孫に語るじじの九十九噺
〜八王子篇〜

だい 4 話

ぶん と しゃしん・絵

よしむら・ふみひこ
吉村史彦 著
Auther:YOSIHIMURA Fumihiko
Mail Address:fyosh@kpa.biglobe.ne.jp
All Right Resereved by YOSHIMURA Fumihiko



第4話 空に浮いた石


じじは むかしタクシーの 運転手(うんてんしゅ)を しておった。

「夕(ゆう)やけこやけ」という うたを しっているかい。

だいぶんむかし なかむら・うこう という人(ひと)がつくった歌(うた)でな、八王子(はちおうじ)のむらの歌(うた)になっておる。

『夕(ゆう)やけこやけで 日(ひ)がくれて
 山(やま)のおてらの かねがなる
 おててつないで みなかえろ
 からすといっしょに かえりましょう』

陣馬(じんば)街道(かいどう)をずーっとのぼっていくと 「ゆうやけこやけ」というバスのていりゅうじょがある。もちろん、この歌(うた)にちなんで できたのじゃ。

じじは いつものとおり 陣馬山(じんばさん)のふもとまで おきゃくさんをおくった。

ひろばの ちかくの おそば屋(や)さんで おそばを 二まいたべてから かえることにした。

あんげの道(みち)はせまくて はしりにくいんじゃが、じじの車(くるま)しか とおるものはない。

たったひとつ こまることといえば、牛(うし)が道(みち)をふさいでいるときじゃよ。

この日は ずうっとくだって、あんげ川(かわ)とだいご川(かわ)がであう だいだい橋まできた。

すると 車(くるま)のまどに とんと あたるものが あった。





きのこ汁のそば。うまいぞ。


「ピーへん ピーへん」
なにかが ぶつかったらしい。すぐに車(くるま)をとめて そとにでた。

でも おかしなことは なにもなかった・・・ように みえたが、とんでもない。車(くるま)の したから とびだしたのは すずめだった。

小(こ)すずめが ピーとなくと これをあいずに たくさんの すずめが わっとあつまってきおった。

びーびーなきながら 百(ひゃく)いじょうの 小(こ)すずめが じじのうえを とびまわった。

「なんだ なんだ。こんなに たくさん あつまって・・・」
「おい、おまえたち 車(くるま)にうんこを たらすなよ。ああ、おしっこ
を かけたな」

ひとつ おいはらっても つぎの すずめが とんでくる。きりがない。

こりゃあ、だめだ・・・とあきらめはじめたとき 車(くるま)のてんじょうに はねが こげ茶(ちゃ)いろした すずめが とまり、ぴーとさけんで こんなことを いった。

「おピがいです。ぴー。おピがいです。石(いし)ぴー。ピピでもなぴーとです。ぴー。いいえ、とんビも あるビーです・・・」

「おい、おい、小(こ)すずめくん、なにを いってるのかね。石(いし)がどうかしたのかい」

すると、三わのすずめが よこから くちをだした。

「石(いし)ピピないぞ。ピー、岩(いわ)びび、びびきいぴ」

「とんでビないビビだ、ぴー」「ぴーぴー、とんでもピープー。みや
おプー あブぞ」

さらに 十(じゅう)わのすずめも しゃべりだした。
もう ぴーぴーと うるさいこと このうえない。












あたしたちは村雀三人組。


すると そこに あおさぎが とんできて 小(こ)すずめたちを けちらした。

じじは ようやく かばんから 『ききみみずきん』を とりだして あたまに かむった。これで なんとか なりそうだ。

「ああ、まったく。すずめは やくにたたないな。おまえたち、かかしくんと あそんでいろ。おれが ただしく いうからな」

あおさぎが ぶるっと くびをふりまわした。
それは すずめたちにたいする おどしの しぐさだった。
みんなしずかになった。

「みやお神社(じんじゃ)に おおきな 石(いし)があるんです」

あおさぎが じじのほうを むいて そういった。

「石(いし)が とつぜん そらに うきあがって 泣(な)いているのです」

石(いし)が ういている・・・て、ほんとうかい。しんじられん。

いやいや、せんじつ 川(かわ)でひろった いしだって 泣(な)いていた。
あながち、空(そら)に うかばないとは いいきれないぞ。

「なんとかしてください。みやお神社(じんじゃ)に きてください」

「よろしい。わかった、いってみよう」

だいだい橋(はし)から みやお神社(じんじゃ)まで 車(くるま)ですぐだ。すずめたちが いっせいに とびたつと じじも あとをおった。

ゆうびん局(きょく)を とおりすぎたところで、車(くるま)をとめ じじは やまへ のぼる こみちを かけあがった。

ちょっと いきがつまったぞい。まるたでつくった かいだんを あがると 神社(じんじゃ)のやねが みえる。

鳥居(とりい)をくぐると おおおおお・・・なんと、すずめやあおさぎが いうように おおきな石(いし)が 神社(じんじゃ)のやねの ところまで うきあがっているではないか。




あおさぎは
案下川の親分


<ぐおーん、ぐおーん>

という みみのなかを こする 音(おと)が きこえた。これはたまらん。

じじは みみを ふさいだが、ごりごりする音(おと)は じじの はらのなかまで はいりこんでくる。

「おまえ、まさか 川(かわ)のうえのほうまで はこべという ことはな
いよな。かんべんしてくれ・・・」

とても はこべるような おおきさではない。けれど どうして ういているのだろう。ひえー、まるで お寺(てら)の かねのなかに あたまを つっこんだみたいだ。しぬー・・・。

「しっかりしてください」と あおさぎがいう。

「その石(いし)は 泣(な)いているだけです」

「どうして 泣(な)いているんだ。おしえてくれ」

「そりゃあね。『ゆうやけこやけ』の歌(うた)の 二ばんを わすれてしまったからなんですよ」

ええ・・・それなら だれか おしえてやれば いいじゃないか。

「はあ、でも わたしたちは みんな しりません。だって こどもたちが 歌(うた)うのは いつも一ばんだけですから・・・」

なんてこった。おまえら 学校(がっこう)の おんがくの じゅぎょうで ならっていないのか・・・。

「すずめの学校(がっこう)が あるだろうに」

ええい、なんてこった。この わしも 2ばんは おぼえてないぞ。

だれか てつだってくれ・・・。きみ(かいくん)、しっているだろ
う。いっしょに 歌(うた)っておくれよ。

そんなこんなで じじと これを よんでいる きみと 小(こ)すずめたちが 声(こえ)をあわせて 『ゆうやけこやけ』の2ばんを歌(うた)った。

すると どうじゃあ。そらに うかんでいた 石(いし)が どすんと おちてきた。

「ごーーん、ごーーん。ありがとうございーい まーす」

大(おお)きいくせに 石(いし)は まだ泣(な)いておった。しんせつな じじは よいことを おもいついた。

もうわすれないように、
「おい 小(こ)すずめども。『ゆうやけこやけ』の歌(うた)を この石(いし)の おなかに きざんでやれ」

すずめたちは よってたかって 石(いし)のはらに とびかかり 歌(うた)のもじを きざみつけた。あまりの いたさに 石(いし)が また泣(な)いた。




桑の都の十大奇跡の一つじゃ。


とんと むかしの話(はなし)じゃ。ろーそく 一本(いっぽん) 火(ひ)が きえた。(平成29年9月)

で、その石(いし)はまだ みやお神社(じんじゃ)にすわっているぞ。いちど みにいくとよい。






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