東京の鳥J カルガモ


 

カルガモは地味な存在だ.他のカモと違って,冬から春にかけて,つまり恋の季節になっても雄が体を美しく飾り立てたりしない.渡りをせず,日本に残って繁殖する唯一のカモだから,夏鴨,泥鴨などと呼ばれてそれなりに人々に親しまれていたのだが,鳥好きの間でさえそれほど人気のある鳥ではなかった.しかし,皇居前のビルや国会内の池で雛を育てているのが紹介されて以来,ひろく一般に知られるようになり,90円切手にもなった.都会にもよく適応してきたようだ.

神田川の支流,妙正寺川でもカルガモを見かける.この川は,ちょっと大雨が降ればあふれんばかりになるが,普段は流量が少ない.むしろ落合下水処理場から出る処理水の方が多いほどだ.もちろん処理技術も進歩しているのであろうが,処理場から流れ出る水は相当に臭い.そんな水にすむカルガモがあわれでならない.

ロンドンでは19世紀中ごろにはすでに下水道が整備された.しかしそのために街中の汚水がテムズ川に流れ込み,やがてその悪臭で人々がパニックにおちいる騒ぎとなった.同じ時代,世界有数の大都市江戸では,隅田川の水はあくまで清く,シラウオ漁が盛んに行なわれ,花見や夕涼みなど絶好の憩いの場となっていた.徹底したリサイクル社会の江戸では,屎尿や厨芥は貴重な肥料として近郊の農家に買い取られるため,川に流す必要はなかったのだ.今,東京の川,そしてそれが注ぐ東京湾は,都市排水で徹底的に汚され,臨海部には膨大なゴミの山が築かれている.東京の抱える最も深刻なこれらの問題を解決するためには,近代化の名の下に完全に打ち捨てられていた江戸の精神を復活させることが必要なのではないだろうか.そしてそのことが鳥も安心してすめる東京の復活にもつながるのではないだろうか.

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