小に食い止めることを意味するものです。要するに、仕事はいつでも確実に完了させる事を意味しているからです。
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