Chapter.2::

FLY ME TO THE
M○●N

第2章::フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン

シーン・カード》 “ 隠者 ” (ザ・ハーミット)“黒幕”(クロマク)
象徴》“深遠”

  レ・トロン・ド・ルテチアのアーコロジー。この巨大建造物の中には企業施設も、住宅も、造られた自然環境も、全てが揃っている。アーコロジーから一歩も外に出ずとも生きていけるほどだ‥‥現に、そうしている重役の家族もいる。だが、おぼろげな記憶が正しければ、私が来たのはこの外からだ。あの空の、さらに向こうから。
 私は夢野。夢野 風人(ゆめの・かぜと) “風使い” (ウィンド・マスター)の称号を持つバサラである私の能力を知る者は、 “夢見る風” (ドリーミングウィンド)と呼ぶこともある。同じく風使いの“止まらぬ風”(ノンストップウィンド)こと遠野凪子さんに世話になり、今は故あってこの歳で第二企画部の部長となっている。
 個室に備えられた DAK (ダック)システムが作動し、壁の2Dディスプレイが灯った。映ったのは精緻なトロン・グラフィックスで構成されたジン――古代の風の精霊。

『>>風人様。社の上司さまからの呼び出しがかかっております。17階の重役室までいらして下さい』
 DAKに内蔵されている忠実な疑似人格プログラムが、人の声とたがわぬ合成音声で喋った。
「解った。企画部のエリーさん‥‥いや、エリー君を呼び出してくれ」
 自分より年上の部下を呼ぶのはどうも抵抗がある。軌道人である自分はこの街の住人とはやはり違うのだろうか。私はディスプレイの前でしばらく待った。

 高速エレベーターの強化ガラスの窓からは、アーコロジー中央部の何層もの人造自然公園が視界の下に流れていくのが見えた。上へ行くほど、フロアの住人はトップに近い者になっていく。だが一介のカンパニー・マンに過ぎない私には関係ないことだ。とりあえず今のところは。
 私の名はエリー。通り名はない。ルテチア第二特別企画部の社員にして工作員(クグツ)。夢野部長の直属の部下だ。
 上司は私の隣で何事か考え事に耽っている。私より年齢も身長も下のこの部長は、まだ少年とさして変わらぬ年齢だ。ルテチアのエグゼクには似合わない風貌である。女ではあるが私の方が体格、戦闘能力も優れており、彼を助けた事も何回かある。
 どうも部長はこの街の住人とは何処か違うようだ。失われた記憶に彼の秘密が隠されているともいう。
 だが、記憶を失っているのは私も同じだ。私は日本本国からこのトーキョーN◎VAに渡ってきた。少女時代の記憶は今も失われたままだ。あの東郷(とうごう)という男が何かを知っているはずなのだが‥‥。

 

RL》企業のおふた方。あなた方は上司を二人、密かに地獄送りにして上の人がいなくなった訳ですが配置転換の事で呼び出されます。ちなみにあなたの階は5階です。

エリー》(ボケている)あ、何だ私もか。

風人》エリーさん行きますよー。

エリー》(ボケている)あ、私クグツだったのか!

D.E.》おいおいおい!(笑)

風人》コンコンコン、失礼します。がちゃ。

RL》重役室には金髪ブロンドのいわゆる美形なにーちゃんがいて、側には金髪美形の秘書の女性が控えてます。「お、来たか。入りたまえ」

風人》そういう風な趣味はない‥‥。

D.E.》こいつら人種差別主義者だー。

RL》そうかも知れませんね。
「まあ掛けたまえ。挨拶しておこうと思ってね。先日君たちの上司が不慮の事故で死んだ訳だが、それに伴って君たちは配置換えになった」

エリー》あああれか、思い出したー!

サイファ》思い出すなよー(笑)。

RL》「これからは渉外局極東班で、局長である私の直属の部下として働いてもらうことになる」
 要するにルテチアのヴィレ・ヌーヴ本社から来た日本大使みたいな人だね。今までの部署からは独立することになる。

風人》してどのような仕事をすればよろしいのですか。

RL》「特別な仕事があれば私が呼ぶから、それ以外は今まで通りでいい。企画部の部下を使うかは君の自由だが、この渉外局は私の管轄だから君の部下はいない。君が連れてきたその部下は君直属の部下でもいいが」

エリー》「いやー!」と叫びます。

一同》(爆笑)おいおいおい!

風人》それは彼女の自由に任せます。

RL》(エリーに)君は私の部下がいいかね。

エリー》それならイエス。

RL》局長の部下ならいいが夢野部長の下はイヤだというのか!
「自己紹介が遅れたが私はクリストファー・ヴァイス」 スタイルはペルソナがエグゼク◎。他は解らない。

エリー》神業で見破っちゃおうかな。

かすみ》おー!(ぱちぱちぱち)

 ◆N◎VA第2版は、『クルード』と呼ばれる超簡単なルールと、1版と大体同じ『テクニカル』、両方を併用する『クルード&テクニカル』の3つに分かれてます。語源はサイバーパンクの巨匠W・ギブスンの短編『記憶屋ジョニィ』(ジョニー・ネモニック)の台詞――
粗雑 (クルード)と思われているなら 繊細 (テクニカル)にやり 繊細と思われているなら粗雑にやる”
からね。そう言えばJMっていう映画にもなったわね。災厄前の作品は現在でも残ってるけど、あのキアヌっていう俳優カッコいいわねー。
 えーと、N◎VAクルードは装備も技能も関係ないスタイル判定を主にしたイメージ重視の超簡単ゲームで、スタイル毎に決まっている 《 神 業 》 (ディヴァイン・ワークス)という暴虐なまでに強いワザを各スタイル毎に1回、合計3回まで1つのアクトで使えます。
 N◎VAテクニカルは細かな技能システムを使用したデータ重視の普通のRPG。この時シーン・カードが自分のキー(●)と合うと、一回手元からカードを出さずに、ジョーカー(どのスートのどの数値にもできる。普通はエース)を出したものとして技能判定を決定的成功できるわけ(これをキー効果と呼びます)。
 今回使っているクルード&テクニカルは両方の中間‥‥じゃなくて、テクニカルをベースに神業も使える超派手派手なゲーム。この時はキー効果を、どのスタイルの神業としても使え、なおかつその効果は神業よりも強力なものとなるの。
 今のシーン・カードはクロマク。エリーさんのキーと同じね。彼女はキー効果をフェイト(探偵や弁護士等を表すスタイル。サイファがそう)の神業である《 真 実 》(トゥルース)(ゲストやルーラーに質問して、どんなことの真実でも知ることができる!)として使おうとするわ‥‥。

RL》やっちゃうんですね。じゃあ彼の秘められた力に気がつきました。彼はエグゼク◎、バサラ=バサラ●です。元力使いの称号は “光の運び手” (ライト・ブリンガー)です。
(↑バサラはサイコキネシスを操る超能力者や魔法使いを表すスタイル。 力 学 (キネティック) 変 化 (トランスフォーム)などの念力、そして 光 学 (ルミナス) 電 磁 (エレクトリック) 火 炎 (パイロティック) 疾 風 (エアリアル) 水 雲 (アクエリアン) 大 地 (ジオティック)の六大エレメンタル・パワー(元力)を使う。カードは1番、 “魔術師” (ザ・マジシャン)。)

エリー》じゃあニヤッと笑いかけます(爆笑)。

サイファ》か、かっこいい‥‥バリバリよって感じ。

RL》彼は怪訝そうな顔をします。

風人》じゃあこっちの力に気がつくのか‥‥。
(↑元力使い同士は、互いの能力がわかる事があるのだ)

RL》アウトオブ眼中なので気付いてるかもしれませんが黙ってますね。「私はこれからエレクトロニクスの研究所に視察に行ってくるが、君たちもついてくるかね?どちらでもいいが」
 ここで2人は<知覚:追憶>で12。ないなら代用判定で<知覚:霊感>で17以上。

◆代用判定は適当な技能を持っていなかった場合、“同一ルートの別ブランチ技能”で技能判定を代用する、というもの。その分ペナルティーはくるけどね。
 例えば<知覚:視覚>で解らなかったことも同じ知覚ルートの<知覚:聴覚>で気付くかもしれないし、<射撃:ガン>があるキャストは<射撃:ガナリー>がなくても重火器も撃てるかもしれない、というわけ。

風人》失敗。

エリー》失敗(笑)。

D.E.》恥ずかしい奴らだな〜。成功しないと格好悪いとか思わんのかお前らはー。

RL》トロン関係の研究所で不祥事があったので後始末に行くそうですがなんにも思い出しませんね。

D.E.》はっはっは。
(↑前にやった別のアクトで思い当たる節があるらしい)

エリー》私は用事があるのでちょっと失礼します。

 

 夢野部長はヴァイス局長について行った。支社一階のショールームではルテチア自慢の超大型ギガトロンが展示してあり、見学にきた外国人が触っている。ルテチアのトロン産業におけるシェアは世界一なのだ。
 アーコロジーを出て待たせてあるリムジンに向かう。と、局長の前に立ちはだかった女性がいた。険しい目付きをした二十歳前後のその女性は彼を激しく罵り始めた。
「ルテチアの人殺し! あんたなんか人間じゃないわ!」
 局長は「忙しいので」などと呟くと女性を無視してさっさと車に入っていく。夢野が女性の顔を覚えようとすると、彼女は彼の方も憎々しげに睨つけた。
 ヴァイス局長はリムジンに乗り込み、夢野部長を招く。彼を乗せると、秘書の運転するリムジンは木更タタラ街へと一路向かった。

 

RL》特殊技能ではないので適当に覚えました。髪は赤の混じった金髪です。あなたが見る限りはタタラ(技術者など、創造に関係する職種の人を表すスタイル。カードは2番、 “女司祭” (ザ・プリーステス))のようですね。さらに知りたければ社会技能。

風人》‥‥いいや、<§社会:N◎VA>で18。

RL》使ってるのはクイーンズ・イングリッシュですね。それで途中からニューロタングで受け答えしている。クリストファー局長も同じ。

◆“災厄”後の新たな秩序と文化の中で、民族が混合し、日本語は変化して再構築された――それが、このN◎VAで使われている新しい言語、ニューロタング。いろんなスラングの混じった言葉で、この街の住人は普段から使ってるわ。
 ちなみにアルファベットで表記する場合は、発音に近い形への簡略化がなされた、英語とはちょっと違うスペリングを使うの。N◎VAのオーが二重丸になってるのは実はちゃんと意味があったのねー。このリプレイ中における英語表記はニューロタングの綴りになってるけど、誤植じゃないから安心してね。
 でもルールブックやリプレイ読むと、ページによって綴りが違うのよね〜(笑)。フィーリングで書いてるのかしら。なんか“クルード”な感じねぇ。
 ウェブページには新星帝都大学のエラい言語学博士が突き止めたっていう『英語→ニューロタング変換表』がついてるから物好きな人は参考にしてね。でも威鷲魔教授ってどっかで聞いたような名前。私の気のせいかな?

RL》さて車内ではクリストファーが「ところで君は、前の上司の王龍(ウォンロン)についてどのように考えているかね」と世間話に交えてさりげなく聞いてきますが。

風人》そうですね‥‥「あまり騙すのがうまくない人ではないかと」企業人として考えた場合は、ということ。

RL》彼はニヤリと笑います。

D.E.》すごい会話だな‥‥。

サイファ》その割にあっさりと騙されたと思うのは‥‥わいだけ(笑)?
(↑前のアクトで、王龍にはヒドい目に遭わされているのだ)

RL》そのうちに車は研究所に着きます。

風人》先に降りて、ドアを開けて待ってます。

RL》‥‥それじゃただの太鼓持ちじゃんかよ(笑)。

風人》いや一応それくらいはしないと‥‥。

RL》だからそれは秘書の仕事だってば! あなたも一応重役の一員なんですから。

風人》分かりました。じゃあやめます。

かすみ》う〜ん、さすが軌道人(ハイランダー)

RL》さて、「実は研究所で働いていたステファン・バインというトロン技術者が爆死したのだ」

D.E.&サイファ》(遠くで笑い声。彼らは前の日の別のアクトで思い当たる節があるらしい。)

RL》これはプレイヤーに対してですが、ステファンというのはあなたがたが最初に同席したアクトで、ルテチアのアーコロジーまで護衛したタタラですよ。さっき出てきたメアリー・エランという女の人は彼の恋人です。
 もう事実関係の調査は終わって、我々の出る幕はない、そうだ。

風人》じゃあそれについて調べます。

RL》<情報:セキュリティ>か<トロン:エレクトロニクス>か企業関係の技能でどうぞ。

風人》<§社会:ルテチア>で18。

RL》現場を覗いて見ると、爆発で死んだというのは明らかに嘘っぽいですね。隠蔽工作されたような気がします。

D.E.》トロン(この時代のコンピュータ。技術は飛躍的に進んでいる)で爆死するってのも凄いよな。普通あれって爆発するか?(笑)

風人》クリストファー局長が怪しいという気がしてきた。

RL》後は本社に戻って舞台裏です。


 
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