東京の鳥F カワセミ 


 

3月のある日,家族で多摩川の岸辺を歩いた.八高線の小宮駅から大体の見当をつけて河原に出る.冬の小鳥たちや日だまりの中でようやく咲き始めた花を見ながらの静かな散策を,との期待はものの見事に裏切られた.オートバイが河原や岸近くの川の中を我が物顔に走り回り,別の一画では戦闘服に身をかためた集団が戦争ごっこに興じている.それでもそうした騒音をできるだけ避けながら歩いている内にいくらかの鳥を見ることができた.広い河原にできた小さな池ではオオバンが泳いでいた.全身真っ黒なぼってりとした体つきで,額からくちばしにかけての白が印象的だ.葦のかげにはタシギを見つけた.茶色のまだらで長いくちばしをもつこの鳥は,保護色のため一度見失うとなかなか見つけられないため,そうそう観察の機会はない.オオイヌノフグリも咲いていたし,ツクシやヨモギを摘むこともできた.

川岸に出てオートバイが侵入できない場所を探して昼食にする.その目の前にカワセミが現れた.スズメほどの大きさに不釣り合いなほどの大きな嘴でダイナミックに餌の魚を取る姿.鮮やかな背中のコバルトブルー.それにキーンという金属的な声.数ある鳥の中でもひときわ魅力的な鳥である.アマチュアカメラマンの格好の撮影対象となり,この日も大きな望遠レンズを構えて川の中州に粘っている人を見かけた.川の中にささっている竹竿の先に狙いをつけて,ひたすらカワセミが来るのを待っているのだ.しかしどうもその竿は不自然だ.何でそんなところに?と思ったがすぐ,本人が刺したのだと気付いた.その上,近くで小魚を捉らえてその竿の周りに放しているようだ.あまりに文明に毒されてしまった東京の人達には,自然をできるだけ自然のままに楽しむということはもはや不可能なのかもしれない.

 

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