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インシデント・プロセス

◇インシデント研究へ
◆概要
 現在のビジネスは、いつも未知への挑戦です。手持ちの情報で、タイミングを見計らいながら意思決定をします。
 しかし、総合的な経営判断をするには、必要な情報資料が揃っているとは限りません。十分な吟味資料がないときに、用意される手法が事例研究、いわゆるインシデントプロセスです。

 判断力を高めるためには、演繹的な論理的な考えと、実証しながら目的を達成する帰納法的な考えがありますが、インシデント・プロセスでは、過去の事例を分析して、自前の原理原則をつくり、経営の判断力を獲得するところが特長になっています。

 インシデント・プロセス(Incident Process)は、元々、ケース・メソッドから発展したもので、事例研究「ケース・スタディ」の一種で、マサチューセッツ工科大学のピコーズ名誉教授が創始したものです。そのごIPとは、似ても似つかないものが出回るようになってから、PIPと改称されました。
PIPは、ハーバード方式の事例研究にたいする批判から生まれた事例研究の一方式です。主として、対人関係(Social Relations)のケースを対象にしたものです。

 プロセスとは5段階事例分析のことで、その第一段階がインシデント(出来事)で始まるためインシデントプロセスと称しています。簡単に言えば、インシデントで始まる五段階の事例分析法ということになります。

 インシデントとは、ケース全体のことではありません。それは、誰かが、何らかの処置を、取らなければならなくなった、ある時点の出来事だからです。

ですから、現場で実際に起こって事柄が、研究の材料であり、実際にどの様になったのかという結論があります。そのため、事例の分析を通して、自主的に自由な発想によって、結論を導き出します。
 この場合、組織の職位による影響を除く配慮が必要です。つまり、本音と立て前の使い分けが行われると、肝心の原理や結論に大きい誤りを与えることになります。

 研究の方法には、問題点に多くの事例を用意したり、登場人物の行動事例に役割演技を加味するとか、あるいは、時間経過などの経過事例の違いによるものがあります。そして、インストラクターの役割は、教えることによって参加者から、発想を引き出したり、発想を刺激することで、討議や自己反省を介して、相互の啓発が出来るように仕向けることになります。

◆研修の進め方1
 管理活動上に起こる「問題の発端となる小さな出来事」のみが提示されます。
 これに基づいて小集団討議を行います。そこで提示された小さな出来事を、必要な情報と討議によって整理します。その上で、そのテーマに必要な十分の情報の視点を自己の経験と比較対照することによって理解します。
 この整理した情報は講師に求め、その情報をもとに、まず個人別に解決策と理由を纏めて講師に提出します。

講師は、提出された解決策を分類・整理します。同じ解決策を提示したものをグルーピングし、小集団として解決策と理由について再検討します。そして、全体会議での発表と討議を通して合意形成を図ることになります。
最後に講師が、全体の流れを通して必要情報・問題解決策について整理することによって、管理者みずからの自己変革点を認識し、その変革プログラムを策定・実践することを目的とした技法になります。

    技法の特徴を以下に箇条書きにすると、
    1. 受講者は事前にケースの予習をする必要はない。
    2. ケースは実際にあったこと。
    3. ケースを再現するのはメンバーであってリーダーではない。
    4. オブザーバー・リポーター(OR)というPIP特有の役割がある
    5. 事例研究グループの編成基準は、リーダー(一名)、OR(一名)、メンバー(15名)である。
    6. ケースをつぎの五段階で分析検討する。
       第一段階:インシデントを調べる
       第二段階:事実を集め、組み立てる
       第三段階:処置すべき問題を決める
       第四段階:決心と理由を述べる
       第五段階:教訓を考える
    7.  二つのケースを同時に扱う。
        1. There and Then のケースと
        2. Here and Now のケースである。
       There and Then のケースの事例研究をしているグループの仕事ぶりが、
       Here and Now のケースで、このケースの記録を取るのがORの役割である。
    8.  メンバーの立つ場で五段階の分析法を習得したあと、自分のケースを作成する。他のメンバーのケースのORと自分のケースのリーダーを体験学習する。
    9.  以上の学習をすることによって、PIPの重要な目標であるケースマインドを身につける。その結果、経営管理能力を高めるとともに、他人との関わりを生産的(プラス)にする能力を育成することが出来る。

◆研修の進め方2
 インシデントの、背景にある事実や、情報を知っているのは、リーダー(司会者)だけです。受講者は、リーダーに質問することによって情報を収集して行くが、どんな情報を、どのように、どんな順序で収集していきます、そのやり方の上手・下手によって、収集される情報は違ってきます。解決策の方向も違ったものになってくるでしょう。

運用の仕方によっては、情報収集の過程が“謎解き”のゲームのようになってしまう危険性があります。それを避けるためには、前提として、情報の収集や分析の能力を開発するための的確なガイドと知識を準備しておく必要があります。

第T段階:インシデントを調べる。(5分以内)
 メンバーは、リーダーから渡されたインシデントと組織図を調べ、課題を達成するために、どういう事実を集めたなら良いかを考えます。ケース「昇給査定」を例に取れば、図2,3がそのインシデント組織図です。

第U段階:事実を集め、組み立てる。
 質問(30分〜60分) 組立(10分〜20分) 点検(10分)
 メンバーはリーダーに質問をして事実を集めます。リーダーは事実を知っていますが、質問されされないことは口外しません。
 質問は、リーダーの判断によって適当なところで打ち切られます。メンバーは、集めた事実の中から、重要な事実を取り上げ、それを時系列的に組み立てます。そして、そのケースの全体像を、各自が、それぞれに組み立てた全体像と、照らし合わせ点検を行います。

 その間リーダーはノータッチにしています。昇給査定の「事実のまとめ」は、次の通りです。

《事実の概要》
権藤(28才)は、大卒で平成8年に入社して、現在の賃金係に配属になりました。
長沢次長(48才、権藤の大学の先輩)には、工場の賃金体系を、変更する仕事を、将来、権藤にさせる意図がありました。権藤は、一流大学を出たというエリート意識を強く持っています。

 入社後4ヶ月目に、些細なことから工場の乗用車の運転手を殴りました。つぎの年、労務課の慰安旅行に出かけた際、酒の席で黒木(26才、高卒)と口論し、殴り合いをしました。

 権藤は上司の丹下係長(39才、旧中卒)や、同僚、現場の関係係員との間で口論やいざこざが絶えません。係長の採算の注意も効果がありませんでした。

 平成10年4月1日、権藤は自分の昇給査定分(今回が初めて)が同期生と異なりゼロであることを知りました。
 翌2日、係長にその理由を尋ねたところ、課長に聞いてくれて言います。そこで清水課長(41才、権藤の大学の先輩)に聞きます。課長曰くには、私からは言えないという返事です。腹を立てた権藤はつぎに次長のところへ回答を求めていきます。

 次長は、権藤が協調性を欠き、職場のチームワークを乱していることを指摘しました。次回からは挽回するように励まします。しかし、権藤は納得しません。2日間ぱかり考えた末、退職を決意しました。後は、図2のインシデントにあるとおりです。

 課長が対談中に関知した権藤の退職理由は、
 (1) 上司は自分のよい点を認めてくれない。
 (2) 廻りの者がそっぽを向いている
 (3) 自分はまだ若い
 (4) 査定分がゼロである理由が納得できない。
 (5) 係長は自分の言うことを聞いてくれない。
 などです。

第V段階:処置すべき問題を決めます(2分〜20分)
 メンバー同士が話し合って決めるのが原則です。しかし、リーダーが設定する場合もあります。このケースについては、いま直ちに処置すべき問題としてつぎのものが上げられます。

 (1) 課長に対してどう答えるか。
 (2) 退職届をどうするか
 問題を言い表す場合に、「退職届を受理するかしないか」と、いうような二者択一の表現は良くありません。幅広く答えが考えられるような言い方が望ましいのです。

第W段階:決心と理由をのべます。(15分〜20分)
答案を提出後休憩(15分〜20分)

 一人で決心するのが原則です。けれども、二人以上のグループの場合もあります。
 このケースでは、通常、決心はつぎの三つに分かれます。
 (1) 受理する。
 (2) 受理しない。
 (3) 保留する。
 としての理由を固めた上で他のグループと討議します。

 討議の後、リーダーは質問の段階で出なかった重要な事実があれば、それを付け加えて、実際に取られた処置とその結果を発表します。
 このケースでは、権藤の退職届は受理され、5月31日付で退職しました。退職後の新しい就職については会社は何もしませんでした。また、権藤の後任者は補充されませんでした。

第X段階:教訓を考えます。(20分〜30分)
 ケース全体(実際に取られた処置とその結果を含め)を振り返って、今後の仕事上、生活上で役立つ教訓を見つけだす作業をします。
(1) 二度と同じ過ちをしないためにはどうするか(予防)、
(2) 現在不具合のところをどう改めればよいか(是正)、
(3) 管理原則に反していることはないか、何故原則が守られないか。
(4) 似たような経験を話し合うことによって、こういう場合にはこうすべきではないかという一般原則(仮説)を引き出す。
(6) 長期的な対策として取るべきものは何か、
(7) 他のケースとの共通点を考える。
 など、教えられた教訓を発表します。


◆研修終了後
 5段階の分析が終わると、ORはグループの仕事ぶりについての報告を纏めて発表または報告書を配布します。

 報告書の中に入れる資料にはつぎのものがあります。
(1) メンバー別質問数の分布表、
(2) 質問の題目別分布表、
(3) 質問要旨記録表。  また、報告の中に、次回実施する場合の改善案を記入しておきます。
 PIPは、人間関係の事例研究の原点とも言うべきもので、事例研究の理解はPIPからと言っても過言ではありません。

参考文献;参考文献;教育訓練技法、教育技法研究会編、経営書院刊行。
;教育研修ハンドブック、監修・著者 高橋 誠日本ビジネスレポート(株)刊行。

注:「下図、NEXTで次ページへ続く」


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