1999.10.23 |
ブドウ農薬に環境ホルモンを使ってますか? 我が国では、「外因性内分泌撹乱作用物質」のことを「環境ホルモン」と呼んでいます。 外因性内分泌撹乱作用物質の種類については、「環境ホルモンって何ですか」に表示してあります。 「環境ホルモン」が体内に吸収されると、体内の正常なホルモン作用が乱れてしまい、いろいろな健康被害が出ます。 癌になったり、アレルギー症状が出たり、知能が低下したり、メスがオスになったり、・・・で、大変心配な物質であります。 山梨県は、ご存知の通り、果樹栽培県であります。「果樹栽培県の大気汚染とは」や「無農薬でリンゴを栽培すると」で示したとおり、果樹栽培には農薬(殺虫剤や殺菌剤)や除草剤の使用が不可避です。 ブドウ(巨峰)の栽培では、以下の表に示す農薬の約10種類ぐらいを1年間に使います。通常、殺虫剤と殺菌剤の各1種類を組み合わせて散布します。散布時期と農薬の使用目的については、「果樹栽培県の大気汚染とは」をご覧ください。 以下に示す表から、成分名マンゼブとベノミルに関係する3種類の農薬に、内分泌撹乱作用の疑いがありますが、ブドウの果実部分は、完全に袋掛けをしていますので、農薬による果実の汚染は全く心配ありません。 マンゼブ剤は有機硫黄剤、ベノミル剤はベンゾイミダゾール剤で、何れも殺菌剤に属します。両者とも、糸状菌(カビ)に属する、子のう菌、担子菌、不完全糸状菌類、分生子果不完全菌に起因する各種の病気の予防に使用されます。例えば、つる割れ病、カッパン病、ベト病、灰色カビ病、ウドンコ病、サビ病があります。 さて、農薬の情報公開について、少し述べてみましょう。 農薬には、農薬取締法(農林水産省)があり、販売をする全ての農薬は登録されています。 適用病害虫と使用法、使用後の作物や土地への残留試験成績、急性及び慢性毒性試験、魚毒試験等のデータを添付して登録申請がなされ、農林省は、これらを審査して、適正な場合には登録されます。 「毒性」に関する考え方は、時代とともに大きく変化するものです。特定の産業を守るのか、それとも人間個人を尊重するのかによっても、法律の内容はガラリと変わるでしょう。この法律は、「内分泌撹乱作用物質」に対しては十分に機能しているとは思えません。 農薬を使用する果樹栽培農家レベルでは、どうでしょうか。 農家の関心事は、果樹を病気にさせないで良果を収穫し、少しでも高値で売ることです。そのための農薬であり、そのための薬剤費用であります。したがって、薬剤の散布量と回数を増やすことによって、それがなされるものなら、それを選択すると思います。 何故なら、農薬の薬害に関して、農家が責任を感じるような、また農家自身が恐怖を覚えるような情報は皆無だからです。 農薬の袋には、例えば、成分名、適用病害と使用方法が大きく書かれています。また、「効果・薬害等の注意」の項目も小さな字で印刷されていますが、その内容は、薬剤の効果を維持するための注意事項が主であり、環境汚染に関する内容は皆無であります。 さらに、ホームセンターの家庭園芸用コーナーでは、誰もが、農協と同じ種類の農薬を、自由に購入できます。例えば、環境ホルモンとしての疑いのある成分、ジネブ、ジラム、ケルセン、ベノミル、ペルメトリン、マラチオン、マンゼブ、マンネブ、等を含む農薬も容易に購入出来ます。 このように、誰でもが、いとも容易に購入できる農薬を 「内分泌撹乱作用がある危ない物質だ!」 と認識させることは、合理的ではありません。 これらの現状から、果樹農家と環境保護とは別世界の出来事のような気がします。 小生は、平成3年頃より巨峰の栽培を始めました。身の程知らずにも、始めの4年間は無農薬に挑戦して見事に失敗しました。この間、自分だけの被害にとどまらないことに気がつきました。病害虫に垣根はないので、自分のところの病害虫たちは隣人の果樹に害を及ぼすかもしれないのです。 これ以後、果樹栽培における農薬の使用を”批判”することは出来なくなりました。 現在では、農薬との共存(低農薬)を考えながら栽培を行っています。 さて、農薬を提供する側は、どうでしょうか。 製造業者や輸入業者が農薬を販売する場合、農薬取締法によって規制され、適法に行っているのです。 行政、農薬生産・販売者、農協、果樹栽培者のそれぞれが、一生懸命に利益を追求すればするほど、環境汚染という厄介な問題に突き当たります。 しかし、この種の問題で特徴的なことは、消費者(対抗勢力)の存在が、影のように極めて薄いことです。先日の東海村の臨界事故でもそうでした。 どのように対応したら良いのでしょうか。 少なくとも、問題取り組みの第一段階として、情報公開と消費者(対抗勢力)の参加が、絶対に必要と思われますが。 農薬低減化手段の一つとして、ハウス栽培が考えられます。降雨を遮断することにより、病害菌の伝播を少なくすることが出来ます。その結果、露地栽培より農薬の使用量は少なくなるでしょう。しかし、施設費コストが上昇するため、普及していません。また、ハウス内の気温が上昇するため、作業者の健康被害も考えなければなりません。また、潅水施設も必要になります。 小生は、露地栽培とハウス栽培の中間的機能を持つ方法について、今年から自宅の庭で試しています。この方法は、某ワインメーカーが考えたものです。 平成10年度果樹病害虫防除暦より(JA山梨経済事業連編)
TPN:テトラクロルイソフタルニトリル 「環境ホルモンの疑い」のある農薬例
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