世界の街角から ***** Around The World *****


Prelude=前奏曲(旅立ち)


ヨーロッパへ...96年7月20日
 太陽が沈み、どのくらいの時間が経ったのか☆
 滑走路の誘導灯が長く夜空に続いて行く。

 11月の空港待合室...夏の喧噪が嘘の様に
 人影もまばら...みな、これから始まる旅に
 思いを巡らせているのだろうか。
 旅立つ前の軽い興奮と緊張が入り混じり、喉の
 渇きを覚える。でも、そんな瞬間が好きだ。

 目が覚める。

 遠く雲海の彼方が茜色からオレンジ色に輝きを
 増して来る。
 朝が急速に夜を後退させて、やがて雲海の上に
 鮮やかなスカイブルーが広がる。

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Part−1 モンマルトルの丘(パリ・・・1)

メトロ・2号線、Anvers駅から遠回りに 
なるが、路地の様な裏通りに入る。表通りとは 
対照的に、パリの人々の生活を直接感じられる 
通り...通りの空間の先にはモンマルトルの 
丘にそびえる、サクレ・クール寺院の姿。

サクレ・クール...パリ、いやヨーロッパの 
中でも最も美しい寺院だと思う。

サクレ・クール寺院への階段を、一歩ずつ踏み 
しめながら、ユトリロやロートレックを想う! 

そして、テルトル広場に集う似顔絵描きを見な 
がら、夢を追い続けていた頃に想いを巡らす! 
そんなパリの昼下がり...モンマルトルの丘。

テルトル広場...78年11月10日

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Part−2 石畳の道(ベルン)


時計塔とサムソンの噴水...98年11月13日
 中央駅からシュピタル通り、マルクト通りへと
 続く石畳の道。道路の両側にはLaubenと
 呼ばれるアーケード...

 中世の香りが深く漂うこの通り。スイス、いや
 ヨーロッパ一の美しい通りかも知れない。

 そして、グラム通りの入口に立つ時計塔。
 500年にも渡り、時を刻み続けている時計に
 中世の面影を見る。
 グラム通り入口から右に折れると、アーレ川に
 架かるキッフェンフェルト橋。橋の上から振り
 返ると、連邦議会、そして大寺院の姿。

 600年前に礎が築かれた寺院や石畳の通りに
 置かれた噴水に、スイスの歴史を想う!

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Part−3 ブルグ公園(ウィーン・・・1)

小学校の音楽の授業。初めて耳にした、”音楽の都 
ウィーン♪”

ウィーンの中心部、リンクと呼ばれる馬蹄型の環状 
道路に沿い、ウィーン国立歌劇場からそう遠くない 
所に、Burggarten(ブルグ公園)がある。

緑に包まれた公園...
ベンチに腰を下ろして、お喋りに興ずる人々。

ブルグ公園の中心に置かれた、モーツァルトの像を 
見つめていると、たくさんのメロディーが心の中を 
駆け巡る。
優しさに溢れるセレナーデ...自由に舞い上がる 
ディベルティメント、そして悲しみに満ちたト短調 
シンフォニー。

そう、モーツァルトの哀しみは疾走する...

モーツァルト像...83年5月12日

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Part−4 ムラーノ島(ベネチア)


アドリア海からのムラーノ島...00年4月4日
 72番のヴァポレットは、大運河を少し走ると
 大きく曲がり、アドリア海上に出る。
 少し波が荒い外海を走って20分。ベネチアン
 グラスの島、ムラーノ島に着岸する。

 ベネチアン・グラス工房が建ち並ぶ通り...
 美しく魅惑的なグラスの色。

 かつては、その製法が流出するのを防ぐために
 ガラス職人達は幽閉され、ムラーノ島を離れる
 事を許されなかった。
 それは、鉄格子のない牢に閉じ込められている
 罪人の様であった...そして、この島を出て
 アドリア海上からムラーノ島を見る事が出来た
 職人は一体、何人いたのだろう?

 そんな歴史が込められたベネチアン・グラスの
 ワイン色に職人達の悲しみを見る。

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Part−5 山村の小さな宿にて(ミューレン,スイス)

シルトホルンがリッチュネンの谷に鋭く落ちる 
肩に、その村は引っかかる様に佇んでいる。
ミューレン...ベルナー・オーバーラントの 
宝石とでも言った方がいいかも知れない村。

リッチュネンの谷を挟んで、初めて訪れた者を 
圧倒するユングフラウ。
そして、まるで屏風の様に谷を取り囲んでいる、
ベルナー・オーバーラントの山々...

小さなホテルのベランダで、アルプスの山々を 
見つめながら、大切な人を連れて来れなかった 
事を、少し悔やむ。

そうだ、絵葉書を書こう。口に出せない想いを 
込めて...アルプスの小さな村から。

アイガーとミューレンの村...91年6月25日

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Interlude=間奏曲(北回り便の想い出)


アンカレッジで翼を休めるJAL423便
旧塗装が懐かしい...78年11月3日
 かつて、ヨーロッパへのメイン・ルートは、夜
 日本を出発してアンカレッジにてトランジット
 する、北極経由だった。

 1958年、スカンジナビア航空が切り開いた
 このルート...出発の興奮から解き放たれた
 頃、フライトはアンカレッジに寄港する。
 待合室や免税店は多くの乗客で溢れ、華やかな
 雰囲気に包まれていた。
 待合室のソファに腰を下ろし、翼を休めている
 旅客機を見ながら、これから訪れ様としている
 ヨーロッパの街並や自然を想う...

 再びヨーロッパに向かって飛び立った旅客機は
 名峰マッキンリーを巻く様に高度を上げる。

 北極経由、アンカレッジ空港に翼を休めていた
 旅客機達。懐かしさだけが残っている...

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Part−6 紺碧の地中海(ニース)

ロマンと少し危険な香りの漂う地中海。

モンテカルロからニースに至る海岸線は世界一 
華やかで、そして訪れる全ての人々の心を麻痺 
させる妖しい魅力を放つのだ。

砂浜...何のためらう事もなく、肌をさらけ 
出し日光浴に興ずる人々...

ホテルのベランダに置かれたデッキ・チェアに 
身を委ねながら、紺碧の地中海に目をやる。
焦点が定まらないのは、さっき飲んだばかりの 
カクテルのせいだけではなさそうだ。

 気だるいばかりのコート・ダジュールの午後!

ニースの街と地中海遠景...89年6月3日

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Part−7 テムズ川の畔で(ロンドン)


テムズ川と国会議事堂...78年11月4日
 ロンドン...時代を感じさせる響きの街。

 この街を貫いて流れる、テムズ川の畔に佇んで
 いると、100年の時がタイム・スリップした
 様な不思議な感覚に襲われる。

 石畳の道を何台もの乗合馬車が、歩行者の間を
 縫う様に行き来している。
 霧が街を覆い尽くす。

 外から帰ると、芯まで冷えた体を、暖炉の火と
 暖かい紅茶が救ってくれる。

 シャーロック・ホームズが大好きだった少年は
 大人になった今も、19世紀の香りを漂わせる
 ロンドンの街に事件の予感を感じる。

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Part−8 古い恋物語(ハイデルベルグ)

ネッカーの穏やかな流れを見つめながら、古い 
恋物語を想う。

叶うはずのない恋に心を焦がすのは、今も同じ。
叶わない恋ほど、熱く激しく燃え上がるのだ! 

溜息と一緒に目を上げれば、ハイデルベルグの 
古い城の姿...
そして「カール・テオドール橋」を渡る人の姿。
彼等も古い恋物語を心に想いながら、それぞれ 
愛して来た人を...未来の恋人を心に描いて 
いるのだろか?

たおやかなネッカーの流れ、ハイデルベルグの 
歴史を見続けて来た城...そして、今も変わ 
らぬ、恋への憧れ...

カール・テオドール橋と古い城吋..81年6月3日

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Part−9 街角にて(ウィーン・・・2)


ウィーン名物のフィアカー...83年5月12日
 歴史に彩られた街、ウィーン♪ 音楽そして 
 芸術の都。

 街角や公園の中に佇む作曲家達の銅像巡りも 
 楽しい♪ 市民公園からベートーベン広場へ、
 更にブルグ公園へ...歩き疲れたら名物の 
 フィアカーを横目に、カフェで一休み。
 アインシュペンナーでも飲みながら、道行く 
 人々を眺めていよう。そうそう、ウィーンの 
 ケーキも上品な美味しさ。

 日々の喧騒から逃れ、中世の街並みに同化し 
 ちょっぴり気取りながら、ウィーン子の気分。

 さて、もう少し歩いてみよう。
 観光客の流れに混じって、ケルントナー通り 
 から、シュテファン大寺院まで行くのも良し、
 ケッテンブリュッケン通りにシューベルトの 
 面影を探すのも良いだろう。

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Part−10 カルチョの魔力(ミラノ・・・1)

歓声と怒号が交錯するスタジアム!

カルチョの魔力に取り憑かれた人々は、今日も 
やって来る。
見果てぬ夢を、そして、決して尽きる事のない 
欲望をピッチを縦横に駈け回る選手に託すのだ。

ゴール裏...発煙筒の色煙の中、選手を鼓舞 
する歌声が響く。
彼らは何を思い、何を求めて集まるのだろう? 

ゲームが終わった後も、そこを離れるのを拒む 
様に、彼らは歌い続ける!
明日から繰り返される退屈な日常...それに 
耐えるエネルギーをカルチョに求めるのか...

スタジオ・ジョゼッペ・メアッツァ(ゴール裏の
インテル・サポーター)....00年4月2日

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Interlude=間奏曲(旅先での出会い)


ベネチアの街角で見かけた果物売りの屋台
ブドウを買いました...00年4月4日
 旅先での数多くの出会い...それは旅の思い 
 出に、時には切なく、そして微笑ましい彩りを 
 添えてくれる。

 始めての出会いは、’78年のスイス、一人で 
 出かけたミューレンで出会った、台湾の青年! 

 それから、数え切れない人々が心のアルバムを
 飾っている。
 サン・モリッツのホテルで一人で食事していた 
 僕をテーブルに呼んでくれた地元のおじさん達。
 ディセンティスのホテルでは、休暇でドイツの 
 大学から手伝いに帰っていた子と仲良くなった。
 出発する時に吹き抜けた、少し切ない風。
 サンシーロ・スタジアムで一緒にレッジーナの 
 応援をした、ちょっと見かけは怖そうな人達♪ 

 旅先の出会い...たとえ一瞬でも同じ時間を 
 過ごした忘れ得ぬ人々。

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Part−11 夢の物語(マイエンフェルト,スイス)

“アルプスの少女”の物語について話をしよう。

誰もが知っている“ハイジ”の物語...もう 
100年以上前の物語なのに、今も何と新鮮に 
心の琴線に響いて来るのだろう。

マイエンフェルト、そこは“ハイジの故郷”♪ 
この小さな村に降り立った時に、誰もが感じる 
ハイジの面影、そしてアルプスの夢の物語。

駅前から南の高台に歩を進め、振り返りながら 
見つめるマイエンフェルトの家並とアルプスの 
山々...
マイエンフェルトを訪れた人とハイジの思いが 
直結する瞬間。

マイエンフェルト遠景...02年5月1日

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Part−12 学生街にて(ボローニャ)


マッジョーレ広場...00年4月5日
 初めて訪れる異国の街を、行き先も決めないで
 ぶらぶらと歩くのが好きだ。

 ボローニャ...古い学生の街。未来の希望に
 溢れた若者達の姿が眩しい。
 マッジョーレ広場の石段に座り、おしゃべりに
 興じたり、本を開いている学生達をいつまでも
 見ていた。

 目を閉じると、四半世紀の時間が直結する。
 キャンパスまでの道のりを、友達とふざけ合い
 ながら...恋人と、未来を夢見ながら歩いた
 自分がそこにいた...

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Part−13  憧れを映す街(パリ・・・2)

パリ...それは“憧れを映す街”。

『Gare de Lyon』のカフェで胸を 
ときめかせていたあの頃...

ルーブル美術館、アンバリッド、シャンゼリゼ、
そんな華やかな場所でなくても良い。
小さな路地、さりげなく佇んでいる小さな噴水、
そして小さなビストロ。

秋の終わりには、マロニエの枯葉がまるで歌う 
様に舞い落ちて来る♪

モンパルナスの近く、一泊30フランの安宿に 
泊まり、行き先も決めずぶらぶらと歩くパリの 
街並み...目に映るもの全てが憧れ。


雨に煙るシテ島...79年10月26日

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Part−14 サウスコースト・ダービー(ポーツマス)


フラットン・パークにて...04年3月21日
 “サウスコースト・ダービー”と、呼ばれる 
 サッカーの試合がイングランドにある。
 イギリス南海岸(サウスコースト)のチーム 
 “サザンプトン”と“ポーツマス”の試合! 

 欧州で最も熱いと言われるポンペイ(ポーツ 
 マスの愛称)のサポーターに取って、それは 
 魂を揺さぶる特別な試合である。

 2004年3月21日、18時...
 フラットンパークは歓喜と感涙の渦にあった。

 イングランド・リーグの歴史の中で、長い間 
 下位リーグに甘んじて来たポーツマスに取り 
 サウスコースト・ダービーのホームでの勝利、
 それは何と40年ぶりなのである。
 この歴史的な瞬間、遠く日本からやって来た 
 サッカーファンの親子は紛れもなくポンペイ 
 サポーターであった!

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Part−15 お伽話の街(コペンハーゲン)

中央駅にほど近く“チボリ=TIVOLI”の 
入口に佇み、少しだけ目を閉じてみる。

子供の頃に読んだ、いくつものアンデルセンの 
童話...何故か哀しい結末の話しか思い出す 
事が出来ない。
お伽話...それは結末が哀しいほどに、いつ 
までも心を打ち続ける。
少し寂しげなアンデルセンの像を見ながら...

ローゼンボリ城、アマリエンボリ宮殿、そして 
クリスチャンボリ宮殿とお伽話の舞台となった 
数々を巡り、いつしか“人魚姫”の像が哀しく 
うつむいている海辺にたどり着く。

コペンハーゲンでの一日...

“人魚姫”の像...81年6月5日

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