SCENEZ03::

"LVE'Z VIJION T"

シーン03::ラヴズ・ヴィジョン T  〜去りにし人の幻 T〜

 N◎VAの他の地域と異なり、夜の斑鳩は比較的静かだった。遠くの双蓮寺の鐘の音が響き、時刻を告げる。街灯が二人以外に歩む者のない通りを照らす。

「‥‥そんな訳で、NCBの仕事とは別口でちょっと調べてるの。マリオネットにでも持ち込めば、きっと報道‥‥おっと! あのニューロキッズっぽいコに聞いてみましょう?」
 挨拶もそこそこに、静元涼子は小型ビデオカメラをハンドバッグから出し、夜道に見えた少年の方に向かった。彼女が知り合いのつてで護衛を頼んだカブトの男は、黙って後に続いた。
「そこのニューロなボク‥‥え〜と、私たち3Dテレビの特別レポーターなんだけど、ちょっとインタビューしていいかナ?」
 努めてそれらしく振る舞い、とびきりの笑顔を浮かべる。仕事柄こうしたことには慣れている。“演神”の人格カードがなくてもうまくやれる自信はあった。

「キミ、いかにもニューロキッズっぽいカンジがするんだけど、トロンのゲームウェアは得意? やっぱりツウはIN◎UEコーポのウェアがベストだって言うらしいけど、本当?」
 聞かれた少年は振り向いた。首筋から伸びたワイア&ワイアのコード。憑かれたような表情。
「おい。様子が変だぞ」
 彼女の雇った欧米人のカブト――アレックスが耳元で囁く。
「‥‥え〜と、最近神経錯乱気味のニューロキッズによる殺人事件があったでしょう? 何処かの会社のゲームウェアをヤりすぎると頭がニューロになるってストリートの噂らしいんだけど、プラチナム級“げぇまぁ”としてはそのへん、どうなのかな?」彼女はそこで少年の唇が動いているのに気がついた。思わずカメラを降ろす。

「‥‥XYZ」
「え? あの〜、お姉さんの質問に答えて欲しいんだけど‥‥」
「みんなCDだ。みんなウェットだ。クルテクなんだよ。ゲロ弱なんだよ! エェッ〜ジだ!」
「?? な、なんの‥‥お話??」静元涼子は思わず後ずさった。
「みんなフラッシュアウトだ。それがビズなんだ。はうぅ〜! ボクが世界を救う! フラットライン! ここはFAZ! 今度はM○●Nで次はST☆R! Krysは同じで厚さが違〜う! ボクがまとめてXYZ開始だァァァッ!!」
 言うなり少年は懐からオート・ピストルを取り出した。千早のスタンダード、“MP10”。セイフティーは解除済み。危なっかしい手つきでいきなり銃を掲げると‥‥

「あーっ! ちょ、ちょっと、そ、そんな‥‥!?」
 思わず彼女が目を閉じ、次に開けた時、目の前には透明なクリスタル・シールドが掲げられていた。乱射された銃弾は一発も当たっていなかった。自分の肩に腕が回されている。
「フン‥‥。最近のニューロキッズはサイコと同じなのかい?」
 瞬時に彼女の体を自分の陰に庇っていたアレックスは言った。「見ろ」
「あ、ありがと‥‥」
 彼女は少年を見遣った。今度は夜空に向けて銃を構えると、何事かぶつぶつと呟いている。その姿はまともな精神の持ち主には見えない。

 彼女の体から手を放し、連れが何か言おうとした瞬間だった。突然数発の銃声が響き、少年は冷たい街路にばったりと倒れた。鮮血が辺りに飛び散る。
「‥‥‥‥??」
 彼女はアレックスの顔を見返した。連れのクリスタル・シールドが二人の前に掲げられる。
 ほぼ同時に、暗闇の中から数人の男が姿を現した。黒い衣装に防弾ジャケット。手に持った“AP40”SMG。システムゴーグルとネックセット。企業の工作員チームだろうか? SMGの銃口が、今度は立ち尽くす二人の方へ向けられた‥‥

「こっちだッ!」
 無理やり抱き抱えられ、二人は物陰に飛び込んだ。一瞬前までいた場所を何十発もの9mm弾が貫く。抑音された銃声がに響き渡った。
「どうする? 反撃するのか?」アレックスが彼女の方を振り向く。
 彼の右腕は話している間も弾かれたように勝手に動いていた。いつの間にか握られていた14mmBOMBピストルを、視線とは別の方向に乱射している。

 ビデオカメラが無事なのを確認。彼女は銃声に負けじと叫んだ。
「退却して!」
「了解!」答えるなり今夜の護衛は立ち上がり、彼女を半ば抱えるようにして走り出した。
「あ〜っ! ちょっと、カメラが落っこちる!」
「ぐずぐずするな! 走るぞ!」
 銃撃の雨をかいくぐり、二人は街路を走った。ちらりと背後を振り返るとボーイズ・イン・ブラック(黒服のお兄さま方)は執拗に追ってくる。自分たちのお仕事の偶然の目撃者を見逃してくれる気はないらしい。まあ、当然と言えば当然かも知れないが。

 いきなり厄介ね。ようやく思考する余裕のできた静元涼子は考えた。
 錯乱したニューロキッズの銃乱射事件の謎に惹かれたトーキーの魂。ぴったりの知り合いがいるよと馴染みの子に紹介されたカブトは渋めの男性。今夜の調査は楽しくなりそうねと内心思っていたのだが‥‥。

 勢い余った彼女は立ち止まっていた連れの背中に衝突した。
「なに?」割合小柄な彼女はアレックスの顔を見上げた。彼は路地裏の突き当たりを見回していた。
「行き止まりか‥‥」
「ってここでDEAD−END? 一体どうするのよ?」
 彼女は後ろを振り返った。逆光の中から長い影を落としながら、正体不明の男たちが近づいてくる。

「その様子じゃ霞には聞いてないようだな」
 落ち着いた表情を崩さずにアレックスは言った。
「奥の手を使うとするか」言いながら、左手のシールドの陰に彼女を抱き寄せる。

 こんな時に意外と大胆ねと思いつつ、彼女は相手の顔を見返した。だが、彼の変わらぬ表情にその気は感じられない。
 アレックスの手袋をした右手がケヴラー繊維製のフェイト・コートの懐に入れられ、一枚のカードを取り出した。
 古風なタロットの大アルカナ。番号は1。描かれているのは“魔術師(ザ・マジシャン)”。

「ごらん」訝る彼女を見て“デス・ロード”は笑った。「俺も魔法使いさ」

 瞬間、二人の回りに夜が集束した。視界が闇に閉ざされ、何かが回りで変化してゆく。
 無限にも思える時間が過ぎ、彼女の眼が機能を取り戻した時、辺りの風景は一変していた。先ほどまでいた斑鳩のすぐ近くではあるが――まったく違う中華街の風景。龍の木彫りが街灯から二人を眺めていた。
「何かの術を使ったの? 驚いた! さすがカッちゃんの紹介だけのことはあるわね!」
「さて」アレックスはやんわりと手を放した。
「これからのご予定は、ミス・シズモト?」

Megalopolis rite on the equator,

TOKYO NVA

<XYZ>


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