環六高速道路に反対する会ニュ−ス

No.44


1998年10月5日

調停打ち切りの虚脱感を乗り越えて

 前号のニュースでお知らせしましたように,1991年以来続けて来た東京都公害審査会での調停手続きは,東京都と首都高速道路公団のかたくなな態度をくずすことができず,4月23日についに打ち切りとなってしまいました.今後の活動についての検討も始めましたが,調停打ち切り後の虚脱感もあり,今一つ気合いが入らなかったというのが偽らざる現状だと思います.しかし,私たちの命に関わる問題です.何としてもそれを乗り越えていかなければなりません.もう一度気を取り直して,今後の運動の方針を決めていきたいと思います.

 その第一歩として,東京の大気汚染や環六の交通量の状況などを調べてみました.後にその一部を掲載しましたが,この現実をよく見つめて,運動の方向を検討していきます.具体的な内容につきましては次号のニュースまでお待ち下さい.

 

大気汚染の動向

 23区内には一般環境大気測定局,道路沿道の自動車排出ガス測定局それぞれ28局があり,空気中の環境汚染物質濃度を常に測定しています.昨年最も深刻な大気汚染物質である浮遊粒子状物質では,一般局の3ヵ所以外すべての測定局で環境基準を超えています.二酸化窒素も一般局6ヵ所を除いて基準は達成できていません.中落合,初台も同様,基準の0.060ppmに対し,それぞれ0.068,0.078と大幅に超過しています.これらの値は,一昨年の0.061,0.072と比べて大幅な悪化です.あちこちで道路工事が始まり,工事用車両が増え,渋滞もひどくなっていることが影響しているのかも知れません.

 

道路交通の状況

 山手通りの中落合2丁目と3丁目の間に,自動車交通量計測装置(トラフィックカウンター)が設置されており,24時間,自動的に車種別の交通量を記録しています.これによれば山手通り4車線の1日あたりの交通量は38,000台程度です.そして多少の変動はあるものの,計測を始めた1990年度から1996年度まで徐々に自動車交通量が徐々に増えています.その中で乗用車の台数はむしろ減り続けているのに対し,小型,大型の貨物車が着実に増えています.しかも,大型貨物車が副気室式から直噴式へ,小型貨物がガソリン車からディーゼル車へというのが最近の傾向ですから,大気汚染物質の排出量の増加は台数の増加を上回っているはずです.

 このような交通量計測は都内22地点で行なっています.中落合では大型車(貨物とバス)の割合は7.1%,貨物車(大型,小型合計)が40.7%なのに対し,都内の平均はそれぞれ12.8%,40.7%ですから,実は山手通りの大型車や貨物車の割合はかなり低いのです.それでも大気汚染は極めてひどい状況です.もしこのまま6車線に拡幅となり幹線道路としての役割が大きくなれば,環七など他の幹線道路の大型車を呼び込むことになり,大気汚染は一層深刻になるでしょう.私たちはもっともっと声を大にして環境保全を要求していかなければなりません.


バザーは10月25日(日)です

 恒例の秋のバザーを10月25日(雨の場合は11月1日)午前11時から午後2時まで,オリンピックスーパー並びの山手通り沿いで開きます.衣料品(夏物は除く,古着は洗濯済のもの),食器,家電製品,日用雑貨,玩具,文具などご提供下さい.前日の値札つけ,当日の準備や販売へのご協力もよろしくお願いいたします.ご連絡をお待ちしております.


川崎公害訴訟地裁支部判決

自動車排ガスによる健康被害を初めて認めた画期的な判決です

 川崎公害訴訟は,川崎市に住む公害病認定患者と遺族が,工場排煙を出す企業,国,首都高速道路公団を相手に汚染物質排出の差し止めと損害賠償を求めていたものですが,企業とはすでに和解が成立し,その後,国と公団の道路管理責任について争われてきました.そして,今回の判決は自動車排ガスと健康被害との因果関係を認め,国と公団に賠償金の支払いを命じた画期的なものでした.工場排煙との複合汚染を認めた1995年の西淀川訴訟の判決よりさらに進んだ判決といえます.

 

道路ができてからでは手遅れだということも示しています

 その一方で,「道路の公共性を犠牲にするまでの差し迫った危険は認められない」として汚染物質排出の差し止めは認められませんでした.つまり,いくらひどい健康被害が起き,人が死ぬという事態に至っても,一旦できてしまった道路の運用を止めることはもはや絶対にできないことを端的に示した判決ということもできます.環六の拡幅と地下高速道路の建設が日一日と現実味を帯びてきましたが,私たちはなんとしても道路ができる前にできるだけの手を打たなければなりません.継続している裁判に期待するとともに,不調に終わった東京都公害審査会への調停申請に続く新たな運動を起こしていかなければなりません.

 

川崎公害訴訟判決を道路行政に活かすために

 長年にわたって公害病に苦しんで来た川崎の方々の訴えが認められました.公害道路と闘っている仲間として心から祝福し,この先進的な判決を引き出した活動に感謝したいと思います.この判決は,道路沿道では公害が発生するという事実を認め,道路管理者がその責任を負うべきであるという当たり前の判断を下したもので,国道43号線訴訟,西淀川訴訟判決の流れを一層明確にしたものとして高く評価できます.しかし,これが今後の道路行政に活かされるか,という点に関しては疑問を抱かざるを得ません.道路事業の認可・承認の取消を求めた私たちの行政訴訟に対して下された一,二審判決とはまったく相いれないものだからです.

 私たちが受けた判決は,道路予定地周辺住民には原告適格がないという門前払いでした.道路ができれば必然的に環境悪化の影響を受けるのですから道路建設に異議をとなえることができてもよさそうですが,そうではないというのが判決でした.

 道路建設の根拠となる都市計画法は良好な都市環境を作るための法律です.しかしここにいう良好な都市環境とは一般公益であって,それ以上に個別具体的な利益の保護を意味するものではない,つまり道路沿道の良好な環境を特別に保全する必要はないのだから,道路周辺で被害を受けるからといって保護の対象ではない,ということでした.良好な都市環境には身体,生命の保全は含まれていない,とさえ判断しています.確かに,都市計画法には沿道環境保全が明記されている訳ではありませんが,あまりに一般の感覚からずれた解釈といわざるを得ません.

 環六の拡幅事業は環境影響評価がなされていません.私たちは公害調停手続きの中で,東京都に対して,なんらかの形で環境への影響を予知するよう強く求めてきました.しかし,都は環境影響評価条令の解釈上その必要はないとして断固拒否しました.1995年7月の国道43号線訴訟最高裁判決が,被害を予見し,回避するのは事業者の義務であるとしているのにです.

 山手通り地下の高速道路建設については,換気孔への大気浄化装置の設置を検討することを求めた環境庁長官の意見書が出されています.落合地域の町会からの請願を受けて,新宿区でも都や首都高にその設置を強く求めています.しかしこれもいっこうに実現しそうもありません.被害の予測・回避義務を放棄した形ですが,都市計画法は沿道環境への配慮を求めていないという解釈によるものと考えていいでしょう.

 道路沿道住民には病を,そして死を甘んじて受け入れなければならない理由などどこにもありません.川崎公害訴訟判決はそのことを明確に示しています.良好な都市環境には道路沿道環境の保全は含まれないなどという都市計画法の解釈は絶対に間違っています.法律を曲解し,いまなお公害道路を漫然と作り続けている建設省始め,地方自治体,道路公団等の道路事業者は厳しく断罪されなければなりません.そうでなければ公害被害者たちの闘いによってやっと引き出された川崎訴訟判決も今後に活かされることはないでしょう.

 

ニュース No.43

ニュース No.45

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