異界 その弐


幼児・小学校初級向けの童話を読みました
(幼稚園生〜小学2年生くらい)

オレが案内役
平成15年11月上梓


表紙(広場TOP)へ ・ 異界その弐の総目次へ ・ じじの九十九噺に跳ぶ 

番号
本の名前
著 者

番号

本の名前
著 者

055

うみべをはしるちかてつジョリ 山下明生

053

サボテンぼうやの冒険 たむらしげる

054

空のひつじかい 今西祐行

051

まちあいしつのとけい 小沢正

052

だれもしらない 灰谷健次郎

049

ころころお山にかえろだんごむし かとうけいこ

050

ミミとまみむめもウサギ 吉田比砂子

047

はらぺこのとこやさん 小沢正

048

マコチン 灰谷健次郎

045

はんぶんちょうだい 山下明生

046

ばばしゃん 坂井ひろこ

043

きたかぜどおりのおじいさん 杉みき子

044

きつねの九郎治 小暮正夫

041

かくれ里ものがたり 平野直

042

かえれ海の星 香川茂

039

ママはおしゃべり 山中恒

040

きつねとたんぽぽ 松谷みよ子

037

むかしむかしのおつきさま 平塚武二

038

おべんとうがふたつ ばんひろこ

035

森をあるこう 森まつり

036

モンののぞいたほいくえん 岸武雄

033

大きいさっちゃんと小さいさっちゃん 大野充子

034

おばあさんのふしぎなこねこ 岡信子

031

森とみずうみのうた 中野みち子

032

おんなきさ、おんなもさ 木島始

029

もしもしカメよぼくのカメ 山末やすえ

030

村の小さな糸やさん 瀬尾七重

027

どらねこパンツのしっぱい 筒井敬介

028

鳥怪人になった日 前川康雄

025

ドキンの森でたっちゃんどっきん 薫くみこ

026

てのひら島はどこにある 佐藤さとる

023

つきよはうれしい あまんきみこ

024

白いセーターの男の子 杉みき子

021

こぐまのぼうけん よしざきまさみ

022

しらべにきたよ 三木卓

019

三角の部屋 奥田継夫

020

サロクふうりん 北村けんじ

017

がまの油 安野光雅

018

しおさいのきこえる村 しんばしょうこ

015

半日村 斎藤隆介

016

モチモチの木 斎藤隆介

013

ぞうのたび 椋鳩十

014

こどものしあわせ画集 いわさきちひろ

011

せかいいちおおきなケーキ 古田足日

012

にじとあっちゃん 関根栄一

009

先生つれてって としたかひろ

010

ひさの星 斎藤隆介

007

先生のおとおりだい 中野みち子

006

せんせいけらいになれ 灰谷健次郎

005

空にうかんだエレベーター 安房直子

004

ふたつの太陽 しかたしん

003

だんち丸うみへ 大石 真

002

おしいれのぼうけん 古田足日

001

少年は川をわたった 野長瀬正夫

000


 この頁の先頭に戻る

山下明生 『うみべをはしるちかてつジョリ』 あかね書房 (幼児) LF

幼稚園のちか、二年生のてつ、犬のジョリ、三人あわせて「ちかてつジョリ」。タイトルそのままに、この三人は一心同体。海を眺め浜を走り、マンボウに船を作ってあげ、悪いカラスを追い払う。自分の体験が相手のそれであり、相手の感情が自分のそれでもある。幼児特有の未分化な一体性をそのまま作品に定着させた観がある。筋はいらない。生活型の佳作。
テーマは想像力、子供の一体性。1987年。

今西祐行 『空のひつじかい』 あすなろ書房 (小下) LF

短編二作。「空のひつじかい」は「感動」と「良い子」の押し売りでもしているみたいな作。文章も感心しない。ピーターと狼のまね話はますますいけない。「ゆみ子とリス」、リスが可哀そうと保育園を嫌がるゆみ子。しかたなくおにいちゃんが下校時に迎えに行くことになった。全体に説明的で畳重。兄妹の交情も描写不足。生活型。
テーマは不明。1984年。

たむらしげる 『サボテンぼうやの冒険』 偕成社 (幼児) AR

サボテン坊やがサボテンの国を探しておじさんと一緒に冒険の旅に出る。漫画まじりのお話で、中身も漫画的である。置換型。
テーマは冒険。1988年。

灰谷健次郎 『だれもしらない』 あかね書房 (幼児) LF

養護学校六年のまりこの、それこそ「だれもしらない」ある日のある生活を淡淡と描く。まりこの姿、まりこの言葉、まりこの心、花も虫もおばさんもパン工場の職人さんも、まりこは大好きだ。「障害を持ったまりこが今日も車椅子に乗って散歩に出たよ」と実に気軽に屈託無く、子供達に語りかける。生活型の秀作。
テーマは障害児の姿。1981年。


 この頁の先頭に戻る

小沢正 『まちあいしつのとけい』 佼成出版社 (小下) AR

五十年も働き続けた振子時計が小島の港の待合室にあった。この時計、何時の間にか未来のことが見えるようになり、酔っぱらった修理工のゲンさん(船から海に落ちるところだった)を救って壊れてしまう。どういう訳か、あとになってゲンさんがお払い箱になったこの時計をもらいに来る。さわやかな人助けのお話。置換型。
テーマは献身的な人助け。1986年。

吉田比砂子 『ミミとまみむめもウサギ』 理論社 (小下) FTLF

ぴかぴか光る緑の石を探して、ミミの楽しい夢の国が始まる。ウサギの形をした文字盤「まみむめも」の五匹のいたずら。怖い目にあったり、ママみたいに叱りつけたり、けれど忍者の「むうウサギ」から習ったテングトビキリノ術が役立って、ミュー鳥が空を飛べるようになった。最後に緑の石が見つかるが(ママのブローチらしい)、石なんかなくてもミミは立派に魔法の国へ行けるのだ。生活型ファンタジー。
テーマは想像力。1983年。

かとうけいこ 『ころころお山にかえろだんごむし』 文研出版 (幼児) AR

くぬぎ山に住むだんご虫のお嬢さんが団地の五階のベランダに運ばれた。結婚して子供がどんどんふえて、山に帰りたいが下に降りられない。ところが子供達は平気ではいおりていく。子供の冒険とそれを見て驚く母親の姿が出ていて面白い。健げに母を励ます子供の様子がほのぼのとしている。動物置換型。
テーマは子供の成長。1988年。

灰谷健次郎 『マコチン』 あかね書房 (小下) LF

マコチンはきかん坊。クラスの友達と自由奔放に遊び回る。随所に児童詩を挿入しながら、とよこ先生と子供達の生活と交情をみごとに描き出している。詩は著者の教師時代の生徒が書いたもので「先生けらいになれ」に収められている。生活型の佳作。
テーマは学校生活、教師との交情。1980年。

小沢正 『はらぺこのとこやさん』 小学館 (小下) FT

食べても食べても腹ペコの床屋さんは風に吹かれて南の国に飛ばされる。そこで人食いトラを退治し、お礼に山のような御馳走を貰う。そして今でもその国で暮らしているそうだ。
テーマ不明。よく分からない作品だ。ファンタジーの亜型。1975年。

坂井ひろこ 『ばばしゃん』 太平出版社 (小下) LF

よしきの家に九州から、ばばしゃんがやってくる。内容はばばしゃんの若い頃の物語。夫は働き者で、お腹の大きいばばしゃんのため畑を開いて出征、沖縄で戦死した。貧乏だが、幸福だった日々の思い出が読む人の胸にジンと迫ってくる。その時お腹の中にいたのがパパ。「かあちゃん」と言うとよしきが笑った。けれど「いいなれただいじなことばはそうかんたんにかえられん」とパパが答える。親子の愛情もしみじみ。生活型の秀作。
テーマは人生・親子の愛情。1985年。

山下明生 『はんぶんちょうだい』 小学館 (幼児) AR

あんまり暑いのでウサギとサルは西瓜をもって海へ釣りに行った。「釣れたら半分あげるよ」と言うので、カメやカラスやキツネやタヌキが次々と手を貸してくれる。いよいよ釣ってみると、皆に半分づつあげられっこないことに気づく。繰り返しのある展開が幼児向で面白い。実は、釣れたものが「海」だったので皆仲良く泳ぐことにした。動物置換型。
テーマは生活、子供の発想。1974年。

小暮正夫 『きつねの九郎治』 国土社 (小下) AR

両親を殺された子ギツネは天狗に頼んで人間にしてもらう。笹川に水車さえあれば村は豊かになって動物も殺されずにすむ。辛い修業に耐え、きつねの九郎治は大工になる。人間への怒りを乗り越えて人々のために力をふるう。仇の相手が飯を運んだりするあたり「恩讐の彼方に」を想起させる。小学低学年には難しいが、話は面白い。民話的な要素を持つ動物置換型。
テーマは人々につくす心、生き方。1977年。

杉みき子 『きたかぜどおりのおじいさん』 PHP研究所 (小下) LF

雪の日、北風通りで出会うおじいさんは文句ばかり言う。田舎から町へ越してきて人情の薄いのが気に入らない。そうと分かってからゆみは親しみを感じ、おじいさんも町の生活になじんでくる。年寄りを理解することの大切さがしみじみ語られる。「きたかぜどおり」という名称がなかなか素敵だ。暖かい一陣の風を感じさせる。生活展開型。
テーマは子供と老人の交流。1988年。

香川茂 『かえれ海の星』 国土社 (小下) AR

アカヒトデは自分が星の子だと思い込む。イワツバメに頼んで空を飛んでもらうが、灯台のベランダまでしか来れない。アカヒトデは夜空で星になる幻を見ながら息絶える。
お話としては分かるが、テーマ不明。「よたかの星」のまねか。置換型。1977年。


 この頁の先頭に戻る

平野直 『かくれ里ものがたり』 ポプラ社 (小下) FK

マタギのヌエ太郎はさらわれた嫁を探してかくれ里に行く。最後には鉄砲を捨てて百姓になって幸せに暮らす。岩手の民話を素材とした話である。THERE&BACKでファンタジーの要素もある。民話型。
テーマは難問解決の嫁取り。1973年。

松谷みよ子 『きつねとたんぽぽ』 小峰書店 (小下) LF

表題作含む四つの短編。動物を通じて子供の小さい夢、疑問、兄弟喧嘩のことを優しく語る。「ぞうとりんご」では母親の優しさと知恵がよくく出ている。この作者は幼児を描くのがうまい。生活展開型の佳作。
テーマは子供の直感力。1986年。

山中恒 『ママはおしゃべり』 小峰書店 (幼児) FTLF

表題作含む三つの短編。いづれも幼児の日常生活を出発に子供らしい空想力でつまらないことを楽しいものに変えてしまう不思議な力を描く。大人の常識的な見方を突き破ろうとしており、大いに楽しませてくれる。生活型ファンタジーの佳作。
テーマは子供の想像力。1973年。

ばんひろこ 『おべんとうがふたつ』 童心社 (小下) LF

はるきの弟のしょうはでしゃばりだ。卒園学芸会でも入学式でも、どぎもを抜くようなことをして笑われてしまった。弟の生意気さに我慢のならない典型的な兄。一年になって遠足の日、弟はついてくるといってきかなかった。さて原っぱでリュックを開けてみると、弁当も着替えも二つづつ入っていた。これを見たときはるきは嫌っていた弟の気持ちを彼なりに受け入れることができた。生活型の佳作。
テーマは兄弟の愛情、弟の受容。1987年。

平塚武二 『むかしむかしのおつきさま』 小峰書店 (幼児) LF

表題を含む六つの短編。子供の生活への関心をかきたてる小さな物語である。表題の作は月がどうして満ち欠けをするようになったかという縁起話。民話的素材だが、内容は不細工でおそまつ。生活型。
テーマはその他。1969年。

岸武雄 『モンののぞいたほいくえん』 PHP研究所 (幼児) LF

モンは遠くの声に誘われて町の保育園を覗く。転入したばかりで元気の無いミルクちゃん。皆の前でやっとお話ができるのを見て、モンは安心して帰っていく。子供の生活の点景を愛情深く描いている。THERE&BACKの亜型。
テーマは生活。1977年。

森まつり 『森をあるこう』 けやき書房 (幼児) FTLF

表題を含む四つの短編。ユメタロおじさんの身の回りには不思議なことが起こる。赤ちゃん語がわかったり時間の神様に出会ったり、絵の中で愉快な冒険をしたり。子供をたっぷり楽しませてくれる。生活型ファンタジー。
テーマは想像力。1988年。

岡信子 『おばあさんのふしぎなこねこ』 旺文社 (小下) FTLF

一人暮らしのおばあさんは猫嫌いだが、妙な子猫を拾う。鳴くと口からバラの花がこぼれるのだ。ほのぼのとした孫との手紙のやりとりをアクセントとして子猫が母親になるまでを描く。生活ファンタジーの佳作。
テーマは家族。祖母と孫の交流。1984年。

大野充子 『大きいさっちゃんと小さいさっちゃん』 国土社 (小下) LF

小さいさっちゃんは元気者だが、大きいさっちゃんは大人しくて気が小さい。大きいさっちゃんは先生や友達に励まされてやっと大きな声が出た。でも「お花と話ができる」なんて思っている。おばあさんのプレゼントのいちごをみんなで食べて楽しい生活が始まる。筋らしい筋はない。生活型。
テーマは生活、子供の交情。1979年。

木島始 『おんなきさ、おんなもさ』 佑学社 (幼児) FTLF

"チーちゃんが「おんなきさ」と唱えて線を飛び越えると不思議な世界へ入り込む。虫も鳥も金魚もみんな同じ大きさになる。そんな空想の世界を母親がしっかり受けとめ共有している。生活ファンタジーの佳作。
テーマは子供の想像力と母子の共感。1982年。


 この頁の先頭に戻る

中野みち子 『森とみずうみのうた』 国土社 (小下) NT

大地と風と水と植物とわずかの動物しか登場しない。火山によって荒廃した大地が再び緑の園に再生していく姿を、一本のシラカバを主人公にしてつづっていく。一つの生命の死が次の生命を生む土壌となっていく不思議な生命の環。作者は透き通った自然観でその移り変わりを淡淡と語っている。大自然と生命のハーモニーが聞こえてくる。自然型の佳作。
テーマは自然と生命。1972年。

瀬尾七重 『村の小さな糸やさん』 旺文社 (小下) FTLF

山村の小さな糸屋の一家におこる四つのファンタジックな出来事。「きりも山の霧の精」は神話的な味わいがあり、「きつねと自転車」は子狐が恩返しで子供の命を救う現代的装いを持つ民話風の話。四つの物語にまとまりはない。生活型ファンタジー。1986年。

山末やすえ『もしもしカメよぼくのカメ』国土社(小下)LF

おじさんにもらったカップの中についていたカメがなくなった。学校に行くと友達がそっくりな緑ガメを拾ったと言う。「あのカメに違いない」とケンは決めこむ。日常生活の中で不思議なことを発見する子供の目。
テーマは生活(不思議)の発見。佳作。1988年

筒井敬介『どらねこパンツのしっぱい』ポプラ社(小下)AR

町育ちのどらねこが森に移り住む。ちょっとエリート意識があり、森の動物達を出し抜こうとするが、逆にやっつけられて町に逃げかえる。語り口調が面白く読み聞かせてもよい。やや教訓くさいか。動物置換型。
テーマはエリートの失敗。1977年。

前川康男 『鳥怪人になった日』 PHP研究所 (小下) FT

勉強の苦手なシンは祭りの夜店でお面を買う。お面をつけたとたん、金魚はつれるしクジにも当たる。スリを見付けての大活躍。話はなめらかで痛快である。
テーマは子供の痛快な生活。1986年。

薫くみこ『ドキンの森でたっちゃんどっきん』ポプラ社(小下)LF

少し賢い弟と違ってたっちゃんは博物館行きにあきていた。そこで抜け出してドキンの森へ行く。その森は父が子供の頃遊んだ所だった。たっちゃんは父も幼い頃自分と同じ事をしていたと知り、何かほっとする。大人自身は忘れてしまった秘密をちょっと覗いた。そして父との共感を見出した。作者は、子供には博物館より自然の土と木が必要であることも言っている。There & back Again 形式の亜型。
テーマは生活の発見、父と子の交流。1985 年。

あまんきみこ『つきよはうれしい』理論社(幼児) FTLF

バイクに跳ねられたアコちゃんは治ってからも道が怖くて登校できない。よう君が毎日魚の絵を描いて見舞いに来てくれる。月夜の晩、よう君と魚達がアコちゃんを迎え、海になった町を泳ぎ回る。子供が出会う困難をそっと励ましながら、乗り越えていく姿を描く。単純なストーリーだが楽しい。生活型ファンタジー。
テーマは生活、成長。1986年。

佐藤さとる『てのひら島はどこにある』理論社(小下)FTLF

祖母が孫娘に語る書き出し。いたずら虫、おこり虫、なき虫などが次々に登場する不思議な世界の展開。母の作った話を聞いて、子供が想像力を発揮し継ぎ足していく構想に味がある。実は父と母の出会いの物語だったというオチもついている。「だれも知らない小さな国」と同系列。生活型ファンタジーの佳作。
テーマは想像力。1965年。

杉みき子『白いセーターの男の子』金の星社(小下)LF

突然屋根の上に現れた名なしのシロー君がめぐみを夜の町に誘う。噴水で遊んだり、空を飛んだり。そしてジャンプ台から大空に消えていく。女の子らしい夢であるが、もっと秘密めかしたほうが良い。ストーリーもさらっと終わってしまうので内容が薄い感じ。屋根から見る町の景色だけが子供の新発見で瑞瑞しい。ファンタジックでもある。
テーマは生活の発見。1975年。

三木卓 『しらべにきたよ』 金の星社 (小下) AR

明日生まれる三匹の猫が飼い主を調べに来る。着想が良い。人生は楽しいことも苦しいこともあることをそっと教える。示唆に富んだ置換型の佳作。
テーマは人生、新しい生命への愛。1974年。

道呈は長い

 この頁の先頭に戻る

よしざきまさみ『こぐまのぼうけん』ポプラ社(幼児) AR

幼児のごく日常の出来事を、小熊で語る。話は平坦で新鮮味なく、想像力や探索心をかきたてる要素に欠ける。置換型。
テーマは生活。1969年。

北村けんじ 『サロクふうりん』 理論社 (小下) LF

エツ子のおじいさんは千本杉のこだまを入れた風鈴を作っている。両親は出稼ぎでいない。付近に採石場ができ、風鈴の音(こだま)が落ちた。貧農、開発、魔法じみた話が出てくるが、何となくまとまりがない。結末の出し方もあいまい。
テーマは自然への愛情か。1977年。

奥田継夫 『三角の部屋』 ほるぷ出版 (幼児) LF

祖父の死と祖母の認知症を通して、愛する者の死と別れを語る。幼児にとってどちらも理解困難な出来事であるが、作者は無理をせず家族の交情の中で、幼児にのみ可能な「美しい思い出」への定着を淡淡と描いている。生活型の秀作。
テーマは家族、死、愛。1982年。

しんばしょうこ『しおさいのきこえる村』旺文社(小下)FT

大工のトイカはある夜小人達がホラ貝を彫っているのをみつけ手伝う。魚に変身し小人と共に海へ行く。ファンタジックなムードで話が展開するが、伝承的な味でテーマが見えない。著者による絵も陰気。ファンタジー。1985年。

安野光雅 『がまの油』 岩崎書店 (児童) OT

「マッチ売りの少女」をがまの油売りに変えたパロディ。言葉は難しいが、リズミックな展開と切り絵を存分に楽しめる。大人のために冗談で作ったのかも知れない。
テーマはその他(ナンセンス)。1976年。

斎藤隆介 『モチモチの木』 岩崎書店 (小下) LF

夜一人で小便にも行けない豆太。家の前のモチモチの木は夜見ると化け物みたいだ。ある夜、じいさまが急病になり、豆太は怖さを堪えて夜の道を走る。滝平二郎の切り絵は力作である。生活型。1971年。

斎藤隆介 『半日村』 岩崎書店 (小下) LF

半日しか陽が当たらない村では他の村の半分しか米が獲れなかった。そこで一平は日陰になる山に登り、土を削って前の湖に捨てた。初めは笑っていた子供や大人達がだんだん一平に協力するようになる。力を合わせることの素晴らしさ、逞しく生きる農民の姿をよく描いている(テーマはこの二つ)。滝平二郎の切り絵が見物。
時代ものの童話。生活展開型の佳作。1980年。

いわさきちひろ『こどものしあわせ画集』岩崎書店(児童)PC

雑誌「子どものしあわせ」の表紙のために描かれた画集。ちひろ独特のデッサンとファンタジックな色彩が美しい。子供の表情、しぐさ、生活、草花、などが優しいタッチで描かれている。これらの絵でちひろは画家として新しい境地を開いたという。1973年。

椋鳩十 『ぞうのたび』 あすなろ書房 (幼児) NT

泉を求めてのぞうの旅。苦しいことも、悲しいことも乗り越えていく。全体に単調であり、内容が現代的でない。他二編。
テーマは自然の厳しさ。1981年。

関根栄一 『にじとあっちゃん』 小峰書店 (幼児) PM

幼児のための童謡詩集。想像力、比喩、リズム感、情景描写にすぐれ、子供の視点から身近なできごとをしっかりとらえている。いずれも幼児の喜びそうな詩である。二冊目の詩集。詩型。1986年。


 この頁の先頭に戻る

古田足日『せかいいちおおきなケーキ』小峰書房 (幼児) LF

十二人兄弟のヒロコは誕生日にみんなでダンボール製の大きなケーキを作った。赤ちゃんまでバブバブと主張するのが楽しい雰囲気を作る。他二編。
テーマは家族・兄弟。

斎藤隆介「ひさの星」岩崎書店 (幼児 )LF

目立たないが心やさしいヒサ。自分の命と引き換えに子供を救う話が心に残る。悲しい話だがほのぼのとしてもいる。岩崎ちひろの絵が美しい。生活展開型の佳作。
テーマは命。1972年。

としたかひろ「先生つれてって」あすなろ書房(1985)小下LF

ぜんそくの子供が初めて遠足にいき、大きな自信と喜びを得る。作者の思い入れがつよいが、リアルで もある。
テーマは障害児の成長。

中野みち子「先生のおとおりだい」理論社(1973)小下LF

一年四組ほり学級で性格も問題も異なる三人の子供を中心にした話。子供の生活が典型的に語られ、ほのぼのとした交流が描かれる。生活展開型の佳作。
テーマは子供の生活・表情。

灰谷健次郎「せんせいけらいになれ」理論社(1965)児童PM

詩人灰谷健次郎の感性がいかんなく発揮され、率直な子供の情緒表出を巧みに詩の中に見出している。彼は心に湧き起こるものを歌うこと、リズム、言葉の創造、創造力と表現等を強調する。豊かな情感、しっかりとものを見る目、表現法など児童の力を引き出すための好著である。詩型の秀作。

安房直子「空にうかんだエレベーター」あかね書房 小下 FTLF

独特の児童ファンタジー。浮かぶエレベーター、月の光の衣が想像力を刺激する。しかし、ややあっけない終わりかた。女の子の There & back again ストーリーである。
テーマは想像力。1986年。

野長瀬正夫『少年は川をわたった』PHP研究所(1977)児童PM

分かりやすい自由詩。表題作「少年は川をわたった」は少年の自立への意気、冒険心を描いてすがすがしい。しかし、多くは散文的にすぎてやや畳慢。
テーマは自立、冒険。

おおいしまこと『だんち丸うみへ』童心社(1983)小下FTLF

あるおじいさんの身体に触るとその夜はきまって船に乗る夢を見る、そんな話が広まった。奇抜な創造力、年寄りが誘う子供達だけの世界。生活型ファンタジーの佳作である。
テーマは想像力。1983年。

しかたしん 『ふたつの太陽』国土社(1975)小下FK

二つの太陽が照りつけて人々の生活はすっかり困ってしまった。ふだんは畠仕事一つしない力持ちのジャバナが鉄弓を作ってその一つを撃ち落としにでかけた。らくだとひばりがお伴をするがとってつけたような組み合わせ。出典不明、どこかの民話が素材。
テーマは英雄の冒険。There & Back again 形式ではない。

註)There & Back again 形式とは瀬田貞二氏が「幼い子の文学」の中で使った言葉で「ホビットの冒険」 (J.R.R.Tolkien)の副題 There and Back again を「行きて帰りし物語」と和訳され、童話の構成形式の一つとしたものである。

古田足日・田畑精一『おしいれのぼうけん』童心社 幼児 FTLF

保育園できかん坊のさとしとあきらは押し入れに入れられてしまう。押し入れは非日常の世界、恐れと不安が一気に子供達を想像の空間へ連れ出す。悪魔が現れ、怪物が蠢き、自らは無敵のヒーローに変身して活躍する。魔女が現れた。ねずみが襲いかかってくる。二人は別世界へにげだす。そこでデコイチを運転し、ついにねずみを退治する。子供達は励まし合い苦難を乗り切って冒険の世界から帰ってくる。彼らは連帯と共感という宝物をもって戻ってくるのだ。幼児の There & Back again 物語。生活型ファンタジーの秀作。
テーマは想像力。1974年。


 

異界その弐の総目次へ ・ この頁の先頭に戻る ・ ものがたりの広場(表紙)へ戻る