孫に語るじじの九十九噺
〜八王子篇〜

だい 9 話

ぶん と しゃしん・絵

よしむら・ふみひこ
吉村史彦 著
Auther:YOSIHIMURA Fumihiko
Mail Address:fyosh@kpa.biglobe.ne.jp
All Right Resereved by YOSHIMURA Fumihiko




第9話 榎池の救急隊


    【1】

じじは むかし タクシーの 運転手(うんてんしゅ)じゃった。
けれども その日(ひ)は しごとが やすみでな、じじは 朝(あさ)はやくから さんぽに でかけたのじゃよ。

きせつは もう初夏(しょか)だが、朝(あさ)はやくの くうきは 涼(すず)しかったぞ。

いぜん むかでと たたかった 竜(りゅう)がいる べんてん池(いけ)もそうだが、えのき池(いけ)だって、水(みず)が 大地(だいち)のしたから こんこんと わきでている。

ちいさな 池(いけ)ではあるけれど キショウブとかスズランとかハスが咲(さ)くし、なによりも 300歳(さい)にもなる 大(おお)きなエノキが あるんじゃ。

しっているかい。ずうたいの わりには 花(はな)も実(み)も ちいさくて めだたない。だから 池(いけ)のはんたいがわにある ヤマボウシのほうが にんきが あって、エノキは いつも きげんが わるかった。

じじは ひさしぶりに えのき池(いけ)まできて、さくに もたれていると、頭(あたま)のうえから セキレイの 声(こえ)が きこえた。
春(はる)じゃからな、セキレイだって、えさを 集(あつ)めるのに いそがしい。

でも 大(だい)すきな おしゃべりは けっして やめない。
そこで、じじは ポケットから れいのもの(キキミミずきん!)を 取(と)り出(だ)して そっと 頭(あたま)にかぶった。

とたんに《う、ふふふ・・・》という ひくい声(こえ)が きこえた。

「なんだ、だれだ・・・」じじはびっくり。

風(かぜ)がふいて エノキが ゆさりと ゆれた。そして

《セキレイくん、気(き)をつけるんだよ・・・》

と、これまた ずいぶん やさしげな声(こえ)だ。見上(みあ)げてきがついた。
いつも ふきげんな エノキが 太(ふと)いうでを さしだして、いく本(ほん)にも 枝(えだ)わかれした そのさきに、鳥(とり)のすを のせているではないか。

2ひきの セキレイが ぴぴっと鳴(な)いて、えさを さがしに とびたった。

つよい 風(かぜ)が ふいたのは すぐあとだった。

《おおう、おおう・・・ぎしぎし・・》

エノキが 大(おお)きく ゆれた。枝(えだ)が ぐっとのびた。

《たいへんだ、たいへんだ。だれか、たすけてくれ》

エノキが 太(ふと)いみきを ぶるっと ふるわせて 大(おお)声(こえ)をあげた。びっくりしたのは 葉(は)のウラに かくれていた けむしの ワムパスだった。

『そんなに 枝(えだ)をゆすったら、ボクがおちるじゃないか。エノキさん、エノキさん。かんべんしてくださいよ』

《お、おう。けむしか。たいへんなことになった。セキレイの ひなが いまの風(かぜ)で 落(お)ちてしまった。なんとかしておくれ》

エノキの声(こえ)は いまにも泣(な)きそうだった。

『そいつは おことわりだ。セキレイてのはな、ボクたち けむしを みな 食(た)べるんだから』

《ああ、つめたいことを 言(い)わないでおくれ。きみには いつもおいしい葉(は)っぱを あげているじゃないか。ワムパスさん、たまには わしの願(ねが)いも きいておくれ》

むむむ・・・ワムパスは だまりこんだ。せわに なっている エノキのお願(ねが)いを きかないわけには いかない。

『わかった。こんどだけですからね。・・・とは言(い)うものの、どうし
たらいいんだ。ひなは・・・』

エノキの下(した)は わき水(みず)の池(いけ)に なっている。

じじが のぞいてみると、池(いけ)のまん中(なか)の オニタビラコやオランダカラシやミズハコベなんかが 集(あつ)まって シマになったところに ひなが 1わ いるではないか。






















われはワムパス。





    【2】

『うへえ、池(いけ)の中(なか)だよ。ボクひとりでは、むりだな。おお、そうだ。アメンボウに たのんでみよう。おおい、アメンボウくん』

ひなが 落(お)ちた シマの 近(ちか)くに アメンボウが いた。けれど、アメンボウは 聞(き)こえない ふりをして、すいっと すがたを 消(け)した。

『足(あし)が 地(ち)に ついていない アメンボウは あてにならない。やはり・・・お、たよりになる 働(はたら)きものが いたぞ!』

けむしのワムパスが みつけたのは ありの クロッペだ。

『ありさん、ありさん。セキレイのひなが 池(いけ)に 落(お)ちて こまっている。助(たす)けてあげようよ』

『あいあい。いつだって 葉(は)っぱが たべほうだいの けむしのワムパス。あなたとちがって わたしたちは 働(はたら)かないと 食(た)べものが 手(て)にはいらない。いそがしいのよ』

『ああ、ボクらは なかまじゃないか。助(たす)けあおうよ』

『わたしの 足(あし)は6本(ほん)よ。あんたの足(あし)は・・・たくさんあるわ。どうして、なかまと いえるの』

けむしのワムパスは にやりと 笑(わら)った。うまくいきそうだ。

『おうおう、いまは 18本(ほん)だけどね、おとなになれば、6本(ほん)さ。ちょうちょうと ありは 同(おな)じ なかまなんだよ』

あら、そうなの・・・ありのクロッペがだまりこんだ。仲間(なかま)とあれば 助(たす)けあう、それが ありの 決(き)まりごとである。

そこで、ありのクロッペは テングスミレの茎(くき)に のぼり、池(いけ)をながめた。セキレイの ひながいる シマまで およそ10センチ。

『仲間(なかま)を 集(あつ)めれば シマに わたれそうだ。よ〜し、きゅうきゅう
隊(たい)を 結成(けっせい)しよう。ありの実力(じつりょく)を みせてあげる。おおい、アカッペ、シロッペ、相談(そうだん)よ』

3ひきの ありが あたまを こっつんと ぶつけあって、相談(そうだん)した。どうしたら、ひなを すくえるのか。

クロッペ『ありが 集(あつ)まれば 橋(はし)が 作(つく)れる。すぐに わたれる』
アカッペ『はやくしないと 池(いけ)におちて おぼれるかもしれない』
シロッペ『まず、こちらの 岸(きし)まで つれてこよう』
クロッペ『でも、ひなは でかいぞ。どうやったら、はこべる』
アカッペ『木(き)の枝(えだ)で いかだを 作(つく)ろう』
シロッペ『そいつは いい考(かんが)えだ。枝(えだ)を 集(あつ)めるのは かんたんだ』
クロッペ『そして、そして・・・木(き)の枝(えだ)の すに もどすには・・・いったい どうしたらいい?』
アカッペ『どうしたらいいでしょう。あんな でかい ひなを どう
やって 持(も)ち上(あ)げるんでしょう!』
シロッペ『あんな でかい ひなを どうしましょう?』

3ひきの ありは あたまを よせて相談(そうだん)したが よい考(かんが)えが うかばなかった。

『わたしたちだけでは むりだわ』

『あの でかい ひなは 持(も)ち上(あ)がらないわ』

すると、ありたちを ばかにするような 笑(わら)い声(こえ)が きこえた。

〈うーひゃひゃひゃ・・・ありの ぶんざいで あたまを 使(つか)うなんて はじめから むりなんだよ〉

『だれですか。その声(こえ)は・・・ああ、わかりましたよ』

えのき池(いけ)を とりまく さくの上(うえ)で ハツカネズミが ひらべったく ねそべって、にたにた 笑(わら)っていた。

〈わしこそ、その名(な)も高(たか)い ハツカ=ザ=マウス である。ハツキーとでも 呼(よ)んでくれてよいぞ〉

シロッペ『あいつは いつも 頭(あたま)のよいことを はなにかけているわ。わたしたち ありを まるで ばかにして』

アカッペ『まったく いやな ネズミです。なまいきですよ』





(すーい、すーい)















クロッペよ。












ハツキーと呼んでくれ!



    【3】

ところで、クロッペは ネズミに こう言(い)った。

『いだいな ネズミのハツキーさん。どうして あなたは そんなに 頭(あたま)が よいのですか?』

ハツカネズミのハツキーが こたえた。

〈それはな・・・わしが いつも 人間(にんげん)のようすを かんぺきに かんさつして おるからよ〉
そして、〈言(い)うまでもないことだ〉とつけ加(くわ)えた。

『なるほど、人間(にんげん)をかんさつすると 頭(あたま)が ゆうしゅうに なるんですね。そこで・・・おちえを かりたいのですが』

〈むふふふ・・・なにを かりたいのか、すっかり 知(し)っているぞ。その でかい ひなを 木(き)の上(うえ)に はこぶには どうしたらよいか・・・ということじゃろう〉

ハツカネズミには なんでも おみとおし というわけである。

『まったく そのとおりでございます。さては ハツカ=ザ=マウスさんには もう わかっているんですね』

〈く、く、く・・・かんたんさ。しかし むずかしいぞ。ありなんかに できるかどうか〉

『はあ。でも、がんばってみますので、ぜひ 教(おし)えてください』

〈かっしゃを 使(つか)うんだ。カッシャ。知(し)ってるか? あ、ごめん。知(し)らないよな。人間(にんげん)が こうじで 使(つか)う、クレーンという 道具(どうぐ)のてっぺんに くっついているんだ〉

『はあ。クレーンのてっぺん・・・? で、クレーンは どこに あるのでしょうか?』

〈おろかな ありくん。ひなを 持(も)ち上(うえ)げるのに クレーンはいらない。糸(いと)まきと じょうぶな 糸(いと)が あればよいのじゃ〉

『おお、糸(いと)まきと糸(いと)ですか。おそれいります。糸(いと)まきとは どんな道具(どうぐ)でしょうか? また どこで手(て)に入(はい)りますか』

〈糸(いと)まきはな、わしが いつも 遊(あそ)びの あいてをしている カイ君(くん)が もっている。それを かりてこよう。しかし、問題(もんだい)は 糸(いと)なんだ!〉

ハツカ=ザ=マウスは もったいぶった 言(い)いかたをした。

『ええ、糸(いと)が 問題(もんだい)ですとも』

クロッペも まけないで、こたえた。シロッペが

『糸(いと)なんて カラスノエンドウのひげを つなげば できるわ』

と言(い)ったので クロッペが 『おだまり!』とにらんだ。

〈まったく ありは ちえが 浅(あさ)いな。カラスノエンドウのひげでは 切(き)れてしまう。これは どうしても クモのいと・・・
〈いやいや・・・ええと、クモのパス。そうそう、クモンパスの糸(いと)が ひつようなんじゃ。さあ、ぐずぐずするな。わしは カッシャを 手(て)に入(い)れる。おまえたちは 糸(いと)を とってこい!〉

そういうと ハツキーは さっと 走(はし)り出(だ)して、池(いけ)のそばにたつ 2かいだての 家(いえ)に とびこんだ。

3ひきの ありたちは ふたたび 頭(あたま)を よせあった。

アカッペ『クモンパスの糸(いと)って なんでしょう?』
シロッペ『わたしは きいたことが ありません。ハツカネズミは どうして 教(おし)えてくれなかったんでしょう?』
クロッペ『うむむ、きっとね、ネズミも くわしく 知(し)らないのでしょうよ。ああ、だれかに きかなくては なりません』










懐かしの糸巻き戦車
もちろん、走ります。




    【4】

ちょうど そこに キチキチバッタの ヒエキチが とんできた。

『バッタさん、池(いけ)に落(お)ちた セキレイのひなを 助(たす)けるために 糸(いと)が なくて こまっているの。手(て)伝(つた)ってくれないかしら』

《なんで おいらが 手(て)伝(つた)わなければ いけないんだい。きみたちは 泣(な)いている キリギリスくんを 助(たす)けてあげたかい?》

クロッペは あららと 考(かんが)えこんだ。バッタと キリギリスは いとこのように 仲(なか)よしだ。むかしのことを うらんでいるのかも しれない。クロッペは さくせんを たてた。

『バッタさんが ぴょんぴょん とびまわるのは どうしてですか』

《そりゃあ、ごんげん様(さま)の 言(い)いつけだからさ。いそがしいんだ》

『ああ、それですよ。この春(はる)に、ひよし神社(じんじゃ)におまいりしたとき、ごんげん様(さま)が おっしゃった。
《こっまたときの 神だのみ。いつでも おいで》と。さあ、ごんげん様(さま)の おいいつけですよ』

バッタのヒエキチが《う〜ん》と だまりこんだ。そして

《わかったよ。手(て)伝(つた)いましょう。そしたら、なにを すれば いいんでしょうか?》

『クモンパスの糸(いと)って、どこで 手(て)に入(はい)りますか?』

《クモンパスの糸(いと)だって!!!》

キチキチバッタが 大(おお)きな目(め)だまを ぎょろりと かいてんさせ、前(まえ)の足(あし)を こすりあわせて、おいのりをした。

《おまえ、ありの ぶんざいで とてつもないことを 考(かんが)えるなあ。まったく おそれおおいことだ。なんまんだぶ・・・》

『はい。おそれいります。セキレイのひなを エノキの 枝(えだ)の上(うえ)に もどすために じょうぶな 糸(いと)が ひつようなのです』

《えーと、えーと。どうやって 作(つく)るんだっけな》ヒエキチが 長(なが)いひげを ぷるぷるさせて 思(おも)いだそうとした。

《ほんものの クモンパスの糸(いと)は むりだが、クモンパスもどきは 作(つく)れる》

『セキレイのひなを 持(も)ち上(うえ)げて、切(き)れませんか』

《おうおう、あのエノキだって 持(も)ち上(あ)げられるぞ。ほんものなら、陣馬山(じんばさん)でも つるせるさ》

『ひえ! それは ずごい。ぜひ、糸(いと)もどきの 作(つく)り方(かた)を 教(おし)えてくださいませ』

《まず、8本(ほん)足(あし)の セグロゴケを さがせ。糸(いと)を 10メートルばかり もらってくるのだ。
《つぎに 生(う)まれて 30日(にち)目(め)の クロクワアゲハの 幼虫(ようちゅう)(けむし)。そいつが 出(だ)す 糸(いと)も 10メートルもらう。
《そろったら、人間(にんげん)に より上(あ)げてもらう。それで、できあがりさ》

『人間(にんげん)ですか? 人間(にんげん)は こわいです』

《あそこの さくの前(まえ)で ぼうっとしている じじが おるじゃろ。あの人(ひと)なら 安心(あんしん)だ。この ヒエキチさまの しょうかいだと言(い)え》




ヒエキチです。









直径2メートルかな
国際通り・平和公園にあるぞ。



    【5】

なんと、まあ。ヒエキチは このじじのほうを ゆびさして そう言(い)ったのだ。ヒエキチは ぴょんと とびあがり、消(き)えた。3ひきの ありたちは さっそく 動(うご)き出(だ)した。

『アカッペ、あんたは けむしの ワムパスにきいて、クロクワアゲハの 幼虫(ようちゅう)を さがしておくれ。シロッペは 人間(にんげん)のじじに しごとを たのむんです。わたしは 8本(ほん)足(あし)のセグロゴケを みつける』

ありたちは いつも すのまわりを 歩(ある)いているので、池(いけ)のことは くわしい。クロッペは 仲間(なかま)の ありに ふれてまわり、セグロゴケの いばしょを つきとめた。

クロッペは クモのセグロゴケに 糸(いと)がほしいと たのみこんだ。しかし、

<じょうだんじゃあ、ない。糸(いと)は すを 作(つく)るための だいじな ざいりょうだよ。よそに あげる糸(いと)は ないよ>

セグロゴケの つれない返事(へんじ)に クロッペは あきらめない。

『ねえねえ。あなたの すには ブヨとか ヤブッカが かかるけど、さいごは きたない足(あし)や はねで よごれるわ。それを かたづけてあげているのは わたしたちありよ。どう!』

セグロゴケグモが <う〜む>とうなり、ついに しょうちしてくれた。10メートルの クモの糸(いと)が 手(て)に入(はい)った。

アカッペは エノキをよじのぼって けむしのワムパスが かくれている 葉(は)っぱの うらに たどりつき 大(おお)声(こえ)でよびかけた。

『クロクワアゲハの 幼虫(ようちゅう)は どこに いるでしょう。それも、生(う)まれて ちょうど30日目(にちめ)でなければ いけません』

ワムパスは くるっと丸(まる)まった 葉(は)の中(なか)から とてもねむそうな 顔(かお)を出(だ)した。

『ボクは さいごの ねむりに はいるんだ。つぎに 目(め)がさめたら、いよいよ ちょうちょうに へんしんする。だから、かんべんしてよ』

『なんてこと! セキレイのひなを 助(たす)けようと 言(い)いだしたのは ワムパスでしょう。クロクワアゲハのこと、教(おし)えるまでは ねかせませんからね。かみつくわよ!』

『ぎゃあ、やめてくれ。教(おし)えるよ。クロクワアゲハで 30日(にち)・・・ああ、ボクのことだ。生(う)まれて30日目(にちめ)だ』

これを 聞(き)いて、アカッペが にこりと 笑(わら)って はを むいた。

『なら、糸(いと)を出(だ)してから ねむりなさい』

こうして アカッペは けむしの ワムパスから マユ1つぶんの 糸(いと)を とりあげることができた。

おなじころ シロッペは えのき池(いけ)を ぐるっと 一(いつ)しゅうして 
さくに よじのぼり、そっと じじのところへ やってきた。シロッペは ありだから 黒(くろ)いのだが、かおが そう白(はく)だった。

『あ〜、こわいよー。あの 大(おお)きな手(て)が すこしでも 動(うご)いたら、あたしは ぺしゃんこだわ。あたしって、かわいそう!』

じじは くすくす 笑(わら)ってしまった。

「ありの シロッペさん、きみを つぶしたり しないから 安心(あんしん)したまえ」

シロッペが びっくりぎょうてんした。口(くち)をあんぐり。二本(ほん)の しょっかくが びしっと 伸(の)びて、目(め)が点(てん)になっていた。

『きゃあああ、あたしは 耳(みみ)まで おかしくなった。人間(にんげん)が なにか 言(い)ったわ。もしかして、あたしを おどろかして 食(た)べてしまおうなんて、たくらんで いないかしら?』

「おいおい、シロッペさん。きみは このじじに 頼(たの)みごとが あって 来(き)たのではないのかね?」

ありを 食(た)べても おいしくないだろうな、と思(おも)いながら じじが 答(こた)えた。それを 見(み)ぬいたのか、シロッペは うたがいの 目(め)を 向(む)けている。








はじめまして(アカッペ)





早く仲間になりなさい。






    【6】

『シロッペ、人間(にんげん)と はなしは できたのかい? まさか しつれいな ことは 言(い)わなかったでしょうね』

アカッペと たくさんの ありたちが ながい 糸(いと)を ひいて やってきた。つづいて クロッペと仲間(なかま)のありも クモの糸(いと)を さくに ひっぱりあげる ところだった。

『あたしは 人間(にんげん)に きらわれるような ことを いわないわ。これから ちゃんと お願(ねが)いするところよ』

シロッペは そう言(い)って、じじの方(ほう)を ふりむいて 言(い)った。

『というわけです。よろしく お願(ねが)いいたします』

ありが ぺこりと 頭(あたま)を さげたので、じじも おじぎをした。「はい、はい。たしかに ひきうけましたよ。二本(ほん)の糸(いと)を よりあわせれば いいんでしょう」

じじは ありたちから クモの糸(いと)と けむしの糸(いと)を もらい、手(て)のひらで よりあわせようとした。けれど、

「うまく よりあってくれないぞ・・・」

じじは 力(ちから)いっぱい 糸(いと)を よったが、二本(ほん)の糸(いと)は おたがいを いやがっているように すぐに はなれてしまう。
よりあわせる そばから ほろほろと ほどけてしまうのだ。じじは 考(かんが)えた。

「クモと けむしか・・・。クモは ちょうちょうを つかまえて 食(た)べてしまうからな。いやがるはずだ。一本(ほん)に なりたく ないんだ・・・これは きっと なにか、たりないぞ!」

キチキチバッタの ヒエキチは《人間(にんげん)に 糸(いと)を よりあわせて もらえ》と 言(い)った。じじが よったが、うまくいかない。

「どうしても こまったときは・・・もちろん、おたすけ笛(ふえ)だ」

じじは ポケットから おたすけ笛(ふえ)を 取り出(だ)した。ほそい 竹(たけ)の くだが たくさん ならんだ がっきだ。

くだに 口(くち)を あてて いきを ふくと 音(おと)がでる・・・はずなんだが、まだ いちども 出(だ)せたことがない。じじは ほっぺたを ふくらませて、おもいきり ふいた。

「ああ、やっぱり、音(おと)が 出(で)ないなあ」

でも、ききめは あった。笛(ふえ)の音(おと)に(たぶんね) こたえて ワムパスが 目(め)をさまして、歌を うたった。

≪ぼくたち きゅうきゅう隊(たい) 足(あし)のかずは 18本(ほん)
 ぼくたち きゅうきゅう隊(たい) 仲間(なかま)を 集(あつ)めろ 集(あつ)めろ 仲間(なかま)。

すると どうだ。ありたちが いっせいに あたまを ふって、声(こえ)をあげて うたいはじめた。

≪あたしたち きゅうきゅう隊(たい) 頭(あたま)の 黒(くろ)い きゅうきゅう隊(たい)
 あたしたち きゅうきゅう隊(たい) 力(ちから)はあるけど ちえが ない。

エノキの池(いけ)に うたが ながれると、こんどは まったく リズムのちがう うたごえが こたえた。

≪わっちの足(あし)は 水(みず)の上(うえ) くもが うつった 水(みず)の上(うえ)
 おそらの くもの はすの上(うえ) 糸(いと)よりあわす はすの上(うえ)。

みると、100ひき いじょうの アメンボウが あつまって がっしょうを はじめたのだった。じじは このうたに じっと 耳(みみ)を かたむけ、あることに 気(き)がついた。

「・・・おそらの くもの はすの上(うえ) 糸(いと)よりあわす・・・おおおお、そういうことか!」

この本(ほん)を よんでいる みんな! わかったかい? 『くものはす』は クモンパスなんだよ。おそらの 雲(くも)を 使(つか)って、ハスの 葉(は)の上(うえ)で よりあわせた 糸(いと)のことなんだ。

だから、ちじょうでは 作(つく)れない。でも クモンパスもどきは、仲(なか)のわるい クモとちょうちょう(けむし)の 糸(いと)は・・・はすの葉(は)の 上(うえ)で よりあわせることが できるかもしれない。

「ハスの葉(は)は・・・」

もちろん、池(いけ)の 真(ま)ん中(なか)に あるさ。どうだい。じじは あたまが いいだろう。あー、じまんしちゃった。

じじは すぐに 池(いけ)に はいった。くつと ズボンをぬらしてしまった。でも、ハスの葉(は)の上(うえ)に 2本(ほん)の 糸(いと)を ならべ、ころころと ころがしてみた。

すると どうじゃ。糸(いと)が みごとに よりあった。かんせいした糸(いと)を がしがしと ひっぱってみたが、がんじょうで 切(き)れるしんぱいが なかった。

「糸(いと)が できたぞ」

ありと ワムパスが かんせいを あげた。けれども、ほんとうの しごとは これからだ。





「おはだの白さが自慢なの」シロッペ。















































    【7】

〈どうやら 糸(いと)が 手(て)に 入(はい)ったらしいな。ありにしては じょうできだ。ほめてやる〉

ハツカ=ザ=マウスが カッシャを ふりかざして さけんだ。

〈では、マウス・クレーンの 作(つく)り方を 教(おし)えてしんぜよう。ありども、糸(いと)のかたほうを エノキの 枝(えだ)まで、もってこい〉

ハツカネズミの ハツカーは つぎつぎに めいれいを 出(だ)した。

まず、糸(いと)を 高(たか)い 枝(えだ)の 先(さき)に 結(むす)び、池(いけ)の すいめん近(ちか)くまで たらした。この 糸(いと)を かっしゃに まわす。
糸(いと)は もういちど 枝(えだ)まで さしわたして、池(いけ)の 岸(きし)まで のばした。

〈さあ、ありども。木(き)の枝(えだ)の いかだは かんせいしているだろうな。いかだを かっしゃに つるすんだ〉

いかだに セキレイの ひなを のせるのは とても たいへんだった。ありたちに できる しごとではないので、ハツキーが ちょっと ひなを おどかして、むりやり のせた。

〈じゅんびが できたぞ。いよいよ ありどもの 力(ちから)を みせるときだ。さあ、糸(いと)を ひけ!〉

千(せん)ひきもの ありが 力(ちから)を あわせて 糸(いと)をひいた。

≪あたしたち きゅうきゅう隊(たい) 頭(あたま)の 黒(くろ)い きゅうきゅう隊(たい)。
 あたしたち きゅうきゅう隊(たい) 力(ちから)はあるけど ちえが ない。

ありが うたうと けむしのワムパスも うたった。

≪ぼくたち きゅうきゅう隊(たい) 足(あし)のかずは 18本(ほん)
 ぼくたち きゅうきゅう隊(たい) 仲間(なかま)を 集(あつ)めろ 集(あつ)めろ 仲間(なかま)。

ハツカネズミが おうえんする。

≪わしらも きゅうきゅう隊(たい) クレーンとカッシャと 糸(いと)使(つか)う。
わしらも きゅうきゅう隊(たい) ハツカ=ザ=マウスが ちえを だす。

こうして、木(き)の イカダが すこしづつ もちあがり、とうとう セキレイのすが ある 枝(えだ)まで とどいた。ひなは ぶじに すに もどった。

セキレイの おとうさんと おかあさんは なみだを ながして よろこび、ありと ハツカネズミと じじに おれいを のべた。
もちろん、けむしと セグロゴケや アメンボウにも おれいを いったが、この むしたちは みんな 顔(かお)を そむけていた。

《バッタさんには あとで、日吉(ひよし)神社(じんじゃ)を おまいりしますから》

セキレイにしては よいこころがけだ。

いっけん らくちゃく。きゅうきゅう隊(たい)は かいさんとなり えのき池(いけ)は もとどおり、静(しず)かになった。
もう ひるどきだ。じじが かえろうとすると、男(おとこ)の子(こ)が 家(いえ)から とびだしてきた。

「じ〜じぃ、なにしているの?」

「おお、カイ君(くん)か。じじは 散歩(さんぽ)をしていたんだ。もう おひるだから、かえるんだよ」

「ねえねえ、じじに おねがい。カイ君の 糸(いと)まきの せんしゃが なくなったんだよ。さがしてくれる?」

「へえ、糸(いと)まきの せんしゃか! カイ君、それはね」

じじは エノキの 枝(えだ)をみあげて、ハツキーが カッシャをかたづけているのを たしかめた。

「カイ君、せんしゃは、ね。もうじき もどってくるよ」

「ほんとう? もどってくるの?」

「そうさ。みてごらん。セキレイが 鳴(な)いている」

「しっているよ。いつも 鳴(な)いているもの」

じじは カイ君と 手(て)をつないで、
「おひるごはんを 食(た)べようね」と言(い)った。









































とんと むかしの 話じゃ。ろうそく 一本 火が きーえた。(平成30年8月5日)








 第10話「白い着物の客」に進む ・ 目次に戻る ・ このページの先頭に ・ ものがたりの広場(表紙)へ