本当の北の国からのもうひとつの物語。 -When Kross the Midwinter Nite

真冬の夜マローズを越えるとき〜
きたマロ Ver

【一幕】【二幕】【三幕

Kaution from WebMaster:

 このコンテンツは、当サイトのセッション・レポートに登場する『真冬の夜(マローズ)を越えるとき』のシナリオを公開されている版を元にプレイした時の模様を、RLのSt.Shellさんの執筆、きたマロプロジェクト総責任者Worldさん、J.K=こたつねこさんからの送付で頂いたものです。
 あまりに突然の送付であったこと、恐怖のWord形式だったことなど障害が多々あったのですが、考慮の末にこの14万Hit記念ページに掲載させていただくことにしました。ありがとうございます。
 HTMLコンテンツ化における修飾や記号の統一など最低限の編集を除き、テキストはそのまま掲載しています。北の国の(参加者全員北海道だそうです・笑)さらなるマロの物語へどうぞ‥‥


『真冬の夜(マローズ)を越えるとき』
アクトリポート・ノベル

 そもそもの始まりは、インターネットで見つけたレポートコンテンツ『真冬の夜を越えるとき』を読んで「やってみたいなー」などと身のほど知らずな事を考えた事でありました。あまつさえ考えるだけでは飽き足らず、実行に移してしまったのがこのMyレポートという訳です。
人様の考えた、しかもレポートから表層部分のみを読み取っただけのシナリオを用いたアクト。録音テープを聞いている間はそりゃーもう凄まじいまでの恥ずかしさ。その至らなさや融通の利かないRLっぷりには我ながら大いに呆れたもの。しかもこのアクトを終えてから、もう4ヶ月以上は経っているというのに、私のルーリングにはいささかの進歩も見られない(と、思う)ありさま。
‥‥いったい私は何をやっているのでしょうか‥‥
繰り言になってしまいますが、相変わらずの私の至らなさっぷりの再確認をしつつ、このアクトに参加し、「楽しかった」とRLにとって最高の賛辞を私に贈ってくれた愛すべきプレイヤー達と、その分身(キャスト)達を紹介させてもらうとしましょう。
 

Handle: “氷槍の戦乙女”ソーニャ・ミハイル
Stylez: バサラ,カブトワリ=カブトワリ◎● Aj: 26 Jender:
 四、五才の頃に拾われて以降、十年以上の年月にわたって傭兵団『シルバーファング』と共に幾多の戦場を駆け巡った戦いの申し子。基本的には斥候の任務を受ける事が多かったが、その人間離れした射撃の腕と氷を操る異能によって、何度となく仲間の窮地を救っている。
 家族というものを知らない彼女にとって、『シルバーファング』とそこに集う男達こそが父であり、兄であり、“家族”であった。それゆえ、十年前の冬のロシアで部隊を裏切り壊滅に追い込んだ男、かつて彼女が淡い憧れを抱き、最も心を許していた“邪眼使いの”アークを追い続け、ついに決着をつける事になる。
 基本的には淡白で冷徹、元軍人らしい合理主義者。だが一度心を許した相手には妙に甘く、そして同時に臆病になる。
Player: J.K=こたつねこさん
▼今回の参加者の中ではRLと最も付き合いの長いヒト。独特の世界観や演出を考え付くその頭脳には感服しますが、属性がRLに似ているせいか衝突の多いのが最近の悩みの種。
 状況によってはリアルバウトに突入しそうになったりでちょっとストレスたまり気味?
 今回も例によって、演出でいろいろと他PLと衝突したりしなかったり。むうぅ、とりあえず今度しっかり話し合おうな(泣)。
 ところで、君はいったいいつ勉強しているのデスか?

真冬の戦乙女が立ち上がるとき

Handle: “狩天使”崇也(たかや)
Stylez: カタナ◎,チャクラ,レッガー● Aj: 32 Jender:
 若き日に友の命を奪った宿敵を求めて、世界中を渡り歩いてきた孤高の狩人。十数年の年月を経た少年は、今なお彷徨い続ける強き戦士へと成長した。日系人特有の黒髪と、強い意志の光を放つ黒の瞳を宿した風貌からは、幾つもの修羅場を潜り抜けた者に特有の厳しさと風格が漂っている。
 雪に閉ざされた国ロシアを旅した時に、命を救い、命を救われたロシアン・マフィアの長レオニード・アルサノフの訃報を聞き、その恩義に報いる為、再び冬のロシアを訪れた。
『生まれた国を違えていても、肌の色が違っても、まして血の繋がりが無かったとしても‥‥』
 おまえは家族であり、兄弟であると言ってくれた“偉大なる父”に捧げる血の復讐劇が、今幕を開ける。
Player: 唯さん
▼こたつねこさんの友人。RLとの付き合いは一年強といったところか。
 カッコいいレッガーや、カブト、フェイト、カゲ、カブトワリ等の“プロフェッショナル”なキャストの演出はお見事の一言。今回も一番(というか唯一)RLとセリフ・演出のスパーリングをしてましたのう(笑)。地味に名(迷)シーンも一番なのですよカレは。
 ところで。どう調べてもこのキャストの名前の読みって“すうや”でしかなかったんですけど‥‥

真冬の夜を狩りに出るとき

Handle:生還する報道記者イモータル・トーキー”ソラト・カミヤマ
Stylez: トーキー◎●,カブト,チャクラ Aj: 29 Jender:
 いかなる厳しい戦場からでも必ず生還し、ニューロエイジに真実を報道し続けてきた異色のトーキー。 180cm近い身長と逞しい体躯。歳不相応の茶目っ気を含む生気に溢れたその眼は虚を見抜き、その腕は全てを屠らんとする如何なるものからも真実を守り抜く。
 真教浄化派の魔手と、世界に覇を唱えるメガ・コーポと、あるいは日本軍と戦ってきた彼の求める今回の真実は、雪の大地に隠されたロシア軍の陰謀と、二つの宝珠にまつわる秘された悲しい物語。
 その歌声に限りない悲しみと涙と、そして希望を宿した歌姫ソーファを守るため、真実の闘士は、今雪原の舞台に立つ!
Player: Worldさん
▼参加者中最年長にして唯一の社会人“World”さんです。いつもいつも味のある脇役を演じていらっしゃる彼の今回の役どころは、三年前に訪れたロシア・サンクトペテルスブルグにて出会った歌姫ソーファの護衛役。
 何でトーキーが護衛役?って感じなのですが、何しろ彼の堅さといったら並じゃあありません。これまでのアクトでもその堅さと生存能力の高さを遺憾なく発揮してました。スタイル見れば誰でも納得できるでしょう(笑)。しかも今回はRLの迂闊な薦めもあってなんと“緑の楯”装備!! 『受け』+<※鉄壁>で肉体戦ダメージ42発キャンセルとか言ってました(泣笑)。さすがは自称『よく喋るカブト』。異名をとるだけのことはありましたなぁ。
 劇中劇のシーンやソーファにかけた慰めの言葉、ラス戦でも熱いセリフがばしばし飛んでいました。でも、ここまで熱く語れるんだから主役はってても良いと思うんですけど?

真冬に少女を守るとき

Handle:光求める者ライトシーカー”星丘 蓮
Stylez: フェイト◎,バサラ,ハイランダー● Aj: 25 Jender:
 170弱の痩躯に並外れて整った女性的な容貌、ヒトに有らざる真紅の髪と紫紺の瞳を持つ若者。名前こそ日系の響きを持つが、その記憶は失われて久しく、故郷もその素性も遥として知れない。一説によれば、さる軌道コロニーの御曹司であるとも、あるいは日本の関係者であるとも言われている。その真偽を確かめる術は無い。
 蓮が戦う理由は単純だ。誰かの笑顔が見たいから、悲しい想いをさせたくないから。ただそれだけのことの為に、彼は銃をとり、光を操る異能を振るう。真実を求めてストリートの闇を駆け抜ける。
 数年前、雪の大地で邂逅を果たしたロシア軍人フレデリカ。彼女との間に、確かな絆と恋情にも似た友情を結んだ蓮は今、大切な思い出の品を求める彼女の為に雪のロシアに渡る事になった。
Player: 「は」さん
▼ こたつねこさん・唯さん・でもってWorldさんとはなじみなんですよねぇ。RLだけが新参さ。
ってな訳で(どんな訳だよ)、一際変わったネーム持ちの「は」さんです。唯さん同様RLとのつきあいは一年くらい?
 この人も独自のセンスを持っている人で、全体に大人しめの演出が好みかな‥‥なんて思っていたら、今回は参加者中一番派手な演出をやってくれました(笑)。まぁ、RLとしてはそれを多分に狙っていたふしも有ったんだけど、いくらなんでも特殊部隊全員まるまる原子レベルまで崩壊させるってのはどう思いますかそこの人(苦笑)?
 ちなみに、参加者中一番ヒロインとラヴラヴだったのも、密かに君でした(笑)。後は唯さんと並んで台詞の訂正と脚色の、最も少ない人でもあったかな?

真冬の夜を照らすとき


なお、このレポートは実際のセッションを小説風にまとめたものです。それゆえ、筆者の独断によって一部セリフの訂正や多少の脚色が入っていることをあらかじめ明記しておきます。
特にキャラクターの描写には筆者の受けた印象・抱いているイメージが多分に影響しており、PL当人の持つイメージとかみ合わない可能性も指摘しておきます。
それらのことを十分に承知した上で目を通してください(っていうか覚悟決めとけ(笑))。



>> Scene0 『十年前のクリスマス』

 例え、どれだけの時が経ったとしても、変わらない想いはある。
 過去に縛られる事が、どれだけ愚かに見えたとしても
 過去を捨てて生きていけるほど人間ひとは強くないのだ‥‥

静かに流れるオルゴールの音色。暗闇に浮かび上がるのはセピア色の写真。
女性の声が静かに言葉を紡ぐ。

「大好きな妹と一緒に、一番好きな曲を初めて演奏した日。
 妹が歌って、お母さんがピアノを弾き、私はバイオリンを弾いた。
 観客はお父さんだけ。家族だけのささやかなコンサート‥‥」

B写真に写るのは三人の女性。それは幸せな家族の肖像。
写真の片隅に記された日付。2062年12月24日。

「十年前のクリスマス。私たちの、一番幸せな日‥‥」

In this way, the thread of the destiny is spun.
‥‥‥‥
・・・
かくて、運命の天輪は回り始める
真冬の夜に閉ざされし、雪の国の只中にて
・・・
‥‥‥‥

本当の北の国からのもうひとつの物語。 -When Kross the Midwinter Nite

真冬の夜(マローズ)を越えるとき〜
きたマロ Ver



>>  【幕間】雪の大地の御伽噺


北の大地に降り続く雪。天より降り続く白い雪。
冬と雪をつかさどる妖精たちは、いつまでもどこまでも続く白い景色に飽きていた。
面白味の無い雪景色。
妖精たちは口々に妖精の女王に訴えた。
私たちは春が見たいのです。
草花に彩られた大地が見たいのです。
どうして私たちは春を見る事ができないのですか?
妖精の女王は、哀しみを湛えた瞳で言いました。
それは、私や貴方たちが
春を‥‥殺してしまうからです‥‥と。
雪をつかさどる妖精たちは
自らの力で殺してしまうがゆえに
春をどれほど望んでも
触れる事はできないのです‥‥

ソーニャ・ミハイルは、ふと自分が目を覚ました事に気がついた。
軽く瞬きをした後でゆっくりと体を起こし、壁のカレンダーに目を移す。
2073年12月24日。
「そうか‥‥」
唇から、ポツリと漏れる言葉。
「あれからもう十一年‥‥約束の日から‥‥一年‥‥経つのか」

真冬の戦乙女が立ち上がるとき



>> Scene1 『戦士たちの休日』
Opening: “氷槍の戦乙女”ソーニャ・ミハイル


 2062年、冬。傭兵部隊『シルバーファング』は、シベリア戦線近くに在るロシア連邦の小さな街、クラスノヤノスクに駐留していた。
今回の任務はこの街の有力者一家、パウロヴァ家の護衛である。
護衛対象である一家を構成するのはみな女性であった。当主ヴァイオレットは理知的な風貌の優しげな婦人、夫は何らかの事情で離縁したらしい。その二人の娘、姉の名はフレデリカ・ユーリィ・パウロヴァ。14才。けぶるような金の髪に青い瞳の印象的な少女であり。
 妹のソーファ・ユーリィ・パウロヴァは6才。まだまだ幼い雰囲気も強く、ころころと、よく表情の変わる可愛らしい少女だった。
普段荒っぽい仕事の多い傭兵達にとって、けっしてやり易い任務ではなかったが‥‥
それでも、彼らは何とかうまくやっていた。

任務終了まで後一月を切った、そんなある日の夜。

BAR『ラードゥーガ』では今まさに祝杯が揚げられようとしていた。
今宵こよい誕生した、新たな同士に乾杯だ」
隊長の言葉に応えて歓声と共に高々と掲げられる、無数の酒杯と酒瓶。その中に一つだけ、控えめに掲げられたソフトドリンクの杯があった。その持ち主こそが今宵の宴の主役、当時16歳のソ−ニャであった。
ソーニャ・ミハイル。12年前に冬のロシアで戦火に巻き込まれ、天涯孤独となった身を部隊に拾われた。それ以降、この部隊は彼女にとっての“家族”となった。
部隊と共に世界中の戦場を巡ってきた彼女が“家族”達の為に自ら戦いの中に身を置く事を決意した事は、ある意味必然であっただろう。
「いいかソーニャ、これでお前も『シルバーファング』の一員として認められたわけだ。これからは、今までのように甘い顔はしてもらえねえからな、覚悟を決めとけよ?」
そう言ったのはサムという名の同僚だった。自ら“鋭敏さスピード幸運ラックがウリの”と名乗るほど腕利きの斥候である。彼と、今は何も言わずにソーニャの傍らで酒杯を傾けている男、“赤き剣の騎士”アークとが、ソーニャの教育係・兼チームメイトであった。
「‥‥それは望むところ」
かすかな微笑みを浮かべながらソーニャが返した言葉がこれだった。
実際のところ、ソーニャはこと、訓練でも実戦でも他者に甘える事はしなかった。部隊の一員として戦場に立つ決心を固めた頃からずっと、だ。
 勿論、それはサムとて解っている。その上でこんな事を言っているのは妹分をからかっているのだ。
二人のやりとりを聞いていたアークが苦笑する。
「サム、あまりこいつをけしかけるな。ただでさえじゃじゃ馬なのに、余計に抑えが利かなくなる」
「‥‥なによそれ」
たちまち憮然とするソーニャ。その表情が歳相応の幼さに見え、思わず二人は吹き出した。
膨れっ面のソ−ニャの前でようやく笑いを収めたアークが、ふと真摯な表情を浮かべて呟いた。
「‥‥俺達がこうして共に酒が飲めるのも、今日が最後かもしれないな‥‥」
膨れ顔から一転、渋面になった少女が聞きとがめる。
「止めてよ、縁起でもない。アークの予言って当たるんだから‥‥」
「まったくだ。それで助けられた事も数え切れんが、何も今そんな事を言わなくてもいいだろうよ」
「‥‥ああ、そうだな‥‥」
二人にたしなめられて口を閉ざしたものの、アークは再び口を開いた。
「‥‥ソーニャ‥‥お前は‥‥運命ってものを信じるか?そんなものが有るんだとして、運命ってやつは己の力で変える事ができると思うか?」
「‥‥今度はなによ突然」
戸惑いながらもソーニャはしばし考えをまとめ、そして言った。
「運命としか言えないものは‥‥有ると思う。少なくとも今の私が在るのは、部隊のみんなに出会えたからだから。それは‥‥運命だとしか言えないし。ただ、誰もそれ・・を事前に知る事はできないから。だから、なにをもって“変えた”と言うのかは、私には解らないけれど‥‥」
「そうか‥‥そんなものなのかもしれないな」
「‥‥なに?何か」
心配事でも有るの、と続けようとした言葉は、しかしそれ以上は続かなかった。傭兵達の疲れを癒す涼やかな旋律がBARの内部を満たしたからだ。
奏者はフレデリカだった。彼女は、その年齢からは想像できないほどに素晴らしいバイオリニストであったのだ。
無骨な雰囲気を漂わせている傭兵達が喧燥を収めて静かに聞き入る。最後の旋律が静かに消えたとき、全員の拍手が彼女を称え打ち鳴らされた。
軽く礼をとったフレデリカが、ソーニャのもとに歩み寄り祝辞を述べる。歳が近いにもかかわらず、まったく違う世界に生きている二人は、しかし不思議な事にとても気が合った。
「今日は、おめでとうございます、ソーニャさん」
「ありがと」
ややそっけなく聞こえるが、短い言葉の中には万の想いがこもっている。対人関係においてどこか不器用なソーニャの事を、フレデリカも、そしてソーファもよく慕っていた。と、その時だった。
「銃の使い方を教えていただけませんか?」
フレデリカの言葉がソーニャの耳に届く。理由わけを聞くソーニャに、彼女はこう答えた。強くなりたい、みんなの幸せを守れる人間になりたい、と。
やや困惑しつつも、ソーニャは答えた。なるべくなら銃を使うような人間にはフレデリカにはなってほしくないと。
 自分の立場を否定するような言葉。思わず驚いた少女に、彼女は言葉を続けた。
「私の本当の家族は、戦火に巻き込まれて私の前から永遠に消えてしまった。今の私は、銃を取ってはいるけれど、それは現在いまの“家族”を失いたくないからに過ぎないの。貴女には、私の様になってほしくない‥‥」
「‥‥忘れちゃいけないのは、“力”を持つ事イコール強い事では無いということ。少なくとも私にとっては、貴女のそういう決意自体が、貴女の強さを表しているような気がする‥‥」
 これは必ずしも、自分の言葉だけではないけれど。そう言って、少しだけソーニャは微笑んだ。
それを聞いたアークの瞳に何か形容しがたい光が浮かんだが、それに気がついた者はその場に一人としていなかった。
二人の会話が途切れたとき、BARの扉が軽やかな来訪音をたててソーファが姿を現した。おそらく、一人で屋敷に居るのが退屈だったのだろう。
 遅い時間に、一人で家から抜け出してきた事を叱るフレデリカと、姉の言葉にむくれるソーファ。そんな二人の姿を見詰めるソーニャとアークの瞳に、それぞれに違う色の光が宿っていた‥‥

真冬の戦乙女が立ち上がるとき



>>  【幕間】老雄と奸雄


 いったい何年前に掛けられたのだろうか、半ば朽ちかかった看板には剥げかけたペンキで『ドリームパーク建設予定地』と書かれていた。
 うっすらと夕日の中ににじむ尖塔や灰色の雪に半ば埋もれたアトラクション。
 建設途中で廃棄された遊園地。
 そんな夢の残照を背景にして、二つの人影が向かい合っていた。
 わずかに聞こえる言い争いの声からすると、どうやら双方男のようだった。
 その言葉に厳然たる意思を込めた、歳経た男の声。
 その言葉に不遜なる態度を込めた、幾分若い男の声。
 双方の主張が平行線をたどる。その間に張り詰めた緊張感が徐々に高まっていく。
 不意に声が途切れた。それは決別の合図。
 申し合わせたように銃火と刃光が交錯し、そして歳経た男が崩れ落ちた。
 倒れた拍子にコートから転がり落ちる小さな箱。
 落ちた衝撃でばね仕掛けの蓋が開き、周囲に物悲しいメロディが満ちた。
 蓋の内側には色褪せた写真。それは幸せな家族の肖像。
 自らが作った深紅の海に沈む男の瞳に、それは映っていただろうか。
 やがて日が沈む。闇の中、静かにメロディは流れ続ける‥‥


「‥‥何だと?」
 己の漏らしたその呟きが、まるで別人の口から漏れたもののように感じた。
 受話器の向こうから聞こえてくる言葉のほとんどが現実とは思えなかった。
 世界を渡る復讐の狩人は信じ難い想いそのままに、K−TAIを床に叩きつける。
 意識せずに呻き声が咽の奥から漏れ出した。

「レオニードが‥‥“親父”が死んだ‥‥?」
 雨が、降っていた。



>> Scene2 『Cold-Rain・Heat-Heart』
Opening: “狩天使”崇也(たかや)


 その日は朝から雨だった。

 白い雪に閉ざされた国、ロシア。その空はいつものように厚い雲によって灰色に染まり、しかし、いつもとは違って凍りつくような冷たい雨が糸のように降り続いていた。
 大地に眠る一人の男の死を悲しむかのように‥‥
 レオニード・アルサノフ。それが死した男の名だ。
 ロシアの闇を支配していたゴッドファーザー。どこまでも義にあつ篤く、情を重んじる懐古主義アーサーなロシアンマフィア。だが、その人徳は裏社会にのみとどまらず、表の世界に属する者達の間にも広く知れ渡っていた。
 日に日にその勢力を確実に伸ばしていたこの男は、突然の死を迎えた。体中に折れた刃が何本も突き立てられた状態で、廃棄された遊園地跡で発見されたのだ。
 かくて表裏の世界の区別なく多くの者達がその死を悼み、哀悼の意をその墓に捧げた。彼に世話になった者達がロシア中から駆けつけた。
そしてここに、かつてレオニードと杯を交わした若き“息子”も――その心に怒りの刃持つ、世界を翔ける復讐の天使も――その姿を現していた。

漆黒のコートに身を包み、その眼に明らかな怒りを称え、崇也は墓地の門を訪れた。彼を迎えた男の名は、ミハイル・フラシコフ。レオニードの腹心にして、崇也の元相棒サイドキック
「どういう事だ‥‥?」
静かな声音の内に激情を秘めて問う崇也。落ち着きを装った声がそれに答える。
「詳しい話は歩きながらだ‥‥」
背を向け、先導するミハイルの後に無言で続いた崇也の耳に微かに届いた言葉。
「‥‥こんな形で再会はしたくなかった‥‥」
「‥‥まったくだ‥‥」
それ以上の言葉はなかった。

レオニードの墓碑には簡素な装飾が施されていた。華美なところの無かった“親父”を思い出し、ほんの微かに苦笑が漏れる。あの頑固者の事だ。この程度の装飾にさえ、盛大に顔をしかめてみせることだろう。
ミハイルに渡されたバーボンを開け、軽く呷る。咽と胸を灼くこの酒はレオニードの好みだったが、その辛さと苦みがロシアに居た頃の崇也は苦手だった。今も、あまり好きな酒ではない‥‥が。
「今じゃ、これくらいしか親父の為には出来やしないからな‥‥」
「天に召されたわれらの英雄に‥‥乾杯だ」
残りをミハイルが墓石に注いだ。冷たい雨が、瞬く間に全てを洗い流していく。
しばし、男達の間に沈黙が降りた。それを破ったのは英雄の腹心。
「殺ったのは‥‥“ギルデンスタン”イェレミーヤだ」
レオニードとロシアの闇にて暗闘を繰り広げていた男の名をミハイルは告げた。生粋のロシアンマフィアでありながら幾本ものカタナを操る男。ゴッドファーザーとは対を成すもう一人の実力者。
己の父を守れなかった息子が、異国の義兄弟に問い掛ける。
「崇也‥‥俺達は家族だ。生まれた国を違えていても‥‥肌の色を違えていても‥‥」
それは、崇也にレオニードのファミリーと杯を交わさせるきっかけになった言葉だった。
「‥‥まして、血の繋がりが無かったとしても‥‥俺達は‥‥家族だ」
今でも、鮮明に思い出されるレオニードの言葉、そしてその表情。
「偉大な父親が殺されたとき‥‥俺達はどうしたらいい‥‥どう、するべきだと思う‥‥?」
「‥‥今更、俺に問うような事か?」
 はっきりと不機嫌そうに、けれどどこか楽しげに。
世界を巡る狩天使はその秀麗な横貌に、見る者全てが戦慄せずにはいられない壮絶な微笑を浮かべていた。
「‥‥行くぞ」
コートを翻してきびすを返すその背中を守るように、かつての相棒がその背を追う。
(イェレミーヤ・ゲールマン)
鮮血に彩られた復讐劇。その開幕のベルが今、高らかに鳴り響こうとしていた。
(貴様は必ず‥‥殺してやる!!)

真冬の夜を狩りに出るとき



>>  【幕間】マローズの檻


軍用の大型のトロンが設置された暗いオフィス。トロンを操作しているのはロシア軍の軍服を纏った一人の女性。肩にかかる程度に切り揃えられた金髪と左右色違いの瞳にモニターの光が反射する。
モニターに映るのは一人の青年。真紅の髪に紫紺の瞳。彼女の義眼と同じ輝きを放つ、人にあらざる色を纏った‥‥“光求める者”星丘 蓮。
彼の資料と共に添付されたメールをどこかに送信すると、彼女はそのまま軍のデータベースにアクセスする。
『遺産関連 / Legacy』。
項目に該当する全てのデータを削除あるいは消去し、作業を終えた女性は静かに立ちあがる。その唇から零れた呟き。
「ソーファ‥‥」
もう一度、決意を秘めた眼差しを沈黙したモニターに向け、彼女は部屋を後にした。
それからしばしの間を空けて‥‥
突如その場を支配していた静寂を破り、モニターに紅い翼を背負った天使のアイコンが現れる。
その手の一振りで消された筈の全てのデータを復元すると、天使は理論上無限の高さと広さを持つ電子の虚空へ羽ばたいた。
後に残されたのは“マローズの檻”‥‥天使の残した紅い檻‥‥



>> Scene3 『“生還する報道記者(イモータル・トーキー)”北へ!』
Opening: 生還する報道記者”ソラト・カミヤマ


光の欠片さえ無い、真の暗闇の中に彼はいた。トーキョーN◎VAの中でも最も深き闇の底‥‥
 BAR〔ヤロール〕の“イシュタル海”。N◎VAの闇に潜む多くの者達がひとときの休息を求め‥‥あるいは“ビ仕ズ事”の契約を結ぶ場所。
どう見ても彼はその場の雰囲気には似つかわしくなかった。しかしそれも道理ではある。
彼の役柄は“トーキー太陽”。闇を払い、その奥に隠された真実と正義を明らかにする事こそが彼の“仕事”なのだから。
「やっぱ、浮いてるよなぁ‥‥」
真の闇の中で、それを苦にする事無くテーブルのグラスに手を伸ばした時、ソラトは不意に背後に気配を感じた。
 右の義眼アイ・オブ・ザ・タイガーに映る人影は、なんら暗闇を気にする事無く彼の正面の席に座ると、ゆっくりと左手を差し伸べた。
「貴方がソラトさんですね。お初にお目に掛かります、マイケル・グローリーです」
死なないクロマクイモータル・フィクサー”。N◎VAの闇に厳然たる影響力を持つ男。しかし、その業界では知らぬ者のいない大物フィクサーを相手にしても、ソラトの態度に変化は無い。
「貴方を指名して護衛カブトの依頼が来ています」
「‥‥それ‥‥筋違いじゃあないか?俺はカブトボディガード生業なりわいにしている訳じゃない」
 こんな場合でも外さないマリオネットの腕章を叩いて言うソラトに、
「先方も、それを承知の上で依頼を持ち込んだのですよ。“今は”名前を明かす事はできませんが‥‥素性の確かな人物です。保証します」
闇の中にジッポーライターの火が灯り、差し出されたホロを照らし出す。
写っているのは15・6才の少女だった。その面差しに見覚えを感じた彼の口から呟きが漏れる。
「ん?‥‥このは‥‥」
「お知りあいですか?」
「ああ。以前ちょっと、な」
答えながら記憶を呼び起こす。そう、あれは確か三年前。ロシア連邦の一都市、サンクトぺテルブルグにあるオペラ座と、専属劇団の取材に赴いた時の話だ。劇団期待の若手歌手としてデビュー間近だった彼女を取材した。その時彼女を巻き込んで起こったある事件の際に、成り行き上彼女を護った事があった。彼女の名前は‥‥そう、確か――
「ソーファ。ソーファ・ユーリィ・パウロヴァ」
軽く肯いてマイケルは言葉を続ける。
「彼女の護衛が今回の依頼内容です。貴方の上司に話は既に通しておりますので」
「‥‥上司デスクはなんて?」
「受けるかどうかは貴方に一任すると」
しばしの間を置いて、軽く息を吐いたソラトは“YES”と答えた。
「ま、知らない仲じゃなし。上に通しているんじゃ、断る理由は無いしな‥‥それに‥‥」
ホロをもう一度眺めてみる。そこに写る少女はかつての彼女より数段美しく、けれどもそれは密やかなもので‥‥
 耳に蘇る、澄んだ歌声。
「‥‥久しぶりに彼女(ソーファ)の歌が‥‥聴きたくなったから‥‥な」

三日後、ソラトの姿はロシア連邦サンクトペテルブルグの中心近く、オペラ座≪アルタイル≫の前にあった。数百年の月日と、あの“災厄”をも乗り越えてきたと言われるその建造物は、三年の月日を経てその荘厳な雰囲気を更に際立たせている様にも見えた。
守衛には話が伝わっていたのか、赴いた理由を説明するとすんなり通してくれた。適当に歩く事しばし、やがて見えてきた舞台では劇本番に備えての準備の真っ最中であった。
「‥‥お久しぶりです、ソラトさん」
舞台上で指示を出していた老紳士‥‥この件の依頼人である劇団の総支配人、ウィリアム・ロズモンドがソラトを見つけ挨拶をしてくる。
「お久しぶりです‥‥三年前はどうも」
「三年か‥‥月日の経つのは早いものだ。だが君は‥‥あまり変わらないね」
ひととおりの挨拶を終え、ロズモンドの表情に真摯なものが宿る。
「仕事の内容だがね。最近、私達の周りで‥‥特にソーファの周囲で不思議な事が起こるのだ。まるで‥‥」
「あ、すみません。通してくださ‥‥きゃ!?」
「!?っと!」
後ろから聞こえてきた声に反応したソラトは、目の前に迫っていた巨大な月‥‥のえが描かれている背景用のパネルを受け止め、同時に、バランスを崩した少女の腰に手を回して、身体を軽く支えた。
「‥‥あ、有り難うございます。どうもすいませ‥‥あ!ソラトさん!?」
「よう。久しぶりだな、ソーファ。覚えていてくれていたか?」
「‥‥はい!」
報道屋の腕の中で、成長した歌姫が嬉しそうに肯いた。

その場は簡単な挨拶だけで済ませ、ソラトは警備状態を調べる為に劇場内を散策していた。その脳裏に、支配人の言葉が蘇る。
(ソーファの事を、まるで何者かが見張っているような気がするのだ。君に頼みたい事は彼女を‥‥ソーファを護る事と、劇が期間中支障無く運営できるようにしてくれる事‥‥)
「任せとけって」
ぼそりと呟き周囲に注意を払うなか、劇団員達と共に舞台準備を整えていたソーファの姿を思い出す。その胸に、一際目立つ深紅の宝石を抱いた歌姫。
「必ず守ってやるさ」一度たりとも違えた事の無い、それは彼と依頼人との約束。

真冬に少女を守るとき



>> Scene4 探偵(フェイト)軍人(アームズ)
Opening: “光求める者”星丘 蓮


ロシア・サンクトペテルブルグ郊外。雪原にただ一軒建つ大きめの屋敷の玄関を、一人の青年が訪れていた。軽く雪を払い、紫紺の瞳に映るノッカーに手を伸ばしながら、青年の‥‥星丘蓮の思考は冬のロシアを訪れるきっかけとなった数日前の会話にさかのぼ溯っていた。

「お久しぶりです、蓮」
N◎VAで探偵を営んでいる蓮の事務所。そのDAK画面の向こうに現れたのは、かつての国を訪れた際の事件で協力し合った、うら若きロシア軍人“白きフェンリス”だった。
「貴方に頼みたい事が有るんです、ロシアまで来ては頂けませんか?」
ロシア軍所属の彼女と蓮が知り合ったのは一年ほど前の事。ロシア軍から軍需物資を横流ししていた軍人を共に追い詰め、その時、戦場に入り込んでしまった少女を二人で助けた事がきっかけだった。
「いいよ、今は幸い何も仕事が入ってないからね」
 その顔に柔らかい微笑ほほえみを浮かべて軽くうなずく蓮に、フェンリス‥‥フレデリカはほっとした表情を浮かべる。
「チケットは送付しておきます。あと、旅費兼報酬としてプラチナムを」
ただの頼みにしてはやけに高い。それが意味する事を解っているのかいないのか、相も変わらずのんびりした感覚で蓮が言葉を紡ぐ。
「旅行がてらっていうのも、悪くはないよね。でも‥‥そんなに危険な仕事なの?」
「‥‥どうでしょう、個人的な事ですから」
「ふうん‥‥まあ、いいか。そちらに行けば解る事なんだしね」
そして今、彼はロシアにいる。

ノッカーを鳴らすと、しばしの間を置いてから「入ってください」頭上のテラスから声がした。
言われたとおりに中へ入ったところで、蓮の聴覚がヴァイオリンの調べを捕らえる。美しいその音色、そのメロディには聞き覚えがあった。
『真冬の夜を越える時』。ロシアのみならず世界的にも有名な、騎士フィン・マックールと、天より降りた戦乙女フェンリスの悲恋を描いた。その第一幕“白きフェンリス”のメロディ。
音を追う様に二階に上がると、開け放たれたバルコニーのガラス戸の向こう、白く輝く満月を背にして、フレデリカが静かに旋律を奏でていた。
第一楽章が終わり、軽く息をついた彼女に拍手を送りながら蓮が問う。
「あれからも、ずっとヴァイオリンは弾き続けていたんだね」
「ええ」
短く答えたフレデリカが部屋の中の椅子を勧める。席に着いた青年に、青と紫、色違いの双眸を向けて言った。
「‥‥貴方にお願いしたいのは“エリューナの蒼玉”の捜索です」
そう言って差し出した写真には深い色を宿した蒼い宝石。帝政ロシアから伝わる宝玉で、彼女はそれを探して欲しいのだと言う。
「私個人としても、とても大切な思い出のある品なんです‥‥ですから、貴方に頼みたいんです」
答えず、しげしげと写真に見入っている探偵に言葉をつな繋ぐ。
「お願いします。それと‥‥期限は、なるべく早いうちが‥‥」
「これ」フレデリカの言葉を遮るように、蓮の口から言葉が滑り出す。
「ロシア国内に在るのは間違い無いんだよ‥‥ね?」
「‥‥それは、確実です」
「うん」
青年探偵は紫紺の瞳を依頼人に向けると、再びその貌に柔らかい笑みを浮かべた。
「必ず、探し出すよ」
信頼の微笑みでそれに応えた“白きフェンリス”は、そこで静かに礼をとった。

真冬の夜を照らすとき


ミハイル「はじめまして。恥も外聞も無くこんなアクトノベルを執筆しやがった筆者に代わって、アクト中に為された各種判定・神業使用のタイミングなんかを解説する羽目になった、レオニード・アルサノフの不肖の“息子”、ミハイル・フラシコフだ。で‥‥」
「ニューロエイジの皆さん、はじめまして。筆者をこの世界に引き摺り込む一端を担いました、筆者の初キャスト“恵・C・蓬莱寺”(めぐみ・クリスティン・ほうらいじ)です」
ミハイル「それで、どうしてこの物語に欠片も関わりの無いお前さんが此処に来る事になったんだ?」
「書き易いからだって」
ミハイル「あ?」
「だから、ボクの口を借りた方が書き易いんだって、解説」
ミハイル「‥‥あの野郎」
「あと、これまで覗かせて頂いた、RI財団掲載の真冬の夜を〜マローズのレポートが、どちらも解説は二人がかりの掛け合いでテンポ良くこなしていたから、自分もキャラクターを二人ほど用意したら少しはまともに文章が書ける気がするって‥‥」
ミハイル「そりゃ気のせいだな(断言)。だいたい、他人様の真似をしてでもまっとうな文章を書きたいっていうその根性が気にいらねぇ。いいじゃねぇか、下手でもなんでも。少しは自分で試行錯誤しろってんだよ」
「なんだか妙に筆者に厳しいご意見だね。それにミハエルさん、劇中よりも言葉使いが荒くない?」
ミハイル「色々と思うところが在るって事だよ‥‥筆者がな」
「(納得の表情で手を打つ)ふーん、なるほど。それじゃ、そろそろ解説をちゃんとしましょうか。まずは各人のオープニングから」
ミハイル「とは言っても、他の人達の書いているのと大差無いけどな。変化が在ると言えば、せいぜいタイトルぐらいのものか?」
「あまり変えようの無い部分だし、仕方が無いといえば仕方が無いよ(苦笑)。ここが最も実際のプレイ内容とかいり乖離していない部分だね」
ミハイル「演出最小限ってやつだな」
「特徴的なのは【幕間】が在るって言う事かな?」
ミハイル「それって“天羅万象・零”の用語だな」
「実際のプレイでは1つのシーンとして処理されているんだけど、それだとあまりにシーンの数が多すぎるっていうんで、こういう形をとったらしいよ」
ミハイル「読み易いか読み難いかは意見の分かれそうなところだな。メインと背景設定を明確に分ける効果は有ると思いたいが‥‥」
「キャストは軍人役を除いて全員男性、しかも日本人系の名前ばかりなのが特徴といえば特徴かな。軍人役が女性というのは、ボクの知る限りでは初めてだね。《キャンベラAXYZ設定委員会》様の“関西版マローズ”にはカブト役で女性キャストがいたけれど」
ミハイル「プレイヤーの事を悪く言いたくはないが『あくまで女性キャストを』って言い続けてたJ−kこたつねこさんにはプレ・プレアクトの段階でRLが途方に暮れていたところもあったな」
「RLに応用力が無いんだよ。はたはたさんの書かれた“マローズ〜”の中でも言っていた事だけど、本来軍人役は男性キャストでないと絵になりにくいんだ。これは他のキャストにも言える事だと思うから、キャストは全員男性であるのが理想だと思うけどね」
ミハイル「プレイヤーの嗜好やスタイルを尊重するなら、多少理想と離れていても受け入れるのが真のプレイヤーフレンドリーってモノだろ。結果論になるけど、全体としては上手く演出できたと思うぜ?まったくプレイヤーさまさまだな。応用力の無いRLをよくフォローしてくれたもんだ。感謝しなけりゃな」



>>  【幕間】“堕ちた赤騎士”

雪の降り続くクラスヤノスクの街。その一角、『シルバーファング』駐屯地。
その手に燃えさしを持ち、燃料を蒔いた弾薬庫前で一人佇んでいる男がいた。
“紅き剣の騎士”アーク。隊員等の信頼も厚い、古株の傭兵。
だが、ならばその男が何故なにゆえに、部隊と街を破滅に陥れるような真似を成そうとしているのか。
その脳裏に、数刻前伝えられたロシア軍からの指令内容が思い出される。

『“スリーパー”、お前の能力が必要となった。本日23:00、本隊が到着する。ねてからの打ち合わせ通り、それまでに“力”を用いて部隊を沈黙させろ』
『迷う必要など無いだろう?いや、そもそもお前には迷う自由すらない筈だ。それでも‥‥選択したいというのなら、好きにするがいい』

後に、この一件をきっかけとして同僚より“邪眼使い”と呼称される事になる男は、静かに言葉を紡ぐ。

「奴等は取引きだ、と言った。この件の免責の保証と、俺にとって何より大事なものの保証」
「だが‥‥悪魔との取引きは、いつだって最悪の代償を求めるものだ。それで俺は仲間を売った。それが、俺に求められた取引きの代償‥‥」
「何より大事なものの為に、かけがえの無いものを手放した。けれど、その道を選んだのは間違いなくオレ自身だった」
「俺には弟がいた。ひとまわりも歳の離れた弟が。‥‥弟は病気だった。‥‥いつ死ぬかもしれない病気だったんだ」

その手を離れた小さな炎が、全てを滅ぼす業火となるべく、静かに大地に舞い落ちる。

(―生きながらにして腐るとは、我のことか―)

言葉と共に吐き出された、白い吐息が闇に溶けると同時に――
爆炎が周囲の全て、休息中の『シルバーファング』本体人員の大半と、装備全てを飲み込んだ。

「アーク!てめぇ、何やってやがる!?」

怒号と共に走り寄ってくる、巡回に出ていた傭兵達。彼らの方へと向けられた、深紅の瞳が輝きを放つ。涙と共に(こぼ)れ落ちた支配の力。

―コ・ロ・シ・ア・エ―

 同時刻。
大規模なデータを扱う、メインフレームの取り揃えられた軍用指揮車両の内部。左目を眼帯で覆った軍服姿の男が、フレームのディスプレイに映る影と対話していた。

「部隊の配置は滞りなく。本日23:00、目標に到達するものと思われます」
『ご苦労。彼らの戦力の程度を報告せよ』
「対人任務を想定された必要最低限の武装のみです。内部撹乱に呼応して状況に対処したならば、すぐに殲滅できるものと思われます」
『双珠の捜索が最優先任務であることを忘れるな。状況に応じ、迅速に対応しなさい。以上』

画像は唐突に消え、ディスプレイは一面銀色の砂嵐に覆われる。画面に再度敬礼した軍人はそのまま備え付けのマイクに手を伸ばした。

「我々もクラスヤノスクに進軍する。街に存在する人、物、ありとあらゆる全てを殲滅せよ。動くものは土に還せ!」



>> Scene5 『23:00(十年前のシーン/1)』
Research: “氷槍の戦乙女”ソーニャ・ミハイル

始まりを告げたのは激しい爆音。何かに操られるかのように凄惨な同士討ちを繰り広げる傭兵達。夜の闇に紛れて接近したロシア軍三個師団による殲滅戦。
傭兵団『シルバーファング』を含めて、一夜にしてクラスヤノスク市街の全てを破壊し尽くした“クラスヤノスクの惨劇”は、こうして始まった。

場所は街外れの宿舎の一室。その晩、宴の最中さなかのアークの様子が気になってなかなか寝付けなかったソーニャは、突然の轟音に沈みかかっていた意識を覚醒めざめさせた。
「なに!?」
とっさに跳ね起き壁のジャケットを羽織ると、窓から街の様子を窺う。無数の炎に照らされる市街、ひっきりなしに聞こえる銃声、怒号、断末魔の悲鳴。
中でも一際大きな炎が、弾薬庫の在った辺りを中心に燃え盛っていた。動揺を押し込めるようにポケットロンで隊長とアークをコール。だが、二人とも応答する気配が無い。
「‥‥!」
覚悟を決めた。
支給品の“45cal ストッパー”と簡易サバイバルキットとをホルスターに押し込めると、ソーニャはクラスヤノスクの街並みに飛び出した。目指す場所はただ一つ、パウロヴァ家本邸!


街中を走り抜けるなかで見たものは、想像をはるかに超えてひど酷いものだった。彼女の視界に映るものは、瓦礫と血と屍骸と硝煙と雪に彩られた、変わり果てたクラスヤノスク。そして彼女は、パウロヴァ家を見上げる坂のふもと麓で信じられない光景を目撃する。

いくらも離れていないパウロヴァ家の外門。その基部にうずくまる人影に警戒して銃口を向けた瞬間、それが誰なのかソーニャは理解した。
「‥‥よう‥‥ソーニャか‥‥みっともねぇところを見せちまったな‥‥」
「‥‥サム‥‥」
全身をあけ朱に染めて苦笑いするその男。団員随一の機敏さと幸運を誇る男が、力無くうずくまっていた。
「‥‥一体、どういう事‥‥?何が‥‥」
「みっともねぇツラすんな。‥‥アークの野郎さ。だがな‥‥どうしてあいつが‥‥それがわからねぇ‥‥」
荒い息の中で、そう答える。致命傷を負っているのはすぐに分かった。手の‥‥施しようが‥‥無い。
「‥‥とどめは、いる?」
たった一言を口にする事は、これほど辛く苦しいことだっただろうか?
「‥‥いらねぇ。‥‥けどな」
不意に伸びた右腕がソーニャの襟首を捕らえ、その体を引き寄せる。囁ように押し出される言葉。
「いいか‥‥お前は絶対にこっち側に来るんじゃねぇぞ!お前は‥‥ここで死ぬには早すぎる」
襟をつかむ震える拳に静かに右手を被せ、ソーニャは‥‥静かに言葉を返した。
「‥‥忠告、肝に銘じておきます。‥‥先任」
それを聞き届けたか、サムの貌にわずかな微笑みが戻り‥‥そして。
力の抜けた右腕が、静かに雪の上に、落ちた。

燃え盛る室内。左の眼を眼帯で覆った軍人が、冷酷な表情で拳銃をもてあそんでいる。その前には、四肢のことごとくを撃ち抜かれながらも気丈に口を閉ざし続けるヴァイオレット。その後ろには震える手に拳銃を構えているフレデリカと、姉を支えるソーファがいる。
「‥‥話す気はないのだな。ならば我々で勝手に調べ上げるまでだ」
無造作に引かれる引き金。銃声と共にヴァイオレットの肢体が崩れ落ちる。更に銃口の向かう先には二人の姉妹。母親を殺された恐怖に震えながらも、強い意志を宿した瞳で睨み返す。
「‥‥貴様等も話す気はなしか‥‥生意気な。まあいい。すぐに気が変わるようにしてやる」
銃口がフレデリカの瞳に向けられる。
「まずは‥‥姉の右眼からだ」

その瞬間、燃える扉が氷漬けになり、蹴りの一撃で木っ端微塵に砕け散った。
「無事か!?」
言葉と‥‥扉の破片と共に駆け込んでくる一人の少女。
反応しようとした軍人の指に力が入る。フレデリカの、拳銃を握る手がとっさに動く。状況を見て取ったソーニャが銃口をポイントする。
響いた銃声は一度。放たれた弾丸は三発。
撃ち抜かれた右眼と胸から血を吹き散らして倒れる軍人。そちらを一顧だにせず、ソーニャは姉妹に駆け寄った。
護衛の姿に安心したのか、気が抜けたように倒れ込むソーファを、胸に受け止めるソーニャ。顔を抑えてうずくまるフレデリカにキットから治療用具を出しつつ声をかける。
「フレデリカ、傷を?見せなさい、すぐに」
「‥‥はい‥‥」
消毒液にひたしたハンカチで血をぬぐい、傷を診る。右の眼球が、無惨にも弾丸にえぐられていた。命に関わるような怪我ではないが、失明は避けられないだろう。
「‥‥来て、くれたんですね‥‥」
片目で静かに微笑むフレデリカの顔を正視することができなかった。守ると、約束したのに。守れなかった。‥‥取り返しのつかない傷を負わせてしまった。
視線を向けた先に横たわる、ヴァイオレットの遺体。一瞬あらわになった苦渋の表情を押し隠して、ソーファの体を抱きかかえながら言う。
「状況を説明している暇はないわ。ここから、クラスヤノスクから、脱出する」
「‥‥はい」
傷を負っているフレデリカに肩を貸し、ソーファを腕一本で抱えながら、傭兵は立ち上がる。部屋を後にした三人の後ろで、ヴァイオレットと隻眼の軍人の死体を巻き込み、炎が更に勢いを増した。

屋敷を出た三人を待っていたのは、勢いを増して吹きすさぶ吹雪だった。羽織っていた防寒用のジャケットをフレデリカに着せ掛け、雪と寒気から身を守る障壁を張る。雪と氷、冷気を操る異能を持つソーニャにとっては、この吹雪も視界を遮る程度のものでしかない。
身を寄せ合うように歩く三人だったが、郊外に出るかどうか、丘を越えた所でついにフレデリカの膝が落ちた。
「‥‥すいません。ソーニャさん、護衛の仕事を‥‥受けてもらえませんか?」
「‥‥?私は、私達は貴女達一家の護衛を受けてこの街に来た。契約は有効‥‥依頼遂行の真っ最中よ」
「そうじゃない‥‥です」
ゆるやかに首を振り、顔を上げ、しっかりとソーニャの瞳を見据えて言葉を続ける。
「これで‥‥」
そう、言って差し出されたのは、蒼い輝きを放つ大粒の宝石だった。
「これで、ソーファの事をお願いします。私は‥‥もう、動けそうにありませんから」
「‥‥死にたいの?」
 聞き返す声は冷徹な響きを伴っていた。
「人は、自ら生きる意志を捨てない限り‥‥そう簡単には死なないもの。貴女が自身で生きる事を諦めたのでない限り、私は貴女を死なせない」
しんし真摯な表情で言葉を聞いていたフレデリカは、厳しい言葉の裏にあるソーニャの真意に気づいていた。だからこそ、柔らかい微笑でそれに応える。
「‥‥できれば、そうしたいです。でも、私達二人を抱えていてはどうしたって‥‥」
そこまで言った時、辺りに爆音が響き渡った。

丘の向こうから“ワイズマン”軍用攻撃ヘリが雪煙を立ち昇らせつつ飛びあがる。虚を突かれた形になった一同に向け、近距離から“朱雀”対人ミサイルが叩き込まれた。

その一瞬に起こった事を、その後の人生でソーニャが忘れた事は一度たりとも無かった。

ものも言わずに、フレデリカがソーニャを突き飛ばした。不意を突かれた傭兵が、ソーファをその腕に抱えたままで丘を転がり落ちていく。落ちていく中でソーニャの視界に捕らえられたのは、こちらを見下ろすフレデリカの微笑み。
その微笑みを、炎と爆発が覆い隠した。
爆風に押されるように更に数回転。丘のふもと麓近くで体を起こしたソーニャの眼に映ったのは、立ち昇る黒煙、ただそれだけ。呆然とするソーニャの視界のすみで光るものがあった。
蒼い宝石。フレデリカが、妹を託す時に差し出した――
手に取り、その輝きを見ながらつぶやく。
「‥‥死者からの依頼、か。部隊のかたきう敵討ち、アークの事も考えると‥‥」
 いまだ意識を取り戻さないソーファを見やり。
「‥‥この子には知られたくない道を‥‥歩く事になりそうだ、ね」

そして、傭兵の姿は雪の向こうに消えていった。その胸に、かけがえの無い一つの命と、かけがえの無い約束をいだ抱いて‥‥

クラスヤノスクの街並みが血と炎にじゅうりん蹂躪され、全てが大地に還っていく中で‥‥
郊外で、雪とすすと血にまみれて倒れている、一人の少女を抱え上げる男がいた。
深紅の瞳で見やった少女の息は細く、だが、その命の鼓動はしっかりと感じられた。
「生き残ったのか‥‥」
呟き、静かにその場を後にする。その腕にしっかりと少女の身体をだ抱きながら。
男の名は“邪眼使い”アーク。この後、成長した“白きフェンリス”フレデリカと共に、ロシア軍・対内防諜局の一員となる男である――

真冬の戦乙女が立ち上がるとき



>> Scene5 『“星は何でも知っている”』
Research: “光求める者”星丘 蓮


「なんだか、とんでもない事になってきたような‥‥」
サンクトペテルブルグの大通りから少し外れた喫茶店で、これまで調べ上げた情報の整理を行なっていた蓮の口から、そんなとぼけた感想が漏れた。
蓮が“エリューナの蒼玉”について調べてみたところ、様々な情報が手に入ったのだが、そのどれもが何やらきな臭いモノばかりだったのである。
“エリューナの蒼玉”には、対になる“エリューナの紅玉”が存在する。これらそれぞれは、ロシア連邦最後の皇女アナタスタシアの末裔とされるパウロヴァ家に伝わっており、そのパウロヴァ家最後の姉妹、フレデリカ・ユーリィ・パウロヴァとソーファ・ユーリィ・パウロヴァが所有していたらしい。しかし、十年前にパウロヴァとクラスヤノスクの街を巻き込み起こった“クラスヤノスクの惨劇”によって姉フレデリカは死亡、妹ソーファは行方知れずになってしまったとされる。勿論、二つの宝玉の行方もまた、闇に消えてしまったのだ。
しかし、蓮の意識には“白きフェンリス”の姿が引っかかっていた。彼女の過去についてはあまり多くを知らないが、戦災孤児であったという話は聞いた事がある。『フレデリカ』という名を持つ軍人が、『フレデリカ』の所有していた蒼玉の行方を求めている。これは、決して偶然ではありえない‥‥

“クラスヤノスクの惨劇”についても調べてみた。そもそもこの事件は、死のベルト地帯の放射能汚染によって発狂した、当時街に駐屯していた傭兵部隊『シルバーファング』の同士討ち、及び呼応する形で発生したテロの暴動によって引き起こされ、鎮圧に向かったロシア軍の殲滅戦によって幕を閉じたとされる。しかし、蓮はその裏に、ロシア軍の陰謀の匂いを嗅ぎ取っていた。
傭兵部隊『シルバーファング』。その名前を、蓮はよく知っていた。仕事がらみで関わった事のある、とある女性に聞いていたからだ。
ソーニャ・ミハイル。光を操る蓮と同様に、氷と冷気を操る異能を誇る、銃使いカブトワリ。それほど親しい関係ではないが‥‥『シルバーファング』の仲間の事を語る彼女を見た事があれば、テロの首謀者として、パウロヴァ家のフレデリカを殺害した犯人として彼女の名前が挙がっているというこの事実が、真実と違う事など容易に想像がつく。
蓮の思考は更に先へと進んでいく。
世間一般で知られているの惨劇が、ロシア軍による狂言であるとすれば、何故そんな事件を引き起こすに至ったのか?その答えは今現在のロシア軍の動きが教えてくれた。
ロシア軍・対内防諜局というセクションが活発に動いている。目的は“エリューナの双珠そうじゅ”、すなわち蒼玉と紅玉の捜索だ。これが十年前当時クラスヤノスクに存在していた事と考え合わせると、ロシア軍は双珠を得る為に惨劇を引き起こしたのだと考えられる。まったくもって正気の沙汰とは思えないのだが、それもやむを得ないのかもしれない。双珠に隠されている秘密とは、それだけのものであったのだ。
それは、“ロマノフの遺産”。
詳しい情報収集はこれからだが、帝政ロシア時代から災厄を越えて受け継がれてきたものらしく、これに通じる鍵となるのが双珠それぞれに刻まれた6桁のナンバーなのだという。
「危ないよねぇ‥‥これは」
思わず苦笑が漏れる。対内防諜局を動かしている人物を調べる為、深く事情を探りすぎてしまった事を思い出したのだ。
ロシア軍対内防諜局局長“マローズの檻”。外見年齢三十代前半のロシア美女だが、業界に現れた十数年前以降容姿が衰えず、また、何度死亡が確認されても必ず蘇ってくるその不死性から全身義体との噂も根強い。もしも彼女が評判通りの才媛であるのなら‥‥蓮の動きもまた、捉えられているのかもしれなかった。
「それなら、それでいいかな‥‥」
どうせこのままではいられない。蒼玉を得る為には様々な事象と出会っていき、その一つ一つを分析していく必要がある。その過程で水面上に出なくてはいけない事だってあるだろう。
どう動くにしても、誰にも知られずに済むなどという事は、そうそうありえる事ではないのだから。
そう思った矢先、ポケットロンの呼び出し音が響いた。

真冬の夜を照らすとき



>> Scene7 『オペラ座≪アルタイル≫にて』
Research: “生還する報道記者”ソラト・カミヤマ


サンクトペテルブルグの最南端に位置する歌劇場オペラハウス≪アルタイル≫。その門は開け放たれ、内部からは舞台や観客の活気に満ち溢れた声が聞こえる。その舞台裏。控え室の一つにソラトはいた。
気になっていた、ソーファの紅い宝石。試しにロシアの裏通りで仕入れてきた情報により、彼はかなり重要な情報を手に入れていた。
宝石の正体は“エリューナの紅玉”と呼ばれる、ロシア連邦最後の皇女アナスタシアから受け継がれ続けてきた宝玉だった。対になる“エリューナの蒼玉”と共に“ロマノフの遺産”に通じる道を示す、6桁のナンバーの刻まれた首飾り。そして、それを狙ってソーファの周囲で策動していた、ある男の身元‥‥
ロシアンマフィア“リューリク”の幹部代表、イェレミーヤ・ゲールマン。
つい十日ほど前に敵対する組織のレオニード・アルサノフを殺害し、名実ともにロシアの闇に最大級の影響力を行使する立場に就いたと、ストリートで盛んに話題になっていた。
その男が、“一番大切な思い出プリマヴィスタ”ソーファと彼女の有する“エリューナの紅玉”に、強い関心を示しているのだ。今日も歌劇オペラ真冬の夜マローズを越える時”の公演を見に来ているらしい。
そしてもう一つ、イェレミーヤが協調している組織が調査線上に浮かびあがってきた。
ロシア軍・対内防諜局、通称“クリムゾンブレイド”。
“マローズの檻”なる美女に率いられるこの組織が、イェレミーヤと協力して“エリューナの双珠”の捜索にあたっているというのだ。
「リューリクのゲールマン、対内防諜局、双珠にまつわる謎と真実‥‥か」
天井を見上げ、思いを巡らせるソラトの拳に、我知らず力が篭もった。

真冬に少女を守るとき



 
Research: “狩天使”崇也(たかや)

親父(アルサノフ)の葬儀よりおよそ七日。偽装されたワゴンの中で、イェレミーヤが≪アルタイル≫に入場するのを確認した“狩天使”は、その秀麗な面差しにうっそりと笑みを浮かべた。コートの下に隠したカタナの感触を確かめるように、ゆっくりと中に入っていく。
警備員の一部は、事前に入れ替わったミハエルの部下達だ。軽く肯きかけてくる“家族ファミリー”達に眼で応え、ミハエル相棒に背中を任せて、崇也は静かに客席へ向かう。

辺りを照らすのは、きらびやかないくつものシャンデリア。ゆるやかな曲線を描く階段が続く。観客席のある中央ホールは張り詰めた空気と熱気に包まれ、フィアナ騎士団の騎士フィン・マックールと哀しき戦乙女の歌声が響き渡る。
観客席の上段、賓客席にイェレミーヤはいた。黒服に身を包んだ紅い髪のその男は、舞台の上で繰り広げられる悲劇を眺めている。歌劇の主役、“プリマヴィスタ”ソーファと、その衣裳の胸元に輝く深紅の宝珠に鋭い視線を送りながら。


人を治す為に泣き続けて、私はもう泣けなくなった。
命を粗末にしすぎたから、大事な時に泣けなくなった』

イェレミーヤの居場所を確認しながらも瑠璃色の歌声に耳を傾けていた“狩天使”は、不意に舞台上から流れてくる慣れ親しんだ雰囲気に気づいた。血に飢えた獣を目前にしている時、あるいは、身近に“死”を見た時に感じる独特の気配‥‥殺気。
「ふん‥‥」
静かに‥‥舞台を見やる。

真冬の夜を狩りに出るとき



>> Scene8 『戦乙女と死神』
Research: “生還する報道記者”ソラト・カミヤマ


「ソラトさん‥‥どうかしましたか?」
第二幕が終わり、舞台裏に休憩に来たソーファが心配そうに言葉をかける。その声に、深く考え事をしていたソラトは、ふと我を取り戻した。
「いや、何でもない」
とっさにそう答えたのは、ソーファに無用な心配をかけたくなかったからだった。もっとも、とても成功したと言い難かった事は、彼女の表情を見れば明らかだったが‥‥
改めてソーファを見やり、そこで、ソラトは初めて戦乙女の衣裳を身に纏った彼女を間近で見た。
思わず眼をみはった。意識せずに言葉が零れる。
「‥‥奇麗だな」
「あ‥‥」
一瞬言葉に詰まったソーファが、見る間に顔を紅潮させる。笑顔になり、一言。
「‥‥ありがとう、ございます」
俯きがちに礼を口にした彼女を見て、自分が何を口走ったのか自覚する。けれど、なんの飾りも無く口にした言葉はソラトの本音だった。本当に戦乙女がいたとしても、今のソーファの美しさにはかなうまい。
戦乙女の扮装に、その胸の紅玉はよく映えた。
「まだ二幕目だろ?がんばれよ」
「はい!」
次の三幕目までには時間がある。控え室でしばしの休息を取った。

「‥‥そういえばソラトさん、普段はN◎VAで暮らしているんですよね?私はロシアの事しか知りませんけど、噂でだけは聞いています。自由の国は、どんなところですか?」
「‥‥N◎VA、か」
胸の内に湧き上がる複雑な想いをかみしめるように言葉を選ぶ。
「いろいろな刺激に満ちた都市まちだ‥‥繰り返しの毎日を過ごすのが苦痛な奴等には、いい処かもしれないな」
「‥‥刺激、ですか‥‥?」
 首を傾げ、少し苦笑しながら、歌姫が言葉を続ける。
「‥‥ロシアの大地は雪と冬に覆われて‥‥刺激には乏しい土地ですけど。でも、平穏といえば平穏なんですよね‥‥。行ってみたくはありますけど、でも‥‥少し、恐い様な気もします」
「恐い、か‥‥確かにそうかもしれない。けれど、自分を変えていきたいと思う奴にはいい土地だよ。いろんな可能性に、気づかせてくれるからな」

やがて三幕開始十分前のベルが鳴り、他愛の無いやりとりが終わりを告げる。少女ソーファは舞台に上がり、護衛ソラトはそれを見送る。彼が側にいなくてもソーファの胸に不安は無い。なぜなら、太陽トーキーは、常に見守り続けるものだから‥‥

≪アルタイル≫舞台袖の待合室。
片やフィアナ騎士団の騎士フィン・マックール、片や戦乙女フェンリスに忍び寄る黒き死神。それぞれの扮装をした二人の若い劇団員が出番待ちの間に談笑している。
その背後の空間を虚空から現れた大鎌が切り裂き、音も気配も無く黒衣の男が現れる。闇よりもなお深い夜色のローブを纏い、その腕にいだ抱かれるのは神々を滅ぼす大鎌“クロゥ‐クルーアッハ”。
「ニブルヘイムの眠りの粉よ‥‥」
伸ばされた左腕から放たれるきらめきに包まれた二人の劇団員が、一瞬で意識を失い倒れ込む。
ニューロエイジに一千の死と恐怖をもたらしてきた死神、“デスサイズ”インフェルナスは舞台進行のほどを見やると、髭の口元にうっすらと笑みを浮かべて呟いた。
「‥‥もう少しだな‥‥」

第三幕が始まってしばし。ソーファ演じる戦乙女、“白きフェンリス”が哀しみを歌う場面。控え室の並ぶ通路に異常は見受けられない。
一通り見回ったソラトは、別の通路に向かおうとしたところで、ふとちゅうちょ躊躇した。何か、おかしい。何かが引っかかる。
右の義眼アイ・オブ・ザ・タイガーの解象度を最大限に上げる。改めて通路の全てを観察したところで異変に気がついた。
通路の一角に設置されている大きなロッカー。その内の一つのドアが不自然に折れ曲がっている。
「‥‥?」
力任せにこじ開けると、中から折り重なるようにして二人の男が倒れこんできた。頭を打たない様に慌てて支え、引きずり出す。横たわる若者達の身体は不自然に硬直している。
「おい、大丈夫か!‥‥って?」
意識の無い二人の息を確かめ、彼らを起こそうとして不意に気がついた。
この二人の服装‥‥舞台衣装だ。一方は死神、第三幕でもうじき出番が来るはず。
もう一人の衣裳は、確か騎士団の扮装だ。この青年は‥‥
(‥‥思い出した!)
騎士フィン・マックール。死神の一撃からフェンリスを護るもう一人の主役!
とっさに舞台に向かって駆け出した。

舞台からはソーファの歌声が聞こえてくる。

『‥‥戦乙女の涙は癒しの涙。
人を治す為に泣き続けて、私はもう泣けなくなった。
命を粗末にしすぎたから、大事な時に泣けなくなった』

「いけない‥‥!」
舞台まで、ソラトは全力で走り抜けた。

真冬に少女を守るとき


ミハイル「ここまででリサーチがほぼ一巡したんだな」
「一部重なっているところもあるけれど。軍人役のシーンは、リサーチというよりはブレカナの展開フェイズが一番近いね。他の人達のシーンは、基本的に前のシーンの舞台裏で調べた事が自分のシーンの冒頭で入ってくるっていう演出が成されてる」
ミハイル「シーン7でソラトと崇也の二人が同一シーン内でバラバラに登場しているのはどういう事だ?」
「それはね、本来は崇也のシーンだったんだけど。シーン6の舞台裏でソラトが調べた事があったからなんだよ。それを忘れない内にしっかりソラトのPLに渡しておきたかったRLが、変則的にああいう風に演出したんだ」
ミハイル「それもまた評価の分かれるやり方だな(苦笑)。アクト進行の参考にしたレポートに、無理に合わせようとする事も無かろうに」
「だから、応用力が無いんだって。リサーチシーンを振り分ける順番までレポートと同じにしているんだもの。レポートに登場している人達と、現在実際に卓を囲んでいる人達とは別人なんだって言う事を認識しているのか疑いたくなるほど、レポートに執着しすぎなんだよね」
ミハイル「物語の骨子をきちんと理解していれば進行に苦労する事は無いんだから、そりゃやっぱりRLの能力が足りてねぇんだよな」
「だね」
ミハイル「‥‥ところでよ」
「なに?」
ミハイル「このアクトの主人公は、やっぱり軍人役だよな?」
「普通はそうだろうね」
ミハイル「どうも俺には、カブト役のソラトが主人公のように見えてならないんだが?なんだかんだ言って一番登場回数も多いし、ソーファとの絡みもあるし‥‥何より台詞が主人公していると思うんだが」
「序盤は、カブト役の一番の見せ場に向かって集束していくところがミソだからね。それに、ソラトのPLは演技志向がそれなりに強くて、かっこいい台詞をポンポン出してくれる人だったから。でも、フェイトの蓮だって舞台裏と表舞台とを駆使して情報収集に奔走していたし、レッガー役の崇也の見せ場は中盤だもん」
ミハイル「‥‥軍人役は?」
「‥‥‥‥あんまり言いたくないんだけれど、どうもPL本人がキャストの性格や演技方針を固めきれていないまま、アクトに入ってしまったような気がするんだ。だからオープニングはともかく、これ以降のリサーチシーンではPLの反応が鈍くてプレイが停滞しかかったところがたくさんあるんだよ。これはあくまで筆者の勝手な感想だから、あまり書くような事じゃない気がするんだけどね」
ミハイル「‥‥なんか、空気が寒くなってきたぞ‥‥」



>>  【幕間】死神の刃、来たる

『‥‥戦乙女の涙は癒しの涙。
人を治す為に泣き続けて、私はもう泣けなくなった。
命を粗末にしすぎたから、大事な時に泣けなくなった』

舞台に流れるのは、悲しき戦乙女の歌声。そして次の瞬間。舞台上の闇を切り裂き、虚空から現れる死神。その手に携えられた、神をも滅ぼす漆黒の大鎌が一振りされ、観客席が歓声に包まれる。

『‥‥死神は答えた、
  「夜の闇に包まれて、命の灯火(あかり)が消えてしまった。
   さぁ、貴女の息吹を分けておくれ」 』

紅の宝玉いだく戦乙女めがけ、本物の死神が炎を纏った大鎌を振りぬいた!



【一幕】【二幕】【三幕

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...... When Kross the Midwinter Nite / Kita-Maro Paj.1 ......

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