東京の鳥B クロトキ


 

 潮の干満に従って現れたり隠れたりする砂泥質の平らな浜が干潟である.川から流れ込む豊富な栄養塩類や有機物質は,干潟に棲む多数のゴカイ,カニ,貝などに利用され,それがシギ,チドリ,サギといった鳥たちにより食われるという関係で,干潟は多くの生命を育む場となっている.かつて東京湾岸には広大な干潟が広がっていた.そのままでは汚染の原因となってしまう大都会東京が排出する生活排水も,そうした干潟の生物により浄化され,水は澄み,多数の渡り鳥が集まっていた.

 そんな東京湾の姿が変ってしまったのはそれほど大昔のことではない.私が鳥を見始めたのは1968年頃.東京湾各地で干潟の埋立が本格化しはじめた頃と一致する.埋立に反対して自然保護を訴える人々もいたし,私自身もそのはじっこの方にいた訳だが,世はまさに経済発展最優先で,地元の人たちの”野鳥を葬れ”の声すら上がる中で,ほとんど何の力にもならなかった.小学校の遠足の潮干狩りも消えてしまった.

 1973年の秋のある日,クロトキが来ているという情報が入って葛西の埋立地に足を運んだ.日本のトキとは異なり,東アジアに広く分布していて絶滅の危機にある訳ではないが,日本では極めてまれな鳥である.トキと同じような形をしているが色は全く異なり,純白の体に首から上だけが黒い美しい鳥で,鳥好きには憧れの鳥だ.かつての広大な干潟が見る影もなくなり,どちらを向いても泥水を流し込むサンドパイプだらけという中を歩き回ってようやく見つけ出したときには無邪気に感激した.

 この埋立地には「三井不動産」の大きな看板が掲げられていた.こうした一連の埋立事業により会社を大いに発展させた,と常々述懐している当時の社長江戸英雄氏は,庭の野鳥を楽しむ鳥好きで,現在日本最大の自然保護団体を自称している「日本野鳥の会」の理事である.

 

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