孫に語るじじの九十九噺
〜八王子篇〜




ぶん と しゃしん・絵

よしむら・ふみひこ
吉村史彦 著
Auther:YOSIHIMURA Fumihiko
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《弁天池の七不思議》第七話「八王子竜」


君に 弁天池の 不思議を 話そう。

七番目は 弁天池に 住む 竜の 話しじゃ。

言い伝えによれば、竜の一族は 大むかし 遠い 世界から 日本にやってきたという。

天の 神様が 『こうろ こうろ』と唱えながら 日本の 島を 作った ころの ことじゃ。

八柱の竜が 舞い降りたとき、八王子には 平らな 土地がなくて 険しい 山と 大きな 岩ばかりじゃった。

人も 動物も 誰も いない 荒地だ。

なにしろ 生まれた ばかりだからなあ。







けれど、陣馬山には アシナガ様が おられた。

アシナガ様は 自分の 縄張りに 断りもなく 入りこんできた 竜に 怒っていた。

竜は 気位が 高くて、たとえ 相手が神様でも 頭を 下げることを しない。

この世で 自分が 一番 偉いと 思っているんだ。

だから、遠い世界から 来た よそ者なのに、誰も アシナガ様に 挨拶さえ しなかった。

アシナガ様は 意地悪をして 竜が 空を 飛べないように 大風を 起こした。

すると、竜たちは 風が おさまるように 山に 木を 植えた。

木が 大きくなると、喜んだのは 天狗様だ。

サルどもも 集まって 住み着いた。イノシシやシカも 増えたんだ。

風が 失敗すると、アシナガ様は つぎに 大雨を 降らせた。

すると、竜たちは 雨水が 流れるように、溝を 掘って 川を作った。

山から 流れ出た 川は 南浅川、北浅川、大沢川、城山川、湯殿川などになって、大きな 浅川に 流れこんだ。

川には フナやハヤ、クチボソ、アユ、ヤマメ、イワナが住み着き、おおいに 増えた。







雨で またもや 失敗した アシナガ様は かんかんに 怒って、雷を ばりばりと 落とした。

すると、竜たちは 荒地に 積み重なっていた 大きな 岩を 空に 飛ばして、落ちてきた 雷で こなごなに くだいた。

こうして、岩ばかりだった 八王子に 広い、平らな 土地が 生まれた。

砕けなかった 大岩は 積み上がって 滝山とか 小比企丘陵とか 柚木・程久保の 山々となって 八王子を 取り囲んだ。

三度 失敗した アシナガ様は 雨も 風も 雷も 効き目がないと 考えなおして、千年 洞穴に 籠り、とうとう 竜たちを 打ち倒す 方法を 発見した。

アシナガ様の 千年の 怒りが 洞穴に 籠って 怨念と なり、クモが 怨念を 集めて 腹に 溜めた。

集まった 怨念は ムカデが 鋭い 爪で クモから 吸い出し、黒い 毒の霧に 変えたのだ。

こうして アシナガ様は 竜を 退治するために ムカデを 竜と 戦わせた。

竜たちは ムカデの 毒気のまえに あっけなく 敗れて 多くが 殺された。

生き残ったものも 竜の 姿を失い、クワコと なってしまった。







竜が 滅んで 五百年ほどすぎた。

八王子には 人が 住むようになったが、石ころの 多い 土地だったから 田んぼには 向いていない。

魚を採ったり、動物を捕まえたりしていたが、やがて クワコを 育てて 生糸を 作り、布を 織るようになった。養蚕じゃ。

クワコは おカイコさんと 呼ばれて 人々の 暮らしに 役立った。

クワコが もとは 竜だったと 見抜いたのが お上人さまだ。

お上人さまは 八柱の 竜を よみがえらせて、

「日照りが 多いので 八王子に 湧き水の 池を 作なさい」

と、命令された。竜たちは 石ころの 地下に もぐり、竜の道を 作った。

これが『竜脈』だ。竜脈にそって 八王子の あちこちに 水が 湧き出した。

お上人さまは とくに 大きな池に 八柱の 竜を 住まわせた。

  子安神社の池・
  六本杉公園池・
  片倉城の池・
  真覚寺のカエル池・
  横川べんてん池・
  叶谷えのき池・
  中野子安神社の池・
  大谷べんてん池
 が それだと 言い伝えられている。







 


とんと昔の話じゃ。ろーそく一本 火が 消えた。(令和2年8月)

竜たちの 活躍は 『竜の道』という 話しにまとめた。いつか お話しして あげようね。
アシナガ様は・・・うーん、これも そのうち、お話しよう。







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