孫に語るじじの九十九噺
〜八王子篇〜

だい 8 話

ぶん と しゃしん・絵

よしむら・ふみひこ
吉村史彦 著
Auther:YOSIHIMURA Fumihiko
Mail Address:fyosh@kpa.biglobe.ne.jp
All Right Resereved by YOSHIMURA Fumihiko



第8話 紫茸は食べるな


じじは むかしタクシーの運転手(うんてんしゅ)をしておった。

いつものように お客(きゃく)さんを 陣馬山(じんばさん)の ふもとまで おくって、そのかえり道(みち)だった。

あんげ川(かわ)にそって ずっと くだってくると、夕(ゆう)やけ・小(こ)やけの こうえんを 通(とお)る。
まえに 大きな 石(いし)が なきながら 空(そら)にういていた みやお神社(じんじゃ)の ちかくじゃよ。

この あたりは なにかが おきる。いやな よかんが したとたんに、車(くるま)の まんまえに おおきな まるいものが たちふさがった。

もう ぶつかると 思(おも)った。きゅうブレーキを かけて やっとの
ことで とまったぞい。

じじは 車(くるま)を とびだして、前(まえ)をみあげた。とほうもなく でかい がいこつだった。

じじは こしをぬかして、もうすこしで しょんべんを ちびる ところだった。

『んーふぉふぉおおおお・・・。ひゅひゅ、るるる・・』

なにを いっているのか さっぱり わからない。あたりを みまわしたが、おしゃべりの あげひばりは いなかった。でも、ちゃんと たすけは あらわれたぞ。

なにしろ、じじの せなかには 山王(さんのう)ごんげんさまが ついとるからのう。山(やま)の しげみから 頭(あたま)が 黒(くろ)くて きいろい すじがはいった みどりの へびが あらわれたのじゃ。




案下においで。
いいところだよ。


『あーはっはっは・・・、運転手(うんてんしゅ)さん、こまっていなさるな』
「おお、こまって おるぞ。なんとかせい」

すると 黄色(きいろ)いへびは しっぽに まきつけた ぼうしの ようなものを さしだした。雨(あめ)やどろ(・・)に よごれて きたならしかった。

『こいつは ききみみ頭巾(ずきん)だ。木(き)も石(いし)も ことばを はなした おおむかしに つくられた ものだよ』

すこし きみが わるかったが、へびが ながい したを だして べろべろ なめそうなので、じじは しかたなく かぶってみた。

まあ、ふしぎなことは あるもんじゃあ。空(そら)にうかんだ でかい しゃれこうべの はなしていることが きこえるのじゃ。

『あなたを 山王(さんのう)さまの みうちと おみうけして、おねがいを したい。』

「お、おう。おれは たしかに 日吉(ひよし)神社(じんじゃ)の うじこ(・・・)だぞ。どんな ねがいごとだい。はなしだけは きこう」

じつの ところ、じじは びびっておった。こんな でかいやつに タクシーに のせろといわれたら、きっと こまったことに なる。

けれども ことわったら なにをされるだろう。

『一年(いちねん)まえ わたしは だいご山(やま)に きのこを とりにいったのです。シイタケや ヒラタケや オチョコなんかが たくさんみつかりました。そして あるところで わたしは ムラサキタケをみつ
けました』




ダサい頭巾だ。


ムラサキタケ? そんなもの じじは きいたことがなかった。

『へえ、しらないんですか。まぼろしの きのこ。でんせつの きのこですよ。これを たべると 目(め)の前(まえ)があかるくなって、しあわせ いっぱいになるのです。ふしぎな キノコです』

じじは このはなしは うさんくさいと 思(おも)ったぞ。

『ちょうど おひるすぎだったので、わたしは ムラサキダケを やいて たべてみました。とたんに 目(め)の前(まえ)が・・・』

「・・・あかるくなったかね」

『はい。目(め)の前(まえ)に お日(ひ)さまが かがやいて そのまんなかに うつくしい 天女(てんにょ)さまが 現(あらわ)れました』

「それは よかった。ムラサキタケを たべると しあわせになる」

『はあ、でも わたしは たっていることが できなくて たおれたらしいのです』

やはりな。山(やま)でとれたキノコは うっかりたべては いけない。

『わたしは いまでも だいご山(やま)の なかで さまよっています』

「へえ。ということは あなたは しんで まだ はっけんされて いないんですね。ふうん、ゆくえふめいのままなんだ。きのどくに」

これは さがしてあげないと いけない。じじは へびに いった。

「おい、黒(くろ)あたまの へびくん。もしかすると あんたは この人(ひと)が どこで たおれているのか 知(し)っているかね」

きいろいすじの はいった へびくんは ひょいと あたまを もちあげて こたえた。



















「おお、さっしがよいではないか。知(し)っているとも。もっとも この人(ひと)は もう がいこつに なっているがね」

へびくんは ついと あたまをふり、じじに ついておいでとばかり、しっぽを くるくるふって 山(やま)を はいのぼりはじめた。

もうあとは はなさんでも わかるじゃろう。だいご山(やま)の ずいぶん 木(き)がおいしげった くぼちに がいこつが はんぶん つちに うまっておったぞ。

空(そら)に うかんでいたのと おなじじゃ。むらさきいろを していてな、きもちわるかったぞい。

なぜ、むらさきいろを しているか、すぐに わかった。がいこつの まわりには むらさきの キノコが びっしり 生(は)えていたからな。

これを たべて しんだにちがいない。してみると これは どくキノコに ちがいない。

じじは かれきを あつめ、火をつけて たきびを つくった。ムラサキタケを あつめて ぜんぶ もやしたのじゃった。

がいこつの ずぼんの なかに さいふが あったので、しらべてみると、名前(なまえ)とじゅうしょが わかった。

じじは さっそく その家(いえ)をたずね、がいこつの 家族(かぞく)に そのさいふを とどけた。

家族(かぞく)のひとたちは たいへん びっくりしたが、じじに おれいを のべて、すぐに 山(やま)にむかい、がいこつを ひきとったということじゃ。





この毒キノコは麻薬と同じです。
幻覚を起こし、やがて廃人となります。
「ダメ、ぜったい!」「人間やめますか」


とんと むかしの 話(はなし)じゃ。ろうそく 一本(いっぽん) きーえた。(平成29年10月)

『ききみみずきん』はどうなったかって・・・もちろん、へびくんから ありがたく いただいたさ。
ずっと やくにたっている。へび君の正体は 案下の里の 守り神らしい。

「われは 山の子 むらさきの きのこに 囲まれ、極楽へ・・・」






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